説明

移動体識別装置

【目的】 通信領域に複数の応答器が存在しても混信の生じない移動体識別装置を提供する。
【構成】 質問器4と応答器8-1、…の通信用として時分割nチャネルが設定され、質問器4は送信すべきデータに各チャネルの空の有無を示すチャネル情報を付して送信し、このチャネル情報を受けた各応答器8-1、…8-nは、空チャネルの任意の1つを選択して返送すべきデータに自己固有のIDコードを付して返送する。質問器8は、返送されてきたデータにつき、チャネル毎に衝突等の誤りがないか否かを判別し、誤りがなければ、そのチャネルの占有権を対応する応答器に付与する。誤りがある場合は、次のサイクルで、そのチャネルのチャネル情報を空としたままで送信し、これを受信した応答器は、空チャネルを確認し、任意の空チャネルを選択し、返送すべきデータにIDコードを付して再返送する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、有料道路の料金所における料金自動徴集システムなどに使用される移動体識別装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の移動体識別装置としては、自動車等の移動体に取りつけられた応答器と料金所に固設された応答器との間でデータを送受するものがあった。この種の移動体識別装置では、質問器と応答器との通信は、1対1の接続方式を採用していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の移動体識別装置は質問器と応答器の接続方式が1:1であるため、質問器の通信領域内に複数の応答器が存在すると混信し、通信が正常に行われない。この混信を生じないために通信領域を狭くするとよいが、料金所の料金自動収集システムにおいて通信領域を狭くすると高速の車両に対応できないという問題があった。
【0004】この発明は、上記問題点に着目してなされたものであって、通信領域に複数の応答器が存在しても混信の生じない移動体識別装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用】この発明の移動体識別装置は、移動体路に固設される質問器と、各移動体に設けられる応答器とからなるものにおいて、質問器と応答器間の通信用として所定数の時分割チャネルが設定され、質問器には、応答器に対し送信すべきデータにチャネル毎に割当の空の有無を示すチャネル情報を送信する手段を備え、各応答器には送信されて来たチャネル情報の空チャネルの任意の1つを選択して、自己固有のIDコードを返送データに付して返送する手段を備え、かつ前記質問器に、返送に使用されたチャネルで伝送誤りの有無を判別する手段と、伝送誤りがない場合に、そのチャネルを使用してデータ返送した応答器に占有権を付与する手段と、伝送誤りがある場合、そのチャネルに空情報を付して、次サイクルに前記送信手段より、チャネル情報を再送させる手段を備えるとともに、前記各応答器に、再送されて来たチャネル情報により、自器がまだチャネル占有権が与えられていない場合に、未だ空の任意のチャネルに変更して、前記返送手段より返送データ及び自己固有のIDコードを返送させる手段を備え、応答器に任意のチャネルの占有権が与えられるまで、質問器からの空チャネル情報の送信と、応答器から任意の空チャネル選択の応答を繰り返すようにしている。
【0006】この移動体識別装置では、質問器から、時分割された1チャネルを用いて、応答器に対し、送信データとチャネル情報が送信される。このチャネル情報は、チャネルNo毎の占有権の割当の有無を示すものであり、チャネルNo毎に“空”あるいは、占有権を得た応答器の“IDコード”が入る。質問器から送信データを受けた応答器は、任意の“空”チャネルを用いて自己の固有のIDコードとともに返送データを返送する。質問器では、チャネル毎に、返送されてきた応答器からの返送データに衝突等の伝送誤りがあるか否かを判別し、伝送誤りがなければ、その応答器にそのチャネルの占有権を付与し、以後、このチャネルを用いてその応答器との通信を行う。そして、次のサイクル以降に送信するチャネル情報にはそのチャネルNoの“空”を占有権を与えた応答器の“IDコード”に変更する。質問器で、あるチャネルにおいて応答器間に例えば衝突があると、次のサイクルのチャネル情報のそのチャネルNoは“空”のままとして送信する。応答器は、その“空”のチャネル情報を受信して、自己の選択したチャネルに衝突があったことを知り、今度は、任意の“空”チャネルに変更して再び返送データと自己のIDコードを返送する。質問器で、衝突がある限り、衝突のあるチャネルの時分割チャネル情報の“空”が変更されないので、チャネルの占有権を確保できなかった応答器は、占有権が与えられるまで、任意の“空”のあるチャネルに変更して、返送データと自己のIDコードの返送を繰り返す。
【0007】
【実施例】以下、実施例により、この発明をさらに詳細に説明する。図1は、有料道路の料金自動収集システムに、この発明の移動体識別装置を使用した状態の概念を示す図である。図1において、各車線1には、それぞれ料金所2が設置され、各車線1上には、架柱3に、それぞれ質問器4、不正車両影響用のカメラ5が設置されている。料金所2近傍の路側に車両センサ6が設けられている。また走行する車両(移動体)7には、質問器4と通信するための応答器8が搭載されている。
【0008】図2は、質問器4の構成を示すブロック図であり、発振器11と、変調器12と、電力増幅器13と、サーキュレータ14と、送受信アンテナ15と、ミキサ16と、フィルタ17と、増幅器18と、復調器19と、CPU20とを備えている。発振器11で発振した2.45GHz帯の信号は、変調器12でCPU20によってASK変調され、電力増幅器13で増幅された後、サーキュレータ14を通過してアンテナ15より発射される。
【0009】応答器8からの反射波はアンテナ15で受信され、サーキュレータ14を通過した後、ミキサ16で発振器11の出力とホモダイン検波された後、フィルタ17を通り、増幅器18で増幅され復調器19で復調され、CPU20で処理される。車線1を走行中の車両が料金所に接近し、質問器4の通信領域に入ると、質問器4と応答器8間でデータの授受を行うことになる。ここでは質問器4は、時分割でn個の応答器と通信を行うことができ、複数の応答器8との間で、時分割多元接続方式を採用している。したがって、ここで採用する1車線毎の移動体識別装置は、図3に示すように質問器4と、n個の応答器8-1、8-2、…、8-nから構成される。もっともnの数値は、後述するように、設定変更可能である。
【0010】次に、図4に示す回線制御例により、この移動体識別装置の接続動作を説明する。1サイクルを複数のスロット(チャネル)に時分割し、SL0 を質問器4から各応答器へのチャネルとし、SL1 、…、SLn を各応答器8-1、8-2、…、8-nへのチャネルに割り当てる。したがって、質問器4の通信領域にn台の車両が存在しても混信なく通信が可能である。
【0011】質問器4は、SL0 送信時に、応答器に送信したい情報に加えて応答器8-1、…、8-nに割り当てられたチャネル番号と、各チャネルの“空”の有無を示すコードを付して送信する。SL0 を受信した応答器8-iは、空きチャネルの中から任意の1つを選択し、質問器4に返送する。この場合、返送したいデータに、自己固有のIDを付して送信する。質問器4では、各応答器から返送されて来るデータの誤りを監視し、誤りがあった場合(伝送誤りが発生した場合、あるいは応答器からの送信の衝突があった場合等)、次のサイクルのチャネルSL0 でエラーがあったチャネル番号を応答器に知らせる。エラーを知らせるために、例えば各チャネルの“空”の有無を“空”のままで再送することにより、これを受けた応答器は、自己が返送したチャネルであるにもかかわらず、なおそのチャネルが“空”である場合、その応答器はその“空”を確認することにより、自己の返送には衝突等の誤りが発生したことを知る。これを知った応答器8-iは、再度“空”チャネルの中から、ある1つをランダムに選択し、質問器4に再送する。
【0012】質問器4は、返送されて来たチャネルに誤りがない場合、対応する応答器に対し、そのチャネルの占有権を与える。そして以後、その応答器と質問器4間の通信が終了するまで、その応答器がそのチャネルを占有して、質問器4との通信を行う。次に、このチャネルアクセス制御を図5に示す具体例により説明する。図5は、n=2で質問器4の通信領域に2台の車両が存在する場合を示している。先ず最初のサイクルのチャネルCH0 で、質問器4から応答器8-1、8-2に送信されたチャネル情報はCH1 :空、CH2 :空である(時点t1 )。このチャネル情報を受信した応答器8-1、8-2がいずれもチャネルCH1 を使用し、自己のIDコードであるID1 、ID2 を返送した場合(時点t2 )、応答器8-1、8-2の返送は衝突する。この場合、質問器4は、応答器8-1、8-2のいずれにも占有権を与えず、次のサイクルのチャネルCH0 で、チャネル情報をCH1 :空、CH2 :空で送信する(時点t3 )。これを受信した応答器8-1、8-2は、チャネル情報CH1 を参照する。チャネルCH1 が空のままであるため、前サイクルでのデータが質問器4に届かなかったと判断し、再度空チャネルの中から1つをランダムに選択し、送信する。その結果が応答器8-2がチャネルCH1 で送信し(時点t4 )、応答器8-1がチャネルCH2 で返送したとする(時点t5 )。今度は質問器4において受信データの衝突がないので、質問器4は、応答器8-2にチャネルCH1 の占有権を与え、応答器8-1にチャネルCH2 の占有権を付与する。そしてチャネル情報CH1 :ID2 、CH2 :ID1 を送信する(時点t6 )。これを受信した応答器8-1、8-2では、チャネル情報に自分のIDが設定されいるため質問器4との接続が正常に完了したと判断し、以後、与えられたチャネルを占有して通信を行う。
【0013】この実施例移動体識別装置では、通信領域内に複数の応答器が存在する場合でも混信することなく通信が可能となる。料金所を考えた場合、通信領域内に複数のオートバイが同時に進入してきた場合においても正常に通信ができるため、オートバイ専用のブースを設ける必要がなくなる。また通信領域を広く設定できるため、通信が正常に完了する前に通信領域を通過してしまうことがなく、高速で通過する車両にも対応できる。
【0014】また、この実施例装置において、チャネル数nは、適宜設定すればよいが、例えば車両センサ6等を用いて計測されるトラフィック量、あるいは中央装置より、その料金所に送られてきたトラフィック量に応じ、チャネル数を可変設定するようにしてもよい。このようにすれば、通信トラフィックに応じてチャネル数を変化させるため無駄がなく効率良い通信が可能となる。
【0015】上記実施例装置において質問器4に使用するアンテナは、平面アンテナを使用し、通信距離としては図6の特性Aに示すように、安全をみて数10mが限界であり、通信領域が大きくとれない。そのため、質問器の送受信アンテナとして、図7に示すように、LCX(漏洩固軸ケーブル)アンテナ20を、走路21に沿って設置すれば、通信範囲を図の特性Bのように、より大きく取れ、時分割多元接続方式と併用することにより、LCXの長さ分均一な通信領域が確保でき、通信領域を大幅に拡大することができる。したがって広い通信領域内で均一な通信品質が得られるとともに、大量データの送受信が可能となる。また通信領域を広く設定できるため、高速で通過する移動体においても通信が可能となる。
【0016】一方、通信領域を広くすると、通信領域内に複数の応答器が存在することになるが、質問器と応答器の接続方式として時分割多元接続方式を用いることにより混信することなく複数応答器と同時に通信が可能となる。次に、有料道路で車線が複数あり、質問器が複数個設置される場合について説明する。この場合、各質問器は同一周波数を使用し、互いに接近して設置されるため、■ビートが生じる等の干渉が発生し、通信が行えなくなる。■質問器と応答器とが1対1の通信を行っていたため、通信領域内に複数の応答器が存在すると混信し、通信が正常に行われない。■これらによって、通信領域を狭くせねばならず、高速で移動する移動体との間で十分な通信データを送受することができない、という問題点がある。
【0017】そこで、この問題点を解決するために、複数の質問器においては、それぞれ異なる周波数で送信する周波数分割を行い、かつ質問器と複数の応答器間では時分割多元接続を行う。図1を用いて、この実施例装置を説明する。図1においては車線が2線あり、したがって質問器4も2台設置されている。右側の車線を1A 、左側の車線を1B とし、各車線1A 、1B に設置されている質問器を4A 、4B とする。
【0018】各質問器4A 、4B の周波数をそれぞれfA 、fB とし、その周波数間隔を、応答器からの返送データがベースバンドの場合には、その変調周波数、副搬送波を用いる場合には、その副搬送波周波数より十分広くとることによって相互干渉で生じるビートを質問器の受信フィルタでカットすることができ、正常な交信を行うことができる。各質問器4A 、4B の構成は図2に示すものと同様であり、使用する周波数を互いに相違させている。
【0019】したがって、たとえ互いに接近して質問器が設置されたとしても、それぞれの周波数がfA 、fB であり、その周波数間隔が、変調周波数又は副搬送波周波数より十分広くすることにより、フィルタ17により排除できる。この実施例装置によれば、接近した位置に複数の質問器を設置した場合であっても質問器間でビート等の干渉が発生しない。また、通信領域内に複数の応答器が存在する場合であっても混信することなく、正常に通信ができる。さらに通信領域を広く設定できる。
【0020】
【発明の効果】この発明によれば質問器と応答器間の通信(接続)を時分割多元接続方式としたので、通信領域内に複数の応答器が存在する場合でも混信することなく正常な通信ができる。通信領域内の混信の心配がないので、通信領域を広く設定でき、高速の車両でも正常に通信することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】有料道路の料金自動徴集システムに、この発明の移動体識別装置を使用した状態の概念を示す図である。
【図2】同実施例移動体識別装置の質問器の構成を示すブロック図である。
【図3】同実施例移動体識別装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】同実施例移動体識別装置の質問器と応答器の接続動作を説明するための一般的な回線制御例を示す図である。
【図5】同実施例移動体識別装置の質問器と応答器の接続動作の具体例を説明する図である。
【図6】同実施例移動体識別装置に使用される平面アンテナによる通信領域を説明する図である。
【図7】同実施例移動体識別装置に使用されるLCXアンテナによる通信領域を説明する図である。
【符号の説明】
4 質問器
-1、…、8-n 応答器

【特許請求の範囲】
【請求項1】移動路に固設される質問器と、各移動体に設けられる応答器とからなる移動体識別装置において、質問器と応答器間の通信用として所定数の時分割チャネルが設定され、質問器には、応答器に対し送信すべきデータにチャネル毎に割当の空の有無を示すチャネル情報を送信する手段を備え、各応答器には送信されて来たチャネル情報の空チャネルの任意の1つを選択して、自己固有のIDコードを返送データに付して返送する手段を備え、かつ前記質問器に、返送に使用されたチャネルで伝送誤りの有無を判別する手段と、伝送誤りがない場合に、そのチャネルを使用してデータ返送した応答器に占有権を付与する手段と、伝送誤りがある場合、そのチャネルに空情報を付して、次サイクルに前記送信手段より、チャネル情報を再送させる手段を備えるとともに、前記各応答器に、再送されて来たチャネル情報により、自器がまだチャネル占有権が与えられていない場合に、未だ空の任意のチャネルに変更して、前記返送手段より返送データ及び自己固有のIDコードを返送させる手段を備え、応答器に任意のチャネルの占有権が与えられるまで、質問器からの空チャネル情報の送信と、応答器から任意の空チャネル選択の応答を繰り返すようにしたことを特徴とする移動体識別装置。
【請求項2】通信トラフィック量を計測する手段を備え、通信トラフィック量に応じ、前記時分割チャネルの設定チャネル数を変更することを特徴とする請求項1記載の移動体識別装置。
【請求項3】前記質問器の送信手段に、移動方向に沿って設けられるLCXアンテナを含むものであることを特徴とする請求項1記載の移動体識別装置。
【請求項4】前記質問器が複数個設けられ、各質問器毎の送信手段の送信周波数が互いに異なる値に設定されたものであることを特徴とする請求項1記載の移動体識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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