説明

移動床式ろ過装置の起動方法

【課題】移動床式ろ過装置が一時停止等し、濁質等とろ材の混合物がエアリフトポンプ下部に堆積して層を形成することでエアリフトポンプが閉塞された場合であっても、起動開始時に正常にエアリフトポンプから濁質等とろ材との混合物を排出させることが出来る移動床式ろ過装置の起動方法を提供する。
【解決手段】起動開始時に、移動床式ろ過装置1の内部6の内部に配設されているエアリフトポンプ10の内部13に空気導入口12より水を供給し、次いで、水が供給されている内に空気導入口より空気の供給を開始することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動床式ろ過装置の起動方法に関する。更に詳しくは、移動床式ろ過装置の内部に配置されているエアリフトポンプの休止後等の起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動床式ろ過装置には、図5に示す通り、移動床式ろ過装置100内部に充填されたろ材101内を、原水を横向きに流してろ過処理する横流移動床式ろ過装置100A(図5A参照)と、原水を上向きに流してろ過処理する上向移動床式ろ過装置100B(図5B参照)がある。いずれの移動床式ろ過装置(100A,100B)も、ろ材101が上部から下部へ緩やかに移動する中を原水が移動することで、原水中の濁質がろ材101でろ過され、移動床式ろ過装置100下部に積層した濁質104とろ材101との混合物は、移動床式ろ過装置100内部に設置されたエアリフトポンプ102の下端の入口105から内部に流入されて上部まで運ばれ(図6参照)、上部に配置されているろ材洗浄器103で混合物が洗浄され、洗浄されたろ材101のみが移動床式ろ過装置100上部から戻されることで、連続して原水をろ過することが出来る連続ろ過型のろ過装置である。
【0003】
この移動床式ろ過装置100の運転が一時休止され、また停電や修理等で一時停止されると、エアリフトポンプ102内を上昇中であった濁質104とろ材101との混合物は、エアリフトポンプ102の下部に堆積し、自重で時間の経過とともに締め固められて層106を形成し(図7参照)、また、図示しない粘性の高い濁質を含む原水をろ過したろ材は、下部に堆積する時に自重でろ材同士が結合し塊となりながら層を形成し、いずれの場合にもエアリフトポンプ102の下部を閉塞させるという不具合を生じさせる。
【0004】
エアリフトポンプ102の下部が閉塞されると、起動開始時にエアリフトポンプ102内に送られる空気は、エアリフトポンプ102内を上昇することが出来ず、図7Aに示すようにエアリフトポンプ102の下部から移動床式ろ過装置100内に矢印X方向に噴出し、また図7Bに示すようにエアリフトポンプ102を空気だけが矢印Y方向に上がっていく所謂空ふかし状態となる。この様に、ろ材101の移動が止まり洗浄されない状態が続くと、移動床式ろ過装置100は処理不能状態に陥り、停止することになる。
【0005】
エアリフトポンプが閉塞され正常に濁質とろ材との混合物が排出できなくなった場合の起動方法として、起動開始時に、エアリフトポンプ内に通常使用する2倍以上の空気を供給する方法や、エアリフトポンプ内に空気と共に水を供給する方法がある。また、下記文献においては、エアリフトポンプ起動開始前に槽底より起動水を給水し、堆積物の膨張を界面検出機構で検出した後にエアリフトポンプ内に空気を送り、一定時間後に起動水の給水を停止する方法が提案されている。
【0006】
しかし、起動開始時にエアリフトポンプ内に通常使用する2倍以上の空気を供給する方法では、締め固まった濁質とろ材の層を崩すことが出来ずに跳ね返され、エアリフトポンプ下部から空気が噴出するという問題点があった。また、起動時にエアリフトポンプ内に空気導入口から空気と共に水を供給する方法では、締め固まった濁質とろ材の層を十分に崩す前に空気がエアリフトポンプ下部から噴出し装置内を上昇したり、エアリフトポンプ内で空気のみが上昇する状態となる。一度この流れが出来ると、水も同様の流れ方をするためにエアリフトポンプを起動させることが出来ないとの問題点があった。また、下記文献記載の方法では、槽底より起動水を供給するため装置底部全体の堆積物を解す必要があること、及び解れ具合を検出する機構が必要であるなどの問題点があった。更に、解す対象物が砂などの比重が高い場合、槽の底からではエアリフトポンプ内の閉塞物を解せない問題点もあった。
【0007】
【特許文献1】実用新案出願公告H01−27918
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、移動床式ろ過装置が一時停止等し、濁質等とろ材の混合物がエアリフトポンプ下部に堆積して層を形成することでエアリフトポンプが閉塞された場合であっても、起動開始時に正常にエアリフトポンプから濁質等とろ材との混合物を排出させることが出来る移動床式ろ過装置の起動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る移動床式ろ過装置の起動方法は、内部にろ材が充填され、内部にエアリフトポンプが配設され、前記エアリフトポンプ内を下部から上部へ向けて濁質等と前記ろ材との混合物が運搬され、上部に配置されているろ材洗浄器にて前記混合物が洗浄され、洗浄された前記ろ材が内部に戻されることで、連続してろ過が行われる移動床式ろ過装置の起動方法において、起動開始時に前記エアリフトポンプ内に水を供給し、次いで空気の供給を開始することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る移動床式ろ過装置の起動方法は、請求項1に記載の移動床式ろ過装置の起動方法において、前記水の供給時間を10秒から300秒とすることを特徴とすることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る移動床式ろ過装置の起動方法は、請求項1または請求項2に記載の移動床式ろ過装置の起動方法において、前記ろ材に、硅砂またはマンガン砂、繊維ろ材、プラスチックろ材の内の1つまたは複数を使用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を備えた本発明の移動床式ろ過装置の起動方法は、起動開始時にエアリフトポンプ内に最初に水が供給されるので、締め固められた濁質等とろ材の層を軟らかく解し、次いで空気が供給されるので、解された層が濁質とろ材の混合物になりながら、エアリフトポンプ内を下部から上部へ向けて運搬されるので、起動開始時にエアリフトポンプを確実に、95%以上の確率で作動させることができる。
【0013】
特に、初めに水だけの供給時間を10秒から300秒以内で行うので、水の使用量を少なくして、しかもエアリフトポンプを確実に作動させることができる。
【0014】
なお、ろ材には、硅砂またはマンガン砂、繊維ろ材、プラスチックろ材の内の1つまたは複数を使用すると、好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。ただし、この発明の範囲は、特に限定的記載がない限り、この実施の形態に記載されている内容に限定する趣旨のものではない。
【0016】
図1Aは、本発明の実施形態に係る移動床式ろ過装置1の内の横流移動床式ろ過装置1Aの概略説明図であり、図2は、その横流移動床式ろ過装置内部に設置されているエアリフトポンプ10の拡大概略説明図である。
【0017】
図1に示す通り、横流移動床式ろ過装置1Aには、装置内部6に、ろ材30が充填されていると共に、内部にエアリフトポンプ10が配設されている。また、装置上部7には、濁質31とろ材30の混合物を洗浄するろ材洗浄器20が配設されている。更に、一の装置側部2に濁質31が混入している原水を流入させる入口3が、入口3と反対側の他の装置側部4にはろ材30で濁質31がろ過されたろ過水を排出する出口5が設置されている。
【0018】
次に、横流移動床式ろ過装置1Aにおけるろ過処理の流れについて説明する。図1Aに示す通り、原水は、一の装置側部2に設置されている入口3から導入され、装置内部6に充填されているろ材30内を通過して、他の装置側部4に設置されている出口5からろ過水を流出させるように、水は矢印A方向である横方向に流れている。
【0019】
また、原水をろ過することにより装置下部8に堆積した濁質31とろ材30との混合物40は、装置内部6の中央に設設されたエアリフトポンプ10の下端の入口11から矢印B方向に内部13へ流入されて上部まで運ばれ(図2参照)、上部に配設されているろ材洗浄器20に矢印C方向に流入させ濁質31とろ材30との混合物40が洗浄された後、洗浄されたろ材30のみが装置上部7から矢印D方向に戻され、上から下にゆっくり落下して装置下部8に堆積し、濁質31は、ろ材洗浄器20から矢印E方向に外部へ排出される。
【0020】
この横流移動床式ろ過装置1Aの運転が一時休止され、また停電や修理等で一時停止されると、エアリフトポンプ10内を上昇中であった濁質31とろ材30との混合物40は、エアリフトポンプ10の下部に堆積し、図3Aに示す通り、ろ材30の自重で時間の経過とともに締め固められ濁質31とろ材30とが混在した層41を形成し、エアリフトポンプ10の下部を閉塞する。
【0021】
横流移動床式ろ過装置1Aの起動開始時に、図3Aに示す通り、エアリフトポンプ10の下部側面に形成された空気導入口12から水だけを矢印F方向に約300秒導入する。これにより、締め固められた濁質31とろ材30とが混在した層41は解されて軟らかくなる(図3B参照)。次いで、図3Cに示す通り、水と空気とを同じく空気導入口12から矢印F方向に約300秒導入する。これにより、水により解されている締め固められた濁質31とろ材30とが混在した層は、更に解されて濁質31とろ材30との混合物40となり、エアリフトポンプ10内を下部から上部まで矢印G方向に運ぶことが可能となる。これにより、起動開始時のエアリフトポンプ10を95%以上の確率で作動させることが可能となる。
【0022】
起動開始時に初め供給する水だけの供給時間は、10秒から300秒の範囲で設定するのが良く、更に好ましくは30秒から120秒の範囲で設定するのが良い。
図4に示す通り、300秒以上の水の供給は、水の使用量が増大するだけで利点は無い。また10秒以下の水の供給は、閉塞したエアリフトを解すには時間が短い。
なお、水の先行時間10秒後以降であれば、任意に空気を供給してエアリフトを起動することが可能である。このとき、空気の供給時点で水の供給が停止していても継続していても効果に差は無い。
【0023】
尚、本実施形態では、図1に示す通り、移動床式ろ過装置1について原水が横方向に流動する横流移動床式ろ過装置1A(図1A参照)を用いた場合について説明したが、原水が下から上に矢印H方向に流動する上向移動床式ろ過装置1B(図1B参照)を用いた場合であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る移動床式ろ過装置の概略断面説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る通常運転時のエアリフトポンプの拡大概略断面説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る起動開始時のエアリフトポンプの拡大概略断面説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る水の先行供給時間とエアリフト起動率との関係を示すグラフである。
【図5】従来例の横流移動床式ろ過装置の概略断面説明図である。
【図6】従来例の通常運転時のエアリフトポンプの拡大概略断面説明図である。
【図7】従来例の起動開始時のエアリフトポンプの拡大概略断面説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 移動床式ろ過装置
2,4 装置側部
3,11 入口
5 出口
6 装置内部
7 装置上部
8 装置下部
10 エアリフトポンプ
12 空気導入口
13 内部
20 ろ材洗浄器
30 ろ材
31 濁質
40 混合物
41 層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にろ材が充填され、内部にエアリフトポンプが配設され、前記エアリフトポンプ内を下部から上部へ向けて濁質等と前記ろ材との混合物が運搬され、上部に配置されているろ材洗浄器にて前記混合物が洗浄され、洗浄された前記ろ材が内部に戻されることで、連続してろ過が行われる移動床式ろ過装置の起動方法において、
起動開始時に前記エアリフトポンプ内に水を供給し、次いで空気の供給を開始することを特徴とする移動床式ろ過装置の起動方法。
【請求項2】
請求項1に記載の移動床式ろ過装置の起動方法において、
前記水の供給時間を10秒から300秒とすることを特徴とする移動床式ろ過装置の起動方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動床式ろ過装置の起動方法において、
前記ろ材に、硅砂またはマンガン砂、繊維ろ材、プラスチックろ材の内の1つまたは複数を使用することを特徴とする移動床式ろ過装置の起動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149077(P2010−149077A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331991(P2008−331991)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)