説明

移動電極式電気集塵装置

【課題】プラントの稼動を停止することなくブラシを交換できる移動電極式電気集塵装置を提供する。
【解決手段】周回する集塵極板をブラッシングする掻き落し手段を備えた移動電極式電気集塵装置において、上記掻き落し手段は、上記集塵極板の面に対向するように設けられたブラシと、上記ブラシが外周に複数列設けられ、ブラシが上記集塵極板に接触する方向に回動可能に上記ケーシングに軸支されたブラシ固定軸と、上記ブラシ固定軸に固定され、上記ブラシが上記集塵極板に接触するように上記ブラシ固定軸を付勢する付勢手段を備え、上記ブラシ固定軸は、上記複数列のブラシの1列のブラシを選択する選択手段を有し、選択された1列のブラシが上記集塵極板に対向するように上記付勢手段と固定されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動電極式電気集塵装置に係り、特にケーシング内に所定の間隔を有して吊り下げられる多数の放電極の近傍に配置され周回移動する集塵極板のダストを掻き落す固定ブラシを備えた電気集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電気集塵装置は、例えば火力発電所のボイラー排ガスや製鉄用各種炉の排ガス中のダストを除去するための電気集塵装置として知られ、特許文献1に示される概略構造を図7〜図10に基づいて説明する。
【0003】
図7において、移動電極式電気集塵装置10はケーシング12と、このケーシング12の下部のホッパー13と、ケーシング12内に配設された多数の放電極14及び多数の移動電極15とによって構成されており、入口煙道16からケーシング12内に導入された排ガス17は、電気集塵の原理によって除塵され、出口煙道18から排出される。捕集されたダストはホッパー13内に落下し、図示されない機構によって、排出口20から取り出す。
【0004】
図8は図7のA−A矢視図であり、ケーシング12内には所定の間隔を有して多数の放電極14が図7に示した碍子22から垂れ下げた吊り枠24を介して吊り下げられている。また、この放電極14を一個置きに周回する多数の移動電極15が配設されている。
【0005】
すなわち、移動電極15は上部の駆動ホイール26と下部ローラー28との間には一対の無端チェーン30、30が張り渡されており、この一対の無端チェーン30、30に複数枚の集塵極板32がその移動方向の縦長さの中間部33の位置で係止されて懸垂され、板面がガスの流れに沿って配置されており、全体としてループを形成している。駆動ホイール26の駆動軸34は図示されない駆動機構によって回転し、この駆動軸34の回転が駆動ホイール26と噛み合う一対の無端チェーン30、30に伝達されて、前記ループを形成する複数枚の集塵極板32が前記放電極14を一個置きに周回移動する。
【0006】
図9は移動電極15下部の配置図であり、無端チェーン30に懸垂されて下降した集塵極板32は下部ローラー28の位置でUターンし、上昇に転じる。この上昇直後の集塵極板32を挟む位置に一対の回転ブラシ36、38(ブラシ手段40)が移動電極15の各レーン毎に配置されている。ブラシ36、38は回転軸に金属製の刷毛を植毛したものであり、集塵極板32の表面に付着したダストを下方に払い落とすように、ブラシ36は時計廻りに、ブラシ38は反時計廻りに回転する。ブラシ手段40によって表面に付着したダストが除去された集塵極板32は順次上昇し、放電極14がある放電領域で電気集塵の原理により排ガス中のダストをその表面に捕集して、再び下降してくる。
【0007】
特許文献2には、固定式ブラシを用いた電気集塵機が示されている。この技術では固定式ブラシを自重や錘により集塵電極の金属ネットに押圧接触させて、ダストを掻き落している。この固定式ブラシは、上記回転ブラシと比べて構造が簡単であり、機能確保のためのブラシ手段の交換の費用と手間が少なくて済む。特許文献1の電気集塵装置に特許文献2の上記固定式ブラシを採用すると図10の構成のものが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−246286号公報
【特許文献2】特開2003−62486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、特許文献2において、ブラシは集塵極と摺動しながら表面のダストを掻き落しているため、時間経過と共に生じる磨耗を避けることができない。掻き落し機能の確保のためには定期的に新しいブラシと交換することになるが、この作業にはプラントの稼動停止が必要となる。電気集塵機が大規模な装置の場合50〜100レーンの移動電極の数となるのでブラシの交換頻度が多くなり、これに伴ってプラントの稼動停止の頻度と停止時間が増大し、ブラシ交換の工数が大きくなる。特に、発電プラントは発電効率のためできるだけ長期間連続運転することが望まれているが、ブラシ交換により発電効率の低下を引起す恐れが多い。
【0010】
本発明は、上記従来の問題に鑑み、プラントの稼動を停止することなくブラシを交換できる移動電極式電気集塵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明は、ガスの入口から出口に向って含塵ガスを流すケーシングと、上記ケーシング内の集塵域となるガス流路に吊り下げられる多数の放電極と、対の無端チェーンに懸垂された複数枚の集塵極板によってループを形成して周回し、上記周回する集塵極板の面を所定位置でブラッシングする掻き落し手段を有する多数の移動電極を備えた移動電極式電気集塵装置において、上記掻き落し手段は、
上記集塵極板の面に対向するように設けられたブラシと、
上記ブラシが外周に複数列設けられ、ブラシが上記集塵極板に接触する方向に回動可能に上記ケーシングに軸支されたブラシ固定軸と、
上記ブラシ固定軸に固定され、上記ブラシが上記集塵極板に接触するように上記ブラシ固定軸を付勢する付勢手段を備え、
上記ブラシ固定軸は、上記複数列のブラシの1列のブラシを選択する選択手段を有し、選択された1列のブラシが上記集塵極板に対向するように上記付勢手段と固定されたことを特徴とする。
【0012】
また、上記に記載の移動電極式電気集塵装置において、上記ブラシとブラシ固定軸のブラシ設置部は上記ケーシング内に配置され、上記ブラシ固定軸の端部と上記付勢手段はケーシング外に配置され、上記ブラシ固定軸の端部に上記選択手段が設けられると共に、上記付勢手段が固定されることを特徴とする。
【0013】
また、上記に記載の移動電極式電気集塵装置において、上記選択手段はブラシ固定軸に設けられた上記複数列のブラシの位置を示す位置マークと、この位置マークと合せる上記付勢手段に設けられた合せマークからなることを特徴とする。
【0014】
また、上記に記載の移動電極式電気集塵装置において、上記ブラシは上記集塵極板の両面に幅方向に延びる一対の長尺ブラシからなり、上記ブラシ固定軸は上記一対の各ブラシが設けられた一対の固定軸からなり、上記付勢手段により上記各長尺ブラシが上記集塵極板の両面を挟むように上記ブラシ固定軸を付勢することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プラントの稼動を停止することなく磨耗したブラシを交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施例1の移動電極の下部の配置図である。
【図2】本発明実施例1の掻き落し手段の構成図である。
【図3】本発明実施例2の掻き落し手段の構成図である。
【図4】本発明実施例1の掻き落し手段と付勢手段の関連を示す斜視図である。
【図5】本発明実施例2のブラシ固定軸と付勢手段の接合状況の説明図である。
【図6】本発明実施例1のブラシ交換作業の説明図である。
【図7】電気集塵装置の一般的な構成を示す側断面図である。
【図8】図7のA−A矢視図である。
【図9】移動電極の一般的な下部の配置図である。
【図10】固定式ブラシを独立に可動可能に構成した場合の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の実施例1に係る下部の配置図である。電気集塵装置としての全体構成は前記背景技術の欄で説明した図7〜図10に示されるものと同様であり、前記と同一符号を付したものは同一の要素を示す。図2は実施例1の掻き落し手段の構成図、図3は実施例2の掻き落し手段の構成図で、図4は実施例1の掻き落し手段と付勢手段の関連を示す斜視図である。
【0018】
図1において、並列した移動電極15は、無端チェーン30に懸垂されて周回により下降した集塵極板32が下部ローラ28の位置でUターンし上昇に転じる。この上昇直後の集塵極板32の両面を挟む位置に、掻き落し手段51がそれぞれ配置されている。
【0019】
図2において、掻き落し手段51は、各集塵極板32の両面に幅方向(紙面に直角方向)に伸びる一対の長尺ブラシ53と、この長尺ブラシ53の根元を支えて集塵極板32の両面にブラシを接触させるように回動する一対のブラシ固定軸52を備えている。各ブラシ固定軸52は、外周に上記長尺ブラシ53が複数列設けられている。具体的には、ブラシ固定軸52の表面に軸の長手方向にリブ52aを複数溶接し、このリブ52aにブラシ53をボルト54で締結する。
【0020】
図2の実施例1では、ブラシ固定軸52の外周に点対称に180°離れた長尺ブラシが2列設けられている。また、図3の実施例2では、ブラシ固定軸52の外周に点対称に120°ずつ離して長尺ブラシが3列設けられている。
【0021】
実施例1のブラシ固定軸52と付勢手段との関連を図4の斜視図で示す。長尺ブラシ53がブラシ各固定軸52に2列設けられ、その内の1列が各集塵極板32を挟むように配置される。なお、図4では集塵極板32の図示を省略している。ブラシ固定軸52は、集塵極板32の幅方向に伸びる長尺状を呈して、そのブラシ設置部(中間部分)がケーシング12の内側に配置され、両端部がケーシング12に設けられた軸受け52bに回動自在に軸支されている。ブラシ固定軸52の一方端は、上記軸受け52bを貫通してケーシング12の外側に突出し、この端部にリンク棒5、6が着脱可能に固定ネジ57によって固定され、このリンク棒5、6とブラシ固定軸52は一体的に回動する。
【0022】
リンク棒5、6は、ブラシ固定軸52の端部から下に延びて途中で交差するように固定され、各下端にワイヤ7、8を介して錘11が吊下げられている。9はワイヤの移動(付勢)方向を規制するワイヤ案内軸であり、上記2つの軸受け52bの下方に位置するように、取付け座9aを介してケーシング12の外壁に固定される。両ワイヤ7、8は、上記リンク棒5、6の下端から下方に伸びて途中で交差するように上記ワイヤ案内軸9に掛けまわされ、さらに下方に伸び、錘11が吊下げられている。錘11は共通の錘であるため、その自重により、リンク棒5、6の下端を錘重量の約半分の力で引くように付勢する。従って、集塵極板32を挟んでその両面に長尺ブラシ53が接触するように、常時ブラシ固定軸52が付勢される。上記部材5〜9、11は上記ブラシ53が上記集塵極板32に接触する方向に上記ブラシ固定軸52を常時付勢する付勢手段を構成している。この付勢手段によって長尺ブラシ53が集塵極板32に掻き落しに適切した圧力で接触している。
【0023】
上記ブラシ固定軸52の端部には、図5に示すように複数のブラシ列の位置を示す位置マーク55が設けられている。図5では分かり易くするために長尺ブラシが3列設けられている実施例2のブラシ固定軸52の端部を示しており、各ブラシ53の位置に対応させてブラシ固定軸52の外周に3ヶ所の位置マーク55が設けられている。一方、ブラシ固定軸52の端部に着脱可能に固定されるリンク棒5、6には、上記位置マーク55と位置を合せるための合せマーク56が1ヶ所設けられる。
【0024】
ブラシ固定軸52の端部にリンク棒5、6を固定する際は、上記合せマーク56をブラシ固定軸52の外周に設けた3箇所の位置マーク55の1つを選択して合せた状態で、固定ネジ57によってネジ穴58に締め付け固定する。この位置合わせ状態では、上記合せマーク56と一致せた位置マーク55の列のブラシ53が集塵電極32に対向するように構成される。従って図3に示すように、マーク55、56同士の位置合せにより選択されたブラシ53が集塵電極32に接触することになる。上記位置マーク55、合せマーク56、固定ネジ57およびネジ穴58で選択手段を構成する。
【0025】
上記構成において、電機集塵装置の稼動によりブラシが次第に磨耗するが、小さい磨耗の範囲では上記付勢手段によってブラシ53を適切な圧力で集塵電極32に接触させるので、ダストの掻き落し性能は維持される。しかし、ブラシの磨耗が大きくなって長さが短くなると、上記付勢手段での掻き落し性能の維持は困難となる。このようなときブラシの交換が必要となるが、本実施例では、ブラシ固定軸52の外周に設けた複数列のブラシ53の列の磨耗したブラシ列から磨耗してない別のブラシ列を選択し、新たに選択されたブラシ列に交換することによりダストの掻き落し動作を継続させるものである。
【0026】
上記ブラシの交換作業を図で説明する。図6はブラシ固定軸52に2列のブラシを持つ実施例1のブラシの交換作業の説明図である。図6(a)に示すように、集塵極32の左側のブラシ列が磨耗して長さが短くなった場合で説明すると、先ず、リンク棒5、6とブラシ固定軸52が回転できるように固定ボルト57を緩める。次いで図6(b)に示すように、ブラシ固定軸52を冶具(図示せず)を用いて矢印方向(時計方向)に回転させることで、外周の位置マーク55を回転させる。さらに回転させ、磨耗したブラシ列とは180°異なるもう一方のブラシ列の位置マーク55を選択して、合せマーク56に一致させた状態で固定ボルト57を締付け、リンク棒5、6とブラシ固定軸52を固定する。この状態では、図6(c)に示すように、選択された磨耗のないブラシ列が、上記付勢手段により集塵極32に接触するように付勢され、集塵電極のダストの掻き落しで所定の性能が維持される。
【0027】
上記は集塵電極32の左側のブラシが磨耗した場合について説明したが、右側のブラシについても磨耗した場合も、同様な作業によって交換することができる。また、実施例2のようにブラシ列が3列設けられている場合は、ある列のブラシが磨耗して他の2列のブラシを順に選択して交換できるので、実施例1と比べてダストの掻き落し性能を長く維持することができる。
【0028】
本実施例では、上記ブラシ列の選択交換では、ブラシ固定軸の外周に設けられた複数の位置マークと、この位置マークと合せる上記付勢手段に設けられた合せマークからなる上記選択手段を設けているので、ケーシング12を開けることなく交換すべきブラシの選択が容易かつ正確に行なえる。また、磨耗したブラシは長さが短くなっているので、図6(a)でブラシ固定軸52が矢印方向に回転しても、集塵電極32と干渉することがない。したがって、集塵電極32が移動していても交換作業が可能であり、電気集塵装置の稼動を停止することなく、ブラシの交換が可能となる。
【符号の説明】
【0029】
5〜9、11…付勢手段、10…移動電極式電気集塵装置、12…ケーシング、14…放電極、15…移動電極、30…無端チェーン、32…集塵極板、51、61…掻き落し手段、52…ブラシ固定軸、53…ブラシ(長尺ブラシ)、55〜58…選択手段、55…位置マーク、56…合せマーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの入口から出口に向って含塵ガスを流すケーシングと、上記ケーシング内の集塵域となるガス流路に吊り下げられる多数の放電極と、対の無端チェーンに懸垂された複数枚の集塵極板によってループを形成して周回し、上記周回する集塵極板の面を所定位置でブラッシングする掻き落し手段を有する多数の移動電極を備えた移動電極式電気集塵装置において、上記掻き落し手段は、
上記集塵極板の面に対向するように設けられたブラシと、
上記ブラシが外周に複数列設けられ、ブラシが上記集塵極板に接触する方向に回動可能に上記ケーシングに軸支されたブラシ固定軸と、
上記ブラシ固定軸に固定され、上記ブラシが上記集塵極板に接触するように上記ブラシ固定軸を付勢する付勢手段を備え、
上記ブラシ固定軸は、上記複数列のブラシの1列のブラシを選択する選択手段を有し、選択された1列のブラシが上記集塵極板に対向するように上記付勢手段と固定されたことを特徴とする移動電極式電気集塵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動電極式電気集塵装置において、
上記ブラシとブラシ固定軸のブラシ設置部は上記ケーシング内に配置され、上記ブラシ固定軸の端部と上記付勢手段はケーシング外に配置され、上記ブラシ固定軸の端部に上記選択手段が設けられると共に、上記付勢手段が固定されることを特徴とする移動電極式電気集塵装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の移動電極式電気集塵装置において、
上記選択手段はブラシ固定軸に設けられた上記複数列のブラシの位置を示す位置マークと、この位置マークと合せる上記付勢手段に設けられた合せマークからなることを特徴とする移動電極式電気集塵装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の移動電極式電気集塵装置において、
上記ブラシは上記集塵極板の両面に幅方向に延びる一対の長尺ブラシからなり、上記ブラシ固定軸は上記一対の各ブラシが設けられた一対の固定軸からなり、上記付勢手段により上記各長尺ブラシが上記集塵極板の両面を挟むように上記ブラシ固定軸を付勢することを特徴とする移動電極式電気集塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−230029(P2011−230029A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100845(P2010−100845)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】