説明

移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するための方法及び組成物

被験体のための移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製する方法であって、そのような治療を要する被験体、臓器又は組織に有効量の組成物を投与することを包含し、その組成物はポリペプチド剤、例えばチモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチン、又は臓器又は組織中の上記ポリペプチド剤又はその保存的変異体の生成を刺激する刺激剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年8月18日に出願された米国暫定出願番号60/838,383号の利益を請求する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製する分野に関連する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
低体温は、臓器及び組織の貯蔵方法の大部分において利用されており、冷温曝露の間に直接的には細胞の細胞外環境を、間接的には細胞内環境を制御することによりもっとも効果的に適用されることが分かっている。細胞の細胞外環境を制御して貯蔵を最適化することは、静的な冷温保存(又はフラッシュ貯蔵)又は低温連続灌流の何れかを包含する、異なる方策に基づいている。これらの方策は、貯蔵を最適化するためには細胞外環境の介入的制御に対する種々の道筋を必要とし、従って、このような方策を実現するために使用される溶液のための異なる設計要素を必要とする。
【0004】
原則として、冷温フラッシュ保存又は貯蔵は、氷点(例えば約0℃)近傍であるがそれより低温ではない温度まで低下することで、任意の重要な程度まで代謝を支持する必要がなくなること、並びに細胞内及び細胞外のコンパートメント間の水及びイオンの正しい分布が代謝的よりもむしろ生理学的な手段により維持することができるという根拠に基づいている。代謝ポンプが不活性化されている期間、膜貫通イオンフラックスのための駆動力は、細胞内と細胞外の流体間のイオンバランスにおける相違である。水の取り込み(細胞膨潤)のための駆動力は、不透過性細胞内アニオンである。従って、細胞外の環境を操作して化学ポテンシャル勾配を無くすことにより、変化を防止又は制限することができる。これに基づいて、種々のフラッシュ、又は臓器及び組織の洗浄溶液が考案され、冷温保存に関して評価されている。これらの溶液は、一部の点において細胞内流体と似ていることから、頻繁には「細胞内」液とも称される。
【0005】
細胞内フラッシュ溶液の原則的設計要素は、イオンバランス(顕著には1価のカチオン)を調節すること、及び水の取り込みを担う細胞内浸透圧のバランス調節を行う不透過性溶質を包含することにより浸透圧を上昇させることである。しかしながら、冷温フラッシュ溶液の効能のための重要な要因は、イオンの不均衡、特にカリウム枯渇が容易に、かつ急速に逆行可能であることが判明していることから、不透過性の溶質を包含することによる細胞浮腫の防止でありうる。これらの方法は約4〜36時間、臓器及び組織を安定化させる。
【0006】
1988年以前は、臓器及び組織の臨床的貯蔵のための標準的な溶液はコリンズ溶液であり、これはリン酸カリウム、硫酸マグネシウム及びグルコースを含有している。しかしながら近年では、これは、硫酸マグネシウムを無添加とした「ユーロコリンズ」と称される改良版、或いはより広範には大部分のリン酸アニオンがラクトビオネートで置き換えられ、そしてグルコースがラフィノースで置き換えられているウイスコンシン大学溶液(WU溶液)に取って代わられている。これらのより大型の分子は、従来の溶液と比較して、低体温保存の間の細胞膨潤の有害作用に対抗する保護を向上させると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
移植用の臓器及び組織の保存及び調製のための進歩した方法及び組成物が当該分野でなお望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
1つの態様によれば、被験体に対する移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するための方法及び組成物は、臓器、組織又は被験体に対して有効量の組成物を投与することを包含し、その組成物はポリペプチド剤、例えばチモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン(adversetin)、プロポミオシン、フィンシリン(fincilin)、デパクチン、DNasel、ビリン(vilin)、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチン、あるいは移植用の臓器又は組織を保存及び調製するために該臓器又は組織中での該ポリペプチド又はその保存的変異体の生成を刺激する刺激剤を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
如何なる特定の理論にも制約されないが、アクチン隔離ポリペプチド、例えばチモシンベータ4(Tβ4又はTB4)及び他の物質、例えばアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを含有するアクチン隔離ポリペプチド又はポリペプチドフラグメント、あるいはその保存的変異体は、移植用の臓器又は組織を保存及び調製する。
【0010】
チモシンベータ4は、インビトロの内皮細胞の遊走及び分化の間にアップレギュレートされるタンパク質として当初は発見された。チモシンベータ4は、最初は胸腺から単離され、種々の組織中で発見される43アミノ酸の4.9kDaの偏在するポリペプチドである。このタンパク質に関しては数種類の役割が唱えられており、それには内皮細胞の分化及び遊走、T細胞分化、アクチン隔離、脈管形成及び創傷治癒における役割が包含される。
【0011】
本発明による組成物は、移植ドナー又は移植レシピエントの内部又は外部に存在する臓器又は組織に投与してよい。
【0012】
1つの実施形態によれば、本発明は被験体に対する移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製する方法であって、被験体の外部の臓器又は組織に有効量の組成物を投与することを含み、その組成物は、移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを含むポリペプチド又はその保存的変異体でありうるチモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DN
asel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチンを含むポリペプチド剤を含む。ポリペプチド剤は、好ましくはチモシンβ4及び/又はそのTβ4アイソフォーム、類縁体又は誘導体である。例としては、アミノ酸配列KLKKTET、LKKTETQを含有するポリペプチド、Tβ4のN末端変異体及びTβ4のC末端変異体が挙げられる。本発明はまた、酸化Tβ4を利用してもよい。他の実施形態によれば、ポリペプチド剤はチモシンベータ4又は酸化Tβ4以外である。
【0013】
別の実施形態によれば、本発明はドナー又は移植レシピエントの何れかである被験体に対する移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製する方法であって、被験体の内部の臓器又は組織に有効量の組成物を投与することを含み、その組成物は、移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを含むポリペプチド又はその保存的変異体でありうるチモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチンを含むポリペプチド剤を含む。ポリペプチド剤は、好ましくはチモシンβ4及び/又はそのTβ4アイソフォーム、類縁体又は誘導体である。例としては、アミノ酸配列KLKKTET、LKKTETQを含有するポリペプチド、Tβ4のN末端変異体又はTβ4のC末端変異体が挙げられる。本発明はまた、酸化Tβ4を利用してもよい。他の実施形態によれば、抗菌剤はチモシンベータ4又は酸化Tβ4以外である。
【0014】
臓器は皮膚、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、又は肺を挙げることができるが、これらに限定されない。組織は、皮膚、心臓、心臓弁、骨、骨髄、血管及び輸液用血液を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0015】
本発明により使用しうる組成物は、チモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチンを含むポリペプチド剤、例えばチモシンβ4(Tβ4)及び/又はTβ4アイソフォーム、類縁体又は誘導体のようなポリペプチド剤、例えば酸化Tβ4、Tβ4のN末端変異体及び/又はTβ4のC末端変異体、アミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを含むか本質的にこれよりなるポリペプチド又はポリペプチドフラグメント、あるいはそれらの保存された変異体であって、移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するものを包含する。参照により本明細書に組み込まれる国際出願番号PCT/US99/17282号は、本発明により有用でありうるTβ4のアイソフォーム、並びに、本発明の実施形態とともに利用しうるアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNT、あるいはその保存的変異体を開示している。参照により本明細書に組み込まれる国際出願番号PCT/GB99/00833(WO99/49883)号は、本発明の実施形態により利用しうる酸化チモシンβ4を開示している。本発明は、Tβ4及びTβ4アイソフォームに関して主に後述するが、以下の説明はアミノ酸配
列LKKTET又はLKKTNT、LKKTET又はLKKTNTを含むか本質的にこれよりなるポリペプチド及びフラグメント、それらの保存された変異体であって移植用の臓器又は組織を保存及び調製するもの、及び/又はTβ4アイソフォーム、類縁体又は誘導体、例えばTβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体及びTβ4の拮抗剤に等しく適用可能であることを意図していると理解しなければならない。本発明はまた、酸化Tβ4を利用してもよい。
【0016】
1つの公知の移植溶液はウイスコンシン大学溶液であり、これは例えばKHPO(25ミリモル/L)、MgSO(5ミリモル/L)、ラフィノース(30ミリモル/L)、ヒドロキシエチルペンタフラクション澱粉(50g/L)、ペニシリン(200,000U/L)、インスリン(40U/L)、デキサメタゾン(16mg/dL)、Kラクトビオネート(100ミリモル/L)、グルタチオン刺激ホルモン(3ミリモル/L)、アデノシン(5ミリモル/L)、アロプリノール(1ミリモル/L)、Na(25ミリモル/L)、及びK(125ミリモル/L)を含有しうる。チモシンβ4(Tβ4)及び/又はTβ4アイソフォームのようなポリペプチド剤は、そのような溶液に対して例えば約0.001〜50重量%の範囲内の量で添加してよい。
【0017】
別の公知の移植溶液はユーロコリンズ溶液であり、これは例えばナトリウム(10mM)、塩化物(15mM)、カリウム(115mM)、重炭酸塩(10mM)、リン酸塩(50mM)及びグルコース(195mM)を含有しうる。チモシンβ4(Tβ4)及び/又はTβ4アイソフォームのようなポリペプチド剤は、そのような溶液に対して例えば約0.001〜50重量%の範囲内の量で添加してよい。
【0018】
1つの実施形態において、本発明は被験体に対する移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製する方法を提供し、被験体の外部の組織又は臓器に有効量の組成物を投与することを含み、その組成物はアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを含むポリペプチド剤、その保存的変異体、あるいは移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するために該臓器又は組織中でのLKKTETもしくはLKKTNTポリペプチド又はその保存的変異体の生成を刺激する刺激剤を含む。
【0019】
別の実施形態において、本発明は移植用の臓器又は組織を保存及び調製する方法を提供し、被験体の内部の組織又は臓器に有効量の組成物を投与することを含み、その組成物は、該臓器又は組織において、アミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを含むポリペプチド剤、その保存的変異体、あるいは移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製するために該臓器又は組織中でのLKKTETもしくはLKKTNTポリペプチド又はその保存的変異体の生成を刺激する刺激剤を含む。
【0020】
臓器は皮膚、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、又は肺を挙げることができるが、これらに限定されない。組織は、皮膚、心臓、心臓弁、骨、骨髄、血管及び輸液用血液を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0021】
1つの実施形態において、本発明は本明細書に記載されるようなポリペプチド剤を含有する有効量の組成物に臓器又は組織を接触させることによる、被験体に対する移植用の臓器又は組織を保存及び/又は調製する方法を提供する。接触は直接又は全身に対するものであってよい。直接投与の例は、例えば、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤を含む溶液、ローション、膏薬、ゲル、クリーム、ペースト、スプレー、懸濁液、分散液、ヒドロゲル、泡状物、軟膏又はオイルに、直接適用により組織を接触させることが挙げられる。薬剤の投与は、移植溶液において、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤又は注射用水を包含しうる医薬上許容しうる担体を含有する組成物を用いながら、灌流、注射、注入、局所投与、又はその組み合わせにより実施される、好ましくは約−5℃〜約1
0℃の範囲内の温度、より好ましくは約−1℃〜約6℃の温度範囲内、更に好ましくは約0℃〜約5℃の温度範囲内における静的冷温保存、低温連続灌流、又は任意の他の適当な方法を挙げることができる。
【0022】
多くのTβ4アイソフォームが同定されており、Tβ4の既知アミノ酸配列に対して約70%、約75%、又は約80%以上の相同性を有する。そのようなアイソフォームは、例えばTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14及びTβ15を挙げることができる。Tβ4と同様、Tβ10及びTβ15アイソフォームもアクチンを隔離することが分かっている。Tβ4、Tβ10及びTβ15並びにこれらの他のアイソフォームは、アクチンの隔離又は結合の媒介に関与していると考えられるアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを共有している。如何なる特定の理論にも制約されないが、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の活性は、少なくとも部分的にはそのような薬剤の抗炎症活性に起因ものでありうる。Tβ4はまたアクチンの重合を調節できる(例えばβ−チモシンは遊離型G−アクチンを隔離することによりF−アクチンを脱重合すると考えられる)。アクチン重合を調節するTβ4の能力は、LKKTET又はLKKTNT配列を介したアクチンへの結合又はそれを隔離する能力に起因しうる。従って、Tβ4の場合と同様、抗炎症性及び/あるいはアクチンに結合又は隔離か、あるいはアクチン重合を調節する他のタンパク質、例えばアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNTを有するTβ4アイソフォームは、本明細書に記載される通り、単独又はTβ4と組み合わせて有効でありうる。
【0023】
上記のように、本明細書に記載されるような既知のLKKTET又はLKKTNTポリペプチド、例えばTβ4アイソフォーム、例えばTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14及びTβ15、並びに未だ同定されていないTβ4アイソフォームは、本発明の方法、組織又は臓器において有用となることを特に意図する。本明細書に記載するようなこのようなLKKTET又はLKKTNTポリペプチド、例えばTβ4アイソフォームは、被験体、組織又は臓器において実施される方法を包含する本発明の方法において有用である。従って本発明は、更に本明細書に記載されるようなLKKTET又はLKKTNTポリペプチド、例えばTβ4、並びにTβ4アイソフォームTβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14及びTβ15、及び移植片及び/又は医薬上許容しうる担体を含む組成物を提供する。
【0024】
更に、適切な隔離、結合、可動化又は重合アッセイにおいて明らかにされるか、あるいは、例えばLKKTET又はLKKTNTのようなアクチン結合を媒介するアミノ酸配列の存在により同定されるように、抗炎症活性及び/又はアクチン隔離又は結合能力を有するか、あるいはアクチンを可動化するか又はアクチン重合を調節することができる他の薬剤又はタンパク質は、同様に本発明の方法において使用できる。そのようなタンパク質は、例えばゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチンを挙げることができる。そのような方法は被験体において実施されるものを包含するため、本発明は更に本明細書に記載される通りゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン及びアクメンチンを含む組成物を提供する。従って、本発明はアミノ酸配列LKKTET又はLKKTNT及びその保存的変異体を含むポリペプチドの使用を包含する。
【0025】
本明細書で使用されるように、「保存的変異体」という用語又はその文法的変化型は、アミノ酸残基の生物学的に同様な別の残基による置き換えを意味する。保存的変異の例は、疎水性の残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンの別のものとの置き換え、極性残基の別のものとの置き換え、例えばリジンのアルギニンへの置換、アス
パラギン酸のグルタミン酸への置換、又はアスパラギンのグルタミンへの置換等が挙げられる。
【0026】
Tβ4は多くの組織及び細胞の型に局在し、このためTβ4又は本明細書に記載されるような別のポリペプチド剤等のLKKTET又はLKKTNTポリペプチドの生成を刺激する薬剤を組成物に添加するか、あるいは薬剤が組成物を構成することにより組織及び/又は細胞からのポリペプチド剤の生成をもたらすことができる。そのような刺激剤は成長因子のファミリのメンバ、例えばインスリン様成長因子(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子ベータ(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、チモシンα1(Tα1)及び血管内皮成長因子(VEGF)を包含うる。より好ましくは、刺激剤は形質転換成長因子ベータ(TGF−β)又はTGF−βスーパーファミリの別のメンバである。
【0027】
1つの実施形態によれば、被験体、臓器又は組織は、被験体、臓器又は組織における本明細書に定義されるようなポリペプチド剤の生成を刺激する刺激剤で治療される。
【0028】
更に、移植用の臓器又は組織の保存及び調製に役立つ他の薬剤は、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤と共に組成物に添加されうる。例えば、限定しないが単独又は組み合わせにおける本明細書に記載されるようなポリペプチド剤を有効量における以下の薬剤:抗生物質、VEGF、KGF、FGF、PFGF、TGFβ、IGF−1、IGF−2、IL−1、プロチモシンα及び/又はチモシンα1の任意の1つ以上と組み合わせて添加することができる。
【0029】
本発明はまた、移植片中の本明細書に記載されるような治療有効量のポリペプチド剤及び/又は製薬上許容しうる担体を含む組成物も包含する。
【0030】
治療をもたらす実際の投薬量、あるいは試薬、製剤又は組成物は多くの要因、例えば臓器、組織又は被験体の大きさ及び健康状態により変動する。しかしながら、当業者は当該分野でよく知られている任意の適当な方法を使用して、使用すべき適切な投薬量を決定することができる。
【0031】
適当な製剤は、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤を約0.001〜50重量%の範囲内、より好ましくは約0.01〜0.1重量%の範囲内、最も好ましくは約0.05重量%の濃度において包含しうる。
【0032】
本明細書に記載されるような方策においては、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の投与又は送達の種々の経路、例えば被験体への任意の従来の投与手法(例えば限定しないが灌流、注射、注入、又は局所投与)を用いる。本明細書に記載されるようなポリペプチド剤を使用又は含有する方法及び組成物は、移植片及び/又は医薬上許容しうる非毒性の賦形剤又は担体と混合することにより、医薬組成物に製剤しうる。
【0033】
本発明は、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤と相互作用するか、これを増強するか、又は抑制する抗体の使用を包含する。異なるエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体より本質的になる抗体、並びに、個別のモノクローナル抗体の調製品が提供される。モノクローナル抗体は、上記したPCT/US99/17282号に開示されるような当業者に周知の方法により、タンパク質の抗原含有フラグメントから製造される。抗体という用語は本発明においては、モノクローナル及びポリクローナル抗体を包含することを意味する。
【0034】
更に別の実施形態においては、本発明は遺伝子発現を調節する有効量の刺激剤を投与す
ることにより被験体を治療する方法を提供する。「調節」という用語は、本明細書に記載されるようなポリペプチドが過剰発現される場合は、発現の阻害又は抑制を、本明細書に記載されるようなポリペプチド剤が過少発現される場合は、発現の誘導を指す。「有効量」という用語は本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の遺伝子発現を調節し、移植用の臓器又は組織の保存及び/又は調製をもたらす場合に有効である刺激剤の量を意味する。本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の遺伝子発現を調節する刺激剤は、例えばポリヌクレオチドでありうる。ポリヌクレオチドはアンチセンス、トリプレックス剤、又はリボザイムでありうる。例えば本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の構造遺伝子領域に対して、又はプロモーター領域に対して指向されたアンチセンスが利用されうる。本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の遺伝子発現を調節する刺激剤はまた、短鎖干渉RNA(siRNA)でありうる。
【0035】
別の実施形態においては、本発明は本明細書に記載されるようなポリペプチド剤の活性を調節する化合物を利用するための方法を提供する。本明細書に記載されるようなポリペプチドの活性に影響する化合物(例えば拮抗剤及びアゴニスト)はポリペプチド、ペプチド模倣物、ポリペプチド、化合物、例えば亜鉛等の無機物、及び生物学的薬剤を包含する。
【0036】
本明細書に記載されるような刺激剤のスクリーニング方法は、移植用の組織又は臓器を候補化合物と接触させること;及びLKKTET又はLKKTNTポリペプチドの該組織中での活性を測定することを含み、ここで該組織又は臓器中の該ペプチドの活性が、該候補化合物が欠失した対応する組織又は臓器中の該ポリペプチドの活性のレベルと比較して増大していることは、該化合物が該刺激剤を誘導することができることを示す。
【0037】
実施例1
材料及び方法
ヒト肝星細胞HSCはADMETテクノロジーから購入した肝細胞混合物から、OptiPrep(登録商標)密度勾配培地(Sigma)上で分離した後に得た。コンフルエントとなるまで培養し、次に250,000細胞/60mm皿の密度でプレーティングし、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸及び抗生物質を添加したMEM中で培養した。細胞を約48時間培養液中に維持し、半コンフルエント時に1%アルブミン、抗生物質及び1%非必須アミノ酸を添加したMEMを用いながら一夜血清枯渇した。Trizol(Invitrogen)でRNAを抽出し、プライマーを用いてRT−PCRを実施した。GAPDHの発現を対照として使用した。全ての実験は2連で実施した。
【0038】
結果:
種々の濃度のTβ4と共に24時間培養したHSCから抽出されたRNAのPCR分析によれば、分化したHSCのマーカーであるα−SMAのmRNA、並びに、分化に関与しうるWnt経路の遺伝子メンバーであるβ−カテニン及びGSK3βのmRNAの発現はそれぞれ4倍、3倍及び2.5倍増大したことが明らかになった。多くの場合において、増大は用量依存性であった。α−SMAの最大発現は1μg/mlのTβ4で得られたのに対し、β−カテニンのmRNAの最大増大は1ng/mlで達成された。HSC分化の別のマーカー、即ちPDGF−β受容体の発現は、用量依存的様式で抑制された(1μg/mlのTβ4で75%)。興味深いことに、肝細胞の再生において重要な役割を果たす既知の抗線維形成性サイトカインであるHGFのmRNAの発現は1mg/mLのTβ4で4倍増大した。
【0039】
肝細胞成長因子(HGF)は肝細胞の栄養因子である。上記はTβ4が肝星細胞によるHGFの発現をアップレギュレートすることを明らかにしている。ラットHSCとヒト肝細胞の共培物を調製する。対照は肝細胞のために使用した通常の無ホルモン培地(hor
monally−defined medium)を用いてインキュベートする。実験培養物には同じ培地中Tβ4を100ng/ml超添加する。コラゲナーゼ及びトリプシンを用いて1週間後に細胞を採取する。肝細胞は低速遠心分離によりHSCから分離し、細胞を計数して全RNA抽出のために使用する。肝細胞は増殖し、培養1週間後には数が増大する。細胞画分の純度は抗ヒトアルブミン抗体で染色後に測定する(ラットHSCは陰性)。RNAをRT−PCRのために使用し、肝特異的遺伝子の発現をヒトプライマーを用いて分析する。ラットプライマーを使用してラットHSCの夾雑の程度を調べる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植用に臓器又は組織を保存又は調製するための方法であって、該方法は組成物に臓器又は組織を接触させることを含み、該組成物はポリペプチド剤、例えばチモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチン、又は移植用の前記臓器又は組織を保存又は調製するために前記臓器又は組織中のポリペプチド剤又はその保存的変異体の生成を刺激する刺激剤を含む上記方法。
【請求項2】
前記接触を被験体の身体の外部で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触を被験体の身体の内部で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記臓器又は組織を被験体の身体内部にある間に前記組成物で灌流する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記身体は前記臓器又は組織のドナーのものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記身体は前記臓器又は組織の移植レシピエントのものである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記組織が皮膚、心臓、心臓弁、骨、骨髄、血管、又は輸液用血液である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記臓器が心臓、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、又は肺である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が移植用の前記臓器又は組織を保存する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記ポリペプチド剤が組み換え又は合成のポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物がTβ4又はTβ4のアイソフォームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリペプチド剤がアミノ酸配列KLKKTET、アミノ酸配列LKKTETQ、Tβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体、又はTβ4のアイソフォームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
組成物を直接投与又は全身投与の何れかにより投与する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記組成物を溶液、ゲル、クリーム、ペースト、ローション、スプレー、懸濁液、分散液、膏薬、ヒドロゲル、泡状物又は軟膏製剤の形態において直接投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリペプチド剤を、約−5℃〜約10℃の範囲内の温度で静的冷却保存又は低温連
続灌流により前記臓器又は組織に投与するか、灌流、注射、注入、局所投与、又はその組み合わせにより投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が更に水溶液及びリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、グルコース、ラクトビオネート又はラフィノースの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
移植用の臓器又は組織を保存又は調製するための組成物であって、該組成物はポリペプチド剤、例えばチモシンベータ4(TB4)、TB4の生物活性を有するTB4のアイソフォーム、類縁体又は誘導体、TB4の生物活性を有するTB4のN末端変異体、TB4の生物活性を有するTB4のC末端変異体、LKKTET又はその保存的変異体、LKKTNT又はその保存的変異体、KLKKTET又はその保存的変異体、LKKTETQ又はその保存的変異体、TB4スルホキシド、TB4ala、TB9、TB10、TB11、TB12、TB13、TB14、TB15、ゲルソリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、アドセベルチン、プロポミオシン、フィンシリン、デパクチン、DNasel、ビリン、フラグミン、セベリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニン又はアクメンチン、又は前記ポリペプチド剤又はその保存的変異体の前記臓器又は組織における生成を刺激する刺激剤を含み、前記組成物が更に水溶液及びリン酸カリウム又はラクトビオネートの少なくとも1つ、及びグルコース又はラフィノースの少なくとも1つを含む、組成物。
【請求項18】
Tβ4又はTβ4のアイソフォームを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
Tβ4を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物がTβ4を含む、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−501486(P2010−501486A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524618(P2009−524618)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/017483
【国際公開番号】WO2008/024195
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(503334769)リジェナークス・バイオファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】