移相器
【課題】挿入損失の周波数特性のうち、通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失が大きい。
【解決手段】一実施形態によれば、入力端子2および出力端子5の間に接続された一方の信号経路3と、一方の信号経路3に並列に設けられ入力端子2に一端が接続され出力端子5に他端が接続された他方の信号経路4と、一方の信号経路3および他方の信号経路4のいずれかに入力端子2からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路16、17と、一方の信号経路3に設けられた第1ハイパスフィルタ8と、この第1ハイパスフィルタ8を主として一方の信号経路3に副次的に並列に付加された第1ローパスフィルタ9とを備え、この第1ローパスフィルタ9および第1ハイパスフィルタ8は、挿入損失特性のうち、高周波信号が一方の信号経路3によって通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償する移相器1が提供される。
【解決手段】一実施形態によれば、入力端子2および出力端子5の間に接続された一方の信号経路3と、一方の信号経路3に並列に設けられ入力端子2に一端が接続され出力端子5に他端が接続された他方の信号経路4と、一方の信号経路3および他方の信号経路4のいずれかに入力端子2からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路16、17と、一方の信号経路3に設けられた第1ハイパスフィルタ8と、この第1ハイパスフィルタ8を主として一方の信号経路3に副次的に並列に付加された第1ローパスフィルタ9とを備え、この第1ローパスフィルタ9および第1ハイパスフィルタ8は、挿入損失特性のうち、高周波信号が一方の信号経路3によって通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償する移相器1が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態は移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波移相器回路はマイクロ波やミリ波などの高周波信号に通過位相差、即ち移相量を与える。移相器は一方の経路を伝送する信号の位相を基準とする基準状態を有し、基準となる一方の経路と他方の経路とを切換えるためのスイッチ回路を有する。
【0003】
移相器の構成の一つとして、従来、ハイパスフィルタ(HPF:High Pass Filter)及びローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)を切換えるタイプの移相器が知られている(例えば特許文献1参照)。一方の信号経路にハイパスフィルタを設け、もう一方の信号経路に伝送線路を設けた移相器も知られている(例えば特許文献2参照)。複数個の移相ユニットを直列接続したマイクロ波移相器も知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−237807号公報
【特許文献2】特開2008−187661号公報
【特許文献3】特開2001−094302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え型の移相器では、通過位相差が大きい周波数の値がハイパスフィルタあるいはローパスフィルタの通過特性が変わる遮断周波数近辺であり、挿入損失が大きくなるという欠点がある。挿入損失とは入力端子から出力端子に伝搬する電力の損失をdB(デシベル)で表した値を指す。
【0006】
ハイパスフィルタにおいて入出力信号間の通過位相差が生じる周波数ではこのハイパスフィルタの挿入損失が大きい。ローパスフィルタにおいて入出力信号間の位相差が生じる周波数帯域はこのローパスフィルタの挿入損失の周波数特性が傾斜する帯域である。これは低域側通過域から高域側通過域へ周波数を増大させたときに挿入損失の値が大きくなり始める帯域である。ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え型の移相器では、結果として入出力信号間の位相差が生じる周波数帯域において通過損失が大きくなる。高周波信号がマイクロストリップ線路を伝送したとき、誘電体損失や、放射損失、導体損失といった通過損失が大きくなる。挿入損失の周波数特性のうち、通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、前記一方の信号経路に設けられた第1ハイパスフィルタと、この第1ハイパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ローパスフィルタとを備え、この第1ローパスフィルタおよび前記第1ハイパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器が提供される。
【0008】
また、別の一実施形態によれば、入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、前記一方の信号経路に設けられた第1ローパスフィルタと、この第1ローパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ハイパスフィルタとを備え、この第1ハイパスフィルタおよび前記第1ローパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る高周波移相器の構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る高周波移相器を2段直列に接続した2ビット移相器回路の一例を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る高周波移相器回路による通過位相差を説明するための図である。
【図4】ハイパスフィルタ単体での通過特性を示す図である。
【図5】Π型回路単体での通過特性を示す図である。
【図6】従来のハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型の移相器回路の回路図である。
【図7】比較例によるマイクロ波移相器回路の通過特性を説明するための図である
【図8】第1の実施形態に係る高周波移相器の通過特性を説明するための図である。
【図9】第2の実施形態に係る高周波移相器に用いられるRF主経路上の4種類の回路の型構成と、RF副経路の回路の型構成との組合せを示す図である。
【図10】第3の実施形態に係る高周波移相器の構成図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態に係る移相器について、図1乃至図10を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る高周波移相器はMMIC(マイクロ波集積回路)に形成されるマイクロ波移相器回路である。図1はマイクロ移相器回路の構成図である。マイクロ波移相器回路1(高周波移相器)は、第一の信号経路3(一方の信号経路)にΠ型のCLC(第1ローパスフィルタ9)が付加された第1ハイパスフィルタ8を設け、第二の信号経路4(他方の信号経路)にΠ型のLCL(第2ハイパスフィルタ12)が付加された第2第2ローパスフィルタ11を設けている。
【0012】
マイクロ波移相器回路1は入力端子2からのマイクロ波信号の信号経路を、第一の信号経路3又は第二の信号経路4に切換え、この信号を出力端子5より出力する回路であり、これらの第一の信号経路3及び第二の信号経路4間の通過位相の違いによって所要の移相量を得る。マイクロ波移相器回路1は、半絶縁性の基板に設けられた信号経路パターンと、それぞれこの基板に形成された複数のFET(電界効果トランジスタ)などのスイッチ素子と、それぞれマイクロ波信号に対して集中定数素子として働き基板に集積されたC(キャパシタ)及びL(インダクタ)などの受動素子とを備えている。
【0013】
マイクロ波移相器回路1の入力端子2には第1のFET6及び第2のFET7が接続されている。FET6にはT型の第1ハイパスフィルタ8と、この第1ハイパスフィルタ8に並列に副次的に付加されたΠ型の第1ローパスフィルタ9と、第3のFET10とが接続されている。第1ローパスフィルタ9はCLC(キャパシタ・インダクタ・キャパシタ)回路である。FET10は出力端子5に接続される。第2のFET7には、T型の第2ローパスフィルタ11と、この第2ローパスフィルタ11に並列に副次的に付加されたΠ型の第2ハイパスフィルタ12と、第4のFET13とが接続されている。第2ハイパスフィルタ12はLCL(インダクタ・キャパシタ・インダクタ)回路である。FET13は出力端子5に接続されている。
【0014】
図2にマイクロ波移相器回路1を2段直列に接続してなる2ビット移相器回路の一例を示す。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。2ビット移相器回路20は、マイクロストリップ線路を有する基板上に、入力端子2よりマイクロ波信号を入力される第1のマイクロ波移相器回路1と、この第1のマイクロ波移相器回路1の出力に直結され出力端子5よりマイクロ波信号を出力する第2のマイクロ波移相器回路1と、各マイクロ波移相器回路1の移相量を制御する駆動回路21とを備えている。駆動回路21は、端子22から入力される外部からの移相量制御信号が表す指令に対応して、第1のマイクロ波移相器回路1の4つのFET6等のゲートバイアス電圧と、第2のマイクロ波移相器回路1の4つのFET6等のゲートバイアス電圧とをハイ又はローに制御する。図2の例では、第1のマイクロ波移相器回路1による移相量は例えば90度であり、第2のマイクロ波移相器回路1による移相量は第1のマイクロ波移相器回路1による移相量の2倍である180度にされている。
【0015】
2つのマイクロ波移相器回路1においてそれぞれ、第1ハイパスフィルタ8及び第1ローパスフィルタ9により移相回路部18が構成され、第2ローパスフィルタ11及び第2ハイパスフィルタ12により移相回路部19が構成される。第1のマイクロ波移相器回路1の一方例えば移相回路部19はこの第1のマイクロ波移相器回路1の挿入位相の基準となる基準回路として機能する。第1のマイクロ波移相器回路1の他方例えば移相回路部18はこの移相回路部19に対して90度位相をシフトする回路として機能する。第2のマイクロ波移相器回路1でも移相回路部19はこの第2のマイクロ波移相器回路1の挿入位相の基準となる基準回路として機能し、第2のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18はこの移相回路部19に対して180度位相をシフトする回路として機能する。
【0016】
図3(a)はマイクロ波移相器回路1単体の等価回路を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。+θ1は第一の信号経路3において移相回路部18による通過位相差を表す。+θ2は第二の信号経路4において移相回路部19による通過位相差を表す。
【0017】
図3(b)は移相量の周波数特性を説明するための図である。曲線23は前段のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18による通過位相差の周波数特性である。曲線24は同じ前段のマイクロ波移相器回路1の移相回路部19あるいは後段のマイクロ波移相器回路1の移相回路部19による通過位相差の周波数特性である。駆動回路21が前段のマイクロ波移相器回路1にこのマイクロ波移相器回路1での信号経路を第一の信号経路3に切換えさせ、後段のマイクロ波移相器回路1にこのマイクロ波移相器回路1での信号経路を第二の信号経路4に切換えさせるようにして制御信号を前段のFET6、7、10、13及び後段のFET6、7、10、13に印加する。2ビット移相器回路20に入力されたマイクロ波信号は、前段の第一の信号経路3により+θ1の通過位相差を与えられ、後段側の第二の信号経路4により−θ2の通過位相を与えられる。これによってマイクロ波信号は全体の移相量θ1+θ2を得られるようになっている。
【0018】
マイクロ波移相器回路1のFET6、7、10、13(図1)はいずれもスイッチング素子であり、制御端子14、15から加えられる制御電圧によってオン状態あるいはオフ状態に制御される。FET6、7はこれらのFET6、7間で互いが排他的にオン状態又はオフ状態とされるように制御される。FET6、7はSPDT(Single Pole Double Throw:単極双投)スイッチ16(スイッチ回路)を構成する。第1のマイクロ波移相器回路1においてFET10、13はこれらのFET10、13間で互いが排他的にオン状態又はオフ状態とされるように制御され、SPDTスイッチ17(スイッチ回路)を構成する。
【0019】
第1ハイパスフィルタ8、第1ローパスフィルタ9、第2ローパスフィルタ11及び第2ハイパスフィルタ12を構成するキャパシタのキャパシタンス及びインダクタのインダクタンスである素子定数は、第一の信号経路3がオン及び第二の信号経路4がオフであるときにマイクロ波移相器回路1単体での移相量がθ1となり、第一の信号経路3がオフ及び第二の信号経路4がオンであるときにマイクロ波移相器回路1単体での移相量が−θ2となるようにして決められている。
【0020】
第2のマイクロ波移相器回路1のFET6、7、10、13は第1のマイクロ波移相器回路1の例と同じである。
【0021】
図1において、第一の信号経路3には第1ハイパスフィルタ8にΠ型のCLC回路が付加されている。第1ハイパスフィルタ8及び第1ローパスフィルタ9の前後には第一の信号経路3専用のFET6、10が配置されている。FET6のオン/オフ動作と、FET10のオン/オフ動作とは同期するよう制御される。次に、第二の信号経路4には第2ローパスフィルタ11にΠ型のLCL回路である第2ハイパスフィルタ12が付加されている。第2ローパスフィルタ11及び第2ハイパスフィルタ12の前後には第二の信号経路4専用のFET7、13が配置されており、FET7のオン/オフ動作と、FET13のオン/オフ動作とは同期するよう制御される。
【0022】
上記、第一の信号経路3専用のFET6、10の各オン/オフ動作と、第二の信号経路4専用のFET7、13の各オン/オフ動作とは、これらのFET6、10と、FET7、13との間で相補的になるようオン/オフをされる。つまり、これらのスイッチ回路群は、外部からの制御信号により、交流信号を第一の信号経路3と第二の信号経路4とを切換えている。
【0023】
CLC回路の素子定数については、第一の信号経路3において主経路となる第1ハイパスフィルタ8の通過特性と、副経路としての付加した第1ローパスフィルタ9のフィルタの通過特性とが重なり、その結果マイクロ波移相器回路1の挿入損失が小さくなるように、かつ所望の移相量が得られるように、この第1ローパスフィルタ9のインダクタ及びキャパシタのリアクタンス値を定めるようにしている。
【0024】
上述の構成の2ビット移相器回路20(図2)に対し、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ基準を表す2ビットの制御信号“0”、“0”を駆動回路21が入力する。駆動回路21は第1のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオン状態にし、FET7、13をオフ状態にする。駆動回路21は第2のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオン状態にし、FET7、13をオフ状態にする。これにより、第1のマイクロ波移相器回路1の入力端子2からのマイクロ信号は、この第1のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18と、第2のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18とを通過し、この第2のマイクロ波移相器回路1の出力端子5から出力される。
【0025】
次に、駆動回路21が、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ制御信号“1”、“0”を入力する。この場合、駆動回路21は第1のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオフ状態にし、FET7、13をオン状態にする。駆動回路21は第2のマイクロ波移相器回路1に対しては制御信号の内容を変えない。これにより、第1のマイクロ波移相器回路1側でマイクロ信号は移相回路部19を通過する。制御信号“0”、“0”のときを基準としたときの信号位相よりも相対的に90度位相がシフトする。マイクロ波信号は、第2のマイクロ波移相器回路1側では移相回路部18を通過して出力される。2ビット移相器回路20は挿入位相を90度変化させる。
【0026】
また、駆動回路21が、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ制御信号“0”、“1”を入力する。この場合、駆動回路21は第1のマイクロ波移相器回路1に対しては制御信号の内容を変えない。駆動回路21は第2のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオフ状態にし、FET7、13をオン状態にする。これにより、第2のマイクロ波移相器回路1に入力されたマイクロ信号は、移相回路部19を通過する。マイクロ波移相器回路1では、制御信号“0”、“0”のときを基準としたときの信号位相よりも相対的に180度位相がシフトする。
【0027】
また、同様に、駆動回路21が、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ制御信号“1”、“1”を入力すると、マイクロ波移相器回路1は挿入位相を270度変化させる。
【0028】
このようにして、マイクロ波移相器回路1は基準状態の通過位相と移相状態の通過位相の差から必要な移相量を得ることができる。
【0029】
第1ハイパスフィルタ8、第1ローパスフィルタ9がそれぞれ単体で動作したときの通過特性と、第1ハイパスフィルタ8に第1ローパスフィルタ9が追加されて動作したときの通過特性とを図4、図5を参照して比較する。これらの図中、既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0030】
図4に第1ハイパスフィルタ8単体での通過特性を示す。通過特性とはSパラメータの損失特性S21を指す。図4(a)は第1ハイパスフィルタ8の等価回路図である。図4(b)は第1ハイパスフィルタ8の挿入損失の周波数依存性を示すグラフであり、S21の絶対値をとったマグニチュード(dB)が示されている。図4(c)は第1ハイパスフィルタ8による移相量の周波数依存性を示すグラフであり、S21の位相角をとったフェーズ(度)が示されている。移相量が大きく変化する周波数の値は特性カーブの曲がり方が変わる遮断周波数近辺であり、この遮断周波数近辺における通過損失は大きい。
【0031】
図5に第1ローパスフィルタ9単体での通過特性を示す。図5(a)は第1ローパスフィルタ9の等価回路図である。図5(b)は第1ローパスフィルタ9の挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。図5(c)は第1ローパスフィルタ9による移相量の周波数依存性を示すグラフである。移相量が大きく変化する周波数の値は特性カーブの曲がり方が変わる遮断周波数近辺であり、この遮断周波数近辺における通過損失は大きい。
【0032】
マイクロ波移相器回路1は、第一の信号経路3に対し、CLCからなるT型の第1ハイパスフィルタ8に、もう一つフィルタ構造を有する第1ローパスフィルタ9を並列に追加することで、通過損失の補償と位相調整とを高周波帯域において行えるようになる。
【0033】
従来例による移相器回路と本実施形態に係る高周波マイクロ波移相器回路1とについて述べる。図6は従来のハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型の移相器回路の回路図である。マイクロ波移相器回路100は、ハイパスフィルタ101及びローパスフィルタ102をFETスイッチにより切換える回路である。図7は比較例によるマイクロ波移相器回路100の通過特性を説明するための図である。図7(a)には、ハイパスフィルタ101を信号伝送経路とした場合のマイクロ波移相器回路100の計測系の一例が示されており、同図の例では、T型のCLC構成を用いて90度の移相量の位相シフトを行う。端子P1は入力端子2に相当し、端子P2は出力端子3に相当する。m1〜m6は計測点を表す。
【0034】
図7(c)の点m3は、周波数7.300GHzの計測点である。移相量90.221度を計測したとき、図7(b)の点m4に示すように、−0.515dBの挿入損失を得た。周波数3.6GHz近辺で位相差が大きく変わる。この周波数近辺は、このハイパスフィルタ101の遮断周波数近辺であり、挿入損失が大きい。矢印Pで示す点m4は周波数特性カーブの肩に位置する。
【0035】
図8はマイクロ波移相器回路1の通過特性を説明するための図である。図8(a)の等価回路はマイクロ波移相器回路1が第1ハイパスフィルタ8を選択したときの回路素子の要部から形成されている。マイクロ波移相器回路1はT型構造を持つ第1ハイパスフィルタ8、及び第1ローパスフィルタ9により+θ1の通過位相差を作る。第1ハイパスフィルタ8のCLC回路の各素子定数はハイパスフィルタ101のCLC回路の各素子定数と同じである。
【0036】
図8(c)の点m3は、周波数7.500GHzの計測点である。移相量90.602度を計測したとき、図8(b)の点m4に示すように、−0.018dBの挿入損失を得た。周波数4.9GHz近辺で通過位相差が変わる。この周波数近辺での挿入損失は、−0.2〜0.3dBである。図7(b)のマイクロ波移相器回路100では通過位相差が大きく変わる周波数が遮断周波数近辺である。図8(b)では通過位相差が大きく変わる周波数において損失が改善されている。マイクロ波移相器回路1の挿入損失はマイクロ波移相器回路100の挿入損失よりも小さい。マイクロ波移相器回路1による挿入損失量はマイクロ波移相器回路100による挿入損失量を減らすことができるようになる。
【0037】
即ち、第2ローパスフィルタ11及び第1ハイパスフィルタ8は、挿入損失特性のうち、マイクロ波信号が第一の信号経路3によって通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償している。本実施形態に係る高周波マイクロ波移相器回路1はハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型のフィルタ型の構成を保ちながらも、インダクタやキャパシタを付加することで、フィルタの通過域外でも挿入損失を増大させることなく、通過特性を向上させることができるようになる。
【0038】
一般的なハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型では、第一の信号経路にはハイパスフィルタ101が設けられる。ハイパスフィルタ101の位相変化が大きい周波数帯域は挿入損失が大きい帯域である。本実施形態では、一般的なハイパスフィルタ101と同じ構造の第1ハイパスフィルタ8にΠ型のCLC回路を付加した。図5(a)に示されるΠ型のCLC回路の挿入損失の周波数特性は、図5(b)、図5(c)に示す通りである。第1ハイパスフィルタ8の挿入損失が小さい周波数帯と、Π型のCLC回路の挿入損失が小さい周波数帯とが重ねられ、かつ所望の位相が得られるように、Π型のCLC回路の各素子定数を定める。これにより、初期の位相変化量を得ながらも、挿入損失の劣化を補償することができる。第1ローパスフィルタ9を追加する前の位相変化量(図7(c))と同じ量の位相変化量(図8(c))を得ながらも、挿入損失の劣化量を少なくし、低損失化が達成される。
【0039】
本実施形態によれば、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタの切換型の移相回路構成を用いた高周波移相器において、挿入損失を改善することができるようになる。移相量を生じさせながらも、マイクロ波移相器回路1の挿入損失を小さくすることができるようになる。
【0040】
従来例によるハイパス型やローパス型のフィルタは、T型もしくはΠ型のインダクタ(L)とキャパシタ(C)とを用いているが、フィルタの通過域外では挿入損失が大きくなり、結果として移相器の特性を劣化させる原因となっていた。本実施形態によれば、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型フィルタ型の構成を保ちながらも、インダクタ及びキャパシタを付加することで、フィルタの通過域外でも挿入損失を減らし、挿入特性を向上させることができる。従来例によるハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え型の移相器が持つ通過位相差が生じる周波数帯域にて通過損失が増大することが本実施形態に係る高周波移相器ではなくすことができる。
【0041】
(第1の実施形態の変形例)
上記第1の実施形態では、第一の信号経路3に第1ハイパスフィルタ8を設けた例を挙げたが、変形例では、第二の信号経路4に設けられた第2ローパスフィルタ11において、上記のキャパシタCとインダクタLを入れ替えて構成する。第1の実施形態では、第一の信号経路3が一方の信号経路であり、第二の信号経路4が他方の信号経路であったが、この変形例では、第一の信号経路3が他方の信号経路であり、第二の信号経路4が一方の信号経路として機能する。
【0042】
第二の信号経路4の第2ハイパスフィルタ12であるLCL回路の素子定数については、第二の信号経路4において主経路となる第2ローパスフィルタ11の通過特性と、副経路として付加した第2ハイパスフィルタ12のフィルタの通過特性とが重なり、その結果マイクロ波移相器回路1の挿入損失が小さくなるように、かつ所望の移相量が得られるように、この第2ハイパスフィルタ12のインダクタ及びキャパシタのリアクタンス値を定める。
【0043】
この変形例に係る高周波移相器もマイクロ波移相器回路1であり、これらのマイクロ波移相器回路1が2段に接続されて2ビット移相器回路20を構成する。本実施形態でも上記例と同様に2段のマイクロ波移相器回路1が制御される。
【0044】
本変形例に係る高周波移相器は第1の実施形態で得られる効果と同様の効果を得られる。第二の信号経路4に着目すると、マイクロ波移相器回路1は、LCLからなるT型の第2ローパスフィルタ11に、もう一つフィルタ構造を有する第2ハイパスフィルタ12を並列に追加することで、通過損失の補償と位相調整とを高周波領域において行えるようになる。
【0045】
(第2の実施形態)
第1の実施形態及びその変形例では、第一の信号経路3上でT型の第1ハイパスフィルタ8に第1ローパスフィルタ9が追加されており、第二の信号経路4上でT型の第2ローパスフィルタ11に第2ハイパスフィルタ12が追加されている。第2の実施形態に係る高周波移相器は、第一の信号経路3上の高域マイクロ波通過主経路、第二の信号経路4上の低域マイクロ波通過主回路の回路構造をT−Π、Π−T、Π−Πにそれぞれ変えた構成を有する。
【0046】
第1の実施形態及びその変形例において、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え機能を実行する点では、第一の信号経路3、第二の信号経路4はいずれもRF主経路であり、第1ローパスフィルタ9、第2ハイパスフィルタ12はいずれもRF副経路である。換言すれば、第1の実施形態等では、第一の信号経路3にはT型RF主経路及びΠ型RF副経路が設けられており、第二の信号経路4にはT型RF主経路及びΠ型RFRF副経路が設けられている。
【0047】
本実施形態に係る高周波移相器は、次に述べる表1の列(2)及び図9(b)に示すように、第一の信号経路3にT型のハイパスの主経路及びΠ型副経路を設け、第二の信号経路4にΠ型のローパスの主経路及びT型副経路を設ける。表1に、第一の信号経路3のRF主経路、第二の信号経路4のRF主経路に用いる素子構成と、第一の信号経路3のRF副経路、第二の信号経路4のRF副経路に用いる素子構成との組合せを示す。図9に、各RF主経路上のハイパスフィルタ、ローパスフィルタが取り得る4種類の回路型構成と、各主経路に追加可能なRF副経路の回路型構成との組合せを示す。図9中、既述の符号はそれらと同じ符号を表す。
【表1】
【0048】
表1の列(1)、(2)、(3)、(4)に対応する回路の型構成が図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)にそれぞれに対応する。ここで、表1の列(1)、図9(a)はともに第1の実施形態及びその変形例での構成に対応する。
【0049】
また、本実施形態に係る高周波移相器は、表1の列(3)及び図9(c)に示すように、第一の信号経路3にΠ型RF主経路及びT型RF副経路を設け、第二の信号経路4にT型RF主経路及びΠ型RF副経路を設けて構成することもできる。
【0050】
また、本実施形態に係る高周波移相器は、表1の列(4)及び図9(d)に示すように、第一の信号経路3にΠ型RF主経路及びT型RF副経路を設け、第二の信号経路4にΠ型RF主経路及びT型RF副経路を設けて構成してもよい。
【0051】
表1の列(2)から列(4)の構成を用いた場合、RF副経路に設けられるCLC回路及びLCL回路の素子定数は、第一の信号経路3及び第二の信号経路4でのRF主経路の通過特性と、RF副経路を構成するCLC回路やLCL回路の通過特性とを重ね、挿入損失が小さくなるようにして定める。
【0052】
第2の実施形態に係る高周波移相器によれば、例えばMMICの回路素子の配置を効率的に利用してマイクロ波移相器を実現することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
上記実施形態では、第一の信号経路3及び第二の信号経路4の両方にフィルタが設けられていたが、これらの第一の信号経路3及び第二の信号経路4のうちの一方だけにフィルタを設けて構成してもよい。
【0054】
図10(a)は第3の実施形態に係る高周波移相器の構成図を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。マイクロ移相器回路25は、このマイクロ波移相器回路25の基準回路としてのマイクロストリップ線路26を第二の信号経路4aに設けて成る。
【0055】
このマイクロ波移相器回路25を、図2の例と同様に、2段縦続接続することにより、2ビット移相器回路が構成される。本実施形態に係る高周波移相器は、多ビットマイクロ波移相器回路において、小さな移相量を持つ下位のビットの移相器に利用することができる。多ビットのうち下位ビットは変動量が小さいからである。マイクロ波移相器回路25は例えば22.5度、10.25度といった移相量が小さい場合、少ない回路構成で所望する移相量を実現できるようになる。
【0056】
図10(b)に本実施形態の変形例に係る他の高周波移相器の構成図を示す。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。マイクロ移相器回路27は、このマイクロ波移相器回路27の基準回路としてのマイクロストリップ線路28を第一の信号経路3aに設けて成る。マイクロ波移相器回路27は移相量が小さい下位のビットの移相器に利用することができる。
【0057】
(他の実施形態)
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0058】
上記実施形態では、移相器回路を、前段の出力端子5を次段の入力端子2に接続させるようにして複数多段に移相器が直列接続されてもよい。それぞれ移相量が異なる複数の移相器回路を多段に縦続接続する。縦続接続された最前段の入力端子から入力された高周波信号は、所要の移相量を与えられ、最後段の出力端子から出力される。図2の2ビット移相器回路20は一例であり、種々変更可能である。2ビット移相器回路20の構成を変えて実施したに過ぎない発明に対して本発明の優位性は何ら損なわれるものではない。
【0059】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0060】
一実施形態に係る高周波移相器は、所望する移相量を得ながら挿入損失の劣化を補償できる範囲で追加CLCのΠ型回路に、抵抗器や、他のインダクタあるいは他のキャパシタを含めてもよい。高周波移相器は、所望する移相量を得ながら挿入損失の劣化を補償できる範囲で追加LCLのΠ型回路に、抵抗器や、他のインダクタあるいは他のキャパシタを含めてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1,25,27…マイクロ波移相器回路(移相器)、2…入力端子、3,3a…第一の信号経路(一方の信号経路)、4,4a…第二の信号経路(他方の信号経路)、5…出力端子、6,7,10,13…FET、8…第1ハイパスフィルタ、9…第1ローパスフィルタ、11…第2ハイパスフィルタ12…第2ハイパスフィルタ、14,15…制御端子、16,17…SPDTスイッチ(スイッチ回路)、18,19…移相回路部、20…2ビット移相器回路、21…駆動回路、22…端子、23,24…曲線、26,28…マイクロストリップ線路。
【技術分野】
【0001】
一実施形態は移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波移相器回路はマイクロ波やミリ波などの高周波信号に通過位相差、即ち移相量を与える。移相器は一方の経路を伝送する信号の位相を基準とする基準状態を有し、基準となる一方の経路と他方の経路とを切換えるためのスイッチ回路を有する。
【0003】
移相器の構成の一つとして、従来、ハイパスフィルタ(HPF:High Pass Filter)及びローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)を切換えるタイプの移相器が知られている(例えば特許文献1参照)。一方の信号経路にハイパスフィルタを設け、もう一方の信号経路に伝送線路を設けた移相器も知られている(例えば特許文献2参照)。複数個の移相ユニットを直列接続したマイクロ波移相器も知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−237807号公報
【特許文献2】特開2008−187661号公報
【特許文献3】特開2001−094302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え型の移相器では、通過位相差が大きい周波数の値がハイパスフィルタあるいはローパスフィルタの通過特性が変わる遮断周波数近辺であり、挿入損失が大きくなるという欠点がある。挿入損失とは入力端子から出力端子に伝搬する電力の損失をdB(デシベル)で表した値を指す。
【0006】
ハイパスフィルタにおいて入出力信号間の通過位相差が生じる周波数ではこのハイパスフィルタの挿入損失が大きい。ローパスフィルタにおいて入出力信号間の位相差が生じる周波数帯域はこのローパスフィルタの挿入損失の周波数特性が傾斜する帯域である。これは低域側通過域から高域側通過域へ周波数を増大させたときに挿入損失の値が大きくなり始める帯域である。ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え型の移相器では、結果として入出力信号間の位相差が生じる周波数帯域において通過損失が大きくなる。高周波信号がマイクロストリップ線路を伝送したとき、誘電体損失や、放射損失、導体損失といった通過損失が大きくなる。挿入損失の周波数特性のうち、通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、一実施形態によれば、入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、前記一方の信号経路に設けられた第1ハイパスフィルタと、この第1ハイパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ローパスフィルタとを備え、この第1ローパスフィルタおよび前記第1ハイパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器が提供される。
【0008】
また、別の一実施形態によれば、入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、前記一方の信号経路に設けられた第1ローパスフィルタと、この第1ローパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ハイパスフィルタとを備え、この第1ハイパスフィルタおよび前記第1ローパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る高周波移相器の構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る高周波移相器を2段直列に接続した2ビット移相器回路の一例を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る高周波移相器回路による通過位相差を説明するための図である。
【図4】ハイパスフィルタ単体での通過特性を示す図である。
【図5】Π型回路単体での通過特性を示す図である。
【図6】従来のハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型の移相器回路の回路図である。
【図7】比較例によるマイクロ波移相器回路の通過特性を説明するための図である
【図8】第1の実施形態に係る高周波移相器の通過特性を説明するための図である。
【図9】第2の実施形態に係る高周波移相器に用いられるRF主経路上の4種類の回路の型構成と、RF副経路の回路の型構成との組合せを示す図である。
【図10】第3の実施形態に係る高周波移相器の構成図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態に係る移相器について、図1乃至図10を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る高周波移相器はMMIC(マイクロ波集積回路)に形成されるマイクロ波移相器回路である。図1はマイクロ移相器回路の構成図である。マイクロ波移相器回路1(高周波移相器)は、第一の信号経路3(一方の信号経路)にΠ型のCLC(第1ローパスフィルタ9)が付加された第1ハイパスフィルタ8を設け、第二の信号経路4(他方の信号経路)にΠ型のLCL(第2ハイパスフィルタ12)が付加された第2第2ローパスフィルタ11を設けている。
【0012】
マイクロ波移相器回路1は入力端子2からのマイクロ波信号の信号経路を、第一の信号経路3又は第二の信号経路4に切換え、この信号を出力端子5より出力する回路であり、これらの第一の信号経路3及び第二の信号経路4間の通過位相の違いによって所要の移相量を得る。マイクロ波移相器回路1は、半絶縁性の基板に設けられた信号経路パターンと、それぞれこの基板に形成された複数のFET(電界効果トランジスタ)などのスイッチ素子と、それぞれマイクロ波信号に対して集中定数素子として働き基板に集積されたC(キャパシタ)及びL(インダクタ)などの受動素子とを備えている。
【0013】
マイクロ波移相器回路1の入力端子2には第1のFET6及び第2のFET7が接続されている。FET6にはT型の第1ハイパスフィルタ8と、この第1ハイパスフィルタ8に並列に副次的に付加されたΠ型の第1ローパスフィルタ9と、第3のFET10とが接続されている。第1ローパスフィルタ9はCLC(キャパシタ・インダクタ・キャパシタ)回路である。FET10は出力端子5に接続される。第2のFET7には、T型の第2ローパスフィルタ11と、この第2ローパスフィルタ11に並列に副次的に付加されたΠ型の第2ハイパスフィルタ12と、第4のFET13とが接続されている。第2ハイパスフィルタ12はLCL(インダクタ・キャパシタ・インダクタ)回路である。FET13は出力端子5に接続されている。
【0014】
図2にマイクロ波移相器回路1を2段直列に接続してなる2ビット移相器回路の一例を示す。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。2ビット移相器回路20は、マイクロストリップ線路を有する基板上に、入力端子2よりマイクロ波信号を入力される第1のマイクロ波移相器回路1と、この第1のマイクロ波移相器回路1の出力に直結され出力端子5よりマイクロ波信号を出力する第2のマイクロ波移相器回路1と、各マイクロ波移相器回路1の移相量を制御する駆動回路21とを備えている。駆動回路21は、端子22から入力される外部からの移相量制御信号が表す指令に対応して、第1のマイクロ波移相器回路1の4つのFET6等のゲートバイアス電圧と、第2のマイクロ波移相器回路1の4つのFET6等のゲートバイアス電圧とをハイ又はローに制御する。図2の例では、第1のマイクロ波移相器回路1による移相量は例えば90度であり、第2のマイクロ波移相器回路1による移相量は第1のマイクロ波移相器回路1による移相量の2倍である180度にされている。
【0015】
2つのマイクロ波移相器回路1においてそれぞれ、第1ハイパスフィルタ8及び第1ローパスフィルタ9により移相回路部18が構成され、第2ローパスフィルタ11及び第2ハイパスフィルタ12により移相回路部19が構成される。第1のマイクロ波移相器回路1の一方例えば移相回路部19はこの第1のマイクロ波移相器回路1の挿入位相の基準となる基準回路として機能する。第1のマイクロ波移相器回路1の他方例えば移相回路部18はこの移相回路部19に対して90度位相をシフトする回路として機能する。第2のマイクロ波移相器回路1でも移相回路部19はこの第2のマイクロ波移相器回路1の挿入位相の基準となる基準回路として機能し、第2のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18はこの移相回路部19に対して180度位相をシフトする回路として機能する。
【0016】
図3(a)はマイクロ波移相器回路1単体の等価回路を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。+θ1は第一の信号経路3において移相回路部18による通過位相差を表す。+θ2は第二の信号経路4において移相回路部19による通過位相差を表す。
【0017】
図3(b)は移相量の周波数特性を説明するための図である。曲線23は前段のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18による通過位相差の周波数特性である。曲線24は同じ前段のマイクロ波移相器回路1の移相回路部19あるいは後段のマイクロ波移相器回路1の移相回路部19による通過位相差の周波数特性である。駆動回路21が前段のマイクロ波移相器回路1にこのマイクロ波移相器回路1での信号経路を第一の信号経路3に切換えさせ、後段のマイクロ波移相器回路1にこのマイクロ波移相器回路1での信号経路を第二の信号経路4に切換えさせるようにして制御信号を前段のFET6、7、10、13及び後段のFET6、7、10、13に印加する。2ビット移相器回路20に入力されたマイクロ波信号は、前段の第一の信号経路3により+θ1の通過位相差を与えられ、後段側の第二の信号経路4により−θ2の通過位相を与えられる。これによってマイクロ波信号は全体の移相量θ1+θ2を得られるようになっている。
【0018】
マイクロ波移相器回路1のFET6、7、10、13(図1)はいずれもスイッチング素子であり、制御端子14、15から加えられる制御電圧によってオン状態あるいはオフ状態に制御される。FET6、7はこれらのFET6、7間で互いが排他的にオン状態又はオフ状態とされるように制御される。FET6、7はSPDT(Single Pole Double Throw:単極双投)スイッチ16(スイッチ回路)を構成する。第1のマイクロ波移相器回路1においてFET10、13はこれらのFET10、13間で互いが排他的にオン状態又はオフ状態とされるように制御され、SPDTスイッチ17(スイッチ回路)を構成する。
【0019】
第1ハイパスフィルタ8、第1ローパスフィルタ9、第2ローパスフィルタ11及び第2ハイパスフィルタ12を構成するキャパシタのキャパシタンス及びインダクタのインダクタンスである素子定数は、第一の信号経路3がオン及び第二の信号経路4がオフであるときにマイクロ波移相器回路1単体での移相量がθ1となり、第一の信号経路3がオフ及び第二の信号経路4がオンであるときにマイクロ波移相器回路1単体での移相量が−θ2となるようにして決められている。
【0020】
第2のマイクロ波移相器回路1のFET6、7、10、13は第1のマイクロ波移相器回路1の例と同じである。
【0021】
図1において、第一の信号経路3には第1ハイパスフィルタ8にΠ型のCLC回路が付加されている。第1ハイパスフィルタ8及び第1ローパスフィルタ9の前後には第一の信号経路3専用のFET6、10が配置されている。FET6のオン/オフ動作と、FET10のオン/オフ動作とは同期するよう制御される。次に、第二の信号経路4には第2ローパスフィルタ11にΠ型のLCL回路である第2ハイパスフィルタ12が付加されている。第2ローパスフィルタ11及び第2ハイパスフィルタ12の前後には第二の信号経路4専用のFET7、13が配置されており、FET7のオン/オフ動作と、FET13のオン/オフ動作とは同期するよう制御される。
【0022】
上記、第一の信号経路3専用のFET6、10の各オン/オフ動作と、第二の信号経路4専用のFET7、13の各オン/オフ動作とは、これらのFET6、10と、FET7、13との間で相補的になるようオン/オフをされる。つまり、これらのスイッチ回路群は、外部からの制御信号により、交流信号を第一の信号経路3と第二の信号経路4とを切換えている。
【0023】
CLC回路の素子定数については、第一の信号経路3において主経路となる第1ハイパスフィルタ8の通過特性と、副経路としての付加した第1ローパスフィルタ9のフィルタの通過特性とが重なり、その結果マイクロ波移相器回路1の挿入損失が小さくなるように、かつ所望の移相量が得られるように、この第1ローパスフィルタ9のインダクタ及びキャパシタのリアクタンス値を定めるようにしている。
【0024】
上述の構成の2ビット移相器回路20(図2)に対し、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ基準を表す2ビットの制御信号“0”、“0”を駆動回路21が入力する。駆動回路21は第1のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオン状態にし、FET7、13をオフ状態にする。駆動回路21は第2のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオン状態にし、FET7、13をオフ状態にする。これにより、第1のマイクロ波移相器回路1の入力端子2からのマイクロ信号は、この第1のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18と、第2のマイクロ波移相器回路1の移相回路部18とを通過し、この第2のマイクロ波移相器回路1の出力端子5から出力される。
【0025】
次に、駆動回路21が、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ制御信号“1”、“0”を入力する。この場合、駆動回路21は第1のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオフ状態にし、FET7、13をオン状態にする。駆動回路21は第2のマイクロ波移相器回路1に対しては制御信号の内容を変えない。これにより、第1のマイクロ波移相器回路1側でマイクロ信号は移相回路部19を通過する。制御信号“0”、“0”のときを基準としたときの信号位相よりも相対的に90度位相がシフトする。マイクロ波信号は、第2のマイクロ波移相器回路1側では移相回路部18を通過して出力される。2ビット移相器回路20は挿入位相を90度変化させる。
【0026】
また、駆動回路21が、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ制御信号“0”、“1”を入力する。この場合、駆動回路21は第1のマイクロ波移相器回路1に対しては制御信号の内容を変えない。駆動回路21は第2のマイクロ波移相器回路1に対し、FET6、10をオフ状態にし、FET7、13をオン状態にする。これにより、第2のマイクロ波移相器回路1に入力されたマイクロ信号は、移相回路部19を通過する。マイクロ波移相器回路1では、制御信号“0”、“0”のときを基準としたときの信号位相よりも相対的に180度位相がシフトする。
【0027】
また、同様に、駆動回路21が、第1のマイクロ波移相器回路1、第2のマイクロ波移相器回路1に対してそれぞれ制御信号“1”、“1”を入力すると、マイクロ波移相器回路1は挿入位相を270度変化させる。
【0028】
このようにして、マイクロ波移相器回路1は基準状態の通過位相と移相状態の通過位相の差から必要な移相量を得ることができる。
【0029】
第1ハイパスフィルタ8、第1ローパスフィルタ9がそれぞれ単体で動作したときの通過特性と、第1ハイパスフィルタ8に第1ローパスフィルタ9が追加されて動作したときの通過特性とを図4、図5を参照して比較する。これらの図中、既述の符号はそれらと同じ要素を表す。
【0030】
図4に第1ハイパスフィルタ8単体での通過特性を示す。通過特性とはSパラメータの損失特性S21を指す。図4(a)は第1ハイパスフィルタ8の等価回路図である。図4(b)は第1ハイパスフィルタ8の挿入損失の周波数依存性を示すグラフであり、S21の絶対値をとったマグニチュード(dB)が示されている。図4(c)は第1ハイパスフィルタ8による移相量の周波数依存性を示すグラフであり、S21の位相角をとったフェーズ(度)が示されている。移相量が大きく変化する周波数の値は特性カーブの曲がり方が変わる遮断周波数近辺であり、この遮断周波数近辺における通過損失は大きい。
【0031】
図5に第1ローパスフィルタ9単体での通過特性を示す。図5(a)は第1ローパスフィルタ9の等価回路図である。図5(b)は第1ローパスフィルタ9の挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。図5(c)は第1ローパスフィルタ9による移相量の周波数依存性を示すグラフである。移相量が大きく変化する周波数の値は特性カーブの曲がり方が変わる遮断周波数近辺であり、この遮断周波数近辺における通過損失は大きい。
【0032】
マイクロ波移相器回路1は、第一の信号経路3に対し、CLCからなるT型の第1ハイパスフィルタ8に、もう一つフィルタ構造を有する第1ローパスフィルタ9を並列に追加することで、通過損失の補償と位相調整とを高周波帯域において行えるようになる。
【0033】
従来例による移相器回路と本実施形態に係る高周波マイクロ波移相器回路1とについて述べる。図6は従来のハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型の移相器回路の回路図である。マイクロ波移相器回路100は、ハイパスフィルタ101及びローパスフィルタ102をFETスイッチにより切換える回路である。図7は比較例によるマイクロ波移相器回路100の通過特性を説明するための図である。図7(a)には、ハイパスフィルタ101を信号伝送経路とした場合のマイクロ波移相器回路100の計測系の一例が示されており、同図の例では、T型のCLC構成を用いて90度の移相量の位相シフトを行う。端子P1は入力端子2に相当し、端子P2は出力端子3に相当する。m1〜m6は計測点を表す。
【0034】
図7(c)の点m3は、周波数7.300GHzの計測点である。移相量90.221度を計測したとき、図7(b)の点m4に示すように、−0.515dBの挿入損失を得た。周波数3.6GHz近辺で位相差が大きく変わる。この周波数近辺は、このハイパスフィルタ101の遮断周波数近辺であり、挿入損失が大きい。矢印Pで示す点m4は周波数特性カーブの肩に位置する。
【0035】
図8はマイクロ波移相器回路1の通過特性を説明するための図である。図8(a)の等価回路はマイクロ波移相器回路1が第1ハイパスフィルタ8を選択したときの回路素子の要部から形成されている。マイクロ波移相器回路1はT型構造を持つ第1ハイパスフィルタ8、及び第1ローパスフィルタ9により+θ1の通過位相差を作る。第1ハイパスフィルタ8のCLC回路の各素子定数はハイパスフィルタ101のCLC回路の各素子定数と同じである。
【0036】
図8(c)の点m3は、周波数7.500GHzの計測点である。移相量90.602度を計測したとき、図8(b)の点m4に示すように、−0.018dBの挿入損失を得た。周波数4.9GHz近辺で通過位相差が変わる。この周波数近辺での挿入損失は、−0.2〜0.3dBである。図7(b)のマイクロ波移相器回路100では通過位相差が大きく変わる周波数が遮断周波数近辺である。図8(b)では通過位相差が大きく変わる周波数において損失が改善されている。マイクロ波移相器回路1の挿入損失はマイクロ波移相器回路100の挿入損失よりも小さい。マイクロ波移相器回路1による挿入損失量はマイクロ波移相器回路100による挿入損失量を減らすことができるようになる。
【0037】
即ち、第2ローパスフィルタ11及び第1ハイパスフィルタ8は、挿入損失特性のうち、マイクロ波信号が第一の信号経路3によって通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償している。本実施形態に係る高周波マイクロ波移相器回路1はハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型のフィルタ型の構成を保ちながらも、インダクタやキャパシタを付加することで、フィルタの通過域外でも挿入損失を増大させることなく、通過特性を向上させることができるようになる。
【0038】
一般的なハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型では、第一の信号経路にはハイパスフィルタ101が設けられる。ハイパスフィルタ101の位相変化が大きい周波数帯域は挿入損失が大きい帯域である。本実施形態では、一般的なハイパスフィルタ101と同じ構造の第1ハイパスフィルタ8にΠ型のCLC回路を付加した。図5(a)に示されるΠ型のCLC回路の挿入損失の周波数特性は、図5(b)、図5(c)に示す通りである。第1ハイパスフィルタ8の挿入損失が小さい周波数帯と、Π型のCLC回路の挿入損失が小さい周波数帯とが重ねられ、かつ所望の位相が得られるように、Π型のCLC回路の各素子定数を定める。これにより、初期の位相変化量を得ながらも、挿入損失の劣化を補償することができる。第1ローパスフィルタ9を追加する前の位相変化量(図7(c))と同じ量の位相変化量(図8(c))を得ながらも、挿入損失の劣化量を少なくし、低損失化が達成される。
【0039】
本実施形態によれば、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタの切換型の移相回路構成を用いた高周波移相器において、挿入損失を改善することができるようになる。移相量を生じさせながらも、マイクロ波移相器回路1の挿入損失を小さくすることができるようになる。
【0040】
従来例によるハイパス型やローパス型のフィルタは、T型もしくはΠ型のインダクタ(L)とキャパシタ(C)とを用いているが、フィルタの通過域外では挿入損失が大きくなり、結果として移相器の特性を劣化させる原因となっていた。本実施形態によれば、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換型フィルタ型の構成を保ちながらも、インダクタ及びキャパシタを付加することで、フィルタの通過域外でも挿入損失を減らし、挿入特性を向上させることができる。従来例によるハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え型の移相器が持つ通過位相差が生じる周波数帯域にて通過損失が増大することが本実施形態に係る高周波移相器ではなくすことができる。
【0041】
(第1の実施形態の変形例)
上記第1の実施形態では、第一の信号経路3に第1ハイパスフィルタ8を設けた例を挙げたが、変形例では、第二の信号経路4に設けられた第2ローパスフィルタ11において、上記のキャパシタCとインダクタLを入れ替えて構成する。第1の実施形態では、第一の信号経路3が一方の信号経路であり、第二の信号経路4が他方の信号経路であったが、この変形例では、第一の信号経路3が他方の信号経路であり、第二の信号経路4が一方の信号経路として機能する。
【0042】
第二の信号経路4の第2ハイパスフィルタ12であるLCL回路の素子定数については、第二の信号経路4において主経路となる第2ローパスフィルタ11の通過特性と、副経路として付加した第2ハイパスフィルタ12のフィルタの通過特性とが重なり、その結果マイクロ波移相器回路1の挿入損失が小さくなるように、かつ所望の移相量が得られるように、この第2ハイパスフィルタ12のインダクタ及びキャパシタのリアクタンス値を定める。
【0043】
この変形例に係る高周波移相器もマイクロ波移相器回路1であり、これらのマイクロ波移相器回路1が2段に接続されて2ビット移相器回路20を構成する。本実施形態でも上記例と同様に2段のマイクロ波移相器回路1が制御される。
【0044】
本変形例に係る高周波移相器は第1の実施形態で得られる効果と同様の効果を得られる。第二の信号経路4に着目すると、マイクロ波移相器回路1は、LCLからなるT型の第2ローパスフィルタ11に、もう一つフィルタ構造を有する第2ハイパスフィルタ12を並列に追加することで、通過損失の補償と位相調整とを高周波領域において行えるようになる。
【0045】
(第2の実施形態)
第1の実施形態及びその変形例では、第一の信号経路3上でT型の第1ハイパスフィルタ8に第1ローパスフィルタ9が追加されており、第二の信号経路4上でT型の第2ローパスフィルタ11に第2ハイパスフィルタ12が追加されている。第2の実施形態に係る高周波移相器は、第一の信号経路3上の高域マイクロ波通過主経路、第二の信号経路4上の低域マイクロ波通過主回路の回路構造をT−Π、Π−T、Π−Πにそれぞれ変えた構成を有する。
【0046】
第1の実施形態及びその変形例において、ハイパスフィルタ/ローパスフィルタ切換え機能を実行する点では、第一の信号経路3、第二の信号経路4はいずれもRF主経路であり、第1ローパスフィルタ9、第2ハイパスフィルタ12はいずれもRF副経路である。換言すれば、第1の実施形態等では、第一の信号経路3にはT型RF主経路及びΠ型RF副経路が設けられており、第二の信号経路4にはT型RF主経路及びΠ型RFRF副経路が設けられている。
【0047】
本実施形態に係る高周波移相器は、次に述べる表1の列(2)及び図9(b)に示すように、第一の信号経路3にT型のハイパスの主経路及びΠ型副経路を設け、第二の信号経路4にΠ型のローパスの主経路及びT型副経路を設ける。表1に、第一の信号経路3のRF主経路、第二の信号経路4のRF主経路に用いる素子構成と、第一の信号経路3のRF副経路、第二の信号経路4のRF副経路に用いる素子構成との組合せを示す。図9に、各RF主経路上のハイパスフィルタ、ローパスフィルタが取り得る4種類の回路型構成と、各主経路に追加可能なRF副経路の回路型構成との組合せを示す。図9中、既述の符号はそれらと同じ符号を表す。
【表1】
【0048】
表1の列(1)、(2)、(3)、(4)に対応する回路の型構成が図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)にそれぞれに対応する。ここで、表1の列(1)、図9(a)はともに第1の実施形態及びその変形例での構成に対応する。
【0049】
また、本実施形態に係る高周波移相器は、表1の列(3)及び図9(c)に示すように、第一の信号経路3にΠ型RF主経路及びT型RF副経路を設け、第二の信号経路4にT型RF主経路及びΠ型RF副経路を設けて構成することもできる。
【0050】
また、本実施形態に係る高周波移相器は、表1の列(4)及び図9(d)に示すように、第一の信号経路3にΠ型RF主経路及びT型RF副経路を設け、第二の信号経路4にΠ型RF主経路及びT型RF副経路を設けて構成してもよい。
【0051】
表1の列(2)から列(4)の構成を用いた場合、RF副経路に設けられるCLC回路及びLCL回路の素子定数は、第一の信号経路3及び第二の信号経路4でのRF主経路の通過特性と、RF副経路を構成するCLC回路やLCL回路の通過特性とを重ね、挿入損失が小さくなるようにして定める。
【0052】
第2の実施形態に係る高周波移相器によれば、例えばMMICの回路素子の配置を効率的に利用してマイクロ波移相器を実現することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
上記実施形態では、第一の信号経路3及び第二の信号経路4の両方にフィルタが設けられていたが、これらの第一の信号経路3及び第二の信号経路4のうちの一方だけにフィルタを設けて構成してもよい。
【0054】
図10(a)は第3の実施形態に係る高周波移相器の構成図を示す図である。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。マイクロ移相器回路25は、このマイクロ波移相器回路25の基準回路としてのマイクロストリップ線路26を第二の信号経路4aに設けて成る。
【0055】
このマイクロ波移相器回路25を、図2の例と同様に、2段縦続接続することにより、2ビット移相器回路が構成される。本実施形態に係る高周波移相器は、多ビットマイクロ波移相器回路において、小さな移相量を持つ下位のビットの移相器に利用することができる。多ビットのうち下位ビットは変動量が小さいからである。マイクロ波移相器回路25は例えば22.5度、10.25度といった移相量が小さい場合、少ない回路構成で所望する移相量を実現できるようになる。
【0056】
図10(b)に本実施形態の変形例に係る他の高周波移相器の構成図を示す。既述の符号はそれらと同じ要素を表す。マイクロ移相器回路27は、このマイクロ波移相器回路27の基準回路としてのマイクロストリップ線路28を第一の信号経路3aに設けて成る。マイクロ波移相器回路27は移相量が小さい下位のビットの移相器に利用することができる。
【0057】
(他の実施形態)
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0058】
上記実施形態では、移相器回路を、前段の出力端子5を次段の入力端子2に接続させるようにして複数多段に移相器が直列接続されてもよい。それぞれ移相量が異なる複数の移相器回路を多段に縦続接続する。縦続接続された最前段の入力端子から入力された高周波信号は、所要の移相量を与えられ、最後段の出力端子から出力される。図2の2ビット移相器回路20は一例であり、種々変更可能である。2ビット移相器回路20の構成を変えて実施したに過ぎない発明に対して本発明の優位性は何ら損なわれるものではない。
【0059】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0060】
一実施形態に係る高周波移相器は、所望する移相量を得ながら挿入損失の劣化を補償できる範囲で追加CLCのΠ型回路に、抵抗器や、他のインダクタあるいは他のキャパシタを含めてもよい。高周波移相器は、所望する移相量を得ながら挿入損失の劣化を補償できる範囲で追加LCLのΠ型回路に、抵抗器や、他のインダクタあるいは他のキャパシタを含めてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1,25,27…マイクロ波移相器回路(移相器)、2…入力端子、3,3a…第一の信号経路(一方の信号経路)、4,4a…第二の信号経路(他方の信号経路)、5…出力端子、6,7,10,13…FET、8…第1ハイパスフィルタ、9…第1ローパスフィルタ、11…第2ハイパスフィルタ12…第2ハイパスフィルタ、14,15…制御端子、16,17…SPDTスイッチ(スイッチ回路)、18,19…移相回路部、20…2ビット移相器回路、21…駆動回路、22…端子、23,24…曲線、26,28…マイクロストリップ線路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、
前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、
前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、
前記一方の信号経路に設けられた第1ハイパスフィルタと、
この第1ハイパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ローパスフィルタとを備え、
この第1ローパスフィルタおよび前記第1ハイパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器。
【請求項2】
入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、
前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、
前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、
前記一方の信号経路に設けられた第1ローパスフィルタと、
この第1ローパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ハイパスフィルタとを備え、
この第1ハイパスフィルタおよび前記第1ローパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器。
【請求項3】
前記他方の信号経路には第2ローパスフィルタが設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の移相器。
【請求項4】
前記他方の信号経路には更に前記第2ローパスフィルタを主として副次的に第2ハイパスフィルタが設けられたことを特徴とする請求項3記載の移相器。
【請求項5】
前記第1ハイパスフィルタは複数の受動素子がT型に接続されたT型回路あるいは複数の受動素子がΠ型に接続されたΠ型回路であり、前記第1ローパスフィルタはCLC(キャパシタ・インダクタ・キャパシタ)のΠ型回路あるいはLCL(インダクタ・キャパシタ・インダクタ)のT型回路であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の移相器。
【請求項6】
前記第2ハイパスフィルタは複数の受動素子がT型に接続されたT型回路あるいは複数の受動素子がΠ型に接続されたΠ型回路であり、前記第2ローパスフィルタはCLCのΠ型回路あるいはLCLのT型回路であることを特徴とする請求項3又は4に記載の移相器。
【請求項7】
前記スイッチ回路はSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチであることを特徴とする請求項1記載の移相器。
【請求項1】
入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、
前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、
前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、
前記一方の信号経路に設けられた第1ハイパスフィルタと、
この第1ハイパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ローパスフィルタとを備え、
この第1ローパスフィルタおよび前記第1ハイパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器。
【請求項2】
入力端子および出力端子の間に接続された一方の信号経路と、
前記一方の信号経路に並列に設けられ前記入力端子に一端が接続され前記出力端子に他端が接続された他方の信号経路と、
前記一方の信号経路および前記他方の信号経路のいずれかに前記入力端子からの高周波信号の経路を切換えるスイッチ回路と、
前記一方の信号経路に設けられた第1ローパスフィルタと、
この第1ローパスフィルタを主として前記一方の信号経路に副次的に並列に付加された第1ハイパスフィルタとを備え、
この第1ハイパスフィルタおよび前記第1ローパスフィルタは、挿入損失特性のうち、前記高周波信号が前記一方の信号経路から通過位相差を与えられる周波数範囲における挿入損失を補償することを特徴とする移相器。
【請求項3】
前記他方の信号経路には第2ローパスフィルタが設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の移相器。
【請求項4】
前記他方の信号経路には更に前記第2ローパスフィルタを主として副次的に第2ハイパスフィルタが設けられたことを特徴とする請求項3記載の移相器。
【請求項5】
前記第1ハイパスフィルタは複数の受動素子がT型に接続されたT型回路あるいは複数の受動素子がΠ型に接続されたΠ型回路であり、前記第1ローパスフィルタはCLC(キャパシタ・インダクタ・キャパシタ)のΠ型回路あるいはLCL(インダクタ・キャパシタ・インダクタ)のT型回路であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の移相器。
【請求項6】
前記第2ハイパスフィルタは複数の受動素子がT型に接続されたT型回路あるいは複数の受動素子がΠ型に接続されたΠ型回路であり、前記第2ローパスフィルタはCLCのΠ型回路あるいはLCLのT型回路であることを特徴とする請求項3又は4に記載の移相器。
【請求項7】
前記スイッチ回路はSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチであることを特徴とする請求項1記載の移相器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−259215(P2011−259215A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131974(P2010−131974)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
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