説明

種々の障害を軽減するためのボツリヌス神経毒の使用

【課題】反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動を効果的に処置する非外科的方法が必要とされている。
【解決手段】クロストリジウム毒素の局所投与により強迫観念および強迫行為を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。強迫観念または強迫行為は、例えば、抜毛癖、反復的な手洗い、強迫行為的体揺すり、皮膚自傷癖、目突き、体揺すり、指咬み、計数、確認、および関連する障害であり得、低用量のボツリヌス毒素の筋肉内投与によって処置しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある種の強迫性障害を処置する方法に関する。特に本発明は、ある種の強迫性障害のさまざまな反復的および/または傷害的運動活動症状を、クロストリジウム毒素の末梢投与によって処置する方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
強迫観念は、苦痛および不安を引き起こす、持続的な観念、思考、衝動または心像である。強迫観念は攻撃、汚染、性または身体に関する心配というテーマを伴いうる。強迫行為は、個人が不安または苦痛を減少させるために行なう必要があると感じる反復的常同運動行為である。強迫行為には通常、一時的にしか抵抗することができず、抵抗すると不安感および緊張感の増加が起こる。緊張の高まりは、不合理な運動行為または儀式を行なうことによってのみ緩和される。強迫行為の複雑さは、触る、唇をなめる、タッピングする、こするなどの簡単な動作から、反復的な手洗い(hand washing)、抜毛(hair pulling)、体揺すり(body rocking)などの複雑な行動までさまざまである。また、強迫行為行動には、貯蔵行動、反復行動、確認行動(すなわち扉が施錠されていることを繰り返し確認すること)、計数行動(すなわち歩数を強迫行為的に数えること)および整頓行動、ならびに種々の自傷行動、例えば自咬(すなわち指咬み(finger biting))、頭部打ち付け(head banging)、目突き(eye poking)、皮膚摘み取り(skin picking)、皮膚切り(skin cutting)、皮膚焼き(skin burning)、眼球摘出および去勢などを含めることができる。このような心をかき乱す自傷的強迫行為を持つ不幸な人々は、彼らが自分自身をさらに傷つけないように、適切な拘束具(マウスガードなど)で拘束したり、そのような拘束具を装着したりしなければならないことも多い。これらの強迫行為は深刻な障害を来す場合があり、精神病、中毒、トゥーレット症候群および精神遅滞を伴う場合もある。
【0003】
したがって強迫性障害は、強迫観念と強迫行為行動とを併せ持つ場合があり、患者の注意および活動の大半を費やし、その結果として日々の機能を損なうような反復性の侵入思考および儀式的行動を特徴とする、慢性状態であると定義することができる。強迫観念性および/または強迫行為性障害の行動は、典型的には、小児期後期または成人期初期に始まり、強迫観念および強迫行為に抵抗すると患者は著しい緊張と苦痛を感じる。疫学データによると生涯有病率は全世界で2〜3%であり、強迫性障害は男性および第一子に多い。例えば Fauci, A.S. ら編「Harrison's Principles of Internal Medicine」McGraw Hill, 第14版(1998)の2490頁を参照されたい。
【0004】
機能的神経画像法(すなわち陽電子放射断層撮影法)による研究、脳損傷解析、および強迫性障害を処置するための神経外科的介入の結果は、特定の基底核および腹側前前頭皮質構造における機能障害が、強迫性障害に関して提唱されている病態生理をもたらすことを示している。例えばZigmond, M.J.ら編「Fundamental Neuroscience」Academic Press(1999)の963〜964頁を参照されたい。
【0005】
強迫性障害が、その罹患を認識している患者にとっても、その介護者にとっても、著しい困惑、苦痛および苦悩を引き起こしうることは明らかである。
【0006】
トゥーレット症候群
トゥーレット症候群は通常、複数の運動性チックおよび1または複数の音声チックを特徴とする。これらのチックは、同時に現われる場合もあるし、この疾患の異なる時期に現われる場合もある。チックは1日に何度も、そして1年以上にわたって反復して起こりうる。この期間中、チックが発生しない期間が連続して数ヶ月以上続くことはほとんどない。トゥーレット症候群の患者は、複雑性チックを伴い、著しい苦痛を引き起こしたり、社会的、職業的もしくは他の重要な領域における機能を著しく損なったりしうる障害に苦しむ。この障害の発症は、典型的には、18歳前である。トゥーレット症候群の複雑性チックは、ある物質(例えば刺激薬)の直接的な生理学的作用または一般身体疾患(例えばハンチントン病もしくはウイルス脳炎後)によるものではなく、トゥーレット病過程の一部であると考えられる。チックの解剖学的部位、数、頻度、複雑性、および重症度は時と共に変化することが多い。チックには、通例、頭部が、そしてしばしば身体の他の部分、例えば胴ならびに上肢および下肢が関係する。音声チックには、さまざまな単語や、舌打ちする、うなる、叫ぶ、吠える、鼻をくんくんさせる、鼻をならす、咳をするなどの音が含まれる。汚言症(猥褻な言葉を発する複雑性音声チック)はこの障害を持つ者の少数(10%)に認められる。触ったり、しゃがんだり、深く膝を曲げたり、歩行を後戻りしたり、歩く際に体をくねらせたりすることを伴う複雑性運動性チックが認められる場合もある。この障害を持つ者の約半数で、最初に現われる症状はしばしば単一のチックの発作であり、まばたきすることが最もよくみられ、それより頻度は少ないが、チックに顔面または体の他の部分が関わる場合もある。最初の症状に、舌を突き出すこと、しゃがむこと、鼻をくんくんさせること、飛び上がること、飛び歩くこと、咳払いすること、どもること、音または言葉を発すること、および汚言症が含まれる場合もある。
【0007】
トゥーレット症候群に徴候的な反復性運動活動は真のチック(すなわち、咳払い、鼻をくんくんさせること、口をすぼめること、または過度にまばたくことなどの場合のように、一定の筋肉の習慣性反復性の収縮)と特徴づけることができるが、これらは、米国精神医学会の診断・統計マニュアル(「DSM-IVR」改訂第4版)に定義されているとおり、強迫性障害とは異なる独立・独特の行動サブセットである。皮膚自傷癖(dermatillomania)、抜毛癖(trichotillomania)、手洗い、頭部打ち付け、目突き、体揺すり、指咬み、計数、および確認障害で起こりうるような、より複雑な非チック反復運動活動(しばしば傷害的であるもの)を伴う強迫観念性および/または強迫行為性障害が、数多く存在する。
【0008】
皮膚自傷癖(強迫行為的皮膚摘み取り)
強迫行為的皮膚摘み取りの主特徴は、自分自身の皮膚を損傷が起こるほどに反復して摘み取ることである。通常(常にそうだというわけではないが)、顔面が皮膚摘み取りの主要部位である。しかし、皮膚自傷癖または神経症性擦創(neurotic excoriation)とも呼ばれる強迫行為的皮膚摘み取りには、身体の任意の部分が関わりうる。強迫行為的皮膚摘み取り者は、そばかすおよび黒あざなどの正常な皮膚変形、現実に存在している既存の痂皮、腫れ物もしくはにきび傷、または他人には見えない想像上の皮膚欠陥を摘み取りうる。強迫行為的皮膚摘み取り患者は、自分自身の指の爪や、自分自身の歯、ピンセット、留め針または他の機械的装置を使いうる。その結果として、皮膚自傷癖は出血、挫傷、感染症、および/または皮膚の永続的な美観損傷を引き起こしうる。
【0009】
皮膚摘み取りに先だって、高レベルな緊張および強いそう痒または摘み取ろうとする衝動が起こる場合がある。また、皮膚摘み取りを実行した後に、開放感または快感を覚える場合もある。強迫行為的皮膚摘み取りエピソードは、不安または抑うつに対する意識的反応であることもあるが、それはしばしば無意識の習慣として行なわれる。強迫行為的皮膚摘み取り者は、しばしば、その皮膚に生じた損傷を、結果として生じた痕跡および瘢痕を覆うように化粧するか衣類をまとうことによって隠そうとする。極端な場合、強迫行為的皮膚摘み取り者は、皮膚摘み取りによって生じる瘢痕、痂皮および挫傷を他人に見られまいとして、対人関係を避ける。
【0010】
強迫行為的皮膚摘み取りの第一の処置法は、その個人がその問題に関して持っている自覚のレベルに依存する。強迫行為的皮膚摘み取りが概して無意識の習慣であるならば、第一の処置はハビットリバーサル訓練(habit reversal training=HRT)と呼ばれる認知行動療法の一形式である。HRTは、皮膚摘み取りが特定の状況および事象に対する条件反応であり、強迫行為的皮膚摘み取り者はしばしばこれらの誘因に気付いていないという原理に基づいている。HRTは二重の過程でこの問題に挑む。第1に、強迫行為的皮膚摘み取り者は、皮膚摘み取りエピソードを誘発する状況および事象を、より意識的に気付くようになる方法を学ぶ。第2に、その個人は、これらの状況および事象に反応して代替行動を利用することを学ぶ。残念ながらHRTの成功率は高くない。患者が自分自身の強迫行為的皮膚摘み取りに気付いていないか、それを完全には認識していない場合は、薬理療法が推奨される。現行の薬物療法ではかなりの副作用が起こっている。
【0011】
抜毛癖(強迫行為的抜毛)
抜毛癖(TTM)は、患者が自分自身の体毛を頭皮、睫毛、眉、または身体の他の部分から引き抜く強迫行為性障害であり、結果として目に見える脱毛斑が生じる。すなわち抜毛癖の症状には、自分の体毛を繰り返し抜き、その結果、体毛の喪失が目立つようになることが含まれ、これには通常、体毛を抜く直前に、またはこの行動に抵抗している時に、緊張感の高まりが先行して起こり、その後、体毛を抜いている間は、快感、満足感、または開放感を覚える。この障害は、著しい苦痛を引き起こしたり、社会的、職業的または他の重要な領域における機能を損なったりしうる。抜毛癖は、人口の1〜2%または400万人〜1100万人のアメリカ人を冒していると見積られる。TTMは、前青年期または初期青年期にもっともよく起こるようである。わずか1歳の若年者や70歳もの老年者がTTMに冒された例もあるが、典型的な抜毛開始年齢は12歳である。TTM を持つ者の約90%が女性である。
【0012】
症状は、重症度、身体の部位、および処置に対する反応に関して著しく多様であるが、TMMを持つ者の大半はその頭部に脱毛斑が生じるほどに(または睫毛、眉毛、陰毛、もしくは脇毛が失われるほどに)、多くの体毛を長期間にわたって抜き、それを髪型、スカーフもしくは衣類または化粧を使って隠す努力を惜しまない。強迫行為の持続性にはかなりのばらつきがあり、時には、その衝動があまりに強いので、他のことはほとんど考えられなくなる場合もある。
【0013】
TTMの処置には行動療法および薬物が含まれる。行動療法では、患者は症状および関連行動の経過を追うこと、抜毛の自覚を増やすこと、相容れない行動で置き換えること、および抜毛という「習慣」を覆すことを狙った他のいくつかの技術、の構造化された方法を学ぶ。投薬が一時的に一部の人々の助けになることは明らかだが、行動療法を処置に組み込まない限り、投薬を止めると症状は再発するだろう。投薬はその人が感じている可能性のある抑うつおよび強迫性症状を減少させる役には立ちうる。よく使用される医薬品には、フルオキセチン(Prozac)、フルボキサミン(Luvox)、セルトラリン(Zoloft)、パロキセチン(Paxil)、クロミプラミン(Anafranil)、バルプロエート(Depakote)、および炭酸リチウム(Lithobid、Eskalith)がある。残念ながら、行動療法は限られた成功しか収めておらず、薬物療法は重大な副作用を持つ場合があり、規則正しい慢性反復投与が必要である。
【0014】
このように現行の強迫性障害治療には多くの欠点および不足がある。利用することができる処置計画には、セロトニン再取り込みを阻害する薬物(これらの薬物はSSRIまたはセロトニン再取り込み阻害剤と呼ばれる)の慢性投与および行動修正療法が含まれる。クロミプラミン、フルオキセチンおよびフルボキサミンは、強迫性障害の処置薬として承認されている。特に、クロミプラミンは、抗コリン性副作用および鎮静副作用が強いことから認容性の低い三環系抗うつ薬である。また、フルオキセチンおよびフルボキサミン(SSRI)も、クロミプラミンよりは穏和な傾向を示すものの、心臓不整脈を含みうる副作用プロファイルを持つ。さらに、薬理療法と行動修正療法のどちらか一方または両方を試しても、許容できる改善度を示すのは、強迫性障害患者の約50〜60%に過ぎない。
【0015】
ボツリヌス毒素
クロストリジウム属には127を越える種があり、形態学および機能に従って分類されている。嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒と呼ばれる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌の胞子は土壌中に見出され、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0016】
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。市販A型ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体;100単位バイアルとして、BOTOX(登録商標)の商標でAllergan,Inc.(カリフォルニア州アービン)から入手可能である)の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50(すなわち1単位)である。1単位のBOTOX(登録商標)は、約50ピコグラム(約56アトモル)のA型ボツリヌス毒素複合体を含む。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。
【0017】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。Jankovic, J.ら編、"Therapy With Botulinum Toxin"(1994)(Mercel Dekker, Inc.)の第71-85頁、第6章の、Moyer Eら、Botulinum Toxin Type B: Experimental and Clinical Experience。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリン放出を阻止するようである。低親和性受容体を介して、また食作用および飲作用によってもさらに取り込みが起こりうる。
【0018】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
【0019】
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素(または少なくともその軽鎖)が、エンドソーム膜を通って細胞質に移動する。
【0020】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。A型およびE型ボツリヌス毒素はSNAP-25を開裂する。C1型ボツリヌス毒素ははじめはシンタキシンを開裂すると考えられたが、シンタキシンおよびSNAP-25を開裂することがわかった。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。ただし、B型ボツリヌス毒素(および破傷風毒素)は同じ結合を開裂する。これら開裂はそれぞれ、小胞−膜ドッキングの過程を遮断し、それによって小胞内容物のエキソサイトーシスを阻害する。
【0021】
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋(すなわち運動障害)によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を処置するために1989年に米国食品医薬品局によって承認された。その後、A型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置および眉間しわの処置のためにもFDAによって承認され、B型ボツリヌス毒素は頸部ジストニーの処置のために承認された。非A型ボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素と比較して、効力が小さく、および/または活性持続が短いようである。末梢筋肉内A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和の典型的な継続時間は平均約3ヶ月であり得るが、顕著により長い処置活性期間も報告されている。
【0022】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。例えば、A型およびE型ボツリヌス毒素はいずれも、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、それぞれ異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。明らかに、ボツリヌス毒素の基質は、多様な細胞種に見られる。例えばBiochem, J 1;339(pt 1): 159-65: 1999およびMov Disord, 10(3):376:1995(膵島B細胞は少なくともSNAP-25およびシナプトブレビンを含有する)参照。
【0023】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は700kDまたは500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。
【0024】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン(Habermann E.ら、Tetanus Toxin and Botulinum A and C Neurotoxins Inhibit Noradrenaline Release From Cultured Mouse Brain, J Neurochem 51(2); 522-527: 1988)、CGRP、サブスタンスPおよびグルタメート(Sanchez-Prieto, J.ら、Botulinum Toxin A Blocks Glutamate Exocytosis From Guinea Pig Cerebral Cortical Synaptosomes, Eur J. Biochem 165; 675-681: 1897)のそれぞれの放出を阻害することが報告されている。すなわち、充分な濃度を用いれば、大部分の神経伝達物質の刺激により誘発される放出はボツリヌス毒素によってブロックされる。
【0025】
例えば、Pearce, L.B., Pharmacologic Characterization of Botulinum Toxin For Basic Science and Medicine, Toxicon 35(9); 1373-1412の1393; Bigalke H.ら, Botulinum A Neurotoxin Inhibits Non-Cholinergic Synaptic Transmission in Mouse Spinal Cord Neurons in Culture, Brain Research 360; 318-324; 1985; Habermann E., Inhibition by Tetanus and Botulinum A Toxin of the release of [3H]Noradrenaline and [3H]GABA From Rat Brain Homogenate, Experientia 44; 224-226: 1988, Bigalke H.ら, Tetanus Toxin and Botulinum A Toxin Inhibit Release and Uptake of Various Transmitters, as Studied with Particulate Preparations From Rat Brain and Spinal Cord, Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 316; 244-251: 1981, および;Jankovic J.ら, Therapy With Botulinum Toxin, Marcel Dekker, Inc. (1994), 第5頁参照。
【0026】
A型ボツリヌス毒素は、既知の手順に従って、培養槽におけるボツリヌス菌の培養を確立して、生育させ、その後、発酵混合物を集め、精製することによって得ることができる。すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として最初に合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0027】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0028】
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×10U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Shantz,E.J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80−99(1992)に記載されているように既知のShanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×10LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0029】
ボツリヌス毒素および/またはボツリヌス毒素複合体は、List Biological Laboratories,Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);Metabiologics(マディソン、ウィスコンシン);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。純粋なボツリヌス毒素を医薬組成物の製造に使用することもできる。
【0030】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって毒素の比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してから毒素を使用することもあるので、毒素をアルブミンおよびゼラチンのような安定剤で安定化することができる。
【0031】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の減圧乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N−Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、減圧乾燥する。減圧乾燥生成物は、-5℃またはそれ以下の冷凍庫内で保存する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で再構成し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素精製神経毒複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌減圧乾燥形態で含有する。
【0032】
減圧乾燥BOTOX(登録商標)を再構成するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水;0.9%Sodium Chloride Injectionを使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、バイアルを冷凍庫から取り出して再構成した後4時間以内に投与することが好ましい。その4時間の間、再構成BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(約2〜8℃)内で保管しうる。再構成し冷蔵したBOTOX(登録商標)は、その効力を少なくとも約2週間維持することが報告されている。Neurology, 48:249-53:1997。
【0033】
A型ボツリヌス毒素は下記のように臨床的に使用されている:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0034】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
【0035】
さらに、筋肉内ボツリヌス毒素は、パーキンソン病の患者の振せんの治療にも使用されているが、結果は顕著でないことが報告されている。Marjama-Jyons,J.ら、"Tremor-Predominant Parkinson's Disease",Drugs & Aging 16(4), 273-278, 2000。
【0036】
ボツリヌス毒素A型は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(Laryngoscope 109, 1344-1346, 1999)。しかし、BOTOX(登録商標)筋肉注射の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
【0037】
種々の臨床症状の治療におけるボツリヌス毒素A型の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。商業的に入手可能な2つのヒト用ボツリヌス毒素A型調製物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan, Inc.から市販されている)およびDysport(登録商標)(イギリス、ポートン・ダウンのBeaufour Ipsenから市販されている)である。B型ボツリヌス毒素の調製物(MyoBloc、登録商標)は、カリフォルニア、サンフランシスコのElan Pharmaceuticalsから市販されている。
【0038】
末梢部位における薬理作用を有する他に、ボツリヌス毒素は、中枢神経系における阻害作用も有しうる。Weigandら[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1976, 292,161-165]、およびHabermann[Nauny-Schmiedeberg's Arch.Pharmacol. 1974, 281,47-56]の研究は、ボツリヌス毒素が逆行性輸送によって脊髄領域へ上行しうることを示している。従って、末梢部位(例えば筋肉内)に注射されたボツリヌス毒素は、脊髄に逆行輸送されうる。
【0039】
米国特許第5989545号は、特定の標的化成分に化学的に結合させるかまたは組換え的に融合させた改質クロストリジウム属神経毒またはそのフラグメント、好ましくはボツリヌス毒素を使用して、脊髄に薬剤を投与することによって痛みを治療できることを開示している。
【0040】
ボツリヌス毒素は、次のような状態の処置にも提案されている:鼻漏、多汗、および自律神経系によって仲介される他の障害(米国特許第5766605号)、緊張頭痛(米国特許第6458365号)、片頭痛(米国特許第5714468号)、術後痛および内臓痛(米国特許第6464986号)、脊髄内毒素投与による痛みの処置(米国特許第6133915号)、頭蓋内毒素投与によるパーキンソン病および運動障害成分を有する他の障害の処置(米国特許第6306403号)、毛髪の成長および維持(米国特許第6299893号)、乾癬および皮膚炎(米国特許第5670484号)、筋肉障害(米国特許第6423319号)、種々の癌(米国特許第6139845号)、膵臓疾患(米国特許第6143306号)、平滑筋疾患(米国特許第5437291号、上部および下部食道、幽門および肛門括約筋へのボツリヌス毒素注射を包含する)、前立腺疾患(米国特許第6365164号)、炎症、関節炎および痛風(米国特許第6063768号)、若年性脳性麻痺(米国特許第6395277号)、内耳疾患(米国特許第6265379号)、甲状腺疾患(米国特許第6358513号)、副甲状腺疾患(米国特許第6328977号)。更に、制御放出毒素インプラントが知られている(例えば米国特許第6306423号および第6312708号参照)。
【0041】
ボツリヌス毒素は、不応性下肢静止不能症候群の処置に使用されている(Kudelko, K.M.ら、Successful treatment of recalcitrant Restless Legs Syndrome with botulinum toxin A, Mov Disord 2002; 17 (Suppl 5): S242)。下肢静止不能症候群(RLS)は、筋肉、通例脚および大腿部の筋肉の不快感を伴い、中年女性に最も多く見られる。この異常な感覚は、脚を動かすことによって緩和される。RLSは、反復性の侵入性思考も儀式的行動も特徴としないので、強迫性障害ではない。下肢静止不能症候群を処置するためのボツリヌス毒素の投与量(すなわち一つの脚につきA型ボツリヌス毒素25〜50単位)は、緊張過度のまたは硬直した大腿筋の緊張を低下するのに通常用いられる毒素の量よりも多く、実際、注射した大腿筋にいくらかの麻痺を起こしうる。
【0042】
さらに、レッシュ・ナイハン症候群の指咬み、唇咬みおよび舌咬みの自傷行動が、1患者において口の咀嚼または咬みしめ筋へのボツリヌス毒素注射によって処置されている。Dabrowski E. ら、Botulinum toxin as a novel treatment for self-mutilation in Lesch-Nyhan syndrome, Ann Neurol 2002 Sep; 52 (3 Supp 1); S157。指、唇または舌への投与は、該症候群の傷害行動によるそれら部分の潰瘍化および敏感さの故に禁忌であると考えられる。
【0043】
さらに、ボツリヌス毒素は、トゥーレット症候群の限局性ジストニーチックまたは筋痙攣の処置に用いられている。Jankovic, J., Botulinum toxin in the treatment of tics associated with Tourette's syndrome, Neurology 1993 April; 43 (4 Supp 2): A310; Jankovic, J., Botulinum toxin in the treatment of dystonic tics, Mov Disord 1994 May; 9(3): 347-9;およびKrauss J. ら, Severe motor tics causing cervical myelopathy in Tourette's syndrome, Mov Disord 1996; 11(5): 563-6。これら文献は、ボツリヌス毒素が、筋肉の動きを生じるのに要する収縮力を低下することによって(すなわちチックに関与する筋肉の部分的麻痺によって)、かつチックに先立つ前兆症状を抑制または解消することによって(すなわちチックをしたいという衝動を取り去ることによって)、トゥーレット症候群のチックを処置するよう作用しうることを示唆している。しかしながら、頸部チックを処置するためにボツリヌス毒素を投与された一部のトゥーレット症候群患者において、顕著な頸部痛、頸部脱力および頸部痛が報告された。また、トゥーレット症候群チックの処置のためのボツリヌス毒素の使用に関する文献の記載は矛盾していて、トゥーレット症候群チックを処置するためにボツリヌス毒素をたとえ筋肉脱力または麻痺を起こす用量レベルで使用しても緩解はなかったとの報告もある。Chappell, P.B.ら, Future therapies of Tourette syndrome, Neurol Clin 1997 May; 15(2): 429-50, 444。
【0044】
破傷風毒素ならびにその誘導体(すなわち非天然ターゲティング部分を持つもの)、断片、ハイブリッドおよびキメラも、治療有効性を持ちうる。破傷風毒素はボツリヌス毒素との類似点を数多く持っている。例えば、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、クロストリジウム属の近縁種(それぞれ破傷風菌(Clostridium tenani)およびボツリヌス菌(Clostridium botulinum))によって産生されるポリペプチドである。また、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、1つのジスルフィド結合によって重鎖(分子量約100kD)に共有結合している軽鎖(分子量約50kD)から構成される二本鎖タンパク質である。したがって、破傷風毒素の分子量と、7つの各ボツリヌス毒素(非複合体型)の分子量は、約150kDである。さらに、破傷風毒素でもボツリヌス毒素でも、軽鎖は細胞内生物活性(プロテアーゼ活性)を示すドメインを持ち、重鎖は受容体結合(免疫原)ドメインと細胞膜移行ドメインとを持っている。
【0045】
さらに、破傷風毒素とボツリヌス毒素はどちらも、シナプス前コリン作動性ニューロンの表面にあるガングリオシド受容体に対して高い特異的親和性を示す。末梢コリン作動性ニューロンによる破傷風毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性軸索輸送、中枢シナプスからの抑制性神経伝達物質の放出の阻害および痙性麻痺をもたらす。これに対して、末梢コリン作動性ニューロンによるボツリヌス毒素の受容体仲介エンドサイトーシスは、逆行性輸送、中毒した末梢運動ニューロンからのアセチルコリンエキソサイトーシスの阻害、および弛緩性麻痺をもたらすことがなく、たとえあったとしても、ごくわずかである。
【0046】
最後に、破傷風毒素とボツリヌス毒素は、その生合成および分子構造が互いに似ている。例えば、破傷風毒素とA型ボツリヌス毒素のタンパク質配列には全体で34%の一致度があり、いくつかの機能ドメインについては62%もの配列一致度がある。Binz T. ら、The Complete Sequence of Botulinum Neurotoxin Type A and Comparison with Other Clostridial Neurotoxins, J Biological Chemistry 265(16);9153-9158:1990。
【0047】
アセチルコリン
複数の神経調節物質が同一ニューロンから放出されうることを示唆する証拠があるが、典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、筋紡錘線維のbag 1線維によって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0048】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0049】
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
【0050】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【0051】
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0052】
反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動を効果的に処置する非外科的方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0053】
本発明はこの必要を満たし、反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動を、低用量のクロストリジウム毒素で効果的に処置する方法を提供する。
【0054】
本発明の方法は、強迫観念性障害および/または強迫行為性障害を持つ患者へのクロストリジウム毒素の投与によって実施することができる。本明細書で使用する「強迫性障害」という用語は、強迫観念性障害もしくは強迫行為性障害、または強迫観念および強迫行為の両方の要素を合わせ持つ障害を意味する。「処置する」とは、少なくとも1つの症状を一時的にまたは永続的に軽減(または除去)することを意味する。クロストリジウム毒素は、好ましくは、A、B、C、D、E、F またはG 型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素(複合体または純粋物[すなわち約150 kDa分子])である。クロストリジウム毒素の投与は、経皮投与経路によって(すなわちクリーム剤、貼付剤またはローション賦形剤中のクロストリジウム毒素を適用することによって)、皮膚下投与経路(すなわち皮下または筋肉内)によって、または皮膚内投与経路によって行なうことができる。
【0055】
仮説として、以下に詳述する本発明の効力の生理学的根拠は、末梢から中枢神経系(脳を含む)への特定の感覚入力(求心性)であって、反復性非生産的運動活動の開始に先だって起こり、その開始にとって極めて重要であると考えられるものを、減少、抑制または除去することである。そのような不適切な感覚入力は、筋組織内に位置する感覚ニューロンまたは皮膚内もしくは皮膚下に位置する感覚ニューロンを、低用量のクロストリジウム毒素の標的とすることにより、減弱または除去することができる。
【0056】
本発明で使用されるクロストリジウム毒素の用量は、筋肉を麻痺させるために使用される毒素の量よりはるかに少ない(また、こわばった筋肉の緊張を臨床的に有意な程度減少させるために用いられる毒素の量よりもさらに少ない)。なぜなら、本発明による方法が意図するのは、筋肉を麻痺させることでも、こわばった筋肉の緊張を減少させることでもなく、筋肉内または皮膚内もしくは皮膚下に位置する感覚ニューロンからの望ましくない感覚出力を減少させることだからである。また、クロストリジウム毒素の低用量と体積は、例えば皮膚内または皮膚下の筋紡錘線維または分泌細胞などからの望ましくない求心性感覚シグナルが生じる複数の部位への毒素分布が好ましく達成されるように選択される。
【0057】
患者の頚筋への(例えば板状筋への)クロストリジウム毒素(例えばボツリヌス毒素)の(筋肉内注射などによる)投与は、本発明の範囲からは除外される。なぜなら、そのような毒素の局所投与は、特に青年期の患者では、不適切な頭部定位(「フロッピーヘッド(floppy head)」、長期間に及ぶ頚痛、頚部脱力および/または頚部強直、そして/または(しばしばチック自体による)既存の頚部損傷もしくは脊椎損傷の悪化をもたらしうるからである。さらに、トゥーレット症候群の複雑な神経学的性質、およびトゥーレット症候群チックに関する従来技術の相反する見解は、トゥーレット症候群の症状を処置するためのボツリヌス毒素の使用に対して禁忌を示す。したがって、限局性ジストニー性首チック、例えばトゥーレット症候群に関係する首チックの処置は、頭部拘束具、行動修正療法および/またはTCAもしくはSSRIなどの実証済み薬剤によって処置した方がよいものとして、本発明の範囲から除外される。
【0058】
したがって本発明は、首チックではない、反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動を処置するための薬理学的方法である。本発明は、反復性非生産的運動活動を開始すると思われる筋肉または筋肉群に(例えば反復的手洗いを処置するために)、または摘み取りもしくは抜毛が行なわれる領域の皮膚に(ボツリヌス毒素の拡散作用がそのような顔面の一定領域での使用に禁忌を示さない場合)、低用量のクロストリジウム毒素を投与することによって実施することができる。あるいは、本発明は、反復運動活動(例えば皮膚摘み取り)に先だって起こる衝動、そう痒感または感覚を発生させると思われる皮膚内または皮膚下感覚ニューロンに低用量のクロストリジウム毒素を投与することによって実施することもできる。上述のように、本発明は首チックの処置には(運動性チックであれ音声チックであれ)適さず、また筋痙直の処置も包含しない。「低用量」とは、筋肉からCNSへの感覚出力を抑制するのには十分であるが、臨床的に有意な筋麻痺、筋脱力または筋緊張低下のいずれかを引き起こすのには不十分であるようなクロストリジウム毒素(ボツリヌス毒素など)の量を意味する。
【0059】
本明細書では以下の定義も適用される。
「約」とは、「およそ」または「ほぼ」を意味し、本明細書に記載する数値または範囲については、記載した数値または範囲の±10%を意味する。
【0060】
「軽減」とは障害の発生の減少を意味する。したがって軽減には、障害の多少の減少(障害が実行される時間または障害が出現する時間が24時間中6時間未満になる)、障害の顕著な減少(障害が実行される時間または障害が出現する時間が24時間中3時間未満になる)、障害のほぼ完全な減少(障害が実行される時間または障害が出現する時間が24時間中1時間未満になる)、および障害の完全な減少が含まれる。軽減効果は、患者へのクロストリジウム毒素の投与後、1〜7日間は、臨床的に現れないこともありうる。
【0061】
「ボツリヌス毒素」とは、純粋な毒素または複合体としてのボツリヌス神経毒を意味し、細胞傷害性ボツリヌス毒素C2およびC3などの神経毒でないボツリヌス毒素は除外される。
【0062】
「障害」とは、首チックではない、反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動を意味する。個々の強迫性障害はDSM-IVRに記載されているように定義される。
【0063】
「局所投与」とは、非全身的経路による患者の筋肉もしくは皮膚下部位へのまたはその近傍への医薬剤の末梢投与(例えば、皮下経路、筋肉内経路、皮膚下経路または経皮経路によるもの)を意味する。したがって、静脈内投与または経口投与などの全身的投与経路(例えば血液循環系への投与)は、局所投与からは除外される。末梢投与とは、内臓または腸(すなわち内臓への)投与とは対照的に、末梢への(例えば患者の肢、胴もしくは頭部の上または内部にある部位への)投与を意味する。局所投与の例は、患者の頭部筋もしくは顔面筋または皮膚下部位への医薬剤の筋肉内注射である。
【0064】
反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動を特徴とする障害を低用量のクロストリジウム毒素で処置する方法は、患者にクロストリジウム神経毒を局所投与するステップを含む。クロストリジウム神経毒は、障害の少なくとも1つの症状が軽減されるように、治療有効量で投与される。
【0065】
好適なクロストリジウム神経毒素として、細菌によって産生される神経毒を挙げることができる。例えば、神経毒はClostridium botulinum、Clostridium butyricumまたはClostridium berattiから産生されるものであることができる。本発明の一定の実施形態では、患者へのボツリヌス毒素の筋肉内投与によって、障害が処置される。ボツリヌス毒素は、A型、B型、C1型、D型、E型、F型またはG型ボツリヌス毒素であることができる。ボツリヌス毒素の効果は、約1ヶ月〜約5年間にわたって持続しうる。ボツリヌス神経毒は、組換え生産されたボツリヌス神経毒、例えば大腸菌によって産生されたボツリヌス毒素であることができる。これに加えて、またはこれに代えて、ボツリヌス神経毒は修飾神経毒、すなわち天然物と比較してそのアミノ酸の少なくとも1つが欠失、修飾または置換されているボツリヌス神経毒であることができ、あるいは修飾ボツリヌス神経毒は、組換え生産されたボツリヌス神経毒またはその誘導体もしくは断片であることができる。
【0066】
ボツリヌス神経毒は、処置される障害に関与すると考えられる末梢部位に投与される。ボツリヌス神経毒は、障害を開始させると思われる筋肉に投与することができ、投与後数時間以内または数日以内に症状を軽減することができる。
【0067】
本発明に従って目突き障害を処置する方法は、目突き障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその目突き障害を軽減するステップを含むことができる。ボツリヌス毒素は、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択することができる。A型ボツリヌス毒素は好ましいボツリヌス毒素である。ボツリヌス毒素は、約1単位〜約1,500単位の量で投与することができ、障害の軽減は約1ヶ月〜約5年間持続しうる。ボツリヌス毒素の局所投与は、眼周囲筋または手もしくは前腕の筋肉に対して行なうことができる。局所投与は筋肉内注射によって行なうことができる。あるいは、ボツリヌス毒素の局所投与は、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なうこともできる。
【0068】
本発明の具体的一実施形態は、目突き障害を処置する方法であって、目突き障害を持つ患者の眼周囲筋に、約1単位〜約2,500単位のボツリヌス毒素(例えば約1〜50単位のA型ボツリヌス毒素または約50〜2,500単位のB型ボツリヌス毒素)を局所投与し、その結果としてその目突き障害を約1ヶ月〜約5年間軽減するステップを含む方法を含むことができる。
【0069】
体揺すり障害を処置する方法は、体揺すり障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその体揺らし障害を軽減するステップを含むことができる。この場合、ボツリヌス毒素の局所投与は、その強迫行為を形成する運動の臨床パターンに応じて、臀部筋または腕の筋肉または腰および胴の筋肉に対して行なうことができる。
【0070】
本発明の具体的一実施形態は、体揺すり障害を処置する方法であって、体揺すり障害を持つ患者の筋肉に、約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその体揺すり障害を約1ヶ月〜約5年間軽減するステップを含む方法を含むことができる。
【0071】
指または爪咬み障害を処置する方法は、指または爪咬み障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として指または爪咬み障害を軽減するステップを含む方法を含むことができる。ボツリヌス毒素の局所投与は、指または手の動きを支配する、そこから望ましくない感覚刺激が生じる手の筋肉または腕の筋肉に対して行なうことができる。
【0072】
本発明の具体的一実施形態は、指咬み障害を処置する方法であって、指咬み障害を持つ患者の手の筋肉に、約1単位〜約2,500単位のボツリヌス毒素(例えば約1〜50単位のA型ボツリヌス毒素または約50〜2,500単位のB型ボツリヌス毒素)を局所投与し、その結果としてその指咬み障害を約1ヶ月〜約5年間軽減するステップを含む方法を含むことができる。
【0073】
計数障害を処置する方法は、計数障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその計数障害を軽減するステップを含むことができる。ボツリヌス毒素の局所投与は、患者の観察時に上記計数行動と関連づけられる筋肉群に対して行なうことができる。例えば、手の動きまたは指算を伴う儀式的計数は、その儀式化された運動活動の支配に関係する筋肉への毒素注射によって処置することができる。毒素投与は、計数行動が異常な眼の動きを伴う場合には眼周囲筋(または頭部筋、例えば顔面筋)に対して行なうことができ、そしてその行動が歩数の強迫観念的計数を伴うならば下肢または上肢に対して行なうことができる。
【0074】
本発明の具体的一実施形態は、計数障害を持つ患者の筋肉に約1単位〜約1,500単位のボツリヌス毒素(例えば約1〜50単位のA型ボツリヌス毒素または約50〜2,500単位のB型ボツリヌス毒素)を局所投与し、その結果としてその計数障害を約1ヶ月〜約5年間軽減するステップによって、計数障害を処置する方法を含むことができる。
【0075】
確認障害を処置する方法は、確認障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその確認障害を軽減するステップを含むことができる。ボツリヌス毒素の局所投与は、儀式化された確認行動においてその患者が示す運動パターンを解析することによって決定される。例えば施錠された扉を繰り返し確認する障害の場合、毒素投与は扉の取っ手を握って回す動作に関係する前腕の筋肉内に行なわれる。毒素注射部位を決定する前に複雑な確認パターンを評価し、毒素投与を頭部または顔面筋に対して行なうことができる。
【0076】
本発明の具体的一実施形態は、確認障害を処置する方法であって、確認障害を持つ患者の頭部筋に、約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果としてその確認障害を約1ヶ月〜約5年間軽減するステップを含む方法を含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
本発明は、低用量のクロストリジウム毒素(例えばボツリヌス毒素)の末梢投与が、反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動の有効な処置または緩和をもたらしうるという発見に基づいている。したがって、望ましくない反復行動を開始する(またはそのために他の筋肉を動員するように働く)筋肉に、ボツリヌス毒素(例えばA、B、C1、D、E、FまたはG血清型ボツリヌス毒素)を注射することにより、そのような望ましくないそして/または自傷的な運動行動特徴を抑止し処置することができる。あるいは、皮膚内または皮膚下感覚ニューロンにボツリヌス毒素を投与することにより、そのような望ましくないそして/または自傷的な運動行動特徴を抑止し処置することもできる。
【0078】
理論に束縛されることは望まないが、本発明の効力について生理学的機序を提案することができる。筋肉は神経支配および感覚出力の複雑な系を持つことが知られている。例えば、脊髄灰白質の前角の各セグメントに位置する前運動ニューロンからは、遠心性アルファ運動ニューロンおよび遠心性ガンマ運動ニューロンが生じ、それらは前根を通って脊髄を離れ、骨格(錘外)筋線維を神経支配する。アルファ運動ニューロンは錘外骨格筋線維の収縮を引き起こし、一方、ガンマ運動ニューロンは骨格筋の錘内線維を神経支配する。これら2タイプの遠心性前運動ニューロン投射による興奮の他に、筋紡錘およびゴルジ腱器官から投射してさまざまな筋パラメータ状態に関する情報を脊髄、小脳および大脳皮質に伝える働きをする求心性感覚ニューロンもある。筋紡錘からの感覚情報を中継するこれらの求心性運動ニューロンには、Ia 型および II 型感覚求心性ニューロンが含まれる。例えばGuyton A.C.ら「Textbook of Medical Physiology」(W.B. Saunders Company、1996、第9版)の686〜688頁を参照されたい。
【0079】
意義深いことに、ボツリヌス毒素は筋Ia型求心性ニューロンからの感覚情報の伝達を減少させるように働きうることが確認されている。Kreyden, O.編「Hyperhydrosis and botulinum toxin in dermatology(多汗症および皮膚科学におけるボツリヌス毒素)」(Karger、バーゼル、2002年、第30巻)の107〜116頁に掲載されている Aoki, K.「Physiology and pharmacology of therapeutic botulinum neurotoxins(治療用ボツリヌス神経毒の生理学および薬理学)」の109〜110頁。そして、ボツリヌス毒素は、筋細胞感覚求心性神経に対する直接的作用を持ち、これらの求心性神経から中枢神経系へのシグナルを修飾することができるという仮説が立てられている。例えばMayer N.編「Spasticity: etiology, evaluation, management and the role of botulinum toxin(痙縮:病因、評価、管理およびボツリヌス毒素の役割)」(2002)の110〜124頁に記載されているBrin, M. ら「Botulinum toxin type A : pharmacology(A 型ボツリヌス毒素:薬理学)」の112〜113頁、Cui, M.ら「Mechanisms of the antinociceptive effect of subcutaneous BOTOX(R): inhibition of peripheral and central nociceptive processing(皮下BOTOX(登録商標)の抗侵害受容作用の機序:末梢および中枢侵害受容処理の抑制)」Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 2002; 365 (supp 2): R17、Aoki, K. ら「Botulinum toxin type A and other botulinum toxin serotypes : a comparative review of biochemical and pharmacological actions(A型ボツリヌス毒素および他のボツリヌス毒素血清型:生化学的作用および薬理学的作用の比較検討)」Eur J. Neurol 2001: (suppl 5); 21-29を参照されたい。したがって、ボツリヌス毒素は筋肉からCNSおよび脳への感覚出力を変化させうることが証明されている。
【0080】
重要なことに、本発明の方法によって抑制されるべき求心性出力を発生する感覚ニューロンは、筋肉上または筋肉内に位置する必要はなく、皮膚内部位または皮膚下部位に存在する場合もある。
【0081】
強迫性障害は中枢神経系制御過程の脱抑制によるものであると推測することができる。すなわち、筋ニューロンから中枢に向かう末梢感覚情報から生じるシグナルに対して感受性を示す脱抑制反射回路(disinhibition reverberatory circuit)が、尾状核の頭部と視床との間および視床と前頭眼窩ニューロン(frontorbito neuron)との間に存在しうる。筋肉からの感覚出力を減少させるために筋肉または皮膚にボツリヌス毒素を投与すると、強迫性障害行動を実行しようとする前駆的衝動の中枢での発生を防止することにより、脳は、強迫性障害運動行動の十分な抑制制御を回復することができる。注目すべきことに、頚筋へのボツリヌス毒素の局所投与は、いくつかのトゥーレット症候群チックに関係する前駆的衝動の発生を減少させるように働くことができるようだと報告されている。Jankovic, J.「Botulinum toxin in the treatment of tics associated with Tourette's syndrome(トゥーレット症候群に関係するチックの処置におけるボツリヌス毒素)」Neurology 1993 April; 43(4 Supp 2): A310、Jankovic, J.「Botulinum toxin in the treatment of dystonic tics(ジストニー性チックの処置におけるボツリヌス毒素)」Mov Disord 1994 May; 9(3):347-9、およびKrauss J. ら「Severe motor tics causing cervical myelopathy in Tourette's syndrome(トゥーレット症候群において頚髄障害を引き起こす重症運動性チック)」Mov Disord 1996; 11(5):563-6。また、上述のように、大腿筋への比較的高い(麻痺作用)用量のボツリヌス毒素が下肢静止不能症候群の処置に使用されており、咀嚼筋へのボツリヌス毒素の注射が、レッシュ・ナイハン症候群の唇、舌および指咬み行動を処置するために使用されている。
【0082】
本発明者の仮説を述べると、筋肉(例えば筋紡錘線維および筋痛み線維)を支配する求心性神経によって伝達されるシグナルまたは皮膚内もしくは皮膚下の感覚構造からのシグナルが、感受性個体において強迫性障害行動の発生の一因となる感覚状態を誘導する。すなわち、筋または皮膚構造からの求心性シグナルは脳に感覚情報を与え、次にそれが感受性個体における複雑な運動出力、例えば自傷、強迫観念的手洗い、抜毛、または強迫性障害の他の反復行動などの発生につながる。したがって、筋紡錘線維、痛み線維または筋内もしくは筋の近傍にある他の感覚器官に低用量のボツリヌス毒素を局所投与すると、これらの筋肉から脳に向かう神経シグナル求心性出力が変化し、その結果として神経の(脳への)入力が減少し、前駆的衝動の発生が防止されることにより、望ましくない強迫性障害行動が抑制される。
【0083】
本発明の重要な要素は、第1に、それが低用量のボツリヌス毒素の局所投与を用いて実施されるということである。選択される低用量は、筋麻痺も、筋脱力も、筋緊張低下も引き起こさない。第2に、本発明は、低用量のボツリヌス毒素を、望ましくない運動行動を開始する筋肉または筋肉群に局所投与することによって実施される。例えば、強迫観念的指咬みの場合は、ボツリヌス毒素を手または前腕の筋肉に投与する。儀式的確認および計数行動の場合は、頭部筋、例えば頭皮、前額部または顔面筋などに、そのような行動がそのような筋肉からの感覚入力によって開始されるということに基づいて、ボツリヌス毒素が投与される。
【0084】
本発明によって処置することができる状態には、反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動である皮膚摘み取り、抜毛、頭部打ち付け、体揺すり、計数、確認、および貯蔵行動で、首チックではないものが含まれる。
【0085】
強迫行為的皮膚摘み取りでは、しばしば皮膚がむずむずするような心理的感覚があり、皮下組織に動きを感じると一般に説明される。この感覚は、皮膚に付随する微小筋構造、例えば毛包の立毛筋、真皮の平滑筋脈管構造または皮膚内の神経感覚構造などが誘発する前駆的衝動によるもので大いにありうる。したがって、クロストリジウム毒素を真皮に皮膚下(皮下)注射すれば、この感覚は数ヶ月にわたって限局的に緩和または遮断されると期待することができる。
【0086】
本発明に包含される方法によって処置することができる他の障害には、ダウン症候群、広汎性発達障害、発達運動障害、自閉症(手/指運動亜型)、アスペルガー症候群(手/指運動型)およびレット症候群(手洗い運動)などの常同運動を伴う状態が含まれる。
【0087】
クロストリジウム毒素の投与は、例えば強迫性障害の限局的筋肉運動が標的となるように行なわれる。例えば、反復的手洗い行動の場合は、毒素を、手洗い運動に関係する前腕筋に、もしくは多汗症の処置パターンに基づいて手に、またはその組合せに注射することができる。処置部位および用量は、有意な筋脱力をもたらさない用量で、観察される運動を開始させる筋に基づいて選択することができる。例えば、注射パターンは、観察される不適切な運動を開始させる筋肉に集中するように選択される。
【0088】
本発明の方法によって投与されるクロストリジウム毒素の量は、処置される特定の障害、その重症度および他のさまざまな患者変数(大きさ、体重、年齢および治療に対する応答性を含む)に応じて変動しうる。医師の参考として述べると、典型的には、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、約1単位以上約25単位以下のA型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標)など)が投与される。DYSPORT(登録商標)などのA型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、約2単位以上約125単位以下のA型ボツリヌス毒素が投与される。MYOBLOC(登録商標)などのB型ボツリヌス毒素の場合は、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、約40単位以上約1500単位以下のB型ボツリヌス毒素が投与される。約1、2または40単位未満の量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、望ましい治療効果を達成できない可能性があり、一方、約25、125または1500単位を超える量(それぞれBOTOX(登録商標)、DYSPORT(登録商標)およびMYOBLOC(登録商標)の場合)では、有意な筋緊張低下、筋脱力および/または筋麻痺をもたらす可能性があって、それらはいずれも本発明の実施においては望ましくない結果である。なぜなら、本発明の目的は、反復性非生産的運動活動を特徴とする不適切な強迫行為的、儀式的および/または強迫観念的行動(首チックではない)を、その反復性非生産的運動活動を開始させると思われる筋肉または筋肉群への低用量のクロストリジウム毒素の投与によって処置することであって、その用量は筋肉からCNSへの感覚出力を抑制するには十分であるが、有意な筋麻痺、筋脱力または筋緊張低下を引き起こすには不十分であるからである。
【0089】
より好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約2単位以上約20単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約4単位以上約100単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約80単位以上約1000単位以下を投与する。
【0090】
最も好ましくは、1回の特許治療セッションにつき、1注射部位につき、BOTOX(登録商標)の場合は約5単位以上約15単位以下のA型ボツリヌス毒素を、DYSPORT(登録商標)の場合は約20単位以上約75単位以下を、そしてMYOBLOC(登録商標)の場合は約200単位以上約750単位以下を投与する。各患者治療セッションについて複数の注射部位(すなわちある注射パターン)が存在しうることに注意することが重要である。
【0091】
投与経路および投与量の例を挙げるが、適切な投与経路および投与量は、一般に、担当医によって症例ごとに決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的作業である(例えば Anthony Fauci ら編「Harrison's Principles of Internal Medicine」(1998)第14版、McGraw Hill 刊を参照されたい)。例えば、本発明による神経毒の投与経路および投与量は、選択した神経毒の溶解特性ならびに患者が感じる障害の強さなどの基準に基づいて選択することができる。
【0092】
本発明は、クロストリジウム毒素の末梢投与が、多種多様な強迫性障害の、有意で長時間持続する緩和をもたらすことができるという発見に基づいている。末梢投与により、クロストリジウム毒素は、障害に関与するニューロンに対して直接的な影響を持つような部位または患者の筋肉もしくはその近傍に、局所的に投与されうる。
【0093】
本明細書中に開示される本発明に従って使用されるクロストリジウム毒素は、強迫性障害の発生に関与する選択されたニューロン群の間の化学的シグナルまたは電気シグナルの伝達を阻害しうる。クロストリジウム毒素は、好ましくは、クロストリジウム毒素にさらされる細胞に対して細胞傷害性でない。クロストリジウム毒素は、クロストリジウム毒素にさらされたニューロンからの神経伝達物質のエキソサイトーシスを低下させるか、またはそのようなエキソサイトーシスを防止することによって神経伝達を阻害することができる。あるいは、適用されたクロストリジウム毒素は、該毒素にさらされたニューロンの活動電位の生成を阻害することによって神経伝達を低下させることができる。クロストリジウム毒素によってもたらされる抑制効果は、比較的長期間にわたって、例えば、2ヶ月以上にわたって、また、潜在的には数年間にわたって持続するべきである。
【0094】
本発明の範囲に含まれるクロストリジウム毒素の例には、Clostridium botulinum、Clostridium butyricumおよびClostridium berattiが産生する神経毒が含まれる。さらに、本発明の方法において使用されるボツリヌス毒素は、A型ボツリヌス毒素、B型ボツリヌス毒素、C型ボツリヌス毒素、D型ボツリヌス毒素、E型ボツリヌス毒素、F型ボツリヌス毒素およびG型ボツリヌス毒素からなる群から選択されるボツリヌス毒素であり得る。本発明の1つの実施形態において、患者に投与されるボツリヌス神経毒はA型ボツリヌス毒素である。A型ボツリヌス毒素は、ヒトにおけるその効力が大きく、容易に得ることができ、また、筋肉内注射による局所投与による骨格筋障害および平滑筋障害の処置についての使用が知られているために望ましい。
【0095】
本発明にはまた、(a)細菌培養、毒素抽出、濃縮、保存、凍結乾燥および/または再構成によって得られるか、もしくはそれらによって処理されるクロストリジウム神経毒;および/または(b)修飾もしくは組換えされた神経毒、すなわち、1つ以上のアミノ酸もしくはアミノ酸配列が、知られている化学的/生化学的なアミノ酸修飾手順により、もしくは、知られている宿主細胞/組換えベクターの組換え技術の使用により意図的に欠失もしくは修飾もしくは置換されている神経毒、そして同様にそのようにして得られた神経毒の誘導体またはフラグメント、の使用が含まれる。これらの神経毒変化体は、ニューロン間の神経伝達を阻害する能力を保持し、これらの変化体のいくつかは、天然の神経毒と比較して、増大した阻害作用持続時間をもたらすことができ、または、神経毒にさらされるニューロンに対する高まった結合特異性をもたらすことができる。これらの神経毒変化体は、従来のアッセイを使用して変化体をスクリーニングして、神経伝達を阻害する所望される生理学的作用を有する神経毒を同定することによって選択することができる。
【0096】
本発明に従って使用されるボツリヌス毒素は、真空下での容器における凍結乾燥、真空乾燥形態で、または安定な液体として保存することができる。凍結乾燥前に、ボツリヌス毒素は、医薬的に許容され得る賦形剤、安定剤および/または担体(例えば、アルブミンなど)と組み合わせることができる。凍結乾燥物は、患者に投与するボツリヌス毒素を含有する溶液または組成物を調製するために、生理的食塩水または水で再構成することができる。
【0097】
組成物は、神経伝達を抑制するための主成分として、1つのタイプの神経毒(例えば、A型ボツリヌス毒素など)を単に含有し得るだけであるが、他の処置用組成物は、障害の増強された処置効果をもたらし得る2つ以上のタイプの神経毒を含むことができる。例えば、患者に投与される組成物はA型ボツリヌス毒素およびB型ボツリヌス毒素を含むことができる。2つの異なる神経毒を含有する単一組成物を投与することにより、神経毒のそれぞれの効果的な濃度を、所望される処置効果を依然として達成しながら、1つの神経毒が患者に投与された場合よりも低くすることが可能になり得る。患者に投与される組成物はまた、他の医薬的に活性な成分、例えば、タンパク質受容体またはイオンチャンネルの調節因子などを、神経毒(1つまたは複数)と組み合わせて含有することができる。これらの調節因子は、様々なニューロンの間での神経伝達の低下に寄与し得る。
【0098】
例えば、組成物は、GABAA受容体により媒介される抑制作用を高めるγ-アミノ酪酸(GABA)A型受容体調節因子を含有することができる。GABAA受容体は、細胞膜を横断する電流の流れを効果的にそらすことによってニューロン活性を阻害する。GABAA受容体調節因子はGABAA受容体の抑制作用を高めることができ、また、ニューロンからの電気シグナルまたは化学的シグナルの伝達を低下させることができる。GABAA受容体調節因子の例には、ベンゾジアゼピン系薬剤、例えば、ジアゼパム、オキサキセパム、ロラゼパム、プラゼパム、アルプラゾラム、ハラゼアパム、クロルジアゼポキシドおよびクロルアゼペートなどが含まれる。
【0099】
組成物はまた、グルタメート受容体により媒介される興奮作用を低下させるグルタメート受容体調節因子を含有することができる。グルタメート受容体調節因子の例には、AMPA型、NMDA型および/またはカイネート型のグルタメート受容体を介する電流の流れを阻害する薬剤が含まれる。組成物はまた、ドーパミン受容体を調節する薬剤(例えば、抗精神病薬など)、ノルエピネフリン受容体を調節する薬剤、および/またはセロトニン受容体を調節する薬剤を含むことができる。組成物はまた、電位依存性のカルシウムチャンネル、カリウムチャンネルおよび/またはナトリウムチャンネルを介するイオン流に影響を及ぼす薬剤を含むことができる。従って、強迫性障害を処置するために使用される組成物は、1つまたは複数の神経毒(例えば、ボツリヌス毒素など)に加えて、神経伝達を低下させ得るイオンチャンネル受容体調節因子を含むことができる。
【0100】
神経毒は、主治医により決定されるように、任意の好適な方法によって投与することができる。そのような投与方法により、神経毒を、選択した標的組織に局所的に投与することが可能になる。投与方法には、上記で記載されたように神経毒を含有する溶液または組成物の注入が含まれ、また、標的組織に神経毒を調節的に放出する制御された放出システムの埋め込みが含まれる。そのような制御された放出システムにより、反復した注入の必要性が低下させられる。組織内におけるボツリヌス毒素の生物学的活性の拡散は用量に相関するようであり、段階的であり得る。Jankovic J.他、Therapy With Botulinum Toxin、Marcel Dekker, Inc. (1994)、150頁。従って、ボツリヌス毒素の拡散を、患者の認知能力に影響を及ぼし得る潜在的に望ましくない副作用を低下させるために制御することができる。例えば、神経毒を、神経毒が、強迫性障害に関与すると考えられる神経系に主に作用し、かつ、他の神経系に対しては負の有害な作用を有しないように投与することができる。
【0101】
ポリ無水物ポリマーのGliadel(登録商標)(Stolle R & D, Inc.、Cincinnati、OH)(これは20:80の比率でのポリカルボキシフェノキシプロパンとセバシン酸との共重合体である)が、インプラントを作製するために使用されており、また、悪性神経膠腫を処置するために頭蓋内に埋め込まれている。ポリマーおよびBCNUを、塩化メチレンに同時に溶解し、マイクロスフェアにスプレー乾燥することができる。その後、マイクロスフェアは、直径が1.4cmで、厚さが1.0mmのディスクに圧縮成形によって圧縮され、窒素雰囲気下でアルミニウムホイルポーチに包装され、2.2メガラッドのγ線によって滅菌され得る。このポリマーは2週間〜3週間の期間にわたってカルムスチンの放出を可能にする。だが、ポリマーの大部分が分解するためには1年以上を要し得る。Brem, H.他、再発性神経膠腫に対する化学療法の生分解性ポリマーによる術中制御送達の安全性および効力のプラセボ対照試験、Lancet、345;1008-1012:1995。
【0102】
本明細書中に開示される方法を実施する際に有用なインプラントを調製するために、所望する量の安定化された神経毒(例えば、再構成されていないBOTOX(登録商標)など)を、塩化メチレンに溶解された好適なポリマーの溶液に混合することができる。溶液は室温で調製することができる。その後、溶液をペトリ皿に移して、塩化メチレンを真空デシケーター内で蒸発させることができる。所望されるインプラントサイズに従って、そしてそれ故神経毒の配合量に依存して、乾燥された神経毒配合インプラントの好適な量を、約8000p.s.i.で5秒間または3000p.s.i.で17秒間、鋳型で圧縮成形して、神経毒を含むインプラントディスクを形成する。例えば、Fung L.K.他、サル脳における生分解性ポリマーインプラントからのカルムスチン4-ヒドロペルオキシシクロホスファミドおよびパクリタキセルの間質送達の薬物動態学、Cancer Research、58;672-684:1998。
【0103】
ボツリヌス毒素などのクロストリジウム毒素の局所投与は毒素の大きい局所的処置レベルをもたらすことができる。標的筋肉へのクロストリジウム毒素の長期間の局所的送達が可能である制御放出ポリマーは、標的組織への効果的な投薬を可能にする。好適なインプラントは、米国特許第6,306,423号(発明の名称:神経毒インプラント)に示されるようなものであり、制御放出ポリマーによる標的組織に対する化学療法剤の直接的な導入を可能にする。使用するインプラントポリマーは、好ましくは、毒素が標的組織環境内に放出されるまで、ポリマーに配合された神経毒が、水により誘導される分解から保護されるように、疎水性である。
【0104】
標的組織への注入またはインプラントによる、本発明に従ったボツリヌス毒素の局所投与は、処置する障害に関連する症状を軽減するために、患者への医薬品の全身的投与に優る代替法を提供する。
【0105】
本発明に従った標的組織への局所投与のために選択されるクロストリジウム毒素の量は、処置される障害、その重篤度、処置される筋肉組織の大きさ、選ばれた神経毒毒素の溶解性特性、ならびに、患者の年齢、性別、体重および健康状態などの判断基準に基づいて変化し得る。例えば、影響を受ける筋肉組織の領域の大きさは、注入された神経毒の体積に比例し、一方で、抑制効果の大きさは、ほとんどの用量範囲について、投与されたクロストリジウム毒素の濃度に比例すると考えられる。適切な投与経路および投薬量を決定するための方法が、一般には、主治医によって場合毎に決定される。そのような決定は当業者にとっては日常的である(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998)(Anthony Fauci他編、第14版、発行:McGraw Hill)を参照のこと)。
【0106】
重要なことに、本発明の方法では、改善された患者機能を提供することができる。「改善された患者機能」は、痛みの軽減、ベッドで過ごす時間の減少、歩行の増大、より健康的な態度、より多様な生活スタイル、および/または、正常な筋緊張により認められる回復などの要因によって測定される改善として定義することができる。改善された患者機能は、改善された生活の質(QOL)と同義的である。QOLは、例えば、知られているSF-12またはSF-36の健康調査スコア化法を使用して評価することができる。SF-36では、身体的機能性、身体的問題による役割制限、社会的機能性、体の痛み、全体的な精神的健康状態、情緒的問題による役割制限、活力、および全体的な健康状態認識の8分野において患者の身体的および精神的な健康状態が評価される。得られたスコアは、様々な一般集団および患者集団について得ることができる発表された値と比較することができる。
【0107】
実施例
以下の非制限的実施例は、本発明の範囲に包含される処置方法の好ましい具体例を当業者に示すものであって、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例では、例えば筋肉内注射、皮下注射による投与、または徐放性植込剤の植込による投与など、クロストリジウム神経毒のさまざまな非全身的投与様式を実行することができる。
【実施例1】
【0108】
頭部打ち付けのA型ボツリヌス毒素療法
15歳の男性が明白な誘因もなく自分の頭を壁や学校机に打ち付け始める。彼は、1日に20〜25回の打ち付けエピソードを報告する。検査すると、彼は孤独であり、慢性的に頭部打ち付けを実行しようとする衝動と、その実行における満足感を覚えると話す。彼の前頭部には挫傷があり、触れると痛がる。この患者を、額の筋肉の異なる2箇所に両側的に、5単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBOTOX(登録商標))を筋肉内注射することによって処置する(合計10単位の毒素)。毒素投与後1〜7日以内に、患者は、1日に1回か2回しか彼の頭を打ち付けなくなったと報告し、彼の状態のそのような軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のA型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【0109】
上で使用したA型ボツリヌス毒素の代わりに、B、C、D、E、F またはG型ボツリヌス毒素、例えば250単位のB型ボツリヌス毒素などを使用することもできる。
【実施例2】
【0110】
反復的手洗いのA型ボツリヌス毒素療法
赤くひび割れた手をした46歳の男性が来診する。彼は、しばしば通常の衛生活動の後に、1日に6〜8時間も強迫行為的に手を洗うと話す。この患者を、前腕筋の異なる2箇所に両側的に、5単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBOTOX(登録商標))を筋肉内注射することによって処置する(片腕当たり10単位の毒素)。毒素投与後1〜7日以内に、患者は、手を洗っている時間が1日に1時間未満になったと報告し、彼の状態の軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のA型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【実施例3】
【0111】
反復的手洗いのB型ボツリヌス毒素療法
赤くひび割れた手をした22歳の女性が来診する。彼女は、しばしば通常の衛生活動の後に、1日に7〜9時間も強迫行為的に手を洗うと話す。彼女は、手を洗浄しようとする衝動を、手に感じると話す。この患者を、それぞれの手のひらに、225単位のB型ボツリヌス毒素(すなわちMYOBLOC(登録商標))を筋肉内注射することによって処置する。毒素投与後1〜7日以内に、患者は、手を洗っている時間が1日に半時間未満になったと報告し、状態の軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のB型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【0112】
上記実施例で使用したAまたはB型ボツリヌス毒素の代わりに、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素を使用することもできる。
【実施例4】
【0113】
抜毛癖のボツリヌス毒素療法
正常な知性を持つ16歳の少女が皮膚科医から紹介され、彼女の頭部にあるいくつかの不規則な脱毛斑について診察を受ける。脱毛は利き手とは対側にあり、患部には様々な長さのちぎれた毛髪と、頭皮の摩擦に続発する皮膚変色が認められる。この子供は「憂鬱だ」という理由で、自分の毛髪を引っ張ることを認める。副腎機能は正常であり、抜毛癖と診断される。この患者の抜毛癖は、三環系抗うつ薬(デシプラミンおよびイミプラミン)を含む抗うつ薬投与に対してわずかな応答しか示さなかった。というのも、これらの薬物投与は、抜毛をわずか2〜3日しか寛解させなかったからである。他の治療的介入として認知行動療法およびカウンセリングも行なわれたが、これらはどちらも、参加したにもかかわらず、成功しなかった。この子供を、前頭筋および後頭筋に5単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBOTOX(登録商標))を筋肉内注射することによって処置する(1回の治療セッションあたり10単位の毒素)。あるいは、より広範囲にボツリヌス毒素が分布するように、食塩水5 ml中のA型ボツリヌス毒素100単位を、頭皮の複数の部位(約20箇所)に注射することもできる。毒素投与後1〜7日以内に、患者は抜毛を止めたと報告し、彼女の状態の軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のA型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【0114】
上で使用したA型ボツリヌス毒素の代わりに、B、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素、例えば250単位のB型ボツリヌス毒素などを使用することもできる。
【実施例5】
【0115】
皮膚自傷癖のA 型ボツリヌス毒素療法
57歳の既婚女性が、彼女の腕および脚への過去3年間にわたる慢性皮膚摘み取り(傷は治るまで十分な期間触らずにおかれるということはない)について診察を受ける。臨床所見に先立ち、彼女は、鍼療法、皮膚科相談および集団療法を含む、摘み取りの別の処置法を試していた。彼女は指の爪で摘み取りを行い、取った痂皮をしばしば摂取する。彼女は、衝動が高まり、摘み取りによってそれが緩和されると話す。彼女の状態は、行動修正療法、フルオキセチンおよびベンラファキシンには不応性である。インフォームドコンセントを得た後、4単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBOTOX(登録商標))を、慢性皮膚摘み取りの部位の皮膚下に注射する。あるいは、より広範囲にボツリヌス毒素が分布するように、食塩水5 ml中のA型ボツリヌス毒素100単位を、複数の皮膚摘み取り部位(約20箇所)に注射することもできる。毒素投与後1〜7日以内に、患者は皮膚の摘み取りを止め、彼女の状態の軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のA型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【実施例6】
【0116】
皮膚自傷癖のB型ボツリヌス毒素療法
離婚歴がある大学卒の26歳の男性が、自分の慢性自傷性皮膚摘み取りについて処置を求める。彼は、顔面、特に鼻および顎の周辺に詰まった毛穴を見つけると、指の爪でそれを取り除こうとすると説明する。彼の皮膚摘み取りの標的には、「隆起した皮膚」の他に健常な皮膚が含まれる。皮膚摘み取りエピソードは、皮膚が炎症または出血を起こすと終えられる。彼は毎日約20回の皮膚摘み取りエピソードを報告し、各エピソードは1〜5分間続く。彼は、皮膚摘み取りの前に緊張感または神経の高ぶりを感じ、皮膚を摘み取った後は安心感を覚えると述べる。200単位のB型ボツリヌス毒素を、慢性顔面皮膚摘み取りの部位に、3箇所に分けて皮膚下に注射する。あるいは、より広範囲にボツリヌス毒素が分布するように、食塩水5 ml中のB 型ボツリヌス毒素5000単位を、複数の皮膚摘み取り部位の複数箇所(約20箇所)に注射することもできる。毒素投与後1〜7日以内に、患者は自分の皮膚を摘み取るのを止め、状態の軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のB型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【0117】
上記実施例で使用したAまたはB ボツリヌス毒素の代わりに、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素を使用することもできる。
【実施例7】
【0118】
指咬みのA型ボツリヌス毒素療法
軽度の精神遅滞を持つ8歳の少年が、自分の指、手を日常的に噛み、彼の指は潰瘍を生じている。彼の母親は、彼が自分の指を、制止しない限り噛み続けようとすると報告する。この患者を、各手の各指の付け根に、3単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBOTOX(登録商標))を筋肉内注射することによって処置する。あるいは、前腕筋に両側的に10単位のボツリヌス毒素を注射することもできる。毒素投与後1〜7日以内に、指咬みは完全におさまり、解消する。彼の指は治癒し、彼の状態のこの軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のA型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【0119】
上で使用したA型ボツリヌス毒素の代わりに、B、C、D、E、F またはG型ボツリヌス毒素、例えば250単位の B 型ボツリヌス毒素などを使用することもできる。
【実施例8】
【0120】
精神病に関係するそう痒症のA型ボツリヌス毒素療法
26歳の既婚女性が、薬剤不応性の皮膚そう痒で紹介される。このそう痒は、まるで彼女の皮膚の下を昆虫が這っているように感じると説明される。制止しないと「虫を外に出す」ために自分自身を切ることが、何度もあった。幻聴および幻視も存在する。この患者に、4単位のA型ボツリヌス毒素(すなわちBOTOX(登録商標))を慢性皮膚そう痒部位の皮膚下に注射する処置を施す。あるいは、より広範囲にボツリヌス毒素が分布するように、食塩水5 ml中のA型ボツリヌス毒素100単位を、皮膚そう痒を感じる複数の部位(約20箇所)に注射することもできる。毒素投与後1〜7日以内に、患者は皮膚そう痒の緩和を報告し、彼女の状態の軽減は4〜6ヶ月間持続する。長期間(1〜5年間)にわたる治療的緩和が得られるように、適切な量のA型ボツリヌス毒素を組み込んだ1以上のポリマー植込剤を、標的組織部位に置くこともできる。
【0121】
本発明を一定の好ましい方法に関して詳細に説明したが、本発明の範囲内で他の実施形態、変形および変更も可能である。例えば、本発明の方法では、多種多様な神経毒を有効に使用することができる。また、本発明は、障害を軽減するための末梢投与法であって、2以上の神経毒、例えば2以上のボツリヌス毒素が同時にまたは逐次的に投与される方法も包含する。例えば、臨床応答の低下が起こるか、中和抗体が発生するまでは、A型ボツリヌス毒素を投与し、その後はB型ボツリヌス毒素を投与することができる。あるいは、所望する治療成果の開始および持続時間を制御するために、ボツリヌス血清型A〜Gの任意の2以上の組み合せを、局所投与することもできる。さらに、ボツリヌス毒素などの神経毒がその治療効果を発揮しはじめる前に、補助的効果、例えば除神経の強化または除神経のより迅速な開始などが得られるように、神経毒の投与に先立って、または神経毒の投与と同時に、または神経毒の投与後に、非神経毒化合物を投与することもできる。
【0122】
本願発明による障害の処置方法には、下記の点を含む多くの利益および利点がある:
1.症状を劇的に減少させることができる。
2.強迫性障害の症状を、1回の神経毒注射で約2〜約6ヶ月間にわたって、また徐放性神経毒植込剤を使用すれば約1年〜約5年間にわたって、減少させることができる。
3.注射された神経毒または植込まれた神経毒は、筋肉内標的組織部位に特異的なニューロン活動抑制を発揮する。
4.注射された神経毒または植込まれたクロストリジウム神経毒は、筋肉内(または皮膚内もしくは皮膚下)注射または植込部位から拡散するまたは輸送される傾向をほとんどまたは全く示さない。
5.クロストリジウム神経毒の筋肉内(または皮膚内もしくは皮膚下)注射または植込みからは、望ましくない副作用はほとんどまたは全く起こらない。
6.本方法の抑制剤効果は、患者の可動性の向上、より積極的な態度、および生活の質の改善という望ましい副作用をもたらしうる。
【0123】
本発明を一定の好ましい方法に関して詳細に説明したが、本発明の範囲内で他の実施形態、変形および変更も可能である。例えば、本発明の方法では、多種多様な神経毒を有効に使用することができる。また、本発明は、2以上のクロストリジウム神経毒、例えば2以上のボツリヌス毒素を同時にまたは逐次的に投与する局所投与法も包含する。例えば、臨床応答の低下が起こるか、中和抗体が発生するまでは、A 型ボツリヌス毒素を局所投与し、その後は B 型ボツリヌス毒素を投与することができる。さらに、ボツリヌス毒素などの神経毒が、より長時間持続するその抑制剤効果を発揮しはじめる前に、補助的効果、例えば抑制の強化またはより迅速な抑制の開始などが得られるように、神経毒の投与に先立って、または神経毒の投与と同時に、または神経毒の投与後に、非神経毒化合物を局所投与することもできる。
【0124】
本発明は、クロストリジウム神経毒の局所投与による強迫性障害(例えば抜毛癖、反復的手洗い、強迫行為的体揺すり、皮膚自傷癖、目突き、体揺すり、指咬み、計数、確認および関連障害)の処置を行なうための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素などの神経毒の使用も、その範囲に包含する。
【0125】
本発明の好ましい実施形態を次に挙げる:
〔項1〕
目突き障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記目突き障害を軽減することにより目突き障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項2〕
ボツリヌス毒素がA、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項1に記載の使用。
〔項3〕
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、上記項1に記載の使用。
〔項4〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項1に記載の使用。
〔項5〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項1に記載の使用。
〔項6〕
ボツリヌス毒素の局所投与が眼周囲の筋肉に行なわれる、上記項1に記載の使用。
〔項7〕
ボツリヌス毒素の局所投与が手または前腕の筋肉に行なわれる、上記項1に記載の使用。
〔項8〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項1に記載の使用。
〔項9〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項1に記載の使用。
〔項10〕
目突き障害を持つ患者の眼周囲筋肉に約1単位〜約1,500単位の A 型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記目突き障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより目突き障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項11〕
体揺らし障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記体揺らし障害を軽減することにより体揺らし障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項12〕
ボツリヌス毒素がA、B、C、D、E、FおよびG 型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項11に記載の使用。
〔項13〕
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、上記項11に記載の使用。
〔項14〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項11に記載の使用。
〔項15〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項11に記載の使用。
〔項16〕
ボツリヌス毒素の局所投与が臀部の筋肉に行なわれる、上記項11に記載の使用。
〔項17〕
ボツリヌス毒素の局所投与が腕の筋肉に行なわれる、上記項11に記載の使用。
〔項18〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項11に記載の使用。
〔項19〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項11に記載の使用。
〔項20〕
体揺らし障害を持つ患者の筋肉に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記体揺らし障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより体揺らし障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項21〕
指咬み障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記指咬み障害を軽減することにより指咬み障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項22〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項21に記載の使用。
〔項23〕
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、上記項21に記載の使用。
〔項24〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項21に記載の使用。
〔項25〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項21に記載の使用。
〔項26〕
ボツリヌス毒素の局所投与が手の筋肉に行なわれる、上記項21に記載の使用。
〔項27〕
ボツリヌス毒素の局所投与が腕の筋肉に行なわれる、上記項21に記載の使用。
〔項28〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項21に記載の使用。
〔項29〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項21に記載の使用。
〔項30〕
指咬み障害を持つ患者の手の筋肉に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記指咬み障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより指咬み障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項31〕
計数障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記計数障害を軽減することにより計数障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項32〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項31に記載の使用。
〔項33〕
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、上記項31に記載の使用。
〔項34〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項31に記載の使用。
〔項35〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項31に記載の使用。
〔項36〕
ボツリヌス毒素の局所投与が頭部の筋肉に行なわれる、上記項31に記載の使用。
〔項37〕
ボツリヌス毒素の局所投与が顔面の筋肉に行なわれる、上記項31に記載の使用。
〔項38〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項31に記載の使用。
〔項39〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項31に記載の使用。
〔項40〕
計数障害を持つ患者の筋肉に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記計数障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより計数障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項41〕
確認障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記確認障害を軽減することにより確認障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項42〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項41に記載の使用。
〔項43〕
ボツリヌス毒素が A 型ボツリヌス毒素である、上記項41に記載の使用。
〔項44〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項41に記載の使用。
〔項45〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項41に記載の使用。
〔項46〕
ボツリヌス毒素の局所投与が頭部の筋肉に行なわれる、上記項41に記載の使用。
〔項47〕
ボツリヌス毒素の局所投与が顔面の筋肉に行なわれる、上記項41に記載の使用。
〔項48〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項41に記載の使用。
〔項49〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項41に記載の使用。
〔項50〕
確認障害を持つ患者の頭部筋肉に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記確認障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより確認障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項51〕
皮膚摘み取り障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記皮膚摘み取り障害を軽減することにより皮膚摘み取り障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項52〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項51に記載の使用。
〔項53〕
ボツリヌス毒素が A 型ボツリヌス毒素である、上記項51に記載の使用。
〔項54〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約2,500単位の量で投与される、上記項51に記載の使用。
〔項55〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項51に記載の使用。
〔項56〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、皮膚摘み取りが行なわれる皮膚部位またはその近傍への皮下投与である、上記項51に記載の使用。
〔項57〕
ボツリヌス毒素の局所投与が顔面の筋肉に行なわれる、上記項51に記載の使用。
〔項58〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項51に記載の使用。
〔項59〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項51に記載の使用。
〔項60〕
皮膚摘み取り障害を持つ患者の筋肉に約1単位〜約2,500単位の A 型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記皮膚摘み取り障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより皮膚摘み取り障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項61〕
頭部打ち付け障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記頭部打ち付け障害を軽減することにより頭部打ち付け障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項62〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項61に記載の使用。
〔項63〕
ボツリヌス毒素が A 型ボツリヌス毒素である、上記項61に記載の使用。
〔項64〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項61に記載の使用。
〔項65〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項61に記載の使用。
〔項66〕
ボツリヌス毒素の局所投与が頭部の筋肉に行なわれる、上記項61に記載の使用。
〔項67〕
ボツリヌス毒素の局所投与が顔面の筋肉に行なわれる、上記項61に記載の使用。
〔項68〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項61に記載の使用。
〔項69〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項61に記載の使用。
〔項70〕
頭部打ち付け障害を持つ患者の頭部筋肉に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記頭部打ち付け障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより頭部打ち付け障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項71〕
手洗い障害を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記手洗い障害を軽減することにより手洗い障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項72〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項71に記載の使用。
〔項73〕
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、上記項71に記載の使用。
〔項74〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項71に記載の使用。
〔項75〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項71に記載の使用。
〔項76〕
ボツリヌス毒素の局所投与が前腕の筋肉に行なわれる、上記項71に記載の使用。
〔項77〕
ボツリヌス毒素の局所投与が手または指の筋肉に行なわれる、上記項71に記載の使用。
〔項78〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項71に記載の使用。
〔項79〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項71に記載の使用。
〔項80〕
手洗い障害を持つ患者に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記手洗い障害を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより手洗い障害を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項81〕
抜毛癖を持つ患者にボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記抜毛癖を軽減することにより抜毛癖を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
〔項82〕
ボツリヌス毒素が A、B、C、D、E、F および G 型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、上記項81に記載の使用。
〔項83〕
ボツリヌス毒素が A 型ボツリヌス毒素である、上記項81に記載の使用。
〔項84〕
ボツリヌス毒素が約1単位〜約1,500単位の量で投与される、上記項81に記載の使用。
〔項85〕
軽減が約1ヶ月〜約5年間持続する、上記項81に記載の使用。
〔項86〕
ボツリヌス毒素の局所投与が頭部の筋肉に行なわれる、上記項81に記載の使用。
〔項87〕
ボツリヌス毒素の局所投与が顔面の筋肉に行なわれる、上記項81に記載の使用。
〔項88〕
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、上記項81に記載の使用。
〔項89〕
ボツリヌス毒素の局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、上記項81に記載の使用。
〔項90〕
抜毛癖を持つ患者の頭部筋に約1単位〜約1,500単位のA型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として前記抜毛癖を約1ヶ月〜約5年間軽減することにより抜毛癖を処置するための医薬品の製造におけるボツリヌス毒素の使用。
上述した参考文献、論文、特許、出願および刊行物はすべて、参照により、そのまま本明細書に組み込まれる。
したがって、本願上記項の精神および範囲は、上述した好ましい実施形態の説明に制限されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目突き障害、体揺らし障害、指咬み障害、計数障害、確認障害、皮膚摘み取り障害、頭
部打ち付け障害、手洗い障害、または抜毛癖を処置するための局所投与用医薬組成物であ
って、有効成分としてボツリヌス毒素を含有し、用量および/または投与は、筋肉の麻痺
または硬直筋の緊張低下を引き起こすことなく、筋肉内または皮膚内もしくは皮膚下の感
覚ニューロンからの望ましくない感覚出力を低減するように選択される組成物。
【請求項2】
ボツリヌス毒素がA、B、C、D、E、F およびG型ボツリヌス毒素からなる群より選択され
る、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ボツリヌス毒素がA型ボツリヌス毒素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ボツリヌス毒素が1単位〜2,500単位の量で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
障害の軽減が1ヶ月〜5年間持続する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
目突き障害を持つ患者に対する局所投与が眼周囲の筋肉または手もしくは前腕の筋肉に
行なわれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
患者の筋肉に1単位〜2,500単位の A 型ボツリヌス毒素を局所投与し、その結果として
障害を1ヶ月〜5年間軽減する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
局所投与が筋肉内注射によって行なわれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
局所投与が、障害の発生につながる前駆的感覚の存在がそこから生じると患者が感じる
皮膚部位または筋部位に対して行なわれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
体揺らし障害を持つ患者に対する局所投与が臀部の筋肉または腕の筋肉に行なわれる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
指咬み障害を持つ患者に対する局所投与が手の筋肉または腕の筋肉に行なわれる、請求
項1に記載の組成物。
【請求項12】
計数障害を持つ患者に対する局所投与が頭部の筋肉または顔面の筋肉に行なわれる、請
求項1に記載の組成物。
【請求項13】
確認障害を持つ患者に対する局所投与が頭部の筋肉または顔面の筋肉に行なわれる、請
求項1に記載の組成物。
【請求項14】
皮膚摘み取り障害を持つ患者に対する局所投与が、皮膚摘み取りが行なわれる皮膚部位
またはその近傍への皮下投与である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
皮膚摘み取り障害を持つ患者に対する局所投与が顔面の筋肉に行なわれる、請求項1に
記載の組成物。
【請求項16】
頭部打ち付け障害を持つ患者に対する局所投与が頭部の筋肉または顔面の筋肉に行なわ
れる、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
手洗い障害を持つ患者に対する局所投与が前腕の筋肉または手もしくは指の筋肉に行な
われる、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
抜毛癖を持つ患者に対する局所投与が頭部の筋肉または顔面の筋肉に行なわれる、請求
項1に記載の組成物。

【公開番号】特開2011−184462(P2011−184462A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133643(P2011−133643)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2006−513109(P2006−513109)の分割
【原出願日】平成16年4月16日(2004.4.16)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】