説明

種子のストレス耐性強化方法及び消毒処理方法

【課題】遺伝子組み換え手法を用いずに、種子の、物理的及び生物的ストレスに対する耐性を高める方法を提供する。また、種子の発芽を阻害することなく、また化学合成農薬等の薬剤を用いることなく種子の消毒処理を行える方法を提供する。
【解決手段】浸透圧が0.5〜4MPaの範囲の水溶液に種子を浸漬する。種子の浸漬時間としては、3時間〜120時間の範囲が好ましい。また使用する水溶液としては、ポリエチレングリコール、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール類;硝酸カリウム等の硝酸塩、リン酸カリウム等のリン酸塩、炭酸カルシウムや塩化ナトリウムの少なくとも1つを含有する水溶液が好ましい。種子の消毒処理は、前記の水溶液に種子を浸漬した後、種子を温湯処理すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子のストレスに対する耐性を強化する方法、及び種子を消毒処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農作物の栽培において、温度や水分などの物理的ストレス、及び病害虫や雑草などの生物的ストレスに耐える丈夫な苗を育てることは極めて重要である。丈夫な苗を育てるためには、ストレスに強い性質を持った種子を用いる必要がある。ストレスに強い種子を生産・流通する技術が開発できれば、農薬使用量の削減及び収量や品質の安定化が図れ、農業生産に大きく寄与できる。
【0003】
例えば、従来から行われている、種子を温水に浸漬させて種子伝染性病害を抑える温湯処理において、病害を十分に防止するには温水の温度を高くする必要があるが、温水の温度を高くすると種子の発芽不良が生じる。水稲を用いた試験によると、温度62℃の温湯処理では、良好な病害防除効果が得られるものの、種子の発芽不良が見られ、温度58℃の温湯処理では、種子の発芽に影響はないものの、病害防除効果に低下が見られ、さらに、温度60℃の温湯処理では、種子の発芽及び病害防除が共に不十分であったとの結果が報告されている。
【0004】
このことは、水稲において病原菌の死滅温度と種子の死滅温度とが近接していること示している。そうすると、種子の耐熱性を数℃でも上げることができれば、病原菌の死滅温度と種子の死滅温度との温度差が広がり、種子の発芽等に影響を与えることなく、温湯処理によって病害の防除を行えるようになる。
【0005】
耐熱性などの種子のストレス耐性を強化するには、遺伝子組み換え手法を用いることも可能であり、実際にそのような研究開発も種々行われている。しかし、遺伝子組み換えを用いた場合、ストレス耐性を強化する対象の品種毎に遺伝子組み換え体を作出する必要があり、多大な労力、時間を要する。また、遺伝子組み換え処理された種子の栽培については、健康や環境に悪影響があるのではと不安を抱く者も多く、消費者、生産者、行政などの間で時間をかけて合意形成すべき問題であって、わが国において早期に実用化できる農業技術とはいえない。それゆえ、遺伝子組み換え手法を用いずに、種子のストレス耐性を高める技術の創出が強く望まれている。
【特許文献1】特開平7−255218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような現状を踏まえてなされたものであり、その目的とするところは、遺伝子組み換え手法を用いずに、種子のストレス耐性を高める方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、種子の発芽等を阻害することなく、また化学合成農薬等の薬剤を用いることなく種子の消毒処理を行える方法を提供することにある。
【0008】
さらに、本発明の他の目的は、薬剤を使用せずに殺菌消毒された種子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、種子に対して含水量を制限するというストレスを与えることによって、物理的ストレスや生物的ストレスに対する耐性が誘発されるという新たな知見を得て本発明をなすに至った。すなわち、本発明に係る種子のストレス耐性強化方法は、浸透圧が0.5〜4MPaの範囲の水溶液に種子を浸漬することを特徴とする。
【0010】
種子の浸漬時間としては、3時間〜120時間の範囲が好ましい。また使用する水溶液としては、ポリエチレングリコール、マンニトール、ソルビトール、硝酸カリウム、リン酸カリウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウムの少なくとも1つを含有する水溶液が好ましい。
【0011】
ストレス耐性を強化した種子を保存する観点からは、前記水溶液に種子を浸漬させた後、種子を水洗し、乾燥させるのが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、浸透圧が0.5〜4MPaの範囲の水溶液に種子を浸漬する工程と、前記種子を温湯処理する工程とを有することを特徴とする種子の消毒処理方法が提供される。
【0013】
前記温湯処理の温度は45〜70℃の範囲が好ましく、温湯処理の時間は1分〜60分の範囲が好ましい。また、ストレス耐性を付与した種子であっても、長期間にわたり水分を含んだ状態で高温下に放置すると、発芽不良が起こる可能性があるため、前記の温湯処理後、種子を冷却するのが好ましい。
【0014】
さらに、本発明によれば、前記のいずれかに記載の方法で処理された種子が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る種子のストレス耐性強化方法では、遺伝子組み換え手法を用いることなく、所定範囲の浸透圧の水溶液に種子を浸漬するという簡単な処理によって、種子のストレス耐性を高めることができる。これにより、大きなコストや長期間の開発期間を要することなく、また、健康や環境への悪影響の心配もなく、農薬使用量の削減及び収量や品質の安定化が図れる。
【0016】
また、本発明に係る種子の消毒処理では、種子のストレス耐性を強化した後、温湯処理を行うので、発芽不良等を招くことなく、通常の処理温度よりも高い温度で温湯処理を行うことができ、病害の防除を確実に行えるようになる。
【0017】
さらに、本発明の種子では、遺伝子組み換え手法を用いることなく、ストレス耐性が強化され、また薬剤を使用することなく殺菌消毒がなされているので、農薬使用量の削減及び収量や品質の安定化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る種子のストレス耐性強化方法の大きな特徴は、所定範囲の浸透圧を有する水溶液に種子を浸漬することにある。所定範囲の浸透圧の水溶液に種子を浸漬すると、種子の含水量が制限される。水溶液の浸透圧が高いほど種子の含水量は低く制限される。このようなストレスを種子に与えることによって、物理的ストレスや生物的ストレスに対する耐性が誘発される。
【0019】
上記方法によって種子にストレス耐性が誘発される具体的機構は未だ明確ではないが、次のような機構であろうと推測される。植物のストレス耐性には、活性酸素消去系が中心的に関わっていることが分かってきつつある。実際に、遺伝子組み換え操作により作物に活性酸素消去酵素遺伝子を導入し、植物体のストレス耐性を高める研究では、水稲におけるカラターゼ高発現体形質転換体での塩分耐性の向上や、アスコルビン酸パーオキシターゼ高発現体の低温耐性の向上などが報告されている。
【0020】
一方、本発明者等の実験によれば、種子に対して含水量を制限してストレスを与えると、種子中の活性酸素生成が促進されることはわかっている。活性酸素は、シグナリオン分子として生物の活性酸素消去能を向上させることは、動植物を通じた多くの実験系で認められている。そうすると、種子に対して含水量を制限してストレスを与えることで、種子中に活性酸素が生成され、これによって活性酸素消去能が高まりストレス耐性が向上するものと考えられる。
【0021】
そこで、本発明者等は実際に次の実験を行い、種子の活性酸素消去能の経時的変化を測定した。
【0022】
(活性酸素消去能の測定)
乾燥した水稲(品種:コシヒカリ)種子を浸透圧2MPaのポリエチレングリコール(以下「PEG」と記すことがある)水溶液に24時間浸漬した。その後、種子を流水で10分間洗浄し、20分間通風乾燥した。そして、飽和塩化リチウム溶液で空気中の湿度を11%に保持したデシケータ内に7日間放置し再乾燥させた。
次に、再乾燥した種子を不織布袋に入れ、温度60℃の温湯に40分間浸漬させて温湯処理を行った。温湯処理後、直ちに10分間流水で冷却し、ペーパータオルで水気を切って発芽試験を行った。
このような種子の各処理の間、定期的にサンプリングを行い、脱頴して−80℃で冷凍保存し、xyz活性酸素消去発光法によって活性酸素消去能を測定した。測定結果を図1に示す。なお、xyz活性酸素消去発光法は、活性酸素(x:2%H2O2)に抗酸化物質(y:種子)と触媒(z:2%CH3CHO KHCO3飽和溶液)が作用し、発光する際のフォトン量(ph/pix s)を測定するものである。
【0023】
図1から理解されるように、種子中の活性酸素消去能は、PEG水溶液への浸漬過程で確かに増加している。そして、PEG水溶液への浸漬工程によって増加した活性酸素消去能は、乾燥工程の間も維持され、温湯処理によって一時的にさらに増加した後、通常の種子と同じ水準となった。
【0024】
本発明のストレス耐性強化方法で用いる水溶液の溶質としては、特に限定はないが、通常は、ポリエチレングリコールやマンニトール、ソルビトール等の糖アルコール類;硝酸カリウム等の硝酸塩やリン酸カリウム等のリン酸塩、あるいは炭酸カルシウムや塩化ナトリウム等が好ましい。
【0025】
また、水溶液の浸透圧は0.5〜4MPaの範囲である必要がある。水溶液の浸透圧が0.5MPaよりも小さいと、種子の含水率が高くなるため、処理中に発芽準備が進み、処理中に種子が発芽したり、ストレス耐性がかえって低下するという問題がある。他方、水溶液の浸透圧が4MPaより大きいと、ストレス耐性の誘導に十分な水分を種子が吸収できないという問題がある。より好ましい水溶液の浸透圧は1〜4MPaの範囲である。
【0026】
なお、浸透圧の測定は、溶質が多価アルコール等のポリマーである場合は、例えば、ミッチェル等の研究(Plant Physiol Vol.51:914-916、1973)で明らかにされた、水1kg当たりの溶質量C(g)及び液温Tと浸透圧ψ(bar)の関係を示す次式、
ψ(bar)=-(1.18×10−2)C−(1.18×10−4)C2+(2.67×10−4)CT+(8.39×10−7)C2T
において、特に記載していない限り液温Tを15℃として算出すればよい。
一方、溶質がポリマーではない無機塩類等の場合は、例えば、ファント・ホッフによる次式、
PV = nRT
(P:浸透圧、n:溶質のモル数、V:溶液の体積、T:絶対温度、R:気体定数)
により、特に記載していない限り液温を15℃として算出すればよい。
【0027】
次に、本発明者等は、種子を浸漬させる水溶液の浸透圧と浸漬時間との関係について検討を行った。まず、コシヒカリ種子を用いて、この種子を、浸透圧1,2,3,4MPaのPEG水溶液に0,24,72,120時間浸漬した。その後、種子を流水で10分間洗浄し、20分間通風乾燥した。そして、飽和塩化リチウム溶液で空気中の湿度を11%に保持したデシケータ内に7日間放置し再乾燥させた。次に、再乾燥した種子を不織布袋に入れ、温度60℃の温湯に40分間浸漬させて温湯処理を行った。温湯処理後、直ちに10分間流水で冷却し、ペーパータオルで水気を切って発芽試験を行った。
発芽試験は、90mmのシャーレ内の湿潤濾紙上に、前記処理した種子50粒を播き、30℃光条件(光強度:6.5〜13.5μmmol・S-1/m-2)のインキューベータ内に置いて7日後の発芽率を測定した。結果を図2に示す。
【0028】
図2は、縦軸を発芽率とし、横軸をPEG水溶液への浸漬時間として、PEG水溶液の浸透圧ごとに、浸漬時間に対する発芽率の変化をプロットしたものである。浸透圧1MPaのPEG水溶液を除き、浸透圧2,3,4MPaのPEG水溶液の浸漬処理では、浸漬時間が24時間で発芽率は約95%と最大値を示し、その後、浸漬時間が長くなると発芽率は低下する傾向が見られた。
【0029】
一方、浸透圧1MPaのPEG水溶液の浸漬処理では、24時間浸漬処理した種子は発芽率が約60%と、浸漬処理しない種子と差がなく、その後72時間、120時間浸漬処理した種子は発芽率が0%であった。これは次のような原因によるものであると推測される。すなわち、水溶液の浸透圧が低いほど種子は吸水しやすくなり、種子の含水量は増加する。また浸漬時間が長くなるほど種子の含水量は増加する。このため、浸透圧1MPaのPEG水溶液の浸漬処理では、浸漬時間が24時間でも種子の含水量が十分に多くなってしまい、耐性強化に必要なストレスを種子に与えられなかった。そして、24時間を超えて長時間浸漬されることによって、種子の含水量が多くなって種子の発芽準備が促進され、これに伴い熱や乾燥等に対する耐性が著しく低下し種子は死滅したと考えられる。そうすると、浸透圧1MPaのPEG水溶液の浸漬処理では、浸漬時間を24時間未満、例えば12時間にすれば発芽率は60%よりも大きな値となるであろうことが予測され、本発明者等は今後このような確認実験を行う予定である。
【0030】
以上の実験結果及び発明者等の推測によれば、発芽率は、浸漬時間とともに高くなり、最大値となった後低くなる、いわゆる上に凸の曲線形状を描くと考えられ、さらに発芽率の最大値は、水溶液の浸透圧が低いほど浸漬時間の短いところに現れると考えられる。種子の浸漬時間は、このような傾向を踏まえた上で、浸漬する水溶液の浸透圧及び種子の種類などから適宜決定すればよく、通常は、5時間〜120時間の範囲が好ましい。
【0031】
本発明のストレス耐性強化方法では、所定範囲の浸透圧の水溶液に種子を所定時間浸漬した後、乾燥させるのが好ましい。これによって、活性酸素消去能が高まりストレス耐性が向上する。乾燥方法は、前述の調湿されたデシケータに放置する方法に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。また、乾燥時間に限定はなく、種子の種類や含水量などから適宜決定すればよい。
【0032】
本発明の方法が適用できる種子としては、例えば、レタス、ゴボウ等のキク科作物、ネギ、タマネギ、ニラ等のユリ科作物、カンラン、ハクサイ、ダイコン等のアブラナ科作物、ナス、トマト、台木ナス、トウガラシ等のナス科作物、ニンジン、セロリ、パセリ等のセリ科作物、テンサイ、ホウレンソウ等のアカザ科作物、キュウリ、メロン等のウリ科作物、スイートコーン等のイネ科作物等の野菜種子;ユーストマ、パンジー、ベゴニア等の花種子;ギニアグラス、ローズグラス等の牧草種子;イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等の穀物種子;ユーカリ等の樹木種子;ダイズ、エンドウ等の豆科作物、ヒマワリ等のキク科作物、ソバ等のタデ科作物、食用のアワ、キビ、ヒエ等のイネ科作物の食用および工芸作物等の種子が挙げられる。
【0033】
次に、本発明に係る種子の消毒処理方法について説明する。この消毒処理方法は、前述の方法によってストレスに対する耐性が強化された種子を、温湯処理することが大きな特徴である。これにより、従来の温湯処理に比べて高い温度で温湯処理することが可能となり、発芽不良等を招くことなく病害の防除を効果的に行えるようになる。
【0034】
以下、本発明者等の行った実験に基づき本発明の消毒処理方法を説明する。まず、浸透圧4MPaのPEG水溶液に24時間浸漬した水稲(品種:コシヒカリ)種子を、前記と同様に、流水で10分間洗浄し、20分間通風乾燥した後、飽和塩化リチウム溶液で空気中の湿度を11%に保持したデシケータ内に7日間放置し再乾燥させた。次に、再乾燥した種子を不織布袋に入れ、温度55,60,65℃の温湯に各8段階の浸漬時間で温湯処理を行った。温湯処理後、直ちに10分間流水で冷却し、ペーパータオルで水気を切って発芽試験を行った。発芽試験は、前述と同様の方法で行った。
【0035】
種子の耐熱性評価として、耐熱性モデル(武山ら,日作紀,76 別 1,36-37,2007)に基づき、発芽率が95%となる温湯温度−浸漬時間の回帰式を求め、この回帰式から温湯処理の時間と限界温湯温度との関係、及び温湯処理の温度と限界温湯時間との関係を算出した。算出結果を表1及び表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1は、温湯処理の時間を5分,10分,・・・30分と変えたときの、発芽率が95%となる限界温湯温度である。例えば、温湯処理時間が15分間の場合、限界温湯温度は、通常の種子では60.6℃であるのに対し、耐性強化処理を行った種子では限界温湯温度は62.1℃と通常の種子に比べ1.5℃も高くなっていることがわかる。その他の各温湯処理時間においても、限界温湯温度は、耐性強化処理を行った種子の方が、通常の種子よりも1.3℃〜1.7℃高い温度であった。
【0039】
また表2は、温湯処理の温度を55℃,56℃,・・・65℃と変えたときの、発芽率が95%となる限界温湯時間である。例えば、温湯処理温度が60℃の場合、限界温湯時間は、通常の種子では17.0分間であるのに対し、耐性強化処理を行った種子では21.7分間と通常の種子に比べ4.7分も長くなっていることがわかる。その他の温湯処理温度においても、限界温湯時間は、耐性強化処理を行った種子の方が、通常の種子よりも2.3〜9.6分間長くなった。
【0040】
以上のように、前述の耐性強化処理を行うことによって種子の熱に対する耐性が向上し、温湯処理の温度をより高く、そして処理時間をより長くできることが実験的に確かめられた。
【0041】
温湯処理の具体的条件は、種子の種類や防除したい病害の種類などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、水稲種子の場合、イネばか苗病、イネいもち病、イネもみ枯細菌病及びイネ苗立枯細菌病等の主要な種子伝染性病害の防除には、温度60℃で5〜10分間程度の温湯処理が有効とされている。温湯処理温度としては、通常、45〜70℃の範囲が好ましく、温湯処理時間としては、通常、1分〜60分の範囲が好ましい。
【0042】
温湯処理において、種子を浸漬させる液体には通常は水を使用するが、所定の溶質を含む水溶液を使用しても構わない。例えば、ストレス耐性強化処理で用いた水溶液をそのまま温湯処理に用いてもよい。すなわち、所定の浸透圧の水溶液に種子を浸漬させて、種子のストレス耐性強化をした後、種子を浸漬させた水溶液を温湯処理温度まで加熱し、温湯処理を行うのである。このような方法によれば、ストレス耐性強化と温湯処理とを同じ水溶液で行うことができ、作業性及び生産性の向上が図れる。
【0043】
また、本発明の消毒処理方法では、温湯処理後、種子を直ちに冷却するのが望ましい。温湯処理後の残熱によって種子の発芽が阻害されるのを防止するためである。冷却方法に特に限定はないが、流水による冷却が冷却効率や簡便性などの点で推奨される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る方法によれば、温度や乾燥等のストレスに対して強い種子が得られ、農薬使用量の削減及び収量や品質の安定化が図れ、農業生産に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】各種処理における活性酸素消去能の経時的変化を示す図である。
【図2】PEG水溶液への種子の浸漬時間と発芽率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透圧が0.5〜4MPaの範囲の水溶液に種子を浸漬することを特徴とする種子のストレス耐性強化方法。
【請求項2】
種子の浸漬時間が3時間〜120時間の範囲である請求項1記載の種子のストレス耐性強化方法。
【請求項3】
前記水溶液が、ポリエチレングリコール、マンニトール、ソルビトール、硝酸カリウム、リン酸カリウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウムの少なくとも1つを含有する水溶液である請求項1記載のストレス耐性強化方法。
【請求項4】
前記水溶液に種子を浸漬させた後、種子を乾燥させる請求項1〜3のいずれかに記載のストレス耐性強化方法。
【請求項5】
浸透圧が0.5〜4MPaの範囲の水溶液に種子を浸漬する工程と、前記種子を温湯処理する工程を有することを特徴とする種子の消毒処理方法。
【請求項6】
前記温湯処理の温度が45〜70℃の範囲であり、温湯処理の時間が1分〜60分の範囲である請求項5記載の種子の消毒処理方法。
【請求項7】
前記の温湯処理後、種子を冷却する請求項5又は6記載の種子の消毒処理方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法で処理された種子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−225696(P2009−225696A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72787(P2008−72787)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(596005964)住化農業資材株式会社 (29)
【出願人】(507157045)公立大学法人福井県立大学 (22)
【Fターム(参考)】