説明

種子の消毒方法及びその装置

【課題】消毒処理能力を一層高くする。
【解決手段】種籾消毒装置10では、種籾14が、処理トラフ24に流下されて処理トラフ24の通気部28上を搬送されることで、蒸気により加熱されて消毒される。さらに、種籾14が、処理トラフ24から排出ホッパ62を介して排出管66に供給されることで、排出管66に送風された空気によって冷却されて乾燥される。ここで、処理トラフ24が往復振動されることで、処理トラフ24上の種籾14が、効果的に、薄層状(特に単層状)に均一に分散できると共に、転動できる。このため、種籾14を均一に加熱して消毒でき、消毒処理能力を一層高くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子を消毒する種子の消毒方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲の種子(種籾)の伝染性病害(いもち病、ばか苗病、苗立枯細菌病、籾枯細菌病、ごま葉枯病、褐条病等)に対する対策(消毒)は、その重要性から高い防除効果が求められている。
【0003】
下記特許文献1に記載された種籾消毒装置では、照射トレーに収容された種籾を、蒸気の照射によって加熱して消毒する。これにより、消毒処理能力が高くされている。
【0004】
ここで、このような種籾消毒装置では、消毒処理能力を一層高くできるのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−213364公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、消毒処理能力を一層高くできる種子の消毒方法及びその装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の種子の消毒方法は、種子を分散させた状態で転動させつつ蒸気により加熱して消毒する。
【0008】
請求項2に記載の種子の消毒方法は、請求項1に記載の種子の消毒方法において、種子を消毒した後に冷却する。
【0009】
請求項3に記載の種子の消毒装置は、種子を分散させた状態で転動させる転動手段と、前記転動手段が分散させた状態で転動させる種子を蒸気により加熱して消毒する加熱手段と、を備えている。
【0010】
請求項4に記載の種子の消毒装置は、請求項3に記載の種子の消毒装置において、前記加熱手段が消毒した種子を冷却する冷却手段を備えている。
【0011】
請求項5に記載の種子の消毒装置は、請求項3又は請求項4に記載の種子の消毒装置において、前記転動手段は、種子が載置される載置部材を有し、前記載置部材を種子転動方向に平行に往復振動させることで種子を分散させた状態で転動させる。
【0012】
請求項6に記載の種子の消毒装置は、請求項5に記載の種子の消毒装置において、前記転動手段が種子を一側へ搬送し、かつ、前記載置部材を一側に向かうに従い下側に向かう方向へ傾斜させている。
【0013】
請求項7に記載の種子の消毒装置は、請求項3〜請求項6の何れか1項に記載の種子の消毒装置において、前記転動手段に種子の量を制御しつつ供給する供給手段を備えている。
【0014】
請求項8に記載の種子の消毒装置は、請求項7に記載の種子の消毒装置において、前記転動手段が種子を一側へ搬送し、かつ、前記供給手段が前記転動手段に種子を供給する供給位置の一側における側方に前記加熱手段が種子を加熱する加熱位置を配置している。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の種子の消毒方法では、種子を蒸気により加熱して消毒する。このため、短時間で良好に種子を消毒することができ、消毒処理能力を高くできる。
【0016】
ここで、種子を分散させた状態で転動させつつ蒸気により加熱して消毒するため、種子を均一に加熱して消毒できる。このため、消毒処理能力を一層高くできる。
【0017】
請求項2に記載の種子の消毒方法では、種子を消毒した後に冷却する。このため、短時間で種子を乾燥させることができ、種子の発芽率の低下を抑制できる。
【0018】
請求項3に記載の種子の消毒装置では、加熱手段が種子を蒸気により加熱して消毒する。このため、短時間で良好に種子を消毒することができ、消毒処理能力を高くできる。
【0019】
ここで、転動手段が分散させた状態で転動させる種子を加熱手段が蒸気により加熱して消毒するため、種子を均一に加熱して消毒できる。このため、消毒処理能力を一層高くできる。
【0020】
請求項4に記載の種子の消毒装置では、加熱手段が消毒した種子を、冷却手段が冷却する。このため、短時間で種子を乾燥させることができ、種子の発芽率の低下を抑制できる。
【0021】
請求項5に記載の種子の消毒装置では、転動手段の載置部材に種子が載置され、かつ、転動手段が、載置部材を種子転動方向に平行に往復振動させることで、種子を分散させた状態で転動させる。このため、種子を効果的に分散かつ転動させることができ、種子を効果的に均一に加熱して消毒できる。
【0022】
請求項6に記載の種子の消毒装置では、転動手段が種子を一側へ搬送する。
【0023】
ここで、載置部材が一側に向かうに従い下側へ向かう方向へ傾斜されている。このため、種子の搬送速度を安定させることができて、種子の加熱時間を安定させることができ、種子を効果的に均一に加熱して消毒できる。
【0024】
請求項7に記載の種子の消毒装置では、供給手段が転動手段に種子の量を制御しつつ供給する。このため、転動手段に供給する種子の量を安定させることができて、種子を効果的に均一に加熱して消毒できる。
【0025】
請求項8に記載の種子の消毒装置では、転動手段が種子を一側へ搬送する。
【0026】
ここで、供給手段が転動手段に種子を供給する供給位置の一側における側方に、加熱手段が種子を加熱する加熱位置が配置されている。このため、種子が加熱位置に到達する前に加熱手段によって加熱された転動手段によって加熱されることを抑制でき、種子の加熱温度を容易に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る種籾消毒装置を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る種籾消毒装置における種籾の発芽率に関する実験例の結果を示す表である。
【図3】本発明の実施の形態に係る種籾消毒装置における種籾のいもち病に関する実験例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1には、本発明の種子の消毒方法及びその装置が適用されて構成された実施の形態に係る種籾消毒装置10が側面図にて示されている。なお、図面では、種籾消毒装置10の前方を矢印FRで示し、種籾消毒装置10の上方を矢印UPで示す。
【0029】
本実施の形態に係る種籾消毒装置10は、投入手段としての漏斗状の投入ホッパ12(原料ホッパ)が設けられており、投入ホッパ12には、上側(大径部側)から種子としての種籾14(水稲の種子)が投入される。
【0030】
投入ホッパ12の下側には、供給手段としての供給振動フィーダ16(定量供給用振動フィーダ)が設けられている。
【0031】
供給振動フィーダ16には、供給部材しての長尺板状の供給トラフ18が設けられており、供給トラフ18は、長手方向を前後方向側へ向けて配置されている。供給トラフ18は、幅方向に沿った断面がU字状にされており、供給トラフ18の底壁18Aは、平板状にされている。供給トラフ18の底壁18Aは、投入ホッパ12の下側近傍に配置されており、投入ホッパ12に投入された種籾14は、投入ホッパ12の下端(小径部)から、供給トラフ18の底壁18A上に流下される。
【0032】
供給トラフ18の下側には、供給振動装置20が接続されており、供給振動装置20は供給トラフ18を長手方向(前後方向側)へ往復振動させる。このため、供給トラフ18の底壁18A上に流下された種籾14が、供給トラフ18の底壁18A上において、薄層状(特に単層状)に均一に分散されると共に、転動され、かつ、前側へ徐々に搬送される。これにより、供給トラフ18(底壁18A)の前端から種籾14が流下される。
【0033】
供給トラフ18は、前方へ向かうに従い下方へ向かう方向へ僅かに傾斜されている。これにより、供給トラフ18の底壁18A上の種籾14に供給トラフ18の往復振動による前側への搬送力のみならず重力による前側への移動力も作用されて、供給トラフ18の前端からの種籾14の流下量(単位時間当たりの流下量)が一定に制御される。
【0034】
供給振動フィーダ16の下側には、転動手段としての処理振動フィーダ22(処理時間調整用振動フィーダ)が設けられている。
【0035】
処理振動フィーダ22には、載置部材しての長尺板状の処理トラフ24が設けられており、処理トラフ24は、長手方向を前後方向側へ向けて配置されている。処理トラフ24は、幅方向に沿った断面がU字状にされており、処理トラフ24の底壁24Aは、平板状にされている。処理トラフ24は、供給トラフ18の下側に配置されると共に、供給トラフ18に対し前側に突出されており、供給トラフ18(底壁18A)の前端からの種籾14は、全て処理トラフ24の底壁24A上に流下(供給)される。
【0036】
処理トラフ24の下側には、処理振動装置26が接続されており、処理振動装置26は処理トラフ24を長手方向(前後方向側)へ往復振動させる。このため、処理トラフ24の底壁24A上に流下された種籾14が、処理トラフ24の底壁24A上において、薄層状(特に単層状)に均一に分散されると共に、転動され、かつ、前側へ徐々に搬送される。これにより、処理トラフ24の前端から種籾14が流下される。
【0037】
処理トラフ24は、前方へ向かうに従い下方へ向かう方向へ僅かに傾斜されている。これにより、処理トラフ24の底壁24A上の種籾14に処理トラフ24の往復振動による前側への搬送力のみならず重力による前側への移動力も作用されて、種籾14が処理トラフ24の底壁24A上を前側へ搬送される速度が一定に制御される。
【0038】
処理トラフ24の底壁24Aの前端部には、供給トラフ18の前端の前側近傍において、処理部としての通気部28(多孔板等の多孔部又はメッシュ部)が設けられており、供給トラフ18(底壁18A)の前端からの種籾14は、処理トラフ24の通気部28後側近傍における底壁24A上に流下される。通気部28には、多数の通気孔28Aが間隔を最大限に小さくされて貫通形成されており、通気孔28Aは種籾14に比し小さくされて、通気部28上の種籾14が通気孔28Aを介して落下不能にされている。
【0039】
処理トラフ24の通気部28には、加熱手段としての加熱装置30が設置されている。
【0040】
加熱装置30には、矩形筒状の加熱筒32が設けられており、加熱筒32内には、処理トラフ24の通気部28が収容されている。加熱筒32は、処理トラフ24の往復振動を許容すると共に、処理トラフ24の前端は、加熱筒32から前側に僅かに突出されている。
【0041】
加熱装置30には、蒸気供給手段としての蒸気供給装置34が設けられており、蒸気供給装置34は、加熱筒32の下側に接続されている。
【0042】
蒸気供給装置34には、漏斗状の送気ホッパ36が設けられており、送気ホッパ36の上端(大径部)は、加熱筒32の下端に密閉接続されている。送気ホッパ36の下端(小径部)には、送気管38の一端が接続されており、送気管38の中間部には、一端側から他端側へ向かうに従い、蒸気過熱手段としての2次ヒータ40及び空気過熱手段としての1次ヒータ42がこの順で設けられている。
【0043】
送気管38には、2次ヒータ40と1次ヒータ42との間において、蒸気管44の一端が接続されており、蒸気管44の他端には、蒸気発生手段としてのボイラ46が接続されている。ボイラ46は、水蒸気(例えば乾球温度及び湿球温度が100℃で湿度が100%の飽和水蒸気)を発生すると共に、水蒸気を蒸気管44を介して送気管38に供給する。
【0044】
送気管38の他端には、送風手段としての第1ブロワ48が接続されており、第1ブロワ48は、送気管38に常温の空気を送風する。
【0045】
第1ブロワ48から送気管38に送風された空気は、1次ヒータ42によって所定空気温度(例えば200℃)に過熱される。さらに、1次ヒータ42から送気管38に送風された空気は、ボイラ46から蒸気管44を介して送気管38に供給される水蒸気が割合を制御されつつ混合されて、蒸気にされる。その後、送気管38に送風される蒸気が、2次ヒータ40によって過熱されて、所定蒸気温度(例えば乾球温度が100℃以上300℃以下(120以上250℃以下が好ましい)かつ湿球温度が80℃以上90℃以下で湿度が50%程度)かつ所定露点温度(例えば湿球温度が60℃以上95℃以下)の蒸気にされる。
【0046】
このため、2次ヒータ40からの所定蒸気温度かつ所定露点温度の蒸気が、送気管38から送気ホッパ36を介して加熱筒32内に下側から送風されて、処理トラフ24の通気部28における多数の通気孔28Aを介して通気部28の上側に送風される。これにより、加熱筒32内の通気部28上側が蒸気雰囲気にされて、通気部28上の種籾14に当該蒸気が所定加熱時間(種籾14が通気部28上を前側へ搬送される時間であり、例えば2秒以上8秒以下(特に3秒以下)の短時間)曝露される。
【0047】
常温の種籾14に所定蒸気温度かつ所定露点温度の蒸気が曝露されると、種籾14の表面で結露(凝縮)が生じて湿熱により種籾14の表面温度が所定露点温度まで速やかに上昇すると共に、種籾14の表面に結露した水分が蒸発するまで種籾14の表面温度が所定露点温度に維持される。なお、種籾14に当該蒸気が曝露され続けて種籾14の表面に結露した水分が蒸発すると、種籾14の表面温度が、所定露点温度を越えて上昇して、最終的に所定蒸気温度に達する。
【0048】
これにより、通気部28上の種籾14に所定蒸気温度かつ所定露点温度の蒸気が所定加熱時間(種籾14の表面に結露する水分が蒸発する前までの時間)曝露されることで、種籾14が高過ぎない所定露点温度で湿熱により効率良く加熱されて消毒される(種籾14の表面に付着する又は種籾14の籾殻と種皮(玄米の表面皮)との間に潜む菌(病原菌)が殺菌される)。また、当該蒸気が所定蒸気温度に制御されることで、種籾14の表面に結露する水分の量が制御されて、種籾14の表面の性状に影響が出ることが抑制される。さらに、種籾14に当該蒸気が曝露される時間が所定加熱時間(短時間)にされることで、種籾14の内部(玄米)において温度が上昇して含水率が変化する前(種籾14の内部がダメージを受ける前)に、種籾14の加熱が終了される。
【0049】
加熱装置30には、蒸気排出手段としての蒸気排出装置50が設けられており、蒸気排出装置50は、加熱筒32の上側に接続されている。
【0050】
蒸気排出装置50には、漏斗状の排気ホッパ52が設けられており、排気ホッパ52の下端(大径部)は、加熱筒32の上端に接続されている。なお、排気ホッパ52の下端と加熱筒32の上端との間は、密閉されても密閉されなくてもよい。
【0051】
排気ホッパ52の上端(小径部)には、排気手段を構成する排気エジェクタ54が接続されており、排気エジェクタ54は、排気管56の中間部に設けられている。排気管56の一端には、排気手段を構成する第2ブロワ58が接続されており、第2ブロワ58は、排気管56に空気を送風する。このため、加熱筒32内の蒸気が、排気エジェクタ54によって排気ホッパ52から排気管56に吸引されて、排気管56を送風される空気と共に排気管56の他端から排気される。
【0052】
処理トラフ24の前側には、冷却手段及び排出手段としての冷却装置60が設置されている。
【0053】
冷却装置60には、漏斗状の排出ホッパ62が設けられている。排出ホッパ62の上端(大径部)の上側には、処理トラフ24の前端が配置されており、処理トラフ24の前端からの種籾14は、全て排出ホッパ62に流下される。
【0054】
排出ホッパ62の下端(小径部)には、排出エジェクタ64が接続されており、排出エジェクタ64は、排出管66の中間部に設けられている。排出管66の一端には、第3ブロワ68が接続されており、第3ブロワ68は、排出管66に常温の空気を送風する。このため、排出ホッパ62に流下された種籾14が、排出エジェクタ64によって排出ホッパ62から排出管66に吸引されて、排出管66を送風される空気によって搬送(移送)されることで、排出管66の他端から排出される。
【0055】
また、処理トラフ24の前端から流下される種籾14の表面に結露した水分は、種籾14の表面温度が常温に比し高いことにより蒸発する。さらに、排出管66を搬送される種籾14は、排出管66を送風される空気によって冷却される。これにより、種籾14が保存に適した水分に乾燥される。
【0056】
排出管66の他端には、回収手段としての回収箱70に接続されており、回収箱70内には、排出管66の他端から排出された種籾14が回収(収容)される。なお、仮に回収箱70内の種籾14の乾燥が不十分である場合には、冷却手段としてのファン等(図示省略)によって回収箱70内に常温の空気を短時間通風することで、種籾14を冷却して乾燥してもよい。
【0057】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0058】
以上の構成の種籾消毒装置10では、投入ホッパ12に上側から種籾14が投入されることで、投入ホッパ12の下端から供給振動フィーダ16の供給トラフ18の底壁18A上に種籾14が流下される。
【0059】
供給振動フィーダ16では、供給振動装置20が供給トラフ18を長手方向へ往復振動させることで、供給トラフ18の底壁18A上に流下された種籾14が、薄層状(特に単層状)に均一に分散されると共に、転動され、かつ、前側へ徐々に搬送される。これにより、供給トラフ18の前端から種籾14が流下されることで、処理振動フィーダ22の処理トラフ24の底壁24A上に種籾14が流下される。
【0060】
処理振動フィーダ22では、処理振動装置26が処理トラフ24を長手方向へ往復振動させることで、処理トラフ24の底壁24A上に流下された種籾14が、薄層状(特に単層状)に均一に分散されると共に、転動され、かつ、前側へ徐々に搬送される。これにより、処理トラフ24の前端から種籾14が流下されることで、冷却装置60の排出ホッパ62に種籾14が流下される。
【0061】
また、加熱装置30の蒸気供給装置34では、第1ブロワ48が送気管38に常温の空気を送風すると共に、第1ブロワ48から送気管38に送風された空気が1次ヒータ42によって所定空気温度に過熱される。さらに、ボイラ46が水蒸気を発生して蒸気管44を介して送気管38に供給する。このため、所定空気温度に過熱された空気が水蒸気を混合されて蒸気にされる。その後、送気管38に送風される蒸気が2次ヒータ40によって過熱されて、所定蒸気温度かつ所定露点温度の蒸気にされる。これにより、所定蒸気温度かつ所定露点温度の蒸気が、送気管38から送気ホッパ36を介して加熱筒32内に下側から送風されて、処理トラフ24の通気部28における多数の通気孔28Aを介して通気部28の上側に送風される。
【0062】
したがって、上述の如く処理トラフ24の通気部28上を前側へ徐々に搬送される種籾14に所定蒸気温度かつ所定露点温度の蒸気が所定加熱時間曝露される。このため、種籾14の表面で結露が生じて湿熱により種籾14の表面温度が所定露点温度まで速やかに上昇すると共に、種籾14の表面温度が所定露点温度に維持されることで、種籾14が所定露点温度で所定加熱時間加熱されて消毒される。
【0063】
また、加熱装置30の蒸気排出装置50では、第2ブロワ58が排気管56に空気を送風することで、加熱筒32内の蒸気が、排気エジェクタ54によって排気ホッパ52から排気管56に吸引されて、排気管56を送風される空気と共に排気管56の他端から排気される。
【0064】
冷却装置60では、第3ブロワ68が排出管66に常温の空気を送風することで、上述の如く排出ホッパ62に流下された種籾14が、排出エジェクタ64によって排出ホッパ62から排出管66に吸引されて、排出管66を送風される空気によって搬送される。このため、種籾14が、排出管66の他端から排出されて、回収箱70内に回収される。
【0065】
また、処理トラフ24の前端から流下される種籾14の表面に結露した水分は、種籾14の表面温度が常温に比し高いことにより蒸発する。さらに、排出管66を搬送される種籾14は、排出管66に送風された空気によって冷却される。これにより、種籾14が保存に適した水分に乾燥される。
【0066】
ところで、上述の如く、加熱装置30が処理トラフ24の通気部28上の種籾14を蒸気により加熱して消毒する。このため、短時間で良好に種籾14を消毒することができ、消毒処理能力を高くできる。
【0067】
さらに、消毒した種籾14を、冷却装置60の排出管66に送風された空気によって冷却する。このため、短時間で種籾14を乾燥させることができ、種籾14の発芽率の低下を抑制できる。
【0068】
ここで、処理振動フィーダ22において処理振動装置26が処理トラフ24を長手方向へ往復振動させることで、処理トラフ24の底壁24A上の種籾14が、効果的に、薄層状(特に単層状)に均一に分散できると共に、転動できる。このため、種籾14を均一に加熱して消毒でき、消毒処理能力を一層高くできる。
【0069】
また、供給振動フィーダ16において供給振動装置20が供給トラフ18を長手方向へ往復振動させることで、供給トラフ18の底壁18A上の種籾14が、薄層状(特に単層状)に均一に分散されつつ、前側へ徐々に搬送されて、供給トラフ18の前端から処理トラフ24の底壁24A上に流下される。しかも、供給トラフ18が前方へ向かうに従い下方へ向かう方向へ僅かに傾斜されているため、供給トラフ18の底壁18A上の種籾14に供給トラフ18の往復振動による前側への搬送力のみならず重力による前側への移動力も作用される。
【0070】
このため、種籾14毎の大きさや重さのバラツキにより生じる種籾14毎の前側への搬送速度のバラツキを抑制できる。これにより、供給トラフ18の前端から処理トラフ24の底壁24Aへの種籾14の流下量(単位時間当たりの流下量)を一定に制御できて、処理トラフ24の通気部28上において種籾14を一層効果的に均一に加熱して消毒できる。
【0071】
さらに、処理振動フィーダ22において処理振動装置26が処理トラフ24を長手方向へ往復振動させることで、処理トラフ24の底壁24A上の種籾14が、前側へ徐々に搬送される。しかも、処理トラフ24が前方へ向かうに従い下方へ向かう方向へ僅かに傾斜されているため、処理トラフ24の底壁24A上の種籾14に処理トラフ24の往復振動による前側への搬送力のみならず重力による前側への移動力も作用される。
【0072】
このため、種籾14毎の大きさや重さのバラツキにより生じる種籾14毎の前側への搬送速度のバラツキを抑制できると共に、処理トラフ24の通気部28上で蒸気に曝露された種籾14の表面に結露した水分等が種籾14の前側への搬送速度に影響を与えることを抑制できる。これにより、種籾14が処理トラフ24の底壁24A上を前側へ搬送される速度を一定に制御できて、種籾14が処理トラフ24の通気部28上を前側へ搬送される時間(所定加熱時間)を一定に制御でき、処理トラフ24の通気部28上において種籾14を一層効果的に均一に加熱して消毒できる。
【0073】
また、供給トラフ18の前端からの種籾14が処理トラフ24の通気部28後側近傍における底壁24A上に流下される。このため、処理トラフ24が通気部28において蒸気によって加熱されて通気部28より後側の底壁24Aに熱が伝熱されても、通気部28より後側の底壁24Aに伝熱された熱によって種籾14が加熱されることを抑制できる。これにより、種籾14が所定加熱時間以外に加熱されることを抑制できて、種籾14の加熱温度を容易に制御できる。
【0074】
なお、本実施の形態では、供給トラフ18の前端の前側に処理トラフ24の通気部28を配置して、供給トラフ18の前端からの種籾14が処理トラフ24の通気部28後側における底壁24A上に流下される。しかしながら、供給トラフ18の前端の下方に処理トラフ24の通気部28を配置して、供給トラフ18の前端からの種籾14が処理トラフ24の通気部28上に流下されてもよい。これにより、供給トラフ18の前端からの種籾14が通気部28の上側に送風される蒸気中を流下されることで、種籾14を一層均一に加熱して消毒できる。
【0075】
また、本実施の形態において、処理トラフ24の底壁24A上に、供給トラフ18の前端からの種籾14の流下位置の後側近傍(特に通気部28の後側近傍)において、阻止手段としての阻止壁を立設してもよい。これにより、処理トラフ24の底壁24A上に流下した種籾14が反動で後側へ移動されることを阻止壁によって阻止でき、処理トラフ24の底壁24A上での種籾14の搬送方向を前側に限定できる。
【0076】
さらに、本実施の形態において、処理トラフ24の通気部28上面に、前側へ向かうに従い下降する段差を所定数設けてもよい。これにより、通気部28上での種籾14の搬送方向を前側に限定でき、種籾14が通気部28上を前側へ搬送される時間(所定加熱時間)を一層安定させることができる。
【0077】
また、本実施の形態では、処理トラフ24の通気部28を加熱筒32内に収容した。しかしながら、加熱筒32を設けずに処理トラフ24の通気部28を露出させてもよい。この場合、処理トラフ24の通気部28に送気ホッパ36及び排気ホッパ52を接近させるのが好ましい。
【0078】
(実験例)
図2及び図3には、それぞれ本実施の形態の実験例の結果の表が示されている。
【0079】
図2に示す如く、種籾消毒装置10による処理後の種籾14の発芽率(ろ紙を敷いたシャーレ内に浸種処理及び催芽処理をした種籾14を配置しかつ人工気象器内で3日間育苗後に正常発芽する粒数の割合)は、所定加熱時間が5秒で所定露点温度(湿球温度)が90℃である場合を除き、90%以上であって、高くできる。
【0080】
図3に示す如く、種籾消毒装置10による処理後の種籾14の表面へのいもち病の分生胞子形成率は、種籾消毒装置10による処理がされない種籾14の場合の30.7%に比し、著しく低くできる(0%にできる)。
【符号の説明】
【0081】
10 種籾消毒装置(種子の消毒方法及びその装置)
14 種籾(種子)
16 供給振動フィーダ(供給手段)
22 処理振動フィーダ(転動手段)
24 処理トラフ(載置部材)
30 加熱装置(加熱手段)
60 冷却装置(冷却手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子を分散させた状態で転動させつつ蒸気により加熱して消毒する種子の消毒方法。
【請求項2】
種子を消毒した後に冷却する請求項1記載の種子の消毒方法。
【請求項3】
種子を分散させた状態で転動させる転動手段と、
前記転動手段が分散させた状態で転動させる種子を蒸気により加熱して消毒する加熱手段と、
を備えた種子の消毒装置。
【請求項4】
前記加熱手段が消毒した種子を冷却する冷却手段を備えた請求項3記載の種子の消毒装置。
【請求項5】
前記転動手段は、種子が載置される載置部材を有し、前記載置部材を種子転動方向に平行に往復振動させることで種子を分散させた状態で転動させる請求項3又は請求項4記載の種子の消毒装置。
【請求項6】
前記転動手段が種子を一側へ搬送し、かつ、前記載置部材を一側に向かうに従い下側に向かう方向へ傾斜させた請求項5記載の種子の消毒装置。
【請求項7】
前記転動手段に種子の量を制御しつつ供給する供給手段を備えた請求項3〜請求項6の何れか1項記載の種子の消毒装置。
【請求項8】
前記転動手段が種子を一側へ搬送し、かつ、前記供給手段が前記転動手段に種子を供給する供給位置の一側における側方に前記加熱手段が種子を加熱する加熱位置を配置した請求項7記載の種子の消毒装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55259(P2012−55259A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203165(P2010−203165)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月5日 農業機械学会発行の「第69回農業機械学会年次大会講演要旨」に発表
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(000144898)株式会社山本製作所 (144)
【Fターム(参考)】