説明

積層ストレッチシュリンクフィルム

【目的】 ストレッチシュリンク包装を行った際、酢酸臭を生ぜず、透明性や光沢性にすぐれ、しかも、弾性回復力や結束力に優れた包装体を得る積層ストレッチシュリンクフィルムを目的とする。
【構成】 フィルム構成を、芯層がエチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物で、両外層が直鎖状低密度ポリエチレンからなり、芯層と外層との間の中間層が、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物と、密度0.910乃至0.925g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン、及び、密度0.890乃至0.907g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレンの混合物からなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、包装時にフィルムをある程度引き伸ばしながら包装し、その後、該フィルムを熱収縮させて緊迫性を生じさせるストレッチシュリンクフィルムに関するものである。尚、この様な包装方法のことを以下「ストレッチシュリンク包装」と称する。
【0002】
【従来技術】包装時にフィルムを引き伸ばしながら包装する方法、即ち、ストレッチ包装方法は、従来から良く知られている。例えば、社団法人・日本包装技術協会刊「包装技術便覧」等に記載されている。しかも、該包装に用いられるフィルムとしては、単層のフィルムは勿論、最近では、特公平2−12187号公報に記載されているような多層構成のフィルムも知られている。しかし、該包装方法では全体を均一に引き伸ばしながら包装するのが困難なため、充分な緊迫性を有する包装体が得られ難い。 そこで、最近ではストレッチシュリンク包装方法が行なわれるようになってきた。そのような包装に用いるストレッチシュリンクフィルムとしては、芯層がポリプロピレン系樹脂で、両外層がエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる積層フィルムが用いられている。しかし、ストレッチシュリンク包装方法は熱収縮トンネル内で加熱されるために該フィルムでは酢酸臭が発生し、被包装物に匂いが移行するので特に食品等の包装には不適当でった。
【0003】そこで、本発明者等は以前、熱収縮トンネルを通過させた後でも酢酸臭を発せず、しかも、熱収縮応力が強く弾性回復率の高いストレッチシュリンク包装用フィルムを、芯層がポリプロピレン系樹脂で、両外層が直鎖状低密度ポリエチレン樹脂からなるフィルム構成にすることによりこれらの課題を解決した。(特願平3−130378)しかし、該方法は、共押出方法により製膜された未延伸原反を延伸する際に層間剥離を生じたり、延伸時の層間歪みによると思われる白化を生じ、透明性や光沢性等の光学的特性の低下を招いていた。
【0004】尚、特公昭61−3264号公報には、配向ポリプロピレン基層の少なくとも片面にエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの低密度線状コポリマーを被覆している多層熱可フィルムが記載されている。しかし、該発明には、該フィルムがヒートシール性に優れていることは明記されているが、ストレッチシュリンク包装に使用出来ることは何等記載されておらず、しかも、その様なことを示唆する記載もない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、熱収縮トンネルを通過させた後でも酢酸臭を発生せず、しかも、層間接着力が強く、透明性や光沢等の光学的特性に優れ、その上、収縮応力や弾性回復の高い積層ストレッチシュリンクフィルムを提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、これらの課題を解決するために次のような手段を講じた。即ち、芯層がエチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物で、両外層が直鎖状低密度ポリエチレンからなり、芯層と外層との間の中間層が、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)と、密度0.910乃至0.925g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(B)、及び、密度0.890乃至0.907g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(C)の混合物からなるようにした。
【0007】芯層には、延伸性や熱収縮性更には弾性回復率等の面から、プロピレンのホモポリマーでなくエチレン−プロピレン共重合体やエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物からなるポリプロピレン系樹脂を用いることが必要である。該樹脂のMIとしては、1.2乃至6.0g/10minが好ましい。又、該樹脂の共重合割合としては、エチレン−プロピレン共重合体の場合、エチレンの含有率が3乃至5wt%が好ましく、エチレン−ブテン−プロピレン共重合体の場合、エチレンとブテンとの合計の含有率が4乃至13wt%が好ましい。尚、これら共重合体の樹脂を用いることにより両外層の直鎖状低密度ポリエチレン層との積層延伸が容易に行えるようになり、しかも、低温延伸が可能になるため低温での熱収縮性が良好になる。
【0008】両外層には、酢酸臭の回避や高熱収縮応力の面から直鎖状低密度ポリエチレンを用いる。そして、弾性回復率や延伸加工性の面から密度0.890乃至0.907g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレンを用いるのが好ましい。更に、透明性や光沢性等の光学的特性を向上させるために、上記直鎖状低密度ポリエチレンに密度0.910乃至0.925g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレンを混合させるのが好ましい。尚、上記2種類の直鎖状低密度ポリエチレンのメルトインデックスは共に0.5乃至10g/10minの範囲内であることが製膜性や延伸性の面から好ましい。
【0009】芯層と外層との間の中間層には、層間接着性を向上させて層間剥離を無くし、又、透明性や光沢性等の光学的特性の低下をもたらると思われる層間歪みを阻止するために、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)と、密度0.910乃至0.925g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(B)と、密度0.890乃至0.907g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(C)の混合物を用いる。
【0010】上記混合物におけるエチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)の占める割合は30乃至70wt%、直鎖状低密度ポリエチレン(B)と(C)の混合割合は1:5乃至5:1の範囲内であるのが適当である。エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)の占める割合が上記範囲に満たない場合も、上記範囲を超える場合も共に、層間歪みに起因すると思われる透明性や光沢性等が劣る。又、直鎖状低密度ポリエチレン(B)と(C)の混合割合が上記範囲以外でも、延伸時に生じる層間歪みに起因すると思われる白化を生じ、透明性や光沢性が低下する。
【0011】中間層がエチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)のみからなる場合、層間接着性が劣り、延伸加工時に層間剥離を生じてしまう。又、中間層が直鎖状低密度ポリエチレン(B)又は(C)のみからなる場合も、層間接着性が劣り、延伸加工時に層間剥離を生じてしまう。更に、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)と直鎖状低密度ポリエチレン(B)又は(C)のどちらか一方のみの混合物からなる場合には、延伸加工時に生じる層間の歪みと思われるフィルムの白化が生じ、透明性や光沢性が低下する。尚、上記中間層は、本発明の特定条件を満足するものであれば、本発明の積層ストレッチシュリンクフィルムの生産時に生じる不適格品等の再生原料を使用することが出来る。
【0012】又、本発明の積層ストレッチシュリンクフィルムは、上記フィルム構成に共押出され未延伸積層原反を延伸加工されていることが熱収縮性を持たせるために必要である。しかも、該フィルムは低温で熱収縮を生じさせるものが好ましい。その点、上記フィルム構成は低温で容易に延伸加工が行えるので、低温で熱収縮させることが出来る。尚、延伸加工方法としては特に限定されるものではなく、従来一般に行われているテンター方式や、インフレーション方式が採用出来る。そして、好ましくは二軸方向に延伸加工されているのが包装仕上がりの面から望ましい。
【0013】本発明の積層ストレッチシュリンクフィルムの全体厚みとしては、10乃至25μの範囲が好ましい。そして、各中間層の厚みとしては、2乃至8μの範囲が好ましい。各中間層の厚みが2μに満たない場合には層間接着強度の向上が見られず層間剥離や白化等を生じ、8μを越える場合には各樹脂の相溶性が充分でないために透明性が劣る。又、該両外層の厚みの和は、延伸性や弾性回復率の面から、フィルム全体厚みの10乃至90%であることが好ましい。両外層の厚みの和が10%未満では弾性回復率に劣り、90%を越えると熱収縮応力が弱くなる。尚、両中間層や両外層の厚みは、左右ほぼ同じ厚みにするのが、得られるフィルムのカール性を無くする面から好ましい。
【0014】
【作 用】本発明の積層ストレッチシュリンクフィルムは、エチレン−酢酸ビニル共重合体を全く使用していないので酢酸臭を発するようなことがない。又、芯層にポリプロピレン系樹脂を使用することにより、延伸加工性が良好であるばかりか、熱収縮応力の強いフィルムが得られる。中間層に特定の樹脂組成物を用いることにより、芯層と外層との接着性が向上し、延伸時に層間剥離が生ぜず、しかも、延伸時の層間歪みに起因すると思われる白化が生ぜず、透明性や光沢性等の光学的特性が低下しない。更に、両外層に直鎖状低密度ポリエチレンを用いることにより芯層のポリプロピレン系樹脂の特徴である熱収縮応力を大幅に低下させず、強い熱収縮応力を発揮させることができ、しかも、良好なる弾性回復率を生じさせることが出来る。
【0015】
【実施例及び比較例】以下、実施例及び比較例を示し、本発明の内容をより具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に記載された事項によって、限定されるものでないことは当然である。尚、本発明において、弾性回復率は次のような方法によって測定した。まず、幅10mm、長さ200mmの試験片の中央部に標線間50mmの標線を付ける。該試験片をチャック間が100mmになるように引張試験機に装着し、標線間が100mmになるまで200mm/minの速度で引っ張る。そして、そのままの状態で1分間放置する。次に、引張応力が零になるまで200mm/minの速度で緩めてから試験片をチャックから取りはずし、60分間放置する。そして、標線間の距離L(mm)を測り、次の式により求めた。
【0016】
弾性回復率(%)={(100−L)÷50}×100
【0017】又、100℃での熱収縮率は次のような方法によって測定した。即ち、一辺が100mmの正方形に切断された試験片を100℃のグリセリンバス中に浸漬させる。その際生じる熱収縮量を基の試験片の長さの100分率で求めた。更に、熱収縮応力は次のような方法によって測定した。即ち、幅10mm、長さ50mmの試験片をチャック間が30mmになるように熱収縮応力測定機に装着し、100℃のグリセリンバス中に浸漬させる。その際、チャック間に生じる応力を熱収縮応力として単位「kg/cm2 」で求めた。
【0018】
【実施例1】芯層がエチレン含有率4.7wt%のエチレン−プロピレン共重合体で、両外層が密度0.920g/cm3 、メルトインデックス0.8g/10minの直鎖状低密度ポリエチレンと密度0.900g/cm3 、メルトインデックス10.0g/10minの直鎖状低密度ポリエチレンの1:1の混合物からなり、中間層が上記エチレン−プロピレン共重合体(A)と、密度0.925g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン(B)と密度0.900g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(C)を1:1:1に混合した樹脂組成物からなる積層チューブ状未延伸原反を共押出法によって得た。得られた原反をインフレーション法により二軸延伸し、積層ストレッチシュリンクフィルムを得た。尚、得られたフィルムは全体厚みが15μで芯層が3μ、両外層がそれぞれ7.5μ、両中間層がそれぞれ4.5μであった。尚、フィルム全体厚みに対する両外層の厚みの和は約50%であった。得られた積層ストレッチシュリンクフィルムを用いて、トレーに山盛りにされた胡瓜のストレッチシュリンク包装を行った。その結果、熱収縮トンネル通過後においても包装体内に酢酸臭が存在するようなこともなく、結束力と緊迫性に優れ、しかも、透明性や光沢性等の光学的特性が良好で商品のディスプレイ効果に優れていた。尚、該フィルムの熱収縮応力は16kg/cm3 、100℃での熱収縮率は45%、そして、弾性回復率は90%であった。又、Haze、Glossはそれぞれ0.3%、155%であった。
【0019】
【比較例1】芯層には、実施例1と同様、エチレン含有率4.7wt%のエチレン−プロピレン共重合体を、両外層には、実施例1における直鎖状低密度ポリエチレンの混合物に変えて酢酸ビニル含有量1.5wt%、MI3.0g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体を、そして、中間層には上記エチレン−プロピレン共重合体とエチレン−酢酸ビニル共重合体の混合物を1:2に混合した合樹脂組成物を用いる以外は、実施例1と同じ方法によって多層ストレッチシュリンクフィルムを得た。該フィルムを用いて、実施例1と同様、トレーに山盛りにされた胡瓜のストレッチシュリンク包装を行った。しかし、該包装体は開封時に包装体内には酢酸臭が漂い、しかも、該フィルムは乳白色でディスプレイ効果に劣り商品価値を大幅に低下させるものであった。又、結束力にも劣るものであった。尚、該フィルムの熱収縮応力は8.0kg/cm2 で、弾性回復率は40%であり、Haze、Glossはそれぞれ4.5%及び100%であった。
【0020】
【比較例2】実施例1における芯層のエチレン−プロピレン共重合体をポリプロピレンのホモポリマーに変える以外は実施例1と同じ方法によって多層ストレッチシュリンクフィルムを得た。該フィルムを用いて、実施例1と同様、トレーに山盛りにされた胡瓜のストレッチシュリンク包装を行った。しかし、該フィルムは熱収縮特性や弾性回復率に劣り、良好なストレッチシュリンク包装体が得られなかった。尚、該フィルムの100℃での熱収縮率は20%で、弾性回復率は35%で共に劣っていた。又、Haze、Glossはそれぞれ2.5%及び125%であった。
【0021】
【比較例3乃至8】芯層のポリプロピレン系樹脂としてエチレン含有率2.8wt%、ブテン含有率3.6wt%のエチレン−ブテン−プロピレン共重合体を使用し、両外層の直鎖状低密度ポリエチレンとしては、実施例1で用いたと同じ樹脂混合物を用い、中間層にはポリプロピレン系樹脂(A)として上記エチレン含有率2.8wt%、ブテン含有率3.6wt%のエチレン−ブテン−プロピレン共重合体を、直鎖状低密度ポリエチレン(B)と(C)として実施例1に用いた密度0.920g/cm3 、メルトインデックス0.8g/10minの直鎖状低密度ポリエチレンと密度0.900g/cm3 、メルトインデックス10.0g/10minの直鎖状低密度ポリエチレンを表1に示される割合に混合された樹脂組成物を用い、実施例1と同様な方法によって多層ストレッチシュリンクフィルムを得た。尚、フィルムの全体厚み及び各層の厚みは、それぞれ実施例1と全て同じにした。
【0022】
【表1】


【0023】表1から明らかな如く、中間層がポリプロピレン系樹脂(A)のみからなる比較例3のフィルム、密度0.920g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(B)のみからなる比較例4のフィルム、そして、密度0.900g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(C)のみからなる比較例5のフィルムは共に延伸加工時に層間剥離を生じ、HazeやGlossも悪かった。又、中間層がポリプロピレン系樹脂(A)と直鎖状低密度ポリエチレン(B)との混合物からなる比較例6のフィルム、ポリプロピレン系樹脂(A)と直鎖状低密度ポリエチレン(C)との混合物からなる比較例7のフィルム、そして、直鎖状低密度ポリエチレン(B)と直鎖状低密度ポリエチレン(C)の混合物からなる比較例8のフィルムは共に延伸時に生じる層間歪みによりHazeやGlossが低下していた。
【0024】
【効 果】本発明の積層ストレッチシュリンクフィルムを用いた包装体は、熱収縮トンネルを通過させても酢酸臭を発生させないので食品等の包装に好適で、しかも、透明性や光沢性等の光学的特性が良好なので、商品のディスプレイ効果に優れている。又、本発明の積層ストレッチシュリンクフィルムを用いた包装体は、回復弾性率が高いので、指等で押されて生じた窪み等が時間の経過とともに無くなってくる。更に、本発明の多層ストレッチシュリンクフィルムは、収縮応力が強いので、結束力の強い集積包装体が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 芯層がエチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物で、両外層が直鎖状低密度ポリエチレンからなり、芯層と外層との間の中間層が、エチレン−プロピレン共重合体又はエチレン−ブテン−プロピレン共重合体或はこれらの混合物(A)と、密度0.910乃至0.925g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(B)、及び、密度0.890乃至0.907g/cm3 の直鎖状低密度ポリエチレン(C)の混合物からなる共押出未延伸原反に延伸加工が施されたことを特徴とする積層ストレッチシュリンクフィルム。