説明

積層原体照射システム及びこれを用いた粒子線治療装置

【課題】積層原体照射において、照射線量分布を従来よりも均一化することが可能な積層原体照射システムを提供する。
【解決手段】加速器2aで加速された粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッド4を備え、照射ヘッド4は、粒子線の偏向走査用のワブラ電磁石42a,42bを有し、照射制御手段5は、ワブラ電磁石42a,42bを励磁制御して粒子線を偏向走査して積層原体照射を行う際に、粒子線が始点から開始して始点に戻るような一筆書の周回軌道を描くようにワブラ電磁石42a,42bを励磁制御するとともに、照射ヘッド4から出力される粒子線の照射期間Tbが、粒子線が周回軌道を一周するのに要するワブラ周期Twの整数倍になるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌や悪性腫瘍等の治療のために炭素、ネオン等の粒子線を疾患部分に三次元的に照射する積層原体照射システム、およびこれを用いた粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌や悪性腫瘍等の治療のために、患部に適切な線量の粒子線を照射するには、粒子線の照射領域を三次元的に存在する患部の形状に一致させる、いわゆる積層原体照射を行って原体性を高める必要がある。そのためには、多葉コリメータの形状(リーフ位置)が適切に設定されていることに加えて、患部全体に均一な線量が投与されるように、水平方向(照射野の面上)の照射線量、および垂直方向(深さ方向)の照射線量の空間分布をいずれもできるだけ均一化することが重要である。
【0003】
ここで、患部に照射される平面的な照射野の線量分布を均一にする方法として、ワブリング法がある(例えば、特許文献1〜4参照)。このワブリング法は、一対のワブラ電磁石の磁場の方向が互いに直交するように配列し、それぞれのワブラ電磁石に対して同じ周期で、かつ位相が90度異なる電流を流して当該ワブラ電磁石を励磁する。これにより、加速器を出射した粒子線は、ワブラ電磁石の磁場によって進行方向に対し垂直な面内で直交する方向に旋回偏向される。その結果、図16に示すように、粒子線は一定周期Twごとに円形の周回軌道Sを描くようになる(以下、1周分の周回軌道Sを描くのに要する時間をワブラ周期Twと称する)。このとき、粒子線の照射経路の途中に設けた散乱体によって散乱される散乱角と周回軌道Sの半径Rを最適に設定すると、図17に示すように、周回軌道S上の互いに対向する2つの粒子線分布P1,P2が重畳するため、周回中心Oを含む平面内で径方向の線量分布P0は平坦な分布となる。したがって、粒子線を周回軌道S上に沿って照射して一周分の真円を描けば、照射野の面上の線量分布が均一になる。
【0004】
一方、垂直方向(深さ方向)の線量分布を均一化するには、従来、図18に示すように、患部の深さ方向の大きさLに対応して、深さ方向の各層ごとに粒子線の照射エネルギをレンジシフタにより変更して深さ方向に沿って拡張ブラグピークD1,D2,…を移動させつつ、患部の深層位置で照射線量を多くし、深さが浅くなるのに従って照射線量が次第に少なくなるようにする。すなわち、患部の深さ方向に沿って拡張ブラグピークD1,D2,…を移動させつつ、照射する階層に応じて照射線量を調整することで、各層ごとの拡張ブラグピークD1,D2,…積算した全体の線量分布Dtが患部の深さ方向の大きさLに対応して平坦になる。
【0005】
この場合、深層の位置で粒子線の照射線量が多いということは、各層における粒子線強度が同じであれば、粒子線の照射時間が長いことに比例するから、患部の深層では粒子線の周回数(以下、ワブラ周回数という)が多くなっていることになる。換言すれば、照射する階層が進む(照射領域が浅くなる)のに従って一層あたりのワブラ周回数が少なくなる。
【0006】
【特許文献1】特開2006−288875号公報
【特許文献2】特開2001−326098号公報
【特許文献3】特開2000−331799号公報
【特許文献4】特開2005−103255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の各特許文献1〜4に記載されるような従来の積層原体照射では、シンクロトロン等の加速器からの粒子線の出射および停止のタイミング、すなわち粒子線の照射期間は、ワブラ周期Twとは無関係であった。すなわち、図19に示すように、一対のワブラ電磁石の励磁信号に関しては、互いに位相が90度異なるように一定の関係を持たせているが、そのワブラ周期Twは所定の照射線量を得るために時分割された粒子線の照射期間Tbと無関係に設定されている。
【0008】
一方、積層原体照射法では、各層ごとに予め設定された照射線量に達すると粒子線照射が終了される。このとき、上記のようにワブラ周期Twが粒子線の照射期間Tbと無関係に設定されていると、粒子線が周回軌道を一周する前に加速器からの粒子線の出射が停止し、周回軌道上の一部に粒子線が照射されない未照射領域が発生する。
【0009】
特に、積層原体照射においては、前述のように、照射する階層が進む(照射領域が浅くなる)のに従って一層あたりのワブラ周回数が漸次少なくなって行くので、周回軌道の途中で粒子線の照射が停止された場合には、粒子線照射が欠落した部分が何層か重なる箇所ができてしまい、深さ方向の線量分布が著しく不均一になってしまう。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、積層原体照射において、加速器からの粒子線出射停止のタイミングの如何にかかわらず、いずれの階層においても、照射欠落領域の発生回数を1回に抑えるまたは照射欠落領域を生じないようにして、照射線量分布を従来よりもさらに均一化することが可能な積層原体照射システム、およびこれを用いた粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明にあっては、イオン源から発生された粒子線を加速する加速器と、この加速器で加速された粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドと、上記イオン源、加速器、および照射ヘッドを制御して積層原体照射を行う照射制御手段とを備え、上記照射ヘッドは粒子線の偏向走査用のワブラ電磁石を有し、上記照射制御手段は、上記ワブラ電磁石を励磁制御して粒子線を偏向走査するシステムにおいて、次の構成を採用している。
【0012】
すなわち、本発明において、上記照射制御手段は、粒子線が始点から始まって始点に戻るような一筆書の周回軌道を描くように上記ワブラ電磁石を励磁制御するとともに、上記照射ヘッドから出力される粒子線の照射期間が、粒子線が上記周回軌道を一周するのに要するワブラ周期の整数倍になるように制御するものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、積層原体照射を行う際、粒子線が始点から始まって始点に戻るような一筆書の周回軌道を描くとともに、照射ヘッドから出力される粒子線の照射期間が、粒子線が上記周回軌道を一周するのに要するワブラ周期の整数倍になるように制御されるので、各層の最終の周回軌道上で照射欠落部分が発生するのを確実に回避することができる。つまり、粒子線の出射開始/停止のタイミングの如何にかかわず、各層において常に照射欠落領域を生じない線量分布が均一化された積層原体照射を実現することができる。また、加速器の出射ビームはパルス状ビームである場合、各層の最終の周回軌道を除き、照射した各パルスビームの照射期間において、照射欠落領域を生じない線量分布が得られる。
【0014】
したがって、この積層原体照射システムを粒子線治療装置に適用すれば、粒子線の照射制御が簡単になるとともに、誤照射の可能性を軽減することができ、精度の高い粒子線治療を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における積層原体照射システムを適用した粒子線治療装置の全体構成を示すブロック図、図2は同装置の粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドおよび粒子線の照射制御を行う照射制御手段の主要部を示すブロック図である。
【0016】
この実施の形態1の粒子線治療装置は、粒子線を発生させるイオン源1、このイオン源1から発生された粒子線を加速する主加速器としてのシンクロトロン加速器2a、シンクロトロン加速器2aで加速された粒子線を患者3の被照射体となる患部3aに向けて照射する照射ヘッド4、および粒子線の照射制御を行う照射制御手段5を主体に構成されている。
【0017】
そして、イオン源1とシンクロトロン加速器2aとの間にはイオン源1で発生された粒子線をシンクロトロン加速器2aに導入される前に予備加速する前段加速器6が、また、シンクロトロン加速器2aと照射ヘッド4との間にはシンクロトロン加速器2aから照射ヘッド4に粒子線を導くためのビーム輸送系7が、それぞれ設けられている。
【0018】
シンクロトロン加速器2aは、後述の加速器系制御部8の制御によりビーム輸送系7に導くゲートをオン/オフすることにより、粒子線をワブラ周期Twよりも長いパルス幅(ビームスピル長)Tbでもって出射するようになっている。
【0019】
一方、照射ヘッド4は、ビーム輸送系7で輸送された粒子線を患者に向かうように偏向させる偏向電磁石41、粒子線を偏向走査するための一対のワブラ電磁石42a,42b、粒子線が所定の発散角をもつように散乱させる散乱体43、粒子線のエネルギ幅を拡張するためのリッジフィルタ44、患部3aの深さ位置に応じて粒子線の照射エネルギを変更するためのレンジシフタ45、粒子線の照射線量をモニタする線量モニタ46、患部3aの寸法に応じて粒子線の照射野を規定するための多葉コリメータ47、患部3aの照射野をさらに規制するエッジ強調用の患者コリメータ48が粒子線軌道に沿って順次配置されて構成されている。
【0020】
この場合、上記の一対のワブラ電磁石42a,42bは、粒子線軌道と直交する面内で互いに磁場が直交するように配置されている。また、多葉コリメータ47は、図3に示すように、患部3aの形状に合致するようにリーフ47aが設定され、これによって粒子線の平面的な照射野Aが規定される。
【0021】
照射制御手段5は、例えば制御用のコンピュータからなるもので、イオン源1、前段加速器6、シンクロトロン加速器2a、ビーム輸送系7の各動作を制御する加速器系制御部8、照射ヘッド4を制御する照射ヘッド制御部9、および両制御部8,9を全体的に協調制御する照射系コントローラ10からなる。
【0022】
そして、照射ヘッド制御部9は、各ワブラ電磁石42a,42bに対して個別に設けられたワブラ電源91a,91bを制御することにより各ワブラ電磁石42a,42bを励磁制御して粒子線を偏向走査するワブラ電源制御部92と、患部の深さ方向の寸法に応じて粒子線の照射エネルギが変更されるようにレンジシフタ45を制御するレンジシフタ制御部93とを有している。また、線量モニタ46による照射線量のモニタ値は照射系コントローラ10に取り込まれるようになっている。
【0023】
次に、上記構成を備えた粒子線治療装置において、粒子線を積層原体照射する場合の制御動作について説明する。
【0024】
照射系コントローラ10に対して、予め粒子線のパルス幅、パルス高さ、各層ごとのパルス数(照射線量)、ビームスピル長Tb、ワブラ周期Twなどの積層原体照射に必要な粒子線特性に関する情報を入力設定する。照射系コントローラ10は、これらの入力情報の内、加速器系の制御に関する情報は加速器系制御部8に、照射ヘッド4の制御に関する情報は照射ヘッド制御部9にそれぞれ送出する。
【0025】
ここで、イオン源1で生成された粒子線は、前段加速器6で予備加速され、さらに主加速器であるシンクロトロン加速器2aで加速されて治療照射用の粒子線となって出射され、この粒子線はビーム輸送系7を経由して照射ヘッド4に導かれる。この場合、加速器系制御部8がシンクロトロン加速器2aを制御することにより粒子線のエネルギ強度が基本的に設定される。
【0026】
照射ヘッド4に導かれた粒子線は、照射ヘッド4の偏向電磁石41によって照射点の方向に偏向された後、ワブラ電磁石42a,42bで偏向走査される。また、この粒子線は散乱体43照射で所定の発散角をもつように散乱され、続いてリッジフィルタ44で粒子線のエネルギ幅が拡張された後、さらにレンジシフタ45で粒子線の運動エネルギーが小さい値にシフトされる。また、線量モニタ46で照射線量がモニタされ、さらに、多葉コリメータ47で照射領域が限定されて患部3aに立体的に照射される。
【0027】
このとき、ワブラ電源制御部92は、図4に示すように、ワブラ電源91a,91bからワブラ電磁石42a,42bに与える励磁電流を同じ周期で、かつ互いに位相を90度ずらした正弦波状になるように制御するので、これによって粒子線は、進行方向に対し垂直な面内で円形の周回軌道Sを描くように偏向走査される。その際、散乱体43によって散乱される散乱角と周回軌道Sの半径Rとを最適に設定して一周分の円を描けば、図5に示すように、周回軌道S上の円中心Oを通って互いに対向する2つ粒子線分布P1,P2が重なって平面内における径方向の線量分布P0は平坦になる。なお、図5では2次元問題を1次元問題に置き換えてワブリング動作によって平坦な線量分布を形成する原理を図示しているが、2次元で考えた場合、同様に円軌道上のビームスポット寄与の合計により2次元線量分布P0が平坦になる。
【0028】
一方、加速器系制御部8は、シンクロトロン加速器2aのビーム輸送系7に導くゲートをオン/オフすることにより、図6(a)、(b)に示すように、粒子線は円軌道Sを一周するのに要するワブラ周期Twよりも長いパルス幅(ビームスピル長)Tbでもって時分割に出射される。
【0029】
その際、加速器系制御部8は、図4に示すように、粒子線の各パルスの照射期間(ビームスピル長)Tbがワブラ周期Twの整数倍になるように、つまりTb=n・Tw(ただしnは整数)となるように出射開始/停止のタイミングを制御する。したがって、粒子線の各パルスの照射期間Tbにおいて、常に照射開始点から周回軌道上をn周回って再び照射開始点に戻った時点で出射が停止される。すなわち、各層において最終の1パルス分の粒子線の照射期間を除けば、粒子線の出射停止のタイミングの如何にかかわず、常に粒子線は周回軌道に沿って真円を描くように偏向走査され、途中で中断されることがない。このため、粒子線の各パルスの照射期間Tbにおいて周回軌道S上で照射欠落部分が発生するのを確実に回避することができる。実は、各層において最終の1パルス分の照射期間についても、粒子線ビーム電流(単位時間当たりの粒子数に比例)を各層に照射する予定の粒子数に基づいて制御すれば、常に粒子線は周回軌道に沿って真円を描くように偏向走査され、途中で中断されることがないようにできる。その結果、より均一な線量分布が得られる効果がある。
【0030】
また、線量モニタ46による照射線量の値は照射系コントローラ10に取り込まれるので、加速器系制御部8は、各層について予め設定された所定のパルス数(照射線量)に達すると、順次各層ごとに粒子線のパルス数を変更し、照射領域が浅くなるのに従って一層あたりのパルス数が少なくなるように制御する。したがって、照射領域が浅くなるのに従って一層あたりの照射線量は少なくなる。
【0031】
また、レンジシフタ制御部93はレンジシフタ45を制御して、患部の深さLに対応して各層ごとに粒子線の照射エネルギを変更する。これにより深さ方向に沿って拡張ブラグピークD1,D2,…が移動される。このように、患部の深さ方向の各層ごとに照射線量が制御されるのに加えて、患部の深さ方向に沿って拡張ブラグピークD1,D2,…が移動されるので、その結果、図7に示すように、各層ごとの拡張ブラグピークD1,D2,…を積算した全体の線量分布Dtが患部の深さ方向の大きさLにわたって均一化される。
【0032】
積層原体照射においては、前述のように、照射する階層が進む(照射領域が浅くなる)のに従って一層あたりのワブラ周回数は漸次少なくなっていくが、各層とも周回軌道の途中で粒子線の照射が停止されることはないようにまたは停止される回数が1回のみにするようにできるので、従来のように、粒子線照射が欠落した部分が何層か重なる箇所が発生する頻度は極めて少なくなり、常に均一化された線量分布をもつ積層原体照射を実現することができる。しかも、ワブラ電磁石42a,42bの励磁電流のタイミングと、シンクロトロン加速器2aによる粒子線の出射/停止のタイミングとを合わせる必要がないので粒子線照射制御が簡単になる。
【0033】
実施の形態2.
図8は本発明の実施の形態2における粒子線治療装置において、粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドおよび粒子線の照射制御を行う照射制御手段の主要部を示すブロック図である。なお、図1および図2に示した実施の形態1と対応もしくは相当する構成部分には同一の符号を付す。
【0034】
上記の実施の形態1では、主加速器として粒子線をパルス状に出射するシンクロトロン加速器2aを用いているが、この実施の形態2では、粒子線を連続的に出射するサイクロトロン加速器2bを用いて積層原体照射を実施するようにしたものである。
【0035】
この場合、図9に示すように、加速器系制御部8によってイオン源1のビーム電流強度を変更することにより、サイクロトロン加速器2bから各層ごとに予め設定された所定の粒子線強度をもつ粒子線が引き出されるようにしている。
【0036】
しかも、その際、加速器系制御部8はイオン源1を制御して、各層ごとの粒子線の照射期間がワブラ周期の整数倍になるように設定する。すなわち、あるi番目の層の粒子線の照射期間をTbi、ワブラ周期をTwとすると、
Tbi=ni・Tw (1)
(但し、niはi番目の層において設定される整数)となるように設定する。
【0037】
また、患部の深さ方向のi番目の層に着目したとき、その層に照射すべき粒子線の粒子数をNi、この層に対する粒子線の照射期間をTbi、このときに必要なイオン源1におけるビーム電流強度Iiとすると、
Ni=Tbi・Ii/Q (2)
(但し、Qは電子の電荷量)となる。
【0038】
したがって、上記(1),(2)式から、
Ii=Ni・Q/(ni・Tw) (3)
となる。
【0039】
つまり、(3)式に基づいて各層ごとにイオン源1のビーム電流強度Iiを予め設定しておけば、各層に対して照射すべき粒子線の粒子数Ni(つまり、各層に対する照射線量)を適切に確保しつつ、粒子線の照射期間Tbiをワブラ周期Twの整数倍niに常に設定することができる。その場合、粒子数Niは各層ごとに予め決められており、また、粒子線の電荷量Qは粒子線の種類で決まっており、また、イオン源1のビーム電流は通常30nA以下であるので、ビーム設定電流Iiが数nAから30nAの範囲に入るように上記(3)によって各層のniを決定することができる。
【0040】
次に、上記構成を備えた粒子線治療装置において、粒子線を積層原体照射する場合の制御動作について説明する。
【0041】
照射系コントローラ10に対して、前述の(3)式を満たすように、各層ごとの粒子線強度を考慮したイオン源1のビーム電流強度Ii、各層ごとの粒子線の出射開始/停止のタイミング(照射期間Tbi)、ワブラ周期Twなどの積層原体照射に必要な粒子線特性に関する情報を入力設定する。照射系コントローラ10は、これらの入力情報の内、加速器系の制御に関する情報は加速器系制御部8に、照射ヘッド4の制御に関する情報は照射ヘッド制御部9にそれぞれ送出する。
【0042】
加速器系制御部8は、各層に応じてイオン源1のビーム電流を制御するので、サイクロトロン加速器2bからは各層に適合した粒子線強度をもつ粒子線が引き出される。そして、サイクロトロン加速器2bから連続的に出射された粒子線を照射ヘッド4へ導く。このとき、ワブラ電源制御部92の制御により、ワブラ電源がワブラ電磁石42a,42bを励磁するので、粒子線は進行方向に対し垂直な面内で円形の周回軌道を描くように偏向走査される。
【0043】
この場合、前述の(3)式のように各層についてイオン源1のビーム電流強度Iiが予め設定されているので、あるi番目の層の照射時間Tbiは丁度ワブラ電磁石42a,42bのワブラ周期Twの整数倍niに相当することになる。したがって、あるi番目の層の粒子線照射では、粒子線が照射開始点から周回軌道上をni回分だけ周回して照射開始点に戻った時点で、線量モニタ46でモニタされる照射線量が予め設定されたプリセット値に達する。照射系コントローラ10は、これに応じて加速器系制御部8にその旨を伝えるので、加速器系制御部8は、i番目の層の粒子線照射を停止する。このため、サイクロトロン加速器2bから連続したビームが出射される場合でも、照射野においてより均一な線量分布を形成することができる。
【0044】
また、実施の形態1の場合と同様、レンジシフタ制御部93はレンジシフタ45を制御して、患部の深さLに対応して各層ごとに粒子線の照射エネルギを変更するので、深さ方向に沿って拡張ブラグピークD1,D2,…が移動される。このように、患部の深さ方向の各層ごとに照射線量が制御されるのに加えて、患部の深さ方向に沿って拡張ブラグピークD1,D2,…が移動されるので、その結果、図11に示すように、各層ごとの拡張ブラグピークD1,D2,…を積算した全体の線量分布Dtが患部の深さLにわたって均一化される。
【0045】
以上のように、この実施の形態2においても、各層の照射時間Tbがワブラ周期Twの整数倍に設定されているので、粒子線の出射停止のタイミングの如何にかかわず、常に粒子線は周回軌道Sに沿って真円を描くように偏向走査され、途中で中断されることがない。このため、各層の最終の周回軌道S上で照射欠落部分が発生するのを確実に回避することができ、常に均一化された線量分布をもつ積層原体照射を実現することが可能となる。しかも、ワブラ電磁石42a,42bの励磁電流のタイミングと、イオン源1の粒子線の出射/停止のタイミングを合わせる必要がないので粒子線照射制御が簡単になる。
【0046】
なお、この実施の形態2では、各層の照射線量満了時に行う粒子線遮断については、イオン源1を制御することで行っているが、サイクロトロン加速器2bから照射ヘッド4に至るビーム輸送系7の途中にキッカ電磁石などを設けて粒子線遮断を行うことも可能である。
【0047】
また、上記の説明では、(3)式のniは丁度整数に設定する場合について述べたが、実際、niは厳密に整数でなくてもよい。その理由は、ワブラ電磁石42a,42bによって偏向走査される粒子線は散乱体43等によって充分大きいスポットサイズを有しており、このため、厳密な真円を描かなくても粒子線分布が重なるので、平面内において径方向の線量分布が平坦になるからである。したがって、nは整数に近似した値であればよく、上記と同じ効果が得られる。
【0048】
その他の構成、および作用効果は、実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0049】
実施の形態3.
図12は本発明の実施の形態3における粒子線治療装置において、粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドおよび粒子線の照射制御を行う照射制御手段の主要部を示すブロック図である。なお、図1および図2に示した実施の形態1と対応もしくは相当する構成部分には同一の符号を付す。
【0050】
上記の実施の形態1では粒子線がワブラ周期Twよりも長いパルス幅(ビームスピル長)Tbで出射されるシンクロトロン加速器2aを、また、実施の形態2では粒子線が連続的に出射されるサイクロトロン加速器2bを使用しているが、この実施の形態3では、粒子線がワブラ周期Twよりも短いパルス幅Tqでもって出射される線形加速器2cを用いている。なお、線形加速器2c以外にシンクロトロン加速器を適用することもできる。
【0051】
この場合、各層ごとに適切な照射線量が与えられるように、加速器系制御部8によって線形加速器2cから出射される粒子線のパルス数を各層ごとに変更するようにしている。しかも、その際、図13に示すように、各層における照射期間Triについて、粒子線パルスの出射周期Tpの整数倍がワブラ周期Twの整数倍になるように設定する。すなわち、
Tri=ki・Tp=ni・Tw (4)
(但し、ki,niはi番目の層において設定される整数)となるように設定される。
【0052】
次に、上記構成を備えた粒子線治療装置において、粒子線を積層原体照射する場合の制御動作について説明する。
【0053】
照射系コントローラ10に対して、上記(4)式の関係を満たすように、各層ごとの照射期間Tri、粒子線パルスのパルス数ki、粒子線パルスの出射周期Tp、パルス幅Tq、パルス高さ、ワブラ周期Twなどの積層原体照射に必要な粒子線特性に関する情報を入力設定する。照射系コントローラ10は、これらの入力情報の内、加速器系の制御に関する情報は加速器系制御部8に、照射ヘッド4の制御に関する情報は照射ヘッド制御部9にそれぞれ送出する。
【0054】
加速器系制御部8は、各層に応じてイオン源1と線形加速器2cを制御するので、線形加速器2cからはワブラ周期Twよりも短期間のパルス幅Tqをもつ粒子線パルスが所定周期Tpで出射される。そして、線形加速器2cから出射された粒子線パルスを照射ヘッド4へ導く。このとき、ワブラ電源制御部92の制御により、ワブラ電源がワブラ電磁石42a,42bを励磁するので、粒子線パルスは進行方向に対し垂直な面内で円形の周回軌道Sを描くように偏向走査される。
【0055】
この場合、線形加速器2cから出射される粒子線パルスのパルス幅Tqは、ワブラ周期Twよりも短かいので、1パルス当たりの照射領域Pの中心点は周回軌道Sに沿って離散的に存在することになるが、粒子線は散乱体43等によって散乱されて、図14に示すように、充分大きいスポットサイズを有しているため、一周分の円を描けば、周回軌道S上の円中心Oを通って互いに対向する2つ粒子線分布が重なって、平面内における径方向の線量分布は平坦になる。
【0056】
また、前述の(4)式のように、各層における粒子線パルスの出射周期Tpの整数倍がワブラ周期Twの整数倍になるように設定されているので、例えばi番目の層の照射時間Triはワブラ周期Twの整数倍niに相当することになる。このため、i番目の層の粒子線照射では、照射開始点から周回軌道上をni回分だけ周回して照射開始点に戻って照射が停止された時点で(つまり、Tri期間が経過した時点で)、粒子線パルスはki回照射されたことになる。したがって、線形加速器2cからワブラ周期Twよりも短いパルス幅Tqをもつ粒子線パルスが出射される場合でも照射野において均一な線量分布を形成することができる。
【0057】
また、実施の形態1の場合と同様、レンジシフタ制御部93はレンジシフタ45を制御して、患部の深さLに対応して各層ごとに粒子線の照射エネルギを変更するので、深さ方向に沿って拡張ブラグピークが移動され、その結果、図7あるいは図11に示したように、各層ごとの拡張ブラグピークを積算した線量分布Dtが患部の深さLにわたって均一化される。
【0058】
以上のように、この実施の形態3では、ワブラ周期Twに比べて短いパルス幅Tqの粒子線を出射する加速器2cを用いても、各層の最終の周回軌道上で照射欠落部分が発生するのを確実に回避することができ、常に均一化された線量分布をもつ積層原体照射を実現することが可能となる。しかも、ワブラ電磁石42a,42bの励磁電流のタイミングと、イオン源1の粒子線の出射/停止のタイミングを合わせる必要がないので粒子線照射制御が簡単になる。
【0059】
その他の構成、および作用効果は、実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0060】
なお、上記の実施の形態1〜3では、ワブラ電磁石42a,42bの励磁により粒子線が平面上で円軌道を描くように偏向走査することで線量分布を均一化する場合について説明したが、これに限定されるもではなく、例えば、図15に示すように、粒子線が始点から始まって始点に戻るようなジグザグの周回軌道を描くように偏向走査するようにしても、平面上の線量分布を均一化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態1における積層原体照射システムを適用した粒子線治療装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】同装置の粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドおよび粒子線の照射制御を行う照射制御手段の主要部を示すブロック図である。
【図3】同装置の多葉コリメータの平面図である。
【図4】同装置におけるワブラ励磁電流、シンクロトロン加速器による粒子線の出射/停止、および粒子線の照射期間の関係を示すタイミングチャートである。
【図5】同装置において、ワブラ電磁石の励磁により粒子線が平面上を円形に偏向走査される場合の半径方向の照射線量分布を示す特性図である。
【図6】同装置において積層原体照射を行う場合の粒子線の照射パターンを示す図である。
【図7】同装置において、積層原体照射における各層の拡大ブラグピークと全層照射後の吸収線量分布を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における粒子線治療装置において、粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドおよび粒子線の照射制御を行う照射制御手段の主要部を示すブロック図である。
【図9】同装置において積層原体照射を行う場合の粒子線の照射パターンを示す図である。
【図10】同装置におけるワブラ励磁電流、シンクロトロン加速器による粒子線の出射/停止、および粒子線の照射期間の関係を示すタイミングチャートである。
【図11】同装置において、積層原体照射における各層の拡大ブラグピークと全層照射後の吸収線量分布を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態3における粒子線治療装置において、粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドおよび粒子線の照射制御を行う照射制御手段の主要部を示すブロック図である。
【図13】同装置におけるワブラ励磁電流、シンクロトロン加速器による粒子線の出射/停止、および粒子線パルスの照射期間の関係を示すタイミングチャートである。
【図14】同装置において発生される粒子線パルスの1パルス当たりの照射領域の線量分布を示す特性図である。
【図15】ワブラ電磁石の励磁によって粒子線が平面上をジグザグに偏向走査される場合の様子を示す説明図である。
【図16】ワブラ電磁石の励磁によって粒子線が平面上を円形に偏向走査される場合の様子を示す説明図である。
【図17】ワブラ電磁石の励磁によって粒子線が平面上を円形に偏向走査される場合の半径方向の照射線量分布を示す特性図である。
【図18】積層原体照射における各層の拡大ブラグピークと全層照射後の吸収線量分布を示す図である。
【図19】従来技術におけるワブラ励磁電流、シンクロトロン加速器による粒子線の出射/停止、および粒子線パルスの照射期間の関係を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 イオン源、2a シンクロトロン加速器、2b サイクロトロン加速器、
2c 線形加速器、3a 患部(被照射体)、4 照射ヘッド、5 照射制御手段、
8 加速器系制御部、9 照射ヘッド制御部、10 照射系コントローラ、
42a,42b ワブラ電磁石、45 レンジシフタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源から発生された粒子線を加速する加速器と、この加速器で加速された粒子線を被照射体に向けて照射する照射ヘッドと、上記イオン源、加速器、および照射ヘッドを制御して積層原体照射を行う照射制御手段とを備え、上記照射ヘッドは粒子線の偏向走査用のワブラ電磁石を有し、上記照射制御手段は、上記ワブラ電磁石を励磁制御して粒子線を偏向走査するシステムであって、
上記照射制御手段は、粒子線が始点から始まって始点に戻るような一筆書の周回軌道を描くように上記ワブラ電磁石を励磁制御するとともに、上記照射ヘッドから出力される粒子線の照射期間が、粒子線が上記周回軌道を一周するのに要するワブラ周期の整数倍になるように制御するものであることを特徴とする積層原体照射システム。
【請求項2】
上記加速器は、粒子線を上記ワブラ周期よりも長いパルス幅でもって出射する加速器であり、上記照射制御手段は、各層ごとに粒子線の数を変更することにより被照射体の深さ方向の各層の照射線量を制御するとともに、粒子線の各パルスの照射期間が上記ワブラ周期の整数倍になるように制御するものである、ことを特徴とする請求項1記載の積層原体照射システム。
【請求項3】
上記加速器は、粒子線を連続的に出射する加速器であり、上記照射制御手段は、各層ごとに粒子線強度を変更しながら被照射体の深さ方向の各層の照射線量を制御するとともに、各層ごとの粒子線の照射期間が上記ワブラ周期の整数倍になるように各層ごとに粒子線強度を制御するものである、ことを特徴とする請求項1記載の積層原体照射システム。
【請求項4】
上記加速器は、粒子線を上記ワブラ周期よりも短いパルス幅でもって出射する加速器であり、上記照射制御手段は、各層ごとに粒子線のパルス数を変更することにより被照射体の深さ方向の各層の照射線量を制御するとともに、粒子線の各パルスの出射周期の整数倍が上記ワブラ周期の整数倍になるように制御するものである、ことを特徴とする請求項1記載の積層原体照射システム。
【請求項5】
上記照射制御手段は、上記被照射体の深さ方向の各層の照射線量を制御することに加えて、各層ごとに粒子線の照射エネルギを変更することにより、上記被照射体に対する深さ方向の線量分布が平坦になるように制御するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の積層原体照射システム。
【請求項6】
上記の一筆書の周回軌道は、円軌道またはジグザグ軌道であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の積層原体照射システム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の積層原体照射システムを用いた粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−28500(P2009−28500A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1401(P2008−1401)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】