説明

積層型フィルタ

【課題】シートからの水溶性成分の流出を防止する積層型フィルタを提供すること。
【解決手段】シート1は、尿素添着シートを示している。また、シート3は、一般的な塵埃捕集フィルタ、または他の添着シートを示している。この発明では、尿素等、水溶性成分を添着した添着シート1に隣接する層に、一定の厚みを有し、フィルタとしての透過性および撥水性を有する液滴遮断シート2が積層される。液滴遮断シートが透過性および撥水性を有することにより、添着された尿素が、シート3に流出し、添着シート1で薄まることがなくなる。また、添着シート1と隣接するシートとの距離が大きくなるので、これによっても、水溶性成分の流出を妨げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調設備等の空気取入口に設置される積層型フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、空調設備や換気設備の空気取入口にはフィルタが用いられる。フィルタには、除去したい成分別に用意したフィルタシートを積層して一体とした積層型フィルタがある(たとえば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特許第3434587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記積層型フィルタのろ材において、シートに添着した成分が隣接するシートに移動する不具合が生じることがある。これは、フィルタが雨滴や洗車時の水滴など、液体の水にさらされた後、水溶性の加工成分が流動するためにおこる。水溶性成分の例としては、ガスの吸着性を向上させるための成分や、捕集したタンパク質の変性を促進させるための成分がある。これらがシートに保持された水に溶解し、隣接したシートに移動すると、異成分間の反応や被覆、特定シート上での成分濃度低下がおこり、それぞれの本来の機能、効能を満足しないことが起こり得る。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、フィルタに雨滴等の水滴がついても、水溶性成分が隣接したシートに流動しない積層型フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る積層型フィルタは、複数のシートが積層される積層型フィルタにおいて、水溶性成分を添着した添着シートに隣接する層に、一定の厚みを有し、フィルタとしての透過性および撥水性を有する液滴遮断シートが積層されるようにしたものである。
【0007】
ガスの吸着性を向上させる成分であるアルカリ溶液の水酸化ナトリウム、酸化剤の次亜塩素酸塩、捕集したタンパク質の変性を促進させるための酵素、尿素、その他の水溶性成分が添着された添着シート(フィルタ)が水に濡れると、隣接する層に積層されるシートに水分と共に当該水溶性成分が流出し、添着シートによる効果が薄れてしまう。この発明では、水溶性成分を添着した添着シートに隣接する層に、一定の厚みを有し、フィルタとしての透過性および撥水性を有する液滴遮断シートが積層される。そのため、シート同士の距離を離すことができ、添着された水溶性成分が移動しにくくなる。また、液滴遮断シートの撥水性により添着シートの上記水溶性成分の流出が防止され、添着シート本来の効能が維持される。一定の厚みを有し、フィルタとしての透過性および撥水性を有する液滴遮断シートの例としては、不織布、多孔性撥水布がある。
【0008】
また、つぎの発明に係る積層型フィルタは、前記積層型フィルタにおいて、前記液滴遮断シートは、繊維の目付量が10g/m2以上100g/m2以下の不織布であるようにしたものである。
【0009】
液滴遮断シートは、目が細かければ細かい程、液滴の遮断性能、すなわち撥水性は向上する。しかし、フィルタにおける圧力損失も大きくなる傾向がある。そこで、この発明では、液滴遮断シートを適切な目付量の不織布とした。これにより、添着シートからの水溶性成分の流出が防止され、残存率を向上させつつ、フィルタとしての透過性を維持させることができる。
【0010】
また、つぎの発明に係る積層型フィルタは、前記積層型フィルタにおいて、前記不織布は、厚さが0.1以上0.5mm以下であるようにしたものである。
【0011】
フィルタは、捕集面積を上げるために、断面が波形形状、プリーツ形状、曲面形状、その他の非平面形状になるように形成されることが多い。この発明では、不織布の厚みを適切な大きさとして、当該断面波形等の形状にフィルタを形成するためのフレキシビリティを維持させるようにした。
【0012】
また、つぎの発明に係る積層型フィルタは、前記積層型フィルタにおいて、前記不織布は、1以上50dtex以下の繊維を用いるようにしたものである。
【0013】
不織布に用いられる繊維の重量を制限することにより、当該断面波形等の形状にフィルタを形成するためのフレキシビリティを維持させるようになる。
【0014】
また、つぎの発明に係る積層型フィルタは、複数のシートが積層される積層型フィルタにおいて、水溶性成分を添着した添着シートの接着側に撥水処理が施されるようにしたものである。
【0015】
添着シート自体が不織布等の液滴遮断シートの役割を果たすため、液滴遮断シートが不要となり、フィルタの圧力損失が低減される。
【0016】
また、つぎの発明に係る積層型フィルタは、複数のシートが積層される積層型フィルタにおいて、請求項2〜4のいずれか一つに記載の前記不織布の表面のみプラズマ処理、親水性皮膜処理等の親水化処理が施された後、水溶性成分の添着加工が行われ、裏面が他のシートと積層されるようにしたものである。
【0017】
不織布は、プラズマ処理等によって表面のみ親水化される。親水化されていない裏面は撥水性を維持するため、成分添着されない。したがって、表面付近に添着された水溶性成分は、裏面を通じて隣り合うシートに流出することがなくなり、水溶性成分の有する本来の効能が維持される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る積層型フィルタは、フィルタに雨滴等の水滴がついても、水溶性成分が隣接したシートに流動せず、フィルタに添着された成分本来の機能、効能を維持できるという効果を奏する。また、本来混合すると問題となる成分を含む層を隣接して積層することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る積層型フィルタの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の実施例1に係る積層型フィルタの構成を示す模式図である。ここに示す積層型フィルタ4は、3層のシート(フィルタ)1,2,3を積層したものである。積層型フィルタには、複数のシートに別機能を持たせて積層したものがある。たとえば、塵埃を捕集する機能を有するシート、脱臭機能を有するシート、人間のアレルギー症状の原因となるアレルゲンを不活性化する機能を有するシート等を積層するものである。
【0021】
生物由来の呼吸器系アレルゲンとしては、ダニアレルゲン、花粉アレルゲン、犬・猫等のペットアレルゲン等がある。これらのアレルゲンはタンパク質を成分として有しており、プロテアーゼやペプチターゼ等、生物由来の特定の酵素で分解すると不可逆的に不活性化され、アレルゲンとして機能しなくなることが知られている。さらに、タンパク質は高次構造を有するため、まず水溶成分である尿素で、高次結合を断ち切り、変性させた後に酵素によって一次結合を切断、すなわち低分子化することが有効となる。
【0022】
そこで、アレルゲン不活性化機能を有するフィルタには、尿素等を添着したシートを積層したフィルタが用いられる。図1のシート1は、尿素添着シートを示している。また、シート3は、一般的な塵埃捕集フィルタまたは、他の添着シートを示している。この発明では、尿素等、水溶性成分を添着した添着シート1に隣接する層に、一定の厚みを有し、フィルタとしての透過性および撥水性を有する液滴遮断シート2が積層される。
【0023】
添着シート1の材質は、ここでは問題とならず、たとえば、綿や羊毛などの天然繊維、レーヨンや酢酸セルロースなどの再生繊維、ポリエチレンやポリエチレンテレフタレートやポリアミドなどの合成繊維の不織布または編織物、ガラス繊維マット、金属繊維マット、さらにはアクリル酸系、アクリルアミド系、ポリビニルアルコール系などの合成樹脂、あるいはアルギン酸ナトリウム、マンナン、寒天などの天然・再生材料である吸水性/及びまたは吸湿性材料等が挙げられる。
【0024】
液滴遮断シート2には、多孔性濾布、ポリプロピレンまたはポリエステルを単独または混合で50重量%以上含んだ不織布を用いることができる。図2は、不織布繊維の目付量と水溶性成分残存率および圧力損失との関係を示すグラフ図であり、横軸は目付量、縦軸は水溶性成分残存率および圧力損失である。同図に示すように、不織布繊維の目付量が10g/m2以上であれば、隣接する添着シート1の水溶性成分がほぼ100%残存する。すなわち、撥水性を有することになり、添着された尿素が、シート3に流出し、添着シート1で濃度不足となることがなくなる。なお、ここでは、水溶性成分残存率が100%となるときに撥水性を有するとした。また、液滴としての水分の移動が防止されればよく、湿気のように気体としての水の移動はここでは問題とならない。
【0025】
しかしながら、目付量を大きくしていけば、当然に目が詰まってくるので、圧力損失が大きくなり、フィルタとしての通気性が保てなくなる。そこで、フィルタとしての通気性が維持される目付量として、この発明では、尿素に対しては100g/m2以下の不織布であるようにした。尿素以外の水溶性成分に対しては、図2と同様のグラフ結果から、水溶性成分残存率とフィルタとして許容できる圧力損失を考慮して、適切な目付量を選択すればよい。
【0026】
ここでは、尿素を代表として取り上げたが、添着シート1に添着され得る水溶性成分としては、ガスの吸着性を向上させるための成分であるアルカリ溶液の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸性溶液の硫酸、塩酸、リン酸、脂肪酸、スルファミン酸、シュウ酸、ソルビン酸、フミン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、木酢、酸化剤の次亜塩素酸塩、二酸化塩素、塩素、過酸化水素、過マンガン酸カリ、過酸化物、酸性塩溶液の重亜硫酸ソーダ、亜硫酸ソーダ、鉄塩の硫酸第一鉄、塩化第二鉄、糖類のサイクロデキストリン等や、捕集したタンパク質の変性を促進させるための成分である酵素、ポリフェノール、ドデシル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
上記液滴遮断シート2は、一定の厚みが必要となる。一定の厚みがあれば、添着シート1とシート3との距離を離すことになり、これによっても、水溶性成分の流出、移動を妨げることができるからである。図3は、液滴遮断シートの厚さと水溶性残存率および加工性との関係を示すグラフ図であり、横軸は、厚さ、縦軸は水溶性成分残存率である。同図に示すように、水溶性成分残存率100%、すなわち撥水性を得るためには、厚さ0.5mm以上が必要である。しかし、圧力損失低減やフィルタ面積を大きくするためにプリーツ状にシートを加工するためには、フレキシビリティが必要となる。この観点からは、厚さを0.5mm以下が適当となる。
【0028】
また、シート加工に対するフレキシビリティを維持するためには、繊維重量も考慮しなくてはならない。この観点からは、液滴遮断シート2としての不織布を、1以上50dtex以下の繊維(dtex:1万mあたりの繊維重量g)で構成する。
【0029】
このように、適切な目付量、厚さ、繊維重量が選択された不織布は、液滴遮断シート2として最適となり、シート同士の距離を離すことができるため、添着シートに保持された液体としての水(空気中の水分が保有される)が移動しにくく、加工成分の移動もおこりにくい。このため、結果的に、雨滴や洗車時の水滴がフィルタに付着した場合にも、それぞれのシート本来の機能・効能が低下することがなくなる。また、本来混在が許容されない成分を添着したシート同士を積層させることもできるようになる。なお、図1では、添着シート1を表側に、他のシート3を裏側に積層する場合を示したが、添着シートが表面に配置されるかどうかにかかわらず、添着シートからの水溶性成分の流出を防止したい側に、液滴遮断シート2を設けるようにすればよい。
【実施例2】
【0030】
図4は、この発明の実施例2に係る積層型フィルタを示す模式図である。実施例1では、添着シート1と不織布等の液滴遮断シート2との積層について説明したが、この実施例2では、液滴遮断シート2を用いず、添着シート1A自体に撥水化処理が施される場合について説明する。
【0031】
図4において、シート1Aは、水溶性成分を添着した添着シートであり、シート5は、
添着シート、または一般の塵埃捕集用等のシートを示している。添着シート1Aの接着する側にフッ素やシリコンによる撥水処理が施されると、添着シート1A自体が不織布等の液滴遮断シートの役割を果たすため、液滴遮断シートが不要となり、フィルタの圧力損失が低減されるという効果が得られる。すなわち、このような構成にすることによっても、フィルタにおける水溶性成分本来の機能・効能を長期にわたり維持できる積層型フィルタ6を構築することができる。また、本来混在が許容されない成分を添着したシート同士を積層させることもできるようになる。
【実施例3】
【0032】
図5は、この発明の実施例3に係る積層型フィルタを示す模式図である。実施例2では、添着シート1A自体に撥水化処理が施される場合について説明したが、この実施例3では、撥水性を有する不織布の表面のみプラズマ処理、親水性皮膜処理等の親水化処理が施された後、水溶性成分の添着加工が行われ、裏面が他のシートと積層される場合について説明する。
【0033】
図5において、シート2Aは、撥水性を有する不織布である。シート5は、実施例2と同様に添着シート、または一般の塵埃捕集等のシートを示している。目付量、厚さ、繊維重量が適切に選択されて浸透性および撥水性を有するに至った不織布の表面にプラズマ処理が施されると、空気中の水分子が反応し、表面だけ親水性を有するようになる。
【0034】
不織布のプラズマ処理された部分は、水濡れ性が向上し、水溶性成分や酵素を添着可能となる。一方、プラズマ処理されない裏面は撥水性を維持するため、成分添着されない。したがって、表面付近に添着された水溶性成分は、裏面を通じて隣り合うシート5に流出することがなくなり、水溶性成分の有する本来の効能が維持される。このような構成にすることによっても、フィルタにおける水溶性成分本来の機能・効能を長期にわたり維持できる積層型フィルタ7を構築することができる。また、本来混在が許容されない成分を添着したシート同士を積層させることもできるようになる。また、添着シート2A自体が不織布等の液滴遮断シート(実施例1参照)の役割を果たすため、液滴遮断シートが不要となり、フィルタの圧力損失が低減されるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明に係る積層型フィルタは、空調設備、換気設備等の空気取入口に配置されるフィルタに有用であり、特に、アレルゲン不活化機能を有するシートが積層され、水に濡れる可能性のある車載用積層型フィルタの生産等に適している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1に係る積層型フィルタの構成を示す模式図である。
【図2】不織布繊維の目付量と水溶性成分残存率および圧力損失との関係を示すグラフであり、横軸は目付量、縦軸は水溶性成分残存率および圧力損失である。
【図3】液滴遮断シートの厚さと水溶性残存率および加工性との関係を示すグラフであり、横軸は、厚さ、縦軸は水溶性成分残存率である。
【図4】実施例2に係る積層型フィルタを示す模式図である。
【図5】実施例3に係る積層型フィルタを示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1,3,5 シート
2 液滴遮断シート
1A,2A 添着シート
4,6,7 積層型フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシートが積層される積層型フィルタにおいて、
水溶性成分を添着した添着シートに隣接する層に、一定の厚みを有し、フィルタとしての透過性および撥水性を有する液滴遮断シートが積層されることを特徴とする積層型フィルタ。
【請求項2】
前記液滴遮断シートは、繊維の目付量が10g/m2以上100g/m2以下の不織布であることを特徴とする請求項1に記載の積層型フィルタ。
【請求項3】
前記不織布は、厚さが0.1以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の積層型フィルタ。
【請求項4】
前記不織布は、1以上50dtex以下の繊維を用いることを特徴とする請求項2または3に記載の積層型フィルタ。
【請求項5】
複数のシートが積層される積層型フィルタにおいて、
水溶性成分を添着した添着シートの接着側に撥水処理が施されることを特徴とする積層型フィルタ。
【請求項6】
複数のシートが積層される積層型フィルタにおいて、
請求項2〜4のいずれか一つに記載の前記不織布の表面のみプラズマ処理が施された後、水溶性成分の添着加工が行われ、裏面が他のシートと積層されることを特徴とする積層型フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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