説明

積層型光電変換装置

【課題】非晶質シリコン系光電変換ユニットと結晶質シリコン系光電変換ユニットとを積層してなる積層型光電変換装置において、性能と生産性の両面に渡って、従来の光電変換装置を凌駕する。
【解決手段】非晶質シリコン系光電変換ユニット3の逆導電型層および/または結晶質シリコン系光電変換ユニット4の一導電型層が、シリコンオキサイドからなり、その前記非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層および/または前記結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層の厚さを140〜240nmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質シリコン系光電変換ユニットと結晶質シリコン系光電変換ユニットとを積層した積層型光電変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光電変換装置の低コスト化、高効率化を両立するために使用原材料が少なくてすむシリコン系薄膜太陽電池が注目され、従来の非晶質薄膜太陽電池に加えて結晶質薄膜太陽電池も開発され、これらを積層したハイブリッド太陽電池と称される積層型薄膜太陽電池も実用化されている。加えて、CIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)等の化合物系太陽電池においても高性能なものが実用化されつつあり、薄膜太陽電池の性能およびコスト競争が激化している。
【0003】
薄膜太陽電池は、一般に、透光性基板上に順に積層された透明導電膜、1以上の半導体薄膜光電変換ユニット、および裏面電極を含んでいる。そして、1つの光電変換ユニットは一導電型層であるp型層と逆導電型層であるn型層でサンドイッチされた光電変換層であるi型層を含んでいる。
【0004】
透明導電膜は、透光性基板側から入射された光を有効に光電変換ユニット内に閉じ込めるために、その表面には通常微細な凹凸が多数形成されており、その高低差は一般的には0.05μm〜0.3μm程度である。薄膜太陽電池に最適な透明電極層の凹凸形状を求めるために、凹凸の形状を定量的に示す指標が必要である。従来、一般的に用いられている凹凸の形状を表す指標として、例えばヘイズ率がある。
【0005】
ヘイズ率とは、透明な基板の凹凸を光学的に評価する指標で、(拡散透過率/全光線透過率)×100[%]で表されるものである(JIS K7136)。ヘイズ率の測定においては、ヘイズ率を自動測定するヘイズメータが市販されており、容易に測定することができる。測定用の光源としては、C光源を用いて測定するものが一般的である。一般的には凹凸の高低差を大きくするほど、または凹凸の凸部と凸部の間隔が大きくなるほどヘイズ率が高くなり、光電変換ユニット内に入射された光は有効に閉じ込められる。しかしながら、凹凸の高低差が大きくなれば、その上の光電変換ユニットが均一に形成されず、部分的にp、iあるいはn型層が欠損する場合も起こり得る。そのような場合には微小なリークが生じ、光電変換特性を低下させる。このため、透明導電膜の凹凸はある程度なだらかであることも要求される。このような形状を表す指標としては、表面面積比(Sdr)が有効である。表面面積比は、ディベロップト・サーフェス・エリア・レシオ(Developed Surface Area Ratio)とも呼ばれ、略称としてSdrが用いられる。Sdrは1式および2式で定義される。
【0006】
【数1】

【0007】
ただし、Ajkは次式で示される。
【0008】
【数2】

【0009】
ここで、ΔX、ΔYはそれぞれX方向、Y方向の測定間隔の距離である。
【0010】
Sdrは、平坦なXY平面の面積に対して、表面積が増加した割合を示す。つまり、凹凸が大きく、鋭く尖っているほどSdrは大きくなる。Sdrの測定は、AFMまたはSTMなどの走査型顕微鏡で測定することができる。
【0011】
i型層は実質的に真性の半導体層であって光電変換ユニットの厚さの大部分を占め、光電変換作用は主としてこのi型層内で生じる。このため、このi型層は通常i型光電変換層または単に光電変換層と呼ばれる。光電変換層は真性半導体層に限らず、ドープされた不純物(ドーパント)によって吸収される光の損失が問題にならない範囲で微量にp型またはn型にドープされた層であってもよい。光電変換層は光吸収のためには厚い方が好ましいが、必要以上に厚くすればその製膜のためのコストと時間が増大することになる。
【0012】
他方、p型やn型の導電型半導体層は光電変換ユニット内に内部電界を生じさせる役目を果たし、この内部電界の大きさによって薄膜太陽電池の重要な特性の1つである開放電圧(Voc)の値が左右される。しかし、これらの導電型半導体層は光電変換に直接寄与しない不活性な層であり、導電型半導体層にドープされた不純物によって吸収される光は発電に寄与しない損失となる。したがって、p型とn型の導電型半導体層は、十分な内部電界を生じさせ得る範囲内であれば、できるだけ小さな厚さにとどめておくことが好ましい。導電型半導体層の厚さは一般的には20nm程度以下である。
【0013】
ここで、光電変換ユニットまたは薄膜太陽電池は、それに含まれるp型とn型の導電型半導体層が非晶質か結晶質かにかかわらず、その主要部を占める光電変換層が非晶質のものは非晶質光電変換ユニットまたは非晶質薄膜太陽電池と称され、光電変換層が結晶質のものは結晶質光電変換ユニットまたは結晶質薄膜太陽電池と称される。
【0014】
薄膜太陽電池の変換効率を向上させる方法として、2以上の光電変換ユニットを積層する方法がある。薄膜太陽電池の光入射側に大きなバンドギャップを有する光電変換層を含む前方ユニットを配置し、その後方に順に小さなバンドギャップを有する光電変換層を含む後方ユニットを配置することにより、入射光の広い波長範囲にわたって光電変換を可能にし、これによって太陽電池全体としての変換効率の向上が図られる。このような積層型太陽電池の中でも、特に非晶質シリコン系光電変換ユニットと結晶質シリコン系光電変換ユニットを各々1つずつ積層し電気的に直列接続したものはシリコンハイブリッド太陽電池と称される。
【0015】
例えば、i型非晶質シリコンが光電変換し得る光の波長は長波長側において800nm程度までであるが、i型結晶質シリコンはそれより長い約1150nm程度の波長までの光を光電変換することができる。
【0016】
シリコンハイブリッド太陽電池の出力特性のうち、短絡電流密度(Jsc)は、前方に配置される非晶質シリコン系光電変換ユニット(以降これを単にトップセルと称す)の分光感度積分電流(分光感度を測定し、それらにエアマス1.5に代表される太陽光スペクトル強度を波長毎に乗じて積分し算出される出力電流密度)と後方に配置される結晶質シリコン系光電変換ユニット(以降これを単にボトムセルと称す)の分光感度積分電流との大小関係によって決定される。具体的には、トップセルの分光感度積分電流よりもボトムセルの分光感度積分電流が大きければ、太陽電池全体のJscはトップセルの分光感度積分電流により制限される。逆にボトムセルの分光感度積分電流のほうが小さければ、全体のJscはボトムセルの分光感度積分電流により制限される。
【0017】
光吸収係数の大きな非晶質シリコン系光電変換層は、300nm程度の厚さでも十分なJscを得ることができるが、光吸収係数の小さな結晶質シリコン系光電変換層は長波長の光をも十分に吸収するためには1500〜3000nm程度の厚さを有することが好ましい。すなわち、結晶質シリコン系光電変換層は、通常は非晶質シリコン系光電変換層に比べて5〜10倍程度の厚さを有することが望まれる。同様に、シリコンハイブリッド太陽電池においても、両者の厚さの比を概ね5〜10倍とすることが必要である。仮に結晶質シリコン系光電変換層の厚さをそれよりも薄くすれば、全体のJscはボトムセルの分光感度積分電流で制限された値となる。
【0018】
非晶質シリコンはステブラー・ロンスキー効果によって光劣化し分光感度積分電流も低下することが広く知られており、この問題を抑制しかつ性能を向上するためには、非晶質シリコン系光電変換層の厚さを薄く保持しつつ、Jscを向上させる必要がある。このためには、特許文献1のように非晶質シリコン系光電変換層の光入射側と反対側に非晶質シリコン系光電変換層よりも低屈折率なシリコン複合層を配置することで、非晶質シリコン系光電変換層内で吸収し切れなかった光を反射させて再吸収させることが有効である。一方で、結晶質シリコン系光電変換層の製膜速度は非晶質シリコン系光電変換層の製膜速度に比べてそれほど大きくないことから、シリコンハイブリッド太陽電池の場合、結晶質シリコン系光電変換層の厚さによって太陽電池全体の製造コストが左右される。特許文献1では、シリコン複合層を反射層として用いることで、トップセルに見合うボトムセルの分光感度積分電流を得るためには、結晶質シリコン系光電変換層の厚さも厚くする必要があり、生産性は低下する。このことから、生産性を徹底して上げるために、結晶質シリコン系光電変換層を従来よりも大幅に減らすと共に、光劣化を伴う非晶質シリコン系光電変換層の厚さをも大幅に減らして光劣化を抑制しつつ、光電変換層の厚さを減らした場合に生ずる集積化の困難さを克服する、特許文献2に示す技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開2005−011001号公報
【特許文献2】国際公開2007−074683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
前述した通り、結晶質シリコン光系電変換層の製膜速度は非晶質シリコン系光電変換層の製膜速度に比べてそれほど大きくできないことから、特許文献1に開示された技術によれば、高い光安定化効率は得られるが生産性は高くない。一方で、特許文献2に開示された技術によれば、生産性は格段に向上するがその光安定化効率は十分ではなく、また、透明導電膜としてSdrの大きいものを用いると性能が低下する傾向がある。本発明においては、以上のような課題を解決し、光安定化性能、生産性の両面に渡って、従来の薄膜系光電変換装置を凌駕することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明による積層型光電変換装置は、光透過側から順に少なくとも、一導電型層、光電変換層、逆導電型層を含む非晶質シリコン系光電変換ユニットと、一導電型層、光電変換層、逆導電型層を含む結晶質シリコン系光電変換ユニットとを積層してなる積層型光電変換装置であって、
前記非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層および/または前記結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層が、シリコンオキサイドからなり、その前記非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層および/または前記結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層の厚さが140〜240nmであることを特徴とする。シリコンオキサイド層は、これと接する非晶質シリコン系光電変換層内または結晶質シリコン系光電変換層内に内部電界を生じさせる役割を果たすと共に、非晶質シリコン系光電変換層で吸収されるべき700nm以下の波長の光を反射させ、結晶質シリコン系光電変換層で吸収されるべき700nm以上の波長の光を反射ロスなく透過させる選択反射、透過の役割を果たす。シリコンオキサイド層はそれ自身の吸収を低く抑えるため、波長600nmにおける屈折率が2.2であることが好ましい。また、非晶質シリコン系光電変換層は光劣化を抑制し性能向上を図るために、その厚さが90〜200nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、当業者の常識では通常考えないような厚みを有する、光電変換層と同等以上の厚い導電型層を備え、その導電型層がシリコンオキサイドを材料として使用することで、効果的な選択反射、透過を実現できる。加えて、非晶質シリコン系光電変換層の厚さが薄く、かつ透明導電膜のSdrが大きくても、特許文献2において示されるようなリークに伴うVocの低下やFFの低下が発生せず、極めて高い光安定化性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるシリコンハイブリッド太陽電池の模式的断面図である。
【図2】本発明による集積型シリコンハイブリッド太陽電池の模式的断面図である。
【図3】集積型シリコンハイブリッド太陽電池上にミニモジュールを形成する方法の説明図である。
【図4】実施例1、3、4、5および比較例1、3、4、5、6で示した、n型シリコンオキサイド層の厚さとシリコンハイブリッド太陽電池の光照射後の効率の関係を示した図である。
【図5】n型シリコンオキサイド層の厚さとトップセルの分光感度積分電流の関係を示した図である。
【図6】n型シリコンオキサイド層の厚さとトップセルとボトムセルの分光感度積分電流の和の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態としてのシリコンハイブリッド太陽電池を、図1を参照しつつ説明する。
【0025】
透光性基板1の上に透明導電膜2が形成されている。
【0026】
透光性基板1としては、ガラス、透明樹脂等から成る板状部材やシート状部材が用いられる。
【0027】
透明導電膜2としては酸化錫、酸化亜鉛等の金属酸化物が用いられる。透明導電膜2はCVD、スパッタ、蒸着等の方法を用いて形成される。透明導電膜2は、形成条件の工夫によりその表面に微細な凹凸を生じさせて入射光の散乱を増大させる効果を有している。凹凸の高低差は0.05〜0.3μm程度であり、シート抵抗は5〜20Ω/□程度であり、表面面積比Sdrは20〜60%程度に設定される。入射光の散乱をより効果的に増大させるためには、Sdrの値は大きいほうがよいが、Sdrの値が大きすぎると透明導電膜2の表面が鋭く尖ることになるので、その上に形成される光電変換ユニットの厚さが薄い場合には、リーク等が生じやすくなる。したがって、Sdrは30〜50%程度であることが好ましい。
【0028】
透明導電膜2の上にはトップセルである非晶質シリコン系光電変換ユニット3が形成される。非晶質シリコン系光電変換ユニット3は非晶質p型シリコンカーバイド層3p、非晶質i型シリコンバッファ層3b、非晶質i型シリコン系光電変換層3i、結晶化前i型シリコン層3bi、n型シリコンオキサイド層3nから成り立っている。ここで結晶化前層とは、所定の形成条件で例えば50nm以上の厚さまで堆積すれば結晶化が始まるが、それと同一条件で例えば15nm程度の厚さに堆積した場合には結晶化に至っていない層を意味する。非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さは90〜200nmであることが好ましい。非晶質i型シリコン系光電変換層3iの材料にはシリコンのみならず、炭素、ゲルマニウム等のバンドギャップ調整元素が含まれていてもよい。n型シリコンオキサイド層3nは、波長700nm以下の光を効果的に反射し、700nm以上の光を透過させ、かつその層での光の吸収ロスをできる限り小さくするために、その厚さを140〜240nmの範囲に設定する。また、波長600nmにおける屈折率が2.2以下であることが望ましく、更に、導電率は10−8〜10−4S/cm程度であることが望ましい。n型シリコンオキサイド層3nには、窒素、炭素等の元素が含まれていても良い。
【0029】
なお本発明において、厚さの測定は断面TEM写真による実測で求めることができる。本発明の各種の層の厚さについては、実質的に平滑なガラス基板の上に、所定の製膜条件で、製膜時間のみを長短変化させることによって複数の厚みの単層サンプルを作製し、それぞれ断面TEM写真による厚さの実測等を繰り返すことによって、たとえば製膜時間と実測厚さとの検量線を作成することが可能である。このような方法で、本発明の各種の層の厚さについては、ある所定の製膜条件で、製膜時間を実測制御することによって、被着する層の厚さを制御することができる。本発明の実施例や比較例の層の厚さは、通常は上記のように予め得られた検量線を元にして計算される厚さを意味する。
【0030】
また、本発明の積層型光電変換装置を得た後に、(1)非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層の厚さ、(2)結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層の厚さ、(3)非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層の厚さと結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層の厚さの合計、(4)非晶質シリコン系光電変換ユニットの光電変換層の厚さ、それぞれについては、断面TEM写真を撮影することによって、確認可能である。なお、下地の凹凸などを反映して各層の厚さが一義的に見積もることが難しい場合であっても、断面TEM写真のY座標の10点平均などによって凹凸の影響を差し引くことによって、各層の厚さを計算することが、可能である。
【0031】
非晶質シリコン系光電変換ユニット3の上にボトムセルである結晶質シリコン系光電変換ユニット4が形成されている。結晶質シリコン系光電変換ユニット4は結晶質p型シリコン層4p、結晶質i型シリコン系光電変換層4i、および結晶質n型シリコン層4nから成り立っている。結晶質i型シリコン系光電変換層4iの厚さは、生産性やトップセルの分光感度積分電流とのバランスから、900〜1200nmであることが望ましく、その材料にはシリコンのみならず、ゲルマニウム等のバンドギャップ調整元素が含まれていても良い。結晶質n型シリコン層4nの代わりに、n型シリコンオキサイドを始めとする低屈折率層と結晶質n型シリコン層を積層したものを用いてもよい。
【0032】
非晶質シリコン系光電変換ユニット3、および結晶質シリコン系光電変換ユニット4(以下、この両方のユニットをまとめて単に光電変換ユニットと称する)の形成には高周波プラズマCVD法が適している。光電変換ユニットの形成条件としては、基板温度100〜250℃、圧力30〜1500Pa、高周波パワー密度0.01〜0.5W/cmが好ましく用いられる。 光電変換ユニット形成に使用する原料ガスとしては、SiH、Si等のシリコン含有ガスまたは、それらのガスと水素を混合したものが用いられる。光電変換ユニットにおけるp型またはn型層を形成するためのドーピングガスとしては、BまたはPH等が好ましく用いられる。また、シリコンオキサイド層の形成においては、上記のガスに加えてCOが好ましく用いられる。
【0033】
n型シリコン層4nの上には裏面電極層5が形成される。裏面電極層5にはAg、Alまたはそれらの合金が好ましく用いられる。裏面電極層5とn型シリコン層4nとの間には、裏面電極層5からn型シリコン層4nへの金属の拡散を防止するため、透明反射層5tを挿入してもよい。透明反射層5tにはZnO、ITO等の高抵抗で透明性の優れた金属酸化物が用いられる。透明反射層5tおよび裏面電極層5の形成においては、スパッタ、蒸着等の方法が好ましく用いられる。裏面電極層5には上記金属の代わりに、ZnO等の透明性の高い金属酸化物のみを用いてもよい。その場合には裏面電極層のシート抵抗が30Ω/□以下、より好ましくは15Ω/□以下となるように、裏面電極層の厚さを設定する。
【0034】
以上の説明は、非晶質シリコン系光電変換ユニット3のn型シリコンオキサイド層3nと結晶質シリコン系光電変換ユニット4の結晶質p型シリコン層4pとが接する構造について行ったが、n型結晶質シリコン層と厚さ140〜240nmのp型シリコンオキサイド層との組合せでもよいし、n型シリコンオキサイド層とp型シリコンオキサイド層との組合せでかつ両者の厚さの合計が140〜240nmの範囲にあってもよい。更に、上記の説明は非晶質シリコン系光電変換ユニット3と結晶質シリコン系光電変換ユニット4を積層した2段の積層型太陽電池について行ったが、シリコンに炭素やゲルマニウム等のバンドギャップ調整元素を加えてもよいし、非晶質シリコン系光電変換ユニット3、結晶質シリコン系光電変換ユニット4の上に更に結晶質シリコン系光電変換ユニットを積層した3段タンデム構造としてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明によるシリコン系積層型薄膜太陽電池として実施例1〜9を、図2を参照しつつ、比較例1〜10と比較しながら説明する。
【0036】
(実施例1)
図2は、実施例1で作製した集積型シリコンハイブリッド太陽電池を模式的に示す断面図である。
【0037】
まず、透光性基板1として1200mm×998mm×5mm厚の白板ガラスを用いた。透光性基板1の一主面上に、酸化錫からなる表面に微細な凹凸構造を有する透明導電膜2を熱CVD法により形成した。透明導電膜2の厚さは750nm、透明導電膜2側よりC光源で測定したヘイズ率は15%、シート抵抗は13Ω/□であった。また、一辺が5μmの正方形領域を各辺256分割して観察したAFM像から得られたSdrは48%であった。なお、図示していないが、透光性基板1の他主面上にはシリカ微粒子から成る反射防止膜が形成されている。次に、透明導電膜2を複数の帯状パタ−ンへと分割するためにYAG基本波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより、幅20μmの透明電極層分離溝2aを形成し、超音波洗浄および乾燥を行った。
【0038】
さらに、非晶質シリコン系光電変換ユニット3を形成するために、透明導電膜2が形成された透光性基板1を高周波プラズマCVD装置内に導入し、厚さ10nmの非晶質p型シリコンカーバイド(p型a−SiC)層3pを形成した。引き続いて厚さ10nmの非晶質i型シリコンバッファ層3b、厚さ100nmの非晶質i型シリコン系光電変換層3i、厚さ10nmの結晶化前i型シリコン層3bi、厚さ170nmのn型シリコンオキサイド層3nを順次積層した。p型a−SiC層3pの形成においては、SiH、水素、水素希釈されたB、CHを反応ガスとして用いた。n型シリコンオキサイド層3nの形成においては、SiH、水素、水素希釈されたPH、COを反応ガスとして用い、具体的には、基板温度170〜200℃、基板製膜面と放電電極間の距離7〜15mm、圧力350〜1500Pa、高周波パワー密度0.1〜0.3W/cmとした。また、これと同一CVD条件でガラス上に100nm形成した単膜の屈折率は、波長600nmにおいて1.95〜1.85、導電率は1×10−8〜3×10−5S/cm、XPSで測定した膜中酸素量は51〜54原子%であった。ラマン散乱スペクトルの測定を行ったところ、結晶シリコンに起因するピークが観測された。次に、結晶質シリコン系光電変換ユニット4を形成するために、引き続きプラズマCVD装置を用いて厚さ15nmのp型結晶質シリコン層4p、厚さ1000nmの結晶質i型シリコン系光電変換層4i、厚さ30nmのn型シリコンオキサイド層4n、厚さ7nmのn型結晶質シリコン層(図示せず)を順次積層した。
【0039】
その後、非晶質シリコン系光電変換ユニット3及び結晶質シリコン系光電変換ユニット4を複数の帯状パターンへと分割するために、大気中に基板を取り出し、YAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより幅40μmの接続溝4aを形成した。次に、厚さ80nmのZnOから成る透明反射層(図示せず)と厚さ200nmのAgから成る裏面電極層5をDCスパッタ法によって形成した。最後に、非晶質シリコン系光電変換ユニット3、結晶質シリコン系光電変換ユニット4、及び裏面電極層5を複数の帯状パターンへと分割するために、YAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に照射することにより、幅40μmの裏面電極層分離溝5aを形成し、図2に示すような左右に隣接する短冊状ハイブリッド太陽電池が電気的に直列接続された集積型シリコンハイブリッド太陽電池を作製した。この集積型シリコンハイブリッド太陽電池は、幅9.1mm×長さ1170mmのハイブリッド太陽電池が53段直列、2並列接続されて構成されている。
【0040】
実施例1で作製した集積型シリコンハイブリッド太陽電池上に、さらに小さな集積型の太陽電池領域を形成するために、透明導電膜2、非晶質シリコン系光電変換ユニット3、結晶質シリコン系光電変換ユニット4、及び裏面電極層5の全てを図3に示すように矩形状に除去する太陽電池分離溝6aをYAG基本波パルスレーザーとYAG第2高調波パルスレーザーを透光性基板1に続けて照射することにより形成した。これにより、1200mm×998mmの透光性基板1上に、幅9.1mm×長さ100mmのハイブリッド太陽電池が11段直列接続された集積型シリコンハイブリッド太陽電池ミニモジュール(以下単にミニモジュールと称す)を複数個形成した。
【0041】
これらのミニモジュール群を、透光性基板1を図3の分割線7aに沿って切断することにより125mm×125mmの大きさに分割した後、裏面電極層5の上に封止樹脂層を介して有機保護層(共に図示せず)を載せて封止した。こうして得られた封止ミニモジュール群のうち2個につき、エアマス1.5に近似されたスペクトルでエネルギー密度100mW/cmの擬似太陽光を、測定雰囲気及び太陽電池の温度25±1℃の条件下で照射し、ミニモジュールの電流−電圧特性を測定した。得られた開放電圧を11で割って1段当りに換算した開放電圧Voc、短絡電流をユニットセルの面積である9.1cmで割って得られた短絡電流密度Jsc、曲線因子FF、変換効率Effの測定結果(2個の平均値)を表1に示す。
【0042】
次に、先のミニモジュール群に、照射エネルギー密度500mW/cmの擬似太陽光をミニモジュールの裏面電極の表面温度50±2℃の条件で20時間照射し、更に100mW/cmの擬似太陽光をミニモジュールの裏面電極の表面温度50±2℃の条件で550時間照射した。光照射後のミニモジュール群のEffの平均値を併せて表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1は、実施例および比較例で示したシリコンハイブリッド太陽電池の光照射前後の太陽電池特性を示した表である。
【0045】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1と比較して透明導電膜2のヘイズ率が23%、シート抵抗が10Ω/□、Sdrが31%に変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例2で作製したミニモジュールの光照射前後の出力測定結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
比較例1においては、実施例1と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例1で作製したミニモジュールの光照射前後の出力測定結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
比較例2においては、実施例2と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmに変更され、他は実施例2と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例2で作製したミニモジュールの光照射前後の出力測定結果を表1に示す。
【0048】
(実施例3、4、5)
実施例3、4、5においては、実施例1と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが150、200、220nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例3、4、5で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0049】
(比較例3、4、5、6)
比較例3、4、5、6においては、実施例1と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが60、100、130、250nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例1で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0050】
(実施例6、7)
実施例6、7においては、実施例1と比較して非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さが120nmに変更され、更にn型シリコンオキサイド層3nの厚さが160、200nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例6、7で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0051】
(比較例7、8、9)
比較例7、8、9においては、実施例6と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが100、130、250nmに変更され、他は実施例6と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例7、8、9で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0052】
(実施例8、9)
実施例8、9においては、実施例1と比較して非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さが150nmに変更され、更にn型シリコンオキサイド層3nの厚さが160、200nmに変更され、他は実施例1と全く同様にして太陽電池の作製を行った。実施例8、9で作製したミニモジュールの光照射後のEffを表1に示す。
【0053】
(比較例10)
比較例10においては、実施例8と比較してn型シリコンオキサイド層3nの厚さが100nmに変更され、他は実施例8と全く同様にして太陽電池の作製を行った。比較例10で作製したミニモジュールの光照射後Effを表1に示す。
【0054】
実施例1と2との比較から、本発明においては、非晶質i型シリコン系光電変換層3iの厚さが100nmと非常に薄いにもかかわらず、低コストで供給可能なSdrの大きい透明導電膜を使用しても極めて高いVocが得られ、光照射後EffもSdrの小さいものと大差なく、10%を大きく超えるものが得られることがわかる。これは従来技術では成し得なかったことである。
【0055】
次に、図4の実施例1、3、4、5と比較例1、3、4、5、6の比較から、n型シリコンオキサイド層3nの厚さには適切な範囲が存在し、従来技術の範囲である130nm以下では一旦Effが飽和傾向にあるが、更に厚さを増加させていくと再びEffが増加を示し、140〜240nmの範囲で従来技術よりも高いEffが得られ、200nm付近で最大値を取ることがわかる。この理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。n型シリコンオキサイド層3nの厚さを変えていくと、図5のように100nm程度まではトップセルの電流が伸びていくが、その後一旦低下傾向を示す。しかしながら更に厚さを厚くしていくと、再度トップセルの電流が伸び、200nm程度でピーク値を示す。簡易な光学計算ではこのような挙動は示さず、100nm付近でピーク値を示した後、一旦20nmの場合と同等の電流値となり、再度上昇するような振動波形となるので、厚くすると何らかの光閉じ込め効果が発現するものと考えられる。一方で、トップセルとボトムセルの分光感度積分電流の和は、図6に示すように、n型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmのときをピークとして、その厚さ方向に電流の和が振動するような傾向を示す。このことから、トップセル電流と、トップセルとボトムセルの電流の和が同時に最大値を示す200nm付近の厚さで出力電流が最大となり、光照射後の効率も最大になるものと考えられる。なお、図5、図6においては、n型シリコンオキサイド層3nの厚さが20nmのときの電流値を1として規格化している。
【0056】
従来は、導電型層を兼ねるシリコンオキサイド層の厚さを必要以上に厚くすることは、その層内での光吸収損失があることに加えて、トップセル側への光の反射効果も減少するという実験および光学計算の結果から、130nmを超えるものについては検討がなされていなかった。この常識を打ち破り非常に厚い導電型層を用いることで、本発明に示す高い変換効率が達成できたと考えられる。
【符号の説明】
【0057】
1 透光性基板
2 透明導電膜
3 非晶質シリコン系光電変換ユニット
3p 非晶質p型シリコンカーバイド層
3b 非晶質i型シリコンバッファ層
3i 非晶質i型シリコン系光電変換層
3bi 結晶化前i型シリコン層
3n n型シリコンオキサイド層
4 結晶質シリコン系光電変換ユニット
4p p型結晶質シリコン層
4i 結晶質i型シリコン系光電変換層
4n n型結晶質シリコン層
5 裏面電極層
5t 透明反射層
2a 透明電極層分離溝
4a 接続溝
5a 裏面電極層分離溝
6a 太陽電池分離溝
7a 分割線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過側から順に少なくとも、一導電型層、光電変換層、逆導電型層を含む非晶質シリコン系光電変換ユニットと、一導電型層、光電変換層、逆導電型層を含む結晶質シリコン系光電変換ユニットとを積層してなる積層型光電変換装置であって、
前記非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層および/または前記結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層が、シリコンオキサイドからなり、その前記非晶質シリコン系光電変換ユニットの逆導電型層および/または前記結晶質シリコン系光電変換ユニットの一導電型層の厚さが140〜240nmであることを特徴とする、積層型光電変換装置。
【請求項2】
前記シリコンオキサイドの波長600nmにおける屈折率が2.2以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層型光電変換装置。
【請求項3】
前記非晶質シリコン系光電変換ユニットの光電変換層の厚さが90〜200nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層型光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−243874(P2012−243874A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110765(P2011−110765)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】