説明

穴あけ工具の切屑回収装置

【課題】穴あけ工具用の切屑回収装置について、コンパクトな構成で切屑を効率よく回収できるものを実現して提供することを課題としている。
【解決手段】穴あけ工具Aの外周を囲うケーシング2とノズル11と空気圧源を組み合わせた気流発生機構を備える。ケーシング2は、排出口6を外周に備えた本体部3と、その本体部の下側に配置する先覆い部4とから成り、穴あけ工具Aの先端側外周を包囲する先覆い部4は、先端側の内径が小さく、その内径が後方に向ってテーパ状に拡大し、本体部3の内面に対して円弧の内面7で繋がれた形をしているものにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドリルなどの穴あけ工具による穴加工で発生した切屑を、コンパクトな構成で効率よく回収することを可能にした切屑回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルなどによる穴あけ加工で発生した切屑を切屑回収装置によって回収することが従来から行われている。その切屑回収装置の従来例として、吸引装置(真空集塵機)で負圧を発生させて切屑を吸引回収するものがある(下記特許文献1参照)。
また、ドリルに直接圧縮空気を吹付けて切屑を吹き飛ばす装置と組み合わせたものや、ドリルの内部に通して供給した圧縮空気を刃先に吹付け、その空気を利用してフルート溝(切屑排出溝)内の切屑を切屑集積室に向けて吹上げる装置と組み合わせたものなども提案されている(下記特許文献2、3参照)。
【0003】
【特許文献1】実開平2−114408号公報
【特許文献2】実開昭62−106708号公報
【特許文献3】実開平5−31844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸引装置で発生させた負圧を利用して切屑を吸引回収する特許文献1の装置は、設備が大掛かりになり、設備スペース、装置コスト、設備のメンテナンスなどの面で不利になる。
【0005】
また、従来の切屑回収装置は、切屑を囲い込むケーシングとして円筒状のものが用いられているが、このようなケーシングは、空気流が澱む箇所が内部にできてそこに切屑が滞留しやすくなる。内部に切屑を排出口に案内するガイド板などを設置したものは特に、ガイド板が空気の流れを遮断するので、空気流の澱みによる切屑の滞留が発生しやすい。
【0006】
空気の吹付けを併用する特許文献2の回収装置も以下のような問題点を有している。すなわち、ツイストドリルによる穴加工で発生する切屑は、フルート溝に沿って延びだし、途中から遠心力で外側に広がるものと、刃先部でチップ状に砕かれるものが混在している。この切屑を、空気を吹付けて処理しようとすると、細かく砕けた切屑がドリルと切屑を囲ったケーシングの内部で拡散するため、吸引装置の負担が増し、長時間の連続使用に耐えるのが難しくなる。
これに加えて、折れずに延びだす切屑も発生するため、ドリルから吹き離された切屑がドリルに対して再干渉しないようにケーシングの内部にケーシングの先端(下部)側でも広いスペースを確保する必要があり、この場合もやはり装置が大掛かりになる。
【0007】
特許文献3が開示している切屑回収装置は、内部に空気通路を設けたドリルが必要であり、また、吸引装置を併用しているため、特許文献1の装置と同様の不具合を生じる。
【0008】
この発明は、穴あけ工具用の切屑回収装置について、コンパクトな構成で切屑を効率よく回収できるものを実現することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、回転する穴あけ工具で被削材に穴をあけるときに使用する切屑回収装置を、穴あけ工具の外周を囲うケーシングと、このケーシングの内部に排出口に向う気流を生じさせる気流発生機構を備えるものにする。また、前記ケーシングは、穴あけ工具の後部外周を包囲する、前記排出口を外周に備えた本体部と、その本体部の下側に配置して穴あけ工具の先端側外周を包囲する先覆い部とから成り、先覆い部は、先端側の内径が小さく、その内径が後方に向ってテーパ状に拡大し、本体部の内面に対して円弧の内面で繋がれた形をしているものにする。
【0010】
この切屑回収装置の好ましい形態を以下に挙げる。
(1)ケーシングの本体部が、断面略半円形の周壁を環状に連ならせてドーナツ状に形成されており、上側中心部に穴あけ工具とそれを保持した工具ホルダが挿入される開口部を有し、さらに、外周の一部に、前記排出口を構成する開口と開口設置部の外周から接線方向に延びだす排出管を有する。
(2)前記ケーシングの本体部に、前記周壁の上端から位置を下げながら径方向内側に入り込む断面円弧の折り返し部を設け、その折り返し部の中心に前記開口部を備えている。
(3)ケーシングの本体部の下部に外周から穴あけ工具の回転方向に向けて圧縮空気を供給するエアーノズルが複数個配置され、このエアーノズルと空気圧源を組み合わせて前記気流発生機構が構成されている。
(4)前記先覆い部と本体部との間に連結の解除が可能な接続部が設けられ、前記先覆い部が本体部に対して着脱自在である。
【発明の効果】
【0011】
穴あけによって発生した切屑は、穴あけ工具の回転による流出力が生じており、遠心力による拡散エネルギーも有している。この発明の切屑回収装置は、その流出力と拡散エネルギーを生かしてケーシングの本体部に切屑を誘導する。ケーシングの下部に、本体部側に向うに従って内径が増加して円弧面を介して本体部に繋がる先覆い部を配置しており、その先覆い部の内面による誘導効果によって切屑は滞ることなくケーシングの本体部に案内される。
【0012】
また、ケーシングの中に、排出口に向う気流による副次効果の負圧が発生し、その負圧により先覆い部の中に先覆い部の先端の開口から吸い込まれる空気の流れ(上昇気流)が生じる。その上昇気流を含めた気流による排出支援もあって切屑の本体部への誘導、排出口への誘導が良好になされ、生成された切屑がケーシング内に滞留せずに効果的に排出口から排出される。
【0013】
特に、ケーシングの本体部を略断面半円形の周壁を環状に連ならせてドーナツ状に形成したものは、空気が澱む箇所がケーシングの内部にできない。これに加えて、本体部の内側に排出支援用の気流が発生し、そのために、切屑が先覆い部から本体部へスムーズに流れ、本体部内での切屑の流れもスムーズになって真空集塵機を使用しなくても切屑を効果的に回収して排出することができる。ケーシングの本体部に、上記の折り返し部を設け、その折り返し部の中心に穴あけ工具と工具ホルダが挿入される開口部を備えたものは、本体部内に螺旋の気流(渦流)が発生し、切屑を気流中心側に誘導する効果が高くてより良い排出効果が望める。
【0014】
また、先覆い部を本体部に対して着脱自在にしたものは、使用する穴あけ工具の直径変動、先覆い部の摩耗や突発的破損などに対する対応が先覆い部のみの交換によって可能になり、メンテナンス性の向上と対応に要する費用の削減が図れる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面の図1〜図6に基づいてこの発明の切屑回収装置の実施の形態を説明する。図1及び図2に示す第1形態の切屑回収装置1は、穴あけ工具(図のそれはドリル)Aの外周を囲うケーシング2と、気流発生機構10を組み合わせて構成されている。ケーシング2は、本体部3の下部中央に先覆い部4を有する。
【0016】
本体部3は、断面が略半円の周壁3aを環状に連ならせて全体がドーナツ状になるように形成されており、上側中心部に穴あけ工具Aとそれを保持した工具ホルダBが挿入される開口部5を有している。また、外周に、周壁3aの一部を開放させて生じさせた開口6aと、開口設置部の外周から接線方向に延びだす断面円形の排出管6bとで構成された排出口6を有する。なお、図示のケーシング2の周壁3aには、その周壁3aの上端から位置を下げながら径方向内側に入り込む断面円弧の折り返し部3bを含ませており、その折り返し部3bの中心に上記の開口部5が設置されている。
【0017】
先覆い部4は、本体部3の下側中央部に設けられている。この先覆い部4は、先端側の内径が小さく、その内径が後方(図1において上側)に向ってテーパ状に拡大し、本体部3の内面に対して緩やかな円弧の内面7で繋がれた形をしており、この先覆い部4を使って穴あけ工具Aの先端側外周を包囲する。この先覆い部4は、体積の小さいものが切屑を回収しやすくて好ましいことから、その内径が、遠心力による切屑の拡散を阻害せず、かつ、穴あけ工具Aとの間の隙間が過大にならないように設定され、さらに、その長さ(高さ)も、遠心力で拡散する切屑を円弧の内面7でガイドできるように設定されている。
【0018】
気流発生機構10は、図2に示すように、ケーシング2の本体部3の下部に設置されて周壁3aの外部から穴あけ工具Aの回転方向に向けて圧縮空気を供給するエアーノズル11と、そのエアーノズル11に圧縮空気を供給する空気圧源12を組み合わせて構成されている。
【0019】
エアーノズル11は、周方向にほぼ等間隔で複数個配置される。図示のケーシング2には、そのエアーノズル11が2個設置されているが、その数は、切屑回収装置1に要求される能力に応じて適宜増加させることができる。穴明け工具がドリルの場合、エアーノズル11は、3,4個もあれば十分である。
【0020】
このように構成した図示の切屑回収装置1は、ケーシング2を穴あけ機(例えばボール盤)のスピンドルで保持して穴あけ工具Aとともに昇降させる。そのケーシング2は、先覆い部4が被削材Wに接触した位置で停止し、以後、穴あけ工具Aと工具ホルダBがケーシング2に対して相対移動してさらに下降し、被削材Wに穴をあける。
【0021】
その穴あけが開始されると、気流発生機構10による圧縮空気の吹き込みがなされてケーシング2の本体部3内に排出口6に向う気流が発生する。圧縮空気の吹き込み開始は、穴あけが開始される前であっても良い。この吹込みによって生じる気流は、周壁3aの上部内側に設けた折り返し部3bの作用で図3(a)、(b)に示すような渦流Cとなり、その渦流Cが穴あけ工具Aの周囲を移動して排出口6に向う。このとき、先覆い部4の内部は、本体部3内の気流の影響で負圧状態になるため、図3(b)に示すように、開口した先端から空気を吸い込んで吸い上げる流れが発生する。
【0022】
穴あけによって発生した切屑は、工具の回転によって生じた流出力を有しており、この切屑が、先覆い部4の内部に生じた上昇気流に支援されて遠心力で拡散しながら上昇し、先覆い部4の内面に誘導されてケーシング2の本体部3に流れ込む。そして、本体部3内に生じている渦流Cに乗って排出口6に流れる。
【0023】
この作用で、切屑は真空吸引装置を使用しなくても効果的に回収されて排出口6から排出される。このように、例示の装置は圧送気流を利用するので(負圧を利用した切屑回収ではないので)、開口部5と工具ホルダBとの間は高い密閉性が要求されず、シール材を用いた密閉処理は不要である。
【0024】
図4〜図6に、第2形態の切屑回収装置を示す。この第2形態の切屑回収装置1Aは、
ケーシング2の本体部3と先覆い部4との間に連結の解除が可能な接続部8を設けて本体部3に対して先覆い部4を着脱自在となしたものである。
【0025】
先覆い部4は、使用する穴あけ工具の形状やサイズによって適性寸法が変動し、切屑擦過などによる摩耗や突発的破損なども考えられる。また、被削材の材種によっては、耐摩耗性のあるものや表面効果処理を施したものが好ましい場合があり、その対応として、先覆い部4をサイズや材質の異なるもの、あるいは、新品と交換可能にしておくことが望まれる。第2形態の切屑回収装置1Aは、その要求に応えたものである。
【0026】
共通の接続部を設けた交換用の先覆い部を準備しておくことで、使用において適性に欠けると判断された先覆い部や傷んだ先覆い部を本体部3から外して要望に沿ったもの、或いは、新しいものと交換することができる。
【0027】
この切屑回収装置に採用する接続部8は、いわゆるクイックチェンジが行えるものが好ましい。その要求に応えられる接続部としては、例えば、図示の第2形態の切屑回収装置1Aに採用したバヨネット嵌合式の接続部がある。そのバヨネット嵌合式の接続部は、先覆い部4の外周に設けた鍔8aを本体部3に設けた切欠き部8bに対応させて本体部3の下側中央の穴に差込み(図5参照)、その状態で先覆い部4と本体部3をストッパ8cによって回転規制を受ける位置まで相対回転させる(図6参照)。この動作で鍔8aが本体部3側の鍔8dに係合し、先覆い部4が本体部3に連結される。
【0028】
なお、図5、図6において本体部3と先覆い部4に設けた係合要素は、その位置関係を入れ替えても構わない。
【0029】
クイックチェンジ用の接続部8は、例示のものに限定されない。例えば、市販のトルクレンチのビット装着や流体継手などに採用されているワンタッチ式の接続部などをアレンジして利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1形態の切屑回収装置の主要部を示す縦断面図
【図2】図1の切屑回収装置の平面図
【図3】(a)図1の切屑回収装置のケーシングの本体部内に生じる渦流の説明図、(b)ケーシングの先覆い部内に負圧で生じる上昇気流の説明図
【図4】第2形態の切屑回収装置の主要部を示す縦断面図
【図5】図4のX−X線に沿った断面図
【図6】(a)ケーシングの本体部と先覆い部を図5の状態から接続位置に相対回転させた状態を示す図、(b)図6(a)のY−Y線部の断面図、(c)図6(a)のZ−Z線部の断面図
【符号の説明】
【0031】
1,1A 切屑回収装置
2 ケーシング
3 本体部
3a 周壁
3b 折り返し部
4 先覆い部
5 開口部
6 排出口
6a 開口
6b 排出管
7 円弧の内面
8 接続部
8a、8d 鍔
8b 切欠き部
8c ストッパ
10 気流発生機構
11 ノズル
12 空気圧源
A 穴あけ工具
B 工具ホルダ
C 渦流
W 被削材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する穴あけ工具(A)で被削材(W)に穴をあけるときに使用する切屑回収装置であって、前記穴あけ工具(A)の外周を囲うケーシング(2)と、このケーシング(2)の内部に排出口(6)に向う気流を生じさせる気流発生機構(10)を備え、
前記ケーシング(2)は、穴あけ工具(A)の後部外周を包囲する、前記排出口(6)を外周に備えた本体部(3)と、その本体部(3)の下側に配置して穴あけ工具(A)の先端側外周を包囲する先覆い部(4)とから成り、
前記先覆い部(4)は、先端側の内径が小さく、その内径が後方に向ってテーパ状に拡大し、前記本体部(3)の内面に対して円弧の内面(7)で繋がれた形をしている穴あけ工具の切屑回収装置。
【請求項2】
前記ケーシング(2)の本体部(3)が、断面略半円形の周壁(3a)を環状に連ならせてドーナツ状に形成されており、上側中心部に穴あけ工具(A)とそれを保持した工具ホルダ(B)が挿入される開口部(5)を有し、さらに、外周に、前記排出口(6)を構成する開口(6a)と開口設置部の外周から接線方向に延びだす排出管(6b)を有する請求項1に記載の穴あけ工具の切屑回収装置。
【請求項3】
前記ケーシング(2)の本体部(3)に、前記周壁(3a)の上端から位置を下げながら径方向内側に入り込む断面円弧の折り返し部(3b)を設け、その折り返し部(3b)の中心に前記開口部(5)を備えた請求項2に記載の穴あけ工具の切屑回収装置。
【請求項4】
前記ケーシング(2)の本体部(3)の下部に外周から穴あけ工具の回転方向に向けて圧縮空気を供給するエアーノズル(11)が複数個配置され、このエアーノズル(11)と空気圧源(12)を組み合わせて前記気流発生機構(10)が構成された請求項1〜3のいずれかに記載の穴あけ工具の切屑回収装置。
【請求項5】
前記先覆い部(4)と本体部(3)との間に連結の解除が可能な接続部(8)が設けられ、前記先覆い部(4)が本体部(3)に対して着脱自在である請求項1〜4のいずれかに記載の穴あけ工具の切屑回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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