説明

穴加工工具

【課題】切削工具のガイドブッシュによるガイド作用を最大限に確保しつつ、該ガイドブッシュによるバニッシュトルクを低減させて、加工精度を向上させることができる穴加工工具を提供する。
【解決手段】軸線O回りに回転される工具本体12を有し、先端側に切刃部14が形成されるとともに、後端側がシャンク部13とされ、工具本体12を案内するガイドブッシュ41を介して切削工具40に装着され、被切削材に予め形成された下穴に挿入されて下穴の内壁面を切削加工して加工穴を形成する穴加工工具において、切刃部14の後端側に、軸線Oに垂直な断面において、ガイドブッシュ41の内周壁面41aと摺接可能な外径の円周上に間隔を空けて配設される複数の円弧状の当接円周面31と、当接円周面31の間に配設されて円周の内側に凹むように形成されたクリアランス面32とを有する被ガイド部30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被切削材に予め形成された下穴に挿入されて、下穴の内壁面を切削加工して所定の内径の加工穴を形成するリーマ等の穴加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の穴加工工具としては、例えば特許文献1または特許文献2に記載されているような長尺円柱状のリーマが知られている。このリーマは、軸線回りに回転される長尺軸状をなす工具本体を有し、この工具本体の先端側に切刃部が設けられているとともに、後端側がシャンク部とされている。また、切刃部の外周には、軸線方向後端側に向かって延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝の工具回転方向前方側を向く壁面の外周側辺稜部に外周切刃が形成されているとともに、前期壁面の先端面外周側の辺稜部に先端切刃が形成されている。
【0003】
このようなリーマは、工具本体が円筒形状をなすガイドブッシュを介して切削工具に装着されて使用されるものであり、この切削工具が工作機械等の主端軸に装着されて軸線回りに回転されるとともに、工具本体がガイドブッシュの内周壁面に案内されるようにして軸線方向先端側に送られて、被切削材の下穴、例えば、エンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブのステムガイド穴に挿入され、この下穴の内壁面を切削して所定の内径の加工穴を形成するものである。
【特許文献1】特開2000−263328号公報
【特許文献2】特開2007−098517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したリーマにおいては、切削工具に装着された工具本体の切刃部後端側の外周面が、ガイドブッシュの内周壁面と全周に渡って摺接可能とされており、これにより工具本体の軸線方向先端側へのガイド性を確保し、加工穴の真円度や直進性などの加工精度を向上させている。しかしながら、切刃部の後端からシャンク部にかけては、工具本体の外周面とガイドブッシュの内周壁面との間に僅かなクリアランスが設けられているので、切刃部の後端側がガイドブッシュから抜け出たところで、このクリアランスの大きさの範囲で、切削工具の軸線と工具本体の軸線とが僅かにずれてしまい、加工時に工具本体の切刃部の外周切刃や先端切刃が触れを起こしてしまうため、ガイドブッシュによるガイド作用を完全に生かしきれず、下穴を精密仕上げするという穴加工工具本来の高精度の切削加工ができないという問題があった。
【0005】
その一方で、切刃部先端側のガイドブッシュ内周壁面と摺接する部分を長くすると、このガイドブッシュとの摺接によるバニッシュトルクが大きくなり過ぎ、工具本体の折損を招くおそれがある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、ガイドブッシュによるガイド作用を最大限に確保しつつ、該ガイドブッシュによるバニッシュトルクを低減させて、加工精度と工具寿命とを向上させることができる穴加工工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る穴加工工具は、軸線回りに回転される長尺軸状の工具本体を有し、先端側に切刃部が形成されるとともに、後端側がシャンク部とされ、前記工具本体を案内するガイドブッシュを介して切削工具に装着され、被切削材に予め形成された下穴に挿入されて下穴の内壁面を切削加工して加工穴を形成する穴加工工具において、前記切刃部の後端側には、前記軸線に垂直な断面において、前記ガイドブッシュの内周壁面と摺接可能な外径の円周上に間隔を空けて配設される複数の円弧状の当接円周面と、前記当接円周面の間に配設されて前記円周の内側に凹むように形成されたクリアランス面とを有する被ガイド部が設けられたことを特徴としている。
【0008】
このような特徴の穴加工工具によれば、穴加工工具を切削工具に装着した際に、切刃部先端がガイドブッシュから抜け出ても、その後端側の被ガイド部の当接円周面がガイドブッシュの内周壁面に摺接するため、穴加工工具と切削工具との軸線を確実に一致させながら穴加工工具を軸線方向先端側にガイドすることが可能となる。
【0009】
また、被ガイド部のクリアランス面が、軸線に垂直な断面において、当接円周面が位置する円周上から内側に凹むように構成されていることによって、ガイドブッシュの内周壁面と接触するのは当接円周面のみとなるため、穴加工工具の被ガイド部とガイドブッシュの内周壁面との接触面積を極力削減することができ、ガイドブッシュとの摺接によるバニッシュトルクを低減することが可能になる。
【0010】
また、本発明に係る穴加工工具においては、前記当接円周面が、正三角形から正十二角形まで正多角形の頂点の位置に配設されていることを特徴としている。
【0011】
例えば、当接円周面が被ガイド部の外周上に対向するように2つが設けられている場合は、ガイドブッシュの内周壁面と摺接するのはこの2箇所のみとなりバランスが悪くなるため、穴加工工具と切削工具との軸線にずれが生じるおそれがある。また、正十二角形よりも頂点の数が多い多角形の場合には、加工成形の際の工程数が多くなり、加工に多くの時間と労力を要してしまう。従って、本発明のように、正三角形から正十二角形の頂点の位置に当接円周面を配設するように被ガイド部を形成することによって、ガイドブッシュによるガイド作用を確保するとともに、容易に被ガイド部の形成加工をすることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る穴加工工具においては、前記クリアランス面が平面状に形成されていることが好ましい。
【0013】
クリアランス面は、例えば凸状や凹状をなすものであってもよいが、平面状とすることによって容易に形成加工をすることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る穴加工工具によれば、工具本体に被ガイド部を設けることによって、ガイドブッシュによるガイド作用を最大限に確保し、穴加工工具と切削工具の軸線を一致させて該穴加工工具を軸線方向先端側に送ることができるとともに、該ガイドブッシュとの摺接よるバニッシュトルクを極力低減させることができ、加工精度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の穴加工工具の実施の形態であるリーマについて図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態であるリーマを示す一部を破断した側断面図、図2は本発明の実施の形態であるリーマの正面図、図3は図1におけるA―A断面図、図4は切削工具に装着された本発明の実施の形態であるリーマを示す図である。
【0016】
本実施形態のリーマは、図4に示すように切削工具40の装着孔40aの先端に嵌入された円筒形状のガイドブッシュ41を介して該切削工具40に装着される。
【0017】
リーマは、図1に示すように軸線Oを中心とする長尺軸状をなす工具本体12を有しており、この工具本体12の後端側(図1において上側)がシャンク部13とされ、工具本体12の先端側(図2において下側)が切刃部14とされている。
【0018】
シャンク部13は、鋼材等で構成され、ガイドブッシュ41の内周壁面41aよりも僅かに小さい径を有する円柱形状をなしており、後端側部分が、例えば切削工具40または切削工具40が取り付けられる図示しない工作機械の主端軸に設けられたコレットチャック等に保持される装着部15とされている。
【0019】
また、このシャンク部13の先端面には、中央部分がシャンク部13の後端側に向けてV字型に凹んだV字溝16が、その溝底部を軸線Oに直交させてV字の二等分線が軸線O上に位置するように形成されている。さらに、シャンク部13の後端面17から先端側に向かって軸線Oに沿って貫通するようにしてクーラント供給孔18が穿設されており、該クーラント供給孔18は先端側においてV字溝16に開口している。
【0020】
切刃部14は、超硬合金で構成された軸線Oを中心とする概略多段円柱状をなしており、その後端部がシャンク部13と同径でガイドブッシュ41の内周壁面41aよりも僅かに小さい径とされており、後端面には、シャンク部13先端面に形成されたV字溝16に嵌合可能な断面凸V字状の凸状部20が、そのV字の稜線をやはり軸線Oに直交させてV字の二等分線が軸線O上に位置するように形成されている。この凸状部20とV字溝16とがろう付けされることによって切刃部14とシャンク部13とが固定一体化される。
【0021】
切刃部14の先端外周部には、工具本体12後端側に向けて延びる複数の切屑排出溝21が配置されており、本実施形態では、図2に示すように、6条の切屑排出溝21が配置されている。なお、本実施形態においては、これら切屑排出溝21は、工具回転方向Tにおいて不等間隔に配置されている。
【0022】
また、切刃部14には、軸線Oに沿って延びるように穿設されて、後端部において凸状部20に開口して、シャンク部13のクーラント供給孔18に連通される連通路22が設けられている。また、この連通路22の先端側部分から切屑排出溝21に向けて延びて、その溝底部に開口するように穿設された吐出孔23が設けられている。
【0023】
さらに、切刃部14には、工具本体12後端側に向かうにしたがい漸次外径が小さくなるようにバックテーパが付されており、そのバックテーパ量は100mm当たり0.03mmから0.04mmとされている。
【0024】
切刃部14の先端面は、軸線O近傍部分が軸線Oに直交する平面状とされた平面部25と、該平面部25の外周側部分に配置されて径方向外側に向かうにしたがい漸次工具本体12後端側へと後退するテーパ部26とを備えている。そして、切屑排出溝21の工具回転方向T前方側を向く壁面と、この切屑排出溝21の工具回転方向T後方側に連なる外周面の交差稜線部に外周切刃27が形成されている。また、切屑排出溝21の工具回転方向T前方側を向く壁面と切刃部14のテーパ部26との交差稜線部には、前記外周切刃27に連なる先端切刃28が形成されている。
【0025】
また、切屑排出溝21の工具回転方向T前方側を向く壁面がすくい面とされ、切屑排出溝21の工具回転方向T後方側に連なる外周面が外周逃げ面とされ、前記先端切刃28の工具回転方向T後方側に連なるテーパ部26が先端逃げ面とされる。
【0026】
先端切刃28に連なる先端逃げ面は、工具回転方向T後方側に向かうにしたがい工具本体12径方向内側に向けて傾斜するように構成されており、本実施形態では、先端切刃28に連なる部分が第1逃げ面とされ、この第1逃げ面の工具回転方向T後方側に逃げ角15°の第2逃げ面とされており、工具回転方向T後方側に向って段階的に逃げが大きくなるように形成されている。
【0027】
また、外周切刃27が軸線O回りになす回転軌跡は、本実施形態においては軸線Oを中心とした略円筒面状とされており、すべての先端切刃28に連なる外周切刃27の軸線Oからの径方向距離が同一とされている。
【0028】
そして、切刃部14の後端側であって、図4に示すように、ガイドブッシュ41を介して切削工具40に装着された状態におけるガイドブッシュ41の先端部に位置する箇所には、詳しくは図3に示すように、軸線Oに垂直な断面において、ガイドブッシュ41の内周壁面41aと摺接可能な外径の円周上に均等に間隔を空けて配設された6つの円弧状の当接円周面31と、該当接円周面31の間に配設されて円周の内側に凹むように形成されたクリアランス面32とを有するように構成された被ガイド部30が設けられている。即ち、この被ガイド部30は、ガイドブッシュ41の内周壁面41aと略同一の径をなす当接円周面31を有し、該当接円周面31を円弧とする円が軸線Oに垂直な断面において正六角形状となるように面取りされ、この正六角形の各頂点に当接円周面31が介在するように構成されている。
【0029】
このように構成されたリーマは、工具本体12がガイドブッシュ41の先端側の開口部から挿入されて、工具本体12の装着部15が、例えば切削工具40または切削工具40が取り付けられる図示しない工作機械の主端軸に設けられたコレットチャック等に保持されて、リーマの工具本体12の切削工具40への装着が完了する。なお、この際、図4に示すように、シャンク部13の外周面とガイドブッシュ41の内周壁面41aとの間には僅かなクリアランスが設けられている。
【0030】
そして、リーマに工具本体12は切削工具40とともに軸線O回りに回転されるとともに、ガイドブッシュ41に案内されながら軸線O方向先端側に向けて送られて、被切削材に予め形成された下穴、例えばエンジンのシリンダーヘッドにおけるバルブのステムガイド穴等に挿入され、この下穴の内壁面を切削して所定の内径の加工穴に形成していく。
【0031】
このリーマによる切削加工を行う際には、切削油剤が工作機械からパイプを通じて工具本体12のシャンク部13のクーラント供給孔18に供給される。クーラント供給孔18に供給された切削油剤は、工具本体12の先端側に流れ込み、切刃部14の連通路22を通じて吐出孔23から切屑排出溝21の溝底部へ吐出される。
【0032】
本実施形態のリーマによれば、工具本体12を切削工具40のガイドブッシュ41に挿入して装着した際には、被ガイド部30の当接円周面31がガイドブッシュ41の内周壁面41aに摺接するため、切刃部14の先端側がガイドブッシュ41から抜け出ても、工具本体12と切削工具40との軸線を確実に一致させながら、工具本体12を軸線O方向先端側にガイドすることが可能となる。
【0033】
また、被ガイド部30のクリアランス面32が、軸線Oに垂直な断面において、当接円周面31が位置する円周上から内側に凹むように構成されていることによって、ガイドブッシュ41の内周壁面41aと接触するのは当接円周面31のみとなるため、工具本体12の被ガイド部30とガイドブッシュ41の内周壁面41aとの接触面積を極力削減することができ、ガイドブッシュ41から工具本体12に作用するバニッシュトルクを低減することが可能になる。
【0034】
従って、ガイドブッシュ41によるガイド作用を最大限に確保し、リーマの工具本体12と切削工具40との軸線を一致させて工具本体12を軸線O方向先端側に送ることができるとともに、該ガイドブッシュ41によって工具本体12に作用されるバニッシュトルクを極力低減させることができるため、工具本体12が折損したりするのを防止することができ、加工精度と工具寿命とを向上させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、被ガイド部30の当接円周面31が、正三角形から正十二角形の中でも最適な正六角形の頂点の位置に配設されているため、ガイドブッシュによるガイド性を最適に確保するとともに、被ガイド部の加工容易性を得ることが可能となる。
【0036】
即ち、例えば当接円周面31が被ガイド部30の外周上に対向するように2つが設けられている場合は、ガイドブッシュ41の内周壁面41aと摺接するのはこの2箇所のみとなりバランスが悪くなるため、工具本体12と切削工具40との軸線に、前記2箇所の当接円周面31が対向する方向と垂直な方向にずれが生じるおそれがある。また、正十二角形よりも頂点の数が多い多角形の場合には、加工成形の際の工程数が多くなり、加工に多くの時間と労力を要してしまう。以上の理由から、当接円周面31は正三角形から正十二角形の頂点の位置に配設されていることが好ましいが、本実施形態では、このような多角形の中でも、正六角形の頂点の位置に配置するように構成されているため、ガイド性と加工容易性を最適に確保することができる
【0037】
さらに、被ガイド部30のクリアランス面32が平面状をなしているため、軸線Oに垂直な断面において、当接円周面31を円弧とする円を直線状に面取りすることにより容易に形成加工をすることが可能となる。
【0038】
以上、本発明の穴加工工具の実施の形態であるリーマについて説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、切屑排出溝21をねじれがないものとして説明したが、これに限定されることなく、工具本体12後端側に向かうにしたがい漸次工具回転方向T前方側に向かうようねじれたものであっても良いし、工具本体12後端側に向かうにしたがい漸次工具回転方向T後方側に向かうようにねじれたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態であるリーマを示す一部を破断した側断面図である
【図2】本発明の実施の形態であるリーマの正面図である。
【図3】図1におけるA―A断面図である。
【図4】切削工具に装着された本発明の実施の形態であるリーマを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
12 工具本体
13 シャンク部
14 切刃部
30 被ガイド部
31 当接円周面
40 切削工具
41 ガイドブッシュ
41a 内周壁面
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される長尺軸状の工具本体を有し、先端側に切刃部が形成されるとともに、後端側がシャンク部とされ、前記工具本体を案内するガイドブッシュを介して切削工具に装着され、被切削材に予め形成された下穴に挿入されて下穴の内壁面を切削加工して加工穴を形成する穴加工工具において、
前記切刃部の後端側には、前記軸線に垂直な断面において、前記ガイドブッシュの内周壁面と摺接可能な外径の円周上に間隔を空けて配設される複数の円弧状の当接円周面と、前記当接円周面の間に配設されて前記円周の内側に凹むように形成されたクリアランス面とを有する被ガイド部が設けられたことを特徴とする穴加工工具。
【請求項2】
前記当接円周面が、正三角形から正十二角形までの正多角形の頂点の位置に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の穴加工工具。
【請求項3】
前記クリアランス面が平面状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の穴加工工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−50994(P2009−50994A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222964(P2007−222964)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】