説明

空冷アーク溶接装置

本発明はTIG溶接トーチなどの溶接装置に関する。溶接装置は、トーチヘッド(14)と蓄熱部材(76)とを具備する。このトーチヘッドは、内部に配設された電極(32)に電気を伝えるようになっている。蓄熱部材(76)は、電気絶縁体(78)によってトーチヘッドから電気的に絶縁されている。溶接装置は、トーチヘッドに結合されトーチヘッドへ電気とガスとを供給するようにした管(72)を具備することができる。溶接装置は、前記トーチヘッドから前記管への熱輸送を高めるために、トーチヘッドの近傍において前記管の周囲に配設された第2の管(78)を具備することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にアーク溶接に関し、特に空冷アーク溶接トーチの分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接は、電流を用いてワークに局所的な溶融部分を生成する溶接方法である。アーク溶接方法には多くの異なるタイプがある。アーク溶接方法の1つの例は、(ガスタングステンアーク溶接、GTAWまたはHELIARCとしても知られている)TIG(タングステンイナートガス)溶接である。TIG溶接は、溶接装置、例えば手持式溶接トーチと、金属ワークとの間に電気アークを維持するタイプのアーク溶接方法である。典型的に、溶接装置は、トーチヘッドに結合された円筒電極を有する。アークは、電極とワークとの間を流れる電気により生成される。典型的に、電極はタングステンより成る。アーク溶接方法のための電気は、電源ケーブルにより溶接装置のトーチヘッドに接続された電源により供給される。
【0003】
トーチヘッドを流れる電気により相当量の熱が発生する。更に、電極およびワークを流れる電気によりトーチヘッドへ熱が伝わることがある。トーチヘッドへ伝わった熱により該トーチの構成要素が損傷することがある。更に、熱によりトーチを握ることが難しくなることがある。生成熱量はトーチを流れる電流の関数である。低電流レベルでは、トーチを空冷化することがある。然しながら、トーチを流れる電流が増加するにつれ、トーチを十分に空冷する能力が低下する。トーチを作動させる電流は、トーチを流れる電流によって引き起こされるトーチの温度上昇によって制限されよう。トーチヘッドから一層多くの熱を除去して、一層高い電流レベルでトーチを操作可能とするために、液冷式溶接トーチが開発されている。しかしながら、液体によりトーチを冷却する場合には、トーチおよび該トーチを操作するのに用いられる溶接システムのコストと複雑さが増す。例えば、液冷式トーチは、冷却液体の流れを生成すると共に液体から熱を除去するための液体冷却装置を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、空冷式TIG溶接トーチの熱を除去する能力を高める技術が必要となっている。より詳細には、空冷アーク溶接トーチから一層多くの熱を除去して一層高い電流レベルでトーチを操作可能とする技術が必要となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図1を参照すると、溶接システム10が図示されている。TIG溶接システム10は、溶接電源12と溶接トーチ集成体14とを具備している。電源12は、定電流ACまたはDC電源、AC/DC組合せ電源、または他のタイプの電源とすることができる。システム10は、また、ホース18によって溶接電源12に接続されたガスボンベ16を具備している。ガスボンベ16は、溶接電源12へガスを供給し、次いで、このガスは、第2のガスホース22を介して溶接電源12から溶接トーチ集成体14へ供給される。また、溶接電源12から溶接トーチ集成体14へ電源ケーブル24が接続されている。システム10は、また、ワーク30を電源12に電気的に接続するための戻りケーブル26と、クランプ28とを具備している。
【0006】
溶接トーチ集成体14は、ワーク30を電源12に電気的に接続すると共に、ワーク30との接点へ向けてガスの流れを供給するようになっている。また、溶接トーチ集成体14は電極32を受容するようになっている。すなわち、溶接トーチ集成体14は、電極32を保持するトーチ34を有している。溶接トーチ集成体14は、また、ワーク30へ向けて円錐状のガス流れ20を生成するノズル36と、トーチ34の反対側の端部を密閉すると共に電極32を受容するバックカップ38とを具備している。ハンドル40がトーチ34に結合されており、これにより利用者はトーチ集成体14の向きを動かすことができるようになっている。電極32がワーク30に接近すると、電極32とワーク30との間にアークが形成され、電源12とワーク30との間に電気回路が形成される。電流41が、電源12から溶接トーチ集成体14を介して電極32、ワーク30へ流れ、そして電源12へ戻る。ワーク30を流れる電流41によって局所的な溶融が生じる。ガス20により、溶融金属の周囲が遮蔽される。
【0007】
図2を参照すると、溶接トーチ集成体14は複数の要素を具備している。図示する実施形態では、トーチ集成体14は、電極32をトーチ34に固定するために用いられるコレット44とコレットボディ46とを具備している。コレットボディ46を貫通させて電極32が挿入される。バックカップ38をトーチ34内にネジ締結させることにより、コレット44およびコレットボディ46が互いに押圧し合い、コレットボディ46が電極32に対して収縮する。更に、インサート48およびカップガスケット50がトーチ34に固定される。
【0008】
ニップル52、ナット54および電流ニップル56により、ガスホース22および電源ケーブル24がトーチ34のコネクタ42に接続される。電流ニップル56はナット54によりコネクタ42に固定される。ガス20および電気41が電流ニップル56からニップル52を通ってトーチ34へ流れる。ガスホース22は、フェルール58、ナット60およびニップル62によって電源12に固定される。電源ケーブル24は、第1の絶縁ブーツ66および第2の絶縁ブーツ68内で継手64により電源12に接続される。本実施形態では、電源ケーブル24、ニップル52、電流ニップル56、継手64は空冷され、300アンペアの電流をトーチ34へ伝えるよう適合している。
【0009】
図3を参照すると、トーチ34は、スピードチャンネル72によりコネクタ42に接続されたトーチヘッド70を具備している。スピードチャンネル72は、コネクタ42からトーチヘッド70へ電気を流すことのできる導電性金属の管より成る。好ましくは、トーチヘッド70およびスピードチャンネル72は銅から成る。トーチヘッド70およびスピードチャンネル72を流れる電気により熱が発生する。図示する実施形態では、トーチ34内の熱の一部が空気へ輸送される。更に、トーチヘッド70から熱の一部が、熱伝導によってスピードチャンネル72およびコネクタ42を介して電源ケーブル24へ輸送される。更に、トーチ34内の熱の一部が、トーチヘッド70およびスピードチャンネル72内を流れるガス20に対流により輸送される。図示する実施形態では、トーチヘッド70から更なる熱を吸収し、該熱をスピードチャンネル72へ伝えるためにヒートダム74が設けられている。ヒートダム74は、好ましくは、スピードチャンネル72の周囲に配置された銅管を具備する。
【0010】
トーチ34は、また、システム10のデューティサイクルを利用してトーチ34を冷却する蓄熱部材76を具備している。蓄熱部材76は、スピードチャンネル72を介してトーチヘッド70から輸送される熱を蓄えることにより、トーチ34が作動する間にトーチヘッド70を冷却する。次いで、蓄熱部材76はトーチヘッド70への電力の供給が停止したときに、該熱をスピードチャンネル72へ解放する。熱は、スピードチャンネル72から電源ケーブル24およびトーチヘッド70を介して空気へ輸送される。
【0011】
多くの因子が蓄熱部材76の構成に関連することは当業者に理解されよう。例えば、蓄熱部材76の比熱、蓄熱部材76の質量が、蓄熱部材76の蓄熱特性の決定に関連する。ある材料について、材料の質量が大きければ大きいほど、この材料に多くの熱を蓄えることができる。更に、蓄熱部材76の熱伝導率(k)が、蓄熱部材76へ、また、蓄熱部材76から如何に速く熱を伝えるかを決定することに関連している。従って、蓄熱部材76の大きさおよび組成を選択する際に、これら全ての因子および他の因子を勘案することができる。図示する実施形態では、蓄熱部材76はアルミニウムから成る。
【0012】
蓄熱部材76をスピードチャンネル72から電気的に絶縁するために、蓄熱部材76とスピードチャンネル72との間に絶縁体78が配設されている。従って、蓄熱部材76へは電流が流れず熱は発生しない。更に、蓄熱部材76は、絶縁体78によってスピードチャンネル72沿いに軸方向に位置決めされる。好ましくは、絶縁体78はポリテトラフルオロエチレンより成る。
【0013】
図示する実施形態では、トーチ34は絶縁材料80により被覆されている。この絶縁材料は、好ましくは、シリコーンゴムである。更に、絶縁カバー80は、複数の畝部82を具備している。畝部82は、ハンドル40をトーチ34に取付けたときに、ハンドル40をトーチ34に固定する摩擦を生成する。
【0014】
欧州(CE)溶接温度標準によれば、溶接トーチの定格電流は、該トーチを60%のデューティサイクル(基準時間単位の60%の間、電流を受ける)で作動させたときに、該定格電流でのハンドルおよびケーブルの温度上昇によって規定されている。所定の定格電流で評価すべき溶接トーチについて、温度上昇は、ハンドルで30K未満、かつ、ケーブルで40K未満でなければならない。300アンペアの電流を供給し、60%のデューティサイクルで、上述した溶接トーチの試作品を試験した。ハンドルの頂部で27°F、底部で21.5°Fの温度上昇が測定された。これは、絶対温度で約15.2Kおよび約12.2Kの温度上昇にそれぞれ相当する。
【0015】
空冷溶接トーチの上述の実施形態によれば、空冷溶接トーチの除熱能力を高める技術が提供される。更に、上述の実施形態による空冷溶接トーチは十分な冷却性能を持って作動し、温度制限内で300アンペアの電流をトーチに流すことが可能となる。
【0016】
本発明は、種々の変更、異なる形態とすることができ、特定の実施形態は例示として図面に示され、また、詳細に説明されている。しかしながら、開示した特定の形態に本発明を限定する意図はないことが理解されるべきである。本発明は、特許請求の範囲に規定される発明の精神と範囲内にある全ての変更、均等物、代替物を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態によるTIG溶接システムの立面図である。
【図2】図1のTIG溶接トーチ集成体の分解図である。
【図3】図2のトーチの断面図である。
【図4】図2のトーチの内側立面図である。
【符号の説明】
【0018】
10 TIG溶接システム
12 溶接電源
14 溶接トーチ集成体
16 ガスボンベ
18 ホース
22 第2のガスホース
24 電源ケーブル
26 戻りケーブル
28 クランプ
30 ワーク
76 蓄熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接装置において、
その内部に配設された溶接電極へ電気を伝えることのできるトーチヘッドと、
前記トーチヘッドから熱を吸収するようにした蓄熱部材とを具備し、
前記蓄熱部材が前記トーチヘッドから電気的に絶縁されている溶接装置。
【請求項2】
前記蓄熱部材は、金属から成る請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記蓄熱部材は、アルミニウムから成る請求項1に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記トーチヘッドへ電気とガスとを伝え、かつ、前記トーチヘッドから前記蓄熱部材へ熱を伝える導電性管を具備し、
前記蓄熱部材が、前記管の少なくとも一部の周囲に配置されている請求項1に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記管と前記蓄熱部材との間に電気絶縁体が配設されており、
該電気絶縁体を介して前記管から前記蓄熱部材へ熱が伝わるようにした請求項4に記載の溶接装置。
【請求項6】
前記電気絶縁体が、前記蓄熱部材を前記管に沿って軸方向に位置決めするようになっている請求項5に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記管が第1の導電性金属より成り、前記蓄熱部材が第2の導電性金属より成る請求項1に記載の溶接装置。
【請求項8】
前記トーチヘッドは空冷式で、かつ、30K未満の温度上昇のもとで、60%のデューティサイクルで300アンペアの電流で作動可能である請求項1に記載の溶接装置。
【請求項9】
前記トーチヘッドの近傍において、前記管の一部の周囲に第2の管が配設されている請求項1に記載の溶接装置。
【請求項10】
前記管および蓄熱部材の上に電気絶縁体が配設されている請求項1に記載の溶接装置。
【請求項11】
溶接装置において、
トーチヘッドへ電気を伝え、かつ、前記トーチヘッドから熱を伝えることのできる管と、
前記管の周囲に配設された金属部材と、
前記管と金属部材との間に配設された電気絶縁体とを具備する溶接装置。
【請求項12】
前記管が銅から成る請求項11に記載の溶接装置。
【請求項13】
前記金属部材がアルミニウムから成る請求項11に記載の溶接装置。
【請求項14】
前記金属部材が、前記管の少なくとも一部の周囲に配置されている請求項11に記載の溶接装置。
【請求項15】
前記電気絶縁体は、前記金属管に対する前記金属部材の軸方向の動作を制限するようになっている請求項11に記載の溶接装置。
【請求項16】
前記管に連結され、かつ、ガスホースおよび電源ケーブルに連結された第2のコネクタに連結可能な第1のコネクタを具備する請求項11に記載の溶接装置。
【請求項17】
トーチヘッドを具備した請求項11に記載の溶接装置。
【請求項18】
前記管と前記金属部材との間に配設された絶縁材料を具備する請求項11に記載の溶接装置。
【請求項19】
前記絶縁材料が複数の畝部を有しており、該畝部は、該畝部上に配設されたハンドルに対して摩擦を生成するようになっている請求項11に記載の溶接装置。
【請求項20】
溶接装置の冷却方法において、
トーチヘッドから電気的に絶縁された蓄熱部材に該トーチヘッドから熱を蓄えることと、
溶接装置への電力が遮断されたときに、前記蓄熱部材内に蓄えられた熱を空気へ輸送することを含む溶接装置の冷却方法。
【請求項21】
前記トーチヘッドからの蓄熱は、電気とガスとを前記トーチヘッドへ導くようにした管へ、前記トーチヘッドから熱を輸送することを含む請求項20に記載の冷却方法。
【請求項22】
前記トーチヘッドからの蓄熱は、電気絶縁体を通して前記蓄熱部材から前記管へ熱を輸送することを含む請求項21に記載の冷却方法。
【請求項23】
前記蓄熱部材からの熱輸送は、該蓄熱部材から前記管へ熱を輸送することを含む請求項20に記載の冷却方法。
【請求項24】
前記蓄熱部材からの熱輸送は、前記溶接装置に接続された電源ケーブルへ前記管から熱を輸送することを含む請求項23に記載の冷却方法。
【請求項25】
前記蓄熱部材からの熱輸送は、前記管から前記トーチヘッドへ熱を輸送することを含む請求項23に記載の冷却方法。
【請求項26】
溶接装置において、
トーチヘッドから電気的に絶縁されている蓄熱部材へ前記トーチヘッドから熱を蓄える手段と、
溶接装置への電力が遮断されたときに、前記蓄熱部材内に蓄えられた熱を空気へ輸送する手段とを具備する溶接装置。
【請求項27】
溶接装置において、
トーチヘッドと、
前記トーチヘッドへガスを供給する通路を有した第1の管部材と、
前記トーチヘッドの近傍において、前記第1の管部材上に配設された第2の管部材とを具備する溶接装置。
【請求項28】
前記第1と第2の管部材は銅より成る請求項27に記載の溶接装置。
【請求項29】
TIG溶接システムにおいて、
電源と、
前記電源に電気的に接続された空冷式TIG溶接トーチと、
内部に配設された電極に電気を伝えるようにしたトーチヘッドと、
前記トーチヘッドから電気的に絶縁され、かつ、前記トーチヘッドへ電力が供給されている間、前記トーチヘッドから熱を蓄えるようにした蓄熱部材と、
前記トーチヘッドおよび前記蓄熱部材上に配設された第1の電気絶縁体とを具備するTIG溶接システム。
【請求項30】
前記トーチヘッドへ電気とガスとを供給するようにした導電性管と、
前記導電管と前記蓄熱部材との間に配設された第2の電気絶縁体とを具備する請求項29に記載のTIG溶接システム。
【請求項31】
前記空冷式TIG溶接トーチは、30K未満の温度上昇のもとで、60%のデューティサイクルで300アンペアの電流で作動可能である請求項29に記載のTIG溶接システム。
【請求項32】
前記空冷式TIG溶接トーチは、27°F未満の温度上昇のもとで、60%のデューティサイクルで300アンペアの電流で作動可能である請求項29に記載のTIG溶接システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−528555(P2006−528555A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521127(P2006−521127)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/022766
【国際公開番号】WO2005/009661
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(591203428)イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド (309)
【Fターム(参考)】