説明

空圧制御弁を用いた塗料供給制御方法

【課題】 流量制御時、調整バルブ等使用機器のヒステリシス現象による影響を排除し、安定した流量調整を可能にして、塗装品質の安定化を図る。
【解決手段】 スプレーガンへの塗料供給を遠隔制御により設定した圧縮エア圧力を供給する開閉制御弁を介し、該制御弁からの制御エアを受けて作動し調整流量を吐出する(エアオペレート)流量制御装置から行う塗料供給制御において、前記設定を目標値の下方に設定した後、目標値に設定することを特徴とする。設定値変更に当たって、一度下方値(ゼロ)に戻してから目標値に設定する。この操作はプログラム制御として記憶装置に組み込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ロボット等を使用する自動塗装ラインにおいて、噴霧装置に所定量の塗料を安定して正確に供給する塗料供給制御方法に関するものである。

【背景技術】
【0002】
塗料を噴霧装置であるスプレーガン等に正確に供給することは、最終的な塗装の仕上がり品質に大きく影響するため必要不可欠になっている。特に塗装ロボット等による塗装の自動化によって、スプレーガンは被塗装物の塗装部位に応じて最適な条件で塗装を行うため、1回の塗装プログラムの中でスプレーガンの動きに応じ、塗料噴出量、噴霧パターンの大きさ、噴霧エア圧力等を変更し、多様な塗装を連続して行うことが多くなってきている。
【0003】
これによって複雑な形状をもつ被塗装物の場合であっても、生産性を落とすことなく、また狭い塗装箇所に必要以上の範囲と量で塗装したり、塗料の無駄や環境への悪影響を与えることなく、効果的な塗装を行うことができる。また塗料供給量の変動はスプレーガンから噴霧される塗料の不均一を招き、塗面の乱れとして仕上がり不良を引き起こすことになることから、上記必要とする塗料供給量の変更が求められる中で、所定量の塗料を指示に応じて正確に供給することが重要となっている。
【0004】
塗料供給量の制御は、使用する供給ポンプもしくは圧送装置によっても異なり、ギアポンプのように回転数を制御して供給量を決める方法もあるが、多くは塗料を圧送する圧力を制御することによってスプレーガンからの吐出量をコントロールしている。そしてこの圧力は調圧弁を用いて調整し、特に遠隔で制御したり、自動プログラムを使用するなどの制御では空圧による制御圧力によってバルブ開度を調整するエアオペレート式調圧弁が流量調節弁として使用される。
【0005】
図5に従来の塗装装置における一般的な供給装置例を簡単なブロック図で示している。ここで示すように塗料容器1内の塗料は圧送装置2によって塗料通路8を通して流量調節弁3に送り込まれる。この流量調節弁3は制御空気圧力によって開閉弁の作動が調整され、一定の吐出圧力すなわち流量で吐出されるエアオペレート式流量調節弁が用いられている。前記制御用の圧力空気は、電子制御装置4の出力信号を受け、その出力信号により圧縮エア圧力を調節できる電空レギュレータ5によって、空気源10からの圧縮空気が設定された圧力で供給される。流量調節弁3によって設定された流量に調節された塗料はスプレーガン9に送られ噴霧される。尚制御弁7は制御装置からの信号を受け、スプレーガンの作動空気、噴霧化空気、パターン調整空気などを送るために設けられる基本構成の一つで、それぞれの調節弁、開閉弁が設けられるが、これらは通常採用されている構成であり、ここでの詳細説明は省略する。
【0006】
塗料供給におけるこのような方式は、予め記憶されたプログラムや操作信号によって出力される電気信号により流量を制御できることから、自動制御によって塗装を管理する場合に都合がよく広く採用されている技術である。しかし塗装においては塗料の性状や塗装条件、塗装環境条件のほか使用する関連装置における多くの条件が複雑に影響し、噴出量の正確度は必ずしも十分ではない。このために最終的な塗装面にバラツキが生じ、塗装不良をもたらすなどの問題があって、これを解決するため、塗料供給量の安定化を図る多くの技術がこれまでにも提案されている。
【0007】
その一例として図5に示された流量計6によって実質の塗料供給量を計測し、その計測値をフィードバックして比較演算し、新たな制御信号を出力して修正することが行われている。このフィードバック制御は前記複雑な条件によって制御の方法がいくつか考えられており、ここでは詳細を省略するが、たとえば塗料や温度の違いによる粘度変化からおこる応答性の問題に対しては特開平8−117655号公報等に、あるいは沈殿性の塗料に対しては特開平2006−272211号公報に見ることができる。
【0008】
いずれにしてもこれらの方式によると、制御及び装置が複雑になるばかりでなく、高価な正確な流量計を使用することになるなど、別の問題も発生することで適用範囲が限られ、流量調節弁による簡便な制御で正確な安定した塗料供給が望まれる。
【0009】
流量調節弁は前述の通り、多くが電空レギュレータを使用して電子制御装置からの出力信号を制御空気圧に変換し、その圧力によって作動制御するが、噴霧装置の近くに配置でき、吐出後の塗料供給管路の影響や噴霧器の高さによる水頭圧の変化による影響を最小限に押さえる効果があり、塗装ロボットにおいて1つの塗装プログラムの中で噴出量を調節して塗装面に対応させた最適な塗装を行う場合には特に有効とされている。
【0010】
通常自動塗装、特に塗装ロボットに代表される塗装は、いくつかの塗装条件による塗装工程が1つのプログラム中に組み込まれ効率よく行われることが多くあるが、この場合塗装面が広い箇所と狭い箇所もしくは局部的な塗装では塗料の噴出量が異なり、供給する塗料の流量を替える必要がある。このようなとき、これまでの制御では事前の流量から、次に必要とする流量に変更するため制御装置から出力される信号は、事前の値から直接次の値に変更されていた。
【0011】
この場合、制御装置から電空レギュレータに入力される電圧と出力される空気圧力の関係は比例傾向を示すが、図2に一例を示すように設定値を徐々に上げていく場合(A)の実吐出圧力と、高い設定値から徐々に下げていった場合(B)の実吐出圧力とは差が生じる結果となる。これはヒステリシスとして機器の個体差も影響し、定量的に補正することが困難とされている。
【0012】
さらに流量調節弁においても同様の現象があり、電空レギュレータから同じ制御圧力の空気が供給されても、流量調節弁から供給される圧力は、双方の変動要素を受け、同じ塗料供給量を維持することは困難である。このため作業者は弁の開度を変えるなど機械的な修正をするが、何回か稼動することで前記ヒステリシスが解消し、今度は修正した分が狂ってしまう。この誤差の大きさは機器による固体差があり、作業者はその性質を把握した上で補正操作を余儀なくされていた。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように塗装プログラムによって塗料供給量の変更が自動的に繰返し行われるような場合、流量調節弁を用いて塗料の供給量を変更させたとき、前記電空レギュレータも含め指令制御信号の変更による出力値は必ずしも一致しないことがある。すなわち変更前の制御値が変更後の制御値より低い場合と高い場合とでは、弁の作動に伴う種々の抵抗等により、それ以前の状態による影響を受けて到達値が異なる、いわゆるヒステリシス現象が起こり、結果として出力値が異なって供給量に差が生じてしまうことになる。
【0014】
この現象は使用する電空レギュレータや流量調節弁によってそれぞれ有り、またその値が異なり補正することが難しいことでもあり、高価ではあるが前述の流量計によるフィードバック制御やPID制御に頼ることとなっていた。本発明は流量調節弁による供給量制御において、不安定の要因となっているヒステリシス現象を排除し、正確で安定した供給量制御を可能とし、使用する電空レギュレータや流量調節弁の耐久性向上にも効果を挙げることを課題としている。

【課題を解決するための手段】
【0015】
遠隔制御により電気出力信号を受けて、設定した圧力の圧縮エアを吐出する電空レギュレータと、該電空レギュレータを介して供給される制御エアを受けて作動し、調整塗料流量を吐出する流量調節弁によってスプレーガンへの塗料供給を行う塗料供給制御において、前記電空レギュレータの設定圧力及び前記流量調節弁の吐出流量の少なくとも一方を、設定値を変更するにあたってその目標値の下方に設定した後、目標値に設定されるようにプログラム制御する。

【発明の効果】
【0016】
電気信号によりバルブの開閉度が制御される電空レギュレータ及び空気圧信号により同じく調節弁の開閉度が制御される流量調節弁は、それぞれの制御値によって定められた目標設定値に移行する際、下方の値から設定される場合と、下方の値から設定される場合とでは一定せず、目標設定値が変動することになるが、上記方法によれば常に一定の方向(下方値)から目標値に制御弁が調整されるため、機器の作動誤差による変動要素が解消され安定性が向上する。
【0017】
これにより流量調節弁を使用しての塗料供給に安定性が確保でき、塗装の仕上がり、塗面の品質を向上させることができる。したがってロボット塗装等における塗料の供給安定性に高価な流量計を使用して流量管理をするまでもなく、単に流量調節弁を使用することで十分管理ができ、設備費だけでなくメンテナンスの軽減が図れる。
【0018】
また始点を下方値に設定することによって機器の負荷を軽減し、プログラム終了時には常に無負荷のゼロに戻るように設定することにより不必要な負荷状態をなくし、機器の耐久性を向上させることができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施する塗料供給装置の全体構成は図1に示すブロック図で説明される。従来の例として示した図5と同じ構成の機器は同じ記号で示しており、説明に必要な構成のみに簡略化している。電子制御装置は、通常塗装ロボット等の駆動制御装置に連動して一体化され、もしくはロボット制御装置のプログラムの中に組み込まれ、塗装ロボットの作動と同期して制御されることが多い。したがって塗装ロボットに搭載された噴霧器の作動と吹き付け圧力、パターン開きと共に塗料供給量の制御が行われ、被塗装物とその塗装面の応じた最適な塗装が行われるように諸条件がプログラム化されている。
【0020】
先にも述べたとおり、制御装置4からの信号は一般には電圧信号として電空レギュレータ5に送り込まれ、その電圧によって予め設定された開度に調整され、該電空レギュレータ5に接続されている空気源10からの圧縮エアが所定の圧力で流量調節弁3に送り込まれる。供給される塗料は塗料容器1から供給装置2によって流量調節弁3に供給され、流量調節弁3で調節されてスプレーガン9に送られる。そしてスプレーガン9が制御装置4からの信号により制御弁を介して塗料弁を開閉することで噴霧が行われ、また停止されることになる。制御弁によるスプレーガンの作動制御は、図1では省略されているが、従来の例として示した図5と同様に構成される。
【0021】
スプレーガンからの塗料噴出量は、スプレーガンの仕様と流量調節弁3からの供給圧力によって定まり、塗装ロボットに搭載された流量調節弁とスプレーガンがほぼ一定の条件下で作動する場合には、その他の要因の影響が無く、流量調節弁の吐出圧力で塗料噴出量が決まることになる。したがって流量調節弁が十分に正確であれば、スプレーガンからの噴出量を正確に制御することができる。
【0022】
流量調節弁3は、前記電空レギュレータ5からの圧縮空気圧力に応じて作動する開閉弁が、吐出する塗料圧力と平衡して流れを制御し一定の圧力で供給できるもので、上記のようにほぼ一定の条件下では結果として流量が一定となる。このため電空レギュレータ5から吐出される制御空気圧力が正確に供給されることが必要となる。図3は流量調節弁のエア圧力に対する塗料吐出量の一例を示している。
【0023】
以上のような構成で塗装ロボットを例に塗装を行う場合、塗装ロボットの制御装置に組み込まれたプログラムにより、被塗装物に対するスプレーガンの作動と共に、スプレーガンのON-OFF、吹き付け空気圧力の供給、噴霧パターンの調整信号が送られ、塗料供給として電空レギュレータに設定された電気信号(設定電圧)が送られる。
【0024】
塗装工程による塗料噴出量の変化は増加させる場合と減少させる場合とが存在し、図4に模式的に示すように少ない噴出量(ア)でよい塗装箇所から広い面を多い噴出量(イ)で塗装し、再び狭い塗装面に移動して少ない噴出量(ア)で塗装することがある。そこでこのような時前記制御装置からの出力信号は、それまでの設定値からそのまま次の設定値に変更せず、一度下方値に設定し、その後新たな設定値に変更するようにプログラムされている。
【0025】
したがって多い噴出量から少ない噴出量に変更する場合でも、必ず下方から変更されるのでバルブの作動特性が同じ状態で設定され、設定値に対するバラツキが解消される。設定される下方値は特に限定されないが、ゼロとするのが単純でわかりやすい。また設定値の出力が停止される時点及び塗装プログラムの1サイクルが完了する時点で出力値をゼロに戻すように記憶させることでそれぞれの機器の負荷は無くなり、それだけ機器の寿命を延ばすことができる。

【0026】
前記ヒステリシスの現象により同じ目標設定値であっても結果が異なり、塗料噴出量の差が生じて塗膜品質の不安定、塗膜不良が起きることになってしまう。しかし本発明では噴出量すなわち塗料供給量の変更の際、目標設定値より低い値に設定した後、あらためて目標設定値にすることにより、出力電圧による電空レギュレータの開度は常に下方からの調整になり安定した空気圧を出力する。このときの下方値は目標値より下方であれば特に制限は無いが、無負荷で安定した値からの一定の作動となるゼロとすることが望ましい。
【0027】
また設定圧から下方にした場合、望ましくは出力側の負荷圧力を排除してから次の圧力を出力するのであるが、例えば塗装工程中で出力側の圧力が排除されない場合においても、次の吐出の初期には瞬間的に下方値(ゼロ)にもどり、その後設定された圧力に調節されるので、実質的な噴霧には影響なく塗装することができた。特に噴霧塗装の吹き付け操作にあっては、吹き始めの位置を被塗装物に直接向けることは殆ど無く、塗装位置の外側から始める(吹き始めから被塗装物に噴霧するのではなく、外側に捨て吹きしてから塗る)ため、この間に正常値に安定させることができる。



【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を実施する塗装装置の構成ブロック図である。
【図2】設定圧力と実測圧力の違いが生じたヒステリシス現象を示すグラフ図である。
【図3】流量調節弁の制御空気圧力に対する塗料供給圧力の変化を示すグラフ図である。
【図4】塗装工程において供給量制御の設定圧力の変化を示す模式図である。
【図5】従来の塗装装置の構成の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0029】
1、塗料容器
2、圧送装置
3、流量調節弁
4、電子制御装置
5、電空レギュレータ
6、流量計
7、制御弁
8、塗料通路
9、スプレーガン
10、空気源



【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔制御により電気出力信号を受けて、設定した圧力の圧縮エアを吐出する電空レギュレータと、該電空レギュレータを介して供給される制御エアを受けて作動し、調整塗料流量を吐出する流量調節弁によってスプレーガンへの塗料供給を行う塗料供給制御において、前記電空レギュレータの設定圧力及び前記流量調節弁の吐出流量の少なくとも一方を、設定値を変更するにあたってその目標値の下方に設定した後、目標値に設定されるようにプログラム制御することを特徴とする空圧制御弁を用いた塗料供給制御方法。
【請求項2】
前記目標値の下方はゼロとする請求項1の塗料供給制御方法。





















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−36063(P2010−36063A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198655(P2008−198655)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】