説明

空気入りタイヤ

【課題】インナーライナーを備えた空気入りタイヤにおいて、タイヤの内圧低下を軽減し、タイヤ走行に伴う繰り返し屈曲変形に伴うインナーライナーの亀裂成長を軽減し、さらに転がり抵抗を軽減した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、タイヤ内側に配置される第1層と、前記カーカスプライのゴム層と接するように配置される第2層で構成されており、前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物であり、前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体の少なくともいずれかを含むエラストマー組成物であることを特徴とする空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインナーライナーを備えた空気入りタイヤに関し、特に、タイヤ走行時の繰り返し屈曲変形に伴うインナーライナーの剥離を防止するとともに、タイヤ内圧低下を軽減し、且つ転がり抵抗を低減した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られており、タイヤ部材のなかでも、タイヤの内部に配され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量(空気内圧低下)を軽減して耐空気透過性を向上させるはたらきをもつインナーライナーにおいても、軽量化などが行われるようになってきた。
【0003】
現在、インナーライナー用ゴム組成物は、たとえばブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチルゴムを主体とするゴム配合を使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行われている。また、ブチルゴムを主体とするゴム配合はブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄・加硫促進剤・亜鉛華と相まって、ゴム分子間の架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となるが、タイヤの軽量化を図るために、ブチル系ゴムより耐空気透過性に優れ、インナーライナー層の厚みをより薄くできるポリマーが要請されている。
【0004】
従来、タイヤの軽量化を図るために、前記ゴム組成物にかえて熱可塑性樹脂を含む材料からなるフィルムが提案されている。しかし薄い熱可塑性樹脂のインナーライナーを用いてタイヤを製造すると、加硫工程の圧力で部分的に薄くなりすぎてタイヤ製品のインナーライナーの仕上がりゲージが設計より薄くなってしまう。仕上がりが薄いインナーライナーはその箇所ではカーカスコードが浮き出て見える現象(オープンスレッド)でユーザーには内観が悪いという印象を与えてしまうほかに、インナーライナーが薄いと、部分的にガスバリア性が悪くなってしまい、タイヤ内圧が低下し、最悪な場合にはタイヤがバーストしてしまう虞がある。
【0005】
またインナーライナーはタイヤ走行時にショルダー部近傍に大きな、せん断歪が作用する。熱可塑性樹脂を含む材料をインナーライナーとして使用した場合、このせん断歪みによって、インナーライナーとカーカスプライの接着界面で剥離が発生しやすくなり、タイヤの空気漏れが発生するという問題があった。
【0006】
またインナーライナーの軽量化のため、熱可塑性エラストマー材料を用いる技術も提案されている。しかしブチルゴムのインナーライナーよりも厚みを薄くし、また高い耐空気透過性を示す材料は、インナーライナーに隣接するインスレーションゴムやカーカスプライゴムとの加硫接着力がブチルゴムのインナーライナーよりも劣ることが判っている。
【0007】
インナーライナーの加硫接着力が低いと、インナーライナーとインシュレーションゴム、またはカーカスゴムの間に空気が混入し、小さな風船のようなものが現れる、所謂エアーイン現象が生じる。タイヤの内側に小さな斑模様が多数あることで、ユーザーには外観が悪いという印象を与えるほかに、走行中にエアが起点となり剥離が生じてインナーライナーに亀裂が生じタイヤ内圧が低下し、最悪な場合はタイヤがバーストしてしまう虞がある。
【0008】
特許文献1には、熱可塑性エラストマーであるSIBSに粘着付与剤として石油樹脂、テルペン樹脂を用いて接着力を向上することが提案されている。しかしSIBSのほかにポリアミド系ポリマーをブレンドしており、耐屈曲亀裂性が低下するという問題がある。
【0009】
また特許文献2には、SIBSと硫黄架橋可能な重合体のブレンド物に粘着付与剤として、天然ロジン、テルペン、クロマンインデン樹脂、石油樹脂またはアルキルフェノール樹脂などを用いて、カーカスプライゴムの接着性を向上することが提案されている。
【0010】
しかしSIBSの100重量部に対して硫黄加硫可能な重合体を10〜300重量部ブレンドする技術では、硫黄架橋可能な重合体が100重量部以下の場合、SIBSがマトリックス(海部分)で、硫黄架橋可能な重合体がドメイン構造(島部分)となり、カーカスゴムへの接触界面での接着力が向上しない。また硫黄架橋可能な重合体が100重量部以上の場合、ブチルゴム以外ではガスバリア性が低下し、ブチルゴムでは接着力が低下し、更にはブレンドする重合体によっては、粘着が高くなり厚さ600μm以下のフィルムを作製できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−13646号公報
【特許文献2】特開2010−100675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はインナーライナーを備えた空気入りタイヤにおいて、タイヤの内圧低下を軽減し、タイヤ走行に伴う繰り返し屈曲変形に伴うインナーライナーの亀裂成長を軽減し、さらに転がり抵抗を低減した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、前記インナーライナーは、タイヤ内側に配置される第1層と、前記カーカスプライのゴム層と接するように配置される第2層で構成されており、前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物であり、前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体の少なくともいずれかを含むエラストマー組成物であることを特徴とする空気入りタイヤに関する。
【0014】
前記第1層は、SIBS変性共重合体の配合量がエラストマー成分の10質量%〜100質量%の範囲が好ましく、また前記第2層は、SIBS変性共重合体の配合量が熱可塑性エラストマー成分の5質量%〜80質量%の範囲が好ましい。
【0015】
さらに前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体とSIBS変性共重合体の混合物が好ましい。また第1層および第2層のいずれかは、粘着付与剤が配合されていることが好ましい。さらに第1層および第2層の少なくともいずれかは、ゴム成分がエラストマー成分の5〜75質量%配合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、インナーライナーをエラストマー組成物よりなる第1層と第2層で構成し、第1層のエラストマー組成物には、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を配合したため、第1層と第2層の間の加硫接着を改善することができる。そしてカーカスプライと第2層の間の加硫接着性も向上し、インナーライナーの屈曲亀裂成長性が向上する。更にインナーライナーを薄くすることが可能となり転がり抵抗性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。
【図2】図2(a)〜図2(d)はインナーライナーとカーカスの接合状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<タイヤの構造>
本発明はタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤを図に基づいて説明する。図1は、空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。図において空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、該トレッド部両端からトロイド形状を形成するようにサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部に亘って設けられ、両端をビードコア5のまわりに巻き返して係止されるカーカスプライ6と、該カーカスプライ6のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0019】
前記ベルト層7は、通常、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。なおベルト層の両端外側には、トッピングゴム層を設け、ベルト層両端の剥離を軽減することができる。またカーカスプライはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。また前記カーカスプライ6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。
【0020】
<インナーライナー>
本発明においてインナーライナーは、タイヤ内側に配置され、且つエラストマー組成物よりなる第1層と、前記カーカスプライのゴム層と接して配置されるエラストマー組成物よりなる第2層で構成されている。ここでエラストマー組成物とは、ポリマー成分として熱可塑性エラストマーまたはゴム成分を含む組成物を意味する。但し、添加剤として配合するゴム成分、例えば、ポリイソブチレンは、本発明においては、エラストマー成分には含めないものとする。
【0021】
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含む熱可塑性エラストマー組成物である。
【0022】
また前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)の少なくともいずれかを含むエラストマー組成物である。
【0023】
<第1層>
前記第1層は、SIBS変性共重合体をエラストマー成分の10質量%〜100質量%含む組成物である。ここでSIBS変性共重合体は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたものであり、分子鎖中に次の式(1)の化学構造を含んでいる。
【0024】
【化1】

【0025】
式中(1)において、R1は官能基を有する一価の有機基である。
本発明で変性に用いられる不飽和結合を有する酸塩化物とは、メタクリル酸クロライド、メタクリル酸ブロマイド、メタクリル酸ヨウダイド、アクリル酸クロライド、アクリル酸ブロマイド、アクリル酸ヨウダイド、クロトニル酸クロライドおよびクロトニル酸ブロマイドが例示される。特に、メタクリル酸クロライド、アクリル酸クロライドが好適である。
【0026】
また酸無水物とは、無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が例示されるが、特に、無水酢酸が好適である。これの化合物は、二種類以上を併用することも可能である。係る変性により不飽和基がSIBSに導入されるため、架橋剤を用いた架橋を可能とすることができる。
【0027】
前述の如く、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)を、不飽和結合を有する酸塩化物及び酸無水物にて変性したSIBS変性共重合体の配合量は、エラストマー成分の10〜100質量%、好ましくは30〜100質量%の範囲である。SIBS変性共重合体の配合量が、エラストマー成分の10質量%未満の場合は、第2層およびカーカスプライゴムとの加硫接着が十分でないことがある。
【0028】
SIBS変性共重合体における、不飽和結合を有する酸塩化物及び酸無水物の含量は、1%重量以上、好ましくは5重量%以上であり、30重量%以下である。
【0029】
SIBS変性共重合体を架橋には、従来の方法を用いることができ、例えば、加熱による熱架橋、架橋剤による架橋を行うことができる。ここで架橋剤としては、有機パーオキサイド、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ‐tert‐ブチルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ‐(tert‐ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが使用できる。
【0030】
有機パーオキサイドの配合量は、熱可塑性エラストマー成分100質量部に対して0.1〜3.0質量部の範囲が好ましい。
【0031】
なお、本発明のエラストマー組成物は、多官能性ビニルモノマー、例えばジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、又は多官能性メタクリレートモノマー、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートを架橋剤として併用することができ、この場合、架橋後における組成物の屈曲亀裂特性の向上が期待できる。
【0032】
SIBS変性共重合体は、イソブチレンブロック由来により、SIBS変性共重合体からなるフィルムは優れた耐空気透過性を有する。またSIBS変性共重合体は、不飽和基がISBSに導入されているため、熱架橋および架橋剤による架橋が可能となり、引張強度、破断時伸および永久歪などの基本特性とともに、屈曲亀裂特性および耐空気透過性が改善されインナーライナーとしての特性が改善される。
【0033】
SIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物からなるポリマーフィルムをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合には、耐空気透過性を確保できる。したがってハロゲン化ブチルゴム等の、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用する必要がなく、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
【0034】
SIBS変性共重合体の分子量は特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC測定による重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、400,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。SIBS変性共重合体は耐空気透過性と耐久性をより良好にする観点から、SIBS中のスチレン成分の含有量は10〜30質量%、好ましくは14〜23質量%であることが好ましい。
【0035】
該SIBSは、その共重合体において、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンでは10,000〜150,000程度、またスチレンでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0036】
<SIBS変性共重合体の製造>
SIBSは、一般的なビニル系化合物のリビングカチオン重合法により得ることができ。例えば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。
【0037】
SIBS変性共重合体の製造は、例えば次ぎの方法が採用できる。セパラブルフラスコにスチレン―イソブチレンースチレンブロック共重合体を入れた後、重合容器内を窒素置換する。その後モレキュラーシーブスで乾燥した、有機溶剤(例えば、n−ヘキサン及びブチルクロリド)を加え、さらにメタクリル酸クロライドを加える。最後に、溶液を攪拌しながら三塩化アルミニウムを加えて反応させる。反応開始から一定時間後に反応溶液に所定量の水を加えて攪拌して反応を終了させる。反応溶液を多量の水で数回以上水洗を行い、さらに大量のメタノールとアセトン混合溶媒にゆっくりと滴下して重合体を沈殿させ、得られた重合体を真空乾燥することにより得られる。なおSIBS変性共重合体の製法は、例えば特許第4551005号公報に開示されている。
【0038】
<SIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物>
前記第1層はSIBS変性共重合体を主体とするエラストマー組成物である。即ち、エラストマー成分中にSIBS変性共重合体を90質量%以上含む。ここでエラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマーなどが好適に使用できる。
【0039】
第1層のエラストマー組成物には、ゴム成分を配合することができる。ゴム成分の配合によって、隣接するカーカスプライとの未加硫状態での粘着性を付与し、加硫によりカーカスプライやインスレーションとの加硫接着性を高めることができる。
【0040】
ゴム成分は天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴムおよびブチルゴムよりなる群から選択される少なくとも1種を含みことが好ましい。ゴム成分の配合量は、エポリマー成分中、5〜75質量%の範囲が好ましい。
【0041】
<第1層の厚さ>
第1層の厚さは、0.05〜0.6mmである。第1層の厚さが0.05mm未満であると、第1層と第2層よりなるポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じる虞がある。一方、第1層の厚さが0.6mmを超えるとタイヤ重量が増加し、低燃費性能が低下する。第1層の厚さは、さらに0.05〜0.4mmであることが好ましい。第1層は、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法が採用できる。
【0042】
<第2層>
前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体の少なくともいずれかの熱可塑性エラストマーを含む組成物である。また第2層はSIBS変性共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマーまたはゴム成分を含むことができる。SIBS変性共重合体は、熱可塑性エラストマー成分全体の5〜80質量%、好ましくは10〜80質量%の範囲である。SIBS変性体共重合体が、5質量%未満の場合は、第1層との加硫接着力が低下する可能性があり、80質量%を超えるとカーカスプライとの接着力が低下する可能性がある。
【0043】
ここでスチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてスチレンブロックを含む共重合体をいう。例えば、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBS」ともいう。)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」ともいう。)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SEPS」ともいう。)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SEEPS」ともいう。)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SBBS」ともいう。)がある。
【0044】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、その分子構造において、エポキシ基を有してもよく、例えば、ダイセル化学工業(株)社製、エポフレンドA1020(重量平均分子量が10万、エポキシ当量が500)のエポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(エポキシ化SBS)が使用できる。
【0045】
スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)のイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスプライのゴム層との接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0046】
前記SISの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。重量平均分子量が100,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、290,000を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。SIS中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜30質量%が好ましい。
【0047】
本発明において、SISにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンでは500〜5,000程度、またスチレンでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0048】
前記SISは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。SIS層は、SISを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0049】
スチレン−イソブチレンブロック共重合体(SIB)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SIBからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0050】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。SIBの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。重量平均分子量が40,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、120,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。SIB中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10〜35質量%であることが好ましい。本発明において、SIBにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンでは300〜3,000程度、またスチレンでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0051】
前記SIBは、一般的なビニル系化合物のリビング重合法により得ることができ、例えば、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後に大量のメタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得ることができる。
【0052】
SIB層は、SIBを押出成形またはカレンダー成形などのスチレン系熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によって成型できる。第2層の厚さは、0.01mm〜0.3mmが好ましい。ここで第2層の厚さとは、例えば第2層がSIS層、SIBなどの1層のみからなる場合は、その厚さをいう。一方、第2層が例えば、SIS層およびSIB層などを含む複数層の場合は、これらの合計厚さを意味する。第2層の厚さが0.01mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第2層がプレス圧力で破れてしまい、加硫接着力が低下する虞がある。一方、第2層の厚さが0.3mmを超えるとタイヤ重量が増加し低燃費性能が低下する可能性がある。第2層の厚さは、さらに0.05〜0.2mmであることが好ましい。
【0053】
なお、第2層はSIS層とSIB層の複合層で構成されることが好ましいが、第1層とSIS層の間、第1層とSIB層の間またはSIS層とSIB層の間に、さらに第3層として、ウレタンゴム、シリコーンゴムよりなるフィルムを配置することができる。
【0054】
<SIBSとの混合物>
本発明では第2層をSISとSIBSの混合物、またはSIBとSIBSの混合物で構成することができる。この場合、SIBSの配合量は、エラストマー成分の10〜80質量%、好ましくは30〜70質量%の範囲で調整される。SIBSが10質量%より少ないと第1層との接着性が低下し、SIBSが80質量%を超えるとカーカスプライとの接着性が低下する傾向がある。
【0055】
<粘着付与剤>
本発明において、前記第1層及び第2層の少なくともいずれかは、エラストマー成分100質量に対し、粘着付与剤が0.1〜100質量部は配合される。ここで粘着付与剤とは、エラストマー組成物の粘着性を増進するための配合剤をいい、例えば次の粘着付与剤が例示される。
【0056】
典型的には、C9石油樹脂、C5石油樹脂がある。ここでC9石油樹脂は、ナフサを熱分解して、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどの有用な化合物を得ているが、それらを取り去った残りのC5〜C9留分(主としてC9留分)を混合状態のまま重合して得られた芳香族石油樹脂である。例えば、商品名として、アルコンP70、P90、P100、P125、P140、M90、M100、M115、M135(いずれも、荒川化学工業(株)社製、軟化点70〜145℃)、またアイマーブS100、S110、P100、P125、P140(いずれも出光石油化学(株)製、芳香族共重合系水添石油樹脂、軟化点100〜140℃、重量平均分子量700〜900、臭素価2.0〜6.0g/100g)、さらに、ペトコールXL(東ソー(株)製)がある。
【0057】
またC5石油樹脂とは、ナフサを熱分解して、エチレン、プロピレンやブタジエンなどの有用な化合物を得ているが、それらを取り去った残りのC4〜C5留分(主としてC5留分)を混合状態のまま重合して、得られた脂肪族石油樹脂である。商品名として、ハイレッツG100(三井石油化学(株)製、軟化点が100℃)、またマルカレッツT100AS(丸善石油(株)製、軟化点100℃)、さらにエスコレッツ1102(トーネックス(株)製、軟化点が110℃)がある。
【0058】
テルペン樹脂は、例えば、商品名として、YSレジンPX800N、PX1000、PX1150、PX1250、PXN1150N、クリアロンP85、P105、P115、P125、P135、P150、M105、M115、K100(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点は75〜160℃)がある。
【0059】
芳香族変性テルペン樹脂は、例えば、商品名として、YSレジンTO85、TO105、TO115、TO125(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点75〜165℃)がある。
【0060】
テルペンフェノール樹脂は、例えば商品名として、タマノル803L、901(荒川化学工業(株)製、軟化点120℃〜160℃)、またYSポリスターU115、U130、T80、T100、T115、T145、T160(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点75〜165℃)がある。
【0061】
クマロン樹脂は、例えば、軟化点90℃のクマロン樹脂(神戸油化学工業(株)製)がある。
【0062】
クマロンインデンオイルは、例えば商品名として、15E(神戸油化学工業(株)製、流動点15℃)がある。
【0063】
ロジンエステルは、例えば商品名として、エステルガムAAL、A、AAV、105、AT、H、HP、HD(いずれも荒川化学工業(株)製、軟化点68℃〜110℃)、またハリエスターTF、S、C、DS70L、DS90、DS130(いずれもハリマ化成(株)製、軟化点68℃〜138℃)がある。
【0064】
水添ロジンエステルは、例えば商品名として、スーパーエステルA75、A100、A115、A125(いずれも荒川化学工業(株)製、軟化点70℃〜130℃)がある。
【0065】
アルキルフェノール樹脂は、例えば商品名として、タマノル510(荒川化学工業(株)製、軟化点75℃〜95℃)がある。
【0066】
DCPDは、商品名として、エスコレッツ5300(トーネックス(株)製、軟化点105℃)がある。
【0067】
粘着付与剤は、C9石油樹脂の完全水添系石油樹脂がSIBと相溶性がよく、またガスバリア性も低下することなく、接着性を高めることができる。また粘度も下げる効果もあり、フィルム押出成形にも有利に使用できる。
【0068】
前記粘着付与剤は、第1層のエラストマー成分100質量部に対して、0.1〜100質量部、好ましくは、1〜50質量部の範囲で配合される。粘着付与剤が0.1質量部未満の場合は、第2層との加硫接着力が十分でなく、一方、100質量部を超えると粘着性が高くなりすぎて、加工性、生産性を低下し、更にガスバリア性が低下することになる。
【0069】
第2層は、タイヤ内側の第1層とカーカスプライの間に配置され、これら両者との接着性が要求される。そこで前記粘着付与剤は、第2層のエラストマー成分100質量部に対して、0.1〜100質量部、好ましくは、1〜50質量部の範囲で配合される。粘着付与剤が0.1質量部未満の場合は、第1層との加硫接着力が十分でなく、一方、100質量部を超えると粘着性が高くなりすぎて、加工性、生産性を低下し、更にガスバリア性が低下することになる。
【0070】
<ポリマー積層体>
本発明において、インナーライナーは前記第1層と第2層で構成されるポリマー積層体が使用される。ここで第1層、第2層はエラストマー、特に熱可塑性エラストマーの組成物であり、加硫温度、例えば150℃〜180℃において、金型中で軟化状態にある。軟化状態とは、分子運動性が向上し固体と液体の中間状態を意味する。また、熱可塑性エラストマー組成物が軟化状態では、固体状態よりも反応性が向上するため、隣接する部材と粘着、接着する。そのため、熱可塑性エラストマーの形状変化や隣接部材との粘着、融着を防止するために、タイヤの製造の際には、冷却工程を設けることが好ましい。冷却工程は、タイヤ加硫後に、10〜300秒間、50〜120℃に急冷しブラダー部内を冷却することができる。冷却媒体としては、空気、水蒸気、水およびオイルより選択される1種以上が使用される。かかる冷却工程を採用することで、インナーライナーを0.05〜0.6mmの範囲の薄いインナーライナーを形成することが容易となる。
【0071】
つぎに、インナーライナーの加硫タイヤにおけるカーカスプライとの配置状態を図2において示す。図2(a)において、ポリマー積層体PLは、第1層としてのSIBS変性共重合体層PL1および第2層としてのSIS層PL2から構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIS層PL2がカーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIS層PL2とカーカス61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0072】
図2(b)において、ポリマー積層体PLは、第1層としてのSIBS変性共重合体層PL1および第2層としてのSIB層PL3から構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIB層PL3の面を、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIB層PL3とカーカス61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0073】
図2(c)において、ポリマー積層体PLは、第1層としてのSIBS変性共重合体層PL1、第2層としてのSIS層PL2およびSIB層PL3が前記の順に積層されて構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIB層PL3の面を、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIB層PL3とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0074】
図2(d)において、ポリマー積層体10は、第1層としてのSIBS変性共重合体層PL1、第2層としてのSIB層PL3およびSIS層PL2が前記の順に積層されて構成される。該ポリマー積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIS層PL2の面を、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIS層PL2とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。したがってインナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0075】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、一般的な製造方法を用いることができる。まず前記ポリマー積層体PLを用いてインナンーライナーを製造する。空気入りタイヤ1の生タイヤに前記インナーライナーを適用して他の部材とともに加硫成形することによって製造することができる。ポリマー積層体PLを生タイヤに配置する際は、ポリマー積層体PLの第2層であるSIS層PL2またはSIB層PL3が、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、SIS層PL2またはSIB層PL3とカーカス6との接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【実施例】
【0076】
<ポリマー積層体>
本発明の第1層および第2層よりなるポリマー積層体の製造に用いた熱可塑性エラストマー(SIB、SIBSおよびSIS)は以下のとおり調整した。
【0077】
[SIB]
攪拌機付き2L反応容器に、メチルシクロヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)589mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)613ml、クミルクロライド0.550gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.35mL、イソブチレン179mLを添加した。さらに四塩化チタン9.4mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2.0時間反応させた。次に反応容器にスチレン59mLを添加し、さらに60分間反応を続けた後、大量のメタノールを添加して反応を停止させた。反応溶液から溶剤などを除去した後に、重合体をトルエンに溶解して2回水洗した。このトルエン溶液をメタノール混合物に加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間乾燥することによりスチレン−イソブチレンジブロック共重合体を得た(スチレン成分含有量:15質量%、重量平均分子量:70,000)。
【0078】
[SIBS]
カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T(ショアA硬度25、スチレン成分含有量25質量%、重量平均分子量:100,000)」を用いた。
【0079】
[SIS]
クレイトンポリマー社製のD1161JP(スチレン成分含有量15質量%、重量平均分子量:150,000)を用いた。
【0080】
[SIBS変性共重合体の製造]
2リットルのセパラブルフラスコにスチレン―イソブチレンブロック共重合体75g(スチレン含量30%、スチレンユニットのモル数0.216モル)を入れて、容器内を窒素で置換した。注射器を用いて、モレキュラーシーブスで乾燥したn−ヘキサン1200mL及びモレキュラーシーブスで乾燥したn−ブチルクロリド1800ミリリットルを加えた。
【0081】
次に、シリンジを用いてメタクリル酸クロライド30g(0.291モル)を加えた。そして溶液を攪拌しながら三塩化アルミニウム39.4g(0.295モル)を加えて反応を開始した。30分の反応の後、反応溶液に約1000ミリリットルの水を加えて激しく攪拌し反応を終了させた。反応溶液を多量の水で数回水洗を行い、さらに大量のメタノールとアセトン混合溶媒(1:1)に徐々に滴下して反応生成物を沈殿させ、その後反応生成物を60℃で24時間真空乾燥して、SIBS変性共重合体(重量平均分子量:150,000、スチレン含量:20重量%、酸塩化物:1.0重量%)を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
(注1)IIR:エクソンモービル(株)社製「エクソンクロロブチル1066」。
(注2)カーボンブラック(CB):東海カーボン(株)社製「シーストV」(N660、N2SA:27m2/g)。
(注3)酸化亜鉛(ZnO):三井金属鉱業(株)社製「亜鉛華1号」。
(注4)ステアリン酸:花王(株)社製、「ステアリン酸ルナックS30」。
(注5)老化防止剤:大内新興化学社製「ノクラック6C」。
(注6)加硫促進剤:大内新興化学社製「ノクセラーDM」。
(注7)硫黄:鶴見化学工業(株)社製「粉末硫黄」。
(注8)粘着防止剤:C9石油樹脂、アルコンP140(荒川化学工業(株)社製、軟化点140℃、重量平均分子量Mw:900)。
(注9)ポリイソブチレン:新日本石油(株)社製、「テトラックス3T」(粘度平均分子量30,000、重量平均分子量、49,000)。
【0085】
<インナーライナーの製造方法>
表1、表2の実施配合、比較配合に基づき、SIBS変性共重合体、SIBS、SISおよびSIBなどのエラストマー組成物を、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。その後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:第1層は0.25mm、第2層は0.05mm)にてインナーライナーを作製した。
【0086】
<空気入りタイヤの製造>
空気入りタイヤは、図1に示す基本構造を有する195/65R15サイズのものに、上記ポリマー積層体をインナーライナーに用いて生タイヤを製造し、次に加硫工程において、170℃で20分間プレスを行い、加硫金型から取り出すことなく、110℃で3分間冷却した後、加硫金型から取り出した。冷却媒体としては、水が使用された。
【0087】
表1に第1層の比較配合1〜4および実施配合1〜4、表2に第2層の比較配合5〜10および実施配合1A〜2Gの内容が記載されている。第1層及び第2層にこれらの配合を組み合わせて、実施例および比較例の仕様を表3〜表5に示す。
【0088】
<比較例1〜10>
比較例1、3、比較例7〜10は、第1層にSIBSを用い、第2層にSISを基本配合とするインナーライナーを用いた例である。比較例2は、第1層にSIBSを用い、第2層にSIBを用いたインナーライナーを用いた例である。
【0089】
比較例4,5,6は、第1層のSIBS配合に粘着付与剤またはポリイソプレンを添加、また硫黄加硫の配合とし、第2層にSISを用いた例である。
【0090】
<実施例1〜11>
第1層にSIBS変性共重合体の配合量を変更した組成物を用い、第2層にSISと変性SIBSの混合物を用いた例である。実施例1〜11は、いずれも比較例1よりも、加硫接着力、屈曲亀裂成長性、転がり抵抗性および静的空気低下率が改善されていることが認められる。
【0091】
<実施例12〜22>
実施例12〜16は、第1層にSIBS変性共重合体のみの組成物に、第2層にSIBS変性共重合体とSISの混合物を用いたものである。実施例12〜16は、いずれも比較例1よりも、加硫接着力、屈曲亀裂成長性、転がり抵抗性および静的空気低下率が改善されていることが認められる。
【0092】
実施例17〜21は、第2層にSIBS変性共重合体とSISの混合物を用い、第1層にSIBS変性共重合体と、その他のエラストマーの混合物を用いた例を示実施例12〜16は、いずれも比較例1よりも、加硫接着力、屈曲亀裂成長性、転がり抵抗性および静的空気低下率が改善されていることが認められる。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
<性能試験>
前述の如く製造された空気入りタイヤに関し、以下の性能評価をおこなった。
【0097】
<加硫接着力>
第1層と第2層の未加硫シートを張り合わせて170℃×20分で加硫し、加硫接着力測定用のサンプルを作製する。引張試験機により剥離力を測定することで加硫接着力とした。下記計算式により、比較例1を基準として各配合の加硫接着力を指数で表示した。なお加硫接着力の指数が大きいほど、加硫接着力が高いことを示す。
【0098】
加硫接着力の指数=(各配合の加硫接着力)/(比較例1の加硫接着力)×100
<屈曲亀裂成長試験>
耐久走行試験は、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかどうかで評価した。試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧は150KPaで通常よりも低内圧に設定し、荷重は600kg、速度100km/h、走行距離20,000kmでタイヤの内部を観察し、亀裂、剥離の数を測定した。比較例1を基準として、各配合の亀裂成長性を指数で表示した。指数の値が大きいほど、屈曲亀裂成長が小さいことを示す。
【0099】
屈曲亀裂成長指数=(比較例1の亀裂の数)/(各配合の亀裂の数)×100
<転がり抵抗指数>
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用いて、試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、荷重3.4kN、空気圧230kPa、速度80km/hの条件で、室温(30℃)にて走行させて転がり抵抗を測定した。そして、下記の計算式に基づき比較例1を基準100として、実施例の転がり抵抗変化率(%)を指数で表示した。転がり抵抗変化率が大きいほど、転がり抵抗が低減されていることを示す。
【0100】
転がり抵抗指数=(比較例1の転がり抵抗)/(実施例の転がり抵抗)×100
<静的空気圧低下率試験>
試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300kPaを封入し、90日間室温で放置し、空気圧の低下率を計算する。数値が小さいほど、空気圧が減りにくく好ましい。
【0101】
<総合判定>
判定Aは、次の条件をすべて満たしたものをいう。
【0102】
(a)加硫接着力が100以上。
(b)屈曲亀裂成長性が100以上。
【0103】
(c)転がり抵抗変化率が100以上。
(d)静的空気圧低下率(%/月間)が2.6以下。
【0104】
判定Bは、次の条件のいずれか1つを満たす場合をいう。複数の判定に該当する場合は、評価の低い方を採用した。
【0105】
(a)加硫接着力が100より低い。
(b)屈曲亀裂成長性が100より低い。
【0106】
(c)転がり抵抗変化率が100より低い。
(d)静的空気圧低下率(%/月間)が2.7以上。
【符号の説明】
【0107】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカスプライ、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、PL ポリマー積層体、PL1 SIBS層、PL2 SIS層、PL3 SIB層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部の間に装架されたカーカスプライのタイヤ内側にインナーライナーを備えた空気入りタイヤであって、
前記インナーライナーは、タイヤ内側に配置される第1層と、前記カーカスプライのゴム層と接するように配置される第2層で構成されており、
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体のスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物もしくは酸無水物で変性されたSIBS変性共重合体を含むエラストマー組成物であり、
前記第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体の少なくともいずれかを含むエラストマー組成物であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1層は、SIBS変性共重合体の配合量がエラストマー成分の10質量%〜100質量%の範囲である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第2層は、SIBS変性共重合体を含み、その配合量が熱可塑性エラストマー成分の5質量%〜80質量%の範囲である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体とSIBS変性共重合体の混合物である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第1層および第2層のいずれかは、粘着付与剤が配合されている請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1層および第2層の少なくともいずれかは、ゴム成分がエラストマー成分の5〜75質量%配合されている請求項1記載の空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate