説明

空気入りタイヤ

【課題】タイヤにおける振動の伝達特性を左右で異ならせて、空洞共鳴によるロードノイズを低減できる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード部1と、ビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3と、一対のビード部1の間に設けられたトロイド状のカーカス層4と、トレッド部3でカーカス層4のタイヤ径方向外側に設けられたベルト層5とを備える空気入りタイヤにおいて、ベルト層5のタイヤ径方向内側に、タイヤ幅方向の一方側に配された短ベルト層8と他方側に配された補助ゴム層9とを有する非対称剛性付与材7が設けられ、短ベルト層8に含まれるコードのタイヤ周方向に対する角度が40°以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞共鳴によるロードノイズを低減できるようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が荒れた路面を走行したり、路面の継ぎ目を乗り越えたりすると、車内にロードノイズと呼ばれる騒音が発生することがある。ロードノイズは、タイヤが関係する騒音の一つであり、路面の凹凸が入力となってタイヤが加振されると、その振動によってタイヤ内部での空洞共鳴が励起され、車内での騒音を引き起こす。
【0003】
特許文献1には、ロードノイズの低減を目的として、ベルト半幅、或いはベルト補強層の補強効果を左右で非対称とした空気入りタイヤが記載されている。この構造は、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で異ならせ、それにより空洞共鳴時の軸振動レベルを低減し、延いてはロードノイズを低減することを企図したものである。
【0004】
しかし、ベルト層の位置をずらしたりする程度では、タイヤの剛性は然程に変化しないため、振動の伝達特性を左右で十分に異ならせることができず、これによるロードノイズの低減効果は大きいとは言えない。そのためか、特許文献1においては、加振時の振幅が表側と裏側とで異なるリムに、上述したタイヤを所定の位置関係で組み付けることにより、所望のロードノイズの低減効果が得られると位置付けられている(段落0037,0051参照)。
【0005】
特許文献2には、偏摩耗の防止を目的として、ベルト層のタイヤ径方向内側に、車両装着時内側に配される補強プライを設けた空気入りタイヤが記載されている。しかし、この補強プライは子午線方向の補強を行うものであり、タイヤ周方向に対するワイヤの角度は70〜90°であるから、当該補強プライでは周方向剛性が向上せず、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で十分に異ならせることができない。
【0006】
特許文献3には、偏摩耗の抑制を目的として、ベルト層のタイヤ径方向内側に、車両装着時外側に配される短ベルト層を設けた空気入りタイヤが記載されている。しかし、この短ベルト層に含まれるコードは、タイヤ周方向に対して略直角に配列されているため、当該短ベルト層では周方向剛性が向上せず、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で十分に異ならせることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−192909号公報
【特許文献2】特開2002−192910号公報
【特許文献3】特開2007−196891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で異ならせて、空洞共鳴によるロードノイズを低減できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、一対の前記ビード部の間に設けられたトロイド状のカーカス層と、前記トレッド部で前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられたベルト層とを備える空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層のタイヤ径方向内側又はタイヤ径方向外側に、タイヤ幅方向の一方側に配された短ベルト層と他方側に配された補助ゴム層とを有する非対称剛性付与材が設けられ、前記短ベルト層に含まれるコードのタイヤ周方向に対する角度を40°以内としたものである。
【0010】
この空気入りタイヤでは、上記の如き非対称剛性付与材がベルト層のタイヤ径方向内側又はタイヤ径方向外側に設けられていることにより、短ベルト層が配されたタイヤ幅方向の一方側において周方向剛性が高められる。このため、タイヤ幅方向の一方側と他方側との間で剛性差が生じ、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で異ならせることができる。その結果、空洞共鳴時の軸振動レベルを低減し、延いてはロードノイズを低減することができる。
【0011】
そして、非対称剛性付与材がタイヤ幅方向の他方側に配された補助ゴム層を有することにより、非対称剛性付与材をベルト層のタイヤ径方向内側に設けた場合には、その他方側にあるベルト層の内径に比べて、一方側にある短ベルト層の内径が確実に小さくなる。それ故、内圧の作用に伴う短ベルト層のたが効果を高めて周方向剛性を向上し、振動の伝達特性を左右で効果的に異ならせることができる。
【0012】
また、非対称剛性付与材をベルト層のタイヤ径方向外側に設けた場合には、タイヤ幅方向の一方側と他方側との間で、短ベルト層の有無による接地形状への悪影響が懸念されるのに対し、その他方側に補助ゴム層が配されることによって、そのような悪影響を抑制することができる。加えて、短ベルト層の配置に伴う段差が補助ゴム層により軽減されるため、通常の断面形状を有するトレッドゴムの使用が可能となる。
【0013】
本発明では、前記短ベルト層に含まれるコードのタイヤ周方向に対する角度が10〜30°であることが好ましい。コードの角度が10°以上であることにより、トレッド部の径成長(タイヤ径方向外側への膨出変形)を阻害することがなく、タイヤ成形時の作業性が良好となる。また、コードの角度が30°以下であることにより、短ベルト層によって周方向剛性を効果的に向上できる。
【0014】
本発明では、前記ベルト層のタイヤ径方向内側に前記短ベルト層が二層重ねて設けられているものが好ましい。この場合、ベルト層のタイヤ径方向内側に非対称剛性付与材が設けられるため、上述した内径差を利用できる。しかも、短ベルト層を二層重ねて設けることにより、一方側と他方側との間で内径差を大きくし、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で大きく異ならせることができる。
【0015】
本発明では、前記短ベルト層の幅が、前記ベルト層の幅の0.25〜0.75倍であるものが好ましい。この割合が0.25倍以上であることにより、短ベルト層による周方向剛性の向上効果を適切に確保できる。また、この割合が0.75倍以下であることにより、タイヤ成形に支障を来たすことなく、タイヤ幅方向の一方側と他方側との間の剛性差を確保して、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で的確に異ならせることができる。
【0016】
本発明では、前記補助ゴム層の100%伸張時の引張応力S100が0.5〜15.5MPaであるものが好ましい。これにより、補助ゴム層が相応の強度を有し、ベルト層の形崩れを抑制できる。引張応力S100は、JISK6251に準拠し、雰囲気温度23℃の条件で、ダンベル3号の試験片を用いて、引っ張り試験機により計測した100%伸張時の引張応力である。
【0017】
本発明では、前記短ベルト層が配されるタイヤ幅方向の一方側が車両装着時外側に設定されるものが好ましい。かかる構成では、短ベルト層が配されるタイヤ幅方向の一方側が、ネガティブキャンバにより接地圧が相対的に低くなりがちな車両装着時外側に設定される。これにより、接地圧の均一化を促して、偏摩耗の抑制や、操縦安定性及び乗心地性の向上に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を概略的に示すタイヤ子午線断面図
【図2】カーカス層、ベルト層及び非対称剛性付与材を示す平面視展開図
【図3】ベルト層を概略的に示す断面図
【図4】非対称剛性付与材が補助ゴム層を有しないときのベルト層を概略的に示す断面図(本発明に含まれるものではない。)
【図5】短ベルト層と補助ゴム層との結合部を示す断面図
【図6】補助ゴム層の断面形状のバリエーションを概念的に示す断面図
【図7】本発明の別実施形態における非対称剛性付与材を示す平面視展開図
【図8】本発明の別実施形態における非対称剛性付与材を概略的に示す断面図
【図9】本発明の別実施形態における非対称剛性付与材を概略的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示した空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3と、一対のビード部1の間に設けられたトロイド状のカーカス層4と、トレッド部3でカーカス層4のタイヤ径方向外側に設けられたベルト層5とを備える。
【0020】
ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bが配設されている。カーカス層4の端部は、そのビードコア1aとビードフィラー1bを挟み込むようにして巻き上げられている。トレッド部3には、トレッド面を構成するトレッドゴム6が設けられており、該トレッド面には、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じた各種のトレッドパターンが形成される。
【0021】
カーカス層4は、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、図2に示すように、カーカス層4に含まれるコード4Cのタイヤ周方向に対する角度θ4は、例えば90±30°である。コード4Cの材料としては、ポリエステルやレーヨン、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードや、スチールコードが例示される。尚、図2は概念的に描かれており、実際には各コードがもっと密に配列される。
【0022】
ベルト層5は、複数の(本実施形態では二枚の)ベルトプライ5a,5bにより構成されている。各ベルトプライ5a,5bは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコード5Cを含み、該コードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。コード5Cのタイヤ周方向に対する角度θ5は、例えば10〜40°である。コード5Cの材料としては、スチールコードが例示されるが、上述した有機繊維コードも使用可能である。
【0023】
ベルト層5のタイヤ径方向内側には、カーカス層4とベルト層5との間に介在するようにして非対称剛性付与材7が設けられている。非対称剛性付与材7は、タイヤ幅方向の一方側(図1,2の右側)に配された短ベルト層8と、他方側(図1,2の左側)に配された補助ゴム層9とを有する。短ベルト層8は、ベルト層5と同様に、コード8Cをトッピングゴム8R(図5参照)で被覆してなるプライで構成されている。短ベルト層8に含まれるコード8Cのタイヤ周方向に対する角度θ8は40°以内である。
【0024】
これにより、短ベルト層8が配された一方側で周方向剛性が高められ、タイヤ幅方向の一方側と他方側との間で剛性差を生じ、それに伴う固有値(固有振動数)のズレを生成して、タイヤTにおける振動の伝達特性を左右で異ならせることができる。このため、路面の凹凸が入力となってタイヤTが加振され、その振動数が一方側又は他方側の何れかの固有値に近い場合であっても、その反対側では大きく振動せず、一対のビード部1からリム(不図示)に伝達される振動は然程に大きくならない。それ故、空洞共鳴時の軸振動レベルを低減して、ロードノイズを低減できる。
【0025】
これに対し、非対称剛性付与材7を具備しない構造では、路面の凹凸が入力となってタイヤが加振され、その振動数が固有値に近い場合に、タイヤ幅方向の両側が大きく振動することになる。これにより、一対のビード部からリムに大きな振動が伝達され、それらが足し合わされた振動によってリムに伝わる衝撃が大きくなる。この結果、軸振動レベルが大きくなり、タイヤ内部での空洞共鳴が励起され、相応のレベルでロードノイズが発生する。
【0026】
また、このタイヤTでは、非対称剛性付与材7がタイヤ幅方向の他方側に配された補助ゴム層9を有することにより、図3に示すように、その他方側にあるベルト層5の内径R1に比べて、一方側にある短ベルト層8の内径R2が確実に小さくなる。それ故、内圧の作用に伴う短ベルト層8のたが効果を高めて周方向剛性を向上し、一方側と他方側との間での固有値のズレを大きくして、振動の伝達特性を左右で効果的に異ならせることができる。
【0027】
これに対し、非対称剛性付与材7が補助ゴム層9を有しない構造であると、図4に示すように、上述した内径差(R2−R1)を設けにくい。それ故、他方側におけるベルト層5のたが効果と、一方側における短ベルト層8のたが効果とが然程に相違せず、振動の伝達特性を左右で十分に異ならせることができない。また、この構造では、ベルト層5の中央部に歪みが生じやすく、接地形状への悪影響も懸念される。
【0028】
短ベルト層8に含まれるコード8Cの角度θ8は、タイヤ成形時の作業性や周方向剛性の向上効果を高める観点から、10〜30°であることが好ましい。カーカス層4に対する短ベルト層8のたが効果を適切に発現するうえでも、角度θ8は40°以内であることが必要であり、10〜30°であることが好ましい。また、コード8Cは、直近のベルト層5のコード5C(ベルトプライ5aのコード5C)と逆向きに傾斜していることが好ましい。コード8Cの材料としては、ベルト層5のコード5Cと同じものが例示される。
【0029】
短ベルト層8の幅W8は、ベルト層5の幅W5の0.25〜0.75倍であることが好ましく、0.50±0.10倍であることがより好ましい。幅W5は、ベルト層5を構成するベルトプライの中で最も幅広となるベルトプライ5aの幅である。また、補助ゴム層9の幅W9は、ベルト層5の幅W5の0.25〜0.75倍であることが好ましく、0.50±0.10倍であることがより好ましい。
【0030】
タイヤ成形に支障を来たさないよう、短ベルト層8の外側端8EOは、一方側のベルト層5の外側端5EOよりもタイヤ幅方向外側に突出しないことが好ましい。また、短ベルト層8の内側端8EIは、タイヤ赤道CLを越えても越えなくてもどちらでも構わないが、タイヤ赤道CLから内側端8EIまでの距離は15mm以内が好ましい。但し、振動の伝達特性を左右で的確に異ならせるうえでは、本実施形態のように内側端8EIがタイヤ赤道CL上に位置するか、或いはタイヤ赤道CLから離れていても、タイヤ赤道CLから内側端8EIまでの距離が5mm以内であることが好ましい。
【0031】
タイヤ成形に支障を来たさないよう、補助ゴム層9の外側端9EOは、他方側のベルト層5の外側端5EOよりもタイヤ幅方向外側に突出しないことが好ましい。また、補助ゴム層9の内側端9EIは、タイヤ赤道CLを越えても越えなくてもどちらでも構わないが、タイヤ赤道CLから内側端9EIまでの距離は15mm以内が好ましい。但し、振動の伝達特性を左右で的確に異ならせるうえでは、本実施形態のように内側端9EIがタイヤ赤道CL上に位置するか、或いはタイヤ赤道CLから離れていても、タイヤ赤道CLから内側端9EIまでの距離が5mm以内であることが好ましい。
【0032】
補助ゴム層9は、走行時におけるベルト層5の変形に耐えることができ、カーカス層4やベルト層5に対する接着性に優れるゴム材料で形成される。ベルト層5の形崩れを抑えるうえで、補助ゴム層9の引張応力S100は、0.5〜15.5MPaであることが好ましく、5.0〜15.5MPaであることがより好ましい。
【0033】
本実施形態では、図5に示すように、短ベルト層8と補助ゴム層9との結合部において、それらの内側端8EI,9EIを互いに突き合わせており、走行時における部材間剥離の発生を防いでいる。これに代えて、内側端8EI,9EIを互いに重ねて結合しても構わないが、その場合の重なり代は、ベルト層5に生じる歪みを抑える観点から、30mm以内であることが好ましい。
【0034】
補助ゴム層9の厚みT9は、短ベルト層8の厚みT8の0.5〜1.5倍であることが好ましく、0.75〜1.25倍であることがより好ましい。この割合が0.5倍以上であることにより、上述した内径差(R1−R2)を設けやすくなり、一方側と他方側との間での固有値のズレを大きくできる。また、この割合が1.5倍以下であることにより、インフレート時にベルト層5に生じる歪みを抑えて、タイヤ成形に支障を来たさないようにでき、接地形状も良好となる。
【0035】
図6に、補助ゴム層9の断面形状のバリエーションを示す。(A)は、補助ゴム層9の厚みが一定となる例である。(B)は、厚みがタイヤ幅方向外側に向かって漸増する例である。(C)は、厚みがタイヤ幅方向外側に向かって漸増した後に一定となる例である。(D)は、厚みがタイヤ幅方向外側に向かって漸増した後に漸減する例である。(B)〜(D)では、ベルト層5の中央部の歪みを抑えながら、上述した内径差を大きくして固有値のズレを増大できる。このように厚みが変化する場合、上述した厚みT9は、内側端9EIにおいて測定される値とする。
【0036】
このタイヤTでは、短ベルト層8が配されるタイヤ幅方向の一方側が車両装着時外側に設定されることが好ましい。車両装着時外側は、ネガティブキャンバにより接地圧が相対的に低くなりがちであるため、これにより接地圧の均一化を促して、偏摩耗の抑制や、操縦安定性及び乗心地性の向上に有利となる。車両に対する装着の向きは、一方側のサイドウォール部2に車両外側となる旨を表示することにより、或いは、他方側のサイドウォール部2に車両内側となる旨を表示することにより特定される。
【0037】
本実施形態では、タイヤ赤道CLを基準として、タイヤ幅方向の一方側と他方側とでパターン剛性を異ならせている。具体的には、ボイド比(接地面積に対する溝面積の比率)が一方側よりも他方側で大きく、一方側のパターン剛性が相対的に高くなっている。短ベルト層8が配されるタイヤ幅方向の一方側は、このパターン剛性の高い側であることが好ましく、それにより一方側における周方向剛性を高めて、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で異ならせるのに有利となる。また、車両装着時外側のパターン剛性が高いことにより、操縦安定性が高められる。本実施形態では、非対称パターンが形成された例を示しているが、左右で剛性差が生じないパターン構成であっても、非対称剛性付与材を設けることで同様な効果が奏される。
【0038】
本発明では、図7,8に示すように、ベルト層5のタイヤ径方向内側に短ベルト層8を二層重ねて設けることが好ましい。これにより、上述した内径差が大きくなるため、短ベルト層8による周方向剛性の向上効果を高めて、一方側と他方側との間での固有値のズレを大きくし、振動の伝達特性を左右で効果的に異ならせることができる。また、この例では、補助ゴム層9を肉厚にして一層で設けており、二層の短ベルト層8に対して厚みのバランスが保たれている。二層の短ベルト層8は、コード8Cの傾斜を互いに逆向きにして重ねられている。
【0039】
図9に示すように、ベルト層5のタイヤ径方向外側に非対称剛性付与材7を設けても構わない。この場合、短ベルト層8のコード8Cは、直近のベルト層5のコード5C(ベルトプライ5bのコード5C)と逆向きに傾斜していることが好ましい。(A)は、非対称剛性付与材7を一層で設けた例である。(B)は、短ベルト層8を二層重ねて設け、補助ゴム層9を肉厚にして一層で設けた例である。(C)は、非対称剛性付与材7をタイヤ径方向の内側と外側に一層ずつ設けた例である。
【0040】
これらの構成においても、短ベルト層8による周方向剛性の向上効果が得られ、タイヤにおける振動の伝達特性を左右で異ならせて、ロードノイズを低減できる。また、非対称剛性付与材7が短ベルト層8だけでなく補助ゴム層9を有することにより、接地形状への悪影響を抑制できるとともに、短ベルト層8による段差を軽減して、通常の断面形状を有するトレッドゴム6の使用が可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0042】
(1)振動の伝達特性の差(周波数のズレ)
非対称剛性付与材の両側を各例における一方側の構造で構成したタイヤと、同じく他方側の構造で構成したタイヤを用意した。即ち、実施例1であれば、非対称剛性付与材の全体を短ベルト層で構成したタイヤと、非対称剛性付与材の全体を補強ゴム層で構成したタイヤを用意した。そのうえで、リム(15×6−JJ)に装着した該タイヤ(195/65R15)の空気圧を200kPaとし、4.2kNの荷重で接地させ、その状態でトレッド部の中央部にハンマーで加振した。その際、軸に生じる上下方向の応答を測定し、周方向6次モードのピーク周波数を求め、それらの差異を振動の伝達特性の差として評価した。周方向6次モードとしたのは、このサイズのタイヤでは、空洞共鳴付近で発生する振動モードが周方向6次〜7次となるためである。
【0043】
(2)軸振動レベル(上下の軸力レベル)
リム(15×6−JJ)に装着したタイヤ(195/65R15)の空気圧を200kPaとし、4.2kNの荷重で接地させ、その状態でトレッド部の中央部にハンマーで加振した。その際、軸に生じる上下方向の応答を測定し、空洞共鳴周波数での上下の軸力レベルを比較した。計測結果は、比較例1を基準とし、それに対する差で表しており、当該数値が小さいほどロードノイズが低減されるため好ましい。
【0044】
非対称剛性付与材を具備しない構造を比較例1とし、ベルト層のタイヤ径方向内側に短ベルト層のみを設けた構造を比較例2とした。また、図3、図9(B)、図8の非対称剛性付与材を設けた構造を、それぞれ実施例1〜3とした。内側のベルトプライの幅は148mm、外側のベルトプライの幅は136mm、短ベルト層の幅は74mm(二層ある場合、外側の短ベルト層の幅は68mm)、補助ゴム層の幅は74mm、補助ゴム層の厚みは1mm(短ベルト層が二層ある場合は2mm)、補助ゴム層の引張応力S100は6.0MPaである。非対称剛性付与材に関する構成を除いて、各例のタイヤ構造は共通している。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から、実施例1〜3では、比較例1,2に比べてロードノイズが低減されることが分かる。特に短ベルト層を二層重ねて設けた実施例2,3では改善効果が大きく、その中でも、ベルト層のタイヤ径方向内側に短ベルト層を二層重ねて設けた実施例3では、最も良好な結果が得られている。
【符号の説明】
【0047】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス層
5 ベルト層
7 非対称剛性付与材
8 短ベルト層
9 補助ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、一対の前記ビード部の間に設けられたトロイド状のカーカス層と、前記トレッド部で前記カーカス層のタイヤ径方向外側に設けられたベルト層とを備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層のタイヤ径方向内側又はタイヤ径方向外側に、タイヤ幅方向の一方側に配された短ベルト層と他方側に配された補助ゴム層とを有する非対称剛性付与材が設けられ、前記短ベルト層に含まれるコードのタイヤ周方向に対する角度が40°以内であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記短ベルト層に含まれるコードのタイヤ周方向に対する角度が10〜30°である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層のタイヤ径方向内側に前記短ベルト層が二層重ねて設けられている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記短ベルト層の幅が、前記ベルト層の幅の0.25〜0.75倍である請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記補助ゴム層の100%伸張時の引張応力S100が0.5〜15.5MPaである請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記短ベルト層が配されるタイヤ幅方向の一方側が車両装着時外側に設定される請求項1〜5いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−103518(P2013−103518A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246549(P2011−246549)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)