空気入りタイヤ
【課題】乾燥路面での制動性能を損なうことなく、気柱管共鳴音を低減する。
【解決手段】周方向溝12に挟まれた陸部(リブ)14を備えたトレッド部10において、リブ14を横断して両端が周方向溝14に開口したサイプ20を設け、該サイプをタイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延びるように設定する。サイプ20には、トレッド表面11からサイプ深さ方向Hに間隔h1をおいた位置でサイプ長さ方向Gに延びて両端が周方向溝12に開口する第1幅広部22を設けるとともに、該第1幅広部22の一方の開口端20Xから他方の開口端20Yに至る途中の位置に第1幅広部22よりも幅広に形成された第2幅広部28を設ける。
【解決手段】周方向溝12に挟まれた陸部(リブ)14を備えたトレッド部10において、リブ14を横断して両端が周方向溝14に開口したサイプ20を設け、該サイプをタイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延びるように設定する。サイプ20には、トレッド表面11からサイプ深さ方向Hに間隔h1をおいた位置でサイプ長さ方向Gに延びて両端が周方向溝12に開口する第1幅広部22を設けるとともに、該第1幅広部22の一方の開口端20Xから他方の開口端20Yに至る途中の位置に第1幅広部22よりも幅広に形成された第2幅広部28を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部には、タイヤ周方向に延びる周方向溝が設けられ、また、タイヤ幅方向に延びる幅方向溝が設けられることが一般的である。このような溝を設定したタイヤにおいては、走行中にタイヤと路面との間からパターンノイズが発生し、特に、周方向溝に起因する気柱管共鳴音(800Hz〜1250Hz程度)が大きな原因となっている。
【0003】
気柱管共鳴音の発生原理は次の通りである。すなわち、タイヤが接地する際に周方向溝が変形することでその容積が変化し、周方向溝内に閉じ込められた空気が圧縮・膨張を繰り返すことにより、接地された周方向溝の空間よりポンピング音、つまり気柱管共鳴音を発生する。その際、周方向溝内の空気のポンピング圧力が高くなると気柱管共鳴音は大きくなる。
【0004】
かかる気柱管共鳴音を低減するには、周方向溝の断面積を小さくすればよいが、周方向溝の断面積を小さくすると、湿潤路面での排水性(WET排水性)が低下してしまう。
【0005】
下記特許文献1には、周方向溝に起因する気柱管共鳴音を低減するために、ヘルムホルツ共鳴器をトレッド部に設けることが提案されている。ヘルムホルツ共鳴器は、トレッド部の陸部表面に開口する気室と、該気室を周方向溝に連通させる狭窄ネックとより形成されており、気室の容積を比較的大きく設定することが条件となっている。しかしながら、気室の容積を大きくするためには陸部表面への開口面積を大きく設定する必要があり、そうすると非接地部の面積が大きくなって(即ち、接地面積が減少して)、乾燥路面での制動性能が低下するという問題がある。また、陸部に開口面積の大きな気室を設けることにより、この部分の剛性が低下して接地性が悪化し、共鳴器としての役目を十分に果たせないおそれがある。
【0006】
一方、空気入りタイヤのトレッド部に設けられたブロックやリブ等の陸部には、サイプと呼ばれる溝幅の狭い切込みが設けられることがあり、従来、サイプによるエッジ効果や除水効果によって氷雪路面等での走行性能・制動性能を高めるために、種々の構造が提案されている。例えば、下記特許文献2,3には、トレッド部のブロックに両端が周方向溝に開口したオープンサイプを設定した上で、サイプ開口部の狭小化を抑制するために、サイプ長さ方向に延びる幅広部を設けた構造が開示されている。
【0007】
サイプは、一般に、溝幅が1.5mm以下と狭いため、前後力が負荷されると閉じやすい。すなわち、図11(a)に示すようなサイプ深さ方向で溝幅が一定のサイプ100では、接地時に前後力が負荷されると、図11(b)に示すように、サイプ100が閉じるように変形する。このようにサイプが閉じると、周方向溝からサイプ内に空気を逃がし難く、そのため、周方向溝の空気圧力を低下させることはできず、気柱管共鳴音の低減効果は得られない。上記特許文献2,3には、目的は気柱管共鳴音の低減ではないが、サイプの深さ方向における途中に溝幅を広くした幅広部を設ける構造が開示されている。しかしながら、これらの文献に開示された構造では、サイプの全長にわたって溝幅が一定の幅広部であるため、周方向溝の空気圧力を低減することはできるものの、その低減効果は十分とは言えない。いずれにしても、従来、サイプを利用して気柱管共鳴音を低減することは行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−213596号公報
【特許文献2】特開2007−8303号公報
【特許文献3】特開2008−296613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、乾燥路面での制動性能を損なうことなく、気柱管共鳴音を低減することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、周方向溝に挟まれた陸部をトレッド部に備え、前記陸部に当該陸部を横断し両端が前記周方向溝に開口したサイプが設けられた空気入りタイヤにおいて、前記サイプがタイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延びており、また、該サイプは、トレッド表面からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置でサイプ長さ方向に延びて両端が前記周方向溝に開口する第1幅広部を備えるとともに、前記第1幅広部の一方の開口端から他方の開口端に至る途中の位置に前記第1幅広部よりも幅広に形成された第2幅広部を備えたことを特徴とする。
【0011】
より好ましい態様として、前記サイプは、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が10°〜45°の範囲内に設定されてもよい。また、他の好ましい態様として、前記第1幅広部は、前記サイプの下端からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置に設けられてもよい。また、他の好ましい態様として、前記第1幅広部及び第2幅広部は、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた凹部により形成されてもよい。また、この場合、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記凹部が、サイプ深さ方向においてずれた位置に配置されてもよい。他の好ましい態様として、前記第2幅広部は、前記第1幅広部よりもサイプ深さ方向における寸法が大きく形成されてもよい。これらの各態様は適宜に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両端が周方向溝に開口するサイプをタイヤ幅方向に対して傾斜させた上で、該サイプの内部にサイプ長さ方向に延びて両端が周方向溝に開口する第1幅広部を設けたので、サイプ表面部が閉じたとしても、周方向溝内の空気を第1幅広部に取り入れることができる。しかも、第1幅広部の長さ方向の途中に、より溝幅の広い第2幅広部を設けたことにより、周方向溝の空気圧力をより一層効果的に低減することができる。また、サイプがタイヤ幅方向に対して傾斜していることにより、第1幅広部に対して両側の周方向溝から同時に空気が流れ込むことを抑制することができ、空気の逃げ道が確保されるので、周方向溝の空気圧力をより低減することができる。よって、気柱管共鳴音を低減することができる。また、本発明によれば、サイプを利用して、その一部を幅広にすることで気柱管共鳴音を低減することができるので、陸部の剛性低下を少なくすることができ、乾燥路面での制動性能の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図2】第1実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図3】第1実施形態に係るリブの要部拡大斜視図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図2のV−V線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図6】第2実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図8】第3実施形態に係るサイプの断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図9】第4実施形態に係るリブの断面図である。
【図10】比較例1に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図11】比較例1に係るサイプの断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図12】比較例2に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
実施形態に係る空気入りタイヤは、図示を省略したが、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部10とを備えて構成されており、一対のビード部間にまたがって延びるカーカスを備える。カーカスは、トレッド部10からサイドウォール部をへて、ビード部に埋設された環状のビードコアにて両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなり、上記各部を補強する。トレッド部10におけるカーカスの外周側には、2層以上のゴム被覆スチールコード層からなるベルトが設けられており、カーカスの外周でトレッド部10を補強する。
【0016】
トレッド部10の表面には、図1に示すように、タイヤ周方向Aにストレート状に延びる複数の周方向溝(主溝)12が設けられ、また、周方向溝12により区画された複数の陸部が設けられている。この例では、周方向溝12がタイヤ幅方向Bに3本設けられ、これにより、タイヤ幅方向Bに4本のリブ14,14,16,16が設けられている。このうち、ショルダー部に設けられたリブ16,16には、接地端からタイヤ幅方向Bに延びリブ16内で終端する複数の幅方向溝(横溝)18がタイヤ周方向Aに所定間隔をおいて設けられている。
【0017】
リブ14,16は、タイヤ周方向Aに連続して延びる陸部であり、このうち、中央部の2本のリブ14,14は周方向溝12,12により挟まれている。このリブ14には、タイヤ周方向Aに交差する方向に延びる直線状のサイプ20が設けられている。サイプ20は、タイヤ幅方向Bに延びてリブ14を横断し、その長さ方向における両端が周方向溝12に開口した切込み(両側オープンサイプ)であり、複数のサイプ20がタイヤ周方向Aに所定の間隔をおいて並設されている。
【0018】
図2〜5に基づき、サイプ20の構成を詳細に説明する。
【0019】
サイプ20は、その長さ方向Gに延びる第1幅広部22を備える。第1幅広部22は、トレッド表面11からサイプ深さ方向Hに間隔h1をおいた位置で、サイプ長さ方向Gに延びており、その両端が周方向溝12に開口している。この例では、第1幅広部22は、サイプ20の下端(即ち、底)26からもサイプ深さ方向Hに間隔h2をおいた位置に設けられており、そのため、サイプ深さ方向Hにおける中央部をサイプ長さ方向Gに延びて形成されている。
【0020】
第1幅広部22は、サイプ20の幅方向Wに対向する両側の壁面に、互いに対向する凹部24,24を設けることにより形成されている。凹部24は、この例では、サイプ長さ方向Gに沿って延びる直線状の凹溝であり、一対の凹部24,24がサイプ深さ方向Hにおいて一致した位置に配置されている。図3,5に示すように、第1幅広部22は、断面が矩形状をなして、サイプ長さ方向Gにまっすぐ延びており、その上下の一般部に対して溝幅が広く形成されている。
【0021】
サイプ20には、第1幅広部22の一方の開口端20Xから他方の開口端20Yに至る途中の位置に、第1幅広部22よりも幅広に形成された第2幅広部28が設けられている。すなわち、第1幅広部22は、その長さ方向の途中で溝幅が広くなっており、この溝幅が広くなった部分が第2幅広部28を構成している。そのため、サイプ20の長さ方向Gにおいて、第2幅広部28の両側には第1幅広部22が設けられており、第1幅広部22が両側の周方向溝12に開口している。第2幅広部28は、この例では、第1幅広部22の長さ方向における中央部に設けられている。
【0022】
第2幅広部28は、サイプ20の幅方向Wに対向する両側の壁面に、互いに対向する凹部30,30を設けることにより形成されている。凹部30は、この例では、第1幅広部22を形成する上記凹部24において、その長さ方向の中央部で溝幅を更に広げるように形成されており、一対の凹部30,30がサイプ深さ方向H及び長さ方向Gにおいて一致した位置に配置されている。図3,5に示すように、第2幅広部28は、断面が矩形状をなしており、第1幅広部22よりも溝幅が広く形成されている。
【0023】
サイプ20は、上記第1幅広部22及び第2幅広部28が設けられていないサイプ部分が、幅広部22,28よりも溝幅の狭い幅狭部21となっている。すなわち、幅広部22,28よりも上側のサイプ部分は、トレッド表面11も含めて幅狭部21により形成されており、幅広部22,28よりも下側のサイプ底部にも幅狭部21が形成されている。
【0024】
上記第1幅広部22及び第2幅広部28を設けたことにより、サイプ20には、その深さ方向Hの途中において周方向溝12に開口してリブ14を横断する空気流路が形成されている。そのため、仮にサイプ20の一般部である幅狭部21が閉じたとしても、該空気流路を介して周方向溝12内の空気をサイプ20内に取り入れることができ、周方向溝12の空気圧力を低減することができる。また、この空気流路には、その長さ方向の途中に第2幅広部28が設けられて流路断面積(空気の流れ方向に垂直な面で切断した断面積)が拡大されているので、空気の圧力を更に低減することができる。
【0025】
第1幅広部22及び第2幅広部28の各寸法については、特に限定するものではないが、次のように設定することができる。すなわち、幅狭部21の溝幅w0としては、通常のサイプ幅とすることができ、例えば0.3〜1.0mm程度が好ましい。第1幅広部22の溝幅w1は、幅狭部21の溝幅w0よりも大きく、0.8〜1.5mm程度が好ましい。第2幅広部28の溝幅w2は、第1幅狭部21の溝幅w1よりも大きく、1.1〜3.0mm程度が好ましい。トレッド表面11から第1幅広部22及び第2幅広部28までの間隔h1は、サイプ深さh0の5〜70%であることが好ましく、サイプ下端26から第1幅広部22及び第2幅広部28までの間隔h2は、サイプ深さh0の5〜70%であることが好ましく、第1幅広部22及び第2幅広部28の高さh3は、それぞれ、サイプ深さh0の15〜50%であることが好ましい。
【0026】
以上のような内部構造を持つサイプ20は、図1に示すように、タイヤ幅方向Bに対してやや傾斜した方向に延びており、タイヤ幅方向Bに対する傾斜角度θが10°〜45°の範囲内に設定されていることが好ましい。このようにサイプ20が傾斜していることにより、周方向溝12から第1幅広部22に流れ込む空気の流れを一方向にすることができる。すなわち、サイプ20をタイヤ幅方向Bに平行にするよりも傾斜させることで、両側の周方向溝12,12から空気が流れ込むタイミングをずらして、空気の流れを一方向にすることができ、空気の逃げ道が確保されるので、周方向溝12の空気圧力をより低減することができる。なお、傾斜角度θが45°よりも大きくなると、サイプ20の両側の開口端20X,20Yにおいて、陸部であるリブ14の形状が鋭角となるので、剛性が低下してしまうおそれがある。そのため、傾斜角度θは45°以下であることが好ましい。
【0027】
なお、図1に示す実施形態では、サイプ20の傾斜方向をタイヤ周方向Aにおいて同じ方向としたが、異なる方向に設定してもよく、傾斜方向は限定されない。例えば、同一のリブ14において、タイヤ周方向Aに複数並設するサイプ20の傾斜方向は同一であってもよく、あるいはまた異なる方向であってもよく、後者の場合、周方向一方側に傾斜したサイプ(θ=+10°〜+45°)と他方側に傾斜したサイプ(θ=−10°〜−45°)とを、タイヤ周方向Aに交互に設定してもよい。また、互いに隣接するリブ14,14にそれぞれ設けるサイプ20の傾斜方向を、図1に示すように同一に設定してもよく、あるいはまた逆方向に設定してもよい(即ち、一方のリブでは周方向一方側に傾斜したサイプ(θ=+10°〜+45°)を設け、他方のリブでは逆方向に傾斜したサイプ(θ=−10°〜−45°)を設ける)。
【0028】
以上よりなるサイプ20を設けた本実施形態に係る空気入りタイヤであると、トレッド部10の接地時に前後力が負荷されたとき、図5(b)に示すように、サイプ10が閉じる方向に変形するが、第1幅広部22を設けたことにより、周方向溝12内の空気が第1幅広部22に取り入れられる。そのため、周方向溝12の空気圧力を低減(減圧、乱れさす)することができるので、気柱管共鳴音を低減することができる。しかも、第1幅広部22の長さ方向の途中に、より溝幅の広い第2幅広部28を設けたことにより、周方向溝12の空気圧力をより一層効果的に低減することができる。また、サイプ20がタイヤ幅方向Bに対して傾斜していることにより、周方向溝12から第1幅広部22に流れ込む空気の流れを一方向にして、空気の逃げ道を確保することができるので、周方向溝12の空気圧力をより低減することができる。よって、気柱管共鳴音の低減効果に優れる。
【0029】
また、本実施形態であると、第1及び第2幅広部22,28がサイプ下端26ではなく深さ方向Hの途中に設けられているので、サイプ深さ方向Hでの撓みが大きく、サイプ幅方向Wへの撓みが抑えられる。すなわち、これらの幅広部22,28をサイプ下端26ではなく、サイプ深さ方向Hの中央部に設けていると、トレッドゴムの変形を幅広部22,26で吸収することができ、サイプ深さ方向Hでの撓みが大きくなる。そのため、その分、サイプ幅方向Wへの撓みが抑えられるので、サイプ20が閉じにくくなる。よって、幅広部22,28をサイプ底部に設ける場合に比べて、サイプ20が閉じにくく、第1及び第2幅広部22,28による空気流路を確保しやすい。よって、気柱管共鳴音の低減効果を更に向上することができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、サイプ20を一部幅広にすることで気柱管共鳴音を低減することができ、図12に示すような過大な気室112をトレッド部に設けるものではない。すなわち、上記特許文献1のような大きな気室を設けなくても、気柱管共鳴音の低減効果が得られる。そのため、本実施形態によれば、リブ14の剛性低下を少なくすることができ、乾燥路面での制動性能の低下を抑えることができる。特に、第1及び第2幅広部22,28の下側に幅狭部21を設けて、サイプ20を閉じにくくしたので、サイプ20近傍の接地圧の均一化が図られ、よって、乾燥路面での制動性能を向上することも可能となる。
【0031】
また、気柱管共鳴音対策としての上記幅広部22,28は、サイプ20の内部に設けられており、トレッド表面11に開口、即ち露出していないため、外観性にも優れる。
【0032】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るサイプ20Aは、図6,7に示すように、第1幅広部22を形成する凹部24を、サイプ20Aの幅方向Wに対向する壁面のうち、一方の壁面のみに設けた点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。
【0033】
詳細には、サイプ20Aの一方の壁面に凹部24を設けて、両端が周方向溝12に開口する第1幅広部22を形成している。一方、第2幅広部28を形成する凹部30については、サイプ20Aの幅方向Wに対向する両側の壁面に互いに対向させて設けており、これにより、第1幅広部22の途中に第2幅広部28が形成されている。
【0034】
このように第1幅広部22や第2幅広部28は、サイプ20Aの幅方向Wにおけるいずれか一方側のみに設けてもよい。但し、第1実施形態のように、第1幅広部22をサイプ幅方向両側に設けた方が、トレッド部10の接地時に前後力が負荷されたときに、サイプ20の幅方向Wの両側で、トレッドゴムの変形を第1幅広部22で吸収することができるので、サイプ深さ方向Hでより一層撓みやすくすることができ、そのため、サイプ20をより一層閉じにくくすることができるので、好ましい。第2実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0035】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るサイプ20Bは、図8に示すように、第1及び第2幅広部22,28を形成する凹部24,30を、サイプ深さ方向Hにおいてずれた位置に配置した点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。
【0036】
詳細には、第1幅広部22を形成するためにサイプ幅方向Wの両側に設けられた一対の凹部24,24は、サイプ深さ方向Hにおいて一致しておらず、ずらして設けられている。また、第2幅広部28を形成する一対の凹部30,30についても、サイプ深さ方向Hにおいて一致しておらず、ずらして設けられている。
【0037】
このように凹部24,30をずらして設けたことにより、図8(b)に示すように第1実施形態に比べてサイプ20Bをより一層閉じにくくしながら、サイプ20Bを成形するための金型のブレードの抜け性を良好にすることができる。なお、この例では、一対の凹部24,30は、サイプ深さ方向Hにおいて一部重なるように配置されているが、深さ方向Hにおいて重なり部を持たないようにずらして配置してもよい。但し、重なり部を持つ方が空気流路を確保する上では好ましい。
【0038】
第3実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0039】
(第4実施形態)
第4実施形態に係るサイプ20Cは、図9に示すように、第2幅広部28が第1幅広部22よりもサイプ深さ方向Hにおける寸法(即ち、高さ)が大きく設定された点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。
【0040】
すなわち、この例では、第2幅広部28は、第1幅広部22の長さ方向の中央部で溝幅が大きくなっているだけでなく、高さも第1幅広部22よりも大きく形成されている。詳細には、第2幅広部28は、第1幅広部22よりも上方、即ちトレッド表面11側に向かって延設されている。これにより、両幅広部22,28により形成される空気流路は、その長さ方向の中央部において、流路断面積がより一層拡大されることになるので、空気の圧力を更に低減することができる。
【0041】
第4実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0042】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、第2幅広部28をサイプ20,20A〜Cの長さ方向Gにおける中央部に設けたが、必ずしも中央部でなくてもよく、両端部のいずれかに寄せて設けてもよい。また、第2幅広部28はサイプ長さ方向Gに1箇所設ける場合には限定されず、2箇所以上に設けてもよい。また、第1幅広部22及び第2幅広部28は、サイプ深さ方向Hの中間位置に設ける場合には限定されず、サイプの底部に設けてもよい。なお、上記サイプによる気柱管共鳴音の低減効果は、両側がリブに挟まれた周方向溝において、より効果的に奏される。そのため、上記サイプは、両側がリブに挟まれた周方向溝に対して、少なくとも一端が開口するように設けられることが好ましい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0043】
実施例1として図1〜5に示す第1実施形態のトレッドパターンを持つ空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ=195/65R15)を試作した。実施例1では、リブ14の幅L=30mmに対し、サイプ深さh0=7mm、トレッド表面11から第1及び第2幅広部22,28までの間隔h1=3mm、サイプ下端26から第1及び第2幅広部22,28までの間隔h2=2mm、第1及び第2幅広部22,28の高さh3=2mm、幅狭部21の溝幅w0=0.6mm、第1幅広部22の溝幅w1=1.0mm、第2幅広部28での溝幅w2=1.4mm、第2幅広部28の長さg1=10mmとした。また、サイプの傾斜角度θ=10°とした。
【0044】
また、比較例1として、図10,11に示すトレッドパターンを持つものと、比較例2として、図12に示すトレッドパターンを持つものと、比較例3として、実施例1から第2幅広部28を除いた構成を持つものとついて、それぞれ空気入りラジアルタイヤを試作した。これら比較例は、実施例1に対してリブ14内に設けたサイプ100,102又はヘルムホルツ共鳴器110のみ異なるものである。比較例1は、サイプ100が長さ方向及び深さ方向に一定の溝幅を持ち、両側の周方向溝12に開口したオープンサイプの例であって、溝幅=1.0mmとした。比較例2は、上記第1特許文献に対応する例であって、トレッド表面に対向する気室112と、該気室112を周方向溝12に連通させる狭窄ネック114とからなるヘルムホルツ共鳴器110を、リブ14に設けた例である。L1=18mm、L2=6mm、気室112の深さ7mm、狭窄ネック114の長さ6mm・幅1mm・深さ2mmとした。
【0045】
各空気入りラジアルタイヤをリム(サイズ:15×6)に装着し、空気圧を210kPaとして、ノイズ性能とドライ制動性を評価した。評価方法は以下の通りである。
【0046】
・ノイズ性能:ノイズレベルは、JASO―C606に準拠した台上試験(速度:80km/h)で、1/3オクターブバンドの1kHzの気柱管共鳴音レベルを測定したものであり、比較例1に対するデシベル値の差(dB)で表示した。
【0047】
・ドライ制動性:1.8LのFF車に4輪装着し、ドライ路面上で走行速度100km/hからフル制動した場合の制動開始から完全停止までの移動距離を測定し、移動距離の逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、移動距離(制動距離)が短く、ドライ制動性に優れることを示す。
【0048】
結果は、表1に示す通りであり、比較例2では、気柱管共鳴音の低減効果は不十分であり、また、接地性の低下によりドライ制動性が低下していた。比較例3でも、気柱管共鳴音の低減効果は不十分であった。これに対し、実施例1では、ドライ制動性を低下させることなく、むしろ向上させながら、気柱管共鳴音を大幅に低減させることができた。
【表1】
【符号の説明】
【0049】
10…トレッド部 11…トレッド表面 12…周方向溝
14…リブ 20,20A〜C…サイプ 22…第1幅広部
24…凹部 26…サイプ下端 28…第2幅広部
30…凹部 B…タイヤ幅方向 G…サイプ長さ方向 H…サイプ深さ方向 W…サイプ幅方向 θ…傾斜角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部には、タイヤ周方向に延びる周方向溝が設けられ、また、タイヤ幅方向に延びる幅方向溝が設けられることが一般的である。このような溝を設定したタイヤにおいては、走行中にタイヤと路面との間からパターンノイズが発生し、特に、周方向溝に起因する気柱管共鳴音(800Hz〜1250Hz程度)が大きな原因となっている。
【0003】
気柱管共鳴音の発生原理は次の通りである。すなわち、タイヤが接地する際に周方向溝が変形することでその容積が変化し、周方向溝内に閉じ込められた空気が圧縮・膨張を繰り返すことにより、接地された周方向溝の空間よりポンピング音、つまり気柱管共鳴音を発生する。その際、周方向溝内の空気のポンピング圧力が高くなると気柱管共鳴音は大きくなる。
【0004】
かかる気柱管共鳴音を低減するには、周方向溝の断面積を小さくすればよいが、周方向溝の断面積を小さくすると、湿潤路面での排水性(WET排水性)が低下してしまう。
【0005】
下記特許文献1には、周方向溝に起因する気柱管共鳴音を低減するために、ヘルムホルツ共鳴器をトレッド部に設けることが提案されている。ヘルムホルツ共鳴器は、トレッド部の陸部表面に開口する気室と、該気室を周方向溝に連通させる狭窄ネックとより形成されており、気室の容積を比較的大きく設定することが条件となっている。しかしながら、気室の容積を大きくするためには陸部表面への開口面積を大きく設定する必要があり、そうすると非接地部の面積が大きくなって(即ち、接地面積が減少して)、乾燥路面での制動性能が低下するという問題がある。また、陸部に開口面積の大きな気室を設けることにより、この部分の剛性が低下して接地性が悪化し、共鳴器としての役目を十分に果たせないおそれがある。
【0006】
一方、空気入りタイヤのトレッド部に設けられたブロックやリブ等の陸部には、サイプと呼ばれる溝幅の狭い切込みが設けられることがあり、従来、サイプによるエッジ効果や除水効果によって氷雪路面等での走行性能・制動性能を高めるために、種々の構造が提案されている。例えば、下記特許文献2,3には、トレッド部のブロックに両端が周方向溝に開口したオープンサイプを設定した上で、サイプ開口部の狭小化を抑制するために、サイプ長さ方向に延びる幅広部を設けた構造が開示されている。
【0007】
サイプは、一般に、溝幅が1.5mm以下と狭いため、前後力が負荷されると閉じやすい。すなわち、図11(a)に示すようなサイプ深さ方向で溝幅が一定のサイプ100では、接地時に前後力が負荷されると、図11(b)に示すように、サイプ100が閉じるように変形する。このようにサイプが閉じると、周方向溝からサイプ内に空気を逃がし難く、そのため、周方向溝の空気圧力を低下させることはできず、気柱管共鳴音の低減効果は得られない。上記特許文献2,3には、目的は気柱管共鳴音の低減ではないが、サイプの深さ方向における途中に溝幅を広くした幅広部を設ける構造が開示されている。しかしながら、これらの文献に開示された構造では、サイプの全長にわたって溝幅が一定の幅広部であるため、周方向溝の空気圧力を低減することはできるものの、その低減効果は十分とは言えない。いずれにしても、従来、サイプを利用して気柱管共鳴音を低減することは行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−213596号公報
【特許文献2】特開2007−8303号公報
【特許文献3】特開2008−296613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、乾燥路面での制動性能を損なうことなく、気柱管共鳴音を低減することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、周方向溝に挟まれた陸部をトレッド部に備え、前記陸部に当該陸部を横断し両端が前記周方向溝に開口したサイプが設けられた空気入りタイヤにおいて、前記サイプがタイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延びており、また、該サイプは、トレッド表面からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置でサイプ長さ方向に延びて両端が前記周方向溝に開口する第1幅広部を備えるとともに、前記第1幅広部の一方の開口端から他方の開口端に至る途中の位置に前記第1幅広部よりも幅広に形成された第2幅広部を備えたことを特徴とする。
【0011】
より好ましい態様として、前記サイプは、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が10°〜45°の範囲内に設定されてもよい。また、他の好ましい態様として、前記第1幅広部は、前記サイプの下端からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置に設けられてもよい。また、他の好ましい態様として、前記第1幅広部及び第2幅広部は、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた凹部により形成されてもよい。また、この場合、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記凹部が、サイプ深さ方向においてずれた位置に配置されてもよい。他の好ましい態様として、前記第2幅広部は、前記第1幅広部よりもサイプ深さ方向における寸法が大きく形成されてもよい。これらの各態様は適宜に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両端が周方向溝に開口するサイプをタイヤ幅方向に対して傾斜させた上で、該サイプの内部にサイプ長さ方向に延びて両端が周方向溝に開口する第1幅広部を設けたので、サイプ表面部が閉じたとしても、周方向溝内の空気を第1幅広部に取り入れることができる。しかも、第1幅広部の長さ方向の途中に、より溝幅の広い第2幅広部を設けたことにより、周方向溝の空気圧力をより一層効果的に低減することができる。また、サイプがタイヤ幅方向に対して傾斜していることにより、第1幅広部に対して両側の周方向溝から同時に空気が流れ込むことを抑制することができ、空気の逃げ道が確保されるので、周方向溝の空気圧力をより低減することができる。よって、気柱管共鳴音を低減することができる。また、本発明によれば、サイプを利用して、その一部を幅広にすることで気柱管共鳴音を低減することができるので、陸部の剛性低下を少なくすることができ、乾燥路面での制動性能の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図2】第1実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図3】第1実施形態に係るリブの要部拡大斜視図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図2のV−V線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図6】第2実施形態に係るリブの要部拡大平面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図8】第3実施形態に係るサイプの断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図9】第4実施形態に係るリブの断面図である。
【図10】比較例1に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【図11】比較例1に係るサイプの断面図であり、(a)は無負荷時、(b)は前後力負荷時を示す。
【図12】比較例2に係るタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
実施形態に係る空気入りタイヤは、図示を省略したが、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部10とを備えて構成されており、一対のビード部間にまたがって延びるカーカスを備える。カーカスは、トレッド部10からサイドウォール部をへて、ビード部に埋設された環状のビードコアにて両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなり、上記各部を補強する。トレッド部10におけるカーカスの外周側には、2層以上のゴム被覆スチールコード層からなるベルトが設けられており、カーカスの外周でトレッド部10を補強する。
【0016】
トレッド部10の表面には、図1に示すように、タイヤ周方向Aにストレート状に延びる複数の周方向溝(主溝)12が設けられ、また、周方向溝12により区画された複数の陸部が設けられている。この例では、周方向溝12がタイヤ幅方向Bに3本設けられ、これにより、タイヤ幅方向Bに4本のリブ14,14,16,16が設けられている。このうち、ショルダー部に設けられたリブ16,16には、接地端からタイヤ幅方向Bに延びリブ16内で終端する複数の幅方向溝(横溝)18がタイヤ周方向Aに所定間隔をおいて設けられている。
【0017】
リブ14,16は、タイヤ周方向Aに連続して延びる陸部であり、このうち、中央部の2本のリブ14,14は周方向溝12,12により挟まれている。このリブ14には、タイヤ周方向Aに交差する方向に延びる直線状のサイプ20が設けられている。サイプ20は、タイヤ幅方向Bに延びてリブ14を横断し、その長さ方向における両端が周方向溝12に開口した切込み(両側オープンサイプ)であり、複数のサイプ20がタイヤ周方向Aに所定の間隔をおいて並設されている。
【0018】
図2〜5に基づき、サイプ20の構成を詳細に説明する。
【0019】
サイプ20は、その長さ方向Gに延びる第1幅広部22を備える。第1幅広部22は、トレッド表面11からサイプ深さ方向Hに間隔h1をおいた位置で、サイプ長さ方向Gに延びており、その両端が周方向溝12に開口している。この例では、第1幅広部22は、サイプ20の下端(即ち、底)26からもサイプ深さ方向Hに間隔h2をおいた位置に設けられており、そのため、サイプ深さ方向Hにおける中央部をサイプ長さ方向Gに延びて形成されている。
【0020】
第1幅広部22は、サイプ20の幅方向Wに対向する両側の壁面に、互いに対向する凹部24,24を設けることにより形成されている。凹部24は、この例では、サイプ長さ方向Gに沿って延びる直線状の凹溝であり、一対の凹部24,24がサイプ深さ方向Hにおいて一致した位置に配置されている。図3,5に示すように、第1幅広部22は、断面が矩形状をなして、サイプ長さ方向Gにまっすぐ延びており、その上下の一般部に対して溝幅が広く形成されている。
【0021】
サイプ20には、第1幅広部22の一方の開口端20Xから他方の開口端20Yに至る途中の位置に、第1幅広部22よりも幅広に形成された第2幅広部28が設けられている。すなわち、第1幅広部22は、その長さ方向の途中で溝幅が広くなっており、この溝幅が広くなった部分が第2幅広部28を構成している。そのため、サイプ20の長さ方向Gにおいて、第2幅広部28の両側には第1幅広部22が設けられており、第1幅広部22が両側の周方向溝12に開口している。第2幅広部28は、この例では、第1幅広部22の長さ方向における中央部に設けられている。
【0022】
第2幅広部28は、サイプ20の幅方向Wに対向する両側の壁面に、互いに対向する凹部30,30を設けることにより形成されている。凹部30は、この例では、第1幅広部22を形成する上記凹部24において、その長さ方向の中央部で溝幅を更に広げるように形成されており、一対の凹部30,30がサイプ深さ方向H及び長さ方向Gにおいて一致した位置に配置されている。図3,5に示すように、第2幅広部28は、断面が矩形状をなしており、第1幅広部22よりも溝幅が広く形成されている。
【0023】
サイプ20は、上記第1幅広部22及び第2幅広部28が設けられていないサイプ部分が、幅広部22,28よりも溝幅の狭い幅狭部21となっている。すなわち、幅広部22,28よりも上側のサイプ部分は、トレッド表面11も含めて幅狭部21により形成されており、幅広部22,28よりも下側のサイプ底部にも幅狭部21が形成されている。
【0024】
上記第1幅広部22及び第2幅広部28を設けたことにより、サイプ20には、その深さ方向Hの途中において周方向溝12に開口してリブ14を横断する空気流路が形成されている。そのため、仮にサイプ20の一般部である幅狭部21が閉じたとしても、該空気流路を介して周方向溝12内の空気をサイプ20内に取り入れることができ、周方向溝12の空気圧力を低減することができる。また、この空気流路には、その長さ方向の途中に第2幅広部28が設けられて流路断面積(空気の流れ方向に垂直な面で切断した断面積)が拡大されているので、空気の圧力を更に低減することができる。
【0025】
第1幅広部22及び第2幅広部28の各寸法については、特に限定するものではないが、次のように設定することができる。すなわち、幅狭部21の溝幅w0としては、通常のサイプ幅とすることができ、例えば0.3〜1.0mm程度が好ましい。第1幅広部22の溝幅w1は、幅狭部21の溝幅w0よりも大きく、0.8〜1.5mm程度が好ましい。第2幅広部28の溝幅w2は、第1幅狭部21の溝幅w1よりも大きく、1.1〜3.0mm程度が好ましい。トレッド表面11から第1幅広部22及び第2幅広部28までの間隔h1は、サイプ深さh0の5〜70%であることが好ましく、サイプ下端26から第1幅広部22及び第2幅広部28までの間隔h2は、サイプ深さh0の5〜70%であることが好ましく、第1幅広部22及び第2幅広部28の高さh3は、それぞれ、サイプ深さh0の15〜50%であることが好ましい。
【0026】
以上のような内部構造を持つサイプ20は、図1に示すように、タイヤ幅方向Bに対してやや傾斜した方向に延びており、タイヤ幅方向Bに対する傾斜角度θが10°〜45°の範囲内に設定されていることが好ましい。このようにサイプ20が傾斜していることにより、周方向溝12から第1幅広部22に流れ込む空気の流れを一方向にすることができる。すなわち、サイプ20をタイヤ幅方向Bに平行にするよりも傾斜させることで、両側の周方向溝12,12から空気が流れ込むタイミングをずらして、空気の流れを一方向にすることができ、空気の逃げ道が確保されるので、周方向溝12の空気圧力をより低減することができる。なお、傾斜角度θが45°よりも大きくなると、サイプ20の両側の開口端20X,20Yにおいて、陸部であるリブ14の形状が鋭角となるので、剛性が低下してしまうおそれがある。そのため、傾斜角度θは45°以下であることが好ましい。
【0027】
なお、図1に示す実施形態では、サイプ20の傾斜方向をタイヤ周方向Aにおいて同じ方向としたが、異なる方向に設定してもよく、傾斜方向は限定されない。例えば、同一のリブ14において、タイヤ周方向Aに複数並設するサイプ20の傾斜方向は同一であってもよく、あるいはまた異なる方向であってもよく、後者の場合、周方向一方側に傾斜したサイプ(θ=+10°〜+45°)と他方側に傾斜したサイプ(θ=−10°〜−45°)とを、タイヤ周方向Aに交互に設定してもよい。また、互いに隣接するリブ14,14にそれぞれ設けるサイプ20の傾斜方向を、図1に示すように同一に設定してもよく、あるいはまた逆方向に設定してもよい(即ち、一方のリブでは周方向一方側に傾斜したサイプ(θ=+10°〜+45°)を設け、他方のリブでは逆方向に傾斜したサイプ(θ=−10°〜−45°)を設ける)。
【0028】
以上よりなるサイプ20を設けた本実施形態に係る空気入りタイヤであると、トレッド部10の接地時に前後力が負荷されたとき、図5(b)に示すように、サイプ10が閉じる方向に変形するが、第1幅広部22を設けたことにより、周方向溝12内の空気が第1幅広部22に取り入れられる。そのため、周方向溝12の空気圧力を低減(減圧、乱れさす)することができるので、気柱管共鳴音を低減することができる。しかも、第1幅広部22の長さ方向の途中に、より溝幅の広い第2幅広部28を設けたことにより、周方向溝12の空気圧力をより一層効果的に低減することができる。また、サイプ20がタイヤ幅方向Bに対して傾斜していることにより、周方向溝12から第1幅広部22に流れ込む空気の流れを一方向にして、空気の逃げ道を確保することができるので、周方向溝12の空気圧力をより低減することができる。よって、気柱管共鳴音の低減効果に優れる。
【0029】
また、本実施形態であると、第1及び第2幅広部22,28がサイプ下端26ではなく深さ方向Hの途中に設けられているので、サイプ深さ方向Hでの撓みが大きく、サイプ幅方向Wへの撓みが抑えられる。すなわち、これらの幅広部22,28をサイプ下端26ではなく、サイプ深さ方向Hの中央部に設けていると、トレッドゴムの変形を幅広部22,26で吸収することができ、サイプ深さ方向Hでの撓みが大きくなる。そのため、その分、サイプ幅方向Wへの撓みが抑えられるので、サイプ20が閉じにくくなる。よって、幅広部22,28をサイプ底部に設ける場合に比べて、サイプ20が閉じにくく、第1及び第2幅広部22,28による空気流路を確保しやすい。よって、気柱管共鳴音の低減効果を更に向上することができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、サイプ20を一部幅広にすることで気柱管共鳴音を低減することができ、図12に示すような過大な気室112をトレッド部に設けるものではない。すなわち、上記特許文献1のような大きな気室を設けなくても、気柱管共鳴音の低減効果が得られる。そのため、本実施形態によれば、リブ14の剛性低下を少なくすることができ、乾燥路面での制動性能の低下を抑えることができる。特に、第1及び第2幅広部22,28の下側に幅狭部21を設けて、サイプ20を閉じにくくしたので、サイプ20近傍の接地圧の均一化が図られ、よって、乾燥路面での制動性能を向上することも可能となる。
【0031】
また、気柱管共鳴音対策としての上記幅広部22,28は、サイプ20の内部に設けられており、トレッド表面11に開口、即ち露出していないため、外観性にも優れる。
【0032】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るサイプ20Aは、図6,7に示すように、第1幅広部22を形成する凹部24を、サイプ20Aの幅方向Wに対向する壁面のうち、一方の壁面のみに設けた点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。
【0033】
詳細には、サイプ20Aの一方の壁面に凹部24を設けて、両端が周方向溝12に開口する第1幅広部22を形成している。一方、第2幅広部28を形成する凹部30については、サイプ20Aの幅方向Wに対向する両側の壁面に互いに対向させて設けており、これにより、第1幅広部22の途中に第2幅広部28が形成されている。
【0034】
このように第1幅広部22や第2幅広部28は、サイプ20Aの幅方向Wにおけるいずれか一方側のみに設けてもよい。但し、第1実施形態のように、第1幅広部22をサイプ幅方向両側に設けた方が、トレッド部10の接地時に前後力が負荷されたときに、サイプ20の幅方向Wの両側で、トレッドゴムの変形を第1幅広部22で吸収することができるので、サイプ深さ方向Hでより一層撓みやすくすることができ、そのため、サイプ20をより一層閉じにくくすることができるので、好ましい。第2実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0035】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るサイプ20Bは、図8に示すように、第1及び第2幅広部22,28を形成する凹部24,30を、サイプ深さ方向Hにおいてずれた位置に配置した点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。
【0036】
詳細には、第1幅広部22を形成するためにサイプ幅方向Wの両側に設けられた一対の凹部24,24は、サイプ深さ方向Hにおいて一致しておらず、ずらして設けられている。また、第2幅広部28を形成する一対の凹部30,30についても、サイプ深さ方向Hにおいて一致しておらず、ずらして設けられている。
【0037】
このように凹部24,30をずらして設けたことにより、図8(b)に示すように第1実施形態に比べてサイプ20Bをより一層閉じにくくしながら、サイプ20Bを成形するための金型のブレードの抜け性を良好にすることができる。なお、この例では、一対の凹部24,30は、サイプ深さ方向Hにおいて一部重なるように配置されているが、深さ方向Hにおいて重なり部を持たないようにずらして配置してもよい。但し、重なり部を持つ方が空気流路を確保する上では好ましい。
【0038】
第3実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0039】
(第4実施形態)
第4実施形態に係るサイプ20Cは、図9に示すように、第2幅広部28が第1幅広部22よりもサイプ深さ方向Hにおける寸法(即ち、高さ)が大きく設定された点が、第1実施形態に係るサイプ20とは異なる。
【0040】
すなわち、この例では、第2幅広部28は、第1幅広部22の長さ方向の中央部で溝幅が大きくなっているだけでなく、高さも第1幅広部22よりも大きく形成されている。詳細には、第2幅広部28は、第1幅広部22よりも上方、即ちトレッド表面11側に向かって延設されている。これにより、両幅広部22,28により形成される空気流路は、その長さ方向の中央部において、流路断面積がより一層拡大されることになるので、空気の圧力を更に低減することができる。
【0041】
第4実施形態について、その他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0042】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、第2幅広部28をサイプ20,20A〜Cの長さ方向Gにおける中央部に設けたが、必ずしも中央部でなくてもよく、両端部のいずれかに寄せて設けてもよい。また、第2幅広部28はサイプ長さ方向Gに1箇所設ける場合には限定されず、2箇所以上に設けてもよい。また、第1幅広部22及び第2幅広部28は、サイプ深さ方向Hの中間位置に設ける場合には限定されず、サイプの底部に設けてもよい。なお、上記サイプによる気柱管共鳴音の低減効果は、両側がリブに挟まれた周方向溝において、より効果的に奏される。そのため、上記サイプは、両側がリブに挟まれた周方向溝に対して、少なくとも一端が開口するように設けられることが好ましい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0043】
実施例1として図1〜5に示す第1実施形態のトレッドパターンを持つ空気入りラジアルタイヤ(タイヤサイズ=195/65R15)を試作した。実施例1では、リブ14の幅L=30mmに対し、サイプ深さh0=7mm、トレッド表面11から第1及び第2幅広部22,28までの間隔h1=3mm、サイプ下端26から第1及び第2幅広部22,28までの間隔h2=2mm、第1及び第2幅広部22,28の高さh3=2mm、幅狭部21の溝幅w0=0.6mm、第1幅広部22の溝幅w1=1.0mm、第2幅広部28での溝幅w2=1.4mm、第2幅広部28の長さg1=10mmとした。また、サイプの傾斜角度θ=10°とした。
【0044】
また、比較例1として、図10,11に示すトレッドパターンを持つものと、比較例2として、図12に示すトレッドパターンを持つものと、比較例3として、実施例1から第2幅広部28を除いた構成を持つものとついて、それぞれ空気入りラジアルタイヤを試作した。これら比較例は、実施例1に対してリブ14内に設けたサイプ100,102又はヘルムホルツ共鳴器110のみ異なるものである。比較例1は、サイプ100が長さ方向及び深さ方向に一定の溝幅を持ち、両側の周方向溝12に開口したオープンサイプの例であって、溝幅=1.0mmとした。比較例2は、上記第1特許文献に対応する例であって、トレッド表面に対向する気室112と、該気室112を周方向溝12に連通させる狭窄ネック114とからなるヘルムホルツ共鳴器110を、リブ14に設けた例である。L1=18mm、L2=6mm、気室112の深さ7mm、狭窄ネック114の長さ6mm・幅1mm・深さ2mmとした。
【0045】
各空気入りラジアルタイヤをリム(サイズ:15×6)に装着し、空気圧を210kPaとして、ノイズ性能とドライ制動性を評価した。評価方法は以下の通りである。
【0046】
・ノイズ性能:ノイズレベルは、JASO―C606に準拠した台上試験(速度:80km/h)で、1/3オクターブバンドの1kHzの気柱管共鳴音レベルを測定したものであり、比較例1に対するデシベル値の差(dB)で表示した。
【0047】
・ドライ制動性:1.8LのFF車に4輪装着し、ドライ路面上で走行速度100km/hからフル制動した場合の制動開始から完全停止までの移動距離を測定し、移動距離の逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、移動距離(制動距離)が短く、ドライ制動性に優れることを示す。
【0048】
結果は、表1に示す通りであり、比較例2では、気柱管共鳴音の低減効果は不十分であり、また、接地性の低下によりドライ制動性が低下していた。比較例3でも、気柱管共鳴音の低減効果は不十分であった。これに対し、実施例1では、ドライ制動性を低下させることなく、むしろ向上させながら、気柱管共鳴音を大幅に低減させることができた。
【表1】
【符号の説明】
【0049】
10…トレッド部 11…トレッド表面 12…周方向溝
14…リブ 20,20A〜C…サイプ 22…第1幅広部
24…凹部 26…サイプ下端 28…第2幅広部
30…凹部 B…タイヤ幅方向 G…サイプ長さ方向 H…サイプ深さ方向 W…サイプ幅方向 θ…傾斜角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向溝に挟まれた陸部をトレッド部に備え、前記陸部に当該陸部を横断し両端が前記周方向溝に開口したサイプが設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記サイプは、タイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延びており、トレッド表面からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置でサイプ長さ方向に延びて両端が前記周方向溝に開口する第1幅広部を備えるとともに、前記第1幅広部の一方の開口端から他方の開口端に至る途中の位置に前記第1幅広部よりも幅広に形成された第2幅広部を備えた
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイプは、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が10°〜45°の範囲内に設定されたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1幅広部は、前記サイプの下端からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置に設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1幅広部及び第2幅広部は、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた凹部により形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記凹部が、サイプ深さ方向においてずれた位置に配置されたことを特徴とする請求項4記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第2幅広部は、前記第1幅広部よりもサイプ深さ方向における寸法が大きく形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項1】
周方向溝に挟まれた陸部をトレッド部に備え、前記陸部に当該陸部を横断し両端が前記周方向溝に開口したサイプが設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記サイプは、タイヤ幅方向に対して傾斜した方向に延びており、トレッド表面からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置でサイプ長さ方向に延びて両端が前記周方向溝に開口する第1幅広部を備えるとともに、前記第1幅広部の一方の開口端から他方の開口端に至る途中の位置に前記第1幅広部よりも幅広に形成された第2幅広部を備えた
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイプは、タイヤ幅方向に対する傾斜角度が10°〜45°の範囲内に設定されたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1幅広部は、前記サイプの下端からサイプ深さ方向に間隔をおいた位置に設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1幅広部及び第2幅広部は、前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた凹部により形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプの幅方向両側の壁面に設けられた前記凹部が、サイプ深さ方向においてずれた位置に配置されたことを特徴とする請求項4記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第2幅広部は、前記第1幅広部よりもサイプ深さ方向における寸法が大きく形成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−107501(P2013−107501A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254084(P2011−254084)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
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