説明

空気入りタイヤ

【課題】スノー性能とドライ性能とを両立した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ周方向Aに沿って延びる主溝11a、11b、11c、11dと、主溝11a、11b、11c、11dの両側に形成された陸部12a、12b、12c、12d、12eとをトレッド部10に備える空気入りタイヤにおいて、主溝11bを挟んだ両側の陸部12b,12cに、主溝11bに開口するサイプ20がタイヤ周方向Aに間隔をあけて複数設けられてなるサイプ群22を設け、このサイプ群22が、タイヤ周方向Aに間隔をあけて設けられ、主溝11bの両側でタイヤ周方向Aにずらして配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、特には、トレッド部の陸部にサイプを形成した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤのトレッド部に設けられたブロックやリブ等の陸部には、サイプと呼ばれる切込みが設けられることがあり、このサイプによるエッジ効果や除水効果によって、氷雪路面等での走行性能・制動性能(以下、スノー性能という)を高めている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−264614号公報
【特許文献2】特開2003−63213号公報
【特許文献3】特開2009−286276号公報
【特許文献4】特開平5−112107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、下記特許文献1〜4の空気入りタイヤでは、陸部に設けられたサイプが溝に沿ってほぼ等間隔で配置され、溝を挟んだ両側の陸部にサイプがほぼ均等に配置されており、溝の両側壁の剛性がほぼ等しい。そのため、一方の側壁に設けられたサイプが、溝に開口する部分(サイプエッジ)において溝に嵌った氷雪を捉えても、その捉えた氷雪を他方の側壁でしっかりと保持することができず、充分な引っ掻き効果(エッジ効果)が得られず、スノー性能において更に改良の余地がある。
【0005】
また、サイプの本数を増やしてサイプ密度を高めていくと、氷雪を捉える箇所が増えエッジ効果は増えるものの、陸部全体の剛性が低下することになり、ドライ路面での走行性能・制動性能(以下、ドライ性能という)が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明は上記の点を考慮してなされたものであり、スノー性能とドライ性能とを両立した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、タイヤ周方向に沿って延びる主溝と、前記主溝の両側に形成された陸部とをトレッド部に備える空気入りタイヤにおいて、前記主溝を挟んだ両側の陸部には、前記主溝に開口するサイプがタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられてなるサイプ群が設けられ、前記サイプ群は、タイヤ周方向に間隔をあけて設けられ、前記主溝の両側でタイヤ周方向にずらして配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主溝に開口するサイプをタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けてなるサイプ群が、主溝の両側でタイヤ周方向にずらして配置されており、一方の側壁においてサイプ群が設けられた位置と主溝を挟んで対向する他方の側壁にサイプ群が存在しないため、サイプ群を構成するサイプのエッジにおいて捉えた氷雪を対向する溝の側壁との間でしっかりと保持することができ、エッジ効果を高めてスノー性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドパターンの展開平面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】他の実施形態に係る空気入りタイヤのサイプ群を示す平面図である。
【図5】比較例に係る空気入りタイヤのサイプ群を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
本実施形態に係る空気入りタイヤは、図示を省略したが、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部の径方向外側端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部10とを備えて構成されている。この空気入りタイヤは一対のビード部間にまたがって延びるカーカスを備える。
【0011】
カーカスは、トレッド部10からサイドウォール部を経て、ビード部に埋設されたビードコアにて両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなり、上記した各部を補強する。
【0012】
トレッド部10におけるカーカスの外周側には、2層以上のゴム被覆されたスチールコート層からなるベルトが設けられており、カーカスの外周でトレッド部10を補強する。
【0013】
トレッド部10の表面には、図1に示すように、タイヤ周方向Aに沿って延びる4本の主溝11a,11b,11c,11dと、これらの主溝11a,11b,11c,11dによって区画された5つの陸部12a,12b,12c,12d,12eとが形成されている。
【0014】
具体的には、最外側に位置する主溝11a、11dのタイヤ幅方向外側に位置するショルダー陸部12a、12eと、主溝11b、11cに挟まれタイヤ幅方向のほぼ中央に位置するセンター陸部12cと、センター陸部12cとショルダー陸部12a、12eの間に位置するメディエイト陸部12b,12dとが、トレッド部10に形成されている。
【0015】
センター陸部12cは、タイヤ周方向Aに連続して延びるリブから構成され、他の陸部12a,12b,12d,12eは、横溝13によって区画されたブロックがタイヤ周方向Aに多数並べたブロック列から構成されている。
【0016】
主溝11bを挟んで対向するセンター陸部12cと一方のメディエイト陸部12bには、複数のサイプ20からなるサイプ群22が形成されている。
【0017】
図1及び図2に示すように、サイプ群22は、タイヤ周方向Aに交差する方向に延びて主溝11bに開口する複数のサイプ20から構成されている。本実施形態では、サイプ群22を5つのサイプ20から構成したが、複数であれば特に限定するものではないが、3つ以上のサイプ20から構成することが好ましい。
【0018】
センター陸部12cに設けられたサイプ群22を構成する複数のサイプ20は、タイヤ周方向Aに間隔Dをあけて設けられ、トレッド表面23に開口する長さ(以下、サイプ長さ、という)がタイヤ周方向一方A1へ行くほど順次長くなるように設けられている。サイプ20は、この例では、主溝11bの側壁11b−1から主溝11bに対して傾斜する方向に延びているが、タイヤ幅方向Bに平行に延びるものでもよい。サイプ20は、図3に示すように、トレッド表面23から主溝11bの深さ方向へ延びており、主溝11bの溝底11b−2に設けられたサイプ24に繋がっている。
【0019】
図2及び図3に基づいてサイプ群22を構成する複数のサイプ20の各種寸法の一例を挙げると、サイプ幅Wが0.3〜1.5mm、サイプ長さLが3mm以上、サイプ20の深さHが0.5mm以上で主溝11bの深さの90%以内、タイヤ周方向Aに隣り合うサイプ20の間隔Dが1〜8mm、サイプ20の主溝11bに対する傾斜角度θが10〜90°とすることができ、本実施形態のように、サイプ群22の中でサイプ長さLが異なる場合は、最も短いサイプ長さLが3mm以上で、最も長いサイプ長さLが最も短いサイプの1.2倍以上の長さとすることができる。
【0020】
センター陸部12cと主溝11bを挟んで隣り合うメディエイト陸部12bにも、センター陸部12cと同様、上記のようなサイプ群22が、タイヤ周方向Aに間隔をあけてトレッド部10の全周にわたって設けられている。
【0021】
メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22は、センター陸部12cに設けられたサイプ群22に対してタイヤ周方向Aにずらして配置されており、センター陸部12cに設けられたサイプ群22を構成するサイプ20において主溝11bに開口する部分(サイプエッジ)20aと、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22を構成するサイプ20のサイプエッジ20aとが、タイヤ幅方向Bに対向していない。
【0022】
つまり、センター陸部12cに設けられたサイプ群22のサイプエッジ20aと主溝11bを挟んでタイヤ幅方向Bに対向する位置に、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22のサイプエッジ20aが存在せず、また、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22のサイプエッジ20aと主溝11bを挟んでタイヤ幅方向Bに対向する位置に、センター陸部12cに設けられたサイプ群22のサイプエッジ20aが存在していない。
【0023】
また、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22は、図1に示すようなトレッドパターンを展開平面図で表したときに、その展開平面内でセンター陸部12cに設けられたサイプ群22を180°回転させた形状に一致するように設けられている。すなわち、センター陸部12cに設けられたサイプ20の傾斜方向が、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ20の傾斜方向と同じ方向を向いており、かつ、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22を構成するサイプ20のトレッド表面23に開口する長さLが、タイヤ周方向他方A2へ行くほど順次長くなるように設けられている。
【0024】
以上のような空気入りタイヤでは、主溝11bを挟んだ両側のセンター陸部12cとメディエイト陸部12bに設けたサイプ群22がタイヤ周方向Aにずらして配置され、センター陸部12cに設けられたサイプ群22のサイプエッジ20aと、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ群22のサイプエッジ20aとが、タイヤ幅方向Bに対向していない。そのため、サイプ群22を構成するサイプ20がトレッド表面23に開口していることによるエッジ効果の向上に加え、センター陸部12cに設けられたサイプエッジ20aやメディエイト陸部12bに設けられたサイプエッジ20aにおいて、主溝11bに嵌った氷雪を引っ掻いて捉え、サイプエッジ20aで捉えた氷雪を、サイプエッジ20aが存在せず比較的剛性の高い主溝11bの側壁11b−1でしっかりと保持することができる。その結果、サイプ20の本数を増やすことなくエッジ効果を高めることができ、ドライ性能を確保しつつスノー性能を向上することができる。
【0025】
しかも、本実施形態では、サイプ20が主溝11bに対して傾斜しているため、主溝11bに嵌った氷雪を引っ掻きやすくなり、より一層、エッジ効果を高めてスノー性能を向上することができる。
【0026】
また、本実施形態のように、センター陸部12cに設けられたサイプ20の傾斜方向が、メディエイト陸部12bに設けられたサイプ20の傾斜方向と同じ方向をむけることにより、タイヤ装着方向を入れ替えてもタイヤ回転方向に対するサイプ20の傾斜角度を一定にすることができ、タイヤが回転する向きが定まっていない非方向性タイヤにも本発明を適用することができる。
【0027】
また、本実施形態では、サイプ群22を構成する複数のサイプ20のサイプ長さLがタイヤ周方向一方A1へ行くほど順次長くなるように設けられているため、陸部12b,12cにおけるサイプ群22が形成された領域内で、短いサイプ20から長いサイプ20にかけて剛性が漸次低くなるような剛性差をつけることができる。これにより、本実施形態では、サイプエッジ20aにおいて捉えた氷雪が、剛性の低い領域(つまり、長いサイプ20が形成された領域)へ送り出され、陸部12b,12cが接地面から離れる際に主溝11bから排出されやすくなる。
【0028】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では、サイプ20の深さHがサイプ群22を構成する複数のサイプ20で同じであったが、この実施形態では、サイプ群22を構成する複数のサイプ20の深さHが異なっており、深さHの大きいサイプ20と、深さHの小さいサイプ20とが交互に設けられている。その他の構成は第1実施形態と同様であり、同様の作用効果が奏される。
【0029】
(その他の実施形態)
上記の実施形態において、サイプ群22を構成する複数のサイプ20を主溝11bに対して傾斜させて設けたり、タイヤ周方向Aに向けてサイプ長さLが順次長くなるように設けたが、サイプ20のサイプ長さLを全て同じ長さに設けたり、あるいは、主溝11bに対して垂直に設けてもよい。
【0030】
また、上記した実施形態では、主溝11bを挟んだ両側のセンター陸部12cとメディエイト陸部12bとにサイプ群22を設ける場合について説明したが、他の主溝11a,11c,11dを挟んだ両側の陸部にサイプ群22をタイヤ周方向Aにずらして設けてもよい。
【0031】
また、上記した実施形態の空気入りタイヤは、スノー性能に優れるため、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤや、オールシーズンタイヤなどに好適であるが、いわゆる夏用タイヤに適用してもよい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0033】
(1)スノー性能
テストタイヤ(サイズ:225/40R18)を実車(国産3000ccクラスのFRセダン)に装着し、1名乗車の荷重条件にて、雪上路面を走行させ、直進走行、旋回走行、制動などを実施し、操縦安定性能、コーナリング性能及び制動性能についてドライバーの官能試験により評価した。比較例1の結果を100として指数評価し、指数が大きいほどスノー性能に優れていることを示す。
【0034】
(2)排雪性能
排雪性能の評価は、駆動軸に装着されたタイヤの車両前方側にCCDカメラを配置し、接地直前のトレッドパターンに付着した雪の面積割合を計測した。比較例1の結果を100として指数評価し、指数が大きいほど排雪性能に優れていることを示す。
【0035】
実施例1として図1に示すトレッドパターンを持つ空気入りタイヤを製造し、実施例2〜4として図4(a)〜(c)に示すトレッドパターンを持つ空気入りタイヤを製造し、比較例として図5に示すトレッドパターンを持つ空気入りタイヤを製造した。実施例1〜4及び比較例の空気入りタイヤに設けたサイプ群の各種寸法を表1に示す。
【0036】
実施例1〜4及び比較例の空気入りタイヤについて上記の各性能評価を行い、その結果を表1に示す。
【表1】

【0037】
表1の結果から、実施例1〜4の空気入りタイヤは、比較例の空気入りタイヤに比べて、スノー性能が向上していることがわかる。また、実施例1は比較例に比べてスノー性能に加え排雪性能も向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0038】
10…トレッド部
11a、11b、11c、11d…主溝
12a…ショルダー陸部
12b、12d…メディエイト陸部
12c…センター陸部
12e…ショルダー陸部
13…横溝
20…サイプ
20a…サイプエッジ
22…サイプ群
23…トレッド表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に沿って延びる主溝と、前記主溝の両側に形成された陸部とをトレッド部に備える空気入りタイヤにおいて、
前記主溝を挟んだ両側の陸部には、前記主溝に開口するサイプがタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられてなるサイプ群が設けられ、
前記サイプ群は、タイヤ周方向に間隔をあけて設けられ、前記主溝の両側でタイヤ周方向にずらして配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイプが前記主溝に対して傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記主溝の一方側の陸部に設けられた前記サイプの傾斜方向が、前記主溝の他方側の陸部に設けられた前記サイプの傾斜方向と同じ方向を向いていることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記サイプ群を構成する前記複数のサイプは、タイヤ周方向一方へ行くほど順次長く設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイプは、トレッド表面に開口していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67353(P2013−67353A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209282(P2011−209282)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)