説明

空気入りタイヤ

【課題】主として転がり抵抗を低減するとともに、ノイズを低減させた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤのトレッドゴム5は、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部50と、キャップ部50のタイヤ径方向RD内側に設けられるベース部51と、キャップ部50のタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部の双方に設けられ、接地面を被覆する位置を避けつつキャップ部50の内部を通りタイヤ子午線断面において接地面とキャップ部50の底面50bとを接続する形状をなす導電部52とを備えており、導電部52は、接地面とキャップ部50の底面50bとを接続する導電経路52aから枝分かれしてタイヤ幅方向WD外側に延びる延在部位52bを有する。導電部52は、キャップ部50を形成する非導電性ゴムとは異なるゴム硬度の導電性ゴムで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体やタイヤに生じた静電気を路面に放出可能な空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費性能と関係が深いタイヤの転がり抵抗の低減を目的として、トレッドゴムなどのゴム部材を、シリカを高比率で配合した非導電性ゴムで形成した空気入りタイヤが提案されている。ところが、かかるゴム部材は、カーボンブラックを高比率で配合した従来品に比べて電気抵抗が高く、車体やタイヤで発生した静電気の路面への放出を阻害するため、ラジオノイズなどの不具合を生じやすいという問題がある。
【0003】
そこで、トレッドゴムを非導電性ゴムで形成しつつ、カーボンブラック等を配合した導電性ゴムを設けて、通電性能を発揮できるようにした空気入りタイヤが開発されている。例えば特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、非導電性ゴムで形成されたトレッドゴムのタイヤ幅方向両側にある対をなす側端部位を導電性ゴムで被覆することにより、静電気を放出するための導電経路を、トレッドゴムの接地面からトレッド端に亘る部位まで構成したタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−30212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような構成のタイヤでは、非導電性ゴムに比べて摩耗しやすい導電性ゴムが接地端付近の接地面を被覆して表面に露出する状態であるので、トレッド部の赤道部位(中央部位)に比べて接地端付近が摩耗しやすくなり、肩落ちといった偏摩耗を招来しやすくなる。しかも、この場合、摩耗を考慮すれば導電性ゴムのボリュームを増やさなければならず、転がり抵抗が悪化してしまう。また、接地端付近の表面には、耐クラック性に優れたゴムを配置するのが好ましいところ、上記構成では、導電経路を確保するために、耐クラック性に乏しい導電性ゴムを配置することになるので、耐クラック性を悪化させてしまう。
【0006】
さらに、タイヤには、快適な乗り心地を提供するために、走行時に生じるノイズを低減することが望まれる。このノイズはタイヤのトレッド部の剛性に影響を受けるため、かかる部位の剛性を容易に調整可能であることが好ましい。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、主として転がり抵抗を低減するとともに、トレッド部の剛性を容易に調整可能にして、ノイズを低減させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。すなわち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部と、各々の前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、各々の前記サイドウォール部のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、前記一対のビード部同士の間に設けられたトロイド状のカーカス層と、前記サイドウォール部において前記カーカス層の外側に設けられたサイドウォールゴムと、前記トレッド部において前記カーカス層の外側に設けられたトレッドゴムとを備える空気入りタイヤであって、前記トレッドゴムは、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部と、前記キャップ部のタイヤ径方向内側に設けられるベース部と、前記キャップ部のタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられ、前記接地面を被覆する位置を避けつつ前記キャップ部の内部を通りタイヤ子午線断面において前記接地面と前記キャップ部の側端面又は底面とを接続する形状をなす導電部とを備えており、前記導電部は、前記接地面と前記キャップ部の側端面又は底面とを接続する導電経路から枝分かれしてタイヤ幅方向外側に延びる延在部位を有し、前記キャップ部を形成する非導電性ゴムとは異なるゴム硬度の導電性ゴムで形成されていることを特徴とする。
【0009】
このように、タイヤ子午線断面において、接地面とキャップ部の側端面又は底面とを接続する形状をなす導電経路となる導電部が、接地面を被覆する位置を避けてキャップ部の内部を通っているので、非導電性ゴムに比べて摩耗しやすい導電性ゴムが接地面として表面に露出するのを抑制でき、肩落ちといった偏摩耗を抑制することが可能となる。しかも、耐クラック性に乏しい導電性ゴムを表面から退避させた構成であるので、耐クラック性能についても向上させることが可能となる。それでいて、導電性能を確保しつつ導電性ゴムのボリュームを抑制するので、転がり性能を向上させることも可能となる。
【0010】
例えば、キャップ部の硬度よりも高い硬度の導電性ゴムによりキャップ部の側端部位がタイヤ外側と内側とに区画されると、区画されていない場合に比べて当該側端部位の剛性が高まり、断面高次が抑制され、主として高周波数領域のノイズが低減される。一方で、キャップ部の硬度よりも低い硬度の導電性ゴムによりキャップ部の側端部位がタイヤ外側と内側とに区画されると、区画されていない場合に比べて当該側端部位の剛性が低くなり、一次固有値が下がり、主として低周波数領域のノイズが低減される。本発明は、これを利用して、タイヤ幅方向外側に延びる延在部位を有する導電部を設けることで、キャップ部の側端部位がタイヤ内外に区画される。したがって、このような導電部を設けるだけで、キャップ部の側端部位の剛性を導電部がない場合に比べて変化させて所望の剛性に設定することができ、適切な剛性設定を通じてノイズを低減させることが可能となる。
【0011】
また、本発明の他の態様として、一対のビード部と、各々の前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、各々の前記サイドウォール部のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、前記一対のビード部同士の間に設けられたトロイド状のカーカス層と、前記サイドウォール部において前記カーカス層の外側に設けられたサイドウォールゴムと、前記トレッド部において前記カーカス層の外側に設けられたトレッドゴムとを備える空気入りタイヤであって、前記トレッドゴムは、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部と、前記キャップ部のタイヤ径方向内側に設けられるベース部と、前記キャップ部のタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられ、前記接地面を被覆する位置を避けつつ前記キャップ部の内部を通り前記接地面と前記キャップ部の側端面又は底面とを接続する導電部とを備えており、前記導電部は、前記キャップ部を形成する非導電性ゴムとは異なるゴム硬度の帯状の導電性ゴムを、前記キャップ部の側端面又は底面から前記接地面に露出する位置までタイヤ軸を中心として螺旋状に周回配置したもので、タイヤ子午線断面において、前記キャップ部を形成する非導電性ゴムによって、前記接地面に露出する部位と前記キャップ部の側端面又は底面に達する部位とが分断されていることを特徴とする空気入りタイヤが挙げられる。このような構成でも上記と同様の効果を得ること可能となる。
【0012】
タイヤ幅方向(横方向)のユニフォミティを向上させるためには、前記導電部は、タイヤ幅方向一方側とタイヤ幅方向他方側とにそれぞれ設けられていることが好ましい。この構成によれば、導電性ゴムがタイヤ幅方向にバランスよく配置されるので、タイヤ横方向のユニフォミティを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図。
【図2】加流成形前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る加流成形前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
【図4】本発明の上記以外の実施形態に係る加流成形前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
【図5】図4に示すトレッドゴムの製造方法に関する模式的な説明図。
【図6】本発明の上記以外の実施形態に係る加流成形前のトレッドゴムを模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向RD外側に延びるサイドウォール部2と、両サイドウォール部2のタイヤ径方向RD外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配設されている。
【0016】
また、このタイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカス層4を備える。カーカス層4は、一対のビード部同士1の間に設けられ、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカスプライは、タイヤ赤道CLに対して略直角に延びるコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。カーカス層4の内側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム4aが配置されている。
【0017】
さらに、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側には、サイドウォールゴム6が設けられている。また、ビード部1におけるカーカス層4の外側には、リム装着時にリム(図示しない)と接するリムストリップゴム7が設けられている。本実施形態では、カーカス層4のトッピングゴム及びリムストリップゴム7が導電性ゴムで形成されており、サイドウォールゴム6は非導電性ゴムで形成されている。
【0018】
トレッド部3におけるカーカス層4の外側には、カーカス層4を補強するためのベルト4bと、ベルト補強材4cと、トレッドゴム5とが内側から外側に向けて順に設けられている。ベルト4bは、複数枚のベルトプライにより構成されている。ベルト補強材4bは、タイヤ周方向に延びるコードをトッピングゴムで被覆して構成されている。ベルト補強材4bは、必要に応じて省略しても構わない。
【0019】
図1及び図2に示すように、トレッドゴム5は、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部50と、非導電性ゴムで形成され且つキャップ部50のタイヤ径方向内側に設けられるベース部51と、導電性ゴムで形成され且つ接地面からキャップ部50の側方底面50bに至る導電部52とを有する。トレッドゴム5の表面には、タイヤ周方向に沿って延びる複数本の主溝5aが形成されている。なお、本実施形態では、ベース部51は非導電性ゴムで形成されているが、導電性ゴムで形成してもよい。
【0020】
上記において接地面は、正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地する面であり、そのタイヤ幅方向WDの最外位置が接地端Eとなる。なお、正規荷重及び正規内圧とは、JISD4202(自動車タイヤの所元)等に規定されている最大荷重(乗用車用タイヤの場合は設計常用荷重)及びこれに見合った空気圧とし、正規リムとは、原則としてJISD4202等に定められている標準リムとする。
【0021】
本実施形態では、トレッドゴム5の両側端部にサイドウォールゴム6を載せてなるサイドオントレッド構造を採用しているが、この構造に限られるものではなく、トレッドゴムの両側端部をサイドウォールゴムのタイヤ径方向RD外側端に載せてなるトレッドオンサイド構造を採用することも可能である。
【0022】
ここで、導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm未満を示すゴムが例示され、例えば原料ゴムに補強剤としてカーボンブラックを高比率で配合することにより作製される。カーボンブラック以外にも、カーボンファイバーや、グラファイト等のカーボン系、及び金属粉、金属酸化物、金属フレーク、金属繊維等の金属系の公知の導電性付与材を配合することでも得られる。
【0023】
また、非導電性ゴムは、体積抵抗率が10Ω・cm以上を示すゴムが例示され、原料ゴムに補強剤としてシリカを高比率で配合したものが例示される。該シリカは、例えば原料ゴム成分100重量部に対して30〜100重量部で配合される。シリカとしては、湿式シリカを好ましく用いるが、補強材として汎用されているものは制限なく使用できる。非導電性ゴムは、沈降シリカや無水ケイ酸などのシリカ類以外にも、焼成クレーやハードクレー、炭酸カルシウムなどを配合して作製してもよい。
【0024】
上記の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。かかる原料ゴムには、加硫剤や加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等も適宜に配合される。
【0025】
導電部52を形成する導電性ゴムは、耐久性を高めて通電性能を向上する観点から、窒素吸着非表面積:NSA(m/g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1900以上、好ましくは2000以上であって、且つ、ジブチルフタレート吸油量:DBP(ml/100g)×カーボンブラックの配合量(質量%)が1500以上、好ましくは1700以上を満たす配合であることが望ましい。NSAはASTM D3037−89に、DBPはASTM D2414−90に準拠して求められる。
【0026】
図2は、加流成形前のトレッドゴム5を模式的に示している。図1及び図2に示すように、導電部52は、キャップ部50のタイヤ幅方向両側にある対をなす側端部の双方に設けられ、接地面を被覆する位置を避けつつキャップ部50の内部を通りタイヤ子午線断面において接地面とキャップ部50の側方底面50bとを接続する形状をなしている。具体的に、導電部52は、タイヤ径方向に延びて接地面とキャップ部の側方底面50bとを接続する導電経路52aと、導電経路52aから枝分かれしてタイヤ幅方向外側に延びる延在部位52bとを有する。導電部52は、タイヤ幅方向一方側と他方側とにそれぞれ設けられてタイヤ赤道CLを挟んで左右に対をなしている。勿論、タイヤの横方向のユニフォミティを向上させるためには、タイヤ幅方向一方側にある導電部52と、タイヤ幅方向他方側にある導電部52とが、タイヤ赤道CLを中心に対称となる位置関係に設定されていることが好ましい。
【0027】
図2に示すように、導電部52を構成する導電経路52aは、タイヤ周方向に直交する横断面(タイヤ子午線断面とも呼ぶ)において、接地端Eよりもタイヤ幅方向WD内側の接地面から接地端Eの下方領域を通り、キャップ部50の側端面50aに達している。導電性ゴムのボリュームを低減して転がり性能を向上させる観点から、導電経路52aのタイヤ径方向外側端が接地面に露出する部位P1は、接地端Eから30mm以内、より好ましくは15mm以内にあることが望ましい。さらに、当該露出部位P1よりもタイヤ幅方向外側に導電部52が配置されていることが望ましい。さらに転がり抵抗を改善するためには、導電経路52aよりもタイヤ幅方向WD内側には、導電性ゴムが配置されず非導電性ゴムのみが配置されていることが好ましい。
【0028】
延在部位52bは、タイヤ径方向RDに沿って複数設けられており、導電経路52aから分岐してタイヤ幅方向WD外側にあるキャップ部50の側端面50aに達している。延在部位52bの先端がキャップ部50の側端面50aにおいてサイドウォールゴム6に接触しているとも言える。
【0029】
導電部52は、キャップ部50のゴム硬度とは異なる硬度の導電性ゴムで形成されている。例えば、キャップ部50のゴム硬度よりも導電部52のゴム硬度を高くすれば、トレッド部3の側端部位の剛性がトレッド部3の中央部位に対して相対的に上がるため、一次固有値が高くなるものの断面高次が抑制され、主として高周波数領域(例えば250〜500Hz)のノイズ(振動)が低減する。逆に、トレッド部3のゴム硬度よりも導電部52のゴム硬度を低くすれば、トレッド部3の側端部位の剛性がトレッド部の中央部位に対して相対的に下がるため、一次固有値が下がり、主として低周波数領域(例えば80〜160Hz)のノイズが低減する。このような効果を得るためには、キャップ部50と導電部52とのゴム硬度差を、1°以上に設定すればよく、より効果的には、3°以上の硬度差があることが好ましい。ここでいうゴム硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて測定した硬度を意味する。
【0030】
したがって、本実施形態では、このような導電部52を配置するだけで、トレッド部3の側端部位の剛性を、導電部52の無い場合に比べて変化させて所望の剛性に設定することができ、適切な剛性設定を通じて低周波数領域又は高周波数領域のノイズを低減することを可能としている。
【0031】
また、接地面からキャップ部50の側方底面50bに至り導電経路となる導電部52が、接地面を被覆する位置を避けてキャップ部50の内部を通っているので、非導電性ゴムに比べて摩耗しやすい導電性ゴムが接地面として表面に露出するのを抑制でき、肩落ちといった偏摩耗を抑制することができる。しかも、耐クラック性に乏しい導電性ゴムを表面から退避させた構成であるので、耐クラック性能についても向上させることが可能となる。
【0032】
さらに、本実施形態では、導電部52は、タイヤ幅方向WD一方側とタイヤ幅方向WD他方側とにそれぞれ設けられているので、導電性ゴムがタイヤ幅方向WD両側にバランスよく配置されて、タイヤの幅方向(横方向)のユニフォミティを向上させることが可能となる。
【0033】
[他の実施形態]
(1)本実施形態では、カーカス層4のトッピングゴム及びリムストリップゴム7が導電性ゴムで形成され、サイドウォールゴム6が非導電性ゴムで形成されているが、トレッド部の接地面とリムストリップゴムにおけるリム接触部位との間に導電経路が構成されていれば、カーカスのトッピングゴム、リムストリップゴム及びサイドウォールゴムは、非導電性ゴムで形成されていてもよいし、導電性ゴムで形成されていてもよい。その組み合わせは適宜変更可能である。
【0034】
(2)さらに、導電経路52aは、接地面からキャップ部50の側方底面50bに至るように配置されているが、接地面からキャップ部50の下方側端面50aに至るように配置してもよい。また、本実施形態では、キャップ部50は非導電性ゴムで形成されているが、導電性ゴムで形成されていてもよい。
【0035】
(3)さらにまた、本実施形態では、キャップ部50のタイヤ幅方向WD両側にある対をなす側端部の双方に導電部52を設けているが、いずれか一方の側端部にのみ導電部を設けてもよい。この場合、タイヤを車体に取り付ける際のキャンバに応じて接地しやすい方に設けると良い。一般的には、車体への取り付け状態で車体の内側に位置する側端部に導電部を設けるのが好ましい。
【0036】
(4)さらにまた、本実施形態では、図1及び図2に示すように、延在部位52bは、キャップ部50の側端面50aに達しているが、図3に示すように、延在部位52bの先端P1は、キャップ部50の側端面50aに到達せずにキャップ部50の内部で終端していてもよい。この場合、上記ノイズ低減の効果を発揮するためには、延在部位52bの先端P2と側端面50aとの間の距離W1は、15mm以下、より好ましくは5mm以下であることが好ましい。
【0037】
(5)さらに、本実施形態では、導電部52は、タイヤ子午線断面において接地面とキャップ部50の底面50bとを接続する形状をなしているが、図4に示す形状であってもよい。すなわち、図4に示すように、導電部152は、接地面を被覆する位置を避けつつキャップ部150の内部を通り接地面とキャップ部150の側端面150aとを接続するものであり、キャップ部150を形成する非導電性ゴムとは異なるゴム硬度の帯状の導電性ゴムを、キャップ部150の側端面150aから接地面に露出する位置までタイヤ軸を中心として螺旋状に周回配置したもので、タイヤ子午線断面において、キャップ部150を形成する非導電性ゴムによって、接地面に露出する部位P2とキャップ部150の側端面150aに達する部位P3とが分断されている。ここでは、サイドウォールゴム6が導電性ゴムの場合を例として挙げているが、サイドウォールゴムが非導電性ゴムの場合には、導電部は、キャップ部の底面から接地面に露出する位置まで螺旋状に周回配置されて形成されたものでもよい。
【0038】
このようなキャップ部150及び導電部152は、次のように製造される。ゴム押し出し機を二台用いた2ショットで、図5に示すように、一方の押し出し機は、非導電性ゴムG1のみからなる第一のリボンRb1を押し出し、他方の押し出し機は、図5に示すように、帯状の非導電性ゴムG2及び当該非導電性ゴムG2の片面を被覆した導電性ゴムG3の第二のリボンRb2を押し出すデュアル押し出し機である。そして、第一のリボンRb1と第二のリボンRb2とを交互に巻き付けることで、非導電性ゴムG1・G2により上記キャップ部150が形成され、導電性ゴムG3により導電部152が形成されている。このような製法によれば、上記導電部152を簡易に形成することが可能となる。
【0039】
このように構成しても、上記本実施形態と同様の効果を奏する。また、帯状の導電性ゴムは、タイヤ幅方向に長さを有するので、キャップ部150とは異なるゴム硬度の導電性ゴムでタイヤ側端部位の一部がタイヤ外内に区画されることになる。したがって、上記本実施形態と同様に、このような導電部を設けるだけで、キャップ部の側端部位の剛性を導電部がない場合に比べて変化させて所望の剛性に設定することができ、適切な剛性設定を通じてノイズを低減させることが可能となる。さらに、導電部152は、タイヤ子午線断面において、キャップ部150を形成する非導電性ゴムによって、接地面に露出する部位P2とキャップ部150の側端面150aに達する部位P3とが分断されているので、導電性ゴムのボリュームが抑制され、さらなる転がり性能を追求することも可能となる。
【0040】
(6)その他、上記実施形態では、図1〜図4に示すように、導電部52、152のうち接地面に露出する部位P1・P2が一箇所であるが、図6(a)〜(c)に示すように導電部52、152が接地面の複数箇所に露出してもよい。図6(a)及び図6(b)に関して言えば、接地端Eよりもタイヤ幅方向WD内側に一本以上の延在部位52bが配置されているとも言える。このような構成によれば、上記実施形態に比べて製造が容易となる。なお、図6(a)は、図2に対応する変形例であり、図6(b)は、図3に対応する変形例であり、図6(c)は、図4に対応する変形例である。
【実施例】
【0041】
本発明の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0042】
(1)通電性能(電気抵抗値)
リムに装着したタイヤに所定の荷重を負荷し、リムを支持する軸からタイヤが接地する金属板に印可電圧(500V)をかけて電気抵抗値を測定した。
【0043】
(2)ゴム硬度
ゴム組成物を150℃で30分間加硫し、23℃における加硫ゴムのゴム硬度をJISK6253に準拠して測定した。
【0044】
(3)転がり抵抗
転がり抵抗試験機により転がり抵抗を測定して評価した。比較例1の結果を100として評価し、数値が大きいほど転がり抵抗に優れていることを示す。
【0045】
(4)ユニフォミティ
JISD4233に規定する試験方法に基づき、LFV(ラテラルフォースバリエーション)を測定し、タイヤのユニフォミティを評価した。具体的には、空気圧200kPaとしたタイヤを荷重640Nが負荷されるように回転ドラムに押し付け、両軸間隔を一定に保持しながらタイヤを回転させたときに発生するタイヤ横方向の力の変動量を測定した。比較例1の結果を100として評価し、数値が大きいほど横方向のユニフォミティが良好であることを示す。
【0046】
(5)ノイズレベル(低周波数領域及び高周波数領域)
試験タイヤを標準リムを用いて空気圧200kPaに調整し、国産2000cc乗用車の全輪に同一タイヤを装着し、60km/hの定常走行で、騒音計により騒音を測定した。測定した騒音のうち80〜160Hz成分を低周波数領域のノイズとし、測定した騒音のうち250〜500Hz成分を高周波数領域のノイズとした。比較例1の結果を100として評価し、数値が大きくなるほどノイズが低減されることを示す。
【0047】
(6)偏摩耗
実写に当該タイヤを装着し、一般路を12000km走行した。走行後のトレッド部の赤道部位(センター部)と、ショルダー部(接地端付近)との摩耗量の比で比較した。比が1.0に近いほど均等摩耗となる。比較例1の比を100として評価し、数値が小さくなるほど、比が1.0から遠ざかって偏摩耗になり、数値が大きくなるほど比が1.0に近づいて均等摩耗になることを示す。
【0048】
(7)耐クラック性能
オゾンをタイヤに照射し、生じるクラックの大きさ、深さを評価した。比較例1の結果を100として評価し、数値が大きくなるほど耐クラック性能に優れていることを示す。
【0049】
比較例1
非導電性ゴムのキャップ部50の両側端部位を被覆する位置に導電性ゴムを配置してトレッドゴムとした、サイズ195/65R15のタイヤを作製した。
【0050】
実施例1
比較例1のタイヤに対し、キャップ部50の両側壁部位の内部に導電部52を設けた。導電部52のゴム硬度は、キャップ部50のゴム硬度よりも低く設定した。それ以外は、比較例1のタイヤと同じとした。
【0051】
実施例2
キャップ部50のタイヤ幅方向WD両側にある対をなす側端部のうち車体内側の側端部のみに、導電部52を設けた。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0052】
実施例3
導電部52のゴム硬度を、キャップ部50のゴム硬度よりも高くした。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、実施例1〜3は比較例1に対し、転がり抵抗が有効に低減していることが分かる。
【0055】
通電性能については、比較例1及び実施例1〜3において、通電性能が的確に確保されていることが分かる。
【0056】
また、ユニフォミティについては、導電部52がキャップ部50の一方の側端部位にしか設けられていない実施例2に対し、導電部52がキャップ部50の両方の側端部位に設けられている実施例1の方が良好であることから、導電部52をタイヤ幅方向両側に設けるのが好ましいことが分かる。
【0057】
ノイズについては、キャップ部50に導電部52がない比較例1に対し、キャップ部50よりも硬度の低い導電部52を設けた実施例1は、低周波数領域のノイズが低減していることが分かる。同様に、比較例1に対し、キャップ部50よりも硬度の高い導電部52を設けた実施例3は、高周波数領域のノイズが低減していることが分かる。
【符号の説明】
【0058】
1…ビード部
2…サイドウォール部
3…トレッド部
4…カーカス層
6…サイドウォールゴム
5…トレッドゴム
50…キャップ部
50a…キャップ部の側端面
50b…キャップ部の底面
51…ベース部
52、152…導電部
52a…導電経路
52b…延在部位
RD…タイヤ径方向
WD…タイヤ幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、各々の前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、各々の前記サイドウォール部のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、前記一対のビード部同士の間に設けられたトロイド状のカーカス層と、前記サイドウォール部において前記カーカス層の外側に設けられたサイドウォールゴムと、前記トレッド部において前記カーカス層の外側に設けられたトレッドゴムとを備える空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムは、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部と、前記キャップ部のタイヤ径方向内側に設けられるベース部と、前記キャップ部のタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられ、前記接地面を被覆する位置を避けつつ前記キャップ部の内部を通りタイヤ子午線断面において前記接地面と前記キャップ部の側端面又は底面とを接続する形状をなす導電部とを備えており、
前記導電部は、前記接地面と前記キャップ部の側端面又は底面とを接続する導電経路から枝分かれしてタイヤ幅方向外側に延びる延在部位を有し、前記キャップ部を形成する非導電性ゴムとは異なるゴム硬度の導電性ゴムで形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
一対のビード部と、各々の前記ビード部からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、各々の前記サイドウォール部のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、前記一対のビード部同士の間に設けられたトロイド状のカーカス層と、前記サイドウォール部において前記カーカス層の外側に設けられたサイドウォールゴムと、前記トレッド部において前記カーカス層の外側に設けられたトレッドゴムとを備える空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムは、非導電性ゴムで形成され且つ接地面を構成するキャップ部と、前記キャップ部のタイヤ径方向内側に設けられるベース部と、前記キャップ部のタイヤ幅方向両端にある対をなす側端部のうち少なくとも一方の側端部に設けられ、前記接地面を被覆する位置を避けつつ前記キャップ部の内部を通り前記接地面と前記キャップ部の側端面又は底面とを接続する導電部とを備えており、
前記導電部は、前記キャップ部を形成する非導電性ゴムとは異なるゴム硬度の帯状の導電性ゴムを、前記キャップ部の側端面又は底面から前記接地面に露出する位置までタイヤ軸を中心として螺旋状に周回配置したもので、タイヤ子午線断面において、前記キャップ部を形成する非導電性ゴムによって、前記接地面に露出する部位と前記キャップ部の側端面又は底面に達する部位とが分断されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記導電部は、タイヤ幅方向一方側とタイヤ幅方向他方側とにそれぞれ設けられている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−95323(P2013−95323A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241353(P2011−241353)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)