説明

空気入りタイヤ

【目的】雪上走行性能を高めつつ騒音性を改善しうる。
【構成】トレッド部2は、トレッド溝10により区分されるブロックBの周囲のエッジ部eと、必要により設けられたブロックB内の溝によるエッジ部fとを含むトレッドエッジ部を有する。タイヤ全周に亘る接地領域Qに含まれかつタイヤ踏込み側Fに向くトレッドエッジ部のラテラル方向の成分の合計長さAと接地領域Qの面積Sとの比であるラテラル密度αを0.085〜0.15/mmとしている。又接地領域Q内かつ一方の接地外縁Kに向くトレッドエッジ部の円周方向の成分の合計長さBと面積Sとの比である周方向エッジ密度βとしたとき比α/βを2.0〜3.5としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、雪上走行性能を高めつつ騒音性を改善しうる空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】近年4WD車等の普及に伴い高速走行性能を維持しつつ例えば浅雪路等を走破しうるいわゆるオールシーズンタイヤが多用されている。このものは、一般に、雪路走行性能を高めるために、トレッド部に、海比の高いブロックパターンを採用しかつ該ブロック面に細溝等のサイピングを形成している。
【0003】これは、図7に示すごとく海比の高いブロックパターンの採用によってブロックBの接地圧を増大させ雪噛み性を高める一方、サイピングAの形成により図8に示すごとく路面への引っかき効果を発生させ、これらの相乗効果によって路面摩擦係数を高めることを意図している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこのような海比の増加、例えばタイヤ円周方向にのびる縦溝の溝面積の増加は、その気柱共鳴に原因して800〜1200Hz程度の高周波を発生させ、又横溝の溝面積の増加は、ブロックが路面と衝突する際に生ずるインパクト音、ポンピング音等のピッチノイズが原因するいわゆるロードノイズを誘発させるなどタイヤ騒音性を悪化させる。
【0005】他方、前記サイピングの増加はブロック剛性の低下を招き、操縦安定性を阻害する。
【0006】このように雪上走行性能と騒音性及び操縦安定性との間には、相反する関係があり、従来、これらを十分に満足させることは極めて困難なことであった。
【0007】従って本発明者は、このような状況に鑑み、サイピングを含むブロック形状について種々の解析を行った。その結果ブロック周縁のエッジ及びサイピングのエッジからなるトレッドエッジ部のうち、タイヤ踏込み側に向くラテラル方向のエッジ成分が雪上トラクション性に、又タイヤの一側面側に向く円周方向のエッジ成分が雪上コーナリングの際の横力に夫々関与し、トレッド接地領域の全面積Sに対するこれらのエッジ成分の割合、すなわちラテラルエッジ密度α及び周方向エッジ密度βが大なほど前記雪上トラクション性及び横力を夫々高めうることを確認した。
【0008】しかし周方向エッジ密度βの過度の増加は、逆に雪上トラクション性に対する横方向のグリップ力のバランスを悪化させ、特に雪上コーナリング時のリア安定性を損ねるなど雪上操縦安定性の低下を招来させることも判明し、これらラテラルエッジ密度αと円周向エッジ密度βとの比率α/βを適正化させることが雪上走行性能を高める上で極めて重要であることを見出し得た。
【0009】すなわち本発明は、ラテラルエッジ密度αを高める一方、比α/βを規制することを基本として、限られた海比、サイピング等の条件下において雪上走行性能を最も有効に発揮させうる空気入りタイヤの提供を目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明の空気入りタイヤは、トレッド部に、タイヤ円周方向にのびる縦溝と、この縦溝に交わることによりトレッド部をブロックに区切る横溝とからなるトレッド溝を設け、かつブロック周囲のエッジ部と、前記ブロックに必要により設けられ少なくとも一端がブロック内で途切れる溝を挟むエッジ部とを含むトレッドエッジ部において、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填するとともに正規荷重を付加した標準状態のタイヤを転動させる際に前記トレッド部が接地するタイヤ全周に亘る接地領域に含まれかつタイヤ転動に際して踏込み側に向くトレッドエッジ部のラテラル方向の合計長さAと、前記接地領域の面積Sとの比A/Sであるラテラルエッジ密度αを0.085/mm以上かつ0.15/mm以下とするとともに、前記接地領域に含まれかつ該接地領域の一方の接地外縁に向くトレッドエッジ部のタイヤ周方向合計長さBと、前記面積Sとの比B/Sである周方向エッジ密度βに対する前記ラテラル方向エッジ密度αの比α/βを2.0以上かつ3.5以下としている。
【0011】
【作用】このようにラテラルエッジ密度αを従来タイヤより大な0.085〜0.15( /mm)とし、雪上トラクション性を大巾に高めている。
【0012】又逆に周方向エッジ密度βを減じこれら密度の比α/βを従来タイヤに比して極めて小な2.0〜3.5に規制している。従って前記雪上トラクション性と横方向のグリップ力とのバランスを適正化でき、雪上操縦安定性を高め雪上走行性能を大巾に向上しうる。
【0013】又これら密度の比α/βの規制には、前記周方向エッジ密度βの減少が関与するため、総合的なエッジの増加が抑制され、その結果ブロック剛性が維持され、良路操縦安定性との両立が計れうる。
【0014】さらに前記雪上走行性能の向上は、夫々の海比の条件下において最大限に発揮されるため、海比の低減化にも役立ち又タイヤ騒音性の改善を達成しうる。
【0015】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基づき説明する。図において空気入りタイヤ1は、外表面にブロックパターンPを設けたトレッド部2と、該トレッド部2の両端からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3のタイヤ半径方向内方端に位置するビード部4とを具える。又前記ビード部4、4間にはトレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5の廻りで両端が折返されるカーカス6が架け渡されるとともに、該カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内方には強靭なベルト層9が巻装され、タガ効果を有してトレッド部2を補強している。又前記ブロックパターンPは、図2に示すように、タイヤ円周方向にのびる複数本の縦溝Gと、この縦溝Gに交わることによりトレッド部2を複数のブロックBに区割する横溝Yとを有するトレッド溝10によって形成される。なお本例では、縦溝Gは、タイヤ赤道上を通る内の縦溝G1と、その両側に配される外の縦溝G2とを含む。又前記横溝Yは、前記縦溝G1、G2間を横切ることにより該縦溝G1、G2間をブロックB1に区分する本例では細溝状の中の横溝Y1、及び縦溝G2とトレッド縁間をブロックB2に区分する有巾の外の横溝Y2を含み、又本例ではブロックB2には、トレッド縁及び縦溝G2からのびかつ一端がブロックB2内で途切れる細溝状の溝M1、M2が夫々付設される。
【0016】そしてこのようなブロックパターンPのタイヤに雪上走行性能を最も有効に発揮させるために、本発明では、接地領域Qの全域において、トレッドエッジ部のラテラルエッジ密度αを0.085以上かつ0.15/mm以下とするとともに、該ラテラルエッジ密度αと周方向エッジ密度βとの比α/βを2.0以上かつ3.5以下に規制している。
【0017】なお接地領域Qとは、正規リムにリム組しかつ正規内圧を充填するとともに正規荷重を付加したタイヤを転動させる際に、前記トレッド部2が接地するトレッド全周に亘る円環帯状の領域を意味する。
【0018】又前記トレッドエッジ部とは、各ブロックBに形成されるブロックエッジ部分Eの総和ΣEを意味し、求すれば以下にブロックB2を用いて説明する。
【0019】すなわち前記ブロックエッジ部分Eは、図3R>3に示すように、ブロックB2の周囲を囲むエッジe1〜e14、及び少なくとも一端が該ブロックB2内で途切れる前記溝M1、M2を夫々挟むエッジf1〜f4からなる。
【0020】又該ブロックエッジ部Eを形成するエッジe1〜e14及びエッジf1〜f4のうち、図4に示すように、前記接地領域Q内に位置しかつタイヤ踏込み側Fに向くエッジe9、e10、e12、f1、f3のラテラル方向(タイヤ軸方向)の各成分長さRe9、Re10、Re12、Rf1、Rf3の和を全ブロックB(ブロックB1を含む)に亘って合計した長さΣRを、トレッドエッジ部のラテラル方向の合計長さAとよぶ。そして該合計長さAと前記接地領域Qの面積Sとの比A/Sをラテラルエッジ密度αと定義している
【0021】又前記ブロックエッジ部Eのエッジe1〜e14及びエッジf1〜f4のうち、前記接地領域Q内に位置しかつ接地領域Qの一方の外縁Kに向くエッジe10、e11、e12、e13、e14、f2、f3のタイヤ円周方向の各成分長さLe10、Le11、Le12、Le13、Le14、Lf2、Lf3の和を全ブロックBに亘って合計した長さΣLをトレッドエッジ部の周方向の合計長さBとよび、又面積Sとの比B/Sを周方向エッジ密度βと定義する。
【0022】なお接地領域Q内のエッジのうちラテラル方向のエッジ成分は、タイヤ転動方向と直角に向き、トレッド溝10内に噛み込む雪及び氷雪面を後方にけり出すため、雪上トラクション性を発揮でき、本発明ではラテラルエッジ密度αを0.085〜0.15/mmに高めることにより雪上トラクション性を大巾に向上している。なお図5に本発明者が確認した従来タイヤにおけるラテラルエッジ密度αと海比との測定値が示されており、従来タイヤでは、αは0.085より小、通常0.04〜0.07程度であることがわかる。
【0023】他方円周方向のエッジ成分は、タイヤ転勤方向と平行に向き、横方向のグリップ力を発生させる。
【0024】しかしながら周方向エッジ密度βを過大とするとき、雪上コーナリングの際にリア安定性を損ねるなど雪上操縦安定性及び雪上実車フィーリング性を逆に低下させることが判明し、従って、本発明では雪上トラクションとのバランスを向上し雪上走行性能を高めるために、ラテラルエッジ密度αと周方向エッジ密度βとの比α/βを2.0〜3.5の範囲に規制している。なお従来タイヤにおいては、図6に示すように、前記比α/βがほぼ0.8〜1.3の範囲とするなど周方向エッジ密度βの割合が高く、雪上走行性能を損ねるばかりでなく、ブロック剛性を不必要に減じ、良路操縦安定性を低下していた。
【0025】なお前記比α/βが2.0より小の時、前述の従来タイヤと同様に、ブロック剛性を減じ良路操縦安定性を損ねるとともに雪上走行性能を低下する。又比α/βが3.5より大の時、横方向のグリップが不十分となり、雪上コーナリング時、タイヤの大きな横すべりを招くなど安全性を低下する。
【0026】又このようなブロック形状による雪上走行性能の向上によって、必要な走行性能を維持しつつ海比の値を例えば0.25〜0.32に減じることが可能になり、タイヤ騒音性の改善を達成しうる。
【0027】なお前記海比は、接地領域Qの面積Sに対するトレッド溝10の全面積である海部面積S1の比S1/Sであって、本願では、低い海比S1/Sの採用によって生じる接地圧の低下を防止するために、トレッド巾TWを、タイヤ断面巾Tの0.55倍以上かつ0.75倍以下とし、該トレッド巾TWを従来タイヤに比して減じている。
【0028】〔具体例〕図1に示す構造をなしかつ図2のブロックパターンPを有するタイヤサイズが195/70R14のタイヤを表1に示す仕様に基づき試作するとともに、該試作タイヤの雪上トラクション性、雪上操縦安定性、騒音性、良路操縦安定性を夫々従来タイヤと比較した。なお各性能は、指数値が大なほど優れている。
【0029】
【表1】


【0030】
【発明の効果】叙上のごとく、本発明の空気入りタイヤは、ラテラルエッジ密度αを高める一方、該ラテラルエッジ密度αと周方向エッジ密度βとの比α/βを規制しているため、良路操縦安定性、及び騒音性を損ねることなく雪上走行性能をバランスよく向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すタイヤの断面図である。
【図2】そのブロックパターンの一例を示すトレッド面の展開図である。
【図3】ラテラルエッジ密度を説明する線図である。
【図4】周方向エッジ密度を説明する線図である。
【図5】従来タイヤの海比とラテラルエッジ密度との値を示す線図である。
【図6】従来タイヤのラテラルエッジ密度と周方向エッジ密度との値を示す線図である。
【図7】ブロックによる雪噛み性を説明する線図である。
【図8】サイピングによる路面引っかき効果を説明する線図である。
【符号の説明】
2 トレッド部
10 トレッド溝
e1〜e14 ブロック周囲のエッジ部
f1〜f4 溝を挟むエッジ部
G、G1、G2 縦溝
M1、M2 一端がブロック内で途切れる溝
Q 接地領域
Y、Y1、Y2 横溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】トレッド部に、タイヤ円周方向にのびる縦溝と、この縦溝に交わることによりトレッド部をブロックに区切る横溝とからなるトレッド溝を設け、かつブロック周囲のエッジ部と、前記ブロックに必要により設けられ少なくとも一端がブロック内で途切れる溝を挟むエッジ部とを含むトレッドエッジ部において、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填するとともに正規荷重を付加した標準状態のタイヤを転動させる際に前記トレッド部が接地するタイヤ全周に亘る接地領域に含まれかつタイヤ転動に際して踏込み側に向くトレッドエッジ部のラテラル方向の合計長さAと、前記接地領域の面積Sとの比A/Sであるラテラルエッジ密度αを0.085/mm以上かつ0.15/mm以下とするとともに、前記接地領域に含まれかつ該接地領域の一方の接地外縁に向くトレッドエッジ部のタイヤ周方向合計長さBと、前記面積Sとの比B/Sである周方向エッジ密度βに対する前記ラテラル方向エッジ密度αの比α/βを2.0以上かつ3.5以下とした空気入りタイヤ。
【請求項2】前記接地領域は、該接地領域の面積Sに対する前記トレッド溝の全面積である海部面積S1の比である海比S1/Sを0.25以上かつ0.32以下としたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】前記トレッド部は、該トレッド部のタイヤ軸方向の巾であるトレッド巾TWを、タイヤ断面巾Tの0.55倍以上かつ0.75倍以下としたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate