説明

空気調和装置およびその運転方法

【課題】 適切な間隔でブローを行い、循環水の濃縮度を正確に管理することができる空気調和装置を提供する。
【解決手段】 空気熱交換器5に水を散布する散水手段24と、空気熱交換器5を通過した水を貯留する貯留トレイ46と、貯留トレイ46から散水手段24へと水を送り循環水とするポンプ26と、循環水の水量を一定に保つように水位を検出するフロート66と、圧縮機に投入した積算電力と蒸発器における積算冷凍能力とを用いて、空気熱交換器5で循環水が蒸発する積算蒸発量を算出し、この積算蒸発量に基づいて、循環水をブローするタイミングを決定する制御部とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気熱交換器に水を散布する散水手段を備えた空気調和装置およびその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気調和装置の室外ユニットに設けられた空気熱交換器に水を散布する散水装置を備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
この散水装置は、冷房運転時において凝縮器として用いられる空気熱交換器に、水を散布することによって冷媒の凝縮圧力を低下させて冷凍機の性能を向上させるものである。
【0003】
【特許文献1】特開2000−205665号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような空気熱交換器は、伝熱性能の確保のためにアルミ合金等の金属部材が使用されている。このような金属部材に水を散布すると、金属部材が腐蝕する。
また、散布水が循環水として使用されると、散布水の蒸発が進行するにつれて散布水に含まれるシリカやカルシウムが濃縮する。このように濃縮したシリカやカルシウムがスケールとして金属部材表面に付着して伝熱性能を阻害する。
また、空気中に含まれるSOxやNOxが散布水中に取り込まれ、酸として濃縮して金属部材をさらに腐蝕させるという問題がある。
【0005】
このような循環水の濃縮を回避するために、循環する散布水を排出(ブロー)して、循環水を入れ替える方法がある。循環水を入れ替えるタイミングとしては、例えば、保有水の電気伝導率を計測し、この計測値が所定以上となった時点を採用している。
しかし、このブローの間隔については特に考慮されておらず、任意に決めた一定間隔でブローするのが一般的である。このように任意の間隔でブローを行うと、ある場合には間隔が長すぎてシリカや酸等の濃縮が過度に進行してしまうことがある。一方、ブローの間隔が短い場合には、循環水中に添加した水処理用の薬液を無駄に廃棄してしまうことになり、コストの上で好ましくない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、空気熱交換器に散布される循環水の排出を適切な間隔で行い、循環水の濃縮度を正確に管理することができる空気調和装置およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の空気調和装置およびその運転方法は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された冷媒を空気により冷却して凝縮液化させる空気熱交換器と、該空気熱交換器で凝縮した液冷媒を膨張させる膨張弁と、該膨張弁で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備えた空気調和装置において、前記空気熱交換器に水を散布する散水手段と、該空気熱交換器を通過した水を貯留する貯留部と、該貯留部から前記散水手段へと水を送り循環水とする送水手段と、前記循環水の水量を一定に保つ循環水量調整手段と、前記圧縮機に投入した熱量と前記蒸発器において吸収した熱量とを用いて、前記空気熱交換器で循環水が蒸発する蒸発量を算出し、該蒸発量に基づいて、前記循環水を排出する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
空気熱交換器に散布される循環水は、空気熱交換器を冷却する際に一部分が蒸発する。循環水の蒸発が進むと、循環水中に含まれるシリカやカルシウム等の不純物が徐々に濃縮される。なお、循環水の蒸発量に対応する水量が循環水量調整手段によって補給され、一定量の循環水が保たれるようになっている。
本発明では、循環水の蒸発量を制御部によって演算することにより、循環水の濃縮の程度が把握されることになる。制御部によって把握される濃縮の程度(すなわち蒸発量)に基づいて循環水を排出するので、循環水に含まれる不純物が所定値以上に濃縮されることがない。
制御部は、圧縮機に投入した熱量および蒸発器において吸収した熱量から、空気熱交換器における蒸発量を演算するので、正確な蒸発量を得ることができる。つまり、空気熱交換器は冷凍サイクルの一構成要素なので、空気調和装置の冷凍サイクルにおける熱バランスを考慮することにより、制御部によって、空気熱交換器の排熱量すなわち循環水の蒸発量を正確に把握することができる。
循環水の排出については、循環水の全量(保有水量)を排出するブローを行うことが好ましい。これにより、循環水量調整手段によって新たな水が補給されて循環水が入れ替わることにより、不純物の濃縮状態が解消される。
なお、空気熱交換器における循環水の顕熱上昇分の熱量については、循環水の蒸発に用いられる熱量と区別することにより、より正確な循環水の蒸発量を得るようにしてもよい。
【0009】
本発明の空気調和装置では、前記循環水の系統には、該循環水が流過する間に外気と接触させて該循環水を冷却する散布水冷却手段が設けられ、前記制御部は、前記散布水冷却手段で循環水が蒸発する蒸発量を算出し、該蒸発量に基づいて、前記循環水を排出することを特徴とする。
【0010】
散布水冷却手段によって循環水を冷却することにより、循環水の温度を低下させ、この循環水によって冷却される空気熱交換器における冷媒凝縮温度を更に低下させる。
循環水は散布水冷却手段を流過する間にも蒸発するので、制御部は、この蒸発量をも考慮する。これにより、循環水の蒸発量をより正確に見積もることができ、循環水の排出を適切なタイミングで行うことができる。
【0011】
本発明の空気調和装置では、前記循環水には、スケール形成物質を該循環水中で分散させる分散剤が添加されていることを特徴とする。
【0012】
空気熱交換器に対して断続的に水を流す場合には、水が蒸発して空気熱交換器の表面が乾く際にスケール形成物質が析出してしまうので、水に分散剤を添加してもその機能を十分に発揮することができない。本発明では、空気熱交換器を流れる水が循環水とされ、常に水が流れるように構成されているので、分散剤を添加することによりその機能を十分に発揮させることができる。
「スケール形成物質」としては、シリカ、カルシウム、マグネシウム、サルファ等が挙げられる。
「分散剤」としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を持つモノマーとビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシー1−プロパンスルホン酸等のモノマーとが共重合した低分子量ポリマー、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)に代表されるホスホン酸、トリポリリン酸ナトリウムに代表されるポリリン酸塩等が挙げられる。
【0013】
本発明の空気調和装置では、前記循環水は、防錆・防食剤、防スケール剤、及び殺菌剤・防スライム剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤が添加されていること、および/または、クラスターを微小化した水とされていることを特徴とする。
【0014】
「防錆・防食剤」としては、モリブデン酸塩やリン酸塩類、メタケイ酸塩類に2メルカプトベンゾチアゾールNa塩(MBT)、1,2,3−ベンゾトリアゾール(BTA)、4又は5−メチルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール(TTA)を併用したもの等が挙げられる。
「防スケール剤」としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を持つモノマーとビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシー1−プロパンスルホン酸等のモノマーとが共重合した低分子量ポリマー、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)に代表されるホスホン酸、トリポリリン酸ナトリウムに代表されるポリリン酸塩等が挙げられる。
「殺菌剤・防スライム剤」としては、チアゾリン系化合物等が挙げられる。また、オゾンを注入するようにしても良い。
【0015】
本発明の空気調和装置の運転方法では、冷媒を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された冷媒を空気により冷却して凝縮液化させる空気熱交換器と、該空気熱交換器で凝縮した液冷媒を膨張させる膨張弁と、該膨張弁で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備えた空気調和装置の運転方法において、前記空気熱交換器に水を散布する散水手段と、該空気熱交換器を通過した水を貯留する貯留トレイと、該貯留トレイから前記散水手段へと水を送り循環水とする送水手段と、前記循環水の水量を一定に保つ循環水量調整手段と、を備え、前記圧縮機に投入した熱量と前記蒸発器において吸収した熱量とを用いて、前記空気熱交換器で循環水が蒸発する蒸発量を算出し、該蒸発量に基づいて、前記循環水を排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、空気熱交換器に散布される循環水の排出を適切な間隔で行い、循環水の濃縮度を正確に管理することができる空気調和装置およびその運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の空気調和装置およびその運転方法にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、室外ユニットを備えた空気調和装置の概略構成図が示されている。
空気調和装置1は、ガス冷媒を圧縮する例えばターボ圧縮機等の圧縮機3と、圧縮機3で圧縮されたガス冷媒を外気と熱交換させて凝縮させる空気熱交換器5と、空気熱交換器5において凝縮された液冷媒を膨張させる膨張弁7と、膨張弁7において膨張させられた液冷媒を蒸発させる蒸発器9とを備えている。
【0018】
圧縮機3は、制御部18によりインバータ制御された電動機11によって回転駆動されている。電動機11への投入電力(圧縮機3に投入された熱量)は、制御部18によって把握されている。
【0019】
蒸発器9には、チラー13が設けられている。このチラー13は、内部に水が流通する配管13aを備えており、この配管13aの一部が蒸発器9内に配置されている。これにより、蒸発器9において得られる冷熱によって配管13a内を流れる水が冷却され、冷水が得られるようになっている。
【0020】
チラー13の配管13aには、配管13a内を流れる水の流量Qを計測する流量計14と、蒸発器9に対する入口に配置されて水温Tinを計測する入口温度計15と、蒸発器9に対する出口に配置されて水温Toutを計測する出口温度計16とが設けられている。
これら流量計14、入口温度計15及び出口温度計16の出力は、それぞれ、制御部18に入力される。
なお、装置構成を簡略化してより廉価とするために、流量計14を省略した構成としても良い。この場合、流量は予め所定値に調整され、一定流量で運転するようにする。制御部18は、この所定値(定数)を仕様値として記憶する。
【0021】
空気熱交換器5の冷媒出口と膨張弁7との間には、冷媒圧力Pcを検出する圧力センサ19が設けられている。この圧力センサ19の出力は、制御部18に入力される。
空気熱交換器5の外部には、空気熱交換器5に導入される外気の温度Tairを測定する外気温センサ61と、当該空気の湿度Hairを測定する湿度センサ62とが設けられている。これら外気温センサ61及び湿度センサ62の出力は、制御部18に入力される。制御部18は、これらセンサ61,62から得られる外気温度および湿度に基づいて、露点(又は湿球温度)を算出する機能を備えている。
【0022】
空気熱交換器5は、室外に配置された室外ユニット20の筐体22内に設けられている。
室外ユニット20は、さらに、空気熱交換器5に水を散布する散水手段24と、散水手段24に水を供給するポンプ(送水手段)26と、散水手段24に供給される水を冷却するシート積層体(散布水冷却手段)28と、空気熱交換器5及びシート積層体28に外気Aを導入するファン29とを備えている。
【0023】
空気熱交換器5は、複数枚積層して鉛直方向に立設された板状のフィン30と、内部に冷媒を流すとともに複数のフィン30の法線方向に貫通配置された複数のパイプ32とを備えている。この空気熱交換器5は、冷房運転時において、外気Aとの間で冷媒を冷却して凝縮させる。
フィン30の基材にはアルミ合金が用いられている。アルミ合金としては、熱伝導率を良くするために、アルミ含有率が高いものを用いるのが好ましい。また、アルミ合金に代えて、純アルミを採用しても良い。
また、フィン30の表面には、濡れ性を確保するために、水ガラス系親水性樹脂コーティングがなされており親水性処理が施されている。
【0024】
空気熱交換器5の下方には、散布された水を回収する回収トレイ31が設けられている。回収トレイ31によって回収された散布後の水は、シート積層体28の下方に位置する貯留トレイ(貯留部)46に導かれる。
【0025】
散水手段24は、空気熱交換器5の上方に設置されている。
散水手段24から空気熱交換器5への水の供給は、ポンプ26によって行なわれる。ポンプ26は、制御部18からの指令によって起動・停止が行われるようになっている。
【0026】
シート積層体28は、表面に凹凸を有する凹凸シートを鉛直方向に複数枚立設した構成とされている。シート積層体28は、凹凸シートの表面を水が流下する間に多くの外気Aと接触させることにより水から外気への物質移動係数を増大させて、十分にエンタルピー差を利用して水を蒸発させ、水を自己冷却するものである。
【0027】
シート積層体28の上方には、シート積層体に水を供給するシート積層体用水供給手段42が設けられている。このシート積層体用水供給手段42による水の供給は、バルブ44の開閉によって行なわれる。バルブ44は、制御部18からの指令によって開閉動作が行なわれるようになっている。
【0028】
シート積層体28の下方に位置する貯留トレイ46には、シート積層体28を流下した水が貯留されるようになっている。さらに、この貯留トレイ46には、上述のように、空気熱交換器5を流下した散布水も貯留されるようになっている。
【0029】
貯留トレイ46に貯留された水は、ポンプ26によって汲み上げられ、分岐部48を介して、空気熱交換器5側およびシート積層体28側に導かれるようになっている。このように、空気熱交換器5およびシート積層体28を流れる水は、貯留トレイ46に貯留された水を再利用するようになっており、循環水となっている。
なお、空気熱交換器5側およびシート積層体28側に導かれる水の流量比は、各機器の性能にもよるが、本実施形態では1:1としている。
【0030】
ファン29は、室外ユニット20の上面に複数設けられており、電動モータ50によって駆動されている。
各ファン29を駆動する電動モータ50は、制御部18によって駆動・停止が行なわれるようになっている。なお、電動モータ50をインバータ制御とし、回転数を可変制御できるようにしても良い。あるいは、直流モータを採用して回転数制御を行うようにしても良い。
【0031】
図2には、室外機20に設置された空気熱交換器5およびシート積層体28と、貯留トレイ46との間に流れる循環水の給排水系統が示されている。
貯留トレイ46の下部には、循環水を排出するための排水手段60が設けられている。この排水手段60には、ブロー弁62が設けられており、このブロー弁62は、制御部18によって開閉させられる。
貯留トレイ46の上方には、新たな水を供給する給水手段(循環水量調整手段)64が設けられている。この給水手段64には、給水弁(循環水量調整手段)65が設けられており、制御部18によって開閉させられる。
また、貯留トレイ46内の貯留水にはフロート(循環水量調整手段)66が浮かべられており、このフロート66の上下動に伴う位置信号が制御部18に出力されるようになっており、この信号に基づいて、貯留水の水位が一定になるように制御部18が給水弁65の開閉を制御している。
【0032】
循環水には、水処理用の薬液が添加されている。
薬液の一つとして、スケール形成物質を水中で分散させる分散剤が添加されている。スケール形成物質としては、シリカ、カルシウム、マグネシウム、サルファ等が挙げられる。また、分散剤としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を持つモノマーとビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシー1−プロパンスルホン酸等のモノマーとが共重合した低分子量ポリマー、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)に代表されるホスホン酸、トリポリリン酸ナトリウムに代表されるポリリン酸塩等が挙げられる。
【0033】
さらに、循環水には、薬液として、防錆・防食剤、防スケール剤、殺菌剤・防スライム剤が添加されている。
防錆・防食剤としては、モリブデン酸塩やリン酸塩類、メタケイ酸塩類に2メルカプトベンゾチアゾールNa塩(MBT)、1,2,3−ベンゾトリアゾール(BTA)、4又は5−メチルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール(TTA)を併用したもの等が挙げられる。
防スケール剤としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基を持つモノマーとビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシー1−プロパンスルホン酸等のモノマーとが共重合した低分子量ポリマー、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)に代表されるホスホン酸、トリポリリン酸ナトリウムに代表されるポリリン酸塩等が挙げられる。また、防スケール剤として、クラスターを微小化した水を用いることとしても良い。例えば、ポンプ26の下流側に配置した磁気付与手段または電気付与手段、あるいは多孔膜によって循環水のクラスターを微小化する。
殺菌剤・防スライム剤としては、チアゾリン系化合物等が挙げられる。また、オゾンを注入するようにしても良い。
【0034】
制御部18は、圧縮機3に投入された熱量である電動機11への投入電力と、蒸発器9における冷凍能力(吸収熱量)とを用いて、空気熱交換器5で循環水が蒸発する蒸発量を算出する。また、制御部18は、シート積層体28で循環水が蒸発する蒸発量も算出する。
制御部18は、これらの蒸発量に基づいて、次のように循環水をブローするタイミングを決定する。なお、ブローとは、循環水として保有されている保有水量の全量を排出することを意味する。
まず、積算散布水蒸発量E[kg]は、次式のように表せる。
E=(Qc+Mm)×α/H+X×T ・・・(1)
ここで、
Qc:積算冷凍能力[kWh],
Mm:積算投入電力[kWh],
α :空気熱交換器5からの潜熱排熱係数[−],
H :水の蒸発潜熱[kJ/kg],
X :シート積層体28における蒸発量[kg/h],
T :積算時間[h]である。
【0035】
積算冷凍能力Qcは、制御部18において、チラー13に設けた流量計14から得られる流量Qと、入口温度計15から得られるチラー水入口温度Tinと、出口温度計16から得られるチラー水出口温度Toutと、水の比熱Cv[kJ/kg]とから算出される。すなわち、出入口温度差(Tout−Tin)に流量Qおよび比熱Cvを乗じることによって冷凍能力が得られ、これを積算時間Tで積算して積算冷凍能力Qcを得る。
積算投入電力Mmは、制御部18でモニタしている電動機11への投入電力を積算時間Tで積算することによって得られる。
シート積層体28における蒸発量は、シート積層体28を流れる循環水の前後の温度差ΔTとシート積層体28から流れ出る流量Qx[kg/h]を用いて、X=Qx×Cv×ΔT/H、から算出される。
潜熱排熱係数αは、空気熱交換器5において冷媒の冷却に用いられた全熱量から顕熱分を除去した潜熱の割合を示しており、これは外気条件によるパラメータとなり、例えば0.9が与えられる。
積算時間Tは、前回のブローが終了した時刻を0とし、それ以降の時間を積算したものである。
なお、本実施形態では、空気熱交換器5及びシート積層体28に供給される循環水の約10%(より好ましくは2.0〜7.0%)が蒸発し、残りの90%(より好ましくは93〜98%)が再循環するようになっている。
【0036】
濃縮倍率N[−]との関係で許容される散布水蒸発量である許容蒸発量はB[kg]は、次式のように表される。
B=V×(N−1) ・・・(2)
ここで、Vは循環水の保有水量[kg]である。濃縮倍率Nは、循環水としての初期保有水量が、蒸発によって何倍に濃縮されたかを意味する。この濃縮倍率Nは、システム毎に許容される濃縮倍率Nを設計上の観点から決定し、これを制御部18の記憶領域に設定することによって用いられる。濃縮倍率Nとしては、例えば10が用いられる。
式(2)により得られた許容蒸発量Bに積算散布水蒸発量Eが到達した時刻にブロー処理が行われる。すなわち、
E=B ・・・(3)
となる積算時間Tにおいてブローが開始される。
このように、制御部18は、上式(1)〜(3)に基づいて演算を行い、適切なブロー時間間隔Tでブローを行うようにブロー弁62に指示を出す。
【0037】
ブローする際には、循環する保有水を全て排出して、新しい水を給水手段64から供給することになるので、薬液についても新たに投入される。この薬液注入量W[kg]は、下式により求められる。
W=V×Dm×10−6 ・・・(4)
ここで、Dm[ppm]は、目標値となる薬液の維持投入濃度であり、システム毎に設計上の観点から決定され、例えば1000ppmに設定される。
制御部18は、上式(4)に基づいて演算を行い、薬液注入量Wが投入されるように薬液注入手段(図示せず)に指示を出す。
しかし実際のブローでは構造的に一部の保有水は残るため、残留循環水量Vr[kg]とした場合、ブロー量は、
BL=V−Vr [kg] ・・・(2−1)
となる。この場合、修正許容蒸発量は、
Br=(V―Vr)×(N−1) ・・・(2−2)
となり、修正許容蒸発量Brが積算散布水蒸発量Eに到達した時刻、すなわち
E=Br ・・・(3−1)
となる積算時間Tにおいてブローが開始される。
薬液の注入量は
Wr=(V−Vr)×Dm×10−6 ・・・(4−1)
となる。
【0038】
次に、上記構成の空気調和装置1の動作について説明する。
冷媒は、圧縮機3によって圧縮され、室外ユニット20内に設けられた空気熱交換器5に送られる。空気熱交換器5では、ファン29から導入される外気Aに熱を与えることによって冷媒が凝縮する。
【0039】
空気熱交換器5には、散水手段24によって水が流下(流過)させられるようになっている。流下させられた水は、空気熱交換器5のフィン30表面を膜状に流れるに伴い、パイプ32内を流れる冷媒から熱を奪う。冷媒から奪う熱量は、冷媒と水との温度差に基づく熱伝達にもよるが、主として水の蒸発潜熱が大きく寄与する。ただし、散布される水の温度が低いほど、冷媒から水への熱伝導量が大きくなることから、散布水を冷却することが有効である。
散布水を冷却するために、シート積層体28が設けられている。以下、散布水の冷却系統について説明する。
シート積層体用水供給手段42から供給された水は、シート積層体28を構成する凹凸シートの表面を流れるに従い、外気Aとのエンタルピー差に基づく物質移動によって冷却される。これにより、外気乾球温度35℃、湿球温度24℃とされた夏場において、シート積層体28を通過した冷却水は27〜28℃まで冷却され、この冷却水を用いた湿式熱交換器によって外気乾球温度よりも低い冷媒凝縮温度が得られることが本発明者等の試験により確認されている。
シート積層体28によって冷却された水は、貯留トレイ46に貯留される。この貯留トレイ46には、空気熱交換器5を流下した水も合流するようになっている。貯留トレイ46に貯留された水は、ポンプ26によって汲み上げられ、分岐部48において分岐され、空気熱交換器5およびシート積層体28のそれぞれに流される。
以上のような循環を繰り返すことによって、空気熱交換器5に散布される水は冷却される。
【0040】
空気熱交換器5において外気乾球温度よりも低い凝縮温度となった冷媒液は、膨張弁7によって膨張させられ、蒸発器9へと送られる。蒸発器9へと送られた冷媒液は、蒸発器9において蒸発する。冷媒液が蒸発する際に持ち去る熱量によって冷熱が得られる。この冷熱は、チラー13aの配管13a内を流れる水に与えられ、この水は冷却されることになる。チラー13によって得られる冷水は、7℃程度の温度である。
蒸発器9において蒸発した冷媒は、圧縮機3へと戻り再び圧縮される。
【0041】
循環水のブローは、保有水量の全量がブロー可能である場合次のように行われる。
制御部18は、式(1)に基づいて、積算散布水蒸発量Eを各時刻において算出する。そして、この積算散布水蒸発量Eが、式(2)から算出される許容蒸発量Bを超えたときに、制御部18の指示によってブロー弁62が開弁され、ブローを開始する。
循環水の保有水量分だけ排出した後、制御部18の指示によってブロー弁62が閉じられる。
ブローの開始とともに貯留トレイ46の水位が低下するので、この水位低下をフロート66によって検出し、水位が一定となるように、制御部18の指示によって給水手段64の給水弁65が開き、新たな水の給水が開始される。
この給水の際に、ブロー弁62が閉じられた以降において、式(4)によって得られた量だけ薬液が投入される。
残留水量Vrが残る場合、次のように行われる。
制御部18は、式(1)に基づいて、積算散布水蒸発量Eを各時刻において算出する。そして、この積算散布水蒸発量Eが、式(2−1)、式(2−2)から算出される許容蒸発量Brを超えたときに、制御部18の指示によってブロー弁62が開弁され、ブローを開始する。
循環水をV−Vrだけ排出した後、制御部18の指示によってブロー弁62が閉じられる。ブローの開始とともに貯留トレイ46の水位が低下するので、この水位低下をフロート66によって検出し、水位が一定となるように、制御部18の指示によって給水手段64の給水弁65が開き、新たな水の給水が開始される。
この給水の際、ブロー弁62が閉じられた以降において、式(4−1)によって得られた量だけ薬液が投入される。
【0042】
本実施形態による空気調和装置およびその運転方法によれば、以下の作用効果を奏する。
循環水の積算蒸発量を制御部18によって演算することにより、循環水の濃縮度を把握し、所定の濃縮度に到達したときにブローすることとしたので、循環水に含まれる不純物が所定値以上に濃縮されることがない。
制御部18は、圧縮機3に投入した積算電力Mm、蒸発器9において積算冷凍能力Qcおよびシート積層体28における積算蒸発量Xから、循環水の蒸発量を演算するので、正確な蒸発量を得ることができる。特に、空気熱交換器5は冷凍サイクルの一構成要素なので、空気調和装置の冷凍サイクルにおける熱バランスを考慮して空気熱交換器5における排熱量を制御部18によって算出することができ、したがって、空気熱交換器5の蒸発量を正確に把握することができる。
また、空気熱交換器5における循環水の顕熱上昇分の熱量については、潜熱排熱係数α(式(1)参照)を導入することにより、循環水の蒸発に用いられる熱量と区別することとした。これにより正確な循環水の蒸発量を得ることができる。
また、シート積層体28における蒸発量をも考慮することとしたので、循環水の蒸発量をより正確に見積もることができ、ブローを適切なタイミングで行うことができる。
またブロー水量にあわせた適切な添加剤を補充することができるため、高価な薬液の余剰注入がなく経済的である。
【0043】
空気熱交換器5を流れる水を循環水とし、常に水が流れるように構成したので、分散剤や防錆剤を添加することにより、シリカ成分、カルシウム成分、酸化ケイ素成分の付着や熱交換器の発錆、閉塞などを回避でき、その機能を十分に発揮させることができる。
【0044】
なお、本実施形態は、シート積層体28によって空気熱交換器5に散布する散布水を冷却する構成としたが、本発明はこれに限定されず、シート積層体28を省略した空気熱交換器5のみのシステムにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態にかかる室外ユニットを備えた空気調和装置の概略構成を示した図である。
【図2】室外機の具体的構成を示した図である。
【符号の説明】
【0046】
1 空気調和装置
3 圧縮機
5 空気熱交換器
7 膨張弁
9 蒸発器
18 制御部
20 室外ユニット
24 散水手段
26 ポンプ(送水手段)
28 シート積層体(散布水冷却手段)
46 貯留トレイ(貯留部)
48 分岐部
60 排水手段
62 ブロー弁
64 給水手段
65 給水弁
66 フロート(循環水量調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された冷媒を空気により冷却して凝縮液化させる空気熱交換器と、該空気熱交換器で凝縮した液冷媒を膨張させる膨張弁と、該膨張弁で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備えた空気調和装置において、
前記空気熱交換器に水を散布する散水手段と、該空気熱交換器を通過した水を貯留する貯留部と、該貯留部から前記散水手段へと水を送り循環水とする送水手段と、前記循環水の水量を一定に保つ循環水量調整手段と、
前記圧縮機に投入した熱量と前記蒸発器において吸収した熱量とを用いて、前記空気熱交換器で循環水が蒸発する蒸発量を算出し、該蒸発量に基づいて、前記循環水を排出する制御部と、
を備えていることを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
前記循環水の系統には、該循環水が流過する間に外気と接触させて該循環水を冷却する散布水冷却手段が設けられ、
前記制御部は、前記散布水冷却手段で循環水が蒸発する蒸発量を算出し、該蒸発量に基づいて、前記循環水を排出することを特徴とする請求項1記載の空気調和装置。
【請求項3】
前記循環水には、スケール形成物質を該循環水中で分散させる分散剤が添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の空気調和装置。
【請求項4】
前記循環水は、防錆・防食剤、防スケール剤、及び殺菌剤・防スライム剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤が添加されていること、および/または、クラスターを微小化した水とされていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の空気調和装置。
【請求項5】
冷媒を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された冷媒を空気により冷却して凝縮液化させる空気熱交換器と、該空気熱交換器で凝縮した液冷媒を膨張させる膨張弁と、該膨張弁で膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、を備えた空気調和装置の運転方法において、
前記空気熱交換器に水を散布する散水手段と、該空気熱交換器を通過した水を貯留する貯留トレイと、該貯留トレイから前記散水手段へと水を送り循環水とする送水手段と、前記循環水の水量を一定に保つ循環水量調整手段と、を備え、
前記圧縮機に投入した熱量と前記蒸発器において吸収した熱量とを用いて、前記空気熱交換器で循環水が蒸発する蒸発量を算出し、該蒸発量に基づいて、前記循環水を排出することを特徴とする空気調和装置の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−105542(P2006−105542A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295395(P2004−295395)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】