説明

空気電池用触媒

【課題】本発明は、空気電池の出力特性およびサイクル特性の向上に大きく寄与する空気電池用触媒を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素と、酸素元素とから構成される複合酸化物であることを特徴とする空気電池用触媒を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池の出力特性およびサイクル特性の向上に大きく寄与する空気電池用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、空気(酸素)を正極活物質として用いた電池であり、エネルギー密度が高い、小型化および軽量化が容易である等の利点を有する。そのため、現在、広く使用されているリチウムイオン二次電池を超える高容量二次電池として、注目を浴びている。ここで、例えば負極活物質として金属Liを用いた空気二次電池では、主に下記の反応(1)〜(6)が生じることが知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
また、空気電池に用いられる空気極層は、通常、電極反応をスムーズに行うための触媒、導電性を向上させるための導電性材料、および触媒および導電性材料を固定化するための結着材等を有する。さらに、空気極層に添加する触媒として、従来からフタロシアニン系錯体等が知られている。例えば特許文献1においては、特定のフタロシアニン誘導体(フタロシアニン系錯体)または特定のナフトシアニン誘導体(ナフトシアニン系錯体)を有する非水電解質空気電池が開示されている。この技術は、特定のフタロシアニン系錯体または特定のナフトシアニン系錯体を用いることにより、非水電解質空気電池の大電流放電特性の向上を図るものであった。しかしながら、このような特定の誘導体を用いた場合であっても、空気電池の大電流放電特性は充分ではなく、サイクル特性も低いものであった。
【0005】
なお、特許文献2においては、所定の粒子径を有する金超微粒子を含有する酸素還元用電極が開示されている。この技術は、所定の粒子径を有する金超微粒子を用いることで、より貴な電位で酸素の還元反応を起こし、高電圧放電させるものである。また、非特許文献1においては、空気極層の触媒として二酸化マンガン(MnO)を用いた空気電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004―63262号公報
【特許文献2】特許第3870802号
【非特許文献1】Takeshi Ogasawara et al, “Rechargeable Li2O2 Electrode for Lithium Batteries”, Journal of the American Chemical Society 2006, 128, 1390-1393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、空気電池の出力特性およびサイクル特性の向上に大きく寄与する空気電池用触媒を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素と、酸素元素とから構成される複合酸化物であることを特徴とする空気電池用触媒を提供する。
【0009】
本発明によれば、複合酸化物が、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素との両方を有する。このような構成を有することで、複合酸化物中の遷移金属元素の価数変化が起こり易くなり、活性の高い空気電池用触媒とすることができる。そのため、本発明の空気電池用触媒を用いることで、出力特性およびサイクル特性に優れた空気電池を得ることができる。
【0010】
上記発明においては、上記アルカリ金属元素が、Li、NaまたはKであることが好ましい。これらの元素は陽イオンになり易く、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化が起こり易いからである。
【0011】
上記発明においては、上記アルカリ土類金属元素が、MgまたはCaであることが好ましい。これらの元素は2価の陽イオンになり、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化が大きく起こるからである。
【0012】
上記発明においては、上記遷移金属元素が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。より活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。
【0013】
上記発明においては、上記複合酸化物が、LiMnO、LiMnO、LiTi12、LiTiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiVO、LiFeO、NaMnO、CaMnO、CaFeO、MgTiOまたはKMnOであることが好ましい。より活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。
【0014】
上記発明においては、上記複合酸化物は、上記遷移金属元素の原子価が複数存在する複合酸化物であることが好ましい。最初から混合原子価状態である方が、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化がさらに起こり易いからである。
【0015】
上記発明においては、上記複合酸化物は、上記アルカリ金属元素または上記アルカリ土類金属元素が化学量論的に不足し、上記遷移金属元素の原子価が複数存在する複合酸化物であることが好ましい。空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化がさらに起こり易いからである。
【0016】
上記発明においては、上記複合酸化物が、LiMnO2−y(0<x<1、0≦y<2)またはLiCoO2−y(0<x<1、0≦y<2)であることが好ましい。遷移金属元素の価数が複数存在する混合原子価状態であり、かつ、活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。
【0017】
また、本発明においては、上述した空気電池用触媒と、導電性材料とを含有することを特徴とする空気極合材を提供する。
【0018】
本発明によれば、上述した空気電池用触媒を用いることにより、高性能な空気極合材とすることができ、本発明の空気極合材を用いることで、出力特性およびサイクル特性に優れた空気電池を得ることができる。
【0019】
また、本発明においては、上述した空気極合材を用いてなる空気極層、および上記空気極層の集電を行う空気極集電体を有する空気極と、負極活物質を含有する負極層、および上記負極層の集電を行う負極集電体を有する負極と、上記空気極層および上記負極層の間に設置されたセパレータと、上記空気極層および上記負極層の間で金属イオンの伝導を担う電解質と、を有することを特徴とする空気電池を提供する。
【0020】
本発明によれば、上述した空気極合材を用いることにより、出力特性およびサイクル特性に優れた空気電池とすることができる。
【0021】
上記発明においては、上記空気極層および上記負極層の間を伝導する上記金属イオンが、上記空気電池用触媒を構成するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の金属イオンと同一であることが好ましい。不要な副反応等を抑制することができるからである。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、空気電池の出力特性およびサイクル特性の向上に大きく寄与する空気電池用触媒を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の空気電池を説明する説明図である。
【図2】実施例1で作製した空気電池を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の空気電池用触媒、空気極合材および空気電池について詳細に説明する。
【0025】
A.空気電池用触媒
まず、本発明の空気電池用触媒について説明する。本発明の空気電池用触媒は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素と、酸素元素とから構成される複合酸化物であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明によれば、複合酸化物が、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素との両方を有する。このような構成を有することで、複合酸化物中の遷移金属元素の価数変化が起こり易くなり、活性の高い空気電池用触媒とすることができる。そのため、本発明の空気電池用触媒を用いることで、出力特性およびサイクル特性に優れた空気電池を得ることができる。
【0027】
従来から二酸化マンガン(MnO)等の遷移金属酸化物を空気電池触媒として使用することは知られていた。しかしながら、触媒の作用メカニズムは完全には解明されていなかった。これに対して、本発明は、触媒に含まれる遷移金属元素の価数変化に着目し、充放電時等(一次電池の場合は放電時をいい、二次電池の場合は充放電時をいう)に、この価数変化が起こり易い程、触媒としての機能が高くなることに着目したものである。
【0028】
ここで、従来の遷移金属酸化物(例えばMnO)と比較して、本発明における複合酸化物は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素をさらに有する。例えば、リチウム空気電池の場合、LiOまたはLiが生成消失する反応が正極で起こると考えられるが、これら化合物のLiやOは、触媒中のLiやOを介して反応が促進されると考えられる。したがって、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素を有していた方が、より活性の高い空気電池用触媒とすることができる。
【0029】
本発明の空気電池用触媒は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素と、酸素元素とから構成される複合酸化物である。
【0030】
複合酸化物を構成するアルカリ金属元素としては、周期律表の第1族に属する金属元素であれば特に限定されるものではないが、例えばLi、NaおよびKを挙げることができる。これらの元素は陽イオンになり易いため、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化が起こり易い。そのため、活性の高い空気電池用触媒を得ることができる。中でも、本発明においては、上記アルカリ金属元素がLiであることが好ましい。伝導体がLiイオンであるリチウム空気電池に有用な触媒とすることができるからである。
【0031】
複合酸化物を構成するアルカリ土類金属元素としては、周期律表の第2族に属する金属元素であれば特に限定されるものではないが、例えばMgおよびCa等を挙げることができる。これらの元素は2価の陽イオンになるため、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化が大きく起こる。そのため、活性の高い空気電池用触媒を得ることができる。
【0032】
複合酸化物を構成する遷移金属元素としては、周期律表の第3族から第12族に属する金属元素であれば特に限定されるものではない。中でも、本発明においては、上記遷移金属が、周期律表の第4周期または第5周期に属する金属元素であることが好ましく、特に第4周期に属する金属元素であることが好ましい。価数変化が起きやすく、汎用的な遷移金属元素だからである。第4周期の遷移金属元素としては、具体的にはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCu等を挙げることができる。また、上記複合酸化物は、2以上の遷移金属元素を含有していても良い。特に本発明においては、上記複合酸化物が、第4周期の遷移金属元素を、1または2以上含有することが好ましい。具体的には、複合酸化物を構成する遷移金属元素が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。より活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。
【0033】
また、本発明において、上記複合酸化物は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に完全な複合酸化物であっても良く、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に不完全な複合酸化物であっても良い。前者の場合は、複合酸化物の入手や製造が容易であるという利点を有する。一方、後者の場合は、遷移金属元素の価数が複数存在する混合原子価状態であるため、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化がさらに起こり易いという利点を有する。また、後者の場合、上記複合酸化物は、上記遷移金属元素の原子価が複数存在する複合酸化物である。なお、混合原子価状態について、Li0.5MnOを用いて説明すると、この複合酸化物のMn元素は3価と4価の複数の価数を有しており、このような状態を混合原子価状態という。このような混合原子価状態にある複合酸化物を用いることにより、空気電池の充放電時等に遷移金属元素の価数変化がさらに起こり易くなる。
【0034】
アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に完全な複合酸化物としては、具体的には、LiMnO、LiMnO、LiMn、LiTi12、LiTiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiVO、LiFeO、LiFeO、LiCrO、LiCoO、LiCuO、LiZnO、LiMoO、LiNbO、LiTaO、LiWO、LiZrO、NaMnO、CaMnO、CaFeO、MgTiOおよびKMnO等を挙げることができる。特に、本発明においては、上記複合酸化物が、LiMnO、LiMnO、LiTi12、LiTiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiVO、LiFeO、NaMnO、CaMnO、CaFeO、MgTiOまたはKMnOであることが好ましい。より活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。
【0035】
一方、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に不完全な複合酸化物は、さらに2種類に大別することができる。すなわち、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に不足した複合酸化物と、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に過剰な複合酸化物とに大別することができる。前者は、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が欠損した状態の複合酸化物であり、後者は酸素元素が欠損した状態の複合酸化物である。
【0036】
前者の複合酸化物としては、例えば、上述した「アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に完全な複合酸化物」に対して、その複合酸化物のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に不足したもの等を挙げることができる。上記複合酸化物は、上記アルカリ金属元素または上記アルカリ土類金属元素が化学量論的に不足し、上記遷移金属元素の原子価が複数存在する複合酸化物である。特に、本発明においては、このような複合酸化物が、LiMnO2−y(0<x<1、0≦y<2)またはLiCoO2−y(0<x<1、0≦y<2)であることが好ましい。遷移金属元素の価数が複数存在する混合原子価状態であり、かつ、活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。
【0037】
後者の複合酸化物としては、例えば、上述した「アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に完全な複合酸化物」に対して、その複合酸化物のアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素が化学量論的に過剰なもの等を挙げることができる。上記複合酸化物は、上記アルカリ金属元素または上記アルカリ土類金属元素が化学量論的に過剰であり、上記遷移金属元素の原子価が複数存在する複合酸化物である。特に、本発明においては、このような複合酸化物が、LiMnO(1<x<2)またはLiCoO(1<x<2)であることが好ましい。遷移金属元素の価数が複数存在する混合原子価状態であり、かつ、活性の高い空気電池用触媒を得ることができるからである。なお、上記複合酸化物において、yは、化学量論的に不完全である複合酸化物を形成でき、かつ、酸素が欠損した状態になる範囲の値である。
【0038】
また、本発明の空気電池用触媒は、粉末状であることが好ましい。空気極合材を形成する際に、空気電池用触媒を均一に分散させることができるからである。また、空気電池用触媒が粉末状である場合、空気電池用触媒粒子の形状としては、例えば真球および楕円球状等を挙げることができる。さらに、空気電池用触媒粒子の平均粒子径は、より小さいことが好ましく、例えば1nm〜20μmの範囲内、中でも5nm〜10μmの範囲内であることが好ましい。なお、平均粒子径が大きすぎると、同一の触媒担持量に対する、触媒の分散性が低くなるという可能性がある。また、平均粒子径は、レーザー回折/散乱法等により求めることができる。
【0039】
また、本発明の空気電池用触媒の用途は、空気電池の空気極層に用いられるものであれば、特に限定されるものではない。本発明の空気電池用触媒を用いる空気電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良い。さらに、本発明の空気電池用触媒を用いる空気電池の種類としては、例えばリチウム空気電池、ナトリウム空気電池、マグネシウム空気電池、カルシウム空気電池およびカリウム空気電池等を挙げることができ、中でもリチウム空気電池が好ましい。また、本発明においては、空気電池の伝導金属イオンと、空気電池用触媒(複合酸化物)を構成するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の金属イオンとが同一であることが好ましい。例えば、本発明の空気電池用触媒をリチウム空気電池に用いる場合は、空気電池用触媒(複合酸化物)を構成するアルカリ金属元素がLiであることが好ましい。
【0040】
本発明の空気電池用触媒は、従来の複合酸化物の製造方法と同様の方法により、製造することができる。また、必要に応じて、複合酸化物の粉砕等を行っても良い。
【0041】
B.空気極合材
次に、本発明の空気極合材について説明する。本発明の空気極合材は、上述した空気電池用触媒と、導電性材料とを含有することを特徴とするものである。
【0042】
本発明によれば、上述した空気電池用触媒を用いることにより、高性能な空気極合材とすることができ、本発明の空気極合材を用いることで、出力特性およびサイクル特性に優れた空気電池を得ることができる。
【0043】
本発明の空気極合材は、少なくとも空気電池用触媒および導電性材料を含有するものである。空気電池用触媒については、上記「A.空気電池用触媒」に記載した内容と同様である。空気極合材における空気電池用触媒の含有量としては、特に限定されるものではないが、例えば1重量%〜30重量%の範囲内、中でも5重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましい。空気電池用触媒の含有量が少なすぎると、充分な触媒機能を発揮できない可能性があり、空気電池用触媒の含有量が多すぎると、相対的に導電性材料の含有量が減り、反応場が減少し、電池容量の低下が生じる可能性があるからである。
【0044】
上記導電性材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料等を挙げることができる。さらに、上記炭素材料は、多孔質構造を有するものであっても良く、多孔質構造を有しないものであっても良いが、本発明においては、多孔質構造を有するものであることが好ましい。比表面積が大きく、多くの反応場を提供することができるからである。上記多孔質構造を有する炭素材料としては、具体的にはメソポーラスカーボン等を挙げることができる。一方、多孔質構造を有しない炭素材料としては、具体的にはグラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンファイバー等を挙げることができる。空気極合材における導電性材料の含有量としては、例えば65重量%〜99重量%の範囲内、中でも75重量%〜95重量%の範囲内であることが好ましい。導電性材料の含有量が少なすぎると、反応場が減少し、電池容量の低下が生じる可能性があり、導電性材料の含有量が多すぎると、相対的に空気電池用触媒の含有量が減り、充分な触媒機能を発揮できない可能性があるからである。また、本発明においては、導電性材料の表面に空気電池用触媒を担持させても良い。導電性材料と空気電池用触媒との接触面積が増加することで、電極反応がよりスムーズになるからである。
【0045】
本発明の空気極合材は、結着材を有することが好ましい。結着材を添加することで、空気電池用触媒や導電性材料が固定化され、サイクル特性に優れた空気極層を得ることができるからである。結着材としては、例えばフッ素系樹脂等を挙げることができ、具体的にはポリフッ化ビニリデン(PVdF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。空気極合材における結着材の含有量としては、例えば30重量%以下、中でも1重量%〜10重量%の範囲内であることが好ましい。
【0046】
本発明の空気極合材の形態は、少なくとも空気電池用触媒を含有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば粉末状、ペレット状およびペースト状等を挙げることができる。空気極合材がペースト状である場合、空気極合材はさらに溶媒を含有する。このペーストを空気極集電体に塗布し乾燥することによって、空気極層を形成することができる。
【0047】
本発明の空気極合材の製造方法は、空気極合材の形態によって異なるものである。粉末状の空気極合材を得る場合は、例えば、空気電池用触媒、導電性材料および結着材を混合する方法を用いることができる。ペレット状の空気極合材を得る場合は、例えば、粉末状の空気極合材を圧粉する方法を用いることができる。ペースト状の空気極合材を得る場合は、例えば、溶媒中に空気電池用触媒、導電性材料および結着材を分散させる方法を用いることができる。
【0048】
C.空気電池
次に、本発明の空気電池について説明する。本発明の空気電池は、上述した空気極合材を用いてなる空気極層と、上記空気極層の集電を行う空気極集電体と、負極活物質を含有する負極層と、上記負極層の集電を行う負極集電体と、上記空気極層および上記負極層の間に設置されたセパレータと、上記空気極層および上記負極層の間で金属イオンの伝導を担う電解質と、を有することを特徴とするものである。
【0049】
本発明によれば、上述した空気極合材を用いることにより、出力特性およびサイクル特性に優れた空気電池とすることができる。
【0050】
次に、本発明の空気電池について図面を用いて説明する。図1(a)は、本発明の空気電池の一例を示す概略断面図である。図1(b)は、図1(a)で示される空気電池の外観を示す斜視図である。図1(a)に示される空気電池は、下部絶縁ケース1aの内底面に形成された負極集電体2と、負極集電体2に接続された負極リード2´と、負極集電体2上に形成され金属Liからなる負極層3と、上述した空気極合材を用いてなる空気極層4と、空気極層4の集電を行う空気極メッシュ5および空気極集電体6と、空気極集電体6に接続された空気極リード6´と、負極層3および空気極層4の間に設置されたセパレータ7と、酸素を供給するために設けられた微多孔膜8を有する上部絶縁ケース1bと、負極層3および空気極層4を浸す電解液9と、を有する。
以下、本発明の空気電池について、構成ごとに説明する。
【0051】
(1)空気極
本発明に用いられる空気極は、空気極合材を用いてなる空気極層、および上記空気極層の集電を行う空気極集電体を有するものである。本発明に用いられる空気極合材については、上記「B.空気極合材」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0052】
上記空気極層は、空気極合材を用いてなるものである。空気極層の厚さは、空気電池の用途等により異なるものであるが、例えば2μm〜500μmの範囲内、中でも5μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
一方、上記空気極集電体は、空気極層の集電を行う機能を有するものである。空気極集電体の材料としては、例えばステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、カーボン等を挙げることができる。空気極集電体の形状としては、例えば箔状、板状およびメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。中でも、本発明においては、空気極集電体の形状がメッシュ状であることが好ましい。集電効率に優れているからである。この場合、通常、空気極層の内部にメッシュ状の空気極集電体が配置される。さらに、本発明においては、メッシュ状の空気極集電体により集電された電荷を集電する別の空気極集電体(例えば箔状の集電体)を用いても良い。また、本発明においては、後述する電池ケースが空気極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
【0054】
なお、本発明においては、上記空気極合材を用いてなる空気極層と、上記空気極層の集電を行う空気極集電体とを有することを特徴とする空気極を提供することもできる。
【0055】
(2)負極
次に、本発明に用いられる負極について説明する。本発明に用いられる負極は、負極活物質を含有する負極層および上記負極層の集電を行う負極集電体を有する。
【0056】
上記負極層は、少なくとも負極活物質を含有する。負極活物質としては、一般的な空気電池の負極活物質を用いることができ、特に限定されるものではない。なお、本発明の空気電池が二次電池である場合、負極活物質は、通常、金属イオンを吸蔵・放出することができるものである。本発明の空気電池がリチウム空気二次電池である場合、用いられる負極活物質としては、例えば金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、およびグラファイト等の炭素材料等を挙げることができ、中でも金属リチウムおよび炭素材料が好ましく、高容量化の観点から金属リチウムがより好ましい。
【0057】
上記負極層は、少なくとも負極活物質を含有してれば良いが、必要に応じて、負極活物質を固定化する結着材を含有していても良い。結着材の種類、使用量等については、上述した「(1)空気極」に記載した内容と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0058】
一方、上記負極集電体は、負極層の集電を行う機能を有するものである。負極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、ニッケル、カーボン等を挙げることができる。上記負極集電体の形状としては、例えば箔状、板状およびメッシュ(グリッド)状等を挙げることができる。本発明においては、後述する電池ケースが負極集電体の機能を兼ね備えていても良い。
【0059】
(3)セパレータ
次に、本発明に用いられるセパレータについて説明する。本発明に用いられるセパレータは、上記空気極層および上記負極層の間に設置されるものである。上記セパレータとしては、空気極層と負極層とを電気的に分離する機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布;およびリチウムポリマー電池に使用されているポリマー材料等を挙げることができる。
【0060】
(4)電解質
次に、本発明に用いられる電解質について説明する。本発明に用いられる電解質の形態は、金属イオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、液状(電解液)、固体状(固体電解質)、ゲル状(ゲル電解質)等を挙げることができる。ここで、本発明に用いられる電解質の一例として、リチウム空気電池に用いられる電解液について説明する。
【0061】
このような電解液は、通常、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなるものである。上記リチウム塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClOおよびLiAsF等の無機リチウム塩;およびLiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩等を挙げることができる。上記有機溶媒としては、上記電解質を溶解することができるものであれば特に限定されるものではないが、酸素溶解性が高い溶媒であることが好ましい。溶媒に溶存した酸素を効率良く反応に用いることができるからである。上記有機溶媒としては、具体的にはエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランおよび2−メチルテトラヒドロフラン等を挙げることができる。中でも本発明においては、ECまたはPCと、DECまたはEMCとを組合せた混合溶媒が好ましい。
【0062】
また、本発明においては、上記電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いることもできる。低揮発性液体を用いることで、揮発による電解液減少を抑制することができ、より長期間使用することができる。
【0063】
(5)電池ケース
次に、本発明に用いられる電池ケースについて説明する。本発明に用いられる電池ケースの形状としては、上述した空気極、負極、セパレータ、電解質を保持することができれば特に限定されるものではないが、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。また、電池ケースは、開放型電池ケースであっても良く、密閉型電池ケースであっても良い。ここで、開放型電池ケースとは、大気と接触可能な電池ケースをいい、上述した図1に示すような電池ケースをいう。一方、電池ケースが密閉型電池ケースである場合は、密閉型電池ケースに、空気(酸素)の供給管および排出管を設けることが好ましい。
【0064】
(6)空気電池
本発明の空気電池は、上述した空気極、負極、セパレータ、電解質および電池ケースを有するものであれば特に限定されるものではない。本発明の空気電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良い。さらに、空気電池の種類としては、例えばリチウム空気電池、ナトリウム空気電池、マグネシウム空気電池、カルシウム空気電池およびカリウム空気電池等を挙げることができ、中でもリチウム空気電池が好ましい。
【0065】
本発明においては、空気極層および負極層の間を伝導する金属イオンが、空気電池用触媒を構成するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の金属イオンと同一であることが好ましい。不要な副反応等を抑制することができるからである。特に、本発明においては、空気電池がリチウム二次電池であり、空気電池用触媒を構成するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素がLiであることが好ましい。また、本発明の空気電池の用途は、特に限定されるものではないが、例えば車両搭載用途、定置型電源用途、家庭用電源用途等を挙げることができる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
本実施例においては、コインセル型のリチウム空気二次電池を作製した。なお、コインセルの組立はアルゴンボックス内で行った。
コインセルの模式図を図2に示す。負極ケース12、空気極ケース10はともにSUS材からなり、空気極ケース10は、直径2mmの貫通孔19を複数有している。まず、負極ケース12の上に、金属リチウム箔14を配置した。金属リチウム箔14として、厚み250μmのシートを直径18mmで打ち抜いたものを使用した。次に、金属リチウム箔14の上にポリエチレン製セパレータ15を設置した。セパレータ15として、厚み25μmのシートを直径19.5mmに打ち抜いたものを使用した。次に、セパレータ15の上から、電解液13をスポイトで注液した。電解液13には、エチレンカーボネート(キシダ化学製):ジエチルカーボネート(キシダ化学製)=1:1(体積比)で混合した混合溶媒中にLiClO(キシダ化学製)を濃度1Mで溶解させたものを使用した。
【0068】
次に、空気極メッシュ16に空気極合材17を押さえつけて、空気極メッシュ16に空気極合材17をめり込ませた。空気極メッシュ16として、厚み150μm、直径15mmのNiメッシュを使用した。空気極合材17として、ケッチェンブラック(KB)82重量部と、ポリテトラフルオロエタン(PTFE)3重量部と、LiMnO15重量部とをめのう乳鉢にて混練したものを使用した。次に、一体化した空気極メッシュ16および空気極合材17を、空気極集電体18が溶接にて接合された空気極ケース10上に設置した。空気極集電体18として、厚み150μm、直径15mmのNiメッシュを使用した。次に、空気極ケース10にガスケット11をはめ込んだ。
【0069】
次に、得られた負極ケースおよび空気極ケースを、コインセル用かしめ機(宝泉製)を用いて接合した。このようにしてコインセルを得た。
【0070】
[実施例2〜15]
空気極合材の組成を、下記表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてコインセルを得た。
【0071】
[比較例]
LiMnOの代わりに、電解MnO粉末(高純度化学研究所製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてコインセルを得た。
【0072】
【表1】

【0073】
[評価]
実施例1〜15および比較例で得られたコインセルを用いて、放電容量試験およびサイクル試験を行った。
【0074】
(1)放電容量試験
放電容量試験により、一次電池としての機能を評価した。まず、得られたコインセルをセルケースにはめ込み、それをガラス容器に入れ、アルミニウム製の蓋で密閉した。なお、正極端子および負極端子の配線は、アルミニウム製の蓋から取り出せるようにした。このガラス容器をアルゴンボックスから取り出し、アルミニウム製の蓋に備え付けられた配管を用いて、ガラス容器内をアルゴンから酸素にガス置換した。その後、以下の放電条件で放電を行い、放電容量を測定した。その結果を表2に示す。なお、下記(g−carbon)とは、正極層中のカーボン重量をいう。
・放電条件:50mA/(g−carbon)の電流で電池電圧2Vになるまで放電を行う
【0075】
(2)サイクル試験
サイクル試験により、二次電池としての機能を評価した。まず、得られたコインセルをセルケースにはめ込み、それをガラス容器に入れ、アルミニウム製の蓋で密閉した。なお、正極端子および負極端子の配線は、アルミニウム製の蓋から取り出せるようにした。このガラス容器をアルゴンボックスから取り出し、アルミニウム製の蓋に備え付けられた配管を用いて、ガラス容器内をアルゴンから酸素にガス置換した。その後、以下の放電条件および充電条件で充放電を行い、10サイクル目の放電容量を測定した。その結果を表2に示す。
・放電条件:50mA/(g−carbon)の電流で電池電圧2Vになるか、1500mAh/(g−carbon)の電気量に到達するまで放電を行う
・充電条件:25mA/(g−carbon)の電流で電池電圧4.3Vになるまで充電を行う
なお、サイクル試験は放電から開始した。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示されるように、実施例1〜15で得られたコインセルは、比較例で得られたコインセルと比較すると、初回の放電容量が約2倍になり、出力性能が向上することが確認された。このことから、一次空気電池として考えた場合に、本発明の空気電池は、優れた放電特性を示すことがわかった。一方、サイクル試験の結果、比較例で得られたコインセルと比較して、初回、1500mAh/(g−carbon)に対し、実施例1〜15で得られたコインセルはいずれも高い容量維持率を示すことが明らかになった。これは、実施例で用いた触媒により酸素の授受がスムーズになり、放電のみならず、充電においても効果的に触媒が寄与した結果である推察される。
【符号の説明】
【0078】
1 … 電池ケース
1a … 下部絶縁ケース
1b … 上部絶縁ケース
2 … 負極集電体
2´ … 負極リード
3 … 負極層
4 … 空気極層
5 … 空気極メッシュ
6 … 空気極集電体
6´ … 空気極リード
7 … セパレータ
8 … 微多孔膜
9 … 電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素と、酸素元素とから構成される複合酸化物であり、
前記複合酸化物が、LiMnO、LiTi12、LiTiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiVO、LiFeO、NaMnO、CaMnO、CaFeO、MgTiOまたはKMnOであることを特徴とする空気電池用触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の空気電池用触媒と、導電性材料とを含有することを特徴とする空気極合材。
【請求項3】
請求項2に記載の空気極合材を用いてなる空気極層、および前記空気極層の集電を行う空気極集電体を有する空気極と、負極活物質を含有する負極層、および前記負極層の集電を行う負極集電体を有する負極と、前記空気極層および前記負極層の間に設置されたセパレータと、前記空気極層および前記負極層の間で金属イオンの伝導を担う電解質と、を有することを特徴とする空気電池。
【請求項4】
上記空気極層および上記負極層の間を伝導する上記金属イオンが、前記空気電池用触媒を構成するアルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の金属イオンと同一であることを特徴とする請求項3に記載の空気電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−101966(P2013−101966A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−11762(P2013−11762)
【出願日】平成25年1月25日(2013.1.25)
【分割の表示】特願2008−101473(P2008−101473)の分割
【原出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】