説明

空調設備

【課題】優れた成績係数を有する空調設備を提供する。
【解決手段】空調設備は、貯水槽を有する蓄熱装置と、蓄熱装置に接続されている冷暖房装置とを備える。冷暖房装置は、熱交換器32,34を含む。冷暖房装置は、冷房を行なう場合に、冷水を下部接続管49から凝縮器としての熱交換器32に移送して熱交換を行った後に、上部接続管48に戻すように形成されている。蒸発器としての熱交換器34に熱媒体を供給して熱交換を行なった後に、施設に熱媒体を供給するように形成されている。冷暖房装置は、暖房を行なう場合に、温水を上部接続管48から蒸発器としての熱交換器32に移送して熱交換を行った後に、下部接続管49に戻すように形成されている。凝縮器としての熱交換器34に熱媒体を供給して冷媒と熱交換を行なった後に、施設に熱媒体を供給するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空調設備としては、空気熱源式のヒートポンプを用いた冷暖房設備が普及している。また、事務所等の事業用建築物には、クーリングタワーを備える水冷式の冷房設備がある。さらに大規模になると、河川水や海水の温度が季節を問わず大きく変動しないことを利用した地域冷暖房システムがある。
【0003】
特開平11−211159号公報においては、零度以下の外気温になるときに、熱交換器のパイプ内の不凍液の温度が0℃以下にまで下げられて、配管を通って蓄熱槽のパイプ内に送られ、蓄熱槽の水を凍らせて氷を製造する季節間熱利用システムが開示されている。この季節間熱利用システムにおいては、夏期などの冷房を必要とする季節までの長期間、氷を蓄熱槽に貯蔵されることが開示されている。
【0004】
特開2003−343988号公報においては、蓄熱槽本体の上方中央部に上部主管を水平方向に沿って配設して、下方中央部に下部主管を水平方向に沿って配設して、上部主管と下部主管とをポンプを有する循環通路により連結して熱交換器を設けるとともに、開閉弁を有する給排通路を介して冷房設備あるいは暖房設備に連結する蓄熱槽が開示されている。
【0005】
特開平10−54681号公報においては、冬期の夜間にはヒートポンプで加温された水を上部側から取り込むために上部側に取込み口を向けた蓄熱槽を温水専用槽とするとともに、夏期の夜間などには冷却された水を下部側から取込むために下部側に取込み口を向けた蓄熱槽を冷水専用槽とするように、配管内の水の通過方向を適宜切り換える切換手段と備えた蓄熱槽装置が開示されている。
【0006】
特開2004−60995号公報には、ベースコンクリートの上面にタンク本体を装設して、このタンク本体を構築する側壁と底壁の構造を断熱構造にした蓄熱タンクが開示されている。
【特許文献1】特開平11−211159号公報
【特許文献2】特開2003−343988号公報
【特許文献3】特開平10−54681号公報
【特許文献4】特開2004−60995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空調設備の効率を表す指標として成績係数が用いられている。成績係数は、加えられた仕事の何倍の熱を移動させたかを表す比率である。成績係数が大きいほど、冷房装置または暖房装置の効率が優れている。
【0008】
空冷式の冷房装置は、夏期に50℃前後の温廃熱を環境中に排出することから、冷房需要の大きい都市部においてヒートアイランド現象の原因になっている。しかも、冷房装置を稼動させるほど都市部の気温の上昇を付勢する。この結果、冷房負荷がさらに大きくなるとともに、気温の上昇に伴って成績係数が悪化するという悪循環を招いている。冷房装置の消費電力または燃料が増加することになり、地球温暖化の大きな要因といわれているCOの排出量が大きくなっている。
【0009】
また、空冷式の冷房装置の場合には外気温度が上昇して、都市部に強い上昇気流が発生する。クーリングタワーによる水冷式の冷房装置の場合には、水温を6℃低下させるために約1%の水が蒸発して、多くの水蒸気が発生して都市部に上昇気流が発生する。さらに、海水または河川水を利用した水冷式の場合も、廃水が外気温度以上で排出されるために水蒸気が発生して上昇気流が発生する。
【0010】
このように、環境中に温廃熱を排出する場合には、如何なる冷却方法であっても、夏期の冷房需要が集中する都市部において、強い上昇気流が発生しやすい状況にある。大都市圏において夏期に突然積乱雲が発生して夕立のように雨が降る現象も蒸気の上昇気流に大きな要因があるといわれており、環境に悪影響を与えている。
【0011】
ヒートポンプを用いた蒸気圧縮式の冷暖房装置では、より高温またはより低温を得ようとすると、成績係数が低下することが知られている。たとえば、猛暑日の暑い外気の元での冷房や、真冬日の寒い外気の元での暖房が効きにくいことからも理解できる。
【0012】
図8に、ヒートポンプを用いた蒸気圧縮式の冷房装置の冷却水温度と成績係数との関係を説明するグラフを示す。冷房時の冷却水(または冷却空気)の温度が低いほど、成績係数が向上することが分かる。
【0013】
図9に、ヒートポンプを用いた蒸気圧縮式の暖房装置の熱源水温度と成績係数との関係を説明するグラフを示す。暖房時の熱源水(または加熱空気)の温度が高いほど、成績係数が向上することが分かる。
【0014】
海水や河川の水を利用する地域冷暖房システムにおいて、冷房時の冷却水として利用する場合には水温が25℃前後と高く、暖房時の熱源水として使用する場合には水温が10℃〜15℃と低いために、成績係数の大幅な向上は期待できない。たとえば、蒸気圧縮式の冷暖房装置を用いて、夏期に河川水や海水を冷却水としてクーリングタワーで冷媒の冷却を行ったときの成績係数は3〜4である。冬期に河川水や海水を暖房時の熱源水として使用したときの成績係数は3程度である。
【0015】
また、海水や河川の水を夏期の冷却水として使用する場合には、水温が高いことから大量の水を使用しなければならない。冬期の熱源水として使用する場合にも、水温がそれほど高くないことから大量の水を使用しなければならない。夏期および冬期ともに、大量の水を使用するために、ポンプ動力が大きくなって大量のエネルギーを消費していた。さらに、夏期の温廃熱または冬期の低温排熱をそのまま環境に捨てており、前述のヒートアイランド現象等の大きな要因にもなっている。
【0016】
このように、冷暖房装置の冷却や加熱に、海水や河川の水を利用したり大気を使用したりする限り、蒸気圧縮式やガス吸収式などの冷暖房の方式に関わらず、空調設備の成績係数の大幅な向上は期待できないという問題があった。
【0017】
本発明は、優れた成績係数を有する空調設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の空調設備は、貯水槽を有する蓄熱装置と、蓄熱装置に接続され、施設の冷暖房を行なう冷暖房装置とを備える。蓄熱装置は、貯水槽の上部に溜まる温水の流入または流出を行う上部接続管と、貯水槽の下部に溜まり、温水よりも低温の冷水の流入または流出を行う下部接続管とを含む。冷暖房装置は、冷媒を凝縮するための凝縮器と、冷媒を蒸発させるための蒸発器とを含む。冷暖房装置は、冷水を下部接続管から凝縮器に移送して冷媒と熱交換を行った後に、上部接続管に戻すように形成されている冷水供給手段と、蒸発器に熱媒体を供給して冷媒と熱交換を行なった後に、施設に熱媒体を供給する冷房時熱媒体供給手段を含む。冷暖房装置は、温水を上部接続管から蒸発器に移送して熱交換を行った後に、下部接続管に戻すように形成されている温水供給手段と、凝縮器に熱媒体を供給して冷媒と熱交換を行なった後に、施設に熱媒体を供給する暖房時熱媒体供給手段とを含む。冷房を行なう場合に、冷水供給手段および冷房時熱媒体供給手段を駆動するように形成されている。暖房を行なう場合に、温水供給手段および暖房時熱媒体供給手段を駆動するように形成されている。
【0019】
上記発明において好ましくは、貯水槽は、水を溜めるための壁部を有し、上面が開口するように形成されている。蓄熱装置は、開口を覆うように配置され、断熱性を有する蓋部材を含む。蓋部材は、水に浮く部材を含む。
【0020】
上記発明において好ましくは、冷水を加熱する加熱装置を備え、加熱装置は、下部接続管から冷水を取水して、加熱した水を上部接続管に戻すように形成されている。
【0021】
上記発明において好ましくは、温水を冷却する冷却装置を備え、冷却装置は、上部接続管から温水を取水して、冷却した水を下部接続管に戻すように形成されている。
【0022】
上記発明において好ましくは、壁部および蓋部材は、一年を通じて温水および冷水との間で温度境界面が形成される断熱性を有するように形成されている。貯水槽は、冷房により一年間に使用する冷水の全量および暖房により一年間に使用する温水の全量よりも大きな容量を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、優れた成績係数を有する空調設備を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(実施の形態1)
図1から図3を参照して、実施の形態1における空調設備について説明する。本実施の形態における空調設備は、液体を蓄熱材とする蓄熱装置を備える。空調設備は、蓄熱装置に接続され、施設の冷暖房を行う冷暖房装置を備える。
【0025】
図1に、本実施の形態における空調設備の蓄熱装置の概略断面図を示す。本実施の形態における蓄熱装置は、海74に造られている。蓄熱装置は、水を溜めるための壁部としての堤防11を備える。本実施の形態における堤防11は、コンクリートで形成されている。堤防11は、海底75から立設するように形成されている。堤防11は、海面から上側に飛び出すように形成されている。海底75と堤防11とにより、上面が開口する貯水槽が形成されている。
【0026】
堤防11は、貯水槽の内側と外側とを隔離するように形成されている。本実施の形態における堤防11は、上側から見たときに、閉じた略四角形に形成されている。堤防11を平面視したときの大きさは、たとえば、一辺の長さが500mであり、他辺の長さが500mである。堤防11の厚さは、たとえば5mになるように形成されている。堤防11の高さは、たとえば10m以上である。貯水槽の容積は、たとえば10万m3以上である。本実施の形態における貯水槽には、蓄熱材として海水が充填されている。
【0027】
蓄熱装置は、貯水槽の開口を覆うように配置されている蓋部材としての発泡スチロール16を備える。蓋部材は、断熱性を有するように形成されている。本実施の形態においては、発泡スチロール16が複数層に積み重ねられている。本実施の形態における蓋部材は、水に浮く部材で形成されている。発泡スチロール16は、貯水槽に溜められている水に浮いている。蓋部材としては、この形態に限られず、断熱性を有していれば構わない。蓋部材としては、たとえば、発泡ウレタンであっても構わない。
【0028】
蓄熱装置は、発泡スチロール16の上面に敷設されている防水部材としての防水ゴムシート17を備える。防水ゴムシート17は、発泡スチロール16の表面全体を覆うように配置されている。防水ゴムシート17が配置されていることにより、貯水槽の内部に雨や異物などが侵入することを防止することができる。さらには、水の蒸発を抑えたり、大気を遮断したりすることができる。
【0029】
防水ゴムシート17が、堤防11に向かって延びることにより、雨水路14が形成されている。堤防11は、内部に排水溝12を有する。雨水路14は、排水溝12まで延びている。雨水は、雨水路14および排水溝12を通って排出される。本実施の形態における堤防11の上面は、周回道路13として用いられている。
【0030】
防水ゴムシート17の表面には、人工芝材23が配置されている。人工芝材23が配置されることにより、蓋部材の表面を、グランドなどの多目的用地として利用することができる。
【0031】
貯水槽においては、水を溜めることにより、温度の高い高温部71が形成される。また、高温部より温度の低い低温部72が形成される。高温部71と低温部72との間には、温度境界面73が形成される。温度境界面73を形成するために、貯水槽は深さが10m以上であることが好ましい。貯水槽に溜まる水の温度は、80℃以下が好ましい。高温部71に溜まる温水の温度は、たとえば40℃以上60℃以下である。低温部72に溜まる温水よりも温度の低い冷水の温度は、たとえば0℃以上20℃以下である。
【0032】
本実施の形態においては、夏期の冷房時には、冷暖房装置において貯水槽に貯留する低温部72の冷水を用いる。冬期の暖房時には、冷暖房装置において貯水槽に貯留する高温部71の温水を用いる。貯水槽は、一年間に冷房時に冷暖房装置で使用する冷水の全量よりも大きな容量を有する。また、一年間に暖房時に冷暖房装置で使用する温水の全量よりも大きな容量を有する。ここで、一年間の起算日は、夏と冬の間の空調設備を用いない日を選定することが好ましい。また、本実施の形態における堤防11および発泡スチロール16は、1年を通じて、高温部71と低温部72との間の温度境界面73が維持されるような断熱性を有する。
【0033】
本実施の形態における蓄熱装置は、温水の流入または流出を行なう上部接続管48を備える。上部接続管48は、水が溜まる領域の上端部に配置されていることが好ましい。蓄熱装置は、冷水の流入または流出を行なう下部接続管49を備える。下部接続管49は、水が溜まる領域の下端部に配置されていることが好ましい。また、冷房または暖房を行うことにより温度境界面73が上下するが、上部接続管48は、常に高温部71に接続される位置に配置されることが好ましい。また、下部接続管49は、常に低温部72に接続される位置に配置されていることが好ましい。
【0034】
本実施の形態における発泡スチロール16としては、30倍発泡の発泡スチロールが用いられている。30倍発泡の発泡スチロールを想定した時の嵩比重は、約0.03t/mである。1mの厚さの発泡スチロールを水に浮かすと約3cmしか水没しない。即ち、厚さ1mの発泡スチロールは、1mあたり970kgの荷重まで水没しない。発泡スチロールを2m程度の厚さまで重ねることにより、多目的広場等での自動車の走行も十分に可能になる。
【0035】
鉄などで形成される浮体構造物を水面に浮かせる浮体工法によって、空港島を建設等することが考えられるが、浮体構造物が非常に大きいために、潮流および台風等により巨大な力が働き、アンカー等で海上の一箇所に固定することは、非常な困難が伴うと考えられる。さらに、鉄を主体とした浮体構造物を使用するため、常に防錆対策を講じる必要がある。
【0036】
本実施の形態においては、コンクリート等の構造物で貯水槽の壁部を形成している。蓋部材を壁部に容易に固定することができる。蓋部材が潮流、台風または海水面のうねり等の影響を受けることを抑制できる。さらに、蓋部材として発泡スチロールを用いることにより、金属製の浮体構造物に生じる防錆の問題を排除することができる。
【0037】
図2に、本実施の形態における空調設備の第1の概略図を示す。図2は、夏期に冷房を行う場合の概略図である。本実施の形態における冷暖房装置は、蓄熱装置に接続され、蓄熱装置からの液体により冷媒の加熱または冷却を行なうように形成されている。
【0038】
本実施の形態における冷暖房装置は、蒸気圧縮式の冷暖房装置である。本実施の形態における冷暖房装置は、コンプレッサ31を備える。コンプレッサ31は、冷媒を圧縮することにより、冷媒を加熱するように形成されている。コンプレッサ31には、三方弁37,38を介して熱交換器32が接続されている。冷房を行う場合の熱交換器32は、凝縮器である。凝縮器は、冷媒を凝縮すると同時に冷媒の熱を放出することができるように形成されている。冷暖房装置は、熱交換器32に接続されている膨張弁33を備える。冷暖房装置は、膨張弁33に接続されている熱交換器34を備える。冷房を行う場合の熱交換器34は、蒸発器である。蒸発器は、冷媒が蒸発することにより、蒸発潜熱で熱を吸収することができるように形成されている。熱交換器34は、三方弁39,40を介してコンプレッサ31に接続されている。
【0039】
冷暖房装置は、冷房を行なう場合に、貯水槽に貯留する冷水を下部接続管49から熱交換器32に移送して熱交換を行った後に、上部接続管48に戻すように形成されている冷水供給手段を含む。本実施の形態における冷水供給手段は、下部接続管49、三方弁41〜44、ポンプ35および機器を接続する配管を含む。下部接続管49は、三方弁41,42を介して熱交換器32に接続されている。熱交換器32は、三方弁43,44を介して上部接続管48に接続されている。熱交換器32の上流側には、ポンプ35が配置されている。
【0040】
冷暖房装置は、冷房を行う場合に、熱交換器34に熱媒体を供給して冷媒と熱交換を行なった後に、施設30に熱媒体を供給する冷房時熱媒体供給手段を備える。熱媒体としては、水や空気などの流体を用いることができる。本実施の形態における冷房時熱媒体供給手段は、三方弁45,46、ポンプ36および機器を接続する配管を含む。施設30から熱媒体が排出される管は、三方弁45を介して熱交換器34に接続されている。熱交換器34は、三方弁46を介して施設30に熱媒体を供給する管に接続されている。
【0041】
コンプレッサ31で圧縮された冷媒は、矢印91に示すように、三方弁37,38を通って、熱交換器32に移送される。凝縮器としての熱交換器32においては、冷媒が冷却される。このときに、矢印102に示すように熱が移動する。熱交換器32で冷却された冷媒は、矢印92に示すように膨張弁33に移送され、膨張弁33にて膨張する。冷媒は、この後に、矢印93に示すように蒸発器としての熱交換器34に移送される。熱交換器34においては、冷媒が蒸発することにより、矢印101に示すように熱を吸収する。熱交換器34にて蒸発した冷媒は、矢印94に示すように、三方弁39,40を通ってコンプレッサ31に戻る。
【0042】
冷房を行なう場合には、冷房時熱媒体供給手段を駆動する。ポンプ36を駆動することにより、矢印97に示すように、熱媒体が三方弁45を通って熱交換器34に移送される。熱媒体は、熱交換器34にて冷却される。熱媒体は、矢印98に示すように、三方弁46を通って、施設30に供給される。施設30においては、たとえば、熱媒体が内部を循環する。熱媒体を冷熱源として各部屋の空調機で冷房が行われる。施設30の内部を循環して、温度が上昇した熱媒体は、矢印97に示すように再び熱交換器34に移送される。
【0043】
冷房を行なう場合には、冷水供給手段を駆動する。ポンプ35を駆動することにより、矢印95に示すように、低温部72の冷水が下部接続管49および三方弁41,42を通って熱交換器32に移送される。低温部72の水温は、たとえば約10℃である。凝縮器としての熱交換器32において熱交換が行われることにより水の温度が上昇する。たとえば、約55℃の温水になる。高温になった水は、矢印96に示すように、三方弁43,44および上部接続管48を通って高温部71に戻される。このように、凝縮器において、貯水槽に溜まる温度の低い冷水を用いて冷媒を冷却することができる。
【0044】
貯水槽においては、低温部72の水が減少して高温部71の水が増加する。温度境界面73は、矢印83に示すように低温部72に向かって下降する。
【0045】
図3に、本実施の形態における空調設備の第2の概略図を示す。図3は、冬期に暖房を行う場合の概略図である。コンプレッサ31は、三方弁37,39を介して熱交換器34が接続されている。暖房を行う場合の熱交換器34は、凝縮器である。冷暖房装置は、熱交換器34に接続されている膨張弁33を備える。冷暖房装置は、膨張弁33に接続されている熱交換器32を備える。暖房を行う場合の熱交換器32は、蒸発器である。熱交換器32は、三方弁38,40を介してコンプレッサ31に接続されている。
【0046】
冷暖房装置は、暖房を行なう場合に、貯水槽に貯留する温水を、上部接続管48から熱交換器32に移送して熱交換を行った後に、下部接続管49に戻すように形成されている温水供給手段を含む。本実施の形態における温水供給手段は、上部接続管48、三方弁41〜44、ポンプ35および機器を接続する配管を含む。上部接続管48は、三方弁41,42を介して熱交換器32に接続されている。熱交換器32は、三方弁43,44を介して下部接続管49に接続されている。
【0047】
冷暖房装置は、暖房を行う場合に、熱交換器34に熱媒体を供給して冷媒と熱交換を行なった後に、施設30に熱媒体を供給する暖房時熱媒体供給手段を備える。本実施の形態における暖房時熱媒体供給手段は、三方弁45,46、ポンプ36および機器を接続する配管を含む。施設30から熱媒体が排出される管は、三方弁45を介して熱交換器34に接続されている。熱交換器34は、三方弁46を介して施設30に熱媒体を供給する管に接続されている。
【0048】
コンプレッサ31で圧縮された冷媒は、矢印91に示すように、三方弁37,39を通って、熱交換器34に移送される。凝縮器としての熱交換器34においては、冷媒は冷却される。このときに、矢印102に示すように熱が移動する。熱交換器32で冷却された冷媒は、矢印92に示すように膨張弁33に移送され、膨張弁33にて膨張される。冷媒は、この後に、矢印93に示すように、蒸発器としての熱交換器32に移送される。熱交換器32においては、冷媒が蒸発することにより、矢印101に示すように熱を吸収する。熱交換器32にて蒸発した冷媒は、矢印94に示すように、三方弁38,40を通ってコンプレッサ31に戻る。
【0049】
暖房を行なう場合には、暖房時熱媒体供給手段を駆動する。ポンプ36を駆動することにより、矢印105に示すように、熱媒体が三方弁45を通って熱交換器34に移送される。熱媒体は、熱交換器34にて加熱される。熱媒体は、矢印106に示すように、三方弁46を通って、施設30に供給される。施設30においては、たとえば、熱媒体が内部を循環する。熱媒体を温熱源として暖房が行われる。施設30の内部を循環して、温度が下降した熱媒体は、矢印105に示すように再び熱交換器34に移送される。
【0050】
暖房を行なう場合には、温水供給手段を駆動する。ポンプ35を駆動することにより、矢印103に示すように、高温部71の温水が、高温接続管48および三方弁41,42を通って熱交換器32に移送される。高温部71の水温は、たとえば約50℃である。蒸発器としての熱交換器32において熱交換が行われることにより水温が下降する。たとえば、約5℃の冷水になる。低温になった水は、矢印104に示すように、三方弁43,44を通って下部接続管49に戻される。このように、蒸発器において、貯水槽に溜まる温度の高い温水を用いて冷媒を加熱することができる。
【0051】
貯水槽においては、高温部71の温水が減少して低温部72の冷水が増加する。温度境界面73は、矢印86に示すように高温部71に向かって上昇する。すなわち、夏期の冷房時に下がった温度境界面が元に戻る。冷房時に温度境界面73が下降して、暖房時に温度境界面73が上昇する。毎年この移動を繰り返す。
【0052】
図2および図3を参照して、本実施の形態における冷暖房装置は、コンプレッサ31により冷媒が循環する循環流路にT字の流路を付加して、それぞれの分岐点に三方弁37〜40が配置されている。三方弁37〜40を切り替えることにより、冷媒の循環方向を逆転できるように形成されている。また、熱交換器32,34を、冷房時および暖房時において、凝縮器または蒸発器として切り替えて使用している。この構成により、蓄熱装置の水が通る流路と、施設の冷房または暖房を行う熱媒体が通る流路とを分離することができる。
【0053】
また、施設に冷媒を供給する流路においては、三方弁45,46を配置して、熱交換器34にて熱媒体が流れる向きを変更できるように形成されている。この構成により、熱交換器34において向流にすることができる。蓄熱装置の水を熱交換器32に供給する流路においても同様に、三方弁42,43を配置することにより、熱交換器32において向流にすることができる。熱交換器においては、向流に限られず、並流であっても構わない。
【0054】
本実施の形態における空調設備は、夏期の温排熱を蓄熱して冬期の暖房に利用する。さらに、冬期の低温排熱を蓄熱して夏期の冷房に利用する。この方法により、成績係数を飛躍的に向上させることができる。たとえば、従来の空気熱源または水熱源による方法よりも、成績係数を2〜3倍程度向上させることができる。冷房時の冷却水の温度を低くすることができて、冷媒凝縮温度を低く、かつ過冷却域を大きく取ることができる。同一の圧縮動力に対して大きな熱移動量を確保することができる。この結果、成績係数の大幅な向上が可能になる。同様に、冬期の暖房時においては、熱源水の温度を高くすることができ、冷媒蒸発温度を高く、かつ過熱域を大きく取ることができる。同一の圧縮動力に対して大きな熱移動量を確保することができる。この結果、成績係数の大幅な向上が可能になる。
【0055】
本実施の形態における空調設備は、大幅な省エネルギー化が可能となる。たとえば、冷房時には、消費電力を約1/2にすることができ、暖房時には、消費電力を約1/3にすることができる。CO排出量も約1/2〜約1/3と大幅に削減することができる。
【0056】
また、冷房時に使用する冷却水の温度が低く、暖房時に使用する熱源水の温度が高いために、冷却水または熱源水の使用量が大きく減少する。同一廃熱量に対する冷却水量または熱源水量は出入口温度差に逆比例することから、海水や河川水を使用した場合に比較して、冷却水または熱源水の使用量を約1/2〜約1/3にすることができる。この結果、ポンプのエネルギー消費量を約1/2〜約1/3と大幅な削減することができるとともに、CO排出量も約1/2〜約1/3と大幅に削減することができる。または、冷却水または熱源水を移送するポンプの小型化を図ることができる。
【0057】
本実施の形態における空調設備は、夏期の冷房時には、冷水を貯水槽下部から取り出して、温水を貯水槽上部に還流させる。高温部にて高温廃熱が蓄熱される。冬期の暖房時には、温水を貯水槽上部から取り出して、冷水を貯水槽下部に還流させる。低温廃熱が蓄熱される。このサイクルを毎年繰り返す。本実施の形態における空調設備は、廃熱を環境に排出しないために、環境への影響を軽減することができる。特に、夏期においては、冷房による廃熱を環境に排出しないために、都市部におけるヒートアイランド現象の解消に大きく寄与する。または、上昇気流を抑制することができる。さらに、本実施の形態における空調設備は、既設の冷暖房装置をほとんど改造することなく使用することができる。
【0058】
また、蓄熱装置は、冷水を加熱する加熱装置をさらに備えていても構わない。加熱装置は、下部接続管から冷水を取水して、加熱した水を上部接続管に戻すように形成されていることが好ましい。たとえば、夏期に低温部の冷水を汲み上げて、ソーラー集熱等で50℃以上に昇温した後に貯水槽の高温部に還流する。蓄熱装置は、温水を冷却する冷却装置をさらに備えていても構わない。冷却装置は、上部接続管から温水を取水して、冷却した水を下部接続管に戻すように形成されていることが好ましい。たとえば、冬期に高温部の温水を取水して、クーリングタワー等で10℃以下に冷却した後に貯水槽の低温部に還流する。
【0059】
蓄熱装置に接続する冷暖房装置の特性、冷暖房の需要量、またはその年の気候等により、冷房時に使用する冷水の量と暖房時に使用する温水の量とが異なる場合がある。このような場合に、加熱装置を駆動することにより、夏期に温水の量を多くすることができる。または、冷却装置を駆動することにより、冬期に冷水の量を多くすることができる。
【0060】
本実施の形態における貯水槽は、夏期に50℃程度の高温水を貯留して、冬期に10℃程度の低温水を貯留するために、一年を通じて温度境界面が上下する。生物が生存しにくい環境になる。このために、貝の増殖や貝の壁面への付着を大きく抑制することができる。
【0061】
次に、本実施の形態における空調設備を想定して、本発明の効果を計算した結果について説明する。始めに蓄熱装置の断熱性について説明する。本実施の形態においては、堤防がコンクリートで形成され、貯水槽の開口には上蓋としての発泡スチロールが配置されている。堤防の厚さが5m、上蓋の厚さが2m、一年を通じて海水温度が20℃、外気温度が20℃と仮定して、半年間(180日)の上蓋および堤防からの放熱量を計算した。さらに、高温部の温度変化量および低温部の温度変化量を計算した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】


高温部の温度変化量は、0.3℃であり、低温部の温度変化量は−0.1℃である。このように、貯水槽の内部に貯留する水の温度変化は十分に小さいことが分かる。この結果、貯水槽内部において温度境界面が維持されることが分かる。
【0063】
本実施の形態における蓄熱装置は、上部に十分な厚みを有する発泡スチロールが配置され、さらにゴムシートで覆われているために、高温部から外気への放熱を十分に小さくして半年間以上の蓄熱することが十分可能である。また、貯水槽の隔壁も十分な厚みを有するコンクリートで形成されていることから、外界から海水の侵入を防ぐだけでなく、充分な断熱性能を有している。なお、湖沼における最深部の水温は四季を通じて4℃程度と安定していることからも理解できるように、特殊な地域でない限り、地下からの熱の流入はほとんどないと考えられる。
【0064】
次に、本実施の形態における空調設備の効果を計算した結果について説明する。床面積100000mの大型事務所ビル(2000m×50階)において、参考例としての河川の水や海水等を利用する地域冷暖房システムと本実施の形態における空調設備(季節間蓄熱システム)を用いた場合について比較する。計算においては、次の表2の条件を用いる。
【0065】
【表2】


冷暖房装置の成績係数を算出した結果を表3に示す。
【0066】
【表3】


参考例の地域冷暖房システムの冷房時の成績係数が4.1であるのに対して、本実施の形態における空調設備の成績係数は7.8であり、約2倍の成績係数を得ることができている。暖房時のおいても、本実施の形態における空調設備は、参考例の成績係数の約3倍の成績係数を得ることができている。
【0067】
次に、大型事務所ビルにて冷暖房を行うときの計算条件を表4に示す。冷房の稼働日数および暖房の稼働日数をそれぞれ120日とした。エネルギー消費量、排熱量、使用水量およびCO排出量等について算出した結果を表5に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】


上記の結果から、大型事務所ビル(2000m×50階)において、参考例の地域冷暖房における一年間の冷暖房装置消費電力量は806万kwh、冷却水または熱源水の使用量は193万tおよびCOの排出量は2685tである。これに対して、本実施の形態における空調設備の場合には、一年間の冷暖房装置消費電力量は336万kwhであり、参考例と比較して58%削減されている。冷却水または熱源水の使用量は66万tであり、66%の削減になっている。COの排出量は1118tであり、58%の削減効果が得られている。このように、全ての項目において、50%以上の削減量を得ることができ、大幅な省エネルギー効果を得ることができる。
【0070】
さらに、比較例の地域冷暖房システムにおいては、夏期の冷却水の出口温度が約40℃にも達し、環境中の水温よりも約15℃も高い温廃水を排出する。その廃水量は119万tに達することから、その廃熱量は752億kJと莫大な熱量となる。この熱量は、灯油約1800tを燃焼させた時の熱量に相当して、ヒートアイランド現象の原因にもなっている。冬期の地域冷暖房システムでは、約20℃で利用される熱源水が熱を奪われて、同一環境中の水温よりも約15℃も低い冷水を出し、その廃水量は73万tにも達することから、その低温廃熱量は−462億kJと莫大な量となる。
【0071】
本実施の形態における空調設備は、これらの高温廃熱および低温廃熱を蓄熱装置で蓄熱することができ、大幅な省エネルギーが図れるとともに、ヒートアイランド現象等の環境悪化の防止に大きく寄与することができる。
【0072】
本実施の形態においては、冷房を行なう場合に、冷水供給手段および冷房時熱媒体供給手段を駆動するように形成され、暖房を行なう場合に、温水供給手段および暖房時熱媒体供給手段を駆動するように形成されている。本実施の形態においては、冷房時の流路と暖房時の流路の切替えを三方弁で行っているが、この形態に限られず、任意の流路構成により、冷房と暖房の切替えを行うことができる。
【0073】
本実施の形態においては、防水ゴムの表面に人工芝材を敷設して多目的用地としているが、この形態に限られず、たとえば、競技場、野球場、テニスコート、ゴルフ練習場、駐車場、公園、または空港等の大規模用地として提供することができる。このように、貯水槽上面の空間を有効に利用できる。
【0074】
本実施の形態においては、ビル内を循環する熱媒体を用いて冷房または暖房を行なっているが、この形態に限られず、熱交換器に空気を供給して温度が低下または上昇した空気を施設の内部で分配しても構わない。
【0075】
本実施の形態における空調設備は、施設から離れて配置されているが、この形態に限られず、施設の内部に配置されていても構わない。たとえば施設の地下に冷暖房装置が配置されていても構わない。
【0076】
本実施の形態においては、空調設備について説明したが、夏期には、冷暖房装置に加えて、冷凍機や冷水機が接続されていても構わない。また、冬期には、冷暖房装置に加えて、温水装置が接続されていても構わない。
【0077】
本実施の形態においては、蓋部材として水に浮く断熱部材が用いられているが、この形態に限られず、蓋部材としては、水に浮く任意の断熱部材を採用することができる。たとえば、発泡ウレタンを用いることができる。また、蓋部材としては、水に浮く浮体構造物と、水に沈む断熱部材とを含んでいても構わない。この場合の断熱部材としては、断熱性を有するグラスウールなどを採用することができる。壁部においては、表面に断熱部材が配置されていても構わない。
【0078】
本実施の形態においては、海に貯水槽を形成しているが、この形態に限られず、断熱および隔壁構造の堤防、擁壁または遮断壁等を形成することにより、地上や地下、河川または湖などに形成することができる。蓄熱材としては、海水または淡水などの液体を採用することができる。
【0079】
本実施の形態においては、1個の蓄熱装置に1個の冷暖房装置が接続されているが、この形態に限られず、任意の個数の蓄熱装置に任意の個数の冷暖房装置が接続されていても構わない。
【0080】
(実施の形態2)
図4および図5を参照して、実施の形態2における空調設備について説明する。本実施の形態における空調設備は、冷暖房装置の構成が実施の形態1と異なる。本実施の形態における冷暖房装置は、駆動源がガスによる吸収式の冷暖房装置である。
【0081】
図4に、本実施の形態における冷暖房装置の主要部の第1の概略図を示す。図4は、夏期に冷房を行う場合の概略図である。本実施の形態における冷暖房装置は、再生器52を備える。再生器52の内部には、吸水性を有する吸収液56aが配置されている。本実施の形態においては、吸収液56aとして臭化リチウムが配置されている。再生器52の吸収液56aは、加熱器としてのバーナー51によって加熱されるように形成されている。再生器52の内部の圧力は、例えば680〜700mmHgである。
【0082】
再生器52は、凝縮器53に接続されている。凝縮器53の内部には、熱交換器53aが配置されている。凝縮器の内部の圧力は、例えば60〜65mmHgである。凝縮器53は、蒸発器54に接続されている。蒸発器54の内部には、熱交換器54aが配置されている。蒸発器54の内部の圧力は、例えば6〜7mmHgである。蒸発器54は、吸収器55に接続されている。吸収器55は、再生器52にて濃縮される吸収液56aが滴下され、底部に貯留するように形成されている。吸収器55は、吸収液56aの濃縮液と水蒸気とが混合された混合液56cを再生器52に戻すように、再生器52に接続されている。吸収器55の内部の圧力は、例えば6〜7mmHgである。
【0083】
吸収液56aは、バーナー51に加熱されることにより再生器52の内部で水蒸気が生成される。水蒸気は、矢印111に示すように、凝縮器53に送られる。水蒸気は、熱交換器53aにて冷却され、水56bが生成される。水56bは、矢印112に示すように、蒸発器54の熱交換器54aに滴下される。蒸発器54の内部は圧力が低いために水蒸気が生成される。水蒸気は、矢印113に示すように吸収器55に送られる。吸収器55には、矢印114に示すように、濃縮された吸収液56aが滴下される。吸収器55においては、この濃縮された吸収液が水蒸気を吸収して、濃度の下がった混合液56cが生成される。混合液56cは、矢印115,116に示すように再生器52に戻される。
【0084】
図1および図4を参照して、ガス吸収方式の冷暖房装置において、夏期の冷房時には、実施の形態1と同様に、蓄熱装置の貯水槽の下部に貯留する冷水が用いられる。蓄熱装置の冷水は、貯水槽の下部接続管49から取水される。冷水は、矢印95に示すように、凝縮器53の熱交換器53aに供給される。冷水は、熱交換器53aにて温度が上昇して、矢印96に示すように排出される。排出される高温の水は、貯水槽の上部接続管48に戻される。
【0085】
一方で、施設の内部を循環する熱媒体は、矢印97に示すように、蒸発器54の熱交換器54aに供給される。熱交換器54aにて、温度が下降した熱媒体は、矢印98に示すように施設に供給される。施設に配置されている空調機にて、低温の熱媒体を用いて冷房が行われる。施設にて温度が上昇した熱媒体は、矢印97に示すように、再び熱交換器54aに送られる。このように、施設の冷房を行なうことができる。
【0086】
図5に、本実施の形態における冷暖房装置の主要部の第2の概略図を示す。図1および図5を参照して、冬期の暖房時には、実施の形態1と同様に、蓄熱装置の貯水槽の上部に貯留する温水が用いられる。蓄熱装置の温水は、貯水槽の上部接続管48から取水される。温水は、矢印103に示すように、蒸発器54の熱交換器54aに供給される。温水は、熱交換器54aにて温度が下降して、矢印104に示すように排出される。排出される低温の水は、貯水槽の下部接続管49に戻される。
【0087】
一方で、施設の内部を循環する熱媒体は、矢印105に示すように、凝縮器53の熱交換器53aに供給される。熱交換器53aにて、温度が上昇した熱媒体は、矢印106に示すように施設に供給される。施設に配置されている空調機により、高温の熱媒体を用いて暖房が行われる。施設にて温度が下降した熱媒体は、矢印105に示すように、再び熱交換器53aに送られる。このように、施設の暖房を行なうことができる。
【0088】
このように、本実施の形態の空調設備においては、冷房時に、施設を循環する熱媒体を蒸発器に供給して、蓄熱装置の冷水を凝縮器に供給する一方で、暖房時に、熱媒体を凝縮器に供給して、蓄熱装置の温水を蒸発器に供給するように、切替え流路が構成されている。
【0089】
本実施の形態におけるガスを動力とする吸収式の冷暖房装置においても、成績係数を向上させることができる。また、環境に放出する熱量を削減することができ、環境悪化を抑制することができる。
【0090】
次に、本実施の形態における冷暖房装置の効果を計算した結果について説明する。実施の形態1と同様に、床面積100000mの大型事務所ビル(2000m×50階)を想定して、従来の技術における海水等を利用する地域冷暖房システムと本実施の形態における空調設備(季節間蓄熱システム)を用いた場合について比較する。計算においては、表6の条件を用いる。成績係数を算出した結果を表7に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
【表7】


参考例の地域冷暖房システムの冷房時の成績係数が1.4であるのに対して、本実施の形態における空調設備の成績係数は2.6であり、約2倍の成績係数を得ることができている。暖房時のおいても、本実施の形態における空調設備は、参考例の成績係数の約2.5倍の成績係数を得ることができている。
【0093】
大型事務所ビルにて冷暖房を行うときの条件として表4の値を用いて、エネルギー消費量、排熱量、使用水量およびCO排出量等について算出した結果を表8に示す。
【0094】
【表8】


表8の結果により、動力源にガスを利用した吸収式の冷暖房装置を採用した場合においても、動力源に電力を用いた蒸気圧縮式の冷暖房装置の場合と同様に、50%以上の大幅な省エネルギー化が図れるとともに、使用水量およびCO排出量についても50%以上の大幅な削減が図れている。また、夏期に放出する莫大な熱量を蓄熱することができ、ヒートアイランド現象等の環境悪化を抑制することができる。
【0095】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0096】
(実施の形態3)
図6および図7を参照して、本実施の形態3における空調設備について説明する。本実施の形態における空調設備は、蓄熱装置が実施の形態1と異なり、冷暖房装置は実施の形態1または2に記載の装置と同様である。蓄熱装置と冷暖房装置とを接続する系統も実施の形態1または2と同様である。
【0097】
図6は、本実施の形態における第1の蓄熱装置の概略断面図である。本実施の形態における第1の蓄熱装置は海上に建設されている。堤防11と海底75により貯水槽が形成されている。堤防11が取り囲む領域には、蓋部材として発泡スチロール16が配置されている。発泡スチロール16の上側には、防水ゴムシート17を介して鉄骨構造物15が配置されている。鉄骨構造物15は、鋼材などを使用して形成することができる。本実施の形態においては、鉄骨構造物15の表面には鋼板が配置され、飛行機18の滑走路として使われている。鉄骨構造物15の内部は、配水管が配置されたり、電線が配置されたりしていても構わない。
【0098】
発泡スチロール等の浮体構造物を厚くすることにより耐荷重を大きくすることができる。さらに、発泡スチロール等の上部に鉄骨構造物等の梁を組むことで一点荷重を面積で支えることができ、重量物が乗ることができる用地を提供することができる。たとえば、飛行機の離発着が可能な空港や大型建築物の建設用地を提供することができる。このように、鋼材等を使用して荷重を分散させる構造体を採用することにより、多目的用地等として使用される用地の平坦性を維持することができる。さらに、蓋部材または鉄骨構造物を堤防に固定することにより、潮流、台風または海水面のうねり等の影響を抑制することができる。
【0099】
図7は、本実施の形態における第2の蓄熱装置の概略断面図である。本実施の形態における第2の蓄熱装置は、地面76を掘って形成されている。地面76を掘った壁面に、コンクリート製の壁部19が形成されている。壁部19は、側壁と底壁を有する。壁部19が取り囲む空間により貯水槽が形成されている。壁部19は、断面形状がコの字型になるように形成されている。壁部19の内部は、水を溜める容器になるように形成されている。
【0100】
壁部19の上面には、排水溝20が形成されている。貯水槽の内部には、支柱21が立設している。支柱21の上部には、横梁22が固定されている。横梁22の上側には、断熱部材としての発泡スチロール16が配置されている。通常使用時には、発泡スチロール16が貯水槽の内部に溜められている水に浮くように形成されている。発泡スチロール16の上面には、防水ゴムシート17を介して人工芝材23が配置されている。防水シートの上側に落下する雨水などは、雨水路14を通って排水溝22に導かれたのちに廃棄される。
【0101】
本実施の形態においては、貯水槽の水位が下降しても横梁22にて発泡スチロール16を支持することができるように形成されている。この構成により、水面が下降しても、発泡スチロール16の降下を止めることができる。多目的用地等の沈下を防止することができる。このため、多量の水を溜めておく防災設備として貯水槽を使用することができる。火災や地震等の緊急時の水源として貯水槽を使用することができる。
【0102】
本実施の形態においては、通常使用時には、蓋部材としての発泡スチロールが水に浮くように形成されているが、この形態に限られず、貯水槽の内部の水面が常に横梁の下側に位置しており、蓋部材が横梁に支持されていても構わない。
【0103】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1または2と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0104】
上記に記載の実施の形態は、本発明を限定するものではなく例示である。それぞれの実施の形態は、適宜組み合わせても構わない。また、それぞれの図において、同一の部分または相当する部分には同一の符号を付している。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】実施の形態1における蓄熱装置の概略断面図である。
【図2】実施の形態1における空調設備の夏期の概略系統図である。
【図3】実施の形態1における空調設備の冬期の概略系統図である。
【図4】実施の形態2における冷暖房装置の主要部の夏期の概略系統図である。
【図5】実施の形態2における冷暖房装置の主要部の冬期の概略系統図である。
【図6】実施の形態3における第1の蓄熱装置の概略断面図である。
【図7】実施の形態3における第2の蓄熱装置の概略断面図である。
【図8】冷房装置における冷却水温度と成績係数との関係を説明するグラフである。
【図9】暖房装置における熱源水温度と成績係数との関係を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0106】
11 堤防
12 排水溝
13 周回道路
14 雨水路
15 鉄骨構造物
16 発泡スチロール
17 防水ゴムシート
18 飛行機
19 壁部
20 排水溝
21 支柱
22 横梁
23 人工芝材
30 施設
31 コンプレッサ
32 熱交換器
33 膨張弁
34 熱交換器
35,36 ポンプ
37〜46 三方弁
48 上部接続管
49 下部接続管
51 バーナー
52 再生器
53 凝縮器
53a 熱交換器
54 蒸発器
54a 熱交換器
55 吸収器
56a 吸収液
56b 水
56c 混合液
71 高温部
72 低温部
73 温度境界面
74 海
75 海底
76 地面
81〜86 矢印
91〜98 矢印
101〜106 矢印
111〜116 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水槽を有する蓄熱装置と、
前記蓄熱装置に接続され、施設の冷暖房を行なう冷暖房装置と
を備え、
前記蓄熱装置は、前記貯水槽の上部に溜まる温水の流入または流出を行う上部接続管と、
前記貯水槽の下部に溜まり、前記温水よりも低温の冷水の流入または流出を行う下部接続管と
を含み、
前記冷暖房装置は、冷媒を凝縮するための凝縮器と、
前記冷媒を蒸発させるための蒸発器と、
前記冷水を前記下部接続管から前記凝縮器に移送して前記冷媒と熱交換を行った後に、前記上部接続管に戻すように形成されている冷水供給手段と、
前記蒸発器に熱媒体を供給して前記冷媒と熱交換を行なった後に、前記施設に熱媒体を供給する冷房時熱媒体供給手段と、
前記温水を前記上部接続管から前記蒸発器に移送して熱交換を行った後に、前記下部接続管に戻すように形成されている温水供給手段と、
前記凝縮器に熱媒体を供給して前記冷媒と熱交換を行なった後に、前記施設に熱媒体を供給する暖房時熱媒体供給手段と
を含み、
冷房を行なう場合に、前記冷水供給手段および前記冷房時熱媒体供給手段を駆動するように形成されており、
暖房を行なう場合に、前記温水供給手段および前記暖房時熱媒体供給手段を駆動するように形成されている、空調設備。
【請求項2】
前記貯水槽は、水を溜めるための壁部を有し、上面が開口するように形成され、
前記蓄熱装置は、前記開口を覆うように配置され、断熱性を有する蓋部材を含み、
前記蓋部材は、前記水に浮く部材を含む、請求項1に記載の空調設備。
【請求項3】
前記冷水を加熱する加熱装置を備え、
前記加熱装置は、前記下部接続管から前記冷水を取水して、加熱した水を前記上部接続管に戻すように形成されている、請求項1または2に記載の空調設備。
【請求項4】
前記温水を冷却する冷却装置を備え、
前記冷却装置は、前記上部接続管から前記温水を取水して、冷却した水を前記下部接続管に戻すように形成されている、請求項1から3のいずれかに記載の空調設備。
【請求項5】
前記壁部および前記蓋部材は、一年を通じて前記温水および前記冷水との間で温度境界面が形成される断熱性を有するように形成されており、
前記貯水槽は、冷房により一年間に使用する前記冷水の全量および暖房により一年間に使用する前記温水の全量よりも大きな容量を有する、請求項2に記載の空調設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−210219(P2009−210219A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55418(P2008−55418)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)