説明

空転滑走発生検出方法及び電動機制御装置

【課題】回転検出信号に含まれるノイズ成分の除去と、時間遅れの削減との両者のバランスを図った新たな再粘着制御手法を提案すること。
【解決手段】空転滑走検出用加速度検出部612により検出された加速度α1と、回復検出用加速度検出部622により検出された加速度α2と、速度差Vdとを用いて空転滑走を検出する。比較器614,619による判定のみで安全が確保される場合、或いは別途の安全対策が施されている場合には、比較器615,616、論理和部618を不要としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動輪の空転又は滑走(空転滑走)の発生を検出して、当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機で動輪を駆動して走行する車両として電気車や電気自動車等が知られているが、以下、その代表例として電車(動力車)について説明する。電車は車輪・レール間の接線力(粘着力ともいう。)によって加減速がなされる。電動機の発生トルクにより生じる駆動力が、車輪とレールとに働く粘着力以下であれば粘着走行がなされるが、粘着力を超えた場合には空転又は滑走(以下、「空転滑走」という。)が生じる。空転滑走が生じた場合には、電動機の発生トルクを引き下げて粘着走行に復帰させる制御、すなわち再粘着制御が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この再粘着制御において、監視対象としている速度や加速度を検出するために、動輪の回転を検出するセンサを利用するのが一般的である。例えば、動輪輪軸の軸端や車軸付近に設けられて動輪の回転を検出する速度発電機や、歯車の山谷を検出するパルスジェネレータ等の回転検出器が知られているが、何れにしても、動輪の回転を直接或いは間接に検出している。
【0004】
そのため、回転検出器の回転検出信号には、電動機による動輪の周方向の回転に係る主信号成分以外にノイズ成分が含まれている。例えば、台車や車体等の振動の影響による高周波成分がそれである。このため、従来では、FIRフィルタ等のデジタルフィルタを利用してローパスフィルタや移動平均演算等の時間軸方向の平滑化を施すことで回転検出信号から高周波成分を除去することで速度・加速度を求めて再粘着制御に利用しているのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−44804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、平滑化には時間的な遅れが生じる。例えば、平滑化にローパスフィルタを用いるのであれば時定数が問題となってくる。信号処理に時間を要すると、実際の空転滑走から遅れて空転滑走の発生を検出することとなり、制御遅れが生じる。加えて、空転滑走の発生検出後にトルク引き下げを行うが、そのトルク引き下げの終了タイミングや、もとのトルクに復帰させる制御タイミング等も遅れることとなる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、回転検出信号に含まれるノイズ成分の除去と、時間遅れの削減との両者のバランスを図った新たな再粘着制御手法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための第1の形態は、
動輪を駆動する電動機(例えば図3の電動機10)を制御して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御方法であって、
随時検出される前記動輪の速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する第1の平滑化処理とを行って加速度を検出する第1の加速度検出ステップ(例えば図4の空転滑走検出用加速度検出部612による加速度検出)と、
随時検出される前記動輪の速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記第1の平滑化処理よりも平滑化時間幅が狭い第2の平滑化処理とを行って加速度を検出する第2の加速度検出ステップ(例えば図4の回復検出用加速度検出部622による加速度検出)と、
前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度を用いて空転滑走の発生を検出する空転滑走発生検出ステップ(例えば図4の空転滑走検出部610による空転滑走検出)と、
前記空転滑走発生検出ステップの検出に応じて前記電動機のトルク引き下げ制御を開始するトルク引き下げ開始ステップ(例えば図4の再粘着制御部640によるトルク引き下げ)と、
前記トルク引き下げ制御の開始後に、前記第2の加速度検出ステップにおいて検出された加速度を用いて空転滑走後の回復を検出する回復検出ステップ(例えば図4の回復検出部620による回復検出)と、
前記回復検出ステップの検出に応じて前記トルク引き下げ制御を終了するトルク引き下げ終了ステップ(例えば図4の再粘着制御部640によるトルク引き下げ制御の終了)と、
を含む電動機制御方法である。
【0009】
また、他の形態として、
動輪を駆動する電動機を制御して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御装置(例えば図3の電動機制御装置50)であって、
随時検出される前記動輪の速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する第1の平滑化処理とを行って加速度を検出する第1の加速度検出部(例えば図4の空転滑走検出用加速度検出部612)と、
随時検出される前記動輪の速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記第1の平滑化処理よりも平滑化時間幅が狭い第2の平滑化処理とを行って加速度を検出する第2の加速度検出部(例えば図4の回復検出用加速度検出部622)と、
前記第1の加速度検出部により検出された加速度を用いて空転滑走の発生を検出する空転滑走発生検出部(例えば図4の空転滑走検出部610)と、
前記第2の加速度検出部により検出された加速度を用いて空転滑走後の回復を検出する回復検出部(例えば図4の回復検出部620)と、
を備え、前記空転滑走発生検出部の検出結果と前記回復検出部の検出結果とを用いて前記再粘着制御を行う電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0010】
この第1の形態等において、微分演算と第1の平滑化処理とは、処理順序を同順又は逆順に行ってもよいし、或いは同時に行うこととしてもよい。同時に行う場合は、例えば、微分演算に用いる動輪の速度のサンプリング間隔を広げるといった方法がある。微分演算と第2の平滑化処理とについても同様である。
【0011】
この第1の形態等によれば、随時検出される動輪の速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理とを行って加速度を検出するが、平滑化する時間幅が広い第1の平滑化処理と、狭い第2の平滑化処理とによって2種類の加速度が検出される(求められる)。そして、第1の平滑化処理を用いて検出された加速度を用いて空転滑走の発生が検出され、第2の平滑化処理を用いて検出された加速度を用いて空転滑走後の回復が検出される。
【0012】
平滑化する時間幅を広げればノイズ成分の確実な除去を期待できるが、時間遅れが大きくなる。一方、平滑化時間幅を狭めれば時間遅れが小さくなるが、ノイズ成分を除去しきれずに検出後の加速度には、電動機による動輪の周方向の回転に係る主信号成分以外の成分が残ってしまう可能性が高くなる。
【0013】
第1の形態等によれば、空転滑走の発生の検出には、平滑化する時間幅が広い第1の平滑化処理を用いて検出された加速度が利用される。空転滑走の発生を検出した場合には、すぐに電動機のトルク引き下げ制御が行われるため、空転滑走の発生検出は、多少の時間遅れを犠牲にしても確実なノイズ成分の除去を行うべきだからである。一方、空転滑走後の回復の検出には、平滑化する時間幅が狭い第2の平滑化処理を用いて検出された加速度が利用される。空転滑走の発生検出後は、回復の検出がなされるまでトルク引き下げが継続的に行われる。回復の検出が遅れれば、その分だけ牽引力が削がれ、また乗客の乗り心地にも影響を与える。加えて、もしも仮に誤って回復を検出したとしても、その後に加速度が上昇した場合には、空転滑走の発生検出が再度なされ得る。そのため、回復の検出には、時間遅れの削減を優先すべきだからである。従って、第1の形態等によれば、回転検出信号に含まれるノイズ成分の除去と、時間遅れの削減との両者のバランスを適切に図った再粘着制御を実現できる。
【0014】
また、第2の形態として、第1の形態の電動機制御方法を、
走行速度に応じて、前記第1の平滑化処理及び/又は前記第2の平滑化処理の平滑化時間幅を変更する速度基準平滑化幅範囲変更ステップ(例えば図5の平滑化時間幅設定部650による平滑化時間幅の設定)を更に含むように構成してもよい。
【0015】
この第2の形態によれば、平滑化処理の平滑化に係る時間幅を走行速度に応じて変更することが可能となる。例えば、走行速度が高速になるほど平滑化時間幅を広く、低速になるほど狭くすることで、速度が高速になるほどノイズ成分の除去、すなわちより正確な加速度の検出を優先し、速度が低速になるほど時間遅れの削減、すなわち過剰なトルク引き下げによる牽引力低下の防止といった作用効果を期待できる。
【0016】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の電動機制御方法であって、
前記第1の平滑化処理及び/又は前記第2の平滑化処理において所与の信号周波数成分を抽出する抽出処理ステップを更に含む電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0017】
この第3の形態によれば、第1の平滑化処理及び/又は第2の平滑化処理において、ノイズ成分をカットすることが可能となる。
【0018】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の電動機制御方法であって、
前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の加速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する第1の検出加速度振動検出ステップ(例えば図10の振動発生判定部760による振動発生の判定)と、
前記第1の検出加速度振動検出ステップでの検出に応じて前記第1の平滑化処理の平滑化時間幅を変更する第1の平滑化幅変更ステップ(例えば図10の平滑化時間幅設定部770による平滑化時間幅の設定)と、
を含む電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0019】
この第4の形態によれば、第1の平滑化処理を用いて検出された加速度に電動機による回転に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出した場合には、その第1の平滑化処理の平滑化に係る時間幅を変更することが可能となる。例えば、高周波成分が含まれている場合には、平滑化時間幅を広げるように変更することで、第1の平滑化処理を用いて検出された加速度に含まれるノイズ成分をより確実に除去することが可能となる。
【0020】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態の電動機制御方法であって、
前記第2の加速度検出ステップにおいて検出された加速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の加速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する第2の検出加速度振動検出ステップ(例えば図10の振動発生判定部760による振動発生の判定)と、
前記第2の検出加速度振動検出ステップでの検出に応じて前記第2の平滑化処理の平滑化時間幅を変更する第2の平滑化幅変更ステップ(例えば図10の平滑化時間幅設定部770による平滑化時間幅の設定)と、
を含む電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0021】
この第5の形態によれば、第2の平滑化処理を用いて検出された加速度に電動機による回転に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出した場合には、その第2の平滑化処理の平滑化に係る時間幅を変更することが可能となる。例えば、高周波成分が含まれている場合には、平滑化時間幅を広げるように変更することで、第2の平滑化処理を用いて検出された加速度に含まれるノイズ成分をより確実に除去することが可能となる。
【0022】
また、第6の形態として、第5の形態の電動機制御方法であって、
前記第2の検出加速度振動検出ステップでの検出に応じて前記トルク引き下げ制御における引き下げ速度を変更する引き下げ速度変更ステップ(例えば図10の引き下げ速度制御部642による引き下げ速度の制御)を含む電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0023】
この第6の形態によれば、第2の平滑化処理を用いて検出された加速度に主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出した場合には、トルク引き下げ制御における引き下げ速度を変更することが可能となる。例えば、第5の形態によって、高周波成分が含まれているときに平滑化時間幅を広げるように変更した場合には、ノイズ成分をより確実に除去することが可能にはなるが、時間遅れが大きくなる。このため、トルクの引き下げ速度を遅くすることによって、時間遅れが大きくなったとしても、結果的に引き下げたトルクの量(大きさ)は変化しないようにして、牽引力の低下を防止するといったことが可能となる。
【0024】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の電動機制御方法であって、
前記動輪の回転を検出する回転検出器による前記動輪の回転検出信号をもとに第1の回転検出結果平滑化処理を行って速度を検出する第1の速度検出ステップ(例えば図7の空転滑走検出用速度検出部611による速度検出)と、
前記第1の速度検出ステップにおいて検出された速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する第1の検出速度振動検出ステップ(例えば図10の振動発生判定部760による振動発生の判定)と、
前記第1の検出速度振動検出ステップでの検出に応じて前記第1の回転検出結果平滑化処理の平滑化時間幅を変更する第1の回転検出結果平滑化幅変更ステップ(例えば図10の平滑化時間幅設定部770による平滑化時間幅の設定)と、
を含み、
前記第1の加速度検出ステップでは、前記第1の速度検出ステップにおいて検出された速度をもとに加速度を検出する、
電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0025】
この第7の形態によれば、第1の回転検出結果平滑化処理を行って検出された速度に主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出した場合には、その第1の回転検出結果平滑化処理の平滑化に係る時間幅を変更することが可能となる。例えば、高周波成分が含まれている場合には、平滑化時間幅を広げるように変更することで、第1の回転検出結果平滑化処理を行って検出される速度に含まれるノイズ成分をより確実に除去することが可能となる。
【0026】
また、第8の形態として、第7の形態の電動機制御方法であって、
前記回転検出信号をもとに、前記第1の回転検出結果平滑化処理よりも平滑化時間幅が狭い第2の回転検出結果平滑化処理を行って速度を検出する第2の速度検出ステップ(例えば図7の回復検出用速度検出部621による速度検出)と、
前記第2の速度検出ステップにおいて検出された速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する第2の検出速度振動検出ステップ(例えば図10の振動発生判定部760による振動発生の判定)と、
前記第2の検出速度振動検出ステップでの検出に応じて前記第2の回転検出結果平滑化処理の平滑化時間幅を変更する第2の回転検出結果平滑化幅変更ステップ(例えば図10の平滑化時間幅設定部770による平滑化時間幅の設定)と、
を含み、
前記第2の加速度検出ステップでは、前記第2の速度検出ステップにおいて検出された速度をもとに加速度を検出する、
電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0027】
この第8の形態によれば、第7の形態と相俟って、動輪の回転を検出する回転検出器の回転結果を時間軸方向に平滑化することで速度を検出するが、平滑化する時間幅が広い第1の回転検出結果平滑化処理と、狭い第2の回転検出結果平滑化処理とによって2種類の速度が検出される(求められる)。そして、第1の回転検出結果平滑化処理により検出された速度をもとに第1の加速度平滑化処理を行って加速度が検出され、第2の回転検出結果平滑化処理を行って検出された速度をもとに第2の平滑化処理を用いて加速度が検出される。従って、平滑化時間幅の広い第1の回転検出結果平滑化処理を行って検出された速度は、最終的に空転滑走の発生検出に利用され、平滑化時間幅の狭い第2の回転検出結果平滑化処理を行って検出された速度は、最終的に空転滑走後の回復検出に利用される。従って、第1の形態と同様、回転検出信号に含まれるノイズ成分の除去と、時間遅れの削減との両者のバランスを取った合理的な再粘着制御を実現することができる。
【0028】
また、第2の回転検出結果平滑化処理により検出された速度に主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出した場合には、その第2の回転検出結果平滑化処理の平滑化に係る時間幅を変更することが可能となる。例えば、高周波成分が含まれている場合には、平滑化時間幅を広げるように変更することで、第2の回転検出結果平滑化処理を行って検出された速度に含まれるノイズ成分をより確実に除去することが可能となる。
【0029】
また、空転滑走発生検出については種々の形態が考えられる。
例えば、第9の形態として、第1〜第8の何れかの形態の電動機制御方法であって、
前記空転滑走発生検出ステップが、前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第1の加速度閾値条件を満たし、更に、前記動輪の速度と所与の基準速度との速度差が所与の速度差閾値条件を満たした場合に、空転滑走の発生を検出するステップである、
電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0030】
また、第10の形態として、第1〜第8の何れかの形態の電動機制御方法であって、
随時検出される前記動輪の速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記第1の平滑化処理よりも平滑化時間幅が狭い第3の平滑化処理とを行って加速度を検出する第3の加速度検出ステップを更に含み、
前記空転滑走発生検出ステップは、前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第1の加速度閾値条件を満たし、且つ、前記第3の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第3の加速度閾値条件を満たした場合に、空転滑走の発生を検出するステップである、
電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0031】
また、第11の形態として、第1〜第8の何れかの形態の電動機制御方法であって、
前記空転滑走発生検出ステップは、前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第1の加速度閾値条件を満たし、且つ、前記第2の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第2の加速度閾値条件を満たした場合に、空転滑走の発生を検出するステップである、
電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0032】
第12の形態は、
動輪を駆動する電動機を制御して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御方法であって、
前記動輪の回転を検出する回転検出器による前記動輪の回転検出信号をもとに回転検出結果平滑化処理を行って速度を検出する速度検出ステップ(例えば図10の速度検出部701による速度検出)と、
前記速度検出ステップにおいて検出された速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する検出速度振動検出ステップ(例えば図10の速度用判定部762による振動発生の判定)と、
前記検出速度振動検出ステップでの検出に応じて前記回転検出結果平滑化処理の平滑化時間幅を変更する回転検出結果平滑化幅変更ステップ(例えば図10の速度用設定部772による平滑化時間幅の設定)と、
前記速度検出ステップにおいて随時検出される速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度平滑化処理とを行って加速度を検出する加速度検出ステップ(例えば図10の加速度検出部702による加速度検出)と、
前記加速度検出ステップにおいて検出された加速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の加速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する検出加速度振動検出ステップ(例えば図10の加速度用判定部761による振動発生の判定)と、
前記検出加速度振動検出ステップでの検出に応じて前記加速度検出ステップにおける前記平滑化処理の平滑化時間幅を変更する平滑化幅変更ステップ(例えば図10の加速度用設定部771による平滑化時間幅の設定)と、
前記加速度検出ステップにおいて検出された加速度を用いて空転滑走の発生を検出する空転滑走発生検出ステップ(例えば図10の空転滑走検出部610による空転滑走検出)と、
前記空転滑走発生検出ステップの検出に応じて前記電動機のトルク引き下げ制御を開始するトルク引き下げ開始ステップ(例えば図10の再粘着制御部640によるトルク引き下げ制御)と、
前記トルク引き下げ制御の開始後に、前記加速度検出ステップにおいて検出された加速度を用いて空転滑走後の回復を検出する回復検出ステップ(例えば図10の回復検出部620による回復検出)と、
前記回復検出ステップの検出に応じて前記トルク引き下げ制御を終了するトルク引き下げ終了ステップ(例えば図10の再粘着制御部640によるトルク引き下げ制御の終了)と、
を含む電動機制御方法である。
【0033】
また、他の形態として、
動輪を駆動する電動機を制御して当該動輪の再粘着制御を行う電動機制御装置であって、
前記動輪の回転を検出する回転検出器による前記動輪の回転検出信号をもとに回転検出結果平滑化処理を行って速度を検出する速度検出部(例えば図10の速度検出部701)と、
前記速度検出部により検出された速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する検出速度振動検出部(例えば図10の速度用判定部762)と、
前記検出速度振動検出部の検出に応じて前記回転検出結果平滑化処理の平滑化時間幅を変更する回転検出結果平滑化幅変更部(例えば図10の速度用設定部772)と、
前記速度検出部により随時検出される速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する加速度平滑化処理とを行って加速度を検出する加速度検出部(例えば図10の加速度検出部702)と、
前記加速度検出部により検出された加速度に、前記電動機の駆動による前記動輪の加速度に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出する検出加速度振動検出部(例えば図10の加速度用判定部761)と、
前記検出加速度振動検出部の検出に応じて前記加速度検出部による前記平滑化処理の平滑化時間幅を変更する平滑化幅変更部(例えば図10の加速度用設定部771)と、
前記加速度検出部により検出された加速度を用いて空転滑走の発生を検出する空転滑走発生検出部(例えば図10の空転滑走検出部610)と、
前記加速度検出部により検出された加速度を用いて空転滑走後の回復を検出する回復検出部(例えば図10の回復検出部620)と、
を備え、前記空転滑走発生検出部の検出結果と前記回復検出部の検出結果とを用いて、前記再粘着制御を行う電動機制御装置を構成することとしてもよい。
【0034】
この第9の形態等によれば、動輪の回転を検出する回転検出器の回転検出信号をもとに速度を検出し、検出した速度をもとに、微分演算と、時間軸方向に平滑化する平滑化処理とを行って加速度を検出する。但し、検出された速度に電動機による回転に係る主信号成分以外の高周波成分が含まれている場合には、例えば平滑化に係る時間幅を大きくする等して平滑化時間幅が変更されるため、動輪の周方向の回転速度をより正確に検出することが可能となる。また、検出された加速度に主信号成分以外の高周波成分が含まれている場合にも平滑化に係る時間幅が変更されるため、動輪の周方向の回転加速度をより正確に検出することが可能となる。従って、ノイズ成分の除去ができていない場合にのみ、平滑化時間幅が広くされる。
【0035】
こうして検出された加速度を用いて空転滑走の発生や、空転滑走後の回復が検出されて再粘着制御が行われるため、速度や加速度の誤検出を抑えつつ、時間遅れも必要最小限に抑えた再粘着制御を実現することが可能となる。
【0036】
また、第13の形態として、第12の形態の電動機制御方法であって、
前記検出加速度振動検出ステップでの検出に応じて前記トルク引き下げ制御における引き下げ速度を変更する引き下げ速度変更ステップ(例えば図10の引き下げ速度制御部642による引き下げ速度の変更)を含む電動機制御方法を構成することとしてもよい。
【0037】
この第13の形態によれば、平滑化処理を用いて検出された加速度に主信号成分以外の高周波成分が含まれていることを検出した場合には、トルク引き下げ制御における引き下げ速度を変更することが可能となる。例えば、第9の形態によって、高周波成分が含まれているときに平滑化時間幅を広げるように変更した場合には、ノイズ成分をより確実に除去することが可能にはなるが、時間遅れが大きくなる。このため、トルクの引き下げ速度を遅くすることによって、時間遅れが大きくなったとしても、結果的に引き下げたトルクの量(大きさ)は変化しないようにして、牽引力の低下を防止するといったことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】再粘着制御を説明するための図。
【図2】PG信号から算出される軸速度及び加速度の一例を示す図。
【図3】第1実施例の電車の主回路の回路ブロックを示す図。
【図4】第1実施例の再粘着制御装置のブロック図。
【図5】第1実施例の再粘着制御装置の変形例を示す図。
【図6】速度域に応じた平滑化時間幅の設定の一例を示す図。
【図7】第1実施例の再粘着制御装置の変形例を示す図。
【図8】第1実施例の再粘着制御装置の変形例を示す図。
【図9】複数の平滑化時間幅で検出した加速度を用いた空転滑走検出を説明するための図。
【図10】第2実施例の再粘着制御装置のブロック図。
【図11】軸速度及び加速度の変化と、トルク分電流指令の引き下げ速度との関係を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。尚、以下では、本発明を電気車の一種である電車に適用した場合を説明するが、電動機で動輪を駆動して走行する車両であれば、他の電気車である電気機関車や、電気自動車にも適用することが可能である。ブレーキ制御としても、回生ブレーキばかりでなく、機械ブレーキによるブレーキ制御を行う電気車への適用も可能であることは勿論である。
また、本発明の考え方の基礎となる問題点を先に説明した後に、具体的な実施例について詳細に説明する。また、以下では説明の簡明化のために適宜「電動機トルク」を増減させるとして説明するが、より正確には「トルク分電流」、ひいては「トルク分電流指令」を増減させる意味である。
【0040】
[問題点]
図1は、再粘着制御を説明するための図であり、空転滑走が発生していない一定加速中の状態から空転滑走が発生し、再粘着制御を行って再粘着するまでの一連の各信号波形を示している。横軸を時間tとして、上から順に、制御対象の動軸の軸速度V及び基準速度Vmを示すグラフ、制御対称軸の加速度αを示すグラフ、電動機トルクτを示すグラフ、空転滑走検出信号のグラフ、回復検出信号のグラフを示す。空転滑走が発生していない状態では、軸速度Vは基準速度Vmにほぼ一致し、電動機トルクτはほぼ一定に保たれている。空転滑走が発生すると、軸速度Vが上昇し始め、基準速度Vmとの差分である速度差Vdが増加する。そして、時刻t1において、速度差Vdが予め定められた空転滑走検出閾値Vsに達すると、空転滑走の発生が検出される。ここで、空転滑走検出信号がONとなる。
【0041】
すると、再粘着制御が発動されて、電動機トルクτの引き下げ(より正確にはトルク分電流の引き下げである。)が開始される。電動機トルクτの引き下げは、予め定められた引き下げ速度Wtで継続的に行われる。即ち、トルクτの引き下げ量を増加させていく。電動機トルクτが引き下げられると、加速度αの増加が次第に抑えられ、減少に転ずる。この間、軸速度Vは上がり続けるが、加速度αがゼロとなる時刻t2では、軸速度Vの増加もゼロとなる。この加速度αがゼロとなったことを、空転滑走からもとの粘着走行への回復開始として検出する(回復検出)。ここで、空転滑走検出信号がOFFになるとともに、回復検出信号がONとなる。なお、回復検出とする加速度αをゼロとして説明したが、説明の簡明化のためにゼロとしたものであって、所定の回復検出閾値(例えばゼロではなく、“+1”や“−1”)以下に達した場合に回復開始として検出することとしてよい。
【0042】
回復検出がなされると、電動機トルクτの引き下げを停止して、引き下げ量を保持する。すると、マイナスとなっていた加速度αの減少が次第に抑えられ、やがて増加に転じる。また、基準速度Vmからの乖離幅が大きくなっていた軸速度Vが低下し始める。そして、速度差Vdが予め定められた再粘着検出閾値Vr以下になると、再粘着したとして検出(再粘着検出)し、復帰動作用の制御が開始される。すなわち、保持していた電動機トルクτの引き下げ量を減少させてトルクを復帰させる制御が開始される。そして、電動機トルクτが所定の目標トルク値(例えば、再粘着制御の開始時点(時刻t1)における値)まで復帰した時刻t4において、再粘着制御の終了となる。この再粘着検出後の電動機トルクτは、予め定められた復帰時間Ttをかけて復帰するように制御される。
【0043】
尚、ここでは、空転滑走検出及び再粘着検出の監視対象を軸速度V(ひいては速度差Vd)としたが加速度αも監視対象に加えて併用することとしてもよい。また、回復検出の監視対象を加速度αとしたが、軸速度V(ひいては速度差Vd)も監視対象に加えて併用し、加速度αがゼロとなる、或いは、速度差Vdが空転滑走検出閾値Vs以下の所定の閾値以下となったことを回復開始と見なして検出してもよい。
【0044】
以上の通り、再粘着制御は、軸速度V及び加速度αを監視対象として、これらの値に応じて制御されるが、この軸速度V及び加速度αは、動輪の回転を検出する回転検出器の検出結果信号から求めるのが一般的である。以下の第1〜第2の実施例では、この回転検出器としてパルスジェネレータを用いることとして説明する。パルスジェネレータで検出された信号(以下「PG信号」という。)から軸速度を求める方式には種々有り、例えば、FIRフィルタ等のデジタルフィルタを利用してデジタル演算処理により求める方式としては、一定時間の間に計数されたパルス数と車輪径とを用いて速度を算出する一定時間パルス数計数方式や、ある一定時間の時間幅の前後のパルスとその一定時間内のパルスとから求まるパルス列全体の検出時間幅とそのパルス列のパルス数と車輪径とを用いて速度を算出する平均パルス幅計数方式などが知られている。何れの方式も時間軸方向に平均するという平滑化を行っている。また、デジタル演算処理ではなく、信号処理回路として実現する場合には微分器とローパスフィルタによって構成されるが、その場合には、ローパスフィルタが時間軸方向への平滑化の役割を担う。
また、加速度αは軸速度Vを更に微分演算することで求められる。
【0045】
ところが、PG信号には、電動機の駆動のみによる周方向の速度成分以外に、台車や車体の振動等の影響による高周波のノイズ成分が重畳している。そのため、軸速度を求める際の平滑化に係る時間幅に有る程度の時間幅を設けて、ノイズ成分を除去する処理が施されるのが一般的である。また、加速度を求める際にも、移動平均演算を施したり、演算に用いるサンプリング時間間隔を所定間隔にする(より具体的には、随時検出される速度のうち、加速度演算に用いる速度のサンプリング間隔を変更することで平滑化時間幅を変更することができるため、サンプリング間隔を所定間隔に保つ。)等の時間軸方向にある程度の平滑化を施しているのが一般的である。図2にPG信号から算出される軸速度、加速度の一例を示す。
【0046】
図2において、軸速度Vは、平均化時間幅が短い第1速度(例えば平滑化時間幅1ms)と、平均化時間幅が長い第2速度(例えば平滑化時間幅25ms)とを図示している。平滑化時間幅が短い第1速度の軸速度Vは微小振動が生じているが、平滑化時間幅が長い第2速度の軸速度Vには振動が生じていないのが分かる。図2の各加速度は、第2速度の軸速度Vに対して、平滑化時間幅を様々に変えた場合の加速度を示している。第1加速度〜第4加速度の順に、平滑化時間幅を長く(広く)している。第2速度の軸速度Vは、図2では振動していないかのように見える。しかし、僅かながらの振動(ノイズ成分)が依然として残存している。この結果、平滑化時間幅が最も短い第1加速度の加速度αのグラフは振動しており、その振幅も大きい。平滑化時間幅が長く(広く)なるに従って、すなわち、第2加速度、第3加速度、第4加速度となるに従って、加速度αにおいて振動の大きさが小さくなっていることが分かる。
【0047】
しかしながら、平滑化時間幅を長く(広く)することによって、時間遅れが生じる。第1加速度〜第4加速度の順に平滑化時間幅が広くなるに従って、加速度αのグラフが右方向にずれており、加速度の検出遅れが生じていることが分かる。
【0048】
すなわち、時間軸方向に平滑化する時間幅を広げることはノイズ成分の削減に有効ではある。ノイズ成分を削減することによって精度のよい速度・加速度を検出可能であるため、空転滑走検出、回復検出、再粘着検出の誤検出の可能性を低減することができる。しかし一方で、速度・加速度の検出遅れを招く。再粘着制御において、空転滑走を検出した場合、回復の検出がなされるまで電動機トルクτは所定の引き下げ速度で継続的に引き下げられる(図1参照)。従って、回復の検出が遅れることは、過剰なトルク引き下げを行うことになり、電車の牽引力の低下に繋がる。特に、低速走行中や登坂中の牽引力の低下は避けたいところである。このため、速度・加速度の検出遅れをできる限り無くしたい。回転検出器による検出信号に含まれるノイズ成分の除去と、速度・加速度の検出遅れの低減との両立を如何に図るかが重要である。以下、この問題点を解決するための実施例を説明する。
【0049】
[第1実施例]
図3は、電車の主回路の回路ブロックのうち、第1実施例に関係する構成を概略的に示した図であり、一の駆動軸について示している。すなわち、電動機の制御は個別制御(いわゆる1C1M)として以下説明するが、本発明の適用可能な形態がこれに限られるものではない。例えば、動輪2軸を一括して制御する1C2Mに適用することも可能である。図3によれば、第1実施例に関わる電車の主回路としては、電動機10と、パルスジェネレータ20と、インバータ30と、電流センサ40と、電動機制御装置50とが有る。
【0050】
電動機10は、インバータ30から電力が供給されることで車軸を回転駆動する主電動機(メインモータ)であり、例えば3相誘導電動機で実現される。パルスジェネレータ20は、駆動軸の回転を検出する回転検出器であり、検出信号であるPG信号を再粘着制御装置60及びベクトル演算制御装置90に出力する。尚、パルスジェネレータの代わりに速度発電機等の他の回転検出器を用いてもよい。電流センサ40は、電動機10の入力端に設けられ、電動機10に流入するU相及びV相の電流Iu,Ivを検出する。インバータ30には、パンタグラフ及びコンバータを介して架線の電力が供給される。そして、ベクトル演算制御装置90から入力されるU相、V相及びW相それぞれの電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて出力電圧を調整し、電動機10に給電する。
【0051】
電動機制御装置50は、電動機10をベクトル制御する。この電動機制御装置50は、CPUやROM、RAM等から構成されるコンピュータ等によって実現され、例えば制御ボードとして電動機の制御装置の一部として実装されたり、或いはインバータ30を含めて一体的にインバータ装置として構成される。また、電動機制御装置50は、再粘着制御装置60と、ベクトル演算制御装置90とを備えている。
【0052】
再粘着制御装置60は、パルスジェネレータ20のPG信号から駆動軸の軸速度Vを検出し、更に微分演算することで加速度αを検出する。そして、基準速度Vmを用いて、検出した軸速度V及び加速度αを監視対象として空転滑走の検出や回復検出、再粘着検出を行い、空転滑走した動輪を再粘着させる制御を行う。この再粘着制御においては、電動機10の発生トルクを制御して動輪を再粘着させるためのトルク引き下げ指令信号を生成してベクトル演算制御装置90に出力する。ここで、基準速度Vmは電車の走行速度であり、例えば運転台から得られる速度としてもよいし、T車の従輪の軸速度としてもよい。また、車両内の各軸の軸速度のうち、力行時であれば最小値、ブレーキ時であれば最大値等として決定してもよい。
【0053】
ベクトル演算制御装置90は、電流センサ40により検出されたIv,Iuをd−q軸座標変換することで得られるd軸成分である励磁電流成分Id及びq軸成分であるトルク電流成分(電動機トルク分電流)Iqや、パルスジェネレータ20により検出されたPG信号から得られる軸速度V、不図示の電流指令生成装置から入力される電流指令値Id,Iq、再粘着制御装置60から入力されるトルク引き下げ指令信号等に基づいて、インバータ30に対する電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成する。具体的には、トルク引き下げ指令信号が入力されない間は、電流指令値Id,Iq等に基づく通常の演算処理を行って電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出し、トルク引き下げ指令信号が入力されると、該信号に応じた分だけ電動機10の発生トルクを引き下げるように電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する。ここで、電流指令値Id,Iq等に基づき電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する演算処理は公知の演算処理であるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
図4は、再粘着制御装置60の構成を示すブロック図である。再粘着制御装置60は、速度検出部601と、加算器603と、空転滑走検出用加速度検出部612と、空転滑走検出部610と、回復検出用加速度検出部622と、回復検出部620と、再粘着検出用加速度検出部632と、再粘着検出部630と、再粘着制御部640とを有して構成される。
【0055】
速度検出部601は、PG信号をもとに駆動軸の回転の検出間隔又は単位時間当たりの検出回数を時間軸方向に平滑化する回転検出結果平滑化処理を行って速度を検出する。具体的には、上述した一定時間パルス数計数方式や平均パルス幅計数方式等により速度を検出する。平滑化時間幅Tsは例えば25msとする等、高周波の振動成分であるノイズ成分の除去に一定の効果が得られる値に定められる。
【0056】
空転滑走検出用加速度検出部612、回復検出用加速度検出部622、再粘着検出用加速度検出部632は、それぞれ速度検出部601が検出した軸速度Vを微分演算する微分演算部と、更に時間軸方向に平滑化する平滑化部とを有して加速度を検出するが、平滑化する時間幅が異なる。具体的には、空転滑走検出用加速度検出部612の平滑化時間幅Ta1よりも、回復検出用加速度検出部622の平滑化時間幅Ta2及び再粘着検出用加速度検出部632の平滑化時間幅Ta3の方が狭い時間幅に定められている。なお、速度検出部601が検出した軸速度Vを先に微分演算するのではなく、平滑化部が先に時間軸方向に平滑化した後に、微分演算部が微分演算してもよい。また、随時検出される速度のサンプリング間隔を変更して微分演算する方法を採るならば、微分演算と平滑化処理とを同時に行うことができるため、空転滑走検出用加速度検出部612、回復検出用加速度検出部622、再粘着検出用加速度検出部632は、この方法を採用してもよい。この場合には、平滑化時間幅はサンプリング間隔に相当することとなる。
【0057】
空転滑走検出用加速度検出部612は、空転滑走検出部610が空転滑走の検出に利用する加速度α1を検出する。空転滑走を検出した場合にはすぐにトルクの引き下げ制御が開始されるため、空転滑走の検出には正確性が要求される。そのため、空転滑走検出用加速度検出部612の平滑化時間幅Ta1としては、回復検出用加速度検出部622の平滑化時間幅Ta2及び再粘着検出用加速度検出部632の平滑化時間幅Ta3よりも長い時間幅が定められている。
【0058】
一方、回復検出用加速度検出部622は、回復検出部620が回復検出に利用する加速度α2を検出する。勿論、回復検出においても検出の正確性は要求されるが、もしも仮に誤って回復検出をし、再度の空転滑走が発生したとしても、空転滑走の検出が再度なされ、トルクの引き下げ制御が行われ得る。図1に示して説明した通り、回復検出がなされるまでの間はトルクの引き下げ量が所定の引き下げ速度で継続的に引き下げられるため、正確性よりも時間遅れを削減して、牽引力の向上のための即時性を優先し、平滑化時間幅を空転滑走検出のそれと比べて狭めている。
【0059】
再粘着検出用加速度検出部632の平滑化時間幅Ta3も同様の理由である。すなわち、回復検出から再粘着検出がなされるまでの間はトルクの引き下げ量は保持されるものの、依然としてトルクが引き下げられた状態にある。このため、時間遅れを削減して、牽引力の向上のための即時性を優先し、平滑化時間幅が定められている。
【0060】
加算器603は、速度検出部601により検出された軸速度Vから基準速度Vmを減算して速度差Vdを出力する。
空転滑走検出部610は、空転滑走検出用加速度検出部612により検出された加速度α1を空転滑走したと見なす所定の加速度閾値以上か否かを比較判定する比較器614と、速度差Vdを空転滑走したと見なす所定の速度差閾値以上か否かを比較判定する比較器615,616と、論理積部617と、論理和部618とを有し、加速度α1及び速度差Vdを用いて空転滑走の発生を検出して検出信号を再粘着制御部640に出力する。尚、比較器616の速度差閾値は、比較器615の速度差閾値よりも大きく定められており、比較器614,615による閾値判定が働かない場合の安全のために設けられている。従って、比較器614による判定のみで安全が確保される場合、或いは別途の安全対策が施されている場合には、比較器615,616、論理積部617、論理和部618を不要としてもよい。また、比較器615、論理積部617を残し、比較器616、論理和部618を不要としてもよい。
【0061】
回復検出部620は、比較器624,625と、論理和部626とを有し、回復検出信号を再粘着制御部640に出力する。比較器624は、回復検出用加速度検出部622により検出された加速度α2を回復したと見なす所定の加速度閾値以下(例えば図1の例ではゼロ以下)か否かを比較判定する。比較器625は、加速度α2が所定の加速度閾値以下とならなくとも回復したと見なせる速度差Vdとなったか否かを、速度差Vdが所定の速度差閾値以下か否かで判定する。論理和部626は、比較器624及び比較器625の何れかの判定結果をもって回復検出として再粘着制御部640に回復検出信号を出力する。
【0062】
再粘着検出部630は、比較器634,635と、論理和部636とを有し、再粘着検出信号を再粘着制御部640に出力する。比較器634は、再粘着検出用加速度検出部632により検出された加速度α3が再粘着したと見なす所定の加速度閾値以下か否かを比較判定する。比較器635は、速度差Vdが再粘着したと見なす所定の速度閾値以下(例えば図1の例では閾値Vr以下)か否かを比較判定する。論理和部636は、比較器634及び比較器635の何れかの判定結果をもって再粘着検出として再粘着制御部640に再粘着検出信号を出力する。
【0063】
再粘着制御部640は、空転滑走検出部610から入力される空転滑走検出信号、回復検出部620から入力される回復検出信号、再粘着検出部630から入力される再粘着検出信号を用いて、図1を参照して説明した再粘着制御の通り、電動機10の発生トルクを低減させて再粘着を実現するためのトルク引き下げ指令信号を生成してベクトル演算制御装置90に出力する。
【0064】
以上の通り、第1実施例によれば、空転滑走検出用加速度検出部612は、回復検出用加速度検出部622及び再粘着検出用加速度検出部632に比べて、平滑化時間幅を広くして加速度を検出する。従って、空転滑走検出用加速度検出部612により検出される加速度α1は、回復検出用加速度検出部622により検出される加速度α2や再粘着検出用加速度検出部632により検出される加速度α3に比べて、ノイズ成分が少なく、より精確な加速度と言える。一方、回復検出用加速度検出部622及び再粘着検出用加速度検出部632は、空転滑走検出用加速度検出部612に比べて、平滑化時間幅を狭めて加速度を検出しているため、加速度の検出遅れが少なく、ひいては回復検出や再粘着検出の時間遅れが少ない。従って、動軸の加速度変化に対する即時性が向上し、牽引力の低下に繋がるトルク引き下げの引き下げ量及び引き下げ時間の短縮を図ることができる。
【0065】
尚、再粘着制御装置60では、平滑化時間幅を固定として説明したが、走行速度に応じて可変にしてもよい。具体的に説明する。
図5は、第1実施例の再粘着制御装置60の変形例を示す図であり、平滑化時間幅設定部650が追加されている。平滑化時間幅設定部650は、空転滑走検出用加速度検出部612、回復検出用加速度検出部622、及び再粘着検出用加速度検出部632それぞれの加速度検出に係る平滑化時間幅を走行速度域に応じて可変に設定する。図6は、速度域に応じた平滑化時間幅の設定の一例を示しており、図6(a)が空転滑走検出用加速度検出部612に設定する平滑化時間幅を、図6(b)が回復検出用加速度検出部622及び再粘着検出用加速度検出部632に設定する平滑化時間幅を示している。図6に示す通り、どちらの加速度検出部であっても平滑化時間幅は、高速になる程広く(長く)、低速になる程狭く(短く)設定する。これは、低速域においては時間遅れによるトルク低下(牽引力低下)が大きな問題の1つであり、また、高速域においては時間遅れよりも検出の正確性が問題とされるためである。
【0066】
また、空転滑走検出用加速度検出部612が、図6における3つの速度域、すなわち3つの平滑化時間幅に対応する第1〜第3の空転滑走検出用加速度検出部を有することとし、平滑化時間幅設定部650の設定に応じて切り換えて選択した検出部が加速度を検出することとしてもよい。回復検出用加速度検出部622、及び再粘着検出用加速度検出部632についても同様である。
【0067】
また、図6では、3つの速度域に分けて平滑化時間幅を設定することとして説明したが、低速域とそれ以外というように2つの速度域に分けて設定することとしてもよいし、また4以上の速度域に分けて設定してもよい。
【0068】
また、上述した第1実施例において、速度検出部601により検出された軸速度Vが、空転滑走検出用加速度検出部612、回復検出用加速度検出部622、及び再粘着検出用加速度検出部632それぞれの加速度検出に共通に利用されることとして説明した。しかし、何れの検出に用いるのかに応じて別々に軸速度を検出することとしてもよい。
【0069】
図7は、この場合の再粘着制御装置60の変形例を示す図であり、速度検出部601の代わりに、空転滑走検出用速度検出部611と、回復検出用速度検出部621と、再粘着検出用速度検出部631とを有し、加算器603の代わりに、加算器613,623,633を有している。空転滑走検出用速度検出部611、回復検出用速度検出部621、及び再粘着検出用速度検出部631は、それぞれPG信号をもとに速度を検出するが、平滑化時間幅が異なる。空転滑走検出用速度検出部611の平滑化時間幅Ts1よりも、回復検出用速度検出部621の平滑化時間幅Ts2、及び再粘着検出用速度検出部631の平滑化時間幅Ts3の方が狭く定められている。加速度検出に係る平滑化時間幅Ta1,Ta2,Ta3と同様の理由によるものである。
【0070】
このように、速度検出に係る平滑化時間幅も、加速度検出に係る平滑化時間幅と同様に、何れの検出に用いるかに応じて設定することで、再粘着制御全体において、検出する速度の正確性と、検出遅れの低減(即時性)との両立を図ることができる。
なお、図7のそれぞれの速度検出部611,621,631の平滑化時間幅を、図5,6を参照して説明したように、走行速度に応じて可変に設定することとしてもよい。
【0071】
また、空転滑走検出部610は、空転滑走検出用加速度検出部612により検出された加速度α1と、速度差Vdとを用いて空転滑走を検出することとしたが、空転滑走の検出方法はこれに限られない。例えば、図8に示すように、空転滑走検出用加速度検出部612により検出された加速度α1と、回復検出用加速度検出部622により検出された加速度α2と、速度差Vdとを用いて空転滑走を検出することとしてもよい。勿論、図8において比較器619における加速度α2に係る加速度閾値は、比較器624における加速度閾値とは異なる値が設定される。
この場合も、比較器614,619による判定のみで安全が確保される場合、或いは別途の安全対策が施されている場合には、比較器615,616、論理和部618を不要としてもよい。また、比較器615を残し、論理和部618を不要としてもよい。
【0072】
また、回復検出用加速度検出部622により検出された加速度α2ではなく、平滑化時間幅が空転滑走検出用加速度検出部612より狭い別の加速度検出部を設け、この加速度検出部により検出された加速度を加速度α2の代わりに用いてもよい。また、3以上の平滑化時間幅で検出したそれぞれの加速度を用いることとしてもよいし、複数の加速度を用いて速度差Vdを用いないこととしてもよい。
【0073】
空転滑走検出部610が、複数の平滑化時間幅で検出した加速度を用いて空転滑走を検出することによる利点を図9を参照して説明する。図9において、軸速度Vを4つの平滑化時間幅で平滑化して求めた加速度が加速度A〜Dである。加速度A〜Dの順に平滑化時間幅が長く(広く)なっている。従来は、空転滑走を確実に検出するために、平滑化時間幅を長く(広く)した例えば加速度Dを用いて空転滑走を検出していた。例えば、時刻t22において加速度Dが閾値条件に達した(丸印)ことをもって空転滑走を検出していた。
【0074】
これに対して、加速度Dに関する閾値条件を緩和(閾値を下げる)して空転滑走をより早く検出可能とするとともに、その他の加速度を用いることでより確実に空転滑走を検出する。図9の例では、平滑化時間幅が異なる加速度A,B,Dの3つそれぞれに閾値条件を設定して、これら全ての閾値条件が満たされた場合(論理積)に空転滑走を検出する。加速度A,B,Dそれぞれの閾値条件は、平滑化時間幅が短い(狭い)ほど閾値を高く(条件を厳しく)する。図9において、時刻t21の時点がそれである(図中の丸印)。平滑化時間幅が短い(狭い)と、速度の変化に敏感になり、誤検出の可能性が高まるため、閾値を高く(条件を厳しく)する。一方、加速度Dに係る閾値は、従来よりも低く(緩和)するため、従来よりも早く空転滑走を検出することが可能となる。
【0075】
時刻t22の時点で空転滑走を検出した場合、軸速度Vの空転速度である速度差Vdは速度差Vd2となるが、時刻t21の時点で空転滑走を検出することができれば、空転速度は速度差Vd1(<Vd2)で済む。空転滑走をより早く検出することができれば、再粘着制御を早く作動させることができ、トルク引下げ量が少なくて済み、ひいては電車の牽引力の低下を極力抑えることが可能となる。但し、空転滑走を確実に検出することが重要である。そのため、複数の平滑化時間幅で求めた加速度を用いて空転滑走を検出する。
【0076】
なお、空転滑走検出部610が、複数の平滑化時間幅で検出した加速度を用いて空転滑走を検出するようにすることは、図5や図7の再粘着制御装置60に適用することも可能である。
【0077】
[第2実施例]
次に第2実施例について説明する。第2実施例は、第1実施例の再粘着制御装置60を再粘着制御装置70に置き換えた実施例である。従って、第1実施例と同じ構成要素については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0078】
図10は、第2実施例の再粘着制御装置70の構成を示すブロック図である。第2実施例の再粘着制御装置70では、速度を検出する速度検出部701と、加速度を検出する加速度検出部702はそれぞれ1つずつの構成である。そして、検出された軸速度V及び加速度αに高周波の振動が発生しているか否かを振動発生判定部760が判定することでノイズ成分が重畳しているか否かを判定する。具体的には、想定される電動機10の駆動のみによる動軸の回転速度・加速度を主成分とした場合に、その主成分の変化よりも高周波の変化をノイズ成分とみなして判定する。ノイズ検出方法は公知の方法を適用可能であるため、詳細な説明を省略する。振動発生判定部760は、加速度用判定部761が加速度αについて、速度用判定部762が軸速度Vについて、振動が発生しているか否かを判定する。
【0079】
平滑化時間幅設定部770は、加速度用設定部771が加速度用判定部761の判定結果に応じて加速度検出部702の加速度検出に係る平滑化時間幅を、速度用設定部772が速度用判定部762の判定結果に応じて速度検出部701の速度検出に係る平滑化時間幅を変更設定する。例えば、振動している(ノイズ成分が重畳している)と判定された場合には、加速度用設定部771及び速度用設定部772ともに、速度検出部701及び加速度検出部702それぞれに係る平滑化時間幅を広げていき、逆に振動していない(ノイズ成分が重畳していない)と判定された場合には、加速度用設定部771及び速度用設定部772それぞれに係る平滑化時間幅を狭める。
【0080】
このように、ノイズ成分が重畳している場合には平滑化時間幅を広げることで、そのノイズ成分を除去するように制御し、重畳していない場合には平滑化時間幅を狭めることで、検出遅れを低減するように制御する。
【0081】
また、再粘着制御部640は、引き下げ速度制御部642を有し、平滑化時間幅設定部770の加速度用設定部771により設定される加速度検出部702の平滑化時間幅に応じて、トルク引き下げ速度を可変に制御する。具体的には、引き下げ速度制御部642は、平滑化時間幅が広げられた場合にトルク引き下げ速度を緩やか(遅く)に変更し、狭められた場合にトルク引き下げ速度を急峻(早く)に変更する。
【0082】
図11は、平滑化時間幅を変更した場合に算出される軸速度及び加速度の変化と、トルク分電流指令の引き下げ速度との関係を説明するための図である。第1速度〜第2速度、第1加速度〜第4加速度の関係は、図2と同様であり、数字が大きいほど平滑化時間幅が長い(広い)。図11において、トルク分電流指令Iq_refの変化は、第1速度に比べて平滑化時間幅の長い(広い)第2速度の軸速度を検出し、第2加速度の加速度を検出した場合の再粘着制御による変化を示している。時刻t11において空転滑走が検出され、加速度がゼロとなった時刻t13において回復が検出される。この時刻t11と時刻t13の間、直線A1に示されるトルク引き下げ速度によってトルク分電流指令Iq_refがL1まで引き下げられる。
【0083】
引き下げ速度制御部642は、平滑化時間幅が広げられた場合には、トルク引き下げ速度を緩やか(遅く)に変更する。例えば、平滑化時間幅が第2加速度より広い第3加速度に変更した場合、加速度がゼロとなる時刻は時刻t15である。もしも、トルク引き下げ速度を固定として変更しなかった場合には、直線A1に示されるトルク引き下げ速度によってトルク分電流指令Iq_refがL2まで引き下げられることとなる。トルク引き下げ量が(L2−L1)だけ過剰となる。これを例えば直線A2に示されるトルク引き下げ速度に変更することで、過剰なトルク分電流指令Iq_refの引き下げを抑制し得る。
【0084】
このように、引き下げ速度制御部642は、平滑化時間幅が広げられた場合に過剰なトルク引き下げを防止する作用効果を発揮する。また、平滑化時間幅が狭められた場合には、トルク引き下げ速度を上げる。平滑化時間幅が狭められることにより加速度の検出遅れが低減されるため、トルク引き下げ速度を上げて、トルク引き下げ期間を短縮させるためである。
【0085】
なお、振動発生判定部760が速度用判定部762を有せず、平滑化時間幅設定部770が速度用設定部772を有しないこととして、速度検出部701の平滑化時間幅については変更せず、加速度検出部702の平滑化時間幅のみ変更設定することとしてもよい。
【0086】
[変形例]
以上2つの実施例について説明したが、本発明が適用可能な実施例はこれらに限られるわけではない。例えば、第1実施例と第2実施例とを組み合わせた形態にも適用可能である。具体的には、例えば図4の再粘着制御装置60に、図10の振動発生判定部760と、平滑化時間幅設定部770と、引き下げ速度制御部642とを設け、平滑化時間幅設定部770が、空転滑走検出用加速度検出部612と、回復検出用加速度検出部622と、再粘着検出用加速度検出部632との平滑化時間幅それぞれを変更設定する。そして、引き下げ速度制御部642は、回復検出用加速度検出部622の平滑化時間幅に応じて引き下げ速度を可変に設定する。
【0087】
また、図7の再粘着制御装置60に、図10の振動発生判定部760と、平滑化時間幅設定部770と、引き下げ速度制御部642とを設けて、平滑化時間幅設定部770が、空転滑走検出用速度検出部611、回復検出用速度検出部621、再粘着検出用速度検出部631それぞれの平滑化時間を変更設定するとともに、空転滑走検出用加速度検出部612、回復検出用加速度検出部622、再粘着検出用加速度検出部632それぞれの平滑化時間幅を変更設定することとしてもよい。図9に対しても同様である。
【0088】
また、第2実施例における図7の加速度検出部702が、第1実施例と同様、第1〜第n(n≧2)の加速度検出部を有することとし、加速度用設定部771の設定に応じて切り換えて選択した加速度検出部が加速度を検出することとしてもよい。
【0089】
また、上述した2つの実施例を含む実施形態では、回復検出と再粘着検出とを別々の検出として説明したが、回復検出したことをもって再粘着検出とみなしてもよいことは勿論である。
【0090】
また、速度検出部601,701は、PG信号をもとに速度及び加速度を検出することとして説明した。しかし、速度センサレスベクトル制御の技術を適用して、パルスジェネレータ等の速度センサを不要として速度及び加速度を検出することとしてもよい。具体的には、速度検出部601,701は、電動機10に供給される電動機電流・電圧から回転速度を推定することで、軸速度Vを検出(推定)し、更に加速度αを検出(推定)することとしてもよい。
【0091】
また、上述した各実施例においては、速度や加速度を求める際に、平滑化時間幅を変更してPG信号等を時間軸方向に平滑化する処理を説明したが、この平滑化処理において、PG信号等に含まれる不要な周波数(例えばノイズ)をカットするための抽出処理を行うこととしてもよい。具体的には、例えば、ノイズ成分の周波数に応じてカットオフ周波数を定め、このカットオフ周波数未満の信号成分を抽出する。平滑化処理は、この信号成分に対して行う、或いは、抽出処理を行った後の信号成分に対して平滑化処理を行う。
【符号の説明】
【0092】
10 電動機
20 パルスジェネレータ
30 インバータ
50 電動機制御装置
60 再粘着制御装置
601 速度検出部
610 空転滑走検出部
612 空転滑走検出用加速度検出部
620 回復検出部
622 回復検出用加速度検出部
640 再粘着制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動輪を駆動する電動機を制御して当該動輪の空転又は滑走(以下「空転滑走」という。)の発生を検出する空転滑走発生検出方法であって、
随時検出される前記動輪の速度に基づいて、時間軸方向に平滑化する第1の平滑化処理を用いて加速度を検出する第1の加速度検出ステップと、
随時検出される前記動輪の速度に基づいて、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記第1の平滑化処理よりも平滑化時間幅が狭い第2の平滑化処理を用いて加速度を検出する第2の加速度検出ステップと、
前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第1の加速度閾値条件を満たし、且つ、前記第2の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第2の加速度閾値条件を満たした場合に、空転滑走の発生を検出する検出ステップと、
を含む空転滑走発生検出方法。
【請求項2】
前記動輪の速度と所与の基準速度との速度差に係る条件を判断することなしに、前記検出ステップでの検出結果で空転滑走の発生を判断する、
請求項1に記載の空転滑走発生検出方法。
【請求項3】
前記検出ステップは、
前記第1の加速度閾値条件を満たすか否かを、前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度と、第1の閾値とを比較して判定し、
前記第2の加速度閾値条件を満たすか否かを、前記第2の加速度検出ステップにおいて検出された加速度と、前記第1の閾値よりも高い第2の閾値とを比較して判定する、
ステップである、
請求項1又は2に記載の空転滑走発生検出方法。
【請求項4】
走行速度に応じて、前記第1の平滑化処理及び/又は前記第2の平滑化処理の平滑化時間幅を変更する速度基準平滑化幅変更ステップを更に含む請求項1〜3の何れか一項に記載の空転滑走発生検出方法。
【請求項5】
前記第1の平滑化処理及び/又は前記第2の平滑化処理において所与の信号周波数成分を抽出する抽出処理ステップを更に含む請求項1〜4の何れか一項に記載の空転滑走発生検出方法。
【請求項6】
動輪を駆動する電動機を制御して当該動輪の空転滑走の発生を検出して再粘着制御を行う電動機制御装置であって、
随時検出される前記動輪の速度に基づいて、時間軸方向に平滑化する第1の平滑化処理を用いて加速度を検出する第1の加速度検出部と、
随時検出される前記動輪の速度に基づいて、時間軸方向に平滑化する平滑化処理であって前記第1の平滑化処理よりも平滑化時間幅が狭い第2の平滑化処理を用いて加速度を検出する第2の加速度検出部と、
前記第1の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第1の加速度閾値条件を満たし、且つ、前記第2の加速度検出ステップにおいて検出された加速度が第2の加速度閾値条件を満たした場合に、空転滑走の発生を検出する空転滑走発生検出部と、
を備えた電動機制御装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図2】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−249523(P2012−249523A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206438(P2012−206438)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【分割の表示】特願2011−9370(P2011−9370)の分割
【原出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】