説明

穿孔治具

【課題】リーマ穿孔作業者の負担の軽減と共に、作業効率の向上を図る。
【解決手段】作業面Wと当接する筒体の本体部2と、本体部2の基端を覆うようにその外周に螺合して取り付けられ、中心部に受け用ねじを備える案内部材17と、受け用ねじと螺合して作業面Wに垂直に姿勢を固定する送り用ねじを備えるリーマ21とを具備する。そして本体部2の先端部に、溝13,14と、溝13,14から外部の吸引手段に繋がる空気吸引孔4と、溝13,14と空気吸引孔4の開口部を囲むように内外に封止部材を設ける。穿孔作業においては、リーマ21の先端で孔位置を定めた後、吸引手段により空気を排出して負圧により本体部2を固定し、リーマ21を回転して送り出し穿孔する。作業面Wに対するリーマ21の位置が固定され、リーマ21の進入角度が垂直に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手作業で使用する穿孔治具に係り、特に、真空吸引力を利用して作業面に固定させる穿孔治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少数の長尺な部材に穿孔を穿設する場合には、部材の形状と、作業空間との関係上、固定設置された大型の穿孔機を使用することが困難であり、被穿孔部材の個数も少数であることから、手作業により穿設作業が行われていたが、作業空間との関係上、穿孔箇所が限定されると共に、穿設作業の度に、保持工具による被穿孔部材の固定作業を要するため、作業効率が低下すると共に、作業者負担が増大していた。
【0003】
このため、上記した部材に孔を穿設する場合には、穿孔治具と、ハンドドリルとが併用され、作業面に穿設された下孔に対して、リーマ及び穿孔治具の位置合わせを行い、一の作業者が両手で穿孔治具を押圧固定し、他の作業者がリーマをハンドルで回転させることにより、穿設された穿孔の内壁面を研削する方法が採用されている。
【0004】
しかし、上述した穿設方法の場合、両手で押圧固定されている穿孔治具が動くことにより、また、送り機構が具備されていないために、リーマの送り速度を一定に維持することが困難であることにより、リーマによる穿孔の内壁面を研削する際に、内壁面が損傷を受けるという問題が生じていた。
【0005】
そこで、作業者負担の軽減及び作業効率の向上を図ることが可能な穿孔治具として、電動工具に保持吸着板を取り付け、この保持吸着板に、真空作用による吸着保持力を発生させることにより、作業面に対して保持吸着板を固定する電動工具の保持装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭49−43287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した穿孔治具の場合、吸引に起因する真空力により、保持吸着板を作業面に保持することは可能であるが、被穿孔部材における穿孔目標位置に対するリーマの先端の位置合わせは、架台の取り付けとは別に行う必要があるため、作業者負担が増大すると共に、作業効率が低下してしまうといった問題が生じている。
【0007】
本発明は前記した点に鑑みてなされたものであり、作業者負担の軽減と共に、作業効率の向上を図ることが可能な穿孔治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る穿孔治具は、
真空吸引力を利用して被穿孔物の作業面に固定させ穿孔する穿孔治具において、
前記作業面に吸着固定する固定部を先端部に備える筒状の本体部と、
受け用ねじを備え、前記本体部の基端部に取り付けられる案内部材と、
前記受け用ねじと螺合する送り用ねじを備えるリーマとを具備し、
前記リーマが、前記受け用ねじに前記送り用ねじを螺合して回転することによって送り出されるとともに、前記作業面に対する進入角度を垂直に維持することを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、真空吸引力を利用して被穿孔物の作業面に固定させ穿孔する穿孔治具において、作業面に吸着固定する固定部を先端部に備える筒状の本体部と、受け用ねじを備え、本体部の基端部に取り付けられる案内部材と、受け用ねじと螺合する送り用ねじを備えるリーマとを具備し、リーマが、受け用ねじに送り用ねじを螺合して回転することによって送り出されるとともに、作業面に対する進入角度を垂直に維持するので、正確に位置決めをし、かつ、作業面に固定して穿孔することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明に係る穿孔治具は、前記固定部が、前記作業面と当接する面に形成された1又は複数の真空溝と、外部と前記真空溝とを連通する吸引孔とを具備し、前記吸引孔を介して前記真空溝の内部に存在する空気を吸引することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、固定部が、作業面と当接する面に形成された1又は複数の真空溝と、外部と真空溝とを連通する吸引孔とを具備し、吸引孔を介して真空溝の内部に存在する空気を吸引するので、真空溝の内部を略真空状態にすることで、本体部を作業面に吸着固定させることにより、作業者が穿孔治具を押圧する手間を省くことができる。
【0012】
請求項3に記載の発明に係る穿孔治具は、前記固定部が、前記真空溝と前記吸引孔の開口とを囲繞し前記作業面と当接する封止部材を具備することを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、固定部が、真空溝と吸引孔の開口とを囲繞し作業面と当接する封止部材を具備するので、作業面と本体部との間に生じる隙間を埋めることにより、外部からの空気の進入を防止することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明に係る穿孔治具は、前記封止部材が、弾性力を有する合成樹脂により形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、封止部材が、弾性力を有する合成樹脂により形成されているので、真空吸引力による本体部の押圧に応じて変形することにより、密着性の向上を図ることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明に係る穿孔治具は、前記本体部の基端部に、前記受け用ねじの軸心と同心であり、前記送り用ねじの外径と略同一である挿通孔が形成され、当該挿通孔が、前記リーマの挿通を許容することを特徴とすることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、本体部の基端部は、受け用ねじの軸心と同心であり、送り用ねじの外径と略同一である挿通孔が形成され、当該挿通孔が前記リーマの挿通を許容するので、リーマの姿勢を本体部の軸心方向に沿って保持することで、作業面に対して垂直な方向からより強固にリーマを保持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業面に吸着固定する固定部を先端部に備える筒状の本体部と、受け用ねじを備え、本体部の基端部に取り付けられる案内部材と、受け用ねじと螺合する送り用ねじを備えるリーマとを具備し、リーマが、受け用ねじに送り用ねじを螺合して回転することによって送り出されるとともに、作業面に対する進入角度を垂直に維持するので、リーマの位置を合わせた後で本体部を固定することによってリーマの位置合わせが容易になり、作業効率の向上を図ることができる。
【0019】
また、固定部が、作業面と当接する面に形成された1又は複数の真空溝と、外部と真空溝とを連通する吸引孔とを具備し、吸引孔を介して真空溝の内部に存在する空気を吸引するので、真空溝の内部を略真空状態にすることで、本体部を作業面に吸着固定させることにより、作業者が穿孔治具を押圧する手間を省くことが可能となり、これによって、作業者負担の軽減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
図1から図7を参照しながら、本発明に係る穿孔治具について説明する。
図1に示すように、本実施形態における穿孔治具1には、略円筒形状の本体部2が具備されている。この本体部2の一端部の外周には、外径方向に沿って突出した突出片3が、本体部2と一体となるよう延設されており、この突出片3には、図2に示すように、吸引孔4が穿設されている。
【0021】
吸引孔4は、本体部2の先端側の一面から中途部かけては、同一直径となるように形成され、中途部から他面にかけては、他面に向って直径が連続的に増大するような形状に形成されており、その内周壁面には、雌ねじが螺刻されている。
【0022】
吸引孔4には、外周壁面に雄ねじが螺刻された接続部材5が螺合されている。この接続部材5は、金属等の硬化性物質によって吸引孔4の内周壁面と対応した形状に成型され、吸引孔4と外部を結ぶ通気孔(図示せず)が穿設されている。また、接続部材5の他端面には、径寸法の異なる嵌合管6が接合され、接続部材5における通気孔と連通されている。
【0023】
嵌合管6には、例えば、ゴム等の可撓性を有する合成樹脂によって成型された吸引管7の一端が接続されており、吸引管7の他端は、吸引装置(図示せず)の吸引口と接続されている。
【0024】
また、本体部2の先端側の一面であって、作業面Wと対向する固定部としての当接面8には、図2及び図3に示すように、周方向に沿って離間した2本の嵌合溝9,10が形成されている。これら嵌合溝9,10には、例えば、ゴム等の弾性力を有する合成樹脂からなる封止部材11,12がそれぞれ嵌合されている。封止部材11,12の太さは径が一定で本体部2を所定の力で押したときに本体部2の当接面8が作業面Wに当接するものを選ぶ。
【0025】
これら2本の嵌合溝9,10の間であって、各嵌合溝9,10に対して等距離間隔に離間する位置には、図3に示すように、周方向に沿って第1真空溝13が形成されている。また、同一面上には、周方向に沿って等角度間隔に離間するように、複数の第2真空溝14が形成されており、このうちの1つは、突出片3に穿設された吸引孔4と通じている。これら第1真空溝13及び第2真空溝14は繋がっており、またこれらの溝は、図4に示すように、断面を半円形状に形成されており、吸引孔4を介して、各真空溝13,14の内部中空に存在する空気が吸引されるようになっている。
【0026】
なお、第1真空溝13及び第2真空溝14の幅寸法wは、3.5mmから4.5mmであることが好ましく、4.0mmであることがより好ましい。また、深さ寸法dは、1.5mmから2.5mmであることが好ましく、2.0mmであることがより好ましい。さらに、隣接する各第2真空溝14,14の間の角度間隔は、12〜30°であることが好ましい。
【0027】
一方、本体部2の基端部の外周には、図2に示すように、基端部から所定の範囲にかけて、周方向に沿って雄ねじ(M95、P=1.0)が螺刻されている。また、内部には、挿通孔15が穿設されており、この挿通孔15を介して大径の中空である逃げ部16と連通されている。
【0028】
本体部2に螺刻された雄ねじには、図1、図5及び図6に示すように、略円筒形状の案内部材17が螺合されるようになっている。案内部材17の外周壁面上の一部には、作業者が確実に把持できるように微小の凹凸が形成されたローレット18が設けられている。また、案内部材17は、一端側から中空部19が形成されており、この中空部19の内壁面上には、開口面から中途部にかけて本体部2の外周の雄ねじに螺合する雌ねじ(M95、P=1.0)が螺刻されている。さらに、他端側にかけて貫入孔20が穿設されており、貫入孔20の内壁面上には、受け用ねじとしての雌ねじ(M42、P=1.0)が螺刻されている。この貫入孔20の径寸法は、本体部2の他端の側に穿設された挿通孔15の径寸法と略同一で同一の中心を持つようになっており、本体部2に案内部材17を螺合させると、案内部材17の貫入孔20と、本体部2の挿通孔15とを介して、外部と、本体部2における逃げ部16とが連通されるようになっている。
【0029】
また、案内部材17に穿設された貫入孔20には、棒状のリーマ21が螺合される。本体部2の逃げ部16から挿通孔15を通して貫入孔20に螺合されるようになっている。このリーマ21には、図1及び図7に示すように、刃部22が設けられており、この刃部22には、作業面Wの下孔から芯円を出すガイド部23と、中仕上げを行う第1刃部24と、仕上げを行う第2刃部25とが、リーマ21の一端から中途部に向かって順次形成されている。また、リーマ21には、中途部から基端部にかけて、送り用ねじとしての雄ねじ(M42、P=1.0)が螺刻された柄部26が設けられており、この柄部26と、案内部材17とが螺合され、図示しないリーマハンドルによってリーマ21を1回転させることで、ピッチが1mm送られるようになっている。
【0030】
次に、本実施形態における穿孔治具1の作用について説明する。
まず始めに、被穿孔部材の作業面Wにおける穿孔目標位置と、リーマ21の先端との位置合わせを行い、位置合わせの確認後、リーマ21を回転させて作業面Wに穿孔治具1の本体部2を当接させる。その後、吸引管7と接続された吸引装置を作動させると、吸引孔4を介して第1真空溝13及び第2真空溝14と、作業面Wとに囲繞された空間内に存在する空気が吸引される。この際、囲繞された空間内が略真空状態となることで、真空吸引力が生じ、穿孔治具1が作業面Wに固定される。
そして、作業者がリーマハンドルを回転させることで、リーマ21が回転し、リーマ21の刃部22が作業面Wに当接されて、穿孔される。穿孔後はリーマ21を戻し、最後に、吸引装置を停止させ、本体部2を取り外して、一連の穿設作業が完了する。
【0031】
このとき、嵌合溝9,10に嵌合された封止部材11,12が、本体部2の接地面8と、作業面Wとの間に隙間が形成されることを防止すると共に、真空吸引力による本体部2からの押圧力によって押圧変形することにより、本体部2と、作業面Wとの密着性が増大し、外部からの空気の進入が防止され、穿孔治具1が被穿孔部材に対して強固に固定される。
【0032】
また、本体部2と螺合された案内部材17の貫入孔20に雌ねじが螺刻され、この貫入孔20に螺合したリーマ21を、穿設作業においてリーマ21を回転させるとリーマ21が送り出されると共に、作業面Wに対するリーマ21の進入角度が常に垂直に維持される。
【0033】
以上より、本発明に係る穿孔治具によれば、作業面Wに吸着固定する固定部を先端部に備える本体部2と、雌ねじを備え、本体部2の基端部に取り付けられる案内部材17と、雌ねじと螺合する雄ねじを備えるリーマ21とを具備し、リーマ21は、雌ねじと雄ねじとが螺合して回転することにより、リーマ21が送り出されると共に、作業面Wに対する進入角度を垂直に維持するので、穿設作業に伴うリーマ21の回転に伴い、受け用ねじと、送り用ねじとが螺合することで、自動的にリーマ21の進入角度を垂直に維持することが可能となる。
そのため、作業効率の向上を図ることができる。
【0034】
また、固定部が、作業面Wと当接する面上に形成された第1真空溝13及び第2真空溝14と、外部と各真空溝13,14とを連通する吸引孔4とを具備し、吸引孔4を介して各真空溝13,14の内部に存在する空気を吸引するので、各真空溝13,14の内部を略真空状態にすることで、本体部2を作業面Wに吸着固定させることにより、作業者が穿孔治具1を押圧する手間を省くことが可能となる。
そのため、作業者負担の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る穿孔治具を示す縦断面図である。
【図2】本体部の内部構成を示す縦断面図である。
【図3】本体部の底面図である。
【図4】第1真空溝及び第2真空溝の縦断面図である。
【図5】案内部材の平面図である。
【図6】案内部材の部分縦面を含む側面図である。
【図7】リーマを示す正面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 穿孔治具
2 本体部
4 吸引孔
9,10 嵌合溝
11,12 封止部材
13 第1真空溝
14 第2真空溝
17 案内部材
21 リーマ
W 作業面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空吸引力を利用して被穿孔物の作業面に固定させ穿孔する穿孔治具において、
前記作業面に吸着固定する固定部を先端部に備える筒状の本体部と、
受け用ねじを備え、前記本体部の基端部に取り付けられる案内部材と、
前記受け用ねじと螺合する送り用ねじを備えるリーマとを具備し、
前記リーマは、前記受け用ねじに前記送り用ねじを螺合して回転することによって送り出されるとともに、前記作業面に対する進入角度を垂直に維持することを特徴とする穿孔治具。
【請求項2】
前記固定部は、前記作業面と当接する面に形成された1又は複数の真空溝と、外部と前記真空溝とを連通する吸引孔とを具備し、前記吸引孔を介して前記真空溝の内部に存在する空気を吸引することを特徴とする請求項1に記載の穿孔治具。
【請求項3】
前記固定部は、前記真空溝と前記吸引孔の開口とを囲繞し前記作業面と当接する封止部材を具備することを特徴とする請求項2に記載の穿孔治具。
【請求項4】
前記封止部材は、弾性力を有する合成樹脂により形成されていることを特徴とする請求項3に記載の穿孔治具。
【請求項5】
前記本体部の基端部は、前記受け用ねじの軸心と同心であり、前記送り用ねじの外径と略同一である挿通孔が形成され、当該挿通孔は、前記リーマの挿通を許容することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の穿孔治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−61963(P2007−61963A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251224(P2005−251224)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】