説明

突入電流防止回路

【目的】 電流電源1及びインバータ6と並列に電源コンデンサ3を設け、かつ前記電源コンデンサ3と直列にパワーMOSFET4を配設し、直流電源1から負荷電流をインバータ6に直接供給することによってパワーMOSFET4の発熱量を低下させ、安全である突入電流防止回路を提供する。
【構成】 リレースイッチ2を投入するとコンデンサ14が抵抗11を経て直流電源1により充電され、抵抗15の両端電位が緩やかに上昇することによってパワーMOSFET4にゲート電流が遅延して流れ、パワーMOSFET4が緩やかに導通するため、電源コンデンサ3への急激で過大な突入電流を防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、直流電源を用いたモータ制御装置に用いられる電源コンデンサや、交流電源からの全波整流による直流電源装置に用いられる平滑コンデンサなどの大容量コンデンサへの急激で過大な突入電流を防止する突入電流防止回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、交流電源からの電流を全波整流を行って直流電流を生成する直流電源装置において、交流リップル電圧を除去する目的で平滑コンデンサが設けられている。また、直流電源を用いたシステムにおけるモータなどの制御装置において、配線の浮遊インダクタンスによる電圧サージを防ぐ目的で、電源入力側に電源コンデンサを設けている。このような目的で使用されるコンデンサは電源投入時に充電が行われるが、容量が大きく、またインピーダンスが低いため急速に充電され、該コンデンサに大きな突入電流が流れる。この突入電流は電源開閉器としてのリレーの接点を溶着させるほどの大電流が流れるため、何らかの手段で抑制する必要性があった。
【0003】特開平5−15054号公報において突入電流防止回路が開示されている。それによると図4に示すように、トライアック8に抵抗7を並列接続し、そのT1端子に平滑コンデンサ11の一端を接続し、前記平滑コンデンサ11から前記T1端子とそのゲートを経る閉回路を形成し、前記平滑コンデンサ11が前記第1のトライアック8をトリガーし始める前記平滑コンデンサ11の電圧所定値を決める、第1のトリガー電圧決定手段である抵抗9,10を設けたことを特徴としている。該突入電流防止回路によると、前記抵抗7によって急激で過大な突入電流が平滑コンデンサ11に流れるのを防止している。そして、負荷電流による突入電流防止用の抵抗7の発熱を防止するために、平滑コンデンサ11の充電終了後にはトライアック8を導通させて負荷電流を迂回させている。
【0004】それに対して、特開平5−111149号公報記載の突入電流防止回路は、マイクロコンピュータを用いた構成によって、インターロックスイッチがOFFからONに切り替わった時に過大な突入電流がコンデンサC1に流れるのを防止している。それによると図5に示すように、プリンタのカバーが開けられた時にOFFとなるインターロックスイッチSW1と直列に電流制御素子18を配設するとともに、そのプリンタのカバーが開けられたか否かを検出するカバーオープン検出回路22を設け、カバーオープン検出回路22によりカバーの開状態の検出信号SDが出されるとマイクロコンピュータ12が信号SD2をLレベルとしトランジスタQ1をOFFしてトライアックTRC1を遮断状態とし、カバーオープン検出回路22によりカバーの閉状態が検出されても、コンデンサC1が充電されるのに必要な一定時間を経過するまではトライアックTRC1の遮断状態を継続することを特徴としている。該突入電流防止回路によると、前記特開平5−15054号公報記載の突入電流防止回路と同様に、電流制限抵抗R1によって過大な突入電流が流れるのを防止している。そして、負荷電流による電流制限抵抗R1の発熱を防止するために、コンデンサC1の充電終了後にはマイクロコンピュータ12からの信号によってトライアックTRC1を導通させて電流を迂回させている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記特開平5−15054号公報記載および前記特開平5−111149号公報記載の突入電流防止回路では、電源と直列にトライアック8またはトライアックTRC1のようなスイッチング素子を配設している。従って、負荷電流がスイッチング素子を流れるため、該スイッチング素子が発熱するという課題があった。また、何らかの不具合によって前記迂回路たるトライアック8またはトライアックTRC1のようなスイッチング素子の導通が妨げられた場合には、電流制限抵抗に負荷電流が過大に流れ該電流制限抵抗が過度に発熱する危険性があった。
【0006】図5に示す従来技術の課題について更に説明する。インターロックスイッチンSW1の投入により抵抗Rを介してバッテリEによりコンデンサC1が充電される。このコンデンサC1が充電されると、トライアックTRC1は両端の電圧差が小さくなり、マイクロコンピュータ12から指令信号SD2が発生しても点弧しないことがある。圧電ヘッド14の負荷に対して圧電ヘッド制御回路10のスイッチング素子が、トライアックTRC1と直列に挿入されてバッテリEに接続されている。このため、トライアックTRC1に電流を流すためには圧電ヘッド制御回路10と常に同じタイミングで、トライアックTRC1を駆動する必要がある。しかし、トライアックTRC1から圧電ヘッド制御回路10までの通電回路には、配線による浮遊のインダクタンスが存在するため電圧と電流と位相がずれることから、トライアックTRC1と圧電ヘッド制御回路10の電圧波形が異なる。従って、ゲート駆動してもトライアックTRC1が点弧しない可能性が残る。このように、スイッチング素子を直列接続する場合は、駆動法が問題となる。また、トライアックTRC1が点弧しないと負荷電流が抵抗R1を流れるので、抵抗R1が発熱する。しかも、トライアックTRC1は負荷電流により発熱を発生し、負荷電流の増加と比例して大きくなる。このように、トライアックを用いる従来の突入電流防止回路は、いずれも発熱の問題が大きくなる。
【0007】本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、電源と並列にスイッチング素子を配設し、電源と負荷の間には抵抗やスイッチング素子などの発熱性を有する電気部品を介在させないようにして、電源から直接負荷に負荷電流を供給することによって発熱量を低下させ、安全である突入電流防止回路を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するための具体的手段として、直流電源手段に開閉器を経て負荷及び前記直流電源手段と並列に挿入される大容量コンデンサへの突入電流を防止する突入電流防止回路において、該大容量コンデンサと直列にかつ前記負荷と並列にスイッチング素子を配設すると共に、前記開閉器の投入時より前記スイッチング素子の導通を緩やかに行う緩和手段を設けることを特徴とする突入電流防止回路が提供される。
【0009】
【作用】上記構成の突入電流防止回路によれば、大容量コンデンサと直列にかつ負荷と並列の回路に配設されたスイッチング素子の導通が開閉器投入時より緩やかに行われることによって、電源開閉器投入時などの大容量コンデンサへの急激で過大な突入電流を防止する。
【0010】
【実施例】本発明の実施例を添付図面を参照して説明する。図1は本発明による突入電流防止回路をモータ制御のインバータに使用した実施例を示す回路図である。直流電源1は、リレースイッチ2及びヒューズ8を介してモータ7を制御するインバータ6に接続される。該インバータ6及び直流電源1と並列に大容量の電源コンデンサ3(大容量コンデンサ)が接続され、該電源コンデンサ3と直列にパワーMOSFET4が接続される。パワーMOSFET4と並列に逆極性のダイオード5が接続される。このダイオード5は、パワーMOSFET4内蔵のダイオードにより代用することもできる。
【0011】パワーMOSFET4のゲートにはコンデンサ14が接続される。該コンデンサ14は、抵抗11(第1の抵抗器)を介して充電され、その充電電圧は、コンデンサ14、抵抗11と抵抗15による分圧比、及び電源1の電圧によって決定される。抵抗11及び15とコンデンサ14は、パワーMOSFET4を緩やかに導通するための緩和手段をなす。また、パワーMOSFET4はゲート・ソース間に過大な電圧が印加されないようにツェナーダイオード16によって保護している。抵抗12とダイオード13は、リレースイッチ2の開放時にコンデンサ14の電荷を早く放出するための回路である。この場合に、抵抗12は抵抗11に比べて十分小さな抵抗である。
【0012】次に上記した構成による本実施例の突入電流防止回路の作動を説明する。パワーMOSFET4は図3に示すように前記ゲート・ソース間電圧VGSがスレッシュホールド電圧VGS(Th)を越えるとターンオンして導通状態になりドレイン電流IDを流す。リレースイッチ2が導通して電源1が投入されると図2に示すようにゲート・ソース間電圧VGSは、コンデンサ14の充電波形によって緩やかに上昇する。それによって、パワーMOSFET4の前記ゲート・ソース間電圧VGSを緩やかに上昇させ、該ゲート・ソース間電圧VGSがスレッシュホールド電圧VGS(Th)を越えるとパワーMOSFET4はターンオンして導通状態になりドレイン電流IDが流れる。このように、ゲート・ソース間電圧を緩やかに変化させることにより、パワーMOSFET4は非導通状態から徐々に導通状態へと移行する。この結果、図2に示すようにドレイン・ソース間電圧VDSは時間t1後緩やかに減少し、ドレイン電流IDもリレースイッチ2投入後時間t1遅れて緩やかに流れる。
【0013】本実施例の回路はリレースイッチ2の出力電圧で動作するため、まずリレースイッチ2が導通状態になってから動作を開始し、時間t1後に電源コンデンサ3の充電電流が流れる。即ち、リレースイッチ2が確実に動作してから充電電流が流れることになる。
【0014】また、図2のドレイン電流IDは、ゲート・ソース間電圧VGSによって図3に示すように最大電流が制限されるため、突入電流が抑制されヒューズ8を溶断するような短絡電流は流れない。つまり、従来の制限抵抗9の役割をパワーMOSFET4が行う。
【0015】そして、リレー2投入後時間t2が経過すると、ゲート・ソース間電圧VGSには十分な電圧が供給されるため、パワーMOSFET4は常時導通状態に保たれる。逆方向の電流に対しては、ダイオード5によって導通状態である。すなわち、パワーMOSFET4は短絡状態となり、インバータ6の入力端に電源コンデンサ3が常時接続された状態になる。
【0016】上記した構成からなる本実施例の突入電流防止回路は、ゲート・ソース間電圧VGSを緩やかに変化させることによって、パワーMOSFET4が非導通状態から導通状態へ徐々に移行する。それによって、図2に示すようにドレイン・ソース間電圧VDSは緩やかに下降する。従って、ドレイン電流IDも緩やかに増減するため、従来のように電流制限抵抗を用いなくても急激で過大な突入電流が流れることがない。更に、パワーMOSFET4はインバータ6と並列に接続されるため、パワーMOSFET4に負荷電流が流れずコンデンサ14に流れる電流しか流れない。従って、負荷電流を供給できる能力が必要ないため容量を小さくすることができる。更に、電源1とインバータ6の間にはリレー2とヒューズ8以外は介在していないため、何らかの不具合によってパワーMOSFET4の導通が妨げられた場合でも、負荷電流が直接インバータ6に流れるため発熱する危険性がない。パワーMOSFET4は、トライアックのようにスイッチングさせないのでスイッチング損失はなく、ピーク電流は流れるが連続でないので通電損失はなく、電流容量の小さなものでよい。
【0017】以下、従来の方式と本実施例による突入電流防止回路のその他の特徴を列記する。
(従来の方式)
1)リレースイッチの投入により電流制限抵抗を介してコンデンサが充電されると、トライアックの電圧差が小さくなり、トライアックが点弧しない可能性がある。
2)モータ負荷に対してインバータのスイッチング素子とトライアックが直列に直流電源に接続されているため、常にインバータと同じタイミングでトライアックを駆動しなければならない。しかしながら、回路の配線による浮遊のインダクタンスによって電圧と電流の位相がずれるためトライアックとインバータの電圧波形が異なり、ゲート駆動しても点弧しない可能性がある。
3)電流制限抵抗を使用しているため発熱量が大きく、電力の損失が大きい。
【0018】(本実施例)
1)パワーMOSFETは原理的に抵抗素子であるため、バイポーラのように電流集中が発生しないため、容量負荷のある場合に適し、壊れにくい。
2)パワーMOSFETは充電が終了すると自動的に遮断するため、設計以上の電流が流れない。
3)モータ負荷が大きくなってインバータのPWM信号のデューティ比が100%になると電源コンデンサに電流が流れなくなる。従って、パワーMOSFETの発熱はインバータ出力電流に比例しないので熱設計に余裕を持たせることができる。
4)特別な回路や信号を必要とせず、簡略な受動素子で自動的に電源投入を判別することができる。
5)図1において、リレースイッチ2が導通してから回路が作動を開始するため、リレースイッチ2が導通し図2R>2に示す時間t1経過後に電源コンデンサ3の充電電流が流れる。すなわち、リレースイッチ2が確実に動作してからドレイン電流IDが流れることになるためリレースイッチ2が安定する。
6)図2に示すリレー投入時からゲート・ソース間電圧VGSがスレッシュホールド電圧VGS(Th)に達するまでの時間t1、およびゲート・ソース間電圧VGSに十分な電圧が供給されパワーMOSFET4が導通状態に保たれるまでの時間t2は、パワーMOSFET4のゲート側に接続されるコンデンサ14の容量及び抵抗11と15によって決定される。そのため、コンデンサ14の容量及び抵抗11と15を選択することによって、電源コンデンサ3の充電開始時間を任意に選択することができる。従って、リレースイッチ2の性能に準じて、電源コンデンサ3の充電開始時間を自在に設定することができる。
7)電流制限抵抗を使用していないため、電力の損失が少ない。
【0019】本発明は当然ながら本実施例に限定されるわけではなく、パワーMOSFETの駆動をマイクロコンピュータによって制御する構成とすることも可能である。
【発明の効果】本発明の突入電流防止回路は上記した構成を有し、直流電源と負荷の間には電流制限抵抗やトライアックなどの発熱性を有する電気部品を介在させないようにし、電源から直接負荷電流を負荷に供給することによって発熱を低下させ、安全であるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例の全体構成を示す回路図である。
【図2】リレースイッチ投入後のパワーMOSFETのゲート・ソース間電圧、ドレイン・ソース間電圧、及びドレイン電流の関係を示すタイムチャートである。
【図3】ゲート・ソース間電圧とドレイン電流との関係を示す関係図である。
【図4】従来例を示す回路図である。
【図5】従来例を示す回路図である。
【符号の説明】
1...直流電源、
2...リレースイッチ、
3...電源コンデンサ、
4...パワーMOSFET、
5,13...ダイオード、
6...インバータ、
11,12,15...抵抗器、
14...コンデンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 直流電源手段に開閉器を経て負荷及び前記直流電源手段と並列に挿入される大容量コンデンサへの突入電流を防止する突入電流防止回路において、該大容量コンデンサと直列にかつ前記負荷と並列にスイッチング素子を配設すると共に、前記開閉器の投入時より前記スイッチング素子の導通を緩やかに行う緩和手段を設けることを特徴とする突入電流防止回路。
【請求項2】 前記スイッチング素子がパワーMOSFETであることを特徴とする請求項1に記載の突入電流防止回路。
【請求項3】 前記パワーMOSFETのゲート・ソース間電圧を前記開閉器の出力電圧から第1,第2の抵抗器を直列接続する抵抗分圧器により供給すると共に、前記パワーMOSFETのゲート・ソース間に第2のコンデンサを配設して前記緩和手段とすることを特徴とする請求項2に記載の突入電流防止回路。
【請求項4】 前記パワーMOSFETのゲート・ソース間にツェナーダイオードを接続することを特徴とする請求項3に記載の突入電流防止回路。
【請求項5】 前記抵抗分圧器の第1抵抗器と並列に第3抵抗器と第1逆極性ダイオードとの直列回路を設けることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の突入電流防止回路。
【請求項6】 前記パワーMOSFETのドレイン・ソース間に第2逆極性ダイオードを並列に設けることを特徴とする請求項2及至請求項5のいずれかに記載の突入電流防止回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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