説明

突合せ溶接方法

【課題】 簡単な構造の治具を用いて銅裏当ての密着性を保ち、裏波形状が滑らかで、はみ出しや割れなどの欠陥が生ない突合せ溶接方法を提供する。
【解決手段】 平板1(1A、1B)相互の開先部2,2を突き合わせて定盤3上の銅裏当て5の上部に配置し、その開先部2,2の突合せ溶接を行う方法であって、定盤3上の所定位置にライナ6(6A、6B)を配置し、銅裏当て5の下部に袋体4を設け、このライナ6と銅裏当て5の上部に平板1を配置しその上にウエイト9を載置して形成し、上記袋体4の内部へガスを圧入して膨張させることにより、上記銅裏当て5を押し上げて開先部2裏面に密着させて溶接を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平板同士の突合せ溶接部裏面に敷く銅裏当ての密着性を良くして溶接部裏面の健全性を高めた突合せ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来一般の突合せ溶接方法は、図4(a)(b)に示すように、水平板21A,21Bの開先部22の下面に溶接用銅裏当て23を敷いて密着性を良くして片面テイグ溶接をおこなっている。図4(a)に示す事例は、平板21A,21B同士の突合せ開先部22の下面に銅裏当て23を敷いて、門型のストロンバック24を溶接によって取り付け、このストロンバック24と銅裏当て23の間にクサビ状の角矢25を打ち込んで、銅裏当て23を押付けて平板21A,21Bの下面に密着させている。図4(b)に示す事例は、門型のストロンバック24の内側に断面コ状のチャンネル材のケース26を固定し、所定間隔を置いて複数の支持ボルト27と押えボルト28を取り付け、この押えボルト28の締付けによって銅裏当て23を押さえつけ密着性をさらに向上させている。
【0003】
また、開先部の隙間を埋めて密着性を向上させた従来技術の発明には、本出願人による例えば特開平11−156590号公報に開示されている「溶接用裏当て」がある。この発明技術は、被溶接開先部の形状及び間隔の変化に適応した溶接用裏当である。
【0004】
また、図5(a)(b)に示すように、ビード形成用のフラックス29を用いてサブマージアーク溶接を行う方法があった。 図5(a)は、突き合わせた平板21A,21Aの開先部22下面に裏フラックス29Bを均一な厚さに敷き、その下部を銅裏当て23で支え、さらにその銅裏当て23をエアーホース30で押上げることにより、開先部22の裏面に表フラックス29Aを押し当てて片面からサブマージアーク溶接を行うものである。図5(b)は、突き合わせた平板21A,21Bの開先部22の下面に桶型の裏当て治具31を設置し、この裏当て治具31内に下敷きフラックスを入れた袋32を置き、その上に裏フラックス29Bをまき、その下方に配置したエアーホース33を膨張させることにより、開先裏面に裏フラックス29Bを押し当てて片面からサブマージアーク溶接を行うものである。
【0005】
また、図6(a)(b)に示すように、シート状の耐火部材37を裏面に接着させてマグ溶接を行う片面溶接法があった。図6(a)は突き合わせた平板21A,21Aの開先部22下面にガラステープ35と固形フラックス36と耐火材を張り合わせたシート状の耐火部材37を、両面接着テープ34で接着することにより、開先部22の裏面に密着させて片面から主にマグ溶接を行うものである。図6(b)は、突き合わせた平板21A,21Aの開先部22下面にガラステープ35と耐熱テープ38と特殊ガラステープ39をミシン糸で縫い合わせたシート状の耐火部材37を、両面接着テープで接着することにより、開先部22の裏面に密着させて片面から主にマグ溶接を行うものである。
【0006】
さらにまた、図7(a)(b)に示すように、分割された耐火材又は固形部材を開先部の裏面に接着させてサブマージアーク溶接あるいはマグ溶接を行う片面溶接法があった。図7(a)は、銅裏当て42と耐火物43とからなる分割された固形部材を、剥離紙40を剥がして接着剤付きアルミテープ41により、開先部22の裏面に密着させて片面からサブマージあるいはマグ溶接を行うものである。図7(b)は、柔軟性のあるガラステープ44と分割された耐火物45を、剥離紙40を剥がして接着剤付きアルミテープ41により、開先部22の裏面に密着させて片面からサブマージあるいはマグ溶接を行うものである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−156590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4(a)に示すように、門型のストロンバック24と銅裏当て23の間にクサビ状の角矢25を打ち込んで、銅裏当て23を平板21A,21Bの下面に密着させる従来一般の溶接用銅裏当ては、溶接熱の影響や溶接で発生する変形応力によって鋼板裏面と銅裏当ての間に隙間が生じることがあった。この隙間を生じないようにするために、門型のストロンバック24の設置数量を増して間隔を狭めたり、角矢25の打ち込み量を増したりすることが必要となり、ストロンバック24の溶着跡を健全に処理する手間が生じた。また、図4(b)に示すように、門型のストロンバック24の内側に固定した断面コ状のチャンネル材のケース26を、複数の支持ボルト27と押えボルト28によって銅裏当て23を押さえつけて密着性をさらに向上させた方法は、これらの治具の製作、取付けに手数がかかり、いちいち押えボルト28によって銅裏当て23を押さえ密着させるために締め付け作業が大変であった。
【0009】
特開平11−156590号公報の「溶接用裏当て」は、両面溶接する際に開先内部を埋めて保護する場合には適用することができるが、平板の銅裏当てを用いて片側から溶接する場合には採用することができなかった。また、上記と同様に門型のストロンバックを溶着し銅裏当ての間に角矢を打ち込むため、隙間が生じないようにするためにストロンバックの設置数量を増し、角矢の打ち込み量を増す作業が必要となり、ストロンバックの溶着跡を健全に処理する手間も生じた。
【0010】
図5(a)に示すように、開先部22下面に裏フラックス29Bを敷き、その下部を銅裏当て23で支えエアーホース30で押上げる方法は、サブマージアーク溶接に適用するものであって、銅裏当て23と裏フラックス29Bをエアーホース30で押上げているが、初層ティグ溶接を適用する場合には裏フラックス29Bが溶接に悪影響を与えるため採用することができなかった。また、図5(b)に示すように、開先部22の下面に桶型の裏当て治具31を設置し、下敷きフラックスを入れた裏当23と裏フラックス29Bを入れ、その下方に配置したエアーホース33を膨張させて裏フラックス29Bを押し当てる方法は、サブマージアーク溶接に適用するものであって、裏当23とエアーホース33で裏フラックス29Bを押上げているが、上記と同様に、初層ティグ溶接を適用する場合には裏フラックス29Bが溶接に悪影響を与えるため採用することはできなかった。また、フラックス29の消耗があり、さらに裏当て治具31の設置と調整に手間を必要とした。
【0011】
図6(a)に示すように、開先部22下面にガラステープ35と固形フラックス36と耐火材を張り合わせたシート状の耐火部材37を、両面接着テープ34で接着する方法は、ガラステープ35が溶接に悪影響を与える心配があり、さらに大きな平板の裏面に人が入って作業をしなければならないため、設置が困難で手間がかかるなどの問題もあった。また、図6(b)に示すように、開先部22下面にガラステープ35と耐熱テープ38と特殊ガラステープ39をミシン糸で縫い合わせたシート状の耐火部材37を、両面接着テープ34で接着する方法は、上記と同様に、ガラステープ35が溶接に悪影響を与える心配と、大きな平板の裏面に人が入る作業性の問題があった。また、上記のようにガラステープ35などを両面接着テープ34で接着する方法は、強度が不十分であり損傷や剥がれを生じる心配があった。
【0012】
図7(a)に示すように、銅裏当て42と耐火物43とからなる分割された固形部材を、剥離紙40を剥がして接着剤付きアルミテープ41によって密着させる方法は、接着剤付きアルミテープ41が溶接に悪影響を与える心配があり、大きな平板の裏面に人が入って作業をしなければならないため、設置が困難で手間がかかるなどの問題があった。また、図7(b)に示すように、柔軟性のあるガラステープ44と分割された耐火物45を、剥離紙40を剥がして接着剤付きアルミテープ41によって密着させる方法は、上記と同様に、接着剤付きアルミテープ41が溶接に悪影響を与える心配と平板の裏面での作業性の問題があった。また、上記のテープ状部材は、製作及び保管、運搬時の取扱いに、剥れないようにする配慮を必要とした。
【0013】
この発明の目的は、上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構造の治具を用いて銅裏当ての密着性を保ち、裏波形状が滑らかで、はみ出しや割れなどの欠陥が生ない突合せ溶接方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明の突合せ溶接方法は、平板相互の開先部を突き合わせて定盤上の銅裏当ての上部に配置しその開先部の突合せ溶接を行う方法であって、定盤上の所定位置にライナを配置し、銅裏当ての下部に袋体を設け、このライナと銅裏当ての上部に平板を配置しその上にウエイトを載置して形成し、上記袋体の内部へガスを圧入して膨張させることにより、上記銅裏当てを押し上げて開先部裏面に密着させて溶接を行う。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の突合せ溶接方法は、開先部の下部に銅裏当てを敷きこの銅裏当ての下部に袋体を設け、この袋体の内部へガスを圧入して膨張させるので袋体は銅裏当てを押し上げて開先部の裏面に弾力的に密着し、平板の上にウエイトを載置するので上からの押え付けで溶接熱による浮き上がりを押えるため、袋体とウエイトによる挟み付けが相俟って、溶接金属のはみ出しがなく裏波形状が滑らかで形状不良の発生がなく、溶接部に割れなどの欠陥が生じなく、良好な裏波の溶接部が得られる。そのため、裏波の整形研削を必要とすることがなく多大な手間を必要とすることがない。また、袋体は簡単な部材で製作することができ、袋体及び銅裏当ての設置は作業性良く簡単にでき、圧力設定と調整も簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明に係る突合せ溶接方法を、図1及び図2に基づいて説明する。 図1は、この発明に係る突合せ溶接方法の実施形態例で(a)平面図(b)縦断面図である。 平面図(a)に示すように、ティグ溶接を行うアニュラ板などの平板1(1A、1B)相互の開先部2を突き合わせて、定盤3上に配置する。開先部2の両端位置を押さえ治具7で固定し、平板1上にウエイト9を載置する。 縦断面図(b)に示すように、平板1(1A、1B)の下部、定盤3上の所定位置にライナ6(6A、6B)を配置する。
また、開先部2の下部には銅裏当て5を敷き、この銅裏当て5の下部に袋体4を設ける。 この袋体4はステンレスなどの薄い板を用いて、その周縁端部を溶着して膨張可能な袋状に形成し、その内部へ圧力ガスを送入することができるようにガス入口ノズル10を側面近傍に設ける。
【0017】
上記平板1(1A、1B)を配置する手順を、(1)〜(3)に沿って説明する。(1)定盤3上の所定位置、つまり配置する平板1の開先部2に相当する位置に、袋体4を配置しその上に銅製などの銅裏当て5を載せる。この位置から離れて平板1の荷重を平均に支持する適当な位置に、ライナ6A、6Bを配置する。このライナ6は上部の平板1に逆ひずみをつけるため、外側に位置するライナ6Bの厚さを大きくする。(2)平板1(1A、1B)を定盤3上に静置する。この際に銅裏当て5上の開先部2の所定間隔を確保する。 平板1(1A、1B)を定盤3上に押さえ付け固定するための押さえ治具7を、開先部2両端位置の定盤3上に溶接で取付ける。この押さえ治具7にクサビ状の角矢8を打ち込んで平板1(1A、1B)を定盤3上に押さえ付け固定する。(3)平板1(1A、1B)上部に、押え部材のウエイト9を載せる。
【0018】
図2に開先部2の近傍を拡大して示し、上記(1)〜(3)に続く作業手順を説明する。銅裏当て5の下部の袋体4は、設置時には破線に示すように萎んだ状態で、ガス入口ノズル10からガスを圧入することによって、溶接時には実線に示すように膨張させる。膨張した袋体4は、銅裏当て5を押し上げて開先部2の裏面に密着させる。 この際の圧入ガスは、窒素、アルゴンなどの安全な不活性ガスを使用し、圧力調整器を使用してガス圧力を0.1〜0.5Mpa程度に調整して密着性を良くする。
【0019】
開先部2の上方から初層テイグ溶接を開始する。溶接熱でアニュラ板が定盤3より僅かに浮いても、加圧した袋体4もその形状に追従して変形し、銅裏当て5を平板1裏面形状に追従して弾性変形する。 また、図1に示したように平板1の上に載置したウエイト9が、溶接熱による平板1の浮き上がりを上方から押えるため、袋体4とウエイト9による上下からの挟み付けが相俟って、開先部2と銅裏当て5の密着性が向上し隙間が生じることがない。
【0020】
このように、溶接熱の影響で平板1の裏面形状が変化した場合に、銅裏当て5が追従し変形して密着することにより、溶接金属のはみ出しがなくなり形状不良の発生がなく、滑らかで良好な溶接部が得られる。よって、従来のような裏波の整形研削をする必要がなくなり、多大な手間と負担を要することがない。さらに、従来のような門型のストロンバックの設置と角矢の打込みが不要となり、このストロンバックの溶着跡を処理する手間もなくなる。
【0021】
図3の縦断面図に実施例の試験実施状態を示し、表に試験結果を示す。図3に示すように、定盤3上に袋体4を置き、この袋体4の上に銅裏当て5を配置する。袋体4に設けたガス入口ノズル10からガスを圧入し、開先部に相当する距離を置いた支持点11,11で固定し、その中央部の変位をダイヤルゲージ12によって測定する。
【0022】
試験結果の表に示すように、押え治具となる袋体内部の圧力を0.1Mpa(メガパスカル)から増加させるのに従って、銅裏当ての弾性変形が生じて中央部が浮上し、上方に位置する開先部への密着性が向上することが判明した。試験圧力範囲0.1〜0.5Mpaで、残留変形が1ミリメートル程度以下、弾性変形4ミリメートル程度、浮上り寸法5ミリメートル程度と適当な変化量が得られるため、実用に適することが判った。この押え治具となる袋体を、溶接開先部の銅裏当て裏面へ設置し内圧をかけ膨張させて密着性の向上を図ることによって、開先部裏面への溶接金属のはみだしが防止され、滑らかで健全な溶接部が得られることになる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明に係る突合せ溶接方法は、簡単な構造の治具を用いて銅裏当ての密着性を保ち、裏波形状が滑らかで、はみ出しや割れなどの欠陥が生ないため、平板を突合せて溶接する貯槽、箱体、壁面の被覆体など、広い分野の突合せ溶接方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係る突合せ溶接方法を示す平面図、及び側面図である。
【図2】図1の開先部近傍を示す縦断面説明図である。
【図3】実施例の試験状況側面図、及び試験結果表を示す。
【図4a】従来一般の突合せ溶接方法の事例を示す断面説明図である。
【図4b】従来一般の突合せ溶接方法の他の事例を示す断面説明図である。
【図5a】フラックスと押当て治具を用いた従来の突合せ溶接方法の事例を示す断面説明図である。
【図5b】フラックスと押当て治具を用いた従来の突合せ溶接方法の他の事例を示す断面説明図である。
【図6a】裏面にシート状の耐火部材を接着させた従来の突合せ溶接方法の事例を示す断面説明図である。
【図6b】裏面にシート状の耐火部材を接着させた従来の突合せ溶接方法の他の事例を示す断面説明図である。
【図7a】裏ビード形成用の固形部材等をアルミテープで接着させた従来の突合せ溶接方法の事例を示す斜視説明図である。
【図7b】裏ビード形成用の耐火物等をアルミテープで接着させた従来の突合せ溶接方法の他の事例を示す斜視説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1,1A,1B 平板 2 開先部 3 定盤 4 袋体 5 銅裏当て 6,6A,6B ライナー 7 押さえ治具 8 角矢 9 ウエイト10 ガス入口ノズル11 支持点12 ダイヤルゲージ 21,21A,21B 平板22 開先部23 銅裏当て24 ストロンバック25 角矢26 ケース27 支持ボルト28 押えボルト29,29A,29B フラックス30 エアーホース31 裏当て治具32 袋33 エアーホース34 両面接着テープ35 ガラステープ36 固形フラックス37 耐火部材38 耐熱テープ39 特殊ガラステープ40 剥離紙41 接着剤付きアルミテープ42 銅裏当て43 耐火物44 ガラステープ45 耐火物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板相互の開先部を突き合わせて定盤上の銅裏当て上部に配置しその開先部の突合せ溶接を行う方法であって、定盤上の所定位置にライナを配置し、銅裏当ての下部に袋体を設け、このライナと銅裏当ての上部に平板を配置しその上にウエイトを載置して形成し、上記袋体の内部へガスを圧入して膨張させることにより、上記銅裏当てを押し上げて開先部裏面に密着させて溶接を行うことを特徴とする突合せ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【公開番号】特開2007−118044(P2007−118044A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313934(P2005−313934)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)