説明

窒化アルミニウム含有物の製造方法

【課題】製造コストが低い窒化アルミニウム含有物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法は、窒化物の生成自由エネルギーがアルミニウムより小さい元素である触媒元素を、窒素雰囲気下で加熱された溶融アルミニウム中に位置させることにより、触媒元素を触媒とした窒化反応を生じさせ、窒化アルミニウムを含有する窒化アルミニウム含有物を生成する第1熱処理工程を具備する。触媒元素はボロン、カルシウム、シリコン、鉄、モリブデン、クロム、バナジウム、マグネシウム、マンガン、インジウム、ガリウム、タンタル、ハフニウム、及びトリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム含有物の製造方法に関し、特に、塊状の窒化アルミニウム含有物または粉末状の窒化アルミニウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、熱伝導率が高く、熱膨張係数が低く、化学的にも安定である等、優れた性質を有する材料である。このため、近年、半導体デバイス等やエンジン部材等等、様々な分野へ応用されることが期待されている。
【0003】
従来、窒化アルミニウムを製造する方法としては、非常に高い気圧(例えば100気圧)の窒素雰囲気中でアルミニウムを高温(例えば1600°)に加熱する方法がある。この方法によれば、窒化アルミニウムの粉末を得ることができる。非特許文献1には、窒化アルミニウムの製造に関する研究が開示されている。
【非特許文献1】小橋眞、斎木健蔵ら、日本軽金属学会第104回講演概要集(2003)2.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した方法では、窒化アルミニウムを得るためには、非常に高い気圧、かつ高温にする必要がある。従って、窒化アルミニウムの製造コストが高くなっていた。
【0005】
また、窒化アルミニウムの粉末しか得ることができない。このため、所望する形状の窒化アルミニウム含有物を得るためには、窒化アルミニウムの粉末にバインダーを添加して所望する形状にした後、焼成する必要があった。このため、塊状の窒化アルミニウム含有物の製造コストは更に高くなっていた。
【0006】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、製造コストが低い窒化アルミニウム含有物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法は、窒化物の生成自由エネルギーがアルミニウムより小さい元素である触媒元素を、窒素雰囲気下で加熱された溶融アルミニウム中に位置させることにより、前記触媒元素を触媒としたアルミニウムの窒化反応を生じさせ、窒化アルミニウムを含有する窒化アルミニウム含有物を生成する第1熱処理工程を具備する。
前記触媒元素はボロン、カルシウム、シリコン、鉄、モリブデン、クロム、バナジウム、マグネシウム、マンガン、インジウム、ガリウム、タンタル、ハフニウム、及びトリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である。
【0008】
前記触媒元素が固溶しているアルミニウムである触媒元素固溶アルミニウム、前記触媒元素と化合物を形成しているアルミニウムである触媒元素化合アルミニウム、前記触媒元素固溶アルミニウムと前記触媒元素化合アルミニウムの混合物、若しくは前記触媒元素固溶アルミニウム及び前記触媒元素化合アルミニウムの少なくとも一つとアルミニウムの混合物を窒素雰囲気下で溶融させることにより、前記触媒元素を窒素雰囲気下で溶融アルミニウム中に位置させてもよい。
【0009】
前記触媒元素は、前記触媒元素を含有する物質と前記アルミニウムを同一の容器内で加熱して、前記アルミニウムを溶融させることにより、前記溶融アルミニウム内に位置してもよい。この場合、前記容器内で、前記触媒元素を含有する物質の上に前記アルミニウムを配置し、その後前記アルミニウムを溶融させるのが好ましい。さらにこの場合、前記アルミニウムは板状又は塊状であり、前記触媒元素を含有する物質は粉末又は粒子状であり、前記アルミニウムの一面に前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を付着させた後、前記アルミニウムを、前記一面を下方に向けて前記触媒元素を含有する物質の上に配置するのが好ましい。また、前記アルミニウムは板状又は塊状であり、前記触媒元素を含有する物質は粉末又は粒子状であり、複数の前記アルミニウムそれぞれの一面に、前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を押圧することにより、前記複数のアルミニウムの一面それぞれに前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を付着させ、前記複数のアルミニウムを、前記一面を下方に向けた状態で、それぞれの間に前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を挟みつつ前記容器内で積層し、かつ最も下に位置する前記アルミニウムを前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子の上に配置してもよい。
【0010】
前記第1熱処理工程において、前記容器の周辺部における前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子の配置密度を、前記容器の中心部における前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子の配置密度より高くしてもよい。
【0011】
前記第1熱処理工程における熱処理温度を、700℃以上1400℃以下にするのが好ましい。前記第1熱処理工程において、前記窒素ガス雰囲気を加圧雰囲気にしてもよいし、常圧にしてもよい。加圧する場合、前記窒素ガス雰囲気は50気圧以下であることが好ましい。
【0012】
前記第1熱処理工程の後に、前記窒化アルミニウム含有物を冷却した後、窒素雰囲気下で前記窒化アルミニウム含有物を再び熱処理する第2熱処理工程を具備してもよい。この場合、前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程の間に、前記窒化アルミニウム含有物の形状を加工する工程を有してもよい。前記第2熱処理工程において、前記窒素ガス雰囲気を加圧雰囲気にしてもよいし、常圧にしてもよい。加圧する場合、前記窒素ガス雰囲気は50気圧以下であることが好ましい。前記第2熱処理工程を複数回繰り返してもよい。
【0013】
前記第1熱処理工程において、前記溶融アルミニウムの周辺部の温度を、前記溶融アルミニウムの中心部の温度より50℃以上300℃以下高くしてもよい。
前記第1熱処理工程において、前記溶融アルミニウムを加熱する加熱手段の前記溶融アルミニウムに対する相対位置を、前記溶融アルミニウムの周囲で上下に往復移動させてもよい。
【0014】
本発明に係る窒化アルミニウム含有物は、塊状の窒化アルミニウムの中にアルミニウムが島状に分散しており、かつアルミニウムと窒化アルミニウムの粒界の少なくとも一部にケイ素が分散した状態で存在している。前記アルミニウムの分散密度は傾斜していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の窒化アルミニウム含有組成物の製造方法によれば、非常に高い気圧にすることなく、かつ1600℃もの高温にすることなく、窒化アルミニウム含有物を製造することができる。特に、製造の条件を調節することにより、塊状の窒化アルミニウム含有物を直接製造することができる。このため、製造コストが格段に低くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態に係る窒化アルミニウム含有組成物の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、第1の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法に用いられるカーボン抵抗炉の構成図である。このカーボン抵抗炉は、反応チャンバー10を有している。反応チャンバー10には排気口(図示せず)及びガス導入口11が設けられている。反応チャンバー10内には、ルツボ12を加熱するためのグラファイトヒータ13が設けられている。ルツボ12には熱電対が取り付けられているため、モニター線14を通じてルツボ12の温度を反応チャンバー10の外部でモニターすることができる。グラファイトヒータ13は、制御部(図示せず)によって制御されている。この制御部は、例えばルツボ12の温度に基づいて、グラファイトヒータ13への出力を制御する。
【0018】
次に、上記のカーボン抵抗炉を用いた窒化アルミニウム含有物の製造方法について説明する。
まず、触媒元素とアルミニウムを溶解することにより、触媒元素が固溶しているアルミニウムである触媒元素固溶アルミニウム、触媒元素と化合物を形成しているアルミニウムである触媒元素化合アルミニウム、触媒元素固溶アルミニウムと前記触媒元素化合アルミニウムの混合物、若しくは触媒元素固溶アルミニウム及び触媒元素化合アルミニウムの少なくとも一つとアルミニウムの混合物(以下、触媒元素含有アルミニウム20と記載)を製造する。本工程で用いる装置は、例えばアーク溶解炉であるが、通常の溶解炉であっても良い。触媒元素は、窒化物の生成自由エネルギーがアルミニウムより小さい元素であり、例えばボロン、カルシウム、シリコン、鉄、モリブデン、クロム、バナジウム、マグネシウム、マンガン、インジウム、ガリウム、タンタル、ハフニウム、及びトリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である。触媒元素がボロンの場合、触媒元素含有アルミニウム20は、例えばボロンとアルミニウムの化合物(AlB)を含有している。
【0019】
次いで、触媒元素含有アルミニウム20をルツボ12の内部の配置する。次に、上記した排気口から反応チャンバー10内部を排気し、その後ガス導入口11から窒素ガスを導入する。これにより、反応チャンバー10の内部は窒素雰囲気になる。反応チャンバー10内部における窒素ガスの圧力は、常圧でも良く、50気圧以下の加圧雰囲気でもよく、さらには減圧雰囲気下でもよい。常圧又は減圧雰囲気の場合、反応チャンバー10の内部に窒素ガスを常に供給するのが好ましい。例えば常圧の場合、反応チャンバー10から窒素ガスをオーバーフローさせることになる。
【0020】
次に、グラファイトヒータ13でルツボ12を、例えば700℃以上1400℃以下まで加熱する。これにより、ルツボ12内で触媒元素含有アルミニウム20が溶融する。この状態において、触媒元素は雰囲気中の窒素と反応して窒化する。上記したように触媒元素は、窒化物の生成自由エネルギーがアルミニウムより小さい。このため、触媒元素と結合した窒素がアルミニウムに受け渡され、アルミニウムが窒化する。このようにして、触媒元素を触媒としたアルミニウムの窒化反応が進行し、窒化アルミニウム含有物が形成される(以下、第1熱処理と記載)。第1熱処理の初期段階において、窒化アルミニウムはアルミニウムより比重が大きいため、生成した窒化アルミニウムの粒子が沈殿し、その上方でアルミニウムの窒化反応が進行する状態になると考えられる。そして窒化アルミニウムの生成が進むと窒化アルミニウムの粒子同士が結合してネットワーク状になり、このネットワーク状の窒化アルミニウムの表面でアルミニウムの窒化反応が進むと考えられる。なお、反応チャンバー10内の圧力が低いほど、触媒元素含有アルミニウム20の融点以上の温度域における昇温速度を遅くするのが好ましい。例えば反応チャンバー10内の圧力が常圧である場合、触媒元素含有アルミニウム20の融点以上の温度域における昇温速度は、5℃/min以下であるのが好ましい。
【0021】
第1熱処理におけるアルミニウムの窒化反応において、窒化反応が進行する速度は、処理温度及び雰囲気窒素の圧力によって制御することができる。また、第1熱処理の処理条件、例えば処理温度、雰囲気窒素の圧力、反応時間、及びアルミニウムに対する窒化ホウ素の割合等によって、窒化アルミニウム含有物の状態を作り分けることができる。
【0022】
(空孔率が1%以下という表現があったのですが、その部分については削除しました)
例えば所定の処理条件では、複数の窒化アルミニウム粒子がアルミニウムによって接合した窒化アルミニウム含有物が、凝集合体(バルク)状すなわち塊状で得られる。得られた窒化アルミニウム含有物は、複数の窒化アルミニウム粒子の相互間にアルミニウムが位置しているか、又はネットワーク状すなわち網目状に成長した窒化アルミニウムの相互間にアルミニウムが位置している。このように、焼結法によって得られた窒化アルミニウム含有物と比較して空孔体積率が大幅に低下し、バルク状の窒化アルミニウム含有物を得ることができる。なお、ネットワーク状すなわち網目状に成長した窒化アルミニウムの相互間に位置するアルミニウム中には、ネットワークを形成していない窒化アルミニウム粒子が含まれる場合もある。また、塊状の窒化アルミニウム含有物において、少なくとも一部の触媒元素は、窒化アルミニウムとアルミニウムの粒界に、アルミニウムと化合した状態で取り込まれる。
【0023】
そして、窒化アルミニウムの生成反応が促進される条件(例えば1300℃で40気圧)では、生成物である窒化アルミニウム含有物に含まれる窒化アルミニウムの割合を高くし、かつアルミニウムの割合を低くすることができる。
【0024】
アルミニウムの含有率が40%以上70以下の場合、得られた窒化アルミニウム含有物の加工性が高くなる。また、アルミニウムの含有率が20%以下の場合、窒化アルミニウムの機械的特性(硬度等)が高くなる。また、アルミニウムの含有率が5%以下の場合、得られた窒化アルミニウム含有物の特性(熱伝導率及び抵抗を含む)が、純粋なAlNの特性に近くなる。
【0025】
アルミニウムの窒化が一定以上(例えば窒化アルミニウムの含有率が99%以上)になると、窒化アルミニウム含有物は凝集合体(バルク)状の物と粉末状の物の混合物になり、更にアルミニウムの窒化が進むと、生成物は粉末状になる。粉末状の生成物は、高純度の窒化アルミニウムである。
【0026】
また、反応チャンバー10内部における窒素ガスの圧力が高いほど、窒化アルミニウム含有物の空孔体積率は高くなり、また空孔体積率が高くなるに伴って熱伝導率が低くなる。このため、空孔体積率を高くしたい場合は反応チャンバー10内部における窒素ガスの圧力を高くしたほうが良く、逆に空孔体積率を低くして熱伝導率を高くしたい場合は、反応チャンバー10内部における窒素ガスの圧力を常圧以下にするのが好ましい。
【0027】
以上、本発明に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法によれば、容易に塊状の窒化アルミニウム含有物を得ることができる。得られた窒化アルミニウム含有物は、アルミニウムの割合によって特性が様々に変化する。例えばアルミニウムの割合が高い場合、窒化アルミニウム含有物の加工性が良くなり、アルミニウムの割合が低い場合、窒化アルミニウム含有物の特性がAlNの特性に近くなる。また、窒化アルミニウムの粒子の表面がアルミニウムによって被覆されているため、良好な耐湿性を得ることができる。
【0028】
また、従来方法と比較して製造条件は低温かつ低圧である。従って、製造コストも従来と比較して大幅に低くなる。また、製造条件を調整することにより、粉末状の窒化アルミニウムを製造することができるが、この場合においても、従来と比較して製造条件は低温かつ低圧であるため、製造コストが従来と比較して大幅に低くなる。
【0029】
なお、ルツボ12を冷却する冷却機構を設けても良い。冷却機構は、例えば上記した制御部が、ルツボ12の温度に基づいて制御する。制御部は、例えばルツボ12内でAlの窒化反応(発熱反応)が生じ始めてルツボ12の温度が急激に上昇し始めた場合に、冷却機構を作動させる。また上記した制御部は、グラファイトヒータ13及び冷却機構を適切に制御することにより、ルツボ12の温度プロファイルを任意のプロファイルにすることができる。例えば制御部は、ルツボ12を一定温度に維持しても良いし、所定の温度内で周期的に上下させても良い。
【0030】
次に、第2の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に示した第1熱処理によって塊状の窒化アルミニウム含有物を製造し、得られた窒化アルミニウム含有物を冷却した後、更に窒化アルミニウム含有物を窒素ガス雰囲気下で再熱処理(以下、第2熱処理と記載)するものである。窒化アルミニウムの冷却は、例えば炉冷で行う。第2熱処理は、例えば第1熱処理で用いたカーボン抵抗炉を用いて行う。第2熱処理を行うことにより、窒化アルミニウム含有物に含まれるアルミニウムの窒化反応が進行してアルミニウムの含有率が低下し、かつ窒化アルミニウムの含有率が上昇する。
【0031】
本実施形態において、第2熱処理は、第1熱処理よりアルミニウムの窒化反応が進行しやすい条件で行われても良いし、第1熱処理における熱処理条件と略同じであってもよい。具体的には、第1熱処理における熱処理温度は700℃以上1400℃以下である場合、第2熱処理における熱処理温度は700℃以上1400℃以下である。また、第2熱処理における窒素ガス雰囲気の圧力は、例えば加圧雰囲気であるが、第1熱処理と同様に、常圧又は減圧雰囲気であっても良い。
【0032】
第2熱処理においても、処理条件(具体的には温度及び圧力)を変更することにより窒化アルミニウムの生成反応の進行速度を調整して、生成物である窒化アルミニウム含有物に含まれる窒化アルミニウムの割合を高くし、かつアルミニウムの割合を低くすることができる。なお、アルミニウムの窒化反応が過度に進行すると、窒化アルミニウム含有物は凝集合体(バルク)状の物と粉末状の物の混合物、更には粉末状になる。粉末状の生成物は高純度の窒化アルミニウムである。
【0033】
また、第2熱処理すなわち窒化アルミニウム含有物の冷却及び加熱サイクルを複数回行っても良い。これにより、低温(例えば1100℃)かつ低圧の条件(例えば15気圧)においてもアルミニウムの含有率が更に低下し、かつ窒化アルミニウムの含有率が更に上昇する。また、単純に熱処理時間を長くする場合と比較して、窒化アルミニウム含有率を高くすることができる。
【0034】
本実施形態においても、容易に塊状の窒化アルミニウム含有物を得ることができる。得られた窒化アルミニウム含有物は、アルミニウムの割合によって特性が様々に変化する。例えばアルミニウムの割合が高い場合、窒化アルミニウム含有物の加工性が良くなり、アルミニウムの割合が低い場合、窒化アルミニウム含有物の特性がAlNの特性に近くなる。また、窒化アルミニウムの粒子の表面がアルミニウムによって被覆されているため、良好な耐湿性を得ることができる。
【0035】
また、従来方法と比較して製造条件は低温かつ低圧である。従って、製造コストも従来と比較して大幅に小さくなる。また、製造条件を調整することにより、粉末状の窒化アルミニウムを製造することができる。この場合においても、従来と比較して製造条件は低温かつ低圧であり、製造コストが従来と比較して大幅に小さくなる。
【0036】
また、第1熱処理後の塊状の窒化アルミニウム含有物の形状を所望の形状(例えば放熱基板、ピストン、又はシリンダなど)に加工した後、第2熱処理を行っても良い。特に、第1熱処理後の窒化アルミニウム含有物におけるAl含有率を例えば40〜70%となるようにすると、窒化アルミニウム含有物の加工性が高くなる。この場合においても、第2熱処理によって形状加工後の窒化アルミニウム含有物の窒化アルミニウム含有率を高くする(例えば98%以上)ことができる。
【0037】
また、第1熱処理及び第2熱処理の条件を調節することにより、窒化アルミニウム含有物中の窒化アルミニウム及びアルミニウムそれぞれの含有率を調節して熱膨張係数を調節することができる。このため、窒化アルミニウム含有物を半導体デバイスの放熱体として使用する場合、窒化アルミニウム含有物の熱膨張係数を半導体デバイスの基板(例えばSi基板及び化合物半導体基板の双方)の熱膨張係数に容易に整合させることができる。
【0038】
図2は、第3の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法を説明するための概略図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
まず、板状又は塊状のアルミニウム片21(例えば容器12の内径と略同一径の直径を有する円板状のアルミニウム)と粉末状又は粒子状の触媒元素含有物22を容器12に投入する。アルミニウム片21は一つであっても良いし、複数であっても良い。また、触媒元素含有物22は、窒化アルミニウムより標準生成自由エネルギーが高い元素を含む物質(例えば窒化物)である。この元素の具体例は、第1の実施形態と同様である。触媒元素含有物22は、例えば窒化ケイ素であるが、窒化ケイ素と窒化ホウ素の混合物であってもよいし、窒化カルシウム(CaN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化トリウム(ThN)、及び窒化バナジウム(VN)からなる群のいずれか一つ又は複数を用いてもよい。このとき、触媒元素含有物22がアルミニウム片21の下に位置するようにする。触媒元素含有物22は前面に略均一に分散されるのが好ましい。アルミニウムに対する触媒元素含有物22の重量比は0.1以上1以下であるのが好ましい。
【0040】
またアルミニウム片21と触媒元素含有物22を容器12に投入する前に、アルミニウム片21の一面に粉末状又は粒子状の触媒元素含有物22を押圧するなどにより、該一面の略全面に触媒元素含有物22を略均等に付着させ、この一面を下方に向けるのが好ましい。
【0041】
また、容器12の内部で、複数のアルミニウム片21を、相互間に触媒元素含有物22の粉末又は粒子を挟みつつ積層し、かつ最も下に位置するアルミニウム片21を触媒元素含有物22の粉末又は粒子の上に配置してもよい。この場合においても、アルミニウム片21の一面に粉末状又は粒子状の触媒元素含有物22を略均等に付着させ、この一面を下方に向けるのが好ましい。
【0042】
次に、上記した排気口から反応チャンバー10内部を排気し、その後ガス導入口11から窒素ガスを導入する。これにより、反応チャンバー10の内部は窒素雰囲気になる。反応チャンバー10内部における窒素ガスの圧力は、常圧又は減圧雰囲気でも良いし、加圧雰囲気(例えば5気圧以上30気圧以下、特に好ましくは9気圧以上11気圧以下)であってもよい。
【0043】
次に、ヒータ13で容器12を加熱し、容器12の内部をアルミニウムの融点(660℃)以上、好ましくは900℃以上1300℃以下(特に好ましくは1010℃以上1020℃以下)まで加熱する。これにより、容器12内のアルミニウム片21は溶融し、溶融したアルミニウム片21と固相の触媒元素含有物22との間で固液二相反応が生じ、さらに雰囲気中の窒素が反応に加わることにより、窒化アルミニウム含有物及びスラグが形成される。
【0044】
容器12の内部で触媒元素含有物22をアルミニウム片21の下に位置させた場合、溶融したアルミニウム片21が粉末状の触媒元素含有物22間に浸透し、また浮力により触媒元素含有物22が溶融アルミニウム中を浮遊する。このため、窒化アルミニウムの生成反応が効率よく進行する。また、窒化アルミニウムはアルミニウムより比重が大きいため、生成した窒化アルミニウムが沈殿し、その上方でアルミニウムの窒化反応が進行する状態になる。アルミニウム片21の一面に触媒元素含有物22を略均等に付着させた場合、上記した固液二相反応の成長核が非常に多くかつ均等に生成するため、窒化アルミニウムが略均等に生成する。
この窒化反応が進行する速度は、第1の実施形態と同様に、処理温度及び雰囲気窒素の圧力によって制御することができる。
【0045】
次に、必要に応じて、得られた窒化アルミニウム含有物を、第2の実施形態と同様の手法により、第2熱処理する。本処理により、窒化アルミニウム含有物の中で窒化アルミニウムの核が十分に成長して互いに接合し、ネットワーク状(パーコレーション構造)になり、このネットワークの相互間にアルミニウムが島状に独立して分散した状態になる。このため、窒化アルミニウム含有物の絶縁性が高くなる。
【0046】
アルミニウム片21の一面に触媒元素含有物22を略均等に付着させていた場合、上記したように第1熱処理において、固液二相反応の成長核が非常に多くかつ均等に生成している。この場合、これらの成長核が反応起点となるため、第2熱処理によってアルミニウムの窒化反応も窒化アルミニウム含有物の全体で略均等に進行し、特にアルミニウムが島状に分散しやすくなる。
【0047】
尚、本実施形態においても、第1熱処理後の塊状の窒化アルミニウム含有物を所望の形状(例えば半導体デバイスの放熱体、ピストン、又はシリンダなど)に加工した後、第2熱処理を行っても良い。また、第2熱処理すなわち窒化アルミニウム含有物の冷却及び加熱サイクルを複数回行っても良い。また、上記した第1熱処理及び第2熱処理それぞれにおいて、熱処理温度を、窒化物の粒径によって変更してもよい。
【0048】
以上、本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
次に第4の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法について説明する。本実施形態は、容器12の内部において、容器12の内部における触媒元素含有物22の配置密度を、例えば容器12の横断面方向に変化させる点を除いて、第3の実施形態と同様である。具体的には、例えば容器12の周辺部における粉末又は粒子の触媒元素含有物22の配置密度を、容器12の中心部における触媒元素含有物22の配置密度より高くする。
【0050】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果も得ることができる。
また、溶融したアルミニウム片21と固相の触媒元素含有物22との間で生じる固液二相反応の成長核が、容器12の周辺部の方が中心部より高密度になる。このため、生成した窒化アルミニウム含有物において、アルミニウム含有率を、例えば横断面方向に傾斜させることができる。具体的には、窒化アルミニウム含有物の周辺部における島状のアルミニウムの含有率を、中心部における島状のアルミニウムの含有率より低くすることができる。この場合、例えば窒化アルミニウム含有物のうちアルミニウムの含有率が高い部分を半導体デバイス等と接合させるための接合領域として用いることができる。また、窒化アルミニウム含有物に含まれるアルミニウムを薬液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)で溶出させることにより、容易にキャビティ構造とすることができる。
【0051】
次に、第5の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法について説明する。本実施形態は、第1加熱処理及び第2加熱処理の少なくとも一方において、容器12の内部に温度勾配を生じさせる点、例えば容器12の周辺部の温度を容器12の中心部の温度より50℃以上300℃以下高くする点を除いて、第2の実施形態又は第3の実施形態と同様である。
【0052】
本発明においても、溶融したアルミニウム片21と固相の触媒元素含有物22との間で生じる固液二相反応の反応速度に勾配が生じ、例えば容器12の周辺部の方が中心部より速くなる。このため、生成した窒化アルミニウム含有物のアルミニウム含有率を傾斜させることができる。例えば、窒化アルミニウム含有物の周辺部における島状のアルミニウムの含有率を、中心部における島状のアルミニウムの含有率より低くすることができる。すなわち第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
次に、第6の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法について説明する。本実施形態は、第1加熱処理及び第2加熱処理の少なくとも一方において、容器12を加熱するヒータ13を容器12の周囲で上下に往復移動させ、アルミニウム片21又は窒化アルミニウム含有物中のアルミニウムを部分的に溶解させ、該溶解している部分を上下に移動させる点を除いて、第2の実施形態又は第3の実施形態と同様である。
【0054】
本実施形態においては、複数のヒータ13を上下に間隔を空けて配置してもよい。また、複数のアルミニウム片21を、相互間に窒化ケイ素の粉末又は粒子を挟みつつ積層し、かつ最も下に位置するアルミニウム片21を窒化ケイ素の粉末又は粒子の上に配置するのが好ましい。
【0055】
本実施形態によれば、アルミニウムの窒化反応は発熱反応であるが、本実施形態によれば、窒化アルミニウム含有物が周期的に加熱されることになるため、窒化アルミニウム含有物の温度を均一に保ちやすくなる。このため、縦長(例えば円柱形)の窒化アルミニウム含有物のインゴットを製造する場合、インゴットの材質の均一性を向上させることができる。また、窒化アルミニウム含有物に同一方向の熱履歴を複数回与えることができる。従って、窒化アルミニウム含有物の結晶成長の方向を略同一方向にそろえ、窒化アルミニウム含有物の結晶性を向上させることができる。
【0056】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、ヒータ13に冷却手段を設け、ヒータ13及び窒化アルミニウム含有物の冷却速度を速くしても良い。
【0057】
また上記の各実施形態において、反応装置のヒータ13を板形状(例えば円板形状)にして、容器12の上方、下方、若しくは上方及び下方の双方に配置してもよい。このようにすると、容器12内の窒化アルミニウム含有物が薄くて板形状の場合、窒化アルミニウム含有物の材質の均一性を向上させることができる。また、容器12内の窒化アルミニウム含有物が縦長の場合、上下方向の温度勾配を与えることができ、生成した窒化アルミニウム含有物のアルミニウム含有率を上下方向に傾斜させることができる。この場合においても、ヒータ13に冷却手段が設けられていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1及び第2の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法に用いられる反応装置の構成図。
【図2】第3の実施形態に係る窒化アルミニウム含有物の製造方法を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0059】
10…反応チャンバー
11…ガス導入口
12…るつぼ(反応容器)
13…グラファイトヒータ
14…熱電対モニター線
20…触媒元素含有アルミニウム
21…アルミニウム片
22…触媒元素含有物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物の生成自由エネルギーがアルミニウムより小さい元素である触媒元素を、窒素雰囲気下で加熱された溶融アルミニウム中に位置させることにより、前記触媒元素を触媒としたアルミニウムの窒化反応を生じさせ、窒化アルミニウムを含有する窒化アルミニウム含有物を生成する第1熱処理工程を具備する窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒元素はボロン、カルシウム、シリコン、鉄、モリブデン、クロム、バナジウム、マグネシウム、マンガン、インジウム、ガリウム、タンタル、ハフニウム、及びトリウムからなる群から選ばれた少なくとも一種である請求項1に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項3】
前記触媒元素が固溶しているアルミニウムである触媒元素固溶アルミニウム、前記触媒元素と化合物を形成しているアルミニウムである触媒元素化合アルミニウム、前記触媒元素固溶アルミニウムと前記触媒元素化合アルミニウムの混合物、若しくは前記触媒元素固溶アルミニウム及び前記触媒元素化合アルミニウムの少なくとも一つとアルミニウムの混合物を窒素雰囲気下で溶融させることにより、前記触媒元素を窒素雰囲気下で溶融アルミニウム中に位置させる請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項4】
前記触媒元素は、前記触媒元素を含有する物質と前記アルミニウムを同一の容器内で加熱して、前記アルミニウムを溶融させることにより、前記溶融アルミニウム内に位置する請求項1又は2のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項5】
前記容器内で、前記触媒元素を含有する物質の上に前記アルミニウムを配置し、その後前記アルミニウムを溶融させる請求項4に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項6】
前記アルミニウムは板状又は塊状であり、前記触媒元素を含有する物質は粉末又は粒子状であり、
前記アルミニウムの一面に前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を付着させた後、前記アルミニウムを、前記一面を下方に向けて前記触媒元素を含有する物質の上に配置する請求項5に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウムは板状又は塊状であり、前記触媒元素を含有する物質は粉末又は粒子状であり、
複数の前記アルミニウムそれぞれの一面に、前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を押圧することにより、前記複数のアルミニウムの一面それぞれに前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を付着させ、
前記複数のアルミニウムを、前記一面を下方に向けた状態で、それぞれの間に前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子を挟みつつ前記容器内で積層し、かつ最も下に位置する前記アルミニウムを前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子の上に配置する請求項5に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項8】
前記第1熱処理工程において、前記容器の周辺部における前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子の配置密度を、前記容器の中心部における前記触媒元素を含有する物質の粉末又は粒子の配置密度より高くする請求項4〜7のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項9】
前記第1熱処理工程における熱処理温度を、700℃以上1400℃以下にする請求項1〜8のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項10】
前記第1熱処理工程において、前記窒素ガス雰囲気を加圧雰囲気にする請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項11】
前記窒素ガス雰囲気は50気圧以下である請求項10に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項12】
前記第1熱処理工程において、前記窒素ガス雰囲気を常圧にする請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項13】
前記第1熱処理工程の後に、前記窒化アルミニウム含有物を冷却した後、窒素雰囲気下で前記窒化アルミニウム含有物を再び熱処理する第2熱処理工程を具備する請求項1〜12のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項14】
前記第1熱処理工程と前記第2熱処理工程の間に、前記窒化アルミニウム含有物の形状を加工する工程を有する請求項13に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項15】
前記第2熱処理工程において、前記窒素雰囲気を加圧雰囲気にする請求項13又は14に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項16】
前記第2熱処理工程における前記窒素雰囲気は50気圧以下である請求項15に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項17】
前記第2熱処理工程において、前記窒素ガス雰囲気を常圧にする請求項13又は14に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項18】
前記第2熱処理工程を複数回繰り返す請求項13〜17のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項19】
前記第1熱処理工程において、前記溶融アルミニウムの周辺部の温度を、前記溶融アルミニウムの中心部の温度より50℃以上300℃以下高くする請求項1〜18のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項20】
前記第1熱処理工程において、前記溶融アルミニウムを加熱する加熱手段の前記溶融アルミニウムに対する相対位置を、前記溶融アルミニウムの周囲で上下に往復移動させる請求項1〜19のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム含有物の製造方法。
【請求項21】
塊状の窒化アルミニウムの中にアルミニウムが島状に分散しており、かつアルミニウムと窒化アルミニウムの粒界の少なくとも一部にケイ素が分散した状態で存在している、窒化アルミニウム含有物。
【請求項22】
前記アルミニウムの分散密度が傾斜している請求項21記載の窒化アルミニウム含有物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−115068(P2008−115068A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23707(P2007−23707)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月16日に日本金属学会講演概要(2006年秋期 第139回 大会)にて発表
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】