説明

窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法

【目的】 窒化アルミニウムの焼結に関する第2相成分を焼結体内に均一に存在させることにより、焼結体に発生するシミ、色ムラを防止する方法を提供する。
【構成】 焼結助剤が添加された窒化アルミニウム成形体の焼結時に、焼結温度から焼結助剤との共晶温度よりも250℃だけ低い温度まで3時間以上かけて冷却する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、焼結助剤が添加された窒化アルミニウム成形体を常圧にて焼成する窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、窒化アルミニウム焼結体は電気絶縁性、熱伝導性及び機械的強度に優れた特性を有することから、電子回路用基板として広く利用されている。従来、このような窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム粉末及び酸化イットリウム等からなる焼結助剤を含む原材料を所定形状に成形した後、約1800℃〜1900℃で常圧焼成し、その後、成形体を上記焼成温度から徐々に降温させることにより窒化アルミニウム焼結体を製造している。この方法によると、窒化アルミニウム粒子の粒界付近には、前記焼成によって第2相(アルミナと焼結助剤との共晶からなる相)が形成される。そして、焼成後に焼成温度から徐々に降温させることにより、その第2相成分が粒界に沿って成形体全体に移動拡散し、各窒化アルミニウム粒子同士を互いに焼結させる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来方法では焼成後の降温割合が1℃/分以上であったため、第2相成分を粒界に沿って充分に移動拡散させることができず、移動の途中で第2相成分が固化してしまうことが多かった。そのため、焼結体内外において第2相が偏在化してしまい、シミや色ムラといったような外観上の欠陥が発生し易かった。そして、このような焼結体は製品から除外されるため、原材料が無駄になり、コストの高騰や生産性の低下を余儀なくされていた。
【0004】また、第2相の偏在化に起因して、焼結体表面の平滑性も低下してしまうため、焼結後の後処理として表面研磨をしなければならないという問題があった。更に、このような焼結体では、未焼結部分ができてしまうため、焼結体に所望の強度を確保することが困難であった。
【0005】本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼結に関与する第2相成分を焼結体内に均一に移動拡散させることにより、焼結体に発生するシミ・色ムラを防止しつつ焼結体に充分な強度を確保することができる窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、本発明では、焼結助剤が添加された窒化アルミニウム成形体を常圧にて焼成する窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法において、前記成形体をその焼結温度から焼結助剤との共晶温度よりも250℃だけ低い温度まで放冷する際の時間を3時間以上に設定している。
【0007】
【作用】窒化アルミニウム及び焼結助剤を原材料とした成形体を焼成すると、窒化アルミニウム粒子の粒界には第2相(アルミナと焼結助剤との共晶からなる相)が形成される。そして、前記成形体を焼結温度から焼結助剤との共晶温度よりも250℃だけ低い温度範囲まで3時間以上かけて徐々に放冷すれば、前記第2相が成形体全体に移動拡散するまでの間、その第2相成分に流動性を付与することができる。従って、第2相成分が移動の途中で固化することはなく、成形体全体にわたって均一に拡散させることができる。そして、焼結体にシミ・色ムラが発生することが確実に防止され、焼結体にも充分な強度が確保できる。
【0008】以下に、本発明における窒化アルミニウム焼結体の製造方法について詳細に説明する。窒化アルミニウム焼結体の原材料は、100重量部の窒化アルミニウム粉末と、酸化イットリウムに代表される希土類酸化物からなる適量(1〜20重量部)の焼結助剤と、適量(5〜20重量部)のアクリル樹脂等からなるバインダーとを含むことが望ましい。焼結助剤が前記適量よりも過剰に存在すると、窒化アルミニウム粒子の粒界には第2相が多量に形成されてしまう。また、焼結助剤が前記適量に満たないと、窒化アルミニウム焼結体に強度の低下を招いてしまう。また、バインダーが前記適量よりも過剰に存在すると、窒化アルミニウム焼結体中の不純物の濃度が増加してしまい、電気絶縁性及び熱伝導性等の好適な物性が損なわれてしまう。また、前記適量に満たないと、成形体の形成に支障を来してしまう。よって、焼結体及びバインダーの添加量は前記適量内に維持することが望ましい。
【0009】上記の原材料を混合・乾燥させた後、所定形状のものとして、例えばシート状の成形体を得る。また、成形方法としては、プレス成形、ドクターブレード成形法、押し出し成形等が適用可能である。そして、この成形体は窒化アルミニウム、窒化ホウ素等からなるるつぼ内に配置される。上記の材料によれば高温でも安定であり、本発明に使用されるるつぼとして好適である。
【0010】この成形体から窒化アルミニウム焼結体を得るには、前記るつぼ内に成形体を配置すると共にるつぼ内を窒素雰囲気で満たし、所定の割合(10℃/分)で成形体を焼成温度(1800℃〜1900℃)まで昇温することが望ましい。この焼成温度が前記の範囲よりも高く設定されると、窒化アルミニウム粒子が成長しすぎて、焼結体の強度低下を引き起こしてしまう。また、この温度が低く設定されると、粒界に第2相が形成されなくなり、焼結体の強度が低下してしまう。
【0011】次に、成形体を所定時間(例えば、1〜10時間)にわたって、前記焼結温度にて保持することが望ましい。この間に窒化アルミニウム粒子の粒界では、窒化アルミニウムと焼結助剤との反応が進み、共晶が形成される。この保持時間が上記範囲より多いと、熱エネルギーが無駄に消費されるため好ましくない。また、保持時間が上記範囲より少ないと、形成される第2相が充分でなく、焼結が不完全になり易い。
【0012】続いて、焼結された窒化アルミニウム成形体を徐々に放冷する。この場合、成形体は前記焼結助剤との共晶温度以上、かつ前記焼成温度より低い温度に一定時間ホールドされることが望ましい。前記ホールドの方法としては、一定温度に維持する方法の他に、前記温度範囲内で直線的に温度を降下させたり、多段階的に温度降下させてもよい。こうすることにより、焼成によって形成された第2相成分が一定時間液状に保たれ、かつ窒化アルミニウム粒子の粒界に沿って成形体全体に均一に移動拡散する。また、前記ホールド時間は30分以上であることが望ましい。このホールド時間が30分未満であると、液状の第2相成分が形成されたとしても、粒界を充分に移動することができず、第2相成分が均一に拡散しないからである。
【0013】以上のようにホールドを行った後に、成形体を更に常温まで放冷することにより、所望の窒化アルミニウム焼結体が得られる。尚、前記ホールド後の降温時間は100分以上であることが望ましい。その理由は、降温時間が100分未満であると、第2相の固体化が急激に進み、第2相の分散が不均一になるからである。
【0014】
【実施例1,2及び比較例】以下に本発明を具体化した窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法の実施例1,2及びこれらに対する比較例について、それぞれ図面に基づき説明する。
〔実施例1〕100重量部の窒化アルミニウム粉末(平均粒径1.4μm)に対し、5重量部の酸化イットリウム粉末及び11重量部のアクリル樹脂製バインダーを添加して混合した後に、ドクターブレード成形してシート状(長さ130mm、幅130) mm、厚さ1.5mm)の成形体を得た。そして、この成形体を窒化ホウ素製のるつぼ内に配置して、窒素雰囲気及び常圧の条件下、10℃/分の割合で昇温した後、図1に示すように、窒化アルミニウムの焼結温度T1 である1850℃に2時間(図1R>1中にてt1 で示される)保持した。その後、図1にてt2 で示されるように、200分間かけて酸化イットリウムとの共晶温度T2 である1750℃まで冷却した。この時の降温割合は0.5℃/分であった。更に、前記ホールドの後に、250分間かけて前記共晶温度T2 から250℃低い温度T3 である1500℃まで放冷した。この時の降温割合は1℃/分であった。その後、成形体を常温まで放冷することにより、所望の窒化アルミニウム焼結体を得た。
【0015】表1に示すように、実施例1の窒化アルミニウム焼結体では、焼結体の表面に特に色ムラ、シミは見られず、色調の均一な灰白色を呈していた。また、焼結体の物性を調査したところ、熱伝導率は200 W/m.K、3点曲げ強度は40kg/mm2、気孔率は1.0%であり、好適な物性が付与されていることが判った。尚、走査型電子顕微鏡にて焼結体の表面付近の破断面を観察したところ、第2相は均一に拡散しており、未焼結部分も認められなかった。また、窒化アルミニウム粒子は多角状を呈していることが判った。
〔実施例2〕実施例2では前記実施例1と同様の成形体を用いると共に、実施例1と同じ昇温条件を適用し、図2R>2に示すように焼結温度T1 まで昇温し、その温度T1 で2時間保持した。その後、図2にてt2aで示されるように、100分間かけて1800℃に降温した後に、t2bで示すように、60分間の間、その温度t2bに維持した。次いで、図2にてt2cで示されるように、100分間かけて1800℃から酸化イットリウムとの共晶温度T2 である1750℃まで冷却した。従って、所定温度範囲(T1 〜T2 )にホールドした時間t2 は、トータルでt2a+t2b+t2c=260(分)であった。更に、前記ホールドの後に、250分間かけて前記共晶温度T2 から250℃低い温度T3 である1500℃まで放冷した。この時の降温割合は1℃/分であった。その後、成形体を常温まで放冷することにより、所望の窒化アルミニウム焼結体を得た。
【0016】表1に示すように、実施例2の焼結体でも焼結体の表面に特に色ムラ、シミは見られず、色調の均一な灰白色を呈していた。また、熱伝導率は200 W/m.K、3点曲げ強度は40kg/mm2、気孔率は1.0%であった。そして、焼結体の表面付近の破断面を観察した結果、第2相は均一に拡散しかつ未焼結部分も認められなかった。また、前記実施例1と同じように、窒化アルミニウム粒子は多角状であった。
〔比較例〕実施例1,2に対する比較例では、図3に示すように前記実施例1,2と同様の成形体を用いると共に、実施例1と同じ昇温条件を適用して焼結温度T1 まで昇温し、その温度T1 で2時間保持した。その後、図3R>3にてt2 で示されるように、20分間かけて酸化イットリウムとの共晶温度T2 である1750℃まで冷却した。この時の降温割合は5℃/分であった。更に、前記ホールドの後に、50分間かけて前記共晶温度T2 から250℃低い温度T3 である1500℃まで放冷した。この時の降温割合は5℃/分であった。その後、成形体を常温まで放冷して、窒化アルミニウム焼結体を得た。
【0017】表1より明らかなように、比較例の焼結体では焼結体の表面に色ムラ、シミ等の外観上の欠陥が見られ、色調の均一性は前記実施例1,2ほど良くはなかった。そして、表面の平滑性も前記実施例に比べて優れていなかった。また、熱伝導率は170 W/m.K、3点曲げ強度は30kg/mm2、気孔率は4.0%であり、何れの結果も実施例1,2よりも劣っていた。そして、焼結体の表面付近の破断面を観察した結果、第2相は焼結体内に不均一に偏在しており、多くの未焼結部分も認められた。また、窒化アルミニウム粒子は粒形状を保っていた。
【0018】
【表1】


【0019】尚、熱伝導率はレーザーフラッシュ法にて測定した。3点曲げ強度は10点において測定した値の平均を用いた。
【0020】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法によると、焼結に関与する焼結助剤を含有した第2相を焼結体内に均一に移動拡散させことにより、焼結体に発生するシミ・色ムラが防止され、かつ焼結体に充分な強度が確保されるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の窒化アルミニウムの焼結時における温度変化を示すグラフである。
【図2】 実施例2の窒化アルミニウムの焼結時における温度変化を示すグラフである。
【図3】 比較例の窒化アルミニウムの焼結時における温度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 (窒化アルミニウムの)焼結温度、T2 (窒化アルミニウムと焼結助剤との)共晶温度、T3 (T2 よりも250℃だけ低い)温度、t2 +t3 (T1 〜T3 まで放冷する際の)時間、t2 (ホールド)時間、t3 (ホールド後の降温)時間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 焼結助剤が添加された窒化アルミニウム成形体を常圧にて焼成する窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法において、前記成形体をその焼結温度(T1 )から焼結助剤との共晶温度(T2 )よりも250℃だけ低い温度(T3 )まで放冷する際の時間(t2 +t3 )を3時間以上に設定したことを特徴とする窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法。
【請求項2】 焼結された窒化アルミニウム成形体は、前記焼結助剤との共晶温度(T2 )以上、かつ焼結温度(T1 )より低い温度に一定時間(t2 )ホールドされることを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法。
【請求項3】 前記ホールド時間(t2 )は30分以上である請求項2に記載の窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法。
【請求項4】 前記ホールド後の降温時間(t3 )が100分以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の窒化アルミニウム常圧焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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