説明

窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード

【目的】 窒化ガリウム系化合物半導体を用いたレーザダイオードの出力効率の向上
【構成】 活性層をその禁制帯幅よりも大きな禁制帯幅を有する層で挟んだダブルヘテロ接合構造の窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0≦x≦1,0≦y≦1)から成るレーザダイオードにおいて、(11−20)面(a面)を主面とするサファイア基板と、サファイア基板上に直接又はバッファ層を介在させて、ダブルヘテロ接合構造に形成された窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0 ≦x ≦1,0≦y≦1)から成る積層された多重層と、多重層及び前記サファイア基板をサファイア基板の<0001>(c軸)に平行にへき開して形成された鏡面とを有することを特徴とする。端面の平行度及び鏡面度が高くなる結果、レーザの出力効率が向上した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、可視単波長、特に、青色領域から紫色領域まで、及び紫外光領域で発光可能な半導体レーザダイオードに関する。
【0002】
【従来技術】従来、特開平4-242985号公報に記載のレーザダイオードが提案されている。そのレーザダイオードは、窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0 ≦x ≦1,0≦y≦1)により作製されており、活性層には不純物の無添加の層が用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このレーザダイオードは、サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体をエピタキシャル成長させたものである。しかしながら、レーザダイオードを製作する場合には、精密な鏡面を得る必要があるが、未だ、精密な鏡面を得るためのへき開方向が見いだされていない。本願発明者らは、サファイア基板の主面の面方位を変化させて、窒化ガリウム系化合物半導体をエピタキシャル成長させて、多数の方向にへき開を行って、へき開面の面精度を観測した。その結果、サファイア基板のa面上に窒化ガリウム系化合物半導体をエピタキシャル成長させて、その半導体層をサファイア基板のc軸方向に平行にへき開するとき、へき開面の精度が良好となることが判明した。
【0004】本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードにおいて、共振器を構成する両端面の平行度及び面精度を良好とすることで、レーザの発振効率を向上させることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記問題を解決するための発明の構成は、活性層をその禁制帯幅よりも大きな禁制帯幅を有する層で挟んだダブルヘテロ接合構造の窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0≦x≦1,0≦y≦1)から成るレーザダイオードにおいて、(11−20)面(a面)を主面とするサファイア基板と、サファイア基板上に直接又はバッファ層を介在させて、ダブルヘテロ接合構造に形成された窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0 ≦x ≦1,0≦y≦1)から成る積層された多重層と、多重層及び前記サファイア基板をサファイア基板の<0001>(c軸)に平行にへき開して形成された鏡面とを有することを特徴とする。
【0006】
【作用及び効果】本発明は、上記のように、サファイア基板のa面上に窒化ガリウム系化合物半導体の多層を形成して、その多層によりレーザ素子を形成して、その多層をサファイア基板のc軸方向に平行に2箇所でへき開することで、レーザ素子の端面を得るようにしたものである。その結果、端面の平行度及び鏡面度が高くなる結果、レーザの出力効率が向上した。
【0007】
【実施例】以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
【0008】図1は、サファイア基板を用いた半導体レーザダイオードの構造を示した断面図である。図1において、(1,1,-2,0)面(a面)を結晶成長面とするサファイア基板1を有機洗浄の後、結晶成長装置の結晶成長部に設置する。成長炉を真空排気の後、水素を供給し1200℃程度まで昇温する。これによりサファイア基板1の表面に付着していた炭化水素系ガスがある程度取り除かれる。
【0009】次に、サファイア基板1の温度を 600℃程度まで降温し、トリメチルアルミニウム(TMA) 及びアンモニア(NH3) を供給して、サファイア基板1上に50nm程度の膜厚を持つAlN 層2を形成する。
【0010】次に、TMA の供給のみを止め、基板温度を1040℃まで上げ、トリメチルガリウム(TMG) 及びシラン(SiH4 ) を供給しSiドープn型GaN 層3(n+ 層)を成長する。
【0011】一旦、ウェハを成長炉から取り出し、GaN 層3の表面の一部をSiO2でマスクした後、再び成長炉に戻して真空排気して水素及びNH3 を供給し1040℃まで昇温する。
【0012】次に、TMA ,TMG 及びSiH4を供給して、SiO2でマスクされていない部分に厚さ0.5μmのSiドープのAl0.1Ga0.9N 層4(n層)を形成する。
【0013】次に、TMG 及びSiH4を供給しシリコンドープの厚さ 0.2μmのGaN 層5(活性層)を成長させる。
【0014】次に、TMA 、TMG 及びCp2Mg(ビスシクロペンタディエニルマグネシウム) を供給して、厚さ0.5 μmのマグネシウムドープのAl0.1Ga0.9N 層6(p層)を形成する。
【0015】次に、マスクとして使用したSiO2を弗酸系エッチャントにより除去する。次に、Al0.1Ga0.9N 層6(p層)上にSiO2層7を堆積した後、縦1mm、横50μmの短冊状に窓7Aを開け、真空チャンバに移して、マグネシウムのドープされたAl0.1Ga0.9N 層6(p層)に電子線照射処理を行う。この電子線の照射により、Al0.1Ga0.9N 層6(p層)はp型伝導を示した。
【0016】典型的な電子線照射処理条件を表に示す。
【表1】


【0017】次に、Al0.1Ga0.9N 層6(p層)の窓7Aの部分と、GaN 層3(n+ 層)に、それぞれ、金属電極8A、8Bを形成する。
【0018】上記の素子が1枚のサファイア基板1の上に多数形成される。そして、各素子は共振器の光路方向にはダイヤモンドカッタで切断され、共振の光路に垂直な方向(図1の紙面に垂直)にはへき開により切断される。
【0019】サファイアの結晶構造は、図2に示すように、6角柱であり、c軸とa面との関係は図示するようになっている。即ち、サファイア基板1のa面上にc軸が存在する。よって、図3に示すように、サファイア基板1及びその上に積層された各層2、3、4、5、6、7、8が、2つの位置でへき開により切断される。そうして、図4に示すように、両端面A,Bが鏡面となったレーザ共振器を得ることができる。
【0020】250〜300μmのサファイア基板のa面上にGaN を成長させて、これをサファイア基板のc軸に平行な方向には、容易にへき開できた。しかし、サファイア基板のa面上にGaN を成長させて、これをサファイア基板のc軸に平行でない方向でのへき開は困難であった。さらに、サファイア基板のc面上にGaN を成長させて、これをサファイア基板の全ての方向に容易に割れるため、両端面の平行度を上げるのが困難である。尚、a面及びc面のいずれのサファイア基板を用いても、GaN の結晶方向はc軸方向である。これらの実験から、サファイア基板のa面上にGaN を成長させて、これをサファイア基板のc軸方向にへき開した面の面精度が最も高いことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【図1】サファイア基板上に作製した本発明の具体的な一実施例に係る((AlxGa1-x)yIn1-yN:0≦x≦1,0≦y≦1)系半導体レーザダイオードの構成を示した断面図。
【図2】サファイアの結晶構造を示した説明図。
【図3】サファイア基板のa軸とc軸との関係及びへき開方向を示した説明図。
【図4】へき開面を有する素子を示した斜視図。
【符号の説明】
1…サファイアの(11-20) 面基板
2…AlN 緩衝層
3…GaN 層(n+ 層)
4…Al0.1Ga0.9N 層(n層)
5…GaN 層(活性層)
6…Al0.1Ga0.9N 層(p層)
7…SiO2
8A,8B…電極
A,B…へき開面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 活性層をその禁制帯幅よりも大きな禁制帯幅を有する層で挟んだダブルヘテロ接合構造の窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0≦x≦1,0≦y≦1)から成るレーザダイオードにおいて、(11−20)面(a面)を主面とするサファイア基板と、前記サファイア基板上に直接又はバッファ層を介在させて、前記ダブルヘテロ接合構造に形成された窒化ガリウム系化合物半導体((AlxGa1-x)yIn1-yN:0 ≦x≦1,0≦y≦1)から成る積層された多重層と、前記多重層及び前記サファイア基板をサファイア基板の<0001>(c軸)に平行にへき開して形成された鏡面と、を有することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平7−297495
【公開日】平成7年(1995)11月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−106057
【出願日】平成6年(1994)4月20日
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(390014535)新技術事業団 (20)
【出願人】(591014949)
【出願人】(591014950)