説明

窒化ガリウム系化合物半導体発光素子

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等の窒化ガリウム系化合物半導体は直接遷移を有し、バンドギャップが1.95eV−6eVまで変化するため、発光ダイオード、レーザダイオード等、発光素子の材料として有望視されている。現在、この材料を用いた発光素子には、n型窒化ガリウム系化合物半導体の上に、p型ドーパントをドープした高抵抗なi型の窒化ガリウム系化合物半導体を積層したいわゆるMIS構造の青色発光ダイオードが知られている。
【0003】MIS構造の発光素子として、例えば特開平4−10665号公報、特開平4−10666号公報、特開平4−10667号公報において、n型GaAl1−YNの上に、SiおよびZnをドープしたi型GaAl1−YNを積層する技術が開示されている。これらの技術によると、Si、ZnをGaAl1−YNにドープしてi型の発光層とすることにより発光素子の発光色を白色にすることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記技術のように、p型ドーパントであるZnをドープし、さらにn型ドーパントであるSiをドープした高抵抗なi型GaAl1−YN層を発光層とするMIS構造の発光素子は輝度、発光出力共低く、発光素子として実用化するには未だ不十分であった。
【0005】従って本発明はこのような事情を鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、p−n接合の窒化ガリウム系化合物半導体を用いて発光素子の輝度、および発光出力を向上させようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、n型窒化ガリウム系化合物半導体と、p型窒化ガリウム系化合物半導体層との間に、インジウムとガリウムを今む窒化物半導体層の発光層を備え、発光層にSiおよびZnをドープしてなることを特徴とする。特に、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、ZnとSiのドープされたインジウムとガリウムを含む窒化物半導体層の発光層を備える構造とすることにより、従来のMIS構造の発光素子は言うに及ばず、ダブルヘテロ構造の発光特性を飛躍的に改善することに成功したものである。
【0007】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、n型およびp型窒化ガリウム系化合物半導体層とは、GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等、窒化ガリウムを含む窒化ガリウム系化合物半導体に、n型であれば例えばSi、Ge、Se、Te等のn型ドーパントをドープして、n型特性を示すように成長した層をいい、p型であれば例えばzn、 Mg、Cd、Be、Ca等のp型ドーパントをドープして、p型特性を示すように成長した層をいう。n型窒化ガリウム系化合物半導体の場合はノンドープでもn型になる性質がある。また、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の場合、p型窒化ガリウム系化合物半導体層をさらに低抵抗化する手段として、我々が先に出願した特願平3−357046号に開示するアニーリング処理を行ってもよい。
【0008】また、ZnおよびSiをドープした発光層は、好ましくは、InGa1−xNの組成式で示される。この組成式において、Xの値は、0<X<0.5の範囲に調整することが好ましい。この組成式の窒化物半導体層は、X値を0より多くすることにより、発光色はおよそ紫色領域となる。X値を増加するに従い発光色は短波長側から長波長側に移行し、X値が1付近で赤色にまで変化させることができる。しかしながら、X値が0.5以上では結晶性に優れたInGaNが得られにくく、発光効率に優れた発光素子が得られにくくなるため、X値は0.5未満が好ましい。
【0009】また、発光層であるインジウムとガリウムを含む窒化物半導体層に含まれるZnおよびSiの濃度は、両者とも1×1017/cm〜1×1021/cmの範囲に調整することが好ましい。1×1017/cmよりも少ないと十分な発光強度が得られにくく、1×1021/cmよりも多いと、同じく発光強度が減少する傾向にある。さらに、Zn濃度よりもSi濃度の方を多くすることによりInGaNを好ましくn型とすることができる。
【0010】
【作用】図1に、Znを1×1018/cmドープしたn型In0.15Ga0.85N層と、Znを1×1019/cmおよびSiを5×1019/cmドープしたn型In0.15Ga0.85N層とにHe−Cdレーザーを照射して、室温でフォトルミネッセンス(PL)を測定し、それらの発光強度を比較して示す。なお、ZnのみをドープしたInGaN層のスペクトル強度は実際の強度を10倍に拡大して示している。この図に示すように、Znのみをドープしたn型InGaNのPLスペクトル(b)、SiおよびZnをドープしたn型InGaNのPLスペクトル(a)はいずれも490nmにその主発光ピークを有する。しかしながら、その発光強度は(a)の方が10倍以上大きい。これは、ZnをドープしたInGaNに、さらにSiをドープすることによりドナー濃度が増え、ドナー・アクセプタのペア発光により発光強度が増大していると推察される。なぜなら、ノンドープのInGaNは成長条件により電子キャリア濃度が、およそ1×1017/cm〜1×1022/cmぐらいのn型を示す。これは、ある程度の数のドナーがノンドープの状態でInGaN中に残留していることを示している。そこで、このノンドープのInGaNにZnをドープすると、前記残留ドナーと、ドープしたZnアクセプターとのドナー・アクセプターのペア発光が青色発光となって現れる。しかしながら、前記のように、残留ドナーによる電子キャリア濃度は1×1017〜1×1022/cmぐらいまで成長条件によりばらつき、再現性よく一定のドナー濃度のInGaNを得ることは困難であった。そこで、新たにSiをドープしてこのドナー濃度を多くすると共に、安定して再現性よく一定のドナー濃度を得るのが、Siドープの効果である。実際、Siをドープすることにより、電子キャリア濃度がおよそ1×1018/cmのものが2×1019/cmまで1桁増加し、ドナー濃度が増加していることが判明した。従って、ドナーが増加した分だけドープするZnの量も増やすことができ、ドナー・アクセプタのペア発光の数が増加することにより青色発光強度が増大すると推察される。
【0011】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、n型窒化ガリウム系化合物半導体と、p型窒化ガリウム系化合物半導体との間にインジウムとガリウムを含む窒化物半導体層を発光層とする半導体発光素子であって、発光層にSiとZnをドープすることにより、従来のSiとZnをドープしたi型GaAlNを発光層とするMIS構造の発光素子に比して発光効率、および発光強度を、100倍以上と格段に向上させることができる。
【0012】
【実施例】以下有機金属気相成長法により、本発明の発光素子を製造する方法を述べる。
【0013】[実施例1]
よく洗浄したサファイア基板を反応容器内にセットし、反応容器内を水素で十分置換した後、水素を流しながら、基板の温度を1050℃まで上昇させサファイア基板のクリーニングを行う。
【0014】続いて、温度を510℃まで下げ、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアとTMG(トリメチルガリウム)とを用い、サファイア基坂上にGaNよりなるバッファ層を約200オングストロームの膜厚で成長させる。
【0015】バッファ層成長後、TMGのみ止めて、温度を1030℃まで上昇させる。1030℃になったら、同じく原料ガスにTMGとアンモニアガス、ドーパントガスにシランガスを用い、Siを1×1020/cmドープしたn型GaN層を4μm成長させる。
【0016】n型GaN層成長後、原料ガス、ドーパントガスを止め、温度を800℃にして、キャリアガスを窒素に切り替え、原料ガスとしてTMGとTMI(トリメチルインジウム)とアンモニア、ドーパントガスとしてシランガスとDEZ(ジエチルジンク)とを用い、Siを5×1019/cm、Znを1×1019/cmドープしたn型In0.15Ga0.85N層を100オングストローム成長させる。
【0017】次に、原料ガス、ドーパントガスを止め、再び温度を1020℃まで上昇させ、原料ガスとしてTMGとアンモニア、ドーパントガスとしてCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)とを用い、Mgを2×1020/cmドープしたp型GaN層を0.8μm成長させる。
【0018】p型GaN層成長後、基板を反応容器から取り出し、アニーリング装置にて窒素雰囲気中、700℃で20分間アニーリングを行い、最上層のp型GaN層をさらに低抵抗化する。
【0019】以上のようにして得られたウエハーのp型GaN層、およびn型In0.15Ga0.85N層の一部をエッチングにより取り除き、n型GaN層を露出させ、p型GaN層と、n型GaN層とにオーミック電極を設け、500μm角のチップにカットした後、常法に従い発光ダイオードとしたところ、発光出力は20mAにおいて300μW、輝度900mcd(ミリカンデラ)、発光波長490nmであった。
【0020】[実施例2]
実施例1において、n型In0.15Ga0.85N層のSi濃度を2×1020/cm、Zn濃度を5×1019/cmとする他は、同様にして青色発光ダイオードを得たところ、20mAにおいて発光出力300μW、輝度920mcd、発光波長490nmであった。
【0021】[実施例3]
実施例1において、n型In0.15Ga0.85N層のSi濃度を5×1018/cm、Zn濃度を1×1018/cmとする他は、同様にして青色発光ダイオードを得たところ、20mAにおいて発光出力280μW、輝度850mcd、発光波長490nmであった。
【0022】[実施例4]
実施例1において、n型InGaNのInのモル比をIn0.25Ga0.75Nとする他は、同様にして青色発光ダイオードを得たところ、20mAにおいて発光出力250μW、輝度1000mcd、発光波長510nmであった。
【0023】[比較例1]
実施例1において、Siをドープせず、Zn濃度1×1018/cmのZnドープIn0.15Ga0.85Nを成長させる他は同様にして発光ダイオードとしたところ、20mAにおいて、発光出力180μW、輝度400mcdでしかなく、発光波長は490nmであった。
【0024】[比較例2]
実施例1のSi、Znドープn型In0.15Ga0.85N層を成長させる工程において、原料ガスにTMG、アンモニア、ドーパントガスにシランガス、DEZを用いて、Siを1×1018/cmとZnを1×1020/cmドープしたi型GaN層を成長させる。i型GaN層成長後、同様にしてi型GaN層の一部をエッチングし、n型GaN層を露出させ、n型GaN層とi型GaN層とに電極を設けて、MIS構造の発光ダイオードとしたところ、発光出力は20mAにおいて1μW、輝度0.1mcdしかなかった。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、インジウムとガリウムを含む窒化物半導体層の発光層を有し、その発光層にSiおよびZnをドープすることにより、従来のMIS構造の発光素子は言うに及ばず、ダブルヘテロ構造の発光素子であっても到底想像もできない、飛躍的に改善された発光効率と、発光強席を実現する。しかも、主発光波長はInGaN中のInのモル比を変えることによって赤色から紫色まで自由に調節することができ、その産業上の利用価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ZnのみをドープしたInGaN層(b)と、ZnおよびSiをドープしたInGaN層(a)との室温でのフォトルミネッセンス強度を比較して示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 n型窒化ガリウム系化合物半導体層と、p型窒化ガリウム系化合物半導体層との間に、インジウムとガリウムを含む窒化物半導体層の発光層を備え、発光層にSiおよびZnをドープしてなる窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。

【図1】
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【特許番号】第2560963号
【登録日】平成8年(1996)9月19日
【発行日】平成8年(1996)12月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−70873
【出願日】平成5年(1993)3月5日
【公開番号】特開平6−260680
【公開日】平成6年(1994)9月16日
【早期審査対象出願】早期審査対象出願
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【参考文献】
【文献】 特開 平4−10665(JP,A)
【文献】 特開 平4−10666(JP,A)
【文献】 特開 平4−10667(JP,A)
【文献】 特開 平3−252175(JP,A)
【文献】 特開 平4−252175(JP,A)
【文献】 特開 平4−236478(JP,A)
【文献】 特開 平4−199752(JP,A)
【文献】 特開 昭59−228776(JP,A)