説明

窒化ホウ素ナノチューブフィブリル及びヤーン

長く高アスペクト比の窒化ホウ素ナノチューブ、及び、長さ20μm以上の束中に整列した単一の又は少数の壁でなる窒化ホウ素ナノチューブでできた窒化ホウ素ナノチューブフィブリルの、毎秒約1mを超える速度での製造のための方法及び装置。このようなナノチューブフィブリルの撚った束からなるナノチューブヤーンも説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ構造の製造、より詳しくは長ストランドの窒化ホウ素ナノチューブファイバ、窒化ホウ素ナノチューブフィブリル及び窒化ホウ素ナノチューブヤーンの高速製造の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1995年に比較的高いアスペクト比で少ない壁でなる窒化ホウ素ナノチューブ(FW-BNNT)の合成が成功したとの発表以来、その合成の規模拡大はほとんど進展していない。一つの証明として、FW-BNNTが高い強度/重量、高温度耐性、圧電動作及び放射線遮蔽(ホウ素含有分による)を提供するという理論的能力にも関らず、航空宇宙産業は構造への使用にはミクロンサイズのグラファイト又はホウ素の繊維に未だ頼っている。FW-BNNTは、高性能のためには概して大いに喜んで割増金を支払おうとする航空宇宙及び他の製造産業においてさえ、現在入手可能なこのような材料はごく小規模であるため、広くは使用されていない。
【0003】
今日まで、比較的高いアスペクト比のFW-BNNTはアーク放電又はレーザ加熱の方法によって少量(個々のチューブからミリグラムまで)製造されてきた。別の種類の窒化ホウ素ナノチューブも、窒素化合物(例えば、アンモニア)のボールミルした前駆体上に化学蒸着させることにより製造されてきたが、これらのチューブは直径がより大きく、最も理論的に関心が持たれている連続した結晶sp2型結合構造を示さない。
【0004】
窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)が、その異例の機械的、電子的、熱的、構造的、組織構造的(textural)、光学的及び量子的な特性のゆえに求められている。これらの応用のほとんどが、現実世界の物体及び装置における肉眼で見える規模の距離に対してこうした望ましい特性を与えるために、長いBNNTを必要とする。カーボンナノチューブの長いストランド及びヤーンを合成することでは進展がなされたが、BNNTの場合は同様の進展は報告されていない。
【0005】
2008年5月2日に出願された国際出願PCT/US2008/006227で、国際公報WO2009/17526(特許文献1)として公開されたものには、少なくともセンチメートル長の窒化ホウ素ナノチューブの製造方法が記載されている。該出願の開示全体を本明細書に引用し本明細書に含める。
【0006】
2009年2月4日に出願された米国特許出願第12/322,591には、窒化ホウ素ナノチューブの大規模製造のための装置にして、連続的に供給されるホウ素含有ターゲット;熱エネルギー源、好ましくは集束レーザビーム;冷却されたコンデンサー;加圧窒素ガス供給源;及び、該冷却されたコンデンサーの上又は区域内で凝縮される該窒化ホウ素ナノチューブを圧力チャンバから抜き出す機構を収容する、圧力チャンバ装置を含む上記装置が記載されている。該出願の開示全体も同様に本明細書に引用し本明細書に含める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報WO2009/17526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の出願の各々がBNNT製造のための高い有用性と効率を有する方法及び装置であるけれども、束ねてヤーンに紡ぐことができる窒化ホウ素フィブリルの製造は実証していない。そのため、有用な肉眼で見える規模(macroscale)のヤーンに加工できる非常に大きなアスペクト比(即ち、非常に長い)を示すBNNTを製造する方法に対する要求が存在する。
【0009】
そこで、本発明の目的は、比較的容易に、窒化ホウ素ナノチューブヤーンに紡ぐことができる又は他の方法で加工することができる、窒化ホウ素ナノチューブフィブリルの製造方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、このような大きいアスペクト比のBNNTフィブリルを毎秒1メートルを超える速度で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により、非常に高いアスペクト比の窒化ホウ素ナノチューブ、及び、長さ20μm以上のチューブ束に整列された単一の又は多数の壁でなるナノチューブでできたフィブリルを、毎秒約1メートルを超える速度で製造する方法が提供される。このようなナノチューブフィブリルの撚られた束でできたナノチューブヤーンも説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の成功裏の実施に有用な装置の概念的な側方図である。
【0013】
【図2】図2は本発明にしたがって収穫された窒化ホウ素ナノチューブフィブリルの集塊を示す。
【0014】
【図3】図3は図2に示した窒化ホウ素塊を単純に紡ぐことにより形成されたヤーンを示す。
【0015】
【図4】図4は本発明にしたがった、単一の壁でなる、及び三壁でなるナノチューブの透過型電子顕微鏡の画像を示す概念的表現である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の有益なことは、窒化ホウ素のナノチューブ及びナノ構造を製造する方法により達成されるが、該方法は、
(a)大気より高圧である窒素下にあるチャンバ内にホウ素含有ターゲットを用意し;
(b)ホウ素含有ターゲットを熱的に励起する、
ことを含む。
【0017】
特に有利な結果は、ホウ素含有ターゲットをレーザ、例えば自由電子レーザ又は炭酸ガスレーザ、によって励起した場合に得られる。
【0018】
有益な結果は、ホウ素含有ターゲットが圧縮ホウ素粉末又は圧縮窒化ホウ素粉末である場合に得られる。
【0019】
該ターゲットは円筒状で回転し半径方向から照射を受けるか、又は円筒状で回転し一面に照射を受けると有利である。しかし、ターゲットは固定していてもよい。さらに好ましいターゲットの向き及び照射は以下に詳しく説明する。
【0020】
高度に望ましく非常に有利である結果は、該方法が、
(a)ホウ素蒸気源を作り出し;
(b)ホウ素蒸気を窒素ガスと混合してホウ素蒸気と窒素ガスの混合体を凝集サイト(nucleation site)に存在させるが、この際に前記窒素ガスは約2気圧より高く約250気圧未満で供給される;
(c)該凝集サイトで、有利なことには触媒の不存在下で、形成される、窒化ホウ素ナノチューブを収穫する、
ことを含む場合に得られる。
【0021】
該ホウ素蒸気源は、固体ホウ素含有ターゲットにエネルギーを供給することによって有利に提供されるが、このときこのようなエネルギーは固体ホウ素含有ターゲット中の結合を破壊するのに十分であり、その結果ホウ素蒸気が蒸気状態に入ることが可能になる。
【0022】
このエネルギーは集束熱エネルギーであることが好ましい。このエネルギーは、固体ホウ素含有ターゲットに向けられるレーザビームの状態であると便利で有利である。このようなレーザビームを供給するのに使用されるレーザの有益な例には、当業者に知られる他のレーザの中でも、自由電子レーザ及び炭酸ガスレーザが含まれる。適切な形状を有するホウ素蒸気プルーム(plume)を高圧周囲窒素圧下で製造することができる他の熱技術も有用であり得る。
【0023】
優れた結果が、固体ホウ素含有ターゲットが圧縮ホウ素粉末又は圧縮窒化ホウ素粉末の断片ないしは塊りであるときに得られた。さらに、レーザビームは固体ホウ素含有ターゲットに当てられるが、該レーザビームをターゲットに当てるにつれて該ターゲットに凹部(depression)があくようにし、その結果該凹部の内部をレーザ加熱してホウ素蒸気流を作り出すと、有利かつ便利であることがわかった。このホウ素蒸気を該凹部の底から該凹部を通って上方に流れさせると、該蒸気はその後窒素ガスと接触する。窒素ガスは、固体ホウ素含有ターゲットを収容し加圧状態の窒素ガスを含んでいる合成チャンバ内で加圧状態に保たれる。
【0024】
窒素ガスは約2気圧より高く、約250気圧未満で有利に使用しうるが、非常に優れた結果は窒素ガスが約2気圧より高く、約12気圧までの圧力で供給された場合に達成される。
【0025】
本明細書に記載の窒化ホウ素ナノチューブは、本発明により、凝集サイトに、好ましくは触媒不存在下で生成される。該凝集サイトは表面、特に凹凸のある表面であると有利である。凝集サイトが固体ホウ素含有ターゲットにある窪み(indentation)の上側のへりにあって、そこに凹凸(asperity)がある場合に非常に有益であることがわかった。窒化ホウ素ナノチューブはこの凝集サイトで生成しそこからホウ素蒸気流の流れの方向に繁殖していくが、このホウ素蒸気流は前記窪み内を加熱することにより発生したものである。
【0026】
生成後、該窒化ホウ素ナノチューブは、当業者に知られた標準的手段で、有利には連続的に収穫される。このような連続的収穫の例として、成長速度約10 cm/secがホウ素ナノチューブについて本発明の方法により達成された。適切であるがこれだけが役立つという訳ではない収穫の方法及び装置を、図1に描かれた装置の説明とともに以下説明する。
【0027】
本発明の方法によって、連続的、平行で、実質的に欠陥のない、sp2結合型の壁を有する結晶窒化ホウ素ナノチューブが製造される。こうしたナノチューブは単一の、二重の、少数の及び/又は多数の壁でなるナノチューブである。本発明にしたがって製造された非常に好ましいナノチューブは内径約1.5〜約2.5ナノメートルの細長く、少なくとも1分子の窒化ホウ素の厚さを持つ管状壁を有する。代表的なこのようなナノチューブを、本発明により製造された単一の壁及び多数の壁でなるナノチューブの、図4に示す透過型電子顕微鏡写真の概念的な図に示す。
【0028】
高圧の周囲圧力(例えば、約12バール(1.2MPa))下、適切な原料を用いて、少ない壁の窒化ホウ素ナノチューブ(FW-BNNT)フィブリルが、表面凝集によって外観状任意の凹凸において直線的高速で(少なくとも10/秒)連続的に成長する。これらのファイバ又はフィブリルを「ストリーマ」と称する、というのは、これらは合成チャンバ内の上記蒸気のストリームライン(流線)に追従し、凧の尾のなごりの動きのようにはたつく、ように見えるからである。
【0029】
国際公報WO2009/17526に記載されているように、FEL(自由電子レーザ)から発せられる1.6ミクロンの波長、8mmの直径で、非集中型の(unfocused)、1kWのビームを含むレーザビームを備える好ましい加熱源は、ターゲット内へと垂直方向下方に繁殖する。この例によると、該ターゲット、圧縮ホウ素金属粉末の2.5cm断片がターンテーブル上を20秒/回転の速度で回転する。該ターゲットの回転中心はビームの中心からビーム直径の約半分だけずれている結果、レーザはターゲットがスピンするにつれてレーザの直径の約二倍の凹部(depression)を穴あけする。周囲温度で高圧の窒素ガスが合成チャンバ内に連続的に供給される。
【0030】
このレーザ穿孔凹部のへりで、ストリーマが生成し、ホウ素蒸気の上方への流れによって長く延ばされる。はためく運動は、該フィビリル/ファイバがホウ素蒸気の乱流の流線に従うにつれて起こる。このホウ素蒸気はレーザ加熱によって窪みの底で作り出される。ストリーマは素早く生成し、1秒の約1/30の範囲内で長さ1cmを超えるに到る。ストリーマの部分は、ポキッと折れターゲットの上方へ巻き上げられた後、後述する装置によってチャンバから運び出される。チャンバの高圧窒素圧はストリーマの生成にとり重要である。窒素圧が例えば12バールから1バールの少し上(大気圧に近く)まで低下すると、ストリーマは見られず、その代わりにスパークのシャワーがレーザの照射ゾーン(laser illumination zone)から発せられる。実施後分析(post-run analysis)では、スパークはレーザ衝撃/照射ゾーン(laser impact/illumination zone)から放出後に固体化したホウ素金属滴であって、チャンバの底に堆積するようである。合成チャンバを開けたときにホウ素蒸気のにおいがあり、窒素との反応がなかったことを示す。
【0031】
ストリーマをターゲットの表面とコレクター表面(後述する)上の下流との両方から集める。その両端を固定すると、ストリーマはクモ絹の断片のような感触であって、外観もそれに類似し、色は艶のない中灰色である。ギターの弦のようにその長さの2又は3倍引っ張ることができ、その後元の形に戻る。
【0032】
この挙動は前述し本願に包含させる国際公報WO2009/17526に示した多数の顕微鏡写真により詳細かつより完全に説明されている。
【0033】
この時点で、ホウ素蒸気の重要な上昇流が確立される。ターゲットの実施後分析によると、ストリーマは以下に詳細に説明する空気力学的メカニズムにより生成するようである。
【0034】
国際公報WO2009/17526に説明されているように、各長いストリーマの基部に、多数のより短い個々のBNNT細根(BNNT feeder roots)が見られる。これらの短い細根が数ミリメートルに成長後に、上昇する加熱により誘発されたホウ素蒸気流の乱流力のために、互いに絡み合うものと結論される。主なストリーマは、それらの細根の高速相互成長によって給餌されて、多センチメートルの長さに成長する。光学顕微鏡及びSEM顕微鏡での検査では、個々の細根は表面の様々な凹凸に結合されていることが示された。即ち、固体化したホウ素金属中の結晶粒界、表面上のミクロンサイズの滴、そして、明らかな窒化ホウ素結晶の白色粒子の表面である。
【0035】
該多センチメートル長のファイバがレーザを運転停止した後に絡むので、完全に成長した長さのストリーマをその延びた状態で撮影することはできない。しかし、BNNT成長の早期段階(細根)にあるいくつかのストリーマは、ターゲットのへりに沿って見られ、上記国際公報WO2009/17526の図5に示されているように光学顕微鏡で撮影された。
【0036】
これらの測定に基づいて、カーボンナノチューブの生成とは違って、窒化ホウ素ナノチューブは凝集に化学触媒的表面を必要としない、と結論された。これらはいずれの適切な表面、例えば、熱ホウ素蒸気と冷窒素ガスが正確な化学量論的混合するゾーン内の凹凸で、細根の成長によって自然に、連続的に単純に生成する。採用される高圧下では、該成長速度は、局在したファイバ/フィブリルにおいて、センチメートルオーダー/秒(好ましくは、少なくとも10)である。
【0037】
これらの測定に基づくと、BNNTの製造は、触媒粒子のガス輸送雲又は塗布表面を作り、成長過程の間活性に保たなければならないカーボンナノチューブ(CNT)の製造よりも基本的に複雑でない。
【0038】
レーザはホウ素蒸気を作り出すために粉末化したホウ素金属を加熱する一つの手段にすぎないことに留意することは重要である。加熱ゾーンとBNNT生成ゾーンは物理的に離される。この実施において凹部を形成するレーザ穿孔機構はFELビーム特性にとり独特であるかもしれないが、この技術は、適切な幾何学的構成を与えられた他のレーザ及び他の熱源を用いて適用可能である。勿論、ホウ素の沸点は例えば12バールで高い(3250℃)ので、実質的な工学的障害はある。この温度はレーザ及びアークの加熱では容易に対応可能である。この適切な温度を達成でき、凹部からホウ素蒸気流を発生させることができる他の加熱方法は同様に効果的であるはずである。
【0039】
即ち、本発明の方法は、高圧下でホウ素を蒸発させ、生じたもくもく浮揚するガス状ホウ素(plume)をコンデンサーに衝突させ、BNNTの生成を開始させる、ことを必要とする。この技術は高速で拡張可能(scalable)で、見たところ、チャンバ内でホウ素を蒸発させることができる速度だけに依存する。以前の仕事を調査すると、今日まで利用可能なBNNT合成技術、即ち、アーク放電、レーザ蒸発、化学蒸着、化学反応、及び原子堆積を使用する技術、の限定された成功がわかる。本技術は「レーザ蒸発」に最も近く関連しているが、強制的な凝結(condensation)(新しい成長メカニズム)の使用を導入し、検討されたことのない圧力で動作する。
【0040】
私たちの技術はレーザ加熱を使用してホウ素蒸気を作り出すが、この方法は「レーザ」方法そのものではない。加熱源の種類、この場合にはレーザ、は決定的ではない。成長ゾーンは加熱ゾーンから隔離されていて、離されたコンデンサーの表面の近く又はその上にある。この技術は私たちに現在利用可能である二つの熱源、近赤外自由電子レーザ及び遠赤外工業的金属切削(commercial metal-cutting)レーザ、でも同様にうまく機能する。
【0041】
本発明のフィブリルを製造するために、高パワーレーザが、下でより完全に説明するように、高圧窒素環境中でホウ素を沸騰させるのに使用される。該高周囲圧がホウ素蒸気プルームと窒素との間に大きな密度比を生み、そしてその結果ホウ素蒸気をチャンバの天井に向けて垂直に加速させる強力な浮揚力を生む。フィブリルの成長は、ホウ素蒸気プルームがコンデンサーと交差し、チャンバの天井に向って急速に上昇する時に開始する。流れを可視化すると、単一のビデオフレーム内で10cmの成長が33ミリ秒未満でしばしば起こることが示され、毎秒3メートル以上の成長速度であることがわかる。直径約1mmのオーダーのフィブリルがこうした製造条件で認められた。このようなフィブリルは、平行に一方向を向いたBNNTの一つ一つ別々の鉛直方向のストランド、 ―該画像の高さいっぱい延びる―、の束ないし集まりを構成し、該材料は成長方向に平行な整列軸を有することが分かる。該成長軸に沿って、該材料はクモの巣のように弾性的に伸ばすことが可能である。該成長軸に横断する方向に、該材料は指で容易に個々のストランドに分離できる。ミクロン及びサブマウントミクロンのスケールで、該構造は長く枝分かれしたナノチューブ及びチューブ束の網状構造であり、しばしばノード(結節点)で結合している。SEMによって、こうしたノードは主にホウ素のナノ滴であって窒化ホウ素層で被覆されたものであることが示された。
【実施例】
【0042】
ここに説明したように成長させた原料BNNTフィブリル塊からヤーンを紡ぐことができる。このようなヤーンは図2に示し/描いたようにフィブリルの集塊から作られる。柔らかく細長いコットンボールの外観と触感を持つ、この塊約60mgが30分の製造ランの粗製生成物である。重さ約10mgの(合成時間5分を示す)の一集まりのフィブリルを該塊から分離し、成長方向(即ち、長さ方向)に引き、そして指で撚って単純な1つ縒りの、撚り角度約45度のヤーン(図3参照)を形成した。撚る前にはフィブリルは感触が繊細で機械的強度がほとんどなかったが、紡いだヤーンは荷重を支えることができ、紡ぎにより得られた強度の改良が実証された。図3のヤーンは相対的に大きな約1mmの直径を有し、緩い詰まり具合で、未洗浄原料から乾式で撚られたものであった ― いずれも機械的強度にとり好ましくなかった。このことは、基本のステープルファイバ(BNNT束/フィブリル)は相対的に長くてこうした不利な点を和らげる、そして長さの顕著な改良がより洗練された紡糸方法で期待できることを示唆する。
【0043】
ここで添付の図1を見ると、本発明にしたがってBNNTフィブリルを製造するのに役立つ装置10は、圧力チャンバ12を有し、該チャンバは、連続的に供給され又は回転される窒化ホウ素ターゲット14;熱エネルギー源、好ましくは集束レーザビーム16;回転する冷却されたコンデンサーリング18;加圧窒素ガス供給源20;及び、熱エネルギー源によって蒸発させられた窒化ホウ素が回転する冷却されたコンデンサーリング18の上又は近傍で凝縮する窒化ホウ素プルーム24を生成した後に、窒化ホウ素ナノチューブを圧力チャンバ12から抜き出す機構22を備える。
【0044】
添付の図1に示すように、熱エネルギー源16は、好ましくは、レーザビーム/熱エネルギー源16を圧力チャンバ12の内部で焦点を結ぶのを可能にする凸レンズ26を介して圧力チャンバ12に導入されるレーザビームである。これも図1に示されるように、冷却されたコンデンサーリング18は回転シャフト28に取り付けられることによって、その新しい表面が不断に機構22、図1に示す実施形態ではコンデンサー管22、の近傍に運ばれるように連続的に回転させられる。
【0045】
図1に描かれた好ましい実施形態では、窒化ホウ素ターゲット14は商業的に入手できるホットプレスした六方晶窒化ホウ素ロッド14であって、モータ駆動プランジャーロッド、ローテイタ(rotator)又は類似の装置30によってレーザビーム16の場に連続的に供給される。一つの好ましい実施形態によると、窒化ホウ素ターゲット14は一端の側で約0.050インチ四方の矩断面(square cross-section)を有し、レーザビーム16に、レーザビーム16の焦点を結ぶくびれ部(focal waist)でではなくて、むしろレーザビーム16が窒化ホウ素ターゲットロッド14とほぼ同じ寸法である位置に導入される。この好ましい実施形態によれば、ターゲットロッド14は、波長が約10.6ミクロンで直径が約12mmである、2kWのCO2レーザのビーム16の中へ、約1mm/秒の速度で進められる。
【0046】
約40SCFHの少流量の窒素ガスの、例えばチャンバ排気路34のニードル弁32によって調節される窒素供給路20を介した圧力チャンバ12への流入が維持される。
【0047】
図1に描かれた好ましい実施形態によると、レーザビーム16は、入口及び出口38及び40によって銅塊38に供給される水で冷却された銅塊38で終止する。銅塊38はレーザビーム16の連続したパワーを完全に損傷を受けることなく吸収するように設計されている。
【0048】
同様に、回転コンデンサー18は当業者の技術の範囲内の通常の手段で良好に水冷され、約20℃に維持される。図1に示す好ましい実施形態によると、回転コンデンサー18は水冷された回転する銅製シャフト28に取り付けられた約0.025インチの輪(hoop)である、但し他の材料、例えばステンレス鋼、タングステン、ニオブ、ホットプレスした窒化ホウ素、ホウ素粉末、ホウ素注型物等は同様に有用である。
【0049】
運転において、ターゲットロッド14はレーザビーム16の作用によって固体から蒸気に連続的に転換されるにつれて、上記の浮揚性プルーム24が、該レーザ相互作用ゾーンから垂直に立ち上がる。プルーム24はコンデンサーリング18によりトラップされる。プルーム24がコンデンサーリング18によりトラップされる所で、窒化ホウ素ナノチューブが高速で生成する。窒化ホウ素ナノチューブフィブリルからなる長さ4インチ以上のウェブ様のふさが、コンデンサーリング18の下端に結合した垂直構造で生成する。これらの窒化ホウ素ナノチューブ構造は、ビデオ画像の可視化で記録されたように、1秒の何分の1かで生成する。コンデンサーリング18が回転するにつれて、新しい窒化ホウ素ナノチューブが前進するコンデンサーの新たに露わになった各表面部分に成長する。
【0050】
窒化ホウ素ナノチューブフィブリルは圧力チャンバ12の外部に通じる収集管22によって回転コンデンサー18から取り除かれる。収集管22内のボール弁(図示せず)が開けられると、窒化ホウ素ナノチューブフィブリルが回転コンデンサーリング18から、1気圧に排気される窒素ガスによって「減圧吸引される」。窒化ホウ素ナノチューブフィブリルは、例えば、収集管22(図示せず)に直列に設置されたワイヤメッシュに集めることができ、又は収集管22を出る際に単純にヤーンに紡ぐことができる。
【0051】
上述したことは本発明の材料を得るための具体的な好ましい装置を説明しているが、それらの特定のパラメーターの他の変形を利用できることは明らかである。例えば、ホットプレスした窒化ホウ素を好ましいターゲットとして使用したが、該レーザとの相互作用が受容されるならば他のターゲッも適するであろう。例えば、ホットプレスしたホウ素粉末が文献で製造されているが、適切なレーザ特性が得られるならば、良好なターゲットを作れるだろう。どのような密度のホウ素又は窒化ホウ素も、レーザがそのターゲットと相互作用して連続的な蒸気流を生じる限り役割を果たす。波長又は他のレーザ特性は重要ではない。いずれのkWクラスのレーザもこうした結果を再現するはずである。Nd:YAG又は自由電子レーザは2つの例である;コンデンサー18の形状は上記プルームの自由な流れをもたらす限りは多様なバリエーションを取りうる。それは機能し、Nbワイヤ、Wワイヤ、Nb板材及びCu板材はすべて有用であることが証明された;機械的及び吸引の両方が窒化ホウ素ナノチューブを収集するのに有用であることがわかった。該材料はそれ自体同士で又は表面があればそれに付着する傾向があるので、多数の幾何学的構造の周りに巻きつけるか、該構造に付着させるか、又は該構造に吸引することができるし、また、窒化ホウ素ナノチューブは静電気に良好に反応するので、その機構によっても収集することができる。さらに、前記の冷却されたコンデンサーは冷却されたリングとして描かれたが、該コンデンサーは同様に冷却された振動構造を備えることもでき、該窒化ホウ素ナノチューブ収集機構は1以上の収集管を該冷却された振動コンデンサーの振幅の極端の近傍に有することもできる。
【0052】
こうして、高結晶質で長いBNNT、BNNTフィブリル、BNNTフィブリルの束 ― 直接ヤーンに紡ぐのに十分に長い ― が始めて成長させられた。これらは真っ直ぐで平行な壁を有し欠陥はほとんどない、高アスペクト比のナノチューブであるので、理論上予測された多数の望ましい材料特性を完全に具体化するものと予想される。これらは触媒又は添加物なしで、高い直線的速度で(数メートル/秒)成長するので、有望で環境上好ましい製造手段を示唆する。
【0053】
本発明を説明したが、その精神及び範囲を逸脱しないで多数の形で変形しうることは当業者には明らかであろう。いずれのまたすべてのこのような改変が添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0054】
10 BNNTフィブリル製造に使用される装置
12 圧力チャンバ
14 ターゲットロッド
16 熱エネルギー又はレーザビーム
18 コンデンサーリング
20 供給路
22 コンデンサー管、収集管
24 プルーム
26 凸レンズ
28 回転シャフト
30 モータ駆動プランジャーロッドなど
32 ニードル弁
34 チャンバ排気路
36 入口
38 銅塊
40 出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ20μm以上の、窒化ホウ素ナノチューブの長手方向に整列した束で構成された窒化ホウ素ナノチューブフィブリル。
【請求項2】
請求項1の窒化ホウ素ナノチューブフィブリルであって、窒化ホウ素ナノチューブの長手方向に整列した束が長さ少なくとも10cmである上記窒化ホウ素ナノチューブフィブリル。
【請求項3】
請求項1の窒化ホウ素ナノチューブフィブリルであって、窒化ホウ素ナノチューブが単一の壁でなる、少数の壁でなる又は多数の壁でなるものである上記窒化ホウ素ナノチューブフィブリル。
【請求項4】
長さ20μm以上の、窒化ホウ素ナノチューブの長手方向に整列した束で構成された、紡がれた窒化ホウ素ナノチューブフィブリルを含む窒化ホウ素ヤーン。
【請求項5】
請求項4の窒化ホウ素ヤーンであって、該窒化ホウ素ナノチューブの長手方向に整列した束が少なくとも10cmの長さである上記窒化ホウ素ヤーン。
【請求項6】
請求項4の窒化ホウ素ヤーンであって、該窒化ホウ素ナノチューブが単一の壁でなる、少数の壁でなる又は多数の壁でなるものである上記窒化ホウ素ヤーン。
【請求項7】
圧力チャンバを備える、窒化ホウ素ナノチューブの大規模製造のための装置であって、
前記の圧力チャンバが、連続的に供給されるホウ素含有ターゲット;前記の連続的に供給されるホウ素含有ターゲットを蒸発させるための集束熱エネルギー源;冷却されたコンデンサー;加圧窒素ガス供給源;及び、冷却されたコンデンサーの上又は区域で凝縮される窒化ホウ素ナノチューブを圧力チャンバから抜き出す機構、
含む上記の装置。
【請求項8】
請求項7の装置であって、冷却されたコンデンサーが冷却されたコンデンサーリングを含む、上記装置。
【請求項9】
請求項8の装置であって、前記の連続的に供給されるホウ素含有ターゲットが、窒化ホウ素の又はホットプレスしたホウ素粉末のロッドを含む、上記装置。
【請求項10】
請求項7の装置であって、集束熱エネルギー源が集束レーザビームを含む、上記装置。
【請求項11】
請求項10の装置であって、前記の連続的に供給されるホウ素含有ターゲットが、レーザビームの直径が前記の連続的に供給されるホウ素含有ターゲットの断面積とほぼ等しい位置でレーザビーム中に連続的に前進させられる、上記装置。
【請求項12】
請求項8の装置であって、冷却されたコンデンサーリングが約20℃の温度に維持される、上記装置。
【請求項13】
請求項11の装置であって、冷却されたコンデンサーリングが約20℃お温度に維持される、上記装置。
【請求項14】
請求項10の装置であって、前記のレーザビームがCO2、Nd:YAG又は自由電子レーザであり、約12mmの直径を有する、上記装置。
【請求項15】
請求項7の装置であって、窒化ホウ素ナノチューブを抜き取るための前記機構が真空又は吸引の収集管を含む上記装置。
【請求項16】
請求項10の装置であって、さらに、前記レーザビームの連続したパワーを完全に吸収することによって該レーザビームを終止させる、冷却された塊りを含む上記装置。
【請求項17】
圧力チャンバを備える、窒化ホウ素ナノチューブの大規模製造のための装置であって、
該圧力チャンバが、連続的に供給される窒化ホウ素又はホットプレスしたホウ素粉末のターゲット;前記の連続的に供給される窒化ホウ素又はホットプレスしたホウ素粉末のターゲットを蒸発させるための集束レーザビーム;冷却されたコンデンサー;加圧窒素ガス供給源;及び、冷却され回転するコンデンサーの上又は区域で凝縮される窒化ホウ素ナノチューブを圧力チャンバから真空又は吸引によって抜き出すコレクター管、
を含む、上記の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−516827(P2012−516827A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547879(P2011−547879)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/002861
【国際公開番号】WO2010/090624
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511188646)
【出願人】(511188657)
【Fターム(参考)】