説明

窒素肥料組成物

【課題】緩効性を更に高めた窒素肥料組成物を提供する。
【解決手段】ジシアンジアミド、水硬性無機物及び窒素肥料を含有してなる窒素肥料組成物。また、ジシアンジアミドを0.3〜3質量%、水硬性カルシウム化合物を3〜30質量%、窒素肥料を67〜96質量%を含有してなることを特徴とする窒素肥料組成物。水硬性カルシウム化合物がカルシウムアルミネート、カルシウムシリケート並びにカルシウムアルミネート及び/又はカルシウムシリケートの含有物質から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。また、いずれの窒素肥料組成物にあっても、窒素肥料が石灰窒素を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素肥料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料の3要素の一つである窒素は、アンモニア態窒素又はそれが土壌中の微生物によって硝酸化成した硝酸態窒素の形態として根から吸収される。アンモニア態窒素は土壌中で陽イオンとなり、負の荷電を有する土壌コロイドに吸着するので、地下水等で流亡することは少ないが、やがて陰イオンである硝酸態窒素に変化すると流亡しすくなる。アンモニア態窒素としては、例えばアンモニア、アンモニウム塩、尿素態窒素、有機態窒素、シアナミド態窒素由来のアンモニア態窒素等を例示することができる。
【0003】
硝酸態窒素の流亡を軽減させ、作物への利用効率を高めるための方法が種々提案されている。たとえば、窒素肥料を合成樹脂、パラフィン類、油脂類、硫黄等で被覆する方法(特許文献1)、硝酸化成菌である微生物の働きを抑える例えばジシアンジアミド、チオ尿素、グアニルチオ尿素等の硝酸化成抑制剤を添加する方法(非特許文献1)、硝酸化成抑制剤と高分子皮膜の組合せ(特許文献2)である。しかし、これらでは今日の一段と高い緩効性の要求を満たすことができない。
【特許文献1】特公昭54−3104号公報
【非特許文献1】三幣正巳 硝酸化成抑制剤に関する研究(I)、農業技術研究所報告B No. 23 pp79−146(1972)
【特許文献2】特公昭63−23159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、緩効性を更に高めた窒素肥料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ジシアンジアミド、水硬性無機物及び窒素肥料を含有してなる窒素肥料組成物である。また、本発明は、ジシアンジアミドを0.3〜3質量%、水硬性カルシウム化合物を3〜30質量%、窒素肥料を67〜96質量%を含有してなることを特徴とする窒素肥料組成物である。水硬性カルシウム化合物が、カルシウムアルミネート、カルシウムシリケート並びにカルシウムアルミネート及び/又はカルシウムシリケートの含有物質から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。また、いずれの発明にあっても、窒素肥料が石灰窒素を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、緩効性を更に高めた窒素肥料組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ジシアンジアミドは硝酸化成抑制作用を有するものであり、例えばジシアンジアミド粉体、その造粒物等を使用することができる。ジシアンジアミドの窒素肥料組成物中の含有率は0.3〜3質量%が好ましく、0.3質量%未満では硝酸化成抑制作用が小さく、3質量%より多いと作物の生育に障害を与える恐れがある。
【0008】
水硬性無機物とは、水と接触することによって硬化する無機物のことを意味し、それを例示すれば、例えばカルシウムアルミネート、カルシウムシリケート等の水硬性カルシウム化合物や、更には水硬性石灰、水硬性石膏、高炉水砕スラグなどである。比表面積は、ブレーン粉末度として2000〜5000cm/gであることが好ましい。これらのなかでも、緩効性の点から、水硬性カルシウム化合物が好ましく、特にカルシウムアルミネート、カルシウムシリケート並びにカルシウムアルミネート及び/又はカルシウムシリケートの含有物質から選ばれた1種又は2種以上の水硬性カルシウム化合物であることが好ましい。水硬性無機物の含有率は、土壌中におけるアンモニア態窒素の存在期間の延長作用をより大きくする観点から、窒素肥料組成物中、3〜30質量%が好ましく、特に5〜20質量%が好ましい。
【0009】
ここで、カルシウムアルミネートとはCaOとAl2O3を必須成分とする化合物のことである。この両成分の他に、例えばフッ素、塩素等のハロゲン元素、例えばリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属元素、例えば鉄等の3価金属などの元素を含有したものであってもよい。また、結晶形態についても制約はなく、非晶質、結晶質、固溶体のいずれであってもよい。カルシウムアルミネートを例示すれば、CがCaO、AがAl2O3、Xがハロゲン、FがFe2O3を表すとして、C3A、CA、C12A7、CA2、CA6、C3A3CaSO4、C3A3CaX2、C11A7CaX2、C4AF、更にはこれらにアルカリ金属酸化物が固溶したものなどである。化学組成としては、CaOが35〜60質量%、Al2O3が40〜65質量%を含むものが好ましく、特にCaOが35〜55質量%、Al2O3が45〜65質量%を含むものであることが好ましい。カルシウムアルミネートは、例えば石灰石、カーバイド石灰等の石灰質物質と、例えばボーキサイト、アルミナ等のアルミナ質物質との混合原料を熱処理することによって製造することができる。カルシウムアルミネートの典型的な市販品の一例がアルミナセメントであり、本発明における好適例の一つである。
【0010】
カルシウムシリケートとはCaOとSiO2を必須成分とする化合物のことである。この両成分の他に、例えばフッ素、塩素等のハロゲン元素、例えばリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属元素、例えば鉄等の3価金属などの元素を含有したものであってもよい。また、結晶形態についても制約はなく、非晶質、結晶質、固溶体のいずれであってもよい。カルシウムシリケートを例示すれば、3CaO・SiO2、2CaO・SiO2、2CaO・Al2O3・SiO2などである。化学組成としては、CaOを60〜80質量%、SiO2を20〜40質量%含むものが好ましい。カルシウムシリケートは、例えば生石灰、石灰石等の石灰質物質と、例えば珪石、白土等のシリカ質物質との混合粉末を熱処理をすることによって製造することができる。
【0011】
カルシウムアルミネート及び/又はカルシウムシリケートの含有物質とは、カルシウムアルミネート及びカルシウムシリケートの少なくとも一方を70質量%以上含むものであり、それを例示すればポルトランドセメントクリンカーなどである。ポルトランドセメントクリンカーの一例は、3CaO・SiO2が45〜70質量%、2CaO・SiO2が8〜28質量%、3CaO・Al2O3が5〜13質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3が5〜13質量%である。
【0012】
窒素肥料については特別な制約はなく、例えば窒素質肥料、有機質肥料、複合肥料等の窒素成分を含む肥料が用いられる。具体例をあげれば、例えば石灰窒素、尿素、硫安、塩安、硝安、硝酸石灰、リン安、硝酸ソーダ、硝酸苦土肥料、腐植酸アンモニウム肥料、ウレアホルム、尿素とイソブチルアルデヒドの縮合物、尿素とアセトアルデヒドの縮合物、シュウ酸とアンモニアの縮合物等である。これらの中でも、石灰窒素は最も大きな緩効性作用を示す。窒素肥料の含有率は、緩効性の観点から、窒素肥料組成物中、67〜96質量%が好ましく、特に75〜90質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の窒素肥料組成物は、ジシアンジアミド、水硬性無機物及び窒素肥料を混合することによって製造することができる。施用時の粉塵発生を軽減する観点から、平均粒径が0.5〜10mmの粒状又はペレット状に造粒することが好ましい。
【実施例】
【0014】
実施例1
ジシアンジアミドを1質量%、カルシウムアルミネート(ブレーン粉末度が4300cm/g、CaOが34.5質量%、Al2O3が46.8質量%、残部がSiO2、TiO2等)を10質量%、窒素肥料(石灰窒素:尿素=2:1(質量比)の混合物)を89質量%を混合し、押出成型を行ってペレット状の窒素肥料組成物(平均粒径3mm、平均長さ5mm)を製造した。
【0015】
実施例2
カルシウムアルミネートとして市販アルミナセメント(ブレーン粉末度3600cm/g、CaOが38.3質量%、Al2O3が53.2質量%、残部がSiO2、TiO2等)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0016】
実施例3
ジシアンジアミドを1質量%、アルミナセメントを20質量%、窒素肥料を79質量%混合したこと以外は、実施例2と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0017】
実施例4
ジシアンジアミドを0.5質量%、カルシウムアルミネートを10質量%、窒素肥料89.5質量%混合したこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0018】
実施例5
カルシウムアルミネートのかわりにカルシウムシリケート含有物質(ブレーン粉末度が2800cm/g、3CaO・SiO2が50質量%、2CaO・SiO2が24質量%、3CaO・Al2O3が11質量%、4CaO・Al2O3・Fe2O3が8質量%、残部がSiO2、TiO2等)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0019】
実施例6
カルシウムアルミネートのかわりに高炉水砕スラグ(ブレーン粉末度2600cm/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0020】
実施例7
カルシウムアルミネートのかわりに水硬性石灰(ブレーン粉末度3700cm/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0021】
比較例1
カルシウムアルミネートのかわりに石英砂(非水硬性無機物、ブレーン粉末度2600cm/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0022】
比較例2
カルシウムアルミネートを10質量%、窒素肥料を90質量%混合したこと以外は、実施例1と同様にして窒素肥料組成物を製造した。
【0023】
以上の窒素肥料組成物について、以下の硝酸化成試験を行った。それらの結果を表1に示す。
[硝酸化成試験]
25℃の条件下、150mlのプラスチック製ビンに最大容水量の60%水分を含む表層腐植質黒ボク土60gを充填した。つぎに、窒素肥料組成物50mgをピンセットで土壌のほぼ中央に埋め、アルミニウム箔で蓋をした。その後、プラスチック製ビンを20℃の恒温漕に入れ、一定時間経過毎に土壌中の無機態窒素を300mlの1N硫酸カリウムで抽出濾過し、硫酸銀を約0.2%添加し攪拌し塩素イオンを除いた。一晩5℃放置して濾紙5Cで濾別した後、硝酸イオン電極を用いて濾液中の硝酸イオンを定量し、硝酸態窒素量を測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の実施例と比較例の対比から、本発明の窒素肥料組成物は、土壌中におけるアンモニア態窒素から硝酸態窒素への硝酸化を遅延する効果が大きいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の窒素肥料組成物は、植物体一般の肥料と用いることができる。本発明の窒素肥料組成物は、硝酸化成を遅延させるため、流亡し易い硝酸態窒素を長期に渡り徐々に発生させて植物体に吸収させることができるので、特に水稲、茶、大麦、にんじん、ねぎ等の好アンモニア性植物の植物体の生育に用いることが望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシアンジアミド、水硬性無機物及び窒素肥料を含有してなることを特徴とする窒素肥料組成物。
【請求項2】
ジシアンジアミドを0.3〜3質量%、水硬性カルシウム化合物を3〜30質量%、窒素肥料を67〜96質量%を含有してなることを特徴とする窒素肥料組成物。
【請求項3】
水硬性カルシウム化合物が、カルシウムアルミネート、カルシウムシリケート並びにカルシウムアルミネート及び/又はカルシウムシリケートの含有物質から選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2に記載の窒素肥料組成物。
【請求項4】
窒素肥料が、石灰窒素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の窒素肥料組成物。