説明

窒素酸化物除去方法

【目的】アンモニア等の還元剤を使用することなく、自動車等の内燃機関から排出される、特に酸素過剰の排ガスを、効率良く浄化し、且つ、水蒸気の存在する高温での耐久性に優れる排ガス浄化用触媒を用いて排ガスを浄化する方法を提供する。
【構成】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理された、SiO2/Al23モル比が少なくとも15以上であるゼオライトと、一種以上の活性金属とからなる触媒を用いて、窒素酸化物および炭化水素を含有する酸素過剰の排ガスから窒素酸化物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ボイラー,自動車エンジン等から排出される窒素酸化物を含有する酸素過剰の排ガスを触媒を用いて処理する方法に関し、更に詳細には、活性及び耐久性の非常に優れた触媒を用いて窒素酸化物を除去する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ボイラー,自動車エンジン等から排出される排ガス中の窒素酸化物を除去する方法として、触媒の存在下でアンモニアを用いる選択的接触還元法、また排ガスを触媒に通し、未燃焼の一酸化炭素及び炭化水素により還元する非選択的接触還元法等が実用化されている。
【0003】特開昭60−125250号公報には、還元剤非共存下で窒素酸化物を直接接触分解できる触媒として銅イオン交換したゼオライトが提案されている。
【0004】また、ディーゼルエンジン,低燃費化を目的とした希薄燃焼エンジンの排ガス浄化用に、酸素過剰下でも、未燃焼の一酸化炭素,炭化水素等の還元成分により窒素酸化物を選択的に還元できる触媒として、卑金属をゼオライト等に含有させた触媒が提案されている(特開昭63−100919号公報)。
【0005】しかしながら、これらの提案されている触媒は、特に高温での耐久性に問題があり、実用化されるに至っていない。
【0006】そこで、ゼオライトの表面付近のAlをSiと置換し、ゼオライト外表面を疎水化することにより、ゼオライトの高温水蒸気存在下での耐久性を向上する試みがなされている(特開平4−271843号公報)。しかしながら、この提案されている方法では、ケイフッ化アンモニウムを用いて水溶液中でSi置換を行っているため、水溶液中でケイフッ化アンモニウムの一部が加水分解して生成するフッ酸により、ゼオライト細孔内の脱Alを引き起こし、充分な耐久性が得られなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、アンモニア等の還元剤を使用することなく、自動車等の内燃機関から排出される、特に酸素過剰の排ガスを、効率良く浄化し、且つ、水蒸気の存在する高温での耐久性に優れる排ガス浄化用触媒を用いて排ガスを浄化する方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決する為の手段】本発明者等は、上記課題について鋭意検討した結果、有機溶媒中でゼオライトを四塩化ケイ素処理した触媒を用いることにより、高温で使用された後も効率良く排ガス浄化が出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち本発明は、有機溶媒中で四塩化ケイ素処理された、SiO2/Al23モル比が少なくとも15以上であるゼオライトと、一種以上の活性金属からなる触媒を用いて、窒素酸化物及び炭化水素を含有する酸素過剰の排ガスから窒素酸化物を除去する方法を提供するものである。
【0010】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理することにより触媒の耐久性が向上する理由は明らかではないが、この処理によりゼオライト表面水酸基の除去ないしは表面近傍ブレンステッド酸点を被覆することにより、高温の水蒸気存在下においてゼオライト破壊の原因となるゼオライト表面附近のAlが保護され、更にはゼオライト表面疎水化によって、触媒劣化の原因となる水蒸気の細孔内への侵入が抑制され、触媒の耐久性が向上したと推定される。
【0011】以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】本発明で用いられる触媒は、有機溶媒中で四塩化ケイ素処理された、SiO2/Al23モル比が少なくとも15であるゼオライトと、一種以上の活性金属からなる。
【0013】本発明において用いられる原料ゼオライトのSiO2/Al23モル比は、有機溶媒中で四塩化ケイ素処理した後に15以上であれば良い。また、SiO2/Al23モル比はその上限が限定されるものではない。SiO2/Al23モル比が15未満であると、十分な耐久性が得られない。
【0014】また、ゼオライトの種類は特に限定されず、例えば、モルデナイト、フェリエライト、ZSM−5、ZSM−8、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−20、ZSM−35等のゼオライトが使用できるが、その中でもZSM−5が好適に用いられる。またこれらのゼオライトの製造方法は限定されるものではない。またゼオライトY、ゼオライトL等のゼオライトを脱アルミニウムしたものであっても良い。
【0015】原料ゼオライトは、合成品あるいはそのか焼品等が用いられるが、原料ゼオライト中のNa等のイオンをアンモニウム塩あるいは鉱酸等で処理し、H型あるいはアンモニウム型として用いることもできる。更には、K,Cs,Ba等でイオン交換して用いることもできる。
【0016】原料ゼオライトは、有機溶媒中で四塩化ケイ素処理され、且つ、一種以上の活性金属が導入される。
【0017】活性金属導入と有機溶媒中での四塩化ケイ素処理の順序は特に制限されず、原料ゼオライトを有機溶媒中で四塩化ケイ素処理した後、活性金属を導入しても良く、また、活性金属導入後有機溶媒中で四塩化ケイ素処理することもできる。
【0018】有機溶媒中での四塩化ケイ素処理の条件は特に限定されず、四塩化ケイ素を含む有機溶媒中に、原料ゼオライトあるいは一種以上の活性金属を含有するゼオライトを添加し、液相で処理を行えば良い。
【0019】有機溶媒中の四塩化ケイ素濃度は特に限定されないが、0.1〜20%が好ましい。有機溶媒としては、四塩化ケイ素が安定に存在する溶媒であれば良く、ヘキサン,シクロヘキサン,トルエン,ベンゼン等が用いられる。有機溶媒中に水分が含まれていると、四塩化ケイ素が酸化物等に変化し、選択的なゼオライト表面水酸基の除去ないしは表面近傍ブレンステッド酸点の被覆が行えなくなる可能性があるため、有機溶媒中の水分はできるだけ除去することが望ましい。また、溶媒として水を使用すると、四塩化ケイ素が酸化物等として析出し、耐久性の優れた触媒が得られない。
【0020】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理する際の温度は特に限定されないが、四塩化ケイ素が安定に存在し、また、ゼオライト外表面水酸基との反応が進行する温度であれば良く、例えば室温から有機溶媒の沸点までの温度で行なって差し支えない。また、有機溶媒中で四塩化ケイ素処理する際、原料ゼオライト中に吸着している水分を除去し、且つ、ゼオライト表面の水酸基を活性な状態で存在させるために、真空下あるいは不活性ガスや乾燥空気雰囲気下で300〜800℃で前処理を行うことが好ましい。
【0021】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理されたゼオライトは、余剰の四塩化ケイ素を付着させないために固液分離することが望ましい。あるいは、酸,有機溶媒等を用いての洗浄や減圧による四塩化ケイ素の除去を行ってもよい。また、四塩化ケイ素処理後、ゼオライト表面に導入されたSiをより安定化するために、100〜800℃の温度で、真空下あるいは不活性ガスや空気雰囲気下で熱処理しても良い。
【0022】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理したゼオライトのSiO2/Al23モル比は15以上であることが必須である。SiO2/Al23モル比が15未満であると高温での十分な耐久性が得られない。また、その上限は特に限定されないが、十分な触媒活性を有する為には200以下であることが好ましい。
【0023】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理すると、Siがゼオライト表面に導入される為、若干のSiO2/Al23モル比の上昇が起こる。
【0024】本発明で用いられる触媒には、一種以上の活性金属が導入される。活性金属としては通常排ガス浄化に使用される金属であれば良く、例えば、Cu,Ag,Au等のIb族、Fe,Co,Ni,Ru,Rh,Pd,Pt等のVIII族、Cr,Mo等のVIa族、あるいは、Mn等のVIIa族が用いられる。特に好ましくはCuあるいはCoである。
【0025】活性金属の導入方法は特に限定されず、含浸担持法、蒸発乾固法、イオン交換法等の手法を用いることができる。活性金属はゼオライト表面に担持された状態でも高活性を示すが、ゼオライトのイオン交換サイトに存在する場合に、より高活性、高耐久性となる為に、イオン交換法で活性金属を導入することが好ましい。
【0026】イオン交換は、原料ゼオライトあるいは有機溶媒中で四塩化ケイ素処理されたゼオライトを、活性金属の塩を含む水溶液中に接触し、洗浄して行われる。
【0027】活性金属の塩としては、活性金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の塩が好適に用いられる。また、活性金属のアンミン錯塩等も好適に用い得る。
【0028】イオン交換の際の活性金属の添加量,濃度,交換温度,時間等は特に限定されず、一般的に行われている方法で良い。活性金属の添加量は、十分な活性,耐久性を持たせる為には、原料ゼオライトあるいは有機溶媒中で四塩化ケイ素処理されたゼオライト中のAlに対し、0.5〜20倍当量が好ましい。また、イオン交換のスラリー濃度は、通常行われる5〜50%が好ましい。また、イオン交換温度,時間は、十分な活性,耐久性を持たせる為に、室温〜100℃の温度、5分〜3日の時間であることが好ましい。また、必要に応じて、イオン交換操作を繰り返し行うこともできる。
【0029】以上の様にして、本発明で用いられる排ガス浄化触媒を調製することができる。
【0030】本発明で用いられる活性金属を導入した排ガス浄化用触媒のSiO2/Al23モル比は、活性金属導入前後で実質的に変化しない。また、排ガス浄化用触媒の結晶構造も有機溶媒中での四塩化ケイ素処理前後又はイオン交換前後で本質的に異なるものではない。
【0031】本発明で用いられる排ガス浄化用触媒は、粘土鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできる。また、予め原料ゼオライトあるいは有機溶媒中で四塩化ケイ素処理したゼオライトを成形し、その成形体を有機溶媒中で四塩化ケイ素処理あるいは活性金属を導入させることもできる。ゼオライトを成形する際に用いられるバインダーとしては、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライト等の粘土鉱物である。あるいは、バインダーを用いずに成形体を直接合成したバインダレスゼオライト成形体であっても良い。また、コージェライト製あるいは金属製のハニカム状基材に本発明で用いられる排ガス浄化用触媒をウォッシュコートして用いることもできる。
【0032】この様にして調製された排ガス浄化触媒は、窒素酸化物及び炭化水素を含む酸素過剰の排ガスと接触させ、窒素酸化物除去を行う。本発明で用いられる排ガスは、窒素酸化物及び炭化水素を含み酸素過剰であることが必須であるが、一酸化炭素,水素,アンモニア等が含まれている場合にも有効である。酸素過剰の排ガスとは、排ガス中に含まれる一酸化炭素,炭化水素,水素を完全に酸化するのに必要な酸素量よりも過剰な酸素が含まれていることを示す。例えば、自動車等の内燃機関から排出される排ガスの場合には、空燃比が大きい状態(リーン領域)である。
【0033】窒素酸化物を除去する際の空間速度,温度等は特に限定されないが、空間速度100〜500000/hr、温度200〜800℃であることが好ましい。
【0034】
【実施例】以下、実施例において本発明を更に詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0035】実施例1攪拌状態にある実容積2リットルのオーバーフロータイプの反応槽に、珪酸ソーダ水溶液(SiO2;250g/リットル,Na2O;82g/リットル,Al23;2.8g/リットル)と、硫酸アルミニウム水溶液(Al23;8.8g/リットル,H2SO4;370g/リットル)とをそれぞれ3リットル/hr,1リットル/hrの速度で連続的に供給した。反応温度は30〜32℃、排出されるスラリーのpHは6.7〜7.0であった。
【0036】排出スラリーを固液分離し十分水洗した後、Na2O;0.75wt%,Al23;0.77wt%,SiO2;36.1wt%,H2O;62.5wt%の粒状無定形アルミノ珪酸塩均一化合物を得た。該均一化合物2860gと3.2wt%のNaOH水溶液6150gとをオートクレーブに仕込み、160℃で72時間攪拌下で結晶化した。
【0037】生成物を固液分離、水洗、乾燥してZSM−5型ゼオライトを得た。化学分析の結果、その組成は無水ベースにおける酸化物のモル比で表わして次の組成を有していた。
【0038】1.03Na2O,Al23,41SiO2このゼオライト;10gを、NH4Cl;2gを含む水溶液100ccに添加し、60℃で20時間攪拌した後、洗浄、乾燥してアンモニウムイオン交換を行ない、アンモニウム型ゼオライトを得た。
【0039】このアンモニウム型ゼオライト;10gを、反応容器に充填し、排気下、400℃で1時間前処理を行い、ゼオライトに吸着しているH2O等を除去した。次いで、窒素雰囲気下で、四塩化ケイ素を5%含有するヘキサン;40ccを反応容器中に滴下し、室温で20時間撹拌した後、40℃で減圧乾固した。処理したゼオライトは0.1N塩酸水溶液で洗浄し、次いで純水で洗浄した後、空気流通下で600℃、1時間焼成した。処理したゼオライトのSiO2/Al23モル比は42であった。
【0040】四塩化ケイ素処理したゼオライトを、酢酸銅;0.7gを含む水溶液100ccに添加し、アンモニア水によりpH=10.5に調整し、室温で20時間攪拌した後、洗浄し、Cuイオン交換操作を行った。この操作を2回繰返した後、乾燥して触媒1を得た。化学分析の結果、その組成は無水ベースにおける酸化物のモル比で表わして次の組成を有していた。
【0041】1.35CuO,Al23,42SiO2実施例2実施例1で合成したZSM−5型ゼオライト;10gを、CsCl;14gを含む水溶液100ccに添加し、60℃で20時間撹拌した後、洗浄、乾燥してCsイオン交換を行った。この操作を3回繰り返した後、乾燥してCs型ゼオライトを得た。
【0042】このCs型ゼオライト;10gを用いて、四塩化ケイ素を14%含有するヘキサン;40ccを用いた以外は実施例1と同様に四塩化ケイ素処理を行なった。処理したゼオライトを、NH4Cl;2gを含む水溶液100ccに添加し、60℃で20時間攪拌した後、洗浄、乾燥してアンモニウムイオン交換を行ない、アンモニウム型とした。
【0043】その後、実施例1と同様にCuイオン交換操作を行なった。得られた触媒2は、無水ベースにおける酸化物のモル比で表わして次の組成を有していた。
【0044】2.04CuO,Al23,42SiO2実施例3実施例2で得られたCs型ゼオライトを、実施例1と同様に前処理し、次いで、窒素雰囲気下で、四塩化ケイ素を5%含有するヘキサン;40ccを反応容器中に滴下し、室温で22時間撹拌した後、濾過し、ヘキサン;200ccで洗浄した。
【0045】処理したゼオライトを実施例2と同様にアンモニウムイオン交換、Cuイオン交換して得られた触媒3は、無水ベースにおける酸化物のモル比で表わして次の組成を有していた。
【0046】1.01CuO,Al23,41SiO2施例4実施例1〜3で得られた触媒1〜3を用いて耐久性評価を行った。
【0047】各触媒をプレス成形した後粉砕して12〜20メッシュに整粒した。その2ccを常圧固定床流通式反応管に充填し、リーンバーンエンジンの排ガスを模擬したガス(表1)を空間速度120000/hrで流した。550℃で30分の前処理を行なった後、各温度での定常浄化活性を測定した。定常浄化活性は、各温度で1時間保持した後のNO浄化率とした。
【0048】また、各触媒について、表1の組成のガスを空間速度120000/hrで流しながら800℃で5時間耐久処理した。その後、上記と同様の方法で定常浄化活性を測定し耐久性の試験を行なった。
【0049】得られた結果を表2に示す。
【0050】
【表1】


【0051】
【表2】


【0052】比較例1実施例1において、四塩化ケイ素処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、Cu型ZSM−5(比較触媒1)を得た。化学分析の結果、その組成は無水ベースにおける酸化物のモル比で表わして次の組成を有していた。
【0053】1.03CuO,Al23,41SiO2比較例2実施例1において、溶媒にH2Oを使用したこと以外は実施例1と同様にして、Cu型ZSM−5(比較触媒2)を得た。化学分析の結果、その組成は無水ベースにおける酸化物のモル比で表わして次の組成を有していた。
【0054】1.05CuO,Al23,45SiO2比較例3比較例1及び2で得られた比較触媒1及び2を用いて、実施例4と同様にして触媒耐久性評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0055】
【表3】


【0056】
【発明の効果】表2及び表3より明らかなように、本発明の方法によれば、効率良く窒素酸化物を除去することができ、触媒が高温で使用された後にも、効率良く窒素酸化物を除去することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】有機溶媒中で四塩化ケイ素処理された、SiO2/Al23モル比が少なくとも15以上であるゼオライトと、一種以上の活性金属とからなる触媒を用いて、窒素酸化物および炭化水素を含有する酸素過剰の排ガスから窒素酸化物を除去する方法。