説明

立体描画セット

【課題】描画された絵を単に平面的でなく、視覚的効果、とりわけ立体的視覚効果が得られるように鑑賞可能な立体描画セットを提供する。
【解決手段】黒色又は暗色の描画用紙20と、前記描画用紙20上に有彩色で描線下の領域を被覆可能に描画可能な筆記具30と、プリズム特性を有するレンズが装着された立体メガネ40とを備えてなることを特徴とする立体描画セット10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色又は暗色の描画用紙上に描画された絵を立体視することが可能な立体描画セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1〜3のように、下絵の上を被覆する透明シート上にフェルトペンやクレヨン等の筆記具で該下絵をなぞるように描画可能な描画セットが提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 2009/035800 A1
【特許文献2】実開平7−12198号公報
【特許文献3】実用新案登録第3032776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、下絵を手本としての描画は可能であるが、描かれた絵はあくまで平面的にしか見えないものである。よって、絵を描くこと自体、また、その平面的な絵を見て楽しむ以外の付加的な楽しみ方は提供されていないものであった。
そこで本発明は、描画された絵を単に平面的でなく、視覚的効果、とりわけ立体的視覚効果が得られるように鑑賞可能な立体描画セットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)第1の発明
上記課題に鑑み、本件発明のうち第1の発明に係る立体描画セット10は、黒色又は暗色の描画用紙20と、前記描画用紙20上に有彩色で描線下の領域を被覆可能に描画可能な筆記具30と、プリズム特性を有するレンズが装着された立体メガネ40とを備えてなることを特徴とする。
「描画用紙20」とは、全体が黒色又は暗色一色の描画用紙である。ここで、暗色とは、各色相において黒色に近い、低明度の色彩をいう。たとえば、暗灰色や濃紺などがこの暗色として挙げられる。たとえば、黒画用紙や黒色ケント紙等がこれに該当する。
【0006】
「筆記具30」とは、透明シート上に有彩色で描画可能であり、かつ描線がその下の領域の色彩を被覆してしまうようなものをいう。ここで、「有彩色」とは黒・白及びこれらの混色以外の色で、彩度がプラス値であるものをいう。なお、彩度の値は、各色相において最高値又はそれに近い値であることが望ましい。
このようにして、描画用紙20上に有彩色の筆記具30で描画された絵は、プリズム特性のあるレンズを備えた立体メガネ40を通して見ることで、立体的に鑑賞することが可能となっている。このような立体メガネ40としては、たとえば米国クロマテック社製のクロマデプス(商品名)3Dメガネがある。このような立体メガネは、プリズムの分光特性を利用し、左右で色彩ごとに分光視差を生じさせるものである。したがって、この立体メガネで描画用紙20上に描画された絵を鑑賞すると、たとえば赤色は手前に、青色は奧に見えるという視覚効果が得られる。このとき、描画された絵の背景は描画用紙20の黒色又は暗色バックとなっているが、このような立体的視覚効果は黒色をバックにした場合最も顕著に発揮されることとなっている。
【0007】
(2)第2の発明
本発明のうち第2の発明は、前記第1の発明の特徴に加え、前記筆記具30は、少なくとも赤色及び青色で描画可能なものであることを特徴とする。
前記第1の発明の構成要素であるプリズム特性のあるレンズを備えた立体メガネ40による立体的視覚効果は、特に赤色が近くに見え、青色が遠くに見えるように分光視差を生じさせるものである。よって、筆記具30として赤色と青色との2色を最低限備えていれば、この2色の対比による立体的視覚効果を得ることができる。
(3)第3の発明
本発明のうち第3の発明は、前記第2の発明の特徴に加え、前記筆記具30としてさらに、赤色及び青色以外の色相で描画可能であるものを備えたことを特徴とする。
【0008】
赤色及び青色以外の色相、たとえば橙色、黄色、緑色のような色彩は、前記第1の発明の構成要素であるプリズム特性のあるレンズを備えた立体メガネ40による分光視差は、赤色及び青色の中間段階に位置することになる。また紫色の場合は青色よりもより遠くに見えることになる。よってこれらの色彩で描画可能な筆記具30を備えることで、赤色及び青色の筆記具30のみの場合に比べより複雑微妙な立体的視覚効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記のように構成されているので、以下に記す効果を奏する。
すなわち、本発明のうち第1の発明の構成によれば、黒色又は暗色の描画用紙上に、有彩色の筆記具で描画し、これをプリズム特性のあるレンズを備えた立体メガネで鑑賞すれば、黒色又は暗色を背景にして左右で色彩ごとの分光視差を生じさせることで、立体的な視覚効果を生じさせることができる。
また、第2の発明の構成によれば、第1の発明の効果に加え、赤色が近くに、青色が遠くに見えるような立体的視覚効果を楽しむことが可能となる。
さらに、第3の発明の構成によれば、第2の発明の効果に加え、赤色及び青色のみの場合に比べより複雑微妙な立体的視覚効果を楽しむことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態において使用される筆記具の一形態の部分断面図(A)と、別の形態の断面図(B)である。
【図3】本発明の第1の実施の形態において使用される固形描画材を斜視図で示す。
【図4】本発明の第1の実施の形態において使用される固形描画具の例を斜視図で示す。
【図5】図4のV−V断面の一部を拡大して示す。
【図6】鉛筆削り器により切削した図5の固形描画具を斜視図で示す。
【図7】本発明の第1の実施の形態において使用される固形描画具の別の例を斜視図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
本発明の実施の形態に係る立体描画セット10は、図1に示すように、長方形の黒色の描画用紙20と、赤色及び青色を含む複数色の筆記具30と、立体メガネ40とから構成される。
描画用紙20は、黒色の画用紙である。
筆記具30は、出願人製品の「POSCA」(商品名)の1セットが用いられる。この筆記具30は被覆性に優れており、重ね描きが可能となっている。すなわち、描線には背景の黒色が透けることがないので、黒色バックの上に、その描線の色彩そのもので描画されることとなっている。
【0012】
この筆記具30に収納するインク組成物としては、隠蔽剤を含むものが挙げられる。すなわち、黒色又は暗色の背景台紙を被覆して立体的な視覚効果を生じさせるため、高隠蔽性の色材を含有することが好ましい。高隠蔽性の色材としては、金属酸化物、白色の樹脂粒子などが単独に用いられ、あるいは、併用されるのが普通である。特に、金属酸化物の酸化チタン又は酸化亜鉛が一般的に用いられ、さらには、酸化チタンが隠蔽力の点で好適に用いられている。
ところで、黒色の描画用紙20は紙であるので、この筆記具30に収納するインク組成物が水性インクでも、いわゆる油性インクの組成物でも何ら問題なく筆記及び描画が容易である。
【0013】
以下に、このインク組成物が水性インクの場合の配合組成の例を示す。
(配合例1)
ジョンクリル61J(樹脂分31%、アンモニア中和水溶液;BASFジャパン社製):9重量%
酸化チタン:6重量%
赤色202号:4重量%
サーフィノール465(界面活性剤、日信化学工業社製):0.1重量%
水:残余
上記配合組成のうち、色材(酸化チタン、赤色202号)以外の成分を、先にマグネチックスターラーによって撹拌混合し、樹脂を十分に均一に溶解させた後、色材を添加し、ビーズミルによって1時間分散させて赤インクを調整した。
【0014】
(配合例2)
ジョンクリル61J:10重量%
酸化チタン:4重量%
群青:4重量%
サーフィノール485(界面活性剤、日信化学工業社製):0.1重量%
水:残余
配合例1の赤色202号を群青に入れ替えた以外は、配合例1と同様にして青インクを調整した。
【0015】
ところで、これらの高隠蔽性のインク組成物を用いて筆記及び描画を行う際、書き間違いあるいは描画のはみ出し等の誤りが起こりうる。そのため、「修正用」として黒色又は暗色の背景台紙と同様の黒色のインク組成物が求められる。以下はその配合例である。
(配合例3)
トリエタノールアミン:1.2重量%
ジョンクリル67(BASFジャパン社製):1重量%
カーボンブラック:5重量%
サーフィノール465:0.1重量%
水:残余
配合例1の色材をカーボンブラックに入れ替えた以外は、配合例1と同様にして黒インクを調整した。
【0016】
上記したような水性のインク組成物は、前記筆記具30としての、図2(A)に示すような部分断面図の筆記具36に収容することができる。
この筆記具36の軸本体361は有底筒状でインク収容管を兼ねており、バルブ体362が前方に備えられている。軸本体361内には撹拌子366が封入されており、インクに含まれる酸化チタンあるいはカーボンブラック等の比重の大きな粒子が、軸本体361内で沈降してハードケーキを形成した時に再撹拌を行うことができる。
前記バルブ体362の前方にはペン芯363が配され、先軸部364により軸本体先端部を封止するとともに、バルブ体362及びペン芯363を係止している。バルブ体362には、常にこのバルブ体362を閉じるように押圧するバネ部材362aが含まれている。ペン芯363は、繊維束又は粒子の焼結体からなる連続気泡の多孔質体を含むものから構成されている。この筆記具36を使用する際には、ペン芯363を筆記される描画用紙20等に押し当て(ポンピング)、バルブ体362を開放し、インクを流出させ、ペン芯363までインクを染み出させることにより、筆記及び描画が可能となる。
【0017】
前記先軸部にはキャップ体365が装着され、ペン芯363を保護する。
筆記具36は前記の通り、水性インクが収容されるので、これら各部材は主として熱可塑性樹脂によって構成される。前記のバネ部材362aについては、ステンレス製のものが用いられる。
図2(B)の断面図に示す筆記具37は、水性インク組成物を収容する前記筆記具30としての別の形態である。上記筆記具36と同じ部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
この筆記具37は、ペン芯363の代わりに穂筆372が設けられており、毛筆様の描線を引くことが可能となっている。ペン先が穂筆373であるので、前記筆記具36で行うようなポンピング動作を行うことができないため、軸本体371後端に設けられたノック部377をノックする動作がノック棒378を通してバルブ体362へ伝達され、バルブ体362を開閉させる。この筆記具37の撹拌子376は、軸本体371内にノック棒378が挿通されているため、円筒形となっている。
【0018】
本発明においては、上記した通り油性インクも好適に使用することができる。以下に油性インクの配合組成の例を示す。
(配合例4)
酸化チタン:19.7重量%
ロジン変性マレイン酸樹脂:12.3重量%
アルキド樹脂:9.6重量%
Solvent Red 168:1.3重量%
キシレン:残余
上記配合組成のうち、色材(酸化チタン、Solvent Red 168)以外の成分を、先にマグネチックスターラーによって撹拌混合し、樹脂を十分に均一に溶解させた後、色材を添加し、ボールミルによって1時間分散させて赤インクを調整した。
【0019】
(配合例5)
酸化チタン:23.9重量%
ロジン変性マレイン酸樹脂:12.7重量%
アルキド樹脂:8.5重量%
Solvent Blue 58:0.7重量%
キシレン:残余
以上の各成分を配合例4と同様にして青インクを調整した。
(配合例6)
カーボンブラック:7.0重量%
ロジン変性マレイン酸樹脂:12.0重量%
アルキド樹脂:25.0重量%
キシレン:残余
上記配合組成のうち、色材(カーボンブラック)以外の成分を、先にマグネチックスターラーによって撹拌混合し、樹脂を十分に均一に溶解させた後、色材を添加し、ボールミルによって1時間分散させて「修正用」黒インクを調整した。
【0020】
これらの配合例4〜6の油性のインク組成物は図2(A)の部分断面図に示すような筆記具36と同様の筆記具30に収容することができる。
ただし、油性のインクであるので、筆記具30の各部材は熱可塑性樹脂(ナイロン以外)の使用は忌避すべきである。特に軸本体361はアルミ等の金属製であれば問題ない。
なお、本発明においては、前記筆記具30として、前記描画用紙20に濃く明確に描画できれば固形描画材38でも使用することができる。
以下に、上記したような固形描画材38の配合例と製造方法の一例を示す。
【0021】
(配合例7)
パラフィンワックス150F(日本精蝋):34重量%
マイクロクリスタリンワックス2045(融点67℃、日本精蝋):10重量%
YSレジンPX800(テルペン樹脂、ヤスハラケミカル):15重量%
タルク:17重量%
二酸化チタン:14重量%
群青:6重量%
フタロシアニンブルー:4重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練した後、加熱溶融させ、所定の型に流し込み、冷却、固化して、断面が一辺8.0mm×8.0mmの図3に示すような青色の固形描画材38を得た。
【0022】
(配合例8)
ステアリン酸グリセリド:43重量%
ロジンエステル:16重量%
タルク:18重量%
二酸化チタン:12重量%
パーマネントレッド:11重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物をプランジャー型押出機にて押出成形して、図4に示すような直径7.0mm、長さ120mmの赤色の固形描画材38を得た。この固形描画材38の外周に、接着剤を含めた厚さ100μm、横138mm、縦120mmのポリプロピレン合成紙製の保護シート391を図5に示すように5周巻き回し、図4に示すような直径8.0mm、長さ120mmの、前記筆記具30としての固形描画具39を得た。この固形描画具39を、三菱鉛筆製ミニ鉛筆削り器(商品名:ポケットシャープナーDPS−101 PLT)を用いて、図6に示すように先端が尖るように切削した。
【0023】
(配合例9)
前記配合例8の配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物をプランジャー型押出機にて押出成形して、図7に示すような直径7.5mmの赤色の固形描画材38を得た。そして、これを10℃に保持した。一方、ポリプロピレンを射出成形し、直径8.0mm、内径7.5mmの、一端が閉じた筒状の外層容器392を得た(図7参照)。この外層容器30を90℃に保持したまま、前記固形描画材38を挿入し、図7に示すような直径8.0mmの、前記筆記具30としての固形描画具39を得た。この固形描画具39を、三菱鉛筆製ミニ鉛筆削り器(商品名:ポケットシャープナーDPS−101 PLT)を用いて先端が尖るように切削した。
【0024】
立体メガネ40(図1参照)としては、米国クロマテック社製のクロマデプス(商品名)3Dメガネが用いられる。この立体メガネ40は、紙製のメガネ枠41に、1対のマイクロプリズムレンズ42R,42Lが装着されているものである。そして、右側のマイクロプリズムレンズ42Rは、赤色は右方へ変位し、青色は左方へ変位するような分光特性を備えている。一方、左側のマイクロプリズムレンズ43Lはこの逆に、赤色は左方へ変位し、青色は右方へ変位するような分光特性を備えている。これは、同一の分光特性のマイクロプリズムレンズを、左右で逆向きにメガネ枠41に装着することで可能となる。このような分光特性の結果、赤色で描かれた部分の視差は実際の描画用紙20上より大きくなるため、その部分は手前にあるように見えることになる。逆に青色で描かれた部分の視差は小さくなるので奥側に見えることになる。また、その他の色彩、たとえば橙色、黄色、緑色等、赤色と青色との間の波長の色彩の場合は、その波長に応じて赤色と青色との間に位置して見えることとなる。また、紫色など、青色より短波長の色彩の場合は青色よりも奧側に見えることとなる。このような立体的視覚効果は、黒色を背景にするとより顕著に発揮されるものである。
【0025】
この描画用紙20の上に、上述の筆記具30を用いて自由に立体画を描画することができる。このとき、筆記具30としては少なくとも赤色及び青色のものを使用することが望ましい。
描画後に立体メガネ40を用いて描画された立体画を見ると、赤色で描かれた部分は手前に飛び出して見え、一方青色で描かれた部分は奧に引っ込んで見えることで、立体画は立体的に視認されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、黒色又は暗色の描画用紙上に有彩色の筆記具で立体画を描画し、それを立体メガネを用いて立体視で鑑賞するような描画セットとして利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 立体描画セット 20 描画用紙 30 筆記具
36 筆記具 361 軸本体 362 バルブ体
362a バネ部材 363 ペン芯 364 先軸部
365 キャップ体 366 撹拌子
37 筆記具 371 軸本体 373 穂筆
376 撹拌子 377 ノック部 378 ノック棒
38 固形描画材
39 固形描画具 391 保護シート 392 外層容器
40 立体メガネ 41 メガネ枠
42R 右側のマイクロプリズムレンズ
42L 左側のマイクロプリズムレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色又は暗色の描画用紙と、
前記描画用紙上に有彩色で描線下の領域を被覆可能に描画可能な筆記具と、
プリズム特性を有するレンズが装着された立体メガネとを備えてなることを特徴とする立体描画セット。
【請求項2】
前記筆記具は、少なくとも赤色及び青色で描画可能なものであることを特徴とする請求項1記載の立体描画セット。
【請求項3】
前記筆記具としてさらに、赤色及び青色以外の色相で描画可能であるものを備えたことを特徴とする請求項2記載の立体描画セット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−176226(P2012−176226A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171446(P2011−171446)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】