説明

立体的回路基板の製造方法

【課題】ローラなどの円柱形状または円筒形状の筐体表面全周にわたってフィルム状回路基板が貼り付けられた立体的回路基板において、回路基板の端部間に生ずる間隙による影響のない立体的回路基板を提供する。
【解決手段】円筒形状または円柱形状の筺体(10)の表面全周に、保護フィルム(13)を有するフィルム状回路基板(12)が貼り付けられた基材における、回路基板(12)の端部間に生ずる間隙(2)に、少なくとも2種類の硬化手段を施すことにより完全に硬化しうる充填物(1)を保護フィルム(13)の表面上に盛り上がるまで充填し、第1の硬化工程により充填物(1)を半硬化させ、保護フィルム(13)を剥離すると共に、充填物(1)の一部を除去し、その後、間隙(2)に埋設されている充填物(1)を第2の硬化工程により完全に硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的回路基板、特に、ローラなどの円柱形状または円筒形状の筐体の表面の全周にわたって回路基板が形成されている立体的回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの電子機器の小型化、多機能化、および低コスト化に伴い、その筐体の内面や外面に、回路基板をコンパクトに実装することが要求されている。このため、回路基板として平面的なものではなく立体的なものが必要とされる場合がある。また、複写機の分野でも、現像用ローラなどの金属製または樹脂製の円柱形状または円筒形状の筺体の表面の全周にわたって回路基板を形成して、立体的回路基板を製造することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような筺体の表面全周に回路基板を形成する手段として、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの絶縁性フィルムの表面に電極配線を設けたフィルム状回路基板を筺体の外周に貼り付ける方法がある。このようなフィルム状回路基板は、多量に、かつ、安価に製造することができるため、フィルム状回路基板を筺体に貼り付ける方法は、筺体に電極配線を直接形成する方法よりも容易と考えられる。
【0004】
ところで、特許文献2には、フィルムを円柱形状または円筒形状である缶体にロータリカッタ方式で貼り付ける方法が記載されている。この方法では、自立保持不能な柔軟性のあるフィルムを、高い精度で所定の長さに切断し、得られたフィルムを缶体に供給して、ラミネートを行うことにより、缶体へのフィルムの貼り付けを可能としている。
【0005】
このロータリカッタ方式による貼付け方法は、缶体やボトルなどの飲料容器の表面にラベルを貼ることを目的として開発されたものである。そのため、ラベルを貼る位置精度などを厳密に管理する必要がなく、また、飲料容器の表面全周にラベルを貼り付ける場合は、フィルムに重なりやフィルム端部に間隙が生じても問題となることはない。
【0006】
これに対して電子機器用のフィルム状回路基板を円柱形状または円筒形状の筺体の表面全周に貼り付ける場合に、フィルム状回路基板に重なりや大きな間隙があると、回路を構成する配線に短絡や導通不良が発生したり、トナーがこの間隙に入り込むなどしたりして、回路の電気的特性に影響を及ぼすため大きな問題となる。よって、フィルム状回路基板を、重なることなく、かつ、回路基板の端部間の間隙が許容される程度に小さくなるように、貼り付けることが要求される。
【0007】
しかしながら、このような要求に応じるべく、フィルム状回路基板を精度よく切断し、貼付け時に重なりや大きな間隙が生じないように貼り付けた場合でも、フィルム状回路基板の切断によるバラツキは存在し、かつ、筺体自体にも仕上がり径のバラツキが存在するため、フィルム状回路基板の重なりや端部間における許容範囲を超えた間隙の発生を阻止できていないのが現状である。
【0008】
また、かかる間隙については、貼り付けた回路基板の表面保護用に樹脂を塗布して間隙を埋設できれば、短絡や導通不良の防止に有効であるが、現状では、表面保護用の樹脂を塗布したとしても間隙の段差を完全に埋めきれずに、フィルム状回路基板の端部が露出してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−59568
【特許文献2】特開平10−236446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ローラなどの円柱形状または円筒形状の筐体表面に、特に全周にわたって、所定の大きさのフィルム状回路基板が貼り付けられた立体的回路基板において、回路基板の端部間に生ずる間隙により電気的特性について影響を受けることのない立体的回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る立体的回路基板の製造方法は、円筒形状または円柱形状の筺体の表面全周に、保護フィルムを有するフィルム状回路基板が貼り付けられた基材における、該回路基板の端部間に生ずる間隙に、少なくとも2種類の硬化手段を施すことにより完全に硬化しうる充填物を前記保護フィルムの表面上に盛り上がるまで充填し、第1の硬化工程により該充填物を半硬化させ、前記保護フィルムを剥離すると共に、前記充填物の一部を除去し、その後、前記間隙に埋設されている充填物を第2の硬化工程により完全に硬化させることを特徴とする。
【0012】
前記充填物が、硬化条件の異なる2種類の樹脂の混合物、または、主として一分子内に硬化条件の異なる2種類の骨格を有する樹脂から構成されることが好ましい。
【0013】
当該充填物には、必要に応じて、重合開始剤、希釈剤、充填剤、着色用顔料、各種添加剤類、重合禁止剤類が添加されていてもよい。
【0014】
好ましくは、前記充填物は、熱硬化性樹脂と紫外線硬化性樹脂との混合物、もしくは、一分子内に熱で重合可能な骨格と紫外線で重合可能な骨格とを含む樹脂、熱硬化性樹脂用の重合開始剤、紫外線硬化性樹脂用の重合開始剤から構成され、必要に応じて希釈剤を含むものである。
【0015】
かかる場合、第1の硬化工程において熱により前記充填物を半硬化させ、第2の硬化工程において紫外線により前記半硬化した充填物を完全に硬化させることが好ましい。
【0016】
前記保護フィルムを剥離後、前記充填物の完全硬化前において、前記間隙に埋設されている半硬化状態の充填物の表面を平滑化して、該充填物の表面を前記フィルム状回路基板の端部の高さに揃えることが好ましい。
【0017】
また、前記充填物を複数回のスプレー塗布により充填することが好ましい。この場合、前記充填物の粘度を間隙の幅に応じて0.01Pa・s〜1Pa・sの範囲内において調整する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、円柱形状または円筒形状の筺体の表面全周にフィルム状回路基板が形成された立体的回路基板において、該回路基板の端部間における間隙が埋設されることにより、該間隙による段差がなく、該回路基板の端部が露出することのない立体的回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る立体的回路基板の製造方法の一態様を工程ごとに示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、円筒形状または円柱形状の筺体の表面全周にフィルム状回路基板が貼り付けられた立体的回路基板の製造方法において、フィルム状回路基板の端部間に生ずる間隙を、特定の充填物により埋設することを特徴とする。
【0021】
立体的回路基板は、絶縁性フィルムの表面に銅層による配線が形成され、裏面側に接着剤層を有し、表面側に保護フィルムがラミネートされている保護フィルム付きフィルム状回路基板を、筺体の大きさに合わせて所定の大きさに切断し、筺体に貼り付け、もしくは、絶縁性フィルムの表面に銅層による配線が形成され、さらに表面側に保護フィルムがラミネートされている保護フィルム付きフィルム状回路基板を、所定の大きさに切断し、表面に接着剤層が形成されている筺体に貼り付け、その後、保護フィルムを剥離して、筺体上にフィルム状回路基板を形成することにより得られる。
【0022】
前者の場合、フィルム状回路基板の端部間に形成される間隙の底部は、筺体の表面であり、後者の場合、該間隙の底部は、接着剤層の表面となる。
【0023】
以下、前者の態様に基づいて、図面に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0024】
図1(a)に示すとおり、筺体(10)の表面に、接着剤層(11)を介して、保護フィルム(13)付きフィルム状回路基板(12)を貼り付けて、基体とする。基体の状態で、フィルム状回路基板(12)の端部間には、間隙(2)が形成されている。
【0025】
フィルム状回路基板(12)は、筺体(10)の大きさに合わせて精度良く所定の大きさに切断されるが、フィルム状回路基板(12)に重なりがないように、かつ、貼り付け時の伸びなどを考慮して、大きさが決定されているため、貼り付け後には、かかる間隙(2)が形成されることになる。
【0026】
間隙(2)の幅は、例えば、直径16mmのアルミパイプを筺体(10)として用いた場合、0.05〜0.5mm程度となる。間隙(2)の深さは、接着剤層(11)とフィルム状回路基板(12)と保護フィルム(13)の厚さの合計に対応したものとなり、電子機器用途の場合、0.1〜0.2mm程度となる。
【0027】
なお、この状態では、フィルム状回路基板(12)の表面は、保護フィルム(13)により完全に保護された状態となっている。
【0028】
なお、接着剤層付きの筺体に保護フィルム付きフィルム状回路基板を貼り付ける態様では、間隙の深さは、フィルム状回路基板と保護フィルムの厚さの合計に対応したものとなり、電子機器用途の場合、0.05〜0.15mm程度となる。
【0029】
本発明では、図1(c)に示すとおり、かかる間隙(2)を埋設するために、少なくとも2種類の硬化手段を施すことにより完全に硬化しうる充填物(1)を、保護フィルム(13)の表面上に盛り上がるまで、間隙(2)に充填する。
【0030】
かかる少なくとも2種類の硬化手段を施すことにより完全に硬化しうる充填物としては、紫外線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂とのように硬化条件の異なる少なくとも2種類の樹脂の混合物を用いることができる。
【0031】
紫外線硬化性樹脂としては、アクリレート系紫外線硬化性樹脂またはアクリル系紫外線硬化性樹脂をあげることができる。
【0032】
熱硬化性樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、N−グリシジル型エポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂などの一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物をあげることができる。また、このようなエポキシ系樹脂のほか、フェノール系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂なども用いることができる。
【0033】
本発明では、主として、紫外線硬化性と熱硬化性とを併せ持つ樹脂を用いる。このような樹脂を用いた場合、硬化状態を制御することができる。
【0034】
例えば、紫外線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂との混合物を用いる場合、これらの樹脂と重合開始剤との組合せで充填物として用いられる。
【0035】
熱硬化のための重合開始剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール系、トリアジン系などを用いることができる。また、紫外線硬化のための重合開始剤としては、安息香酸系または第三級アミン系などの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明では、少なくとも2種類の硬化手段を施すことにより完全に硬化しうる充填物(1)を間隙(2)に充填可能であれば、任意の充填手段を採り得るが、間隙(2)の幅が狭小であることから、間隙(2)内に充填物(1)を確実に間隙(2)の奥まで充填させるためには、充填物(1)を複数回のスプレー塗布により充填することが好ましい。スプレー塗布には、公知のスプレーガンを用いることができる。
【0037】
スプレー塗布を用いる場合、上記樹脂の組合せおよび用いられる樹脂に応じた重合開始剤のほか、希釈剤が添加され、粘度が0.01〜1Pa・sの低粘度の充填剤(1)を使用する必要がある。
【0038】
希釈剤としては、光重合性モノマーおよび/または有機溶剤が使用できる。光重合性モノマーの代表的なものとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレ−ト、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、メラミンアクリレート、または上記アクリレートに対応する各メタクリレート類などの水溶性モノマー;ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロペンタジエン、モノ−あるいはジーアクリレート、または上記アクリレートに対応する各メタクリレート類、多塩基酸とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとのモノ−、ジ−、トリ−で表されるもの、またはそれ以上のポリエステルなどの非水溶性モノマーがあり、または、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、フェノールノボラック型エポキシアクリレート、クレゾールノボラック型エポキシアクリレートなどの高分子量アクリレートモノマーがあげられる。
【0039】
一方、有機溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、セロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類、カルビトール、ブチルカルビトールなどのカルビトール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビト−ルアセテートなどの酢酸エステル類などがある。上記のような希釈剤は、単独または2種以上の混合物として用いられる。
【0040】
充填物(1)を狭い間隙(2)の奥まで充填させるために、例えば水のような粘度(約0.001Pa・s)では奥まで入っても流出してしまう。また、半導体封止樹脂のような粘度(5〜15Pa・s)では圧入しなければ奥まで入り難い。このため、奥まで充填が容易であって硬化するまでに流出しない程度の低粘度のものを使用する必要がある。
【0041】
充填物(1)を、希釈剤の添加により、間隙(2)の幅などに応じて、粘度を0.01〜1Pa・sの範囲内の低粘度で調整することが望ましい。ただし、希釈剤を添加しない場合でも、かかる粘度の範囲内となる樹脂の混合物などを用いる場合には、その省略は可能である。
【0042】
充填物(1)には、さらに必要に応じて、硫酸バリウム、酸化珪素、タルク、クレー、炭酸カルシウムなどの充填剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン、カーボンブラックなどの着色用顔料、および、消泡剤、密着性付与剤またはレベリング剤などの各種添加剤類、あるいはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、ターシャリブチルカテコール、フェノチアジンなどの重合禁止剤類を添加してもよい。
【0043】
本発明において、スプレー塗布を行う場合、スプレー塗布する回数は、間隙(2)の深さと幅により変化させるが、図1(b)〜(c)に示すとおり、基本的に複数回に分けて塗布することが好ましい。一回ごとの塗布により、希釈剤に起因して塗布ごとに発生する気泡を除去することができる。よって、一度に厚塗りするより複数回に分けて塗布する方が、後工程での気泡の発生などを防止できる。
【0044】
また、本発明では、図1(c)に示すとおり、間隙(2)への充填物(1)の充填を確実にするため、充填物(1)を保護フィルム(13)の上まで盛り上がる程度まで塗布する。
【0045】
特に、本発明では、図1(d)に示すとおり、この状態において、第1の硬化工程、すなわち、少なくとも2種類の硬化手段のうち1の硬化手段を施すことによって、充填物(1)を半硬化させる点に特徴を有する。そして、充填物(1)が半硬化した状態において、図1(e)に示すとおり、保護フィルム(13)を剥離する。
【0046】
保護フィルム(13)を剥離する際に、充填物(1)が未硬化で柔らかい状態であると、充填物(1)の一部が保護フィルム(13)に付着した状態で剥離される。この際、保護フィルム(13)の上側に存在する余分な充填物のみならず、間隙(2)内に残存すべき充填物の一部も除去されてしまい、充填物(1)の表面がなだらかにならず、かつ、間隙(2)が完全に充填されずに、一部に浅い溝が残存してしまう場合がある。
【0047】
一方、充填物(1)が完全に硬化した後に保護フィルム(13)を剥離した場合、間隙(2)内に充填された充填物が保護フィルム(13)に付着して、保護フィルム(13)の剥離と同時に除去されてしまい、間隙(2)内に充填物(1)が残存しないおそれがある。
【0048】
これに対して、本発明では、充填物(1)のうち、第1の硬化工程で施される硬化手段に対応する樹脂部分のみが硬化し、その他の樹脂部分は未硬化の状態のままである。かかる半硬化の状態において保護フィルム(13)を剥離することにより、保護フィルムの上側にある充填物(1)の一部が除去されるものの、充填物(1)は、フィルム状回路基板(12)の表面レベルより凹む状態で一部が除去されることはなく、必要量が間隙(2)内に確実に残存することになる。
【0049】
間隙(2)内に残存する充填物(1)の表面に、凹凸が生ずる場合がある。かかる場合には、図1(e)に示すように、充填物(1)を第2の硬化工程において完全硬化させる前に、スキージやウエスなどにより擦って、表面を平滑化させておくことが好ましい。
【0050】
本発明では、その後、図1(f)に示すように、第2の硬化工程において、すなわち、少なくとも2種類の硬化手段のうち他の硬化手段を施すことによって、間隙(2)に埋設されており、半硬化状態にある充填物(1)を完全に硬化させる。
【0051】
このようにして、フィルム状回路基板(12)の端部間に生じた間隙(2)が充填物(1)で埋設され、フィルム状回路基板(12)の端部に段差がなく、かつ、フィルム状回路基板(12)の端部が実質的に露出することのない立体的回路基板を得ることができる。
【0052】
なお、現像用ローラを含む電子機器用途の場合において、電気的特性への影響を排除するためには、フィルム状回路基板(12)の段差は、0.01mm以内とする必要がある。本発明のいずれの態様においても、平滑化の有無により、フィルム状回路基板(12)の表面に対する凹凸は生ずるものの、かかる段差を上記数値範囲内とすることが可能である。
【0053】
なお、本発明においては、上述の通り、2つの性質の異なる硬化性を有する樹脂の混合物を充填物として用い、2つの硬化手段により、保護フィルム(13)の剥離前に充填物(1)を半硬化させ、かつ、保護フィルム(13)の剥離後に充填物(1)を硬化させることにより、十分な効果を発揮することができる。
【0054】
また、本発明では、上述の通り、熱硬化性樹脂と紫外線硬化性樹脂の混合物を、充填物の基本構成として適用することが好ましい。この場合、第1の工程に熱硬化手段を用い、第2の工程に紫外線硬化手段を用いる。
【0055】
先に熱により半硬化させるのは、仮に過剰の希釈剤が充填物内に含まれていたとしても、熱により希釈剤が蒸発し、その後に紫外線を照射して充填物を完全に硬化させる際に適正な効果が得られるからである。
【0056】
また、一般的には、紫外線硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂よりも硬化収縮率が小さい。すなわち、第1の硬化工程において樹脂が熱により相当程度、収縮しても、保護フィルム(13)により除去されるのは一部であり、除去後の充填物(1)は、フィルム状回路基板(12)の表面レベルより上側に盛り上がった状態で残存する。一方、第2の硬化工程においては、紫外線の照射により若干、樹脂は収縮するが、平滑化を行った場合でも、充填物(1)は間隙(2)内に十分量残存し、立体的回路基板の性能に影響を及ぼしうる程度の段差を生じさせることはない。
【0057】
第1の硬化工程において、熱硬化手段を用いる場合、加熱温度や加熱時間は、使用されるエポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂に対して推奨される条件を適用することが好ましい。ただし、充填物に希釈剤が添加されている場合、この際の加熱時間については、かかる希釈剤の量を考慮して選定することがより好ましい。
【0058】
また、第2の硬化工程において、紫外線硬化手段を用いる場合、紫外線のエネルギーや照射時間は、使用するアクリレート樹脂などの光硬化性樹脂に対して推奨される条件を適用することが好ましい。
【実施例1】
【0059】
フィルム状回路基板(12)として、厚さ35μmのPETフィルム(東洋紡株式会社製、A4100)の片面に厚さ10μmの銅層による配線が形成されているものを使用した。フィルム状回路基板(12)の配線側(表面側)には、内側に粘着層を有する厚さ50μmのPETフィルム(日栄化工株式会社、PET25-RB114)を保護フィルム(13)として貼り合わせ、反対側に厚さ35μmのセパレータ付き接着剤フィルム(11;DIC株式会社、両面接着テープ#8616)を貼り合わせた。この材料を金型により、50mm×250mmの大きさに切断した。
【0060】
このとき金型の切断位置を調整して、49.73〜50.23mm×250mmの大きさにすることで、直径16mmの筐体に貼り付けた際の間隙の大きさを意図的に変えるようにした。
【0061】
筺体(10)として、直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを用いた。先に切断して得た材料のセパレータを剥離して、筐体(10)の表面全面に貼り付けて、複数の立体的回路基板材料を得た。
【0062】
そして、かかる立体的回路基板材料におけるフィルム状回路基板(12)の端部により生じる間隙(2)の大きさは、深さが平均で0.08mm、幅については、0.01mm〜0.50mm程度であった。
【0063】
実施例1では、かかる間隙(2)の幅が約0.10mmのものを用いた(立体的回路基板材料A)。
【0064】
充填物(1)として、エポキシ系の熱硬化性樹脂、アクリレート系の紫外線硬化性樹脂、ならびに熱重合開始剤、紫外線重合開始剤、希釈剤、および硫酸バリウムから構成される樹脂(太陽インキ製造株式会社、現像型リジッド基板用ソルダーレジスト、PSR−4000)を用いた。
【0065】
次に、かかる樹脂100質量部に対して、それぞれ40質量部、30質量部、10質量部のシンナーを混合し、撹拌して均一化させ、それぞれ粘度が常温時で0.01Pa・s、0.1Pa・s、1Pa・sである3種類の充填物を得た。
【0066】
粘度0.01Pa・sの充填物を、立体的回路基板材料Aの間隙(2)に、スプレーガンを用いて、吹き付けた。吹き付けた充填物の表面が乾燥した後に再度吹き付ける操作を行い、最終的に5回の吹き付けを行って、充填物(1)により間隙(2)を埋めた。
【0067】
その後、常温で15分保持して脱気を行い、続いて、第1の硬化工程として、温度100℃で30分間保持して、間隙(2)に充填された充填物(1)を半硬化の状態とした。
【0068】
さらに、フィルム状回路基板(12)の表面にある保護フィルム(13)を剥離した。間隙(2)を確認したところ、保護フィルム上にある充填物(1)の一部が除去されたものの、間隙(2)内には半硬化した状態の充填物(1)が残存していた。
【0069】
次に、フィルム状回路基板(12)の表面から突出している充填物(1)を、スキージで擦ることにより、充填物(1)の表面を平滑化した。このとき、配線部分に触れることはなく、フィルム状回路基板(12)の端部に沿ってスキージを移動させることで、充填物(1)の表面とフィルム状回路基板(12)の表面を同じ高さに揃えることができた。
【0070】
最後に、第2の硬化工程として、波長300〜450nmの光源で積算光量300〜350J/cm2の紫外線を照射して、充填物(1)を完全に硬化させ、立体的回路基板材料Aより立体的回路基板を得た。
【0071】
硬化後、焦点深度計により、間隙(2)内の充填物(1)表面とフィルム状回路基板(12)の表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物(1)の方がフィルム状回路基板(12)の表面より平均で0.009mm低くなっていた。
【0072】
なお、粘度0.01Pa・sの充填物および粘度1Pa・sの充填物を用いて、立体的回路基板材料Aの間隙(2)内への充填を試みた。
【0073】
粘度0.01Pa・sの充填物の場合、充填物の粘度が低すぎるため、塗布回数を多くしなければ、間隙(2)内に十分に充填できず、10回以上のスプレー塗布工程が必要であった。従って、実施例1における間隙(2)の幅においては、充填物(1)の間隙(2)内への充填は可能であるが、粘度が低すぎると立体的回路基板の生産性に著しく影響が生ずることがわかった。
【0074】
一方、粘度1Pa・sの充填物の場合、スプレー塗布は2回の吹付けで完了したが、第1の硬化工程を経た後、間隙(2)内の充填物(1)を観察すると、間隙(2)内でブリッジを形成したり、気泡を含んだりしている部分が確認された。かかる気泡は、スキージにより充填物(1)の表面を擦ってみた場合でも除去されなかった。従って、実施例1における間隙(2)の幅においては、粘度が高すぎると製品に問題が生じうることが理解された。
【実施例2】
【0075】
実施例2では、間隙(2)の幅が約0.50mmのもの(立体的回路基板材料B)を用いたこと以外は、実施例1と同様に立体的回路基板の製造を試みた。
【0076】
粘度0.01Pa・sの充填物および粘度0.1Pa・sの充填物を充填しようとしたところ、充填物が間隙(2)から流出してしまい、第1の硬化工程の後において、間隙(2)内の充填物(1)の高さを十分に保持できなかった。
【0077】
ただし、粘度1Pa・sの充填物を用いた場合には、2回吹付けのスプレー塗布により、充填物(1)の間隙(2)内への充填が適切に行われ、立体的回路基板材料Bより立体的回路基板を得ることができた。
【0078】
硬化後、実施例1と同様に、間隙内の充填物表面とフィルム状回路基板の表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物の方がフィルム状回路基板の表面より平均で0.007mm低くなっていた。
【実施例3】
【0079】
実施例3では、間隙(2)の幅が約0.01mmのもの(立体的回路基板材料C)を用いたこと以外は、実施例1と同様に立体的回路基板の製造を試みた。
【0080】
粘度0.1Pa・sの充填物および粘度1Pa・sの充填物を充填しようとしたところ、充填物が間隙(2)内に十分に充填されなかった。
【0081】
ただし、粘度0.01Pa・sの充填物を用いた場合には、5回吹付けのスプレー塗布により、充填物(1)の間隙(2)内への充填が適切に行われ、立体的回路基板材料Cより立体的回路基板を得ることができた。
【0082】
硬化後、実施例1と同様に、間隙内の充填物表面とフィルム状回路基板の表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物の方がフィルム状回路基板の表面より平均で0.009mm低くなっていた。
【実施例4】
【0083】
フィルム状回路基板として、厚さ38μmのポリイミドフィルムの片面に厚さ8μmの銅層による配線が形成されているものを使用した。フィルム状回路基板(12)の配線側には、内側に粘着層を有する厚さ50μmのPETフィルム(日栄化工株式会社、PET25-RB114)を保護フィルムとして貼り合わせ、この材料を金型により、約50mm×250mmの大きさに切断した。
【0084】
直径16mm、長さ300mmのアルミパイプを筺体(10)として用い、セパレータ付き接着剤フィルム(ニッカン工業株式会社製、SAFW)を加熱し、100℃の温度で筐体(10)の表面全面に貼り付けした。その後、セパレータを剥がして、先に所定形状に切断して得た材料を貼り付けて、立体的回路基板材料Dを得た。
【0085】
かかる立体的回路基板材料Dにおけるフィルム状回路基板(12)の端部により生じる間隙(2)の大きさは、深さが平均で0.04mm、幅については、約0.01mmであった。
【0086】
その後は、実施例1と同様に、粘度0.1Pa・sの充填物を用いて、3回吹付けのスプレー塗布により、充填物(1)の間隙(2)内への充填を行い、立体的回路基板材料Dより立体的回路基板を得た。
【0087】
硬化後、実施例1と同様に、間隙内の充填物表面とフィルム状回路基板の表面との高さの差を計測したところ、硬化した充填物の方がフィルム状回路基板の表面より平均で0.01mm低くなっていた。
【0088】
これらの結果より、間隙に対する充填物の粘度の適切な設定は必要であるものの、本発明では、間隙内への充填物の充填が歩留まり良く行うことが可能であり、間隙による段差のない立体的回路基板を生産効率よく製造できる。
【実施例5】
【0089】
粘度0.01Pa・sの充填物を、立体的回路基板材料Aの間隙(2)に、スプレーガンを用いて5回の吹き付けを行って、充填物(1)により間隙(2)を埋めた。
【0090】
その後、常温で15分保持して脱気を行い、続いて、第1の硬化工程として、温度100℃で30分間保持して、間隙(2)に充填された充填物(1)を半硬化の状態とし、更に続けて第2の硬化工程として、波長300〜450nmの光源で積算光量300〜350J/cm2の紫外線を照射して、充填物(1)を完全に硬化させた。
【0091】
そして、フィルム状回路基板(12)の表面にある保護フィルム(13)を剥離したところ、保護フィルム(13)と共に充填物(1)が除去され、間隙(2)内には充填物(1)が一部分しか残存していなかった。
【0092】
つまり、完全に硬化させた状態では、フィルム状回路基板(12)とその表面にある保護フィルム(13)の間で充填物(1)は分離されず、保護フィルム(13)と共に、硬化した充填物(1)のほとんどが除去される結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、現像用ローラなど筺体の表面に回路基板が形成された立体的回路基板の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0094】
1 充填物
2 間隙
10 筺体
11 接着剤層
12 回路基板
13 保護フィルム
20 熱
21 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状または円柱形状の筺体の表面全周に、保護フィルムを有するフィルム状回路基板が貼り付けられた基材における、該回路基板の端部間に生ずる間隙に、少なくとも2種類の硬化手段を施すことにより完全に硬化しうる充填物を前記保護フィルムの表面上に盛り上がるまで充填し、第1の硬化工程により該充填物を半硬化させ、前記保護フィルムを剥離すると共に、前記充填物の一部を除去し、その後、前記間隙に埋設されている充填物を第2の硬化工程により完全に硬化させることを特徴とする、立体的回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記充填物として、硬化条件の異なる2種類の樹脂の混合物、または、一分子内に硬化条件の異なる2種類の骨格を有する樹脂を含む充填物を用いる、請求項1に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記充填物として、熱硬化性樹脂と紫外線硬化性樹脂との混合物、または、一分子内に熱で重合可能な骨格と紫外線で重合可能な骨格とを含む樹脂、熱硬化性樹脂用の重合開始剤、紫外線硬化性樹脂用の重合開始剤を含む充填物を用いる、請求項1に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記充填物として、さらに希釈剤を含む充填物を用いる、請求項3に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1の硬化工程において熱により前記充填物を半硬化させ、前記第2の硬化工程において紫外線により前記半硬化した充填物を完全に硬化させる、請求項3または4に記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記保護フィルムを剥離後、前記充填物の完全硬化前において、前記間隙に埋設されている半硬化状態の充填物の表面を平滑化して、該充填物の表面を前記フィルム状回路基板の端部の高さに揃える、請求項1〜5のいずれかに記載の立体的回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記充填物を複数回のスプレー塗布により充填する、請求項1〜6のいずれかに記載の立体的回路基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−9448(P2011−9448A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151265(P2009−151265)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】