説明

立方晶窒化ホウ素の形成方法およびそのための装置

【課題】有害で爆発性のある原料ガスを用いることなく、cBNをプラズマCVD法で効率良く生成することのできる立方晶窒化ホウ素の形成方法、およびこうした方法を実施するための装置を提供する。
【解決手段】高周波プラズマトーチまたは直流プラズマトーチと、その下部に備えられたチャンバーとから構成され、大気圧下において熱プラズマを発生する装置であって、前記プラズマトーチの中央部には、キャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合物を供給するノズルを有すると共に、不活性ガスと窒素含有からなるプラズマガスを前記プラズマトーチの上部に供給する機構を有し、且つ前記ノズルの下部には反応性生物捕集用基板が配置されており、前記プラズマトーチ内とチャンバー内に連通して形成される熱プラズマ中で、ホウ素原料粉体と窒素含有ガスを反応させることによって、立方晶窒化ホウ素含有物を前記基板上に形成するように構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱プラズマを利用して立方晶窒化ホウ素を形成するための有用な方法、およびそのために用いる装置に関するものであり、特に立方晶窒化ホウ素を捕集用基板上に効率良く形成するための方法およびそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化ホウ素(以下、「cBN」と略記することがある)は、現在知られている物質のうちでも、ダイヤモンドについで高硬度であり、しかも高温安定性にも優れたものとして様々な分野での応用が期待されている。特にcBNはダイヤモンドと異なり、鉄族元素との反応性が低いことから、切削工具の刃先等の素材として適したものとされている。
【0003】
cBNを切削後部の刃先の素材として適用する場合は、高温・高圧下で作製したcBN結晶粒を焼結させたcBN焼結体の形態で用いられるのが一般的である。しかしながら、cBN焼結体は加工が困難であり、刃先が複雑な形状をした工具には適用しにくいという欠点がある。こうしたことから、cBNを工具材料の素材として適用するという観点から、気相合成法によってcBNを薄膜の形態でコーティングする技術が様々検討されている。
【0004】
上記気相合成法としては、物理的蒸着法(PVD法)や化学的気相成長法(CVD法)等が知られている。このうちPVD法は、アークイオンプレーティング法やスパッタリング法等があるが、こうしたPVD法によって生成されるcBN膜では膜の内部応力が高くなっており、基板との密着性がという欠点がある。また、PVD法では、成膜速度が遅く、成膜形効率が低いという問題もある。
【0005】
こうしたことから、気相合成法によってcBN薄膜を生成する方法としては、CVD法を適用することが主流になっている。こうしたCVD法によってcBN薄膜を生成する方法としては、例えば特許文献1〜3には、熱プラズマ励起を利用したプラズマCVD法によって、効率良くcBN膜を生成させる技術が提案されている。しかしながら、これらの方法では、ホウ素源として有害で爆発性の有るホウ素含有ガス(例えば、三フッ化ホウ素)を用いる必要があり、安全性の点で問題がある。
【特許文献1】特開2001−302218号公報 「特許請求の範囲」の請求項6など
【特許文献2】特開2005−8988号公報 図1、図2など
【特許文献3】特開平8−208207号公報 「特許請求の範囲」の請求項1など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、有害で爆発性のある原料ガスを用いることなく、cBN若しくはcBN含有物をプラズマCVD法で効率良く形成することのできるcBNの形成方法、およびこうした方法を実施するための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできた本発明の形成装置とは、高周波プラズマトーチまたは直流プラズマトーチと、その下部に備えられたチャンバーとから構成され、大気圧下において熱プラズマを発生する装置であって、前記プラズマトーチの中央部には、キャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合物を供給するノズルを有すると共に、不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガスを前記プラズマトーチの上部に供給する機構を有し、且つ前記ノズルの下部には合成物質捕集用基板が配置されており、前記プラズマトーチ内とチャンバー内に連通して形成される熱プラズマ中で、ホウ素含有原料粉体と窒素含有ガスを反応させることによって、立方晶窒化ホウ素含有物を前記基板上に形成するように構成されたものである点に要旨を有するものである。
【0008】
上記本発明の装置において、前記基板には、高周波、直流またはパルスのいずれかのバイアス電圧が、前記ノズルまたはアース電位に対して印加可能なように構成されたものであることが好ましい。また高周波プラズマトーチを有する立方晶窒化ホウ素の形成装置にあっては、高周波プラズマトーチは、高周波プラズマを発生するための高周波プラズマ発生用コイルが配置されると共に、前記ノズルの最下端部が、前記高周波プラズマ発生用コイルの上下方向中心よりも下方に配置されるように構成されたものであることが好ましい。
【0009】
一方、上記目的を達成し得た本発明方法とは、上記のような装置を用いて立方晶窒化ホウ素を形成するに当り、B,hBN(六方結窒化ホウ素),B4CおよびLaB6よりなる群から選ばれる1種以上で、平均粒径が1〜50μmのホウ素含有原料粉体を用いると共に、該原料粉体をAr,He,NeおよびXeよりなる群から選ばれる1種以上からなるキャリアガスと共にプラズマトーチの中央部に供給し、電子温度Teとガス温度Tgの比(Tg/Te)を0.9〜1.0の範囲内として、プラズマ温度が5000〜12000Kの熱プラズマ中で前記ホウ素含有原料粉体を蒸発させ、N2またはNH3の少なくともいずれかの窒素含有ガスと前記ホウ素含有原料粉体とをプラズマ中で反応させることによって、立方晶窒化ホウ素含有物を形成する点に要旨を有するものである。
【0010】
本発明方法においては、混合物中のキャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合割合が、体積比でキャリアガス:1000に対して、原料粉体0.005〜0.05であり、キャリアガスと窒素含有反応性ガスの流量比(キャリアガスの流量:窒素含有反応性ガスの流量)が30:0.1〜30:5であり、且つキャリアガスと混合ガスの流量比(キャリアガスの流量:反応ガスの流量)が0.1:30〜5:30であることが好ましい。
【0011】
またこの方法においては、前記基板には、−20〜−500Vのバイアス電圧を、ノズルまたはアース電位に対して印加すると共に、基板温度を1000℃以下として基板上に立方晶窒化ホウ素含有物を捕集することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、その基本的な構成として、キャリアガスとホウ素含有原料粉体(B含有原料粉体)の混合物を供給するノズルをプラズマトーチの中央部に有すると共に、不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガスをプラズマトーチの上部に供給する機構を有するようにしたので、原料粉体を高温の熱プラズマ中で蒸発させることができると共に、この蒸発させた原料粉体と窒素含有ガスとの反応が効率良く進行し、これによって基板上にcBNが効率良く形成できることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、ホウ素源(B源)として有害で爆発性のるB含有ガスを用いることなく、熱プラズマ中で効率良くcBNを形成させるための構成について様々な角度から検討した。その結果、B含有ガスを用いる代わりにB含有原料粉体を用い、これをキャリアガスと共にプラズマトーチの中央部に供給すると共に、このキャリアガスとは別に、不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガスをプラズマトーチの上部に供給する機構を有するようにすれば、熱プラズマ中で効率良くcBNが形成できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明の装置構成を、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の装置の一構成例を示す概略説明図であり、図中1はプラズマトーチ、
2はチャンバー、3はキャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合物を供給するノズル、4はキャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合物を導入する導入口、5a,5bは不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガスを供給する導入口(図では一対)、6は高周波電源(RF電源)、7は高周波コイル(RFコイル)、8は合成物質捕集用基板、9は発火装置、10はコントロールパネル、11は基板を支持して昇降するための支持台、12はプラズマトーチ内の空間、13はバイアス直流電源(DC電源)、14はプラズマを夫々示す。
【0015】
プラズマトーチ上部に設けられた導入口4から、キャリアガスとB含有原料粉体の混合物が導入され、この混合物はノズル3の先端からプラズマトーチ1の空間12内に噴出される。一方、導入口5a,5bからは、不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガスが導入され、このプラズマガスはプラズマトーチに供給されるように構成されている。尚、以下では、説明の便宜上、上記プラズマガスを、トーチ壁近傍を流れるガスという意味で、「シースガス」と呼ぶことがある。
【0016】
コントロールパネル10によって、前記シースガスや混合物の流量が制御されつつ、RF電源6からRFコイル7に電力を供給し、発火装置9によって発火することによって、プラズマトーチ1内(即ち、空間12内)およびチャンバー2を連通してプラズマ14(即ち、RFプラズマ)が発生するように構成されている。また、プラズマ14を発生させた後の雰囲気ガスは、適宜チャンバー2から排出(排ガス)されてその後の処理に付される。
【0017】
また、バイアス直流電源(DC電源)13は、合成物質捕集用基板8に負のバイアス電圧を、アース電位に対して印加するために必要によって設けられるものであり、こうしたバイアス電圧を印加することによって、プラズマ中のイオンが基板8上に捕集されるときのエネルギーを変化させることができ、合成物質中のcBN比率を高めることができる。
【0018】
図1に示した装置では、RFコイル7を設けることによって、プラズマトーチ内にRFプラズマを発生させる構成のものを示したが、本発明の装置はこうした構成に限らず、RF電源の代わりに直流電源(DC電源)を配置することによって、熱プラズマ(DCプラズマ)を発生させる直流プラズマトーチを備えた構成であっても良い。但し、こうしたDCプラズマ発生装置では、図1に示したようなRFコイル7は不要である。
【0019】
図1においては、捕集用基板8に負のバイアス電圧を印加するためのバイアス直流電源(DC電源)13を示したが、負のバイアス電圧を印加するための電源は直流に限らず、高周波電源またはパルス電源であっても同様の効果が期待できる。また、負のバイアス電圧を基板8に印加するに当っては、アース電位に対して印加するものに限らず、例えば図2に示すように、ノズル3の電位に対して負のバイアス電圧を印加するような構成(DC電源13a)も採用できる。尚、図1には示していないが、プラズマトーチには、導入口4,5a,5bやプラズマトーチ1の構成部材を冷却するための機構も備えている。
【0020】
図1に示した構成の装置を用いて、cBNを形成するに当っては、まず導入口4からキャリアガスとB含有原料粉体の混合物を、流量を制御しつつ供給すると共に、前記導入口5a,5bからシースガス(不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガス)を、流量を制御しつつ供給する。プラズマトーチ1内の空間12およびチャンバー2内が所定の圧力に達したら、RFコイル7にRF電源6から電力を供給し、プラズマトーチ1内のノズル3の先端を中心として、キャリアガスとシースガスを含むガス流でプラズマ14が発生する。そして、プラズマ14が安定した段階で、捕集用基板8をプラズマ14内の捕集位置まで上昇させて、基板8上に合成物質(cBN含有物)を形成することになる。このとき必要によって、基板8には、直流電源13によって負のバイアス電圧が印加される。
【0021】
上記のようにして、キャリアガスとB含有原料粉体の混合物をプラズマトーチの中央部に供給することによって、B含有原料粉体を高温の熱プラズマ中で蒸発させることができると共に、キャリアガスとは別に窒素含有ガスをプラズマトーチの上部に供給することによって、蒸発させたB含有原料粉体と窒素含有ガスとの反応が効率良く進行し、これによって基板上にcBNが効率良く形成できることになる。
【0022】
キャリアガスとシースガスは、プラズマトーチ内およびチャンバー内では混合されることになるが、これらのガスを予め混合した状態でプラズマトーチ内に導入すると、プラズマ温度が低下してcBNが生成しにくくなる。こうしたことから、本発明においては、キャリアガスとシースガスは別々のルートから導入するような構成を採用したのである。尚、図1に示した装置では、シースガスはプラズマトーチの上部からプラズマトーチ内に供給する構成を採用したが、ノズル3と基板8との間にシースガスを導入するためのノズルを別途追加的に配置して供給するようにしても良い。
【0023】
図1に示したプラズマ発生装置内でプラズマを発生させると、プラズマトーチ1内では、ローレンツ力によって渦が発生しており、ノズル3の先端(キャリアガスと原料粉体の混合物の出口)をRFコイルの中心よりも上に配置すると、対流によってB含有原料粉体が上方に飛散してしまい、基板8への合成物質の捕集が困難になり易い。こうしたことから、本発明のプラズマ発生装置では、ノズル3の先端(即ち、最下端部)をRFコイル7の上下方向中心から下方に配置されるように構成することが好ましい。
【0024】
本発明では、有害で爆発性のあるB含有ガスを用いずに、B含有原料粉体をB源として用いるものであるが、こうしたB含有原料粉体としては、B,hBN,B4C,LaB6等の粉末が好ましいものとして挙げられ、これらのうちから選ばれた1種以上を用いることができる。Bを含有する粉末としては、上記の他に、TiB2,ZrB2,TaB,FeB等の化合物も考えられるが、これらの化合物はBに対してTi,Zr,Ta,Fe等の元素の比率が多くなるので、これらの化合物粉末を原料粉体として用いてcBNの形成を行なっても、上記元素が不純物として混入してきて合成物質中のcBNの比率が低いものとなるので好ましくない。本発明で用いるB含有原料粉体として特に好ましいのは、hBNおよびB4Cであり、これらの化合物をB含有原料粉体として用いることによって、不純物が少なく、cBN含有率の高いBNを形成することができる。
【0025】
本発明で用いるB含有原料粉体は、平均粒径で1〜50μm程度のものを用いることが好ましい。B含有原料粉体の平均粒径が1μm未満では、粉体の凝集が発生したり、水分との反応によって特性が劣化し易く、良好なcBNを形成する上で支障となり易い。またB含有原料粉体の平均粒径が50μmを超えると、粒子の蒸発が十分に進行せず、合成物質中にB含有原料粉体が残留しやすくなる。この平均粒径のより好ましい範囲は、5〜40μm程度である。
【0026】
上記B含有原料粉体は、キャリアガスと混合されてプラズマトーチ内に供給されるが、本発明で用いることのできるキャリアガスとしては、Ar,He,NeおよびXeよりなる群から選ばれる1種以上からなる不活性ガスが挙げられる。これらのうち、プラズマの安定性からすれば、Arを用いることが最も好ましい。
【0027】
一方、シースガスで用いる不活性ガスとしては、上記キャリアガスで用いるものと同じ不活性ガスが挙げられるが、特に好ましいのはプラズマの安定性からしてArである。本発明では、不活性ガスと窒素含有ガスを混合したシースガスを用いることになるが、本発明で用いる窒素含有ガスとしては、N2やNH3等が好ましいものとして挙げられる。
【0028】
上記のような装置によってB含有原料粉体を蒸発させるためには、高温状態のプラズマを形成する必要があるが、このときプラズマ温度は5000〜12000K程度であることが必要である。この「プラズマ温度」とは、プラズマ中に存在する電子、イオン、原子、分子の温度を意味し、熱プラズマではプラズマ温度はガス温度とほぼ等しくなる。また、プラズマ温度は、一般的に分光測定法を用いることによって測定できる。即ち、プラズマ中のアルゴンガスからの発光を測定することによって、プラズマのガス温度を測定できる。
【0029】
但し、原料粉体を十分に蒸発させるためには、プラズマのガス温度Tgと電子温度Teの比(Tg/Te)が1.0に近い状態(0.9〜1.0)の熱プラズマを形成することが有効である。電子とイオンに分離したプラズマの温度は、電子およびイオンの各々の熱振動数で定義されることになるが、電子とイオンは質量が大きく異なるので、圧力領域によっては定義される温度が異なることになる。ガス温度Tgと電子温度Teの差が大きくなれば(即ち、前記Tg/Teの値が0.9〜1.0の範囲を外れると)、ガス温度が低いことに起因してB含有原料粉体が十分に蒸発しないことになる。上記電子温度Tgは、ラングミュアプローブ等のような、プラズマの種々電気的特性を測定する装置で、プラズマ中の電子の平均エネルギーを測定し、そのエネルギーを温度に換算して電子温度Teを求めることができる。また、ガス温度は、上記のように分光計測によって求めることができる。尚、熱プラズマにおいて、前記Tg/Teの値を0.9〜1.0の範囲に制御するには、プラズマ発生領域の圧力をできるだけ大気圧に近い範囲(例えば、50〜150kPa程度)に設定するのが良い。
【0030】
本発明においては、混合物中のキャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合割合が、体積比でキャリアガス:1000に対して、原料粉体0.005〜0.05であることが好ましい。例えば、キャリアガスの供給量が1SLM(Standard Litter per Minute)であるときには、B含有原料粉体が0.005〜0.05cm3程度の範囲となる。原料粉体の割合が0.005未満となるとcBNの合成速度が低くなり、0.05を超えるとキャリアガス中のB含有原料粉体の割合が多くなって蒸発が十分になされず、B含有原料粉体が残留することになる。B含有原料粉体のより好ましい割合は、キャリアガス:1000に対して、原料粉体0.01〜0.03程度である。尚、上記SLMとは、標準状態(1気圧、25℃の状態)で1分当りに供給する量に換算したときの、流量(リットル単位)を示したものである。
【0031】
また、キャリアガスと窒素含有ガスの流量比(キャリアガスの流量:窒素含有反応性ガスの流量)は30:0.1〜30:5程度であることが好ましく、キャリアガスとシースガスの流量比(キャリアガスの流量:反応ガスの流量)は0.1:30〜5:30であることが好ましい。これらの範囲を外れると、合成物質中に占めるcBNの割合が低下することになる。
【0032】
本発明においては、必要によって前記基板には、ノズルやアースの電位に対して負のバイアス電圧を印加することが好ましいが、こうしたバイアス電圧を印加するときには、その電圧は−20〜−500Vの範囲であることが好ましい。このバイアス電圧が−20Vよりも0Vに近くなると(即ち、電位差が小さくなり過ぎると)、バイアス電圧を印加する効果が発揮されず、−500Vよりも低い値になると(即ち、電位差が大きくなり過ぎると)、イオンによって合成物質がエッチングされて合成物質の捕集が困難になる。このバイアス電圧のより好ましい範囲は、−30〜−200Vの範囲である。
【0033】
本発明においては、cBNを含む合成物質が基板上に形成されることになり、この基板はプラズマ雰囲気によって必然的に加熱されることになるが、合成物質を捕集するときの基板の温度があまり高くなりすぎると、cBNが分解してしまいcBN率が低くなるので、合成時の基板の温度は1000℃以下に制御することが好ましい。尚、基板の温度を1000℃以下に制御するためには、基板を冷却するための機構を設けることになる。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
図2に示した熱プラズマ発生装置を使用し(但し、ノズル3の外径:9.0mm、内径:2.0mm、RFコイル7の長さ:44mm、外径:10mm)、B含有原料粉体として平均粒径:10μmのhBN粉末を用い、Arをキャリアガスとして用いて、このキャリアガス1L(リットル)に対して前記hBN粉末が0.04g(0.00176cm3)の割合となるように混合し、ノズル3からプラズマトーチ1内に供給した。このとき、ArとN2ガスとを混合したシースガス(Ar:N2ガスの流量比=30:1)を、シースガス31L(リットル)/分に対して、キャリアガス0.5L/分の割合となるようにプラズマトーチ1内(前記空間12内)に供給した。
【0036】
プラズマトーチ内1(前記空間12内)およびチャンバー2内の圧力が100kPaに達した後、RFコイル7に24Wの電力を供給し、プラズマトーチ1内にプラズマ14を発生させた(プラズマ温度約9000K、Tg/Te=1.0)。このとき捕集用基板8としては、トーチ出口から50mm下の位置に水冷したCuコイルを配置した。このときCuコイルにはノズル3に対して−40Vのバイアス電圧を印加した。
【0037】
ノズル3の先端位置を、プラズマ発生用のRFコイル7の中心より20〜−20mmの間(コイル中心が0mm、上方向が+)で変化させて合成を行ない、水冷Cuコイル上に合成物質を捕集した。捕集した合成物質について、X線回折を行ない(θ-2θ、線源モリブデン、回折角:5〜40°)、回折角12°近傍のhBN(002)面と回折角20°近傍のcBN(111)面の回折線のピーク強度を比較することによって、合成物質中のcBN/hBN比(質量比)を算出した。
【0038】
この結果を、操業条件(粉体供給ノズルの先端位置)および単位時間当たりの捕集量と共に、下記表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
この結果から明らかなように、ノズル3の先端位置をRFコイル7の中心から下方とすることによって、cBN比率の合成物質が効率よく形成されていることが分かる。
【0041】
[実施例2]
B含有原料粉体として下記表2に示すものを用いる以外は、実施例1と同様の装置構成および条件(但し、ノズル3の先端位置は、RFコイル中心より10mm下)で合成を行ない、捕集された合成物質について実施例1と同様にしてcBN/hBN比を算出した。
【0042】
この結果を、下記表2に併記すが、平均粒径を制御した適切なB含有原料粉体を用いることによって、cBNを含む合成物質が効率よく形成されていることが分かる。
【0043】
【表2】

【0044】
[実施例3]
プラズマ装置内の温度(ガス温度Tgおよび電子温度Te)を、チャンバー2内の圧力を変えることによって変化させる以外は、実施例2と同様に装置構成および条件(但し、B含有原料粉体は、平均粒径10μmのhBN)で合成を行なった。このとき、プラズマのガス温度Tgは分光計測によって求め、電子温度Teはラングミュアプローブによって測定した。捕集された合成物質について実施例1と同様にしてcBN/hBN比を算出した。
【0045】
その結果を、ガス温度Tgと電子温度Teの比(Tg/Te)と共に、下記表3に併記するが、チャンバー2内の圧力と前記比(Tg/Te)を適切に制御することによって、cBNを含む合成物質が効率よく形成されていることが分かる。
【0046】
【表3】

【0047】
[実施例4]
B含有原料粉体の供給量、シースガス中のN2流量、およびキャリアガスとシースガスの流量比較を制御する以外は、実施例1と同様の装置構成および条件(但し、ノズル3の先端位置は、RFコイル中心より10mm下)で合成を行ない、捕集された合成物質について実施例1と同様にしてcBN/hBN比を算出した。
【0048】
B含有原料粉体の供給量の影響を下記表4に、シースガス(プラズマガス)中のN2流量の影響を下記表5に、キャリアガスとシースガスの流量比の影響を下記表6に夫々示すが、これらの要件を適切に制御することによって、cBNを含む合成物質が効率よく形成されていることが分かる。
【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
[実施例5]
基板の捕集位置(基板/ノズル間距離)、基板温度およびバイアス電圧の印加量を制御する以外は、実施例1と同様の装置構成および条件(但し、粉体供給ノズルの位置は、RFコイル7中心より10mm下)で合成を行ない、捕集された合成物質について実施例1と同様にしてcBN/hBN比を算出した。
【0053】
基板の捕集位置の影響を下記表7に、基板温度の影響を下記表8に、バイアス電圧の印加量の影響を下記表9に夫々示すが、これらの要件を適切に制御することによって、cBNを含む合成物質が効率よく形成されていることが分かる。
【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
[実施例6]
プラズマトーチとして、DCプラズマトーチを用いる以外は、実施例1と同様の装置構成および条件(但し、RFコイルは使用せず)で合成を行なった。
【0058】
その結果、RFプラズマトーチを用いた場合と同様の合成条件にて、cBNを形成することが可能であり、本発明においてプラズマ発生方式としては、RF、DCのいずれを使用しても良いことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のプラズマ発生装置の一構成例を示す概略説明図である。
【図2】本発明のプラズマ発生装置の他の構成例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 プラズマトーチ
2 チャンバー
3 ノズル
4,5a,5b 導入口
6 高周波電源(RF電源)
7 高周波コイル(RFコイル)
8 合成物質捕集用基板
9 発火装置
10 コントロールパネル
11 支持台
12 空間
13 バイアス直流電源(DC電源)
14 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波プラズマトーチまたは直流プラズマトーチと、その下部に備えられたチャンバーとから構成され、大気圧下において熱プラズマを発生する装置であって、前記プラズマトーチの中央部には、キャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合物を供給するノズルを有すると共に、不活性ガスと窒素含有ガスからなるプラズマガスを前記プラズマトーチの上部に供給する機構を有し、且つ前記ノズルの下部には合成物質捕集用基板が配置されており、前記プラズマトーチ内とチャンバー内に連通して形成される熱プラズマ中で、ホウ素含有原料粉体と窒素含有ガスを反応させることによって、立方晶窒化ホウ素含有物を前記基板上に形成するように構成されたものであることを特徴とする立方晶窒化ホウ素の形成装置。
【請求項2】
前記基板には、高周波、直流またはパルスのいずれかのバイアス電圧が、前記ノズルまたはアースの電位に対して印加可能なように構成されたものである請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素の形成装置。
【請求項3】
高周波プラズマトーチを有する立方晶窒化ホウ素の形成装置にあっては、該高周波プラズマトーチは、高周波プラズマを発生するための高周波プラズマ発生用コイルが配置されると共に、前記ノズルの最下端部が、前記高周波プラズマ発生用コイルの上下方向中心から下方に配置されるように構成されたものである請求項1または2に記載の立方晶窒化ホウ素の形成装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の装置を用いて立方晶窒化ホウ素含有物を形成するに当り、B,hBN,B4CおよびLaB6よりなる群から選ばれる1種以上で、平均粒径が1〜50μmのホウ素含有原料粉体を用いると共に、該原料粉体をAr,He,NeおよびXeよりなる群から選ばれる1種以上からなるキャリアガスと共にプラズマトーチの中央部に供給し、電子温度Teとガス温度Tgの比(Tg/Te)を0.9〜1.0の範囲内として、プラズマ温度が5000〜12000Kの熱プラズマ中で前記ホウ素含有原料粉体を蒸発させ、N2またはNH3の少なくともいずれかの窒素含有ガスと前記原料粉体とをプラズマ中で反応させることによって、立方晶窒化ホウ素含有物を形成することを特徴とする立方晶窒化ホウ素の形成方法。
【請求項5】
前記混合物中のキャリアガスとホウ素含有原料粉体の混合割合が、体積比でキャリアガス:1000に対して、原料粉体0.005〜0.05であり、キャリアガスと窒素含有ガスの流量比(キャリアガスの流量:窒素含有ガスの流量)が30:0.1〜30:5であり、且つキャリアガスとプラズマガスの流量比(キャリアガスの流量:プラズマガスの流量)が0.1:30〜5:30である請求項4に記載の立方晶窒化ホウ素の形成方法。
【請求項6】
前記基板に、−20〜−500Vのバイアス電圧を、ノズルまたはアースの電位に対して印加すると共に、基板温度を1000℃以下として基板上に立方晶窒化ホウ素含有物を捕集する請求項4または5に記載の立方晶窒化ホウ素の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−331981(P2007−331981A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166212(P2006−166212)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年2月28日発行の「化学工学会 第71年会 研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)