説明

端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸の製造法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸の製造法に関する。更に詳しくは、多孔質中空糸端部またはそれをモジュ−ル化した束着端部を含浸封止することにより、その部分からの液体透過を防止せしめた多孔質セラミックス中空糸の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から、各種のロ過分野で耐熱・耐食性にすぐれた多孔質セラミックス中空糸がモジュール化されて用いられている。このような多孔質セラミックス中空糸においては、ロ過時にその束着端部の肉厚部分をロ液と被処理液とが透過し、両者が接触、混合した状態となることがある。そのような状態を避けるため、多孔質中空糸の束着端部に封止剤を含浸封止させ、その部分だけを無孔化させることが行われている。
【0003】ところで、このような用途に用いられる多孔質セラミックス中空糸は、それのロ過特性を向上させるために、その内壁面などにロ過特性にすぐれた薄膜層を形成させて用いられることが多い。このような薄膜層の形成は、薄膜形成成分の粉体のスラリを多孔質中空糸の一面上にコーティングし、これを焼成する手段がとられている。しかしながら、一般にスラリ中の粒子が大きいため、このようにして形成される薄膜層の細孔径は大きく、従って微細な細孔径を有する薄膜層の形成は概して困難である。
【0004】そこで本出願人は先に、多孔質セラミックス中空糸の管内へ酸化物セラミックス形成性ゾルを供給して強制的にロ過させ、それを乾燥させた後焼成し、この中空糸内壁面へ微細な細孔径を有する酸化物セラミックス薄膜を積層させる方法を提案している(特願平3-50438号および同3-208461号)。
【0005】このようにして得られる内壁面に薄膜を積層させた多孔質セラミックス中空糸の場合にも、その端部ならびに束着端部を封止剤で無孔化する必要が認められる。封止剤としては、耐食性にすぐれていること、有害組成を含まないことなどから、B2O3・Na2O、SiO2・Al2O3などが用いられている。これらの封止剤を用いる場合には、コーティング後の焼成温度が高い程耐食性にすぐれたものとなるため、一般に約1000〜1500℃という焼成温度が用いられている。
【0006】一方、前記方法による中空糸内壁面への酸化物セラミックス薄膜形成時の焼成温度は、微細孔構造を得るためには約300〜800℃、好ましくは約400〜500℃でなければならない。このような薄膜積層多孔質中空糸ならびに束着端部に、上記封止剤の焼成温度を適用すると、薄膜層部分も約1000〜1500℃で焼成されることになり、微細孔構造が損なわれる結果となる。
【0007】従って、このような事情の下では、薄膜および封止剤の少なくとも一方の特性を犠牲にした焼成温度を採らざるを得ない。このような問題を回避するために、まず封止剤を適用し、焼成した後、薄膜層を焼成形成させることも考えられるが、この方法では用いられるディップコーティング法に起因して、特に薄膜層の封止部位との境界が不完全になりあるいは弱くなり、その結果クラック、ピンホールや剥離が発生するようになる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、酸化物セラミックス薄膜を内壁面に積層させた多孔質セラミックス中空糸の端部またはそれをモジュ−ル化した束着端部を封止剤で含浸封止させる際、焼成温度の低い封止剤を用い、内壁面に既に積層されている微細な酸化物薄膜の特性を損なわせることなく、端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸を製造する方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】かかる本発明の目的は、酸化物セラミックス薄膜を内壁面に積層させた多孔質セラミックス中空糸の端部をシリカゾル中に浸漬し、乾燥させた後、約300〜500℃で焼成して端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸を製造することによって達成される。この際、酸化物薄膜積層多孔質セラミックス中空糸は、モジュール化状態でも用いられる。
【0010】酸化物セラミックス薄膜を内壁面に積層させた多孔質セラミックス中空糸は、例えば多孔質セラミックス中空糸の管内へ酸化物セラミックス形成性ゾルを供給して強制的にロ過させ、それを乾燥させた後焼成し、多孔質セラミックス中空糸内壁面へ酸化物セラミックス薄膜を積層させることによって得られる。
【0011】多孔質セラミックス中空糸としては、一般にAl2O3、Y2O3、MgO、SiO2、Si3N4、ZrO2などの粒子を分散させた高分子物質の有機溶媒溶液を用い、それを乾湿式紡糸した後焼成して得られる、孔径が約0.1〜6μm、好ましくは約0.2〜2μmのものが用いられる。
【0012】これらの多孔質セラミックス中空糸の管内へは酸化物セラミックス形成性ゾルが供給され、強制的にゾルをロ過させる。酸化物セラミックス形成性ゾルとしては、Al2O3、Y2O3、MgO、SiO2、ZrO2、TiO2、SnO2、La2O3、CeO2、InO2、ThO2などの酸化物薄膜が焼成によって形成される金属水酸化物ゾルが用いられる。
【0013】このような各種酸化物セラミックス形成性ゾルにおいて、例えば焼成によってAl2O3薄膜を形成させるゾルとしては、ベーマイト(γ-AlOOH)ゾルが用いられる。ベーマイトゾルは、アルミニウムイソプロポキシドを100倍モル量の蒸留水中で75℃以上に加熱し、加水分解させた後、アルミニウムに対して0.07〜0.20倍モル量の塩酸などを添加し、95℃で解こうさせることにより調製される。
【0014】これらのゾルの供給に先立って、多孔質セラミックス中空糸の細孔内を蒸留水で脱気置換する前処理工程を適用すると、より均一な膜厚の酸化物セラミックス薄膜を積層することができる。また、積層される薄膜の膜厚は、ロ過時間によってコントロールすることができる。
【0015】ロ過は、中空糸の他端側を閉塞させた状態で、加圧、減圧もしくはこれらを併用することにより行われる。このように、閉塞系にポンプを用いてゾルを供給し、強制ロ過を行う方法をとると、系内圧が徐々に上昇し、この圧が高くなると、急激な積層膜厚の増大となり、亀裂、不均一な積層膜が形成される危険性などが高くなってくる。
【0016】このことと関連して、ポンプの流量の微妙な変化に対応して、ロ過時の圧力条件が微妙に異なり、その結果として積層膜厚の再現性にも悪影響を及ぼすことがある。
【0017】この対策としては、酸化物セラミックス形成性ゾル供給源と多孔質セラミックス中空糸との間に、供給ゾルの流量およびこれによる圧力変動を抑制するヘッドを設けたロ過装置系を用い、即ちロ過時にかけたい圧力に相当するヘッドを設けた系でロ過する方法がとられる。
【0018】酸化物セラミックス形成性ゾルの多孔質セラミックス中空糸管内への供給は、パルス供給によっても行うことができる。パルス供給は、多孔質セラミックス中空糸の両端部から加圧状態のゾルを供給し、徐々にこれら両端部に加圧差を設け、そこにゾルの移動速度を生ぜしめることにより行われ、これによりゾルは強制的にロ過され、中空糸内壁面へ堆積する。
【0019】ロ過終了後は、室温での乾燥を行い、用いられた金属酸化物の種類に応じて、それの酸化物を形成させる温度、一般には約300〜800℃での焼成が行われる。このような一連の操作、即ちゾルの強制的ロ過-乾燥-焼成という一連の工程は1回行うのみで、所望の膜厚の酸化物セラミックス薄膜を短時間で容易に多孔質セラミックス中空糸の内壁面に積層させることができる。
【0020】得られた酸化物セラミックス薄膜積層多孔質セラミックス中空糸は、そのままあるいはモジュール化状態において、中空糸の端部、一般には約10〜30mmの部分をシリカゾル中に浸漬し、約1〜30秒間程度接触させた後引き上げ、約100〜200℃で約0.5〜2時間程度乾燥させた後、約300〜500℃で約1〜10時間程度焼成される。このような一連の工程は、必要に応じて複数回くり返して行われる。なお、ここで用いられるシリカゾルは、テトラエトキシシラン-水-硝酸(モル比1:10:0.1)混合物を、室温、撹拌下で加水分解することにより調製される。
【0021】
【発明の効果】微細孔を有する酸化物セラミックス薄膜を内壁面に積層させた多孔質セラミックス中空糸の端部またはそれをモジュ−ル化した束着端部を含浸封止させる際、約300〜500℃という低い焼成温度で済むシリカゾルを用いることにより、内壁面に既に積層されている酸化物セラミックス薄膜層のロ過特性を損なわせずに、多孔質中空糸の端部封止を行うことができる。
【0022】
【実施例】次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】参考例多孔質アルミナ中空糸(平均細孔径0.15μm、気孔率38%、外径2mm、内径1.5mm)内に、テトラエトキシシラン50g、70%硝酸1mlおよび水216mlを室温条件下で撹拌し、加水分解させて調製したシリカゾルを、20秒間大気圧下で流通させ、200℃で乾燥、400℃で1時間焼成という一連の工程を4回くり返して行った。
【0024】得られたシリカ薄膜積層多孔質アルミナ中空糸について、純水透過性能を測定したところ、ゲージ圧1.5kgf/cm2で純水透過は認められなかった。即ち、シリカ薄膜層は、透水性を有していないことが示される。
【0025】比較例1参考例で用いられた多孔質アルミナ中空糸内で、ベーマイトゾル(Alとしての濃度0.5モル/リットル)の強制ロ過を5.5分間行い、室温下で12時間乾燥させた後、500℃で10時間焼成し、中空糸内壁面上に厚さ4.4μmのγ-アルミナ薄膜を積層させた。
【0026】このγ-アルミナ薄膜積層多孔質アルミナ中空糸について、ポリエチレングリコールを用いての分画試験を行ったところ、分画分子量は5000で、阻止率は90%であった。
【0027】比較例2比較例1において、焼成条件を1000℃で2時間に変更した。得られたγ-アルミナ薄膜積層多孔質アルミナ中空糸は、同様の分画試験で、分子量20000迄のポリエチレングリコールをすべて透過させ、分画性能を示さなかった。
【0028】実施例比較例1で得られたγ-アルミナ薄膜積層多孔質アルミナ中空糸の両端部(20mm)を、参考例で用いられたシリカゾル中にそれぞれ30秒間ずつ浸漬し、200℃で30分間乾燥させた後、400℃で1時間焼成するという一連の工程を4回くり返して行った。
【0029】このようにして得られた端部含浸封止γ-アルミナ薄膜積層多孔質アルミナ中空糸について、分画試験を行ったところ、分画分子量は5000であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸化物セラミックス薄膜を内壁面に積層させた多孔質セラミックス中空糸の端部をシリカゾル中に浸漬し、乾燥させた後、約300〜500℃で焼成することを特徴とする端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸の製造法。
【請求項2】 酸化物セラミックス薄膜積層多孔質セラミックス中空糸がモジュール化状態で用いられる請求項1記載の端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸の製造法。
【請求項3】 酸化物セラミックス薄膜を内壁面に積層させた多孔質セラミックス中空糸として、多孔質セラミックス中空糸内に酸化物セラミックス形成性ゾルを供給して強制的にロ過させ、それを乾燥させた後焼成して得られたものが用いられる請求項1または2記載の端部が含浸封止された多孔質セラミックス中空糸の製造法。

【特許番号】第2946925号
【登録日】平成11年(1999)7月2日
【発行日】平成11年(1999)9月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−58896
【出願日】平成4年(1992)2月12日
【公開番号】特開平5−221752
【公開日】平成5年(1993)8月31日
【審査請求日】平成10年(1998)3月19日
【出願人】(000004385)エヌオーケー株式会社 (1,527)
【参考文献】
【文献】特開 平3−60475(JP,A)
【文献】特開 平3−98627(JP,A)