説明

第三軌条方式を用いる鉄道用給電レールの絶縁カバー及び固定方法

【課題】特に現場での作業性を改善するために、簡易でありながら容易には外れない給電レール接続部用の絶縁カバー構造体及びその取付け方法を提供する。
【解決手段】カバー部1は面ファスナー4によってスペーサ3に着脱可能に取付けられる。カバー部1の上板11の下面には、面ファスナー4の第1の面ファスナー部材41が感圧接着剤等の接着手段により接着固定される。一方、スペーサ3はその一端が給電レール2の本体23上に両面接着テープ5等の接着手段により接着固定され、またスペーサ3の他端には、第1の面ファスナー41に係合する第2の面ファスナー部材42が取付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三軌条方式を用いる鉄道に使用される給電レールの絶縁カバー及び該カバーを固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第三軌条方式とは、電車に供給すべき電気を車体上方の架線からではなく、車体の側面又は底面に対向する軌道上の部分に配設された給電レールから供給する方式であり、国内及び海外で利用されてきている。
【0003】
図7は、第三軌条方式を利用した従来の給電レール周りの概略構造を示す図である。図示例において、車両100への電力供給は、軌道の側壁102に設けられた給電レール104、及び車両側方に設けられ給電レール104に摺動接触する集電装置106を介して行われる。
【0004】
給電レールは、一般にアルミニウム製の本体及びステンレス製の摺動接触部を有し、それ自体に高電圧が印加されることから、その付近で作業する保線作業員等の安全の確保や鳥等の感電防止のために、絶縁性のカバーによって覆われることが多い。例えば特許文献1には、給電レールの周囲に防護板を配置した構成が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−82221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
給電レールは、その長手方向に沿って所定の間隔で継ぎ足されて敷設されるのであるが、その継ぎ目すなわち接続部以外の部分は、給電レールの外形形状に相補的すなわち略合致する形状の絶縁カバーで覆うことができる。一方、給電レール相互の継ぎ目には、例えば図8に示すように、給電レール104をその長手方向に接続するための接続部材108及び接続用ボルト110が配設され、給電レール104の外形に略合致する形態のカバーを使用することはできない。そこで、給電レール104の接続部においては、接続用ボルト110等も含めて給電レール104を覆う大きめの絶縁カバー112が配置される。
【0007】
しかし従来の絶縁カバー112の取付けにおいては例えば、先ず給電レール104にボルト114用の挿通穴を設け、次に給電レール104の上面に例えば円筒状のスペーサ116を配置してボルト114によって給電レール104締結し、さらに絶縁カバー112をスペーサ116の上部に配置した後、樹脂製の他のボルト118により絶縁カバーとスペーサ116とを締結するという方法が採られていた。従って給電レールに穴を開ける作業や2度のボルト締結作業等の、比較的手間と時間のかかる現場作業が必要であった。
【0008】
逆に絶縁カバー112を劣化等により交換する場合も、上述のボルト118を挿抜する作業が必要となり、やはり簡便な作業とは言えない。さらにボルトによる締結は、特に長期使用状態において振動等による緩みが生じる虞もある。
【0009】
さらに、給電レールには電圧がかかるため、上述のように絶縁カバー締結用のボルト118は、漏電や感電防止のために樹脂等の絶縁材料から作製する必要がある。一般に樹脂製のボルト、ナットは金属製のものに比べ耐久性が低く、これもカバーの保持を不安定にする要因となり得る。
【0010】
また特許文献1に開示される防護板も、枕木に立設された支持板又は給電レールにボルト締めされる構成を有するものであることから、その取付けや交換には相当の手間及び時間がかかるものと推測される。
【0011】
そこで本発明は、特に現場での作業性を改善するために、簡易でありながら容易には外れない給電レール接続部用の絶縁カバー及びその取付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、第三軌条方式における給電レールのためのカバー構造体であって、前記給電レール上に第1の固定手段により固定されるスペーサと、前記スペーサ上に配置されるカバー部と、前記スペーサと前記カバー部との間に配置され、前記カバー部を前記スペーサに取付けるための第2の固定手段とを有し、前記第1及び第2の固定手段のうち少なくとも一方が着脱可能な面ファスナーであることを特徴とするカバー構造体を提供する。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のカバー構造体において、前記第1及び第2の固定手段の一方が面ファスナーであり、他方は接着手段である、カバー構造体を提供する。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のカバー構造体において、前記第1の固定手段が接着手段であり、前記第2の固定手段が面ファスナーである、カバー構造体を提供する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載のカバー構造体において、前記接着手段は両面接着テープである、カバー構造体を提供する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載のカバー構造体において、前記面ファスナーは、前記カバー部に固定された第1の面ファスナー部材と、前記スペーサに固定された第2の面ファスナー部材とを有し、前記第1の面ファスナー部材は前記第2の面ファスナー部材を包含する大きさを有する、カバー構造体を提供する。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のカバー構造体において、前記給電レールの長手方向について、前記第1の面ファスナー部材は前記第2の面ファスナー部材よりも大きい寸法を有する、カバー構造体を提供する。
【0018】
請求項7に記載の発明は、第三軌条方式における給電レールにカバー構造体を取付ける方法であって、第1の面ファスナー部材をカバー部に固定するステップと、前記給電レール上に、接着手段によりスペーサを固定するステップと、前記スペーサ上に、前記第1の面ファスナーに係合可能な第2の面ファスナー部材を固定するステップと、前記第1の面ファスナーが前記第2の面ファスナー部材に係合するように、前記カバー部を前記スペーサに取付けるステップと、を有することを特徴とする方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るカバー構造体又はその取付け方法によれば、手間や時間のかかるボルト締結作業を必要としない簡易な作業でありながら確実にカバー構造体を給電レールに対して着脱することができる。
【0020】
またスペーサを給電レールに接着する手段を両面接着テープとすることにより、簡易な作業が可能となる。
【0021】
第1の面ファスナー部材が第2の面ファスナー部材を包含する形状であることにより、カバー部の位置決め誤差がある程度以下であれば、両部材間の接触面積すなわち剥離強度を実質一定に維持することができる。
【0022】
またカバー部の位置決め誤差は主に給電レールの長手方向に沿う方向に生じるので、第1の面ファスナー部材がその長手方向について第2の面ファスナー部材より大きい寸法を有することにより、位置決め誤差を効果的に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る絶縁カバー構造体を、図7に示したような第三軌条方式で使用される給電レールの接続部に適用した例を示す断面図である。絶縁カバー構造体は、好ましくはABS等の難燃性樹脂から作製され、全体として樋形状を有するカバー部1を有する。具体的にはカバー部1は、給電レール2の上方を覆う上板11と、車両と接触する給電レール2の摺動接触部21とは反対側の上板11の端部(図1において左端)に接続され略鉛直下方に延びる背板12と、背板12とは反対側の上板11の端部(図1において右端)に接続される前板13とを有し、好ましくは全体として一体成形される。なお前板13は、車両との干渉回避等のために、給電レール2の摺動接触部21から背板12側に斜め上方に延びるように傾斜していることが好ましい。
【0024】
図示するように、カバー部1はスペーサ3を介して給電レール2に接続される。スペーサ3は、好ましくは絶縁カバー同様ABS等の難燃性樹脂から作製され、給電レール同士を接続する接続部材108及び接続用ボルト110(上述)とカバー部1との干渉を避けるのに十分な大きさを有し、例えば円柱状部材として形成される。本発明の特徴は、カバー部1及びスペーサ3がボルト等の締結手段によって給電レール2に対して固定されるのではなく、作業手間の少ない接着手段及び面ファスナー、あるいは面ファスナーのみによって、簡便でありながら確実に固定される点にある。
【0025】
図1に示すように、カバー部1は第2の固定手段すなわち面ファスナー4によってスペーサ3に着脱可能に取付けられる。詳細には、カバー部1の上面を示す図2に示すように、カバー部1の上板11の下面には、面ファスナー4が有する第1の面ファスナー部材41が感圧接着剤等の接着手段により接着固定される。一方、スペーサ3はその一端(底端)が給電レール2の本体22上に両面接着テープ5等の第1の固定手段すなわち接着手段により接着固定され、またスペーサ3の他端(上端)には、第1の面ファスナー41に係合する第2の面ファスナー部材42が取付けられる。スペーサ3への第2の面ファスナー部材42の取付けは、図3に示すようにネジ31によってネジ止めしてもよいし、あるいは接着剤や両面テープを用いてもよい。
【0026】
次に、第1の面ファスナー部材41を第2の面ファスナー部材42に押圧させ両者が係合するように、カバー部1を給電レール2に固定したスペーサ3の上方に配置する。これによりカバー部1の取付け作業は完了し、従来のように給電レールに締結ボルト用の孔を加工したりボルト締め作業を行ったりする必要はない。
【0027】
図4は、カバー部1をスペーサ3から分離した状態を示す図である。カバー部1を取外すときは、通常の面ファスナー同様、カバー部1をいくらか水平方向にずらすようにすれば容易に外せるので、カバー部の着脱作業性は従来よりも格段に向上する。なお図4では、レール接続部材108及び接続用ボルト110は図示省略している。
【0028】
面ファスナー4の剥離強度すなわち第1の面ファスナー部材41と第2の面ファスナー部材42との間の剥離強度は、カバー部1が自重や軽い衝撃程度ではスペーサ3から外れたりずれたりせず、かつ保線作業員等が交換・保守のためにカバー部1を意図的に取外そうとしたときは容易に外れる程度に設定される。面ファスナーは種々の剥離強度のものが市販されているので、その中から適当なものを選定すればよい。好適な例としては、住友スリーエム社から市販されている「デュアルロック(登録商標)」がある。
【0029】
またスペーサ3を給電レール2の本体22上に固定する両面接着テープ5又は接着剤等の接着手段としては、強い接着強度を有するものが望ましいが、少なくともカバー部1の着脱時にスペーサ3が給電レール2の本体22から外れない程度の接着強度を有することが必要である。逆にこの程度の接着強度があればどのようなものでもよく、好適な例としては、住友スリーエム社から市販されている「VHBテープ(登録商標)」がある。
【0030】
図2と図3との比較からわかるように、第1及び第2の面ファスナー部材41及び42は、形状及び面積が同一ではなく、カバー部1の予想される位置決め誤差を吸収できるように、一方が他方の全てを包含するような関係であることが好ましい。図示した実施形態では、カバー部1の上板11の下面に取付けられた第1の面ファスナー部材41が、給電レール2上のスペーサ3に固定された円形の第2の面ファスナー部材42を内包できる大きさの矩形形状を有する。特に、絶縁カバー1の位置決め誤差は給電レールの長手方向に生じやすいので、第1の面ファスナー部材41は第2の面ファスナー部材42よりも宮殿レールの長手方向について十分大きい寸法を有することが好ましい。図示例では、第2の面ファスナー部材42は円形であり、第1の面ファスナー部材41は給電レールの長手方向に沿った長辺を有する矩形形状である。
【0031】
本発明によれば、給電レール2に予め、第2の面ファスナー部材42を備えたスペーサ3を、両面接着テープ5によって給電レール長手方向に適当な間隔で配置しておき、一方カバー部1の上板11に第1の面ファスナー部材41をスペーサ3の配置間隔に合わせて取付けておくことにより、現場でのカバー部1の交換・取付け作業を極めて容易に行うことができる。
【0032】
上述の実施形態では給電レール2とスペーサ3とを両面接着テープ等の比較的接着強度の強い接着手段で接着し、スペーサ3とカバー部1とを着脱が容易な面ファスナー4で固定しているが、その逆の構成、すなわちカバー部1とスペーサ3とを両面接着テープ等で接着し、給電レール2とスペーサ3とを面ファスナー4で固定することも可能である。但し後者の場合は、劣化等によりカバーを交換するときにスペーサも同時に交換する必要が生じる点でやや不利である。
【0033】
あるいは、図1の構成において両面接着テープ5を面ファスナー4と同様の面ファスナーで置換し、すなわちスペーサ3の両端において面ファスナーを使用することも可能である。この場合は、スペーサの交換が容易になるという利点があるが、カバー部を外したときに、カバー部とともに給電レールから外れるスペーサと逆に給電レール側に残るスペーサとが混在する可能性があるので、使用する面ファスナーの剥離強度をスペーサの上端と下端とで異なる(例えば下端側を強くする)ようにすることが好ましい。
【0034】
図5は、碍子6が配設された部位におけるカバー構造体の取付け例を示す図である。碍子6を給電レール2に取付ける場合は給電レール2の本体部22を覆う取付け治具61が使用されることが多く、この場合上述のスペーサ3を適用することは困難である。そこで、カバー部1を背面側からみた図6に示すように、カバー部1の背板12において碍子6用に切欠いた部分に略半円形状のアタッチメント121を取付け、アタッチメント121の内周部と碍子6の外周部とを係合させることができる。この場合、アタッチメント123の内周部及び該内周部に対向する碍子の外周部に、互いに係合する面ファスナー部材をそれぞれ取付けてもよい。
【0035】
図1に示した本発明に係る絶縁カバー構造体の効果を確認するための試験を行った。この試験は、「鉄道信号保安部品−振動試験方法」(JIS E3014)の第3種試験に準拠し、具体的には振動数100ヘルツ、振動幅0.74mmの条件下で6分間行われた。この結果、カバー部のずれ、外れ又は破損等の不具合は一切確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る絶縁カバー構造体を示す、給電レール長手方向に垂直な断面図である。
【図2】カバー部とスペーサとが分離している状態を示す図である。
【図3】図1の絶縁カバー構造体のカバー部の上面図である。
【図4】図1の絶縁カバー構造体のスペーサの部品図である。
【図5】碍子が配設された部位におけるカバー構造体の取付け例を示す図である。
【図6】図5のカバー構造体を背面側からみた図である。
【図7】第3軌条方式鉄道の一例を示す概略図である。
【図8】給電レールに対する従来の絶縁カバー構造体の取付け例を示す、給電レール長手方向に垂直な断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 カバー部
2 給電レール
3 スペーサ
4 面ファスナー
41 第1の面ファスナー部材
42 第2の面ファスナー部材
5 両面接着テープ
6 碍子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三軌条方式における給電レールのためのカバー構造体であって、
前記給電レール上に第1の固定手段により固定されるスペーサと、
前記スペーサ上に配置されるカバー部と、
前記スペーサと前記カバー部との間に配置され、前記カバー部を前記スペーサに取付けるための第2の固定手段とを有し、
前記第1及び第2の固定手段のうち少なくとも一方が着脱可能な面ファスナーであることを特徴とするカバー構造体。
【請求項2】
前記第1及び第2の固定手段の一方が面ファスナーであり、他方は接着手段である、請求項1に記載のカバー構造体。
【請求項3】
前記第1の固定手段が接着手段であり、前記第2の固定手段が面ファスナーである、請求項2に記載のカバー構造体。
【請求項4】
前記接着手段は両面接着テープである、請求項2又は3に記載のカバー構造体。
【請求項5】
前記面ファスナーは、前記カバー部に固定された第1の面ファスナー部材と、前記スペーサに固定された第2の面ファスナー部材とを有し、前記第1の面ファスナー部材は前記第2の面ファスナー部材を包含する大きさを有する、請求項3又は4に記載のカバー構造体。
【請求項6】
前記給電レールの長手方向について、前記第1の面ファスナー部材は前記第2の面ファスナー部材よりも大きい寸法を有する、請求項5に記載のカバー構造体。
【請求項7】
第三軌条方式における給電レールにカバー構造体を取付ける方法であって、
第1の面ファスナー部材をカバー部に固定するステップと、
前記給電レール上に、接着手段によりスペーサを固定するステップと、
前記スペーサ上に、前記第1の面ファスナーに係合可能な第2の面ファスナー部材を固定するステップと、
前記第1の面ファスナーが前記第2の面ファスナー部材に係合するように、前記カバー部を前記スペーサに取付けるステップと、
を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−143265(P2008−143265A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330802(P2006−330802)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)