説明

筆記具の外装部品

【課題】 濡れ性の悪い材料で成形された外装部品であっても、水溶性チタン溶液をコートするとき、密着性が良く、十分な抗菌性や防汚性、消臭性、耐水性などが得られる筆記具の外装部品を提供する。
【解決手段】 水溶性の酸化チタン、分散剤、水に界面活性剤が添加された酸化チタン水溶液を筆記具の外装部品外表面にコートし、これを乾燥して光触媒層とする。界面活性剤の添加量を0.01〜10.0%にする。界面活性剤はシリコーン系またはフッ素系界面活性剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒やキャップ、グリッパーなどの筆記具の外装部品に関し、更には抗菌性などの優れた特性を有する筆記具の外装部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具の外装部品、つまり筆記具の軸筒やキャップは手に触れるが、とりわけ筆記時の指先の滑りを防止するために軸筒の外表面に配置されるグリッパーは筆記時に直接指先が強く触れるので、細菌や汚染物質が付着するが、最近では清潔性を好む風潮が強く、このため、付着した細菌や汚染物質を分解する抗菌性能を有する筆記具が実用化されている。特に、市役所などの公共の場所に設置されている筆記具は、不特定の多数の人が使用するので、抗菌筆記具の必要性が大きい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の抗菌筆記具は、軸筒やキャップ、グリッパーなどの外装部品を銀系抗菌剤などを混合したプラスチック成形材料で成形したものが多い。この銀系抗菌剤を使用した抗菌筆記具は、当初は強い抗菌性を発揮するが、時間の経過とともに抗菌性能が低下する不具合がある。また、抗菌剤自体に刺激性があり、有害性が問題視されることがある。
【0004】
ところで、酸化チタンは紫外線照射下で水分と接触すると水を酸化分解して非常に酸化力の大きいヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドアニオンなどの活性酸素を発生させるので、その光触媒作用を利用して有害化学物質を分解して無害化することが行われている。このため従来から、筆記具以外の分野において、光触媒作用を有する酸化チタンは水処理や大気浄化、あるいは抗菌材料として利用されている。
【0005】
そこで、この酸化チタンによる光触媒層を筆記具の外装部品の外表面にコートして光触媒層を形成すると、発生したヒドロキシラジカルやスーパーオキサイドアニオンなどの活性酸素が表面に付着した細菌や汚染物質などの有機物を水と二酸化炭素に分解し、無害化するとともに、防汚性、消臭性、耐水性などにも優れた効果を発揮することが考えられる。この酸化チタンは、それ自体非常に安全性が高い物質であるため、人体に与える影響は極めて少ない。また、酸化チタンの光触媒としての機能は劣化しないので、半永久的にその効果を持続することができる。
【特許文献1】特開2003−39872公報
【0006】
しかしながら、軸筒やキャップ、グリッパーなどの外装部品は、例えばポリプロプレン、ポリエチレン、ナイロン、テフロン(登録商標)、ポリアセタールなどの合成樹脂、オレフィン系やスチレン系などの熱可塑性エラストマー、イソプレンゴムやブチルゴムなどのゴムなどの各種材料で成形されるが、これらの材料は濡れ性が悪い。このため、これらの材料で成形された外装部品の外表面に水溶性チタン溶液をコートするとき、密着性が悪くて光触媒層が形成されにくいので、十分な抗菌性や防汚性、消臭性、耐水性などが得られないことが判明した。
【0007】
そこで本発明は、濡れ性の悪い材料で成形された外装部品であっても、水溶性チタン溶液をコートするとき、密着性が良く、十分な抗菌性や防汚性、消臭性、耐水性などが得られる筆記具の外装部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、請求項1の筆記具の外装部品は、必須成分である水溶性の酸化チタン、分散剤、水に界面活性剤が添加された酸化チタン水溶液を外表面にコートし、これを乾燥して光触媒層とする。請求項2は、界面活性剤の添加量を0.01〜10.0%にする。請求項3は、界面活性剤としてシリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を使用する。
【0009】
光触媒効果を発揮する酸化チタンとして、ペルオキソチタン酸、ペルオキソチタン錯体、ペルオキソチタン水和物、ペルオキソチタン改質アナターゼゾル、ペルオキソチタン含有アナターゼゾルなどを挙げることができる。これらの酸化チタンを予め分散剤で分散して酸化チタン水溶液としたものが、例えば商品名ミラクルチタンM2やミラクルチタンMR2(株式会社大野石油店製)などとして販売されている。
【0010】
界面活性剤はシリコーン系やフッ素系界面活性剤を使用すると好結果が得られるが、シリコーン系界面活性剤としては商品名シルウェットFZ−2105、FZ−2165、FZ−2123、L−7604、L−77(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)などを挙げることができ、フッ素系界面活性剤としては、商品名サーフロンS−111N、S−131、S−141(セイミケミカル株式会社製)などを挙げることができる。
界面活性剤の添加量は、水溶性酸化チタン水溶液に対して0.01〜10.0%にするのがよく、より好ましくは0.05〜5.0%である。界面活性剤の添加量が0.01%より少ないと十分な密着性が得られず、逆に10.0%より多いと、酸化チタンの分散安定性が低下して密着性が低下し、いずれにしても十分な光触媒効果を得ることができない。
【発明の効果】
【0011】
このように水溶性酸化チタン溶液に所定量の界面活性剤を添加するので、濡れ性の悪い材料で成形された軸筒やキャップ、グリッパーなどの筆記具の外装部品の外表面に水溶性酸化チタン溶液をコートしたときの密着性がよく、十分な光触媒層を形成できるので、抗菌性や防汚性、消臭性、耐水性などが優れた筆記具とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に各種性能テストを行った結果を説明する。
供試の外装部はオレフィン系熱可塑性樹脂にて円筒状に成形したグリッパーであり、この供試のグリッパーに対して、密着性、防汚性、抗菌性、消臭性および耐水性のテストを行った。
下記の実施例1〜4、および比較例1〜3の7種類の配合の界面活性剤が添加された水溶性酸化チタン溶液(比較例3は界面活性剤を添加していない)にグリッパーを1分間浸漬し、これを取り出して60℃の乾燥機内にて24時間乾燥して表面に光触媒層を形成し、実施例1〜4、および比較例1〜3の7種類の供試グリッパーを得た。また、なんら処理を施さず、つまり表面に光触媒層を形成しないグリッパーを比較例4とした。
【0013】
〔実施例1〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンM2) 100.000重量部
シリコーン系界面活性剤(シルウェットFZ−2105) 0.100重量部
〔実施例2〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンM2) 100.000重量部
フッ素系界面活性剤(サーフロンS−111N) 1.000重量部
〔実施例3〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンMR2) 100.000重量部
シリコーン系界面活性剤(シルウェットFZ−2105) 0.200重量部
〔実施例4〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンMR2) 100.000重量部
フッ素系界面活性剤(サーフロンS−111N) 3.000重量部
〔比較例1〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンM2) 100.000重量部
シリコーン系界面活性剤(シルウェットFZ−2105) 0.005重量部
〔比較例2〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンMR2) 100.000重量部
フッ素系界面活性剤(サーフロンS−111N) 12.000重量部
〔比較例3〕
水溶性酸化チタン溶液(ミラクルチタンM2) 100.000重量部
界面活性剤 添加せず
【0014】
〔密着性テスト〕
前記のとおり処理した各々1000個の実施例1〜4と比較例1〜4の供試グリッパーの処理前と処理後の重量を測定し、その重量増加を求めた。重量増加が大きいほど酸化チタンの密着性が優れている。その結果を表1に示す。表1の単位はgである。
【表1】

これから分かるように、実施例1〜4は界面活性剤を添加したことにより処理後の重量増加が大きく、酸化チタンの密着性が優れていることを確認した。ただ、比較例2は界面活性剤の添加量が多いにもかかわらず、密着性がいずれの実施例に比べても劣っているが、これは添加量が多過ぎて酸化チタンの分散安定性が低下したためと思われる。
【0015】
〔防汚性テスト〕
実施例1〜4と比較例1〜4の供試グリッパーを取り付けたボールペンにて1日8時間程度20日間連続して使用し、このグリッパーにサラダオイルを0.05mg/cmになるように塗布し、その重量を測定した。次に、消費電力が20Wのブラックライトを供試グリッパーから10cm離れた位置から24時間射し、その重量を測定し、照射前後の減量率を求めた。減量率が高いほど、サラダオイル(有機物)が多く分解されて光触媒効果が発揮されたと言える。その結果を表2に示す。
【表2】

これから分かるように、実施例1〜4は比較例1〜4に比べて減量率はずっと大きく、防汚性が極めて優れている。
【0016】
〔抗菌性テスト〕
実施例1〜4と比較例1〜4の供試グリッパーを取り付けたボールペンにて1日8時間程度20日間連続して使用し、グリッパーの表面に付着した微生物の一般生菌数を調べた。次に、午前7時から午後7時までの12時間の間、平均照度が5500ルクスの室内窓際に1週間放置し、微生物の一般生菌数を調べ、紫外線照射下における1週間放置テスト前後における微生物の一般生菌数の変化を調査した。
一般生菌数の測定は、供試グリッパーを標準寒天培地の上にそれぞれ載せ、寒天培地に菌を付着させる。そして、これを35℃の培養器内で48時間培養し、寒天培地上で発育している菌のコロニー数をカウントした。1週間放置テスト前後のコロニーの培養数を表3に示す。
【表3】

これから分かるように、実施例1〜4は紫外線放射下に1週間放置することにより、比較例1〜4に比べてコロニー数が激減しており、抗菌性が極めて優れている。
【0017】
〔消臭性テスト〕
実施例1〜4と比較例1〜4の供試グリッパーを取り付けたボールペンにて1日8時間程度20日間連続して使用し、このグリッパーを個別にそれぞれガラス瓶に入れ、各瓶にアンモニアガスを200ppmになるように注入し、密封した。次に、消費電力が20Wのブラックライトを供試グリッパーから10cm離れた位置から5時間射し、照射後のガラス瓶内のアンモニアガス濃度をガス検知管で測定した。そして、次式により消臭率を求めた。その消臭率を%で表示したものを表4に示す。
消臭率=(初期のガス濃度−紫外線照射後のガス濃度)/初期のガス濃度
【表4】

これから分かるように、実施例1〜4は比較例1〜4に比べて消臭率が極めて高く、光触媒効果が十分に発揮されている。
【0018】
〔耐水性テスト〕
実施例1〜4と比較例1〜4の供試グリッパーを純水中に4時間浸漬させた後、このグリッパーにサラダオイルを0.05mg/cmになるように塗布し、その重量を測定した。次に、消費電力が20Wのブラックライトを供試グリッパーから10cm離れた位置から24時間射し、その重量を測定し、照射前後の減量率を求めた。その結果を表5に示す。
【表5】

これから分かるように、実施例1〜4は比較例1〜4に比べて減量率が極めて高く、純水に浸漬した後であってもサラダオイル(有機物)が十分に分解されており、耐水性が高いことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分である水溶性の酸化チタン、分散剤、水に界面活性剤が添加された酸化チタン水溶液を外表面にコートし、これを乾燥して光触媒層としたことを特徴とする筆記具の外装部品。
【請求項2】
前記界面活性剤の添加量が0.01〜10.0%であることを特徴とする請求項1記載の筆記具の外装部品。
【請求項3】
前記界面活性剤がシリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤であることを特徴とする請求項1または2記載の筆記具の外装部品。

【公開番号】特開2006−205412(P2006−205412A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17668(P2005−17668)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000002314)セーラー万年筆株式会社 (49)
【Fターム(参考)】