説明

筆記具用インキ逆流防止体組成物

【課題】 耐衝撃性能やインキ逆流防止性能を共に満足し、臭気を発することなく経時安定性やインキ追従性能も充分発揮できる、実用性の高いインキ逆流防止体組成物を提供する。
【解決手段】 筆記具のインキ収容筒内に直接収容したインキの後端面に配設され、前記インキの消費に従って前進する筆記具用インキ逆流防止体組成物であって、前記インキ逆流防止体が、難揮発性液体に、液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドを添加してなる。前記液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドにおいて、脂肪酸アマイドが組成物全量中5〜50重量%の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用インキ逆流防止体組成物に関する。更には、インキ収容筒内に直接収容されたインキの端面に配設される筆記具用インキ逆流防止体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具に適用されるインキ逆流防止体組成物には、正立(チップ上向き)或いは横置き状態での保管時や運搬時にインキが収容筒後端から漏出することを防止するインキ逆流防止性能、筆記時にインキの減少に伴ってペン先方向へスムースに移動するインキ追従性能、更に、筆記具が高所から落下した際のインキ飛散やインキ流出を防ぐ耐衝撃性能等の性能が要求されている。
【0003】
前記インキ逆流防止体組成物として、古くは高粘度の油性インキを内蔵する油性ボールペン用として、鉱油と金属石鹸の混合物であるグリース等が適用されているが、前記油性ボールペン用インキ逆流防止体を粘度の低い水性インキを内蔵した水性ボールペンに適用した場合、インキ消費時の追従不良や温度変化に伴う過度の粘度変化を生じることがあり、水性インキの逆流を抑止できない等の不具合を生じることがあった。そのため、液状ポリブテン、鉱油、シリコーンオイル等の難揮発性有機液体に、アミノ酸誘導体、微粒子シリカ、脂肪酸アマイド等のゲル化剤を添加してゲル状物としたインキ逆流防止体組成物が多数提案され、広く実用化されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−200472号公報
【特許文献2】特開平7−242093号公報
【特許文献3】特開2001−347788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記ゲル化剤のうち、特許文献1や特許文献2に記載されるアミノ酸誘導体や微粒子シリカを用いたインキ逆流防止体組成物は、筆記具が高所から落下した際のインキ飛散やインキ流出を防ぐ耐衝撃性能が充分ではなく、前記性能を高めるためにゲル化剤の添加量を増やした場合には、筆記時のインキ消費に伴う移動(インキ追従)時に、インキ収容管に付着してしまい、スムースな追従ができなくなることがあるため、実用性を満足するものではなかった。
また、特許文献3に記載される脂肪酸アマイドを用いた場合、耐衝撃性能が得られるものの、それのみで難揮発性有機液体に添加した際、長期保存後に分離することがある。また、キシレン溶媒に膨潤させて格子状結晶化して添加することで、長期保存性が良化するものの、経時後の追従性が充分には得られ難くなってしまう。更に、キシレン溶媒を用いるため、特有の臭気を発するものとなる。
本発明は、前記した耐衝撃性能やインキ逆流防止性能を共に満足し、臭気を発することなく経時安定性やインキ追従性能も充分発揮できる、実用性の高いインキ逆流防止体組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筆記具のインキ収容筒内に直接収容したインキの後端面に配設され、前記インキの消費に従って前進する筆記具用インキ逆流防止体組成物であって、前記インキ逆流防止体が、難揮発性液体に、液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドを添加してなることを要件とする。
更に、前記液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドにおいて、脂肪酸アマイドが組成物全量中5〜50重量%の範囲であること、前記難揮発性液体が、鉱油、ポリブテンのいずれかであることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、耐衝撃性能、インキ逆流防止性能を共に満足し、臭気を発することなく経時安定性やインキ追従性能を長期に亘って充分発揮できる、実用性の高いインキ逆流防止体組成物となる。
【0008】
前記難揮発性液体はインキ逆流防止体組成物の基材(ベースオイル)として用いられるものである。用いられる成分としては、シリコーンオイル、ポリブテン、αオレフィンコオリゴマー、流動パラフィン、精製鉱油等を例示できる。特に、
脂肪酸アマイドが膨潤、分散されている液状キシレン樹脂との親和性が高く、高いインキ追従性能を長期的に発現できる点からポリブテンや精製鉱油が好適である。
前記ポリブテンの市販品として具体的には、ポリブテンLV−7、同LV−10、同LV−25、同LV−50、同LV−100、同HV−15、同HV−35、同HV−35、同HV−50、同HV−100、同HV−300(以上、新日本石油化学(株)製)、ポリブテン0H、同5H、同10H−T、同15H、同300H、同15R、同35R、同100R、同100R、同300R(以上、出光石油化学(株)製)、015N、06N、3N、5N、10N、ニューグライドM、ニューグライドμ(以上、日油(株)製)等を例示することができる。
前記精製鉱油の市販品として具体的には、三菱石油(株)製:ダイヤモンドSN150ブライトストック、出光興産(株)製:ダイナフレシアW380等を例示することができる。
尚、前記難揮発性液体は逆流防止体組成物全量に対し、70〜98.9重量%の範囲で使用できる。
【0009】
前記液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドはゲル化剤として用いられ、難揮発性液体をインキ逆流防止体組成物としての好適な粘度まで増粘させるために添加される。
脂肪酸アマイドを液状キシレン樹脂(室温において液体状態であるキシレン樹脂)で膨潤させることで網目状膨潤粒子となる。その際、膨潤媒体としてキシレン樹脂を用いるため、キシレン溶媒のような臭気を発することなく、安定した膨潤粒子を形成できる。
尚、前記膨潤時の液状キシレン樹脂と脂肪酸アマイドとは、脂肪酸アマイドが組成物全量中5〜50重量%の範囲になるように調整されることで、より安定性の高い膨潤状態を維持できる。更に、前記二成分の他、メタノール、エタノール、酸化ポリエチレン等の添加剤を所望により加えることもできる。
【0010】
前記脂肪酸アマイドとして、具体的には、ラウリン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、リシノール酸アマイド、12−ヒドロキシステアリン酸アマイド、N−イソブチルラウリン酸アマイド、N−イソブチルステアリン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド、N−オレイルオレイン酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−ステアリルオレイン酸アマイド、N−オレイルパルミチン酸アマイド、N−ステアリルエルカ酸アマイド、N−シクロヘキシルメチルラウリン酸アマイド、N−シクロヘキシルメチルカプロン酸アマイド等が例示できる。
また、N,N´−エチレンビスラウリン酸アマイド、N,N´−メチレンビスステアリン酸アマイド、N,N´−エチレンビスステアリン酸アマイド、N,N´−エチレンビスオレイン酸アマイド、N,N´−エチレンビスベヘン酸アマイド、N,N´−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アマイド、N,N´−ブチレンビスステアリン酸アマイド、N,N´−ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、N,N´−ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド等も例示できる。
【0011】
更に汎用のゲル化剤を併用することも可能であり、例えば、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物等が挙げられる。
前記脂肪酸アマイド等のゲル化剤は、インキ逆流防止体組成物全量に対し0.5〜30重量%、好ましくは1.0〜15重量%の範囲で用いられる。添加量が0.5重量%未満では所望の耐逆流性能及びインキ追従性能を発現し難く、また、30重量%を超えると、インキ逆流防止体組成物が分離し易くなる。
【0012】
その他必要に応じて、ゲル化助剤、着色防止性能や逆流防止性能を向上させるためのアルコールやグリコール等の極性溶剤、安定剤として種々の界面活性剤、酸化金属粒子や各種微粒子の添加も可能である。
【0013】
前記インキ逆流防止体組成物はベースオイルとして用いられる難揮発性液体に液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドを添加し、更に必要に応じて各種添加剤を加え、ディスパー等の攪拌機で均一になるように分散した後、三本ロール、ニーダー、バスケットミル等の分散機で混練することにより得られる。また、必要に応じて遠心脱泡等によって脱泡することもできる。
【0014】
本発明のインキ逆流防止体のような高粘稠液体の硬さ及び流動性等を測定する簡便な手段としてはスプレッドメーター(平行板粘度計)があり、その測定値をSM値という。SM値として、20℃の1分値が20〜60mmの範囲にあるインキ逆流防止体が耐衝撃性、逆流防止性及びインキ追従性において良好な特性を示す。SM値の範囲は20〜60mmが好ましいが、30〜50mmであれば更に好ましい。
【0015】
前記インキ逆流防止体組成物は、ペン先を備えたインキ収容管にインキを充填した後、最後端に充填されるものであり、必要に応じて固体のインキ逆流防止体と併用して配設される。これによりインキ収容管後端からのインキの蒸発を防止し、ペン先を上向きで放置した場合や、衝撃が加わった場合にインキが逆流することを防止するものとなる。
【0016】
前記インキとしては、従来公知の水性又は油性インキが用いられる。前記インキが油性インキの場合、特に25℃でのインキ粘度が100mPa・s以上5000mPa・s以下(剪断速度3.5[1/sec])の低粘度乃至中粘度油性インキが好適に用いられる。また、水性インキの場合は、特に剪断減粘性水性インキが好適に用いられる。
【0017】
前記ペン先には、マーキングペンチップやボールペンチップが用いられる。特に、ボールペンチップを用いたボールペン形態での適用が好ましく、例えば、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等の0.15〜1.2mm径程度のものが適用できる。
【0018】
前記インキ収容管は、金属加工体や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。特に樹脂成形体においては、透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、外部からインキを視認することが可能であり、特異の意匠効果を与えると共に、インキの色調や残量等を確認できる。前記インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記インキ収容管とチップを連結してもよい。尚、前記インキ収容管は、ボールペン用レフィルの形態として、前記レフィルを軸筒内に収容するものでもよいし、軸筒をインキ収容管として用いて、前記軸筒内に直接インキとインキ逆流防止体を充填してもよい。
【実施例】
【0019】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、表中の実施例、比較例の数字は重量部を表わす。またSM値は、20℃におけるスプレッドメーターの1分値を表わす。
【0020】
【表1】

【0021】
表中の原料の内容を注番号に従って説明する。
(1)日油(株)製、商品名:ポリブテン3N
(2)日油(株)製、商品名:ポリブテン5N
(3)出光鉱油(株)製、商品名:ダイアナフレシアW380
(4)楠本化成(株)製、商品名:ディスパロンF−9050(有効成分20%)
(5)楠本化成(株)製、商品名:ディスパロン6900−20X(有効成分20%)
(6)楠本化成(株)製、商品名:ディスパロン6900
(7)日本アエロジル工業(株)製、商品名:アエロジルR974
【0022】
インキ逆流防止体組成物の作製
実施例1乃至3、比較例1,2,4
オイル成分中にゲル化剤を所定量投入してディスパー2000rpmで30分間攪拌した後、三本ロール処理(2pass)後に遠心脱泡することでインキ逆流防止体組成物を得た。
【0023】
比較例3
オイル成分中にゲル化剤を所定量投入してディスパーで撹拌しながら加温し、160℃になった時点から30分間撹拌した後に加温を停止し、室温で12時間自然放冷した後、三本ロール処理(2pass)後に遠心脱泡することでインキ逆流防止体組成物を得た。
【0024】
試料ボールペンの作製
直径0.5mmの超硬合金製ボールを備えたステンレスパイプチップ(ボールペンチップ)を先端に嵌着した、内径3.8mmのポリプロピレン製パイプ(インキ収容管)に、25℃における粘度が200mPa・s〔3.5(1/sec)〕の水性黒インキ(剪断減粘性染料インキ)を1.0g充填し、インキ後端に実施例及び比較例のインキ逆流防止体組成物をそれぞれ0.12g接触配置した後に遠心処理し、キャップ式筆記具外装に組み込むことで試料ボールペンを得た。
【0025】
上記の試料ボールペンを用いて以下の試験を実施し、それぞれの評価基準で評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0026】
経時安定性試験
前記インキ逆流防止体組成物の初期状態、及び、前記試料ボールペンをチップ上向き状態で50℃の環境下に60日間静置した後のインキ逆流防止体組成物の状態を目視で観察した。
○:インキ逆流防止体組成物が均一であり、状態に変化が認められない。
△:インキ逆流防止体組成物が白濁している。
×:インキ逆流防止体組成物の一部が分離(離油)している。
インキ追従性試験
前記試料ボールペンを50℃の環境下に60日間静置した後、5℃の環境下で旧JIS P3201筆記用紙Aに、手書きにより45秒間に120個の直径10mmの螺旋状の丸を連続筆記した。その際のインキに対する追従性及び筆跡の状態を目視により観察した。
○:インキ逆流防止体組成物がインキの消費に伴って良好に追従しており、良好な筆跡が得られる。
×:インキ逆流防止体組成物が追従せず収容管内壁に付着して残り、途中で筆跡にカスレを生じる、または筆記不能となる。
臭気の有無
前記試料ボールペン20本をガラス瓶に封入し、40℃の環境下に7日間静置した後、蓋を開けて臭気を確認した。
○:臭気なし。
×:キシレン臭がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具のインキ収容筒内に直接収容したインキの後端面に配設され、前記インキの消費に従って前進するインキ逆流防止体であって、前記インキ逆流防止体が、難揮発性液体に、液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドを添加してなることを特徴とする筆記具用インキ逆流防止体組成物。
【請求項2】
前記液状キシレン樹脂で膨潤した脂肪酸アマイドにおいて、脂肪酸アマイドが組成物全量中5〜50重量%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の筆記具用インキ逆流防止体組成物。
【請求項3】
前記難揮発性液体が、鉱油、ポリブテンのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の筆記具用インキ逆流防止体組成物。

【公開番号】特開2013−94972(P2013−94972A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236797(P2011−236797)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】