説明

筆記具

【課題】撓み可能な複数のペン先片を環状に配設して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具おいて、筆記時の筆圧によりペン体が後退し、万年筆のペン先のように筆跡幅が変化可能で抑揚感があり、かつペン体の筆圧による後退量を調整できる筆記具を得る。
【解決手段】一端側にインキ流出路5を設けた複数のペン先片3を有し、先端を先窄み状となるように集合したペン体6を、インキ流通路8と該インキ流通路8に連通し外方に開口したスリット15を有したペン体保持部材7の外周上に、筆記時の筆圧により後方へ移動可能に、かつ前方方向へコイルスプリング31により弾発して設ける。調整回動体28と該調整回動体28を回動することにより前後動可能な調整移動体25を設け、調整移動体25が前進することで、コイルスプリング31のペン体6の前方方向への弾発力を変更可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のペン先片を環状に配列し、各ペン先片の先端を全体形状が先窄み状となるように集合したペン先を有した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、どの方向からも筆記面に筆記できるペン先として、複数のペン先片を環状に配列して設けるとともに、各ペン先片の先端を全体形状が先窄み状となるように集合したペン先は知られている。
【0003】
例えば、特開平9−156279号公報により開示されている、筒形状の基部と、その一端側に、連続して断面円弧状に突出され、軸心の円周上に等間隔に相互の間にスリット状の溝を設けて形成された複数の櫛歯状片とからなり、各櫛歯状片の先端に全体として半球形状を構成する半球分割部を有するペン先基本体と、ペン先基本体の外周状に嵌合可能な筒形に形成され、複数の櫛歯状片を軸心方向に向けて押圧し、収束する収束部材とを備え、ペン先基本体に収束部材を嵌め込むことにより、ペン先基本体の複数の櫛歯状片をその先端方向に向けて漸次縮径する円錐形に収束し、その先端に半球状の筆記部を構成してなる構造のものがあり、こうしたペン先を装着した筆記具についても、特開2010−115786号により提案されている。
【0004】
ところで、万年筆においては、筆記時における筆圧によりペンの先端に形成された切割溝により先端が開き、紙面等の筆記面へインキを流出するための前記切割溝で構成されたインキ流出路の幅が広くなるので、筆跡幅に変化をもたらすことはできるが、前記したような、複数のペン先片を環状に配列し、各ペン先片の先端を全体形状が先窄み状となるよう集合したペン先を有した筆記具においては、筆記面へインキを流出するためのインキ流出路は、各櫛歯状片(ペン先片)間の隙間で構成しているために、筆記時における筆圧により各櫛歯状片(ペン先片)間の隙間量はあまり変化しないので、万年筆のように筆記時の筆圧により筆跡幅が変化することはなかった。また、前記構造の筆記具では、筆記時の筆圧により各ペン先片が後退することがないので抑揚感がないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−156279号公報
【特許文献2】特開2003−335089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事実に鑑みてなされたもので、撓み可能な複数のペン先片を環状に配設して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具おいて、筆記時の筆圧によりペン体が後退し、万年筆のペン先のように筆跡幅が変化可能で抑揚感があり、かつペン体の筆圧による後退量を調整できる筆記具を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「1.撓み可能な複数のペン先片を環状に配して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具において、前記ペン体を前後動可能にかつばねにより前方方向に弾発して配し、インキを収容した軸筒の前方に、外周面を外方に露出した調整回動体を回動可能に配し、該調整回動体の内側にばね受け部を有した調整移動体を、調整回動体を回動することにより前後動可能に調整回動体にねじ嵌合して設けるとともに、ばね受け部の先端をペン体を前方方向に弾発するばねの後端に当接し、調整回動体を回動して調整移動体が前後動し、ばねの装着状態の全長を変化させることでペン体の前方方向への弾発力を変化させ、ペン体の筆圧による後退量を調整可能としたことを特徴とする筆記具。
2.前記ペン先片に、先端に開口した切割溝を先端部に設けて、ペン先片の先端にインキを流出するためのインキ流出路とした、前記1項に記載の筆記具。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は前記したような構造なので、ペン体が筆記時の筆圧により後方に移動するので筆跡幅が変化可能で筆記時における抑揚感を感ずることができる。また、調整回動体を回動することによりペン体を前方方向に弾発しているばねの後端に当接した調整移動体が前後動して、ばねの装着状態の全長が変化してばねの弾発力が変化し、同じ筆圧であれば、ばねの弾発力の強弱によりペン体の後退量を調整することができる。
【0009】
請求項2に係る発明とすることで、筆記時の筆圧により各ペン先片が後退して先端が互いに離間し、各ペン先片間の隙間が広くなり隙間で構成されたインキ流出路がその機能が低下しても、切割溝によるインキ流出路によりインキがペン先片の先端に流出するので、筆記具としてのインキ出性能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の筆記具の第1の実施例を示す、筆記具の斜視図である。
【図2】第1の実施例における筆記具の内部構造の概略を示す、要部を断面した図である。
【図3】図2における筆記具の要部の拡大断面図である。
【図4】図3におけるにおけるA−A線部分の拡大端面図である。
【図5】図3におけるにおけるB−B線部分の拡大端面図である。
【図6】第1の実施例におけるペン体の斜視図である。
【図7】第1の実施例におけるペン体の後退量を調整する、調整移動体の斜視図である。
【図8】図3において、ペン体が後退した状態を示した図である。
【図9】本発明の筆記具の第2の実施例を示す、筆記具の内部構造の概略を示す、要部を断面した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の筆記具は、撓み可能な複数のペン先片を環状に配して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具において、ペン体を筆記時の筆圧により後方へ移動可能に配するとともにばねにより前方方向に弾発し、調整回動体および調整移動体を、調整回動体を回動して調整移動体が前後動して、前記ばねの装着状態の全長が変化するように設ける。
【実施例1】
【0012】
本発明の筆記具の第1の実施例を、図1〜図8を用いて説明する。本実施例の筆記具1は、図6に示すように、一端側に隙間2介して複数のペン先片3を有し他端側を連接して連接部4とし、各ペン先片3の先端部に、軸心方向に延び先端に開口した切割溝で形成したインキ流出路5を有した撓み可能な金属製で平板状のペン体6を、連接部4を環状にし各ペン先片3を周状に配列して設け、各ペン先片3をプレス等により内側に変形して略円錐状となるようにペン先片3の先端を集合して形成してある。
【0013】
前記ペン体6を、図2および図3に示すように、本体部7aと前方に形成した先窄み状で本体部7aの外径より小径な前方部7bと後端(図2において右側方向)に形成した本体部7aの外径より大径な鍔部7cとで構成したペン体保持部材7に、該ペン体保持部材7の前方部7bを略円錐状の各ペン先片3内に位置し、本体部7aの前端部(図において左側方向)にペン体6の連接部4を遊嵌状態で挿入して配する。ペン体保持部材7には、後端から前端にインキを流出するための前後に貫通した孔で形成したインキ流通路8を設けてある。
【0014】
前記ペン体6を配したペン体保持部材7を、内部形状が、前記ペン体保持部材7の本体部7aが挿入可能な内径とした前方内部9aと、前記ペン体保持部材7の鍔部7cが挿入可能な前記前方内部9aの内径より大径な後方内部9bとで構成した円筒状の軸体9に、本体部7aを前方内部9aに遊嵌し、鍔部7cを後方内部9bに位置させて前方内部9aの後端に当接して挿着してある。
【0015】
前記ペン体6の連接部4および前記ペン体保持部材7の本体部7aと鍔部7cを被覆するように軸体9の内部に円筒状の移動体10を、軸体9およびペン体保持部材7に対して前後に移動可能に設けてあり、移動体10には、内方に向って突出した突出部11を設けてあり、該突出部11の前方端面をペン体6の連接部4の後端に当接して配してある。突出部の前方の移動体10の内壁面にはガイド突起12を接着剤等により固着してあり、該ガイド突起12を、ペン体6の連接部4に設けた係止孔13(図6を参照)に嵌合してペン体6を貫通してペン体保持部材7に突出し、ペン体保持部材7の外周面に設けた軸心方向に延びたガイド溝14に係合させてある。こうした構造により、ペン体6および移動体10はペン体保持部材7から抜け出すことがなく、かつペン体保持部材7に対して回動することなく前後動可能としてある。
【0016】
図3に示すように、ペン体保持部材7の前方部7bの先端部7baには、インキ流通路8に連通し軸径方向に放射状に延びて外方に開口したスリット15を3つ設けてある。また、ペン体保持部材7のスリット15の周りの外壁面と各ペン先片3のインキ流出路5の周り内壁面との間に毛管作用によりインキ溜り部となる空間部16が形成されるように、スリット15の後方(図3おいて右側方向)に、ペン体保持部材7の外壁面が各ペン先片3の内壁面に当接するようにペン体保持部材7に当接部17を設けるとともに、スリット15を設けた部分の先端部7baの外径を、当接部17の外径より小径としてある。
【0017】
櫛溝18と前後端に開口して連通したインキ流出溝(図示せず)を有したペン芯19はペン芯保持部材20に挿着してあり、該ペン芯保持部材20は、先端にペン体保持部材7の鍔部7cに当接し外径を鍔部7cと略同径とした外方に突出した先端頭部21を設けてある。ペン芯保持部材20は、前記先端頭部21をペン体保持部材7の鍔部7cの後端面に当接するとともに、先端頭部21の外側面に形成した雄ねじ部22と前記軸体9の後端部の内壁面に形成した雌ねじ部23とをねじ嵌合して、軸体9に連接して設けてある。
【0018】
ペン芯保持部材20の外周面上には、図7に示すような、等間隔にペン先片3側に向かって突出した4つのばね受け部24を有した調整移動体25を前後動可能に配してあり、前記ばね受け部24の先端は、ペン体保持部材7の鍔部7cの対向した位置に形成した前後に貫通したばね受け部24の幅と略同等の幅を有した貫通凹部26と、ペン芯保持部材20の先端頭部21の対向した位置に形成した前後に貫通したばね受け部24の幅と略同等の幅を有した貫通凹部27を通ってペン体保持部材7の鍔部7cの前方に位置するように設けてある。
【0019】
前記調整移動体25の外周面上には、リング状の調整回動体28を、外周面を外方に露出させて調整移動体25にねじ嵌合して設けてある。調整回動体28の後方には、インキを直に収容可能な軸筒29が、前記ペン芯保持部材20の外周面にねじ嵌合により着脱自在に連接してある。図示していないが、当然に前記ねじ嵌合部30より軸筒29内に収容したインキが漏れ出さないように、例えばパッキンを設ける等の手段を講じる必要があることはいうまでもない。
【0020】
調整回動体28は、軸体9の後端と軸筒29の先端との間に配してあるが、前後動することなく(若干の前後動は可)回動可能に設けてあるので、調整回動体28を回動することにより調整移動体25は、ばね受け部24が貫通通凹部26、27を構成する横壁に当接し、回動することなく前後動可能となる。
【0021】
前記移動体10の突出部11の後端面と調整移動体25のばね受け部24の先端の間にコイルッスプリン31を張架して、ペン体6および移動体10を前方方向(図3において左側方向)に弾発してある。
【0022】
本実施例の筆記具1は、軸筒29内に収容したインキがペン芯19を介してペン体保持部材7に形成したインキ流通路8に流出し、該インキ流通路8を通ってペン体保持部材7の先端部7baに流出し、スリット15を介して空間部16にインキが溜り、インキ流出路5を通ってペン体6の先端にインキを充分に供給する。また、筆記時における筆圧により、図8に示すようにペン体6は後方へ移動し、ペン体6はコイルスプリング31により前方方向(図8において左側方向)に弾発されており、筆圧に応じてペン体が後退するので万年筆のペン先のように筆記時における抑揚感を感ずることができる。また、調整回動体28を回動して調整移動体25を前後動することで、ばねの装着状態の全長が変化してコイルスプリング31の弾発力が変化し、同じ筆圧でもペン体6の後退量に変化をもたらすことができる。
【実施例2】
【0023】
次に、第2の実施例の筆記具を、図9を用いて説明する。なお、同じ部材同じ箇所を示す場合は同じ符号を付してある。本実施例の筆記具51は、ペン芯19が、インキカートリッジ52に備えられたインキ流出防止用のための開口部を閉塞した蓋(図示せず)をずらして開口部を開口するための後方(図9において右側方向)に突出した突出部53を有した構造である点、ペン芯保持部材20にインキカートリッジ52を挿着する挿着部54をしてあり、インキカートリッジ52を挿着可能とした構造である点、軸筒29がインキカートリッジ52を収容可能な収容室55を有した構造である点以外は、第1の実施例と同様のペン体6、ペン保持部材7、軸体9、移動体10、調整移動体25と調整回動体28を形成し、第1の実施例と同様にして組み立てたものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、撓み可能な複数のペン先片を環状に配して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具において、筆記時の筆圧により後方へペン体が移動可能とし、筆圧によるペン体の後退量に変化をもたらしたい場合に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1、51 筆記具
3 ペン先片
6 ペン体
24 ばね受け部
25 調整移動体
28 調整回動体
29 軸筒
31 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撓み可能な複数のペン先片を環状に配して、先端側を先窄み状としたペン体を備えた筆記具において、前記ペン体を前後動可能にかつばねにより前方方向に弾発して配し、インキを収容した軸筒の前方に、外周面を外方に露出した調整回動体を回動可能に配し、該調整回動体の内側にばね受け部を有した調整移動体を、調整回動体を回動することにより前後動可能に調整回動体にねじ嵌合して設けるとともに、ばね受け部の先端をペン体を前方方向に弾発するばねの後端に当接し、調整回動体を回動して調整移動体が前後動し、ばねの装着状態の全長を変化させることでペン体の前方方向への弾発力を変化させ、ペン体の筆圧による後退量を調整可能としたことを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記ペン先片に、先端に開口した切割溝を先端部に設けて、ペン先片の先端にインキを流出するためのインキ流出路とした、請求項1に記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−45723(P2012−45723A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187177(P2010−187177)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】