説明

等速自在継手用シャフト

【課題】高温環境下での使用であっても、シール性の低下を抑えることができ、長期に亘って安定したシール機能を発揮することができ、しかもこのシャフトを使用する等速自在継手の製造コストの低減に寄与することが可能な等速自在継手用シャフトを提供する。
【解決手段】等速自在継手の内側継手部材に連結されるとともに、ブーツ1の小径部11が装着されるブーツ取付部22を備えた等速自在継手用シャフトである。ブーツ取付部22に一対の周方向突起部23、24を設ける。継手内部側の周方向突起部23よりも継手内部側に、継手内部からの潤滑材を溜める凹周溝25を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手用シャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手には、継手内部への塵埃等の異物進入防止や継手内部に封入されたグリースの漏れ防止を目的とし、蛇腹状のブーツが装着される。
【0003】
この種のブーツは例えば図4に示すように、等速自在継手100の外輪101に固定される大径部102と、内輪103から延びるシャフト104に固定される小径部105と、大径部102と小径部105との間に設けられ、谷と山とが交互に形成された蛇腹部108とを有する。そして、大径部102と小径部105とはそれぞれブーツバンド109が装着されることによって固定される。
【0004】
すなわち、大径部102の外周面及び小径部105の外周面にはそれぞれバンド装着用溝110、111が設けられ、各溝110、111にブーツバンド109、109が嵌合される。また、シャフト104のブーツ取付部には、ブーツ取付用溝112と、このブーツ取付用溝112の両側の突起(周方向突起部)113、113とが設けられている。この場合、ブーツバンド109の締め付けによって、突起113、113がブーツの小径部105の一部に食い込むことによって、シール性を高めている。
【0005】
なお、外輪101は、その内周面に複数の案内溝(トラック溝)115が形成されるとともに、内輪103は、その外周面に複数の案内溝(トラック溝)116が形成されている。そして、外輪101の案内溝115と内輪103の案内溝116とで協働して形成されるボールトラックに複数のボール117が配設され、このボール117が、外輪101と内輪103との間に配置されるケージ118のポケット118aに収容される。
【0006】
また、従来には、ブーツの小径部の内周面にリブを設け、バンド装着時にこのリブを、ブーツ取付用溝の底面に圧接させてシール性を高めようとしたものがある(特許文献1)。さらには、耐久性向上のために、継手の屈曲動作によって生じる歪を分散させるための溝をブーツの小径部側に設けたものもある(特許文献2)。なお、この特許文献2に記載のものでも、ブーツの小径部の内周面にリブが設けられている。
【特許文献1】特開平6−185532公報
【特許文献2】特開2004−301202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ブーツバンドによる締付部のシール性は、経時変化により低下する。このため、図4に示すようにシャフトに突起を設けたものであっても、ブーツの小径部の内周面にリブを設けたもの(前記特許文献1及び特許文献2に記載もの)であっても、締付効果が十分でなくなる。また、近年では、熱可塑性エラストマーからなる樹脂ブーツは、ゴム製ブーツ(CRブーツ)に比べて、疲労性や摩耗性、高速回転性(回転時振れ廻り性)に優れるため、普及している。このような樹脂ブーツでは高温に曝されるとシール性が低下する。これは、熱可塑性エラストマーの圧縮永久歪が大きく、反発力が低下するためであり、特に、デファレンシャルギア側(インボード側)での高温環境下(高温雰囲気下)でこの傾向が著しい。このため、従来のようなシール構造では、長期に亘って安定したシール機能を発揮することができない。また、特許文献2に記載の耐久性向上のための溝は、樹脂ブーツではブローにより成形する範囲にかかるため成形が難しく、CRブーツであってもシール性向上に寄与しない。
【0008】
また、前記特許文献1、2に記載のもののように、ブーツの小径部の内周面にリブを設けるもの(ブーツ形状変更による対策のもの)では、成形性への悪影響によりコスト高が懸念される。
【0009】
特に、ブーツの小径部(シャフト側装着部)においては、ブーツバンドよりも継手内部側の端部は、シャフトのブーツ取付部と接触しているのみであって、等速自在継手が作動角をとった際に、それに追従して、シャフト取付部から離れたりする。このため、ブーツのシャフト側装着部の継手内部側の端部において、継手内部の潤滑剤がシャフト側装着部内部に流入して、継手外部へ流出しやすくなる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて、高温環境下での使用であっても、シール性の低下を抑えることができ、長期に亘って安定したシール機能を発揮することができ、しかもこのシャフトを使用する等速自在継手の製造コストの低減に寄与することが可能な等速自在継手用シャフトを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の等速自在継手用シャフトは、等速自在継手の内側継手部材に連結されるとともに、ブーツのシャフト側装着部が装着されるブーツ取付部を備えた等速自在継手用シャフトにおいて、前記ブーツ取付部に一対の周方向突起部を設けるとともに、継手内部側の周方向突起部よりも継手内部側に、継手内部からの潤滑材を溜める凹周溝を設けたものである。
【0012】
ブーツのシャフト側装着部にブーツバンドを締付ければ、一対の周方向突起部が装着部に食い込む。また、凹周溝を設けたことによって、継手内部からの潤滑材がブーツの装着部側に流れ込んだとしても、この凹周溝にて潤滑材を受けることができる。
【0013】
シャフト側装着部を締付けるブーツバンドよりも継手内部側に、シャフト側装着部にて覆われるように凹周溝を設けるのが好ましい。これによって、作動角をとって、シャフト側装着部の継手内部側の端部とシャフトのブーツ取付部とに生じた隙間に潤滑剤が入り込んでも、この凹周溝にて受けることができ、この凹周溝よりも継手外部側への潤滑剤の流出を確実に防止することができる。
【0014】
一対の周方向突起部間にブーツ嵌合用溝を設けてもよい。これにより、ブーツ装着状態で、ブーツ嵌合用溝にブーツの小径部の一部が嵌合する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、一対の周方向突起部がブーツのシャフト側装着部に食い込むので、ブーツの小径部を確実にシャフトのブーツ取付部に装着することができる。しかも、凹周溝にて潤滑材を受けることができるので、この凹周溝より継手外部側への潤滑材の流出を防止できる。これにより、優れたシール性を発揮することができる。また、このシャフトを使用すれば、ブーツの形状を変更する必要がない。このため、このシャフトを使用して等速自在継手を組み立てる場合、従来の既存のブーツをそのまま使用することができ、コストの低減を図ることができる。
【0016】
また、作動角をとった場合、それに追従するために、継手内部側で、ブーツ1とシャフト9との間に隙間が形成される。このため、この隙間に潤滑材Sが流れ込むことになるが、流れ込んだとしても、ブーツバンドよりも継手内部側に、ブーツのシャフト側装着部にて覆われるように凹周溝を設けたので、凹周溝にてこの潤滑剤を受けることができ、この凹周溝よりも継手外部側に潤滑材を流出させない。従って、作動角をとった場合でも、安定したシール性性能を発揮することができる。
【0017】
また、ブーツ装着状態では、ブーツ嵌合用溝にブーツの小径部の一部が嵌合するので、ブーツ装着状態が一層安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図1〜図3に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明の等速自在継手用シャフト9が使用された等速自在継手2を示す。この等速自在継手2は、内周面に複数の案内溝(トラック溝)3を軸方向に形成した外側継手部材としての外輪4と、外周面に複数の案内溝(トラック溝)5を形成した内側継手部材としての内輪6と、外輪4の案内溝3と内輪6の案内溝5とで協働して形成されるボールトラックに配される複数のボール7と、ボール7を収容するためのポケット8aを有するケージ8等から構成される。また、内輪6の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介して本発明に係るシャフト9を結合している。すなわち、内輪6の中心孔にスプライン12を設け、シャフト9の端部に設けられたスプライン13を内輪6のスプライン12に嵌合させている。また、シャフト9のスプライン13の端部には、抜け止め用の止め輪15が装着されている。
【0020】
そして、この等速自在継手2にはブーツ1が装着される。この場合のブーツ1は、例えば、エステル系、オレフィン系、ウレタン系、アミド系、スチレン系等の熱可塑性エラストマーにて形成される。熱可塑性エラストマーは樹脂とゴムの中間の性質を持っている。熱可塑性エラストマーは、弾性体でありながら、熱可塑性樹脂の通常の成形機にて加工することができる。なお、このように、ブーツ材料は、疲労性や摩耗性等の耐久性、耐熱老化性、耐油性等に優れる熱可塑性エラストマーが好ましいが、クロロプレン等のゴム材料やシリコンゴム材料であってもよい。
【0021】
ブーツ1は、等速自在継手2の外側継手部材(外輪4)の開口端部に装着される大径部(外輪側装着部)10と、等速自在継手2の内側継手部材(内輪6)に連結されたシャフト9に装着される小径部(シャフト側装着部)11と、大径部10と小径部11との間に設けられ、軸方向に沿って交互に配設される山部と谷部とを有する蛇腹部14とを備える。
【0022】
外輪4の開口部側の外周面に周方向切欠きからなるブーツ取付部16が設けられ、このブーツ取付部16に大径部10が外嵌される。そして、大径部10の外周面に形成された嵌合溝17にブーツバンド18を嵌着することによって、大径部10を外輪4に固定している。
【0023】
本発明に係るシャフト9には、外輪4から所定量突出した位置に、図1と図2に示すように、周方向に沿ったブーツ取付用溝20を有する大径部からなるブーツ取付部22が設けられている。ブーツ取付用溝20の開口端(軸方向端)に周方向突起部(突起)23、24が設けられている。そして、小径部11がブーツ取付部22に外嵌され、小径部11の外周面に形成された嵌合溝19にブーツバンド18を嵌着することによって、この小径部11をシャフト9に固定している。
【0024】
また、継手内部側の周方向突起部23よりも継手内部側に、継手内部からの潤滑材を溜める凹周溝25を設けている。この凹周溝25は、ブーツ1の小径部11をブーツ取付部22に外嵌した状態で小径部11を締付けるブーツバンド18よりも継手内部側に、ブーツの小径部11にて覆われるように設けている。すなわち、凹周溝25が、ブーツバンド18のブーツ大径部側の端面18aよりもブーツ大径部側に位置している。
【0025】
そして、ブーツ1の小径部11にブーツバンド18を締付ければ、一対の周方向突起部23、24がブーツ1の小径部11に食い込むとともに、ブーツ取付用溝20にブーツの小径部11の一部が嵌合し、この小径部11であるシャフト側装着部がシャフトに装着される。
【0026】
ところで、ブーツ1の小径部11の継手内部側においては、作動角をとらない状態では、図2に示すように、凹周溝25を覆っている状態を維持している。しかしながら、作動角をとった場合、図3(a)に示すように、小径部11の継手内部側の端部11aがシャフト9から離れる方向に引っ張られた状態となって、その変位に追従することができる。この際、小径部11の継手内部側とシャフト9のブーツ取付部22との間に隙間が形成される。
【0027】
そのため、ブーツ1が装着された状態において、この等速自在継手が作動角をとった後作動角をとらない状態に戻れば、図3(a)に示すように、小径部11の継手内部側の端部11aとシャフト9のブーツ取付部22との間に隙間が形成されて凹周溝25がブーツ1内部に開口した状態となって、図3(c)に示すように、元の状態に戻ることになる。この際、等速自在継手2内のグリース等の潤滑材Sが、図3(a)(b)に示すように矢印のように凹周溝25内に流入する。そして、図3(c)に示すように、潤滑材Sが凹周溝25に溜まる。このように、作動角をとった場合、ブーツ1とシャフト9との間に形成される隙間に潤滑材Sが流れ込んだとしても、凹周溝25にてこの潤滑剤を受けることができ、この凹周溝25よりも継手外部側に潤滑材Sを流出させない。
【0028】
このように、前記等速自在継手用シャフトでは、凹周溝25を設けたことによって、継手内部からの潤滑材Sがブーツ1の小径部11側に流れ込んだとしても、この凹周溝25にて潤滑材を受けることができる。この凹周溝25より継手外部側への潤滑材の流出を防止できる。これにより、優れたシール性を発揮することができる。また、このシャフト9を使用すれば、ブーツ1の形状を変更する必要がない。このため、このシャフト9を使用して等速自在継手を組み立てる場合、従来の既存のブーツ1をそのまま使用することができ、コストの低減を図ることができる。
【0029】
また、作動角をとった場合、継手内部側で、ブーツ1とシャフト9との間に隙間が形成される。このため、この隙間に潤滑材Sが流れ込むことになるが、流れ込んだとしても、ブーツバンド18よりも継手内部側に、ブーツ1のシャフト側装着部にて覆われるように凹周溝25を設けたので、凹周溝25にてこの潤滑剤を受けることができ、この凹周溝25よりも継手外部側に潤滑材Sを流出させない。従って、作動角をとった場合でも、安定したシール性性能を発揮することができる。
【0030】
さらに、一対の周方向突起部23、24間のブーツ取付用溝20にブーツ1の小径部11の一部が嵌合するので、ブーツ装着状態が一層安定する。
【0031】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、一対の周方向突起部23、24間にブーツ取付用溝20が形成されているが、このようなブーツ取付用溝20を省略してもよい。また、凹周溝25の断面形状を、半円形状、三角形状、台形状、矩形状等の種々のものを採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手用シャフトを使用した等速自在継手の要部断面図である。
【図2】前記等速自在継手用シャフトのブーツ装着状態の要部拡大断面図である。
【図3】凹周溝に潤滑材が流れ込む過程を示し、(a)はブーツが引っ張られて凹周溝がブーツ内部に開口した状態の断面図であり、(b)はブーツが元の状態に戻る途中を示す断面図であり、(c)はブーツが元に戻った状態の断面図である。
【図4】従来の等速自在継手用シャフトを使用した等速自在継手の要部断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ブーツ
2 等速自在継手
11 シャフト側装着部
18 ブーツバンド
20 ブーツ取付溝
22 ブーツ取付部
23、24 周方向突起部
25 凹周溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手の内側継手部材に連結されるとともに、ブーツのシャフト側装着部が装着されるブーツ取付部を備えた等速自在継手用シャフトにおいて、
前記ブーツ取付部に一対の周方向突起部を設けるとともに、継手内部側の周方向突起部よりも継手内部側に、継手内部からの潤滑材を溜める凹周溝を設けたことを特徴とする等速自在継手用シャフト。
【請求項2】
ブーツのシャフト側装着部を締付けるブーツバンドよりも継手内部側に、シャフト側装着部にて覆われるように前記凹周溝を設けたことを特徴とする請求項1の等速自在継手用シャフト。
【請求項3】
一対の周方向突起部間にブーツ取付用溝を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2の等速自在継手用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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