等速自在継手用外側継手部材
【課題】溶接や摩擦圧接等の接合手段を用いることなく、別部材として形成されたマウス部(外側継手部材本体)とフランジ部(フランジ部材)とを安定した接合力で接合して構成することが可能な等速自在継手用外側継手部材を提供する。
【解決手段】カップ状のマウス部4と、マウス部4から外鍔状に突設されるフランジ部5とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材である。マウス部4の底壁外面中央部に短軸部15を設ける。フランジ部5の軸心部に嵌合孔16を設ける。フランジ部5の嵌合孔16の内径面とマウス部4の短軸部15の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部35を設ける。凸部35が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、短軸部15とフランジ部5とを一体化する。
【解決手段】カップ状のマウス部4と、マウス部4から外鍔状に突設されるフランジ部5とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材である。マウス部4の底壁外面中央部に短軸部15を設ける。フランジ部5の軸心部に嵌合孔16を設ける。フランジ部5の嵌合孔16の内径面とマウス部4の短軸部15の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部35を設ける。凸部35が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、短軸部15とフランジ部5とを一体化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手用外側継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手は、一般には、トラック溝が内面に形成された外側継手部材を備える。そして、外側継手部材には、カップ状のマウス部(外側本体部材)と、このマウス部から突設されるフランジ部(フランジ部材)とから構成されるものがある。このような外側継手部材を形成する場合、マウス部とフランジ部とを別々に製造した後、外側本体部材とフランジ部材とを接合する(特許文献1)。
【0003】
すなわち、このような外側継手部材を用いた等速自在継手は、図35に示すように、複数のトラック溝100を有する外側継手部材101と、この外側継手部材101に内装される内側継手部材102とを備える。内側継手部材102には転動輪104が付設されている。外側継手部材101は、内周面に前記トラック溝100が形成された筒状の外側本体部材105と、この外側本体部材105の底壁106側に外嵌固定されるフランジ部材107とからなる。
【0004】
図35に示す等速自在継手では、筒状の外側本体部材105と、フランジ部材107とを別々に製造した後、外側本体部材105とフランジ部材107とを接合する。すなわち、フランジ部材107を外側本体部材105に外嵌(圧入)し、その嵌合部を溶接することによって、外側本体部材105にフランジ部材107を取付けていた。なお、外側本体部材105は、トラック溝100のためにその外周面に周方向に所定ピッチで配設される凸部が形成され、これに対応してフランジ部材107の内周面に凹部が形成されている。
【0005】
図35に示す等速自在継手は、ブーツ108を備え、ブーツ大径部109が外側継手部材101に固定され、ブーツ小径部110が内側継手部材102から延びるシャフト111に固定されている。
【0006】
また、図36に示すように、外側本体部材115と、フランジ部材117とを摩擦圧接にて一体化するものも提案されている(特許文献2)。この場合、外側本体部材115の底壁115に短円筒部120を形成するとともに、フランジ部材117の外側本体部材側の端面に、前記短円筒部120に相対面する短円筒部121を形成する。
【0007】
そして、外側本体部材115側の短円筒部120の円形端面と、フランジ部材117側の短円筒部121の円形端面とを摩擦圧接にて接合するものである。摩擦圧接は、接合する部材同士を高速で擦り合わせ、そのときに生じる摩擦熱によって部材を軟化させると同時に圧力を加えて接合するものである。このため、従来のような圧入工程及び溶接工程等を行うことなく接合することができる。
【0008】
また、従来、外側本体部材105とフランジ部材107とを別々に製造せずに、フランジ部が一体に形成された外側継手部材もある。この場合、冷間鍛造や熱間鍛造等にて一体成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−281172号公報
【特許文献2】特開2007−56945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図35に示すように、外側本体部材105とフランジ部材107とを溶接にて接合する場合、安定した接合を確保するためには、各部材の選択肢の幅が狭くなり、使用する環境等に応じた種々のものを構成することができなかった。しかも、溶接設備及び接合後の製品検査等にかかるコストも大となっていた。
【0011】
摩擦溶接の場合、圧接時には、図36に示すように、バリ(カエリ)122が形成される。このため、このカエリ除去作業を必要とする。従って、生産性に劣るとともに、コスト高となっていた。また、圧接時の熱による内部形状の変形、圧接条件の管理や圧接部の品質確認等といった工程増を招くことになる。
【0012】
また、フランジ部の形状が複雑であるので、冷間鍛造ではその加工度が大きく困難である。熱間鍛造では、鍛造工程後に、内部形状をブローチ加工等の別加工をする必要があり、製造工数が多くなっていた。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、溶接や摩擦圧接等の接合手段を用いることなく、別部材として形成されたマウス部(外側継手部材本体)とフランジ部(フランジ部材)とを安定した接合力で接合して構成することが可能な等速自在継手用外側継手部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の等速自在継手用外側継手部材は、カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、マウス部の底壁外面中央部に短軸部を設けるととともに、フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部の短軸部の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、短軸部とフランジ部とを一体化したものである。
【0015】
本発明の第2の等速自在継手用外側継手部材は、カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部のフランジ部側の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、マウス部とフランジ部とを一体化したものである。
【0016】
本発明の第1および第2の等速自在継手用外側継手部材によれば、凸部が相手部材に食い込むことによって、マウス部とフランジ部とを一体化するものである。このため、マウス部とフランジ部との接合に溶接を用いる必要がない。しかも、凸部が相手部材に食い込むものであるので、一体化した状態では、安定した接合力を発揮することができる。
【0017】
凸部の圧入開始端面の頂部側に、傾斜角が45°以下の面取部を設けるのが好ましい。このような面取部を設けることによって、圧入時の圧入力の軽減を図ることができる。
【0018】
凸部の圧入によって、相手部材に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成し、前記凹部が凸部で削り取られた部分を有するようにしてもよい。
【0019】
凸部の圧入開始端面を軸方向に対して80°〜110°を成すように構成してもよい。このように凸部の圧入開始端面の角度を設定することによって、凸部を相手部材側へ圧入する際、凸部により相手部材に形成される凹部から材料が切削乃至押し出されやすくなり、相手部材に対して安定した圧入力でもって圧入していくことができる。
【0020】
凸部の圧入開始端面の縁に、相手部材への圧入力軽減用の丸みのない角部を設けたものが好ましい。このような丸みのない角部を設けることによって、圧入時にこの角部が相手部材に対して切り込んで行くことになる。
【0021】
凸部を相手部材の圧入部位よりも硬度を高くするとともに、この硬度差をHRC25以上とするのが好ましい。このような硬度差によって、凸部の相手部材への圧入性の向上を図ることができる。
【0022】
凹部を形成すべき部材に対する凸部の圧入代をΔdとし、凸部の高さをhとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86に設定するのが好ましい。このよう設定することによって、凸部の圧入による凹部形成が安定するとともに、形成後の凹部への凸部の嵌合性が安定する。
【0023】
マウス部とフランジ部との間に、加締にて形成される抜け止め構造部を設けるのが好ましい。また、通常は圧入によって材料のはみ出し部が形成される。このため、このはみ出し部を収容するポケット部をマウス部側に設けたりフランジ部側に設けたりすることができる。
【0024】
マウス部の外径面及び内径面が鍛造加工にて仕上げるようにできる。これは、マウス部とフランジ部とを別々に加工し、加工精度の良い冷間鍛造で成形できることによる。
【0025】
この外側継手部材が構成する等速自在継手としては、角度変位と軸方向変位とを許容する摺動型等速自在継手であっても、角度変位のみを許容する固定型等速自在継手であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1及び第2の等速自在継手用外側継手部材では、マウス部とフランジ部との接合に溶接を用いる必要がないので、溶接工程において必要としていた工程の省略を図ることができ、作業時間の短縮及び加工コストの低減を図ることができる。また、溶接や摩擦圧接のように熱が発生しないため、マウス部に形成されるトラック溝の形状の熱による変形を防止できて、製品の高品質化を図ることができる。さらに、一体化した状態では、安定した接合力を発揮することができ、部材として安定する。
【0027】
面取部を設けることによって、圧入時の圧入力の軽減を図ることができて、食い込み性の向上を図ることができ、連結作業の簡略化を図ることができる。凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したものでは、マウス部とフランジ部との間のガタツキを解消することができ、等速自在継手として安定したトルク伝達を可能とする。
【0028】
凸部の圧入開始端面の軸方向に対して80°〜110°を成すように構成した場合、圧入の際、凸部により相手部材に形成される凹部から材料が切削乃至押し出されやすくなり相手部材に対して安定した圧入力でもって圧入していくことができ、圧入作業性の向上を図ることができる。丸みのない角部を設けることによって、圧入時にこの角部が相手部材に対して切り込んで行くことができ、圧入力の軽減を図ることができ、連結作業の時間の短縮及び作業性の向上を図ることができる。
【0029】
凸部と相手部材の圧入部位との硬度差をHRC25以上とすることによって、凸部の相手部材への圧入性の向上を図ることができる。また、大きな圧入荷重を付与しないで済むので、形成される凹凸歯が損傷する(むしれる)のを防止でき、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が生じない凹凸嵌合構造を安定して構成することができる。凸部の圧入代を前記のように設定することによって、凹部形成及び凸部の凹部への嵌合性が安定し、圧入荷重のばらつきもなく、安定した捩り強度を得ることができる。
【0030】
抜け止め構造部を設けたものでは、安定した連結状態を維持できる。特に、マウス部とフランジ部に曲げ力等が付加された場合であっても、安定した連結状態を維持できる。等速自在継手として長期にわたって安定した機能を発揮することができる。
【0031】
マウス部の外径面及び内径面を鍛造加工にて仕上げることによって、機械加工仕上げを省略でき、低コスト化を図ることができる。
【0032】
外側継手部材が構成する等速自在継手としては、摺動型等速自在継手であっても、固定型等速自在継手であってもよく、種々のタイプの等速自在継手の外側継手部材に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を示す第1の外側継手部材を用いた等速自在継手の断面図である。
【図2】前記図1の外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図3】前記図1の外側継手部材の側面図である。
【図4】前記図1の外側継手部材における凹凸嵌合構造を示し、(a)は横断面図であり、(b)は(a)のX部拡大図である。
【図5】前記図1の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図6】前記図5の要部拡大断面図である。
【図7】前記図1の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図8】前記図1の外側継手部材の組立方法を示し、加締加工状態の断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態を示す外側継手部材の断面図である。
【図10】前記図9に示す外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図11】前記図9の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図12】前記図9の要部拡大断面図である。
【図13】前記図9の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図14】前記図9の外側継手部材の組立方法を示し、加締加工状態の断面図である。
【図15】本発明の第3の実施形態を示す外側継手部材を用いた等速自在継手の断面図である。
【図16】前記図15の外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図17】前記図15の外側継手部材の側面図である。
【図18】前記図15の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図19】前記図15の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図20】本発明の第4の実施形態を示す外側継手部材の断面図である。
【図21】前記図20に示す外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図22】前記図20に示す外側継手部材の側面図である。
【図23】前記図20に示す外側継手部材の組立前の断面図である。
【図24】前記図20に示す外側継手部材の圧入開始状態の断面図である。
【図25】前記図20に示す外側継手部材の加締工程を示す断面図である。
【図26】本発明の第5の実施形態を示す外側継手部材の断面図である。
【図27】前記図26の外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図28】前記図26の外側継手部材における凹凸嵌合構造を示す横断面図である。
【図29】前記図26の外側継手部材における凹凸嵌合構造の要部拡大断面図である。
【図30】前記図26の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図31】前記図26の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図32】前記図26の外側継手部材の組立方法を示し、加締加工状態の断面図である。
【図33】凹凸嵌合構造を示し、(a)は第1の変形例を示す拡大断面図であり、(b)は第2の変形例を示す拡大断面図である。
【図34】凹凸嵌合構造を示し、(a)は第3の変形例を示す拡大断面図であり、(b)は第4の変形例を示す拡大断面図である。
【図35】従来の外側継手部材を用いた等速自在継手の断面図である。
【図36】従来の他の外側継手部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0035】
図1は本発明に係る等速自在継手用外側継手部材(以下、単に外側継手部材と呼ぶ場合がある。)を用いた等速自在継手を示している。この等速自在継手は、トリポード型の摺動式等速自在継手である。トリポード型等速自在継手は、外側継手部材1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材としてのローラ3を主要な構成要素としている。
【0036】
外側継手部材1はマウス部4とフランジ部5とからなる。図3に示すように、マウス部4は一端で開口したカップ状であり、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝6が形成してある。マウス部4は、大径部4aと小径部4bとが交互に表れる非円筒形状であり、大径部4aの径方向内側にトラック溝6が形成されている。各トラック溝6の円周方向に向き合う側壁に、ローラ案内面7,7が形成されている。
【0037】
トリポード部材2は図1に示すようにボス8と脚軸9とを有する。ボス8にはシャフト(図示省略)とトルク伝達可能に結合するスプライン又はセレーション孔11が形成してある。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材2の各脚軸9はローラ3を回転可能に支持している。
【0038】
脚軸9とローラ3との間には複数の針状ころ12が配設されている。これらの針状ころ12は、脚軸9の基端方向では、脚軸9の基端側外周面に装着されたインナーワッシャ13で位置規制される。脚軸9の先端方向では、脚軸9の先端側に設けられたアウターワッシャ14によって位置規制と抜け止めがされる。脚軸9の先端側外周面には周方向溝10が形成され、この周方向溝10に止め輪wが装着される。止め輪wの内側(脚軸基端側)の脚軸9外周面に上記アウターワッシャ14が嵌合される。
【0039】
この外側継手部材1は、マウス部4とフランジ部5とが別部材にて形成され、これらが、凹凸嵌合構造Mにて一体化されている。マウス部4は底壁4cを有し、この底壁4cに短軸部15が形成され、フランジ部5は、嵌合孔16を有する平板体からなり、短軸部15にこのフランジ部5の嵌合孔16が凹凸嵌合構造Mを介して嵌合される。なお、フランジ部5には、他部材に取り付けるための取り付け孔18が設けられている。すなわち、図3に示すように、フランジ部5の外径側に外径方向膨出部19が周方向に沿って所定ピッチ(図例では、60度ピッチ)で配設され、この外径方向膨出部19に取り付け孔18が設けられる。
【0040】
凹凸嵌合構造Mは、図4に示すように、フランジ部5の嵌合孔16の内径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の軸方向に延びる凸部35と、マウス部4の短軸部15の外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の軸方向に延びる凹部36とからなる。この場合、凸部35が短軸部15の外径面に食い込むことによって、マウス部4とフランジ部5とが一体化される。
【0041】
フランジ部5の嵌合孔16の内径面に、図4(b)に示すように、凸条22と凹条23とからなる雌スプライン20を形成し、この凸条22をもって凸部35を構成している。なお、この雌スプライン20は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方向によって形成することができる。
【0042】
この場合、図4(a)に示すように、前記雌スプライン20の凸条にて構成される凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(短軸部15の外径面)の位置に対応する。すなわち、凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小径寸法)D1を、短軸部15の外径面の外径寸法D3よりも小さく、スプライン20の凹部の底を結ぶ円の径寸法(凸部間の内径寸法)D2を短軸部15の外径面の外径寸法D3よりも大きく設定する。すなわち、D1<D3<D2とされる。
【0043】
図4(b)に示すように、凹部36を形成すべき部材(短軸部15)に対する凸部35の圧入代をΔdとし、凸部35の高さをhとしたときに、0.3<Δd</2h<0.86に設定する。これによって、凸部の圧入による凹部形成が安定するとともに、形成後の凹部36への凸部35の嵌合性が安定し、凸部35とこれに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着する。ここで、嵌合接触部位38とは、図4(b)に示す範囲Aであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、短軸部15の外径面よりも外径側に隙間21が形成される。
【0044】
また、フランジ部5の嵌合孔16の内径面の凸部35には熱硬化処理が施される。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。この場合、熱硬化処理範囲としては、凸部35の表面全体に施しても、凹部36と嵌合する範囲のみ施すようにしてもよい。また、フランジ部5全体に熱硬化処理を施すようにしてよい。
【0045】
これに対して、短軸部15の外径面においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。凸部35の硬化層と短軸部15の外径面未硬化部との硬度差は、例えば、HRCで25ポイント以上とする。
【0046】
ところで、この等速自在継手では、図1に示すように、フランジ部5に短軸部15からの軸方向の抜けを規制する抜け止め構造部Sを設けている。ここで、抜け止め構造部Sは、短軸部15の外径面に設けられる外鍔部24からなり、フランジ部5が前記凹凸嵌合構造Mを介して一体化された状態で、反底壁側に配置される。このため、フランジ部5のマウス部側端面5aが底壁4cと当接して、底壁4cと外鍔部24とでフランジ部5を挟持することになる。なお、反マウス部側端面5bには円形突起部17が設けられる。この場合、円形突起部17の突起量(高さ寸法)は前記外鍔部24の肉厚と略同一に設定される。
【0047】
また、図6に示すように、凸部35の圧入開始端面の頂部(外径側)に、傾斜角θが45°以下の面取部25が設けられている。さらに、面取部25と凸部35の側面とのコーナ部を、丸みのない角部としている。すなわち、面取部25と凸部35の周面(側面)とが直線的に交わることによって構成された山形の稜(多面体の隣り合った二つの面が交わってなす辺)を意味する。よって、角部にC面取りを施したものは除外されることとなるが、肉眼でC面取りがないと認められても、微視的に観察すればC面取り状のものが形成されていると認められる場合がある。以上の事情から、本発明において、0.1mm以下のR面取りあるいは0.1mm以下のC面取りが形成された角部は、「丸みのない角部」に含まれるものとする。
【0048】
次に、図1に示す等速自在継手の外側継手部材1の製造方法を説明する。この場合、まず、マウス部4とフランジ部5とを別部材として形成する。この際、マウス部4の外径面及び内径面を加工精度の良い冷間鍛造加工にて仕上げることができる。そして、図5と図6等に示すように、マウス部4の短軸部15として、基部側(底壁側)の大径部15aと、軸方向中間部の小径部15bと、先端部のテーパ部15cとを有するものとする。なお、小径部15bの外径をD4としたときに、D4<D1と設定する。
【0049】
そして、図5に示すように、フランジ部5の嵌合孔16に、マウス部4の短軸部15の小径部15bを嵌入した状態とする。この状態において、フランジ部5をマウス部4の底壁4cに相対的に接近させていく。この際、D1<D3<D2であり、しかも、凸部35の硬度が短軸部15の大径部15aの外径面の硬度よりも25ポイント以上大きいので、フランジ部5をマウス部4の短軸部15に圧入していけば、この凸部35がマウス部4の短軸部15の外径面に食い込んでいき、図4に示すように、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を、軸方向に沿って形成していくことになる。この圧入は、図7に示すように、フランジ部5のマウス部側の端面5aがマウス部4の底壁4cのバックフェース28に当接するまで行われる。このため、短軸部15の大径部15aの軸方向長さと、フランジ部5の肉厚とを略同一に設定している。
【0050】
このような場合、圧入することによって、相手側の凹部形成面(この場合、短軸部15の大径部15aの外径面)に凸部35の形状の転写を行うことになる。すなわち、凸部35が短軸部15の大径部15aの外径面を削りとって凹部36を形成し、嵌合孔16が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、嵌合孔16が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時に嵌合孔16が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
【0051】
すなわち、フランジ部側の雌スプライン20(図4(b)参照)によって、短軸部15の外径面に、雌スプライン20に密着する雄スプライン26が形成される。これによって、図4に示すように、凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。この場合、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。なお、嵌合接触部位38の全体が密着しているには、嵌合接触部位38の極一部領域に凸部による凹部形成過程で不可避的に隙間が生じる場合も含むものとする。
【0052】
圧入工程が終了すれば、図8に示すように、短軸部15の小径部15bの外径部を圧潰して外鍔部24を形成する加締工程を行う。すなわち、筒状体からなる押圧体30を有する加締工具31を用いる。この場合、押圧体30は、その外径が短軸部15の大径部15aの外径よりも大径に設定されるとともに、その内径が短軸部15の先端面(テーパ部15cの先端面)の外径よりも小さく設定している。
【0053】
短軸部15の軸心と押圧体30の軸心とを一致させた状態で、この押圧体30の端面30aを短軸部15の端面に押し当てて加圧する。これによって、短軸部15の小径部15bの外径部が押し潰されて、前記外鍔部24が形成され、マウス部4とフランジ部5との接合作業が終了する。
【0054】
ところで、凹凸嵌合構造Mを形成する場合、前記したように、凸部35を短軸部15の外周面に食い込ませていくものであるので、図9に示すようなはみ出し部32が形成される。このため、図9に示す等速自在継手では、マウス部4にこのはみ出し部32を収納するポケット部33が設けられている。ここで、はみ出し部32は、凸部35が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。
【0055】
マウス部4の底壁4cのバックフェース28における短軸部15の付け根部側に周方向溝を形成し、この周方向溝34をもって前記ポケット部33を構成する。また、この場合の凸部35の圧入開始端面35aにおける軸方向に対する角度(傾斜角)θとしては、図12に示すように、80°〜110°程度に設定される。
【0056】
図9に示す等速自在継手の他の構成は、図1に示す等速自在継手と同様の構成である。このため、この図9に示す等速自在継手を組み立てる場合、前記図5〜図8等に示す工程と同様な図11〜図14に示すよう工程を行うことになる。この場合、フランジ部5をマウス部4の短軸部15に圧入していけば、この凸部35がマウス部4の短軸部15の外径面に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を、軸方向に沿って形成していくことになる。この際、圧入によって形成されるはみ出し部32が図13に示すようにマウス部4側のポケット部33に収納(収容)される。その後は、図14に示すように、短軸部15の小径部15bの外径部を圧潰して外鍔部24を形成する加締工程を行う。
【0057】
このように、図1や図9等に示す等速自在継手では、凸部35が相手部材に食い込むことによって、マウス部4とフランジ部5とを一体化するものである。このため、マウス部4とフランジ部5との接合に溶接を用いる必要がない。しかも、凸部35が相手部材に食い込むものであるので、一体化した状態では、安定した接合力を発揮することができる。
【0058】
しかも、凸部35と凹部36との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成するものであるので、マウス部4とフランジ部5との間のガタツキを解消することができ、等速自在継手として安定したトルク伝達を可能とする。
【0059】
面取部24を設けることによって、圧入時の圧入力の軽減を図ることができて、食い込み性の向上を図ることができ、連結作業の簡略化を図ることができる。
【0060】
凸部35の圧入開始端面の軸方向に対して80°〜110°を成すように構成した場合、圧入の際、凸部35により相手部材に形成される凹部36から材料が切削乃至押し出されやすくなり相手部材に対して安定した圧入力でもって圧入していくことができ、圧入作業性の向上を図ることができる。丸みのない角部を設けることによって、圧入時にこの角部が相手部材に対して切り込んで行くことができ、圧入力の軽減を図ることができ、連結作業の時間の短縮及び作業性の向上を図ることができる。
【0061】
凸部35の圧入代を前記のように設定することによって、凹部形成及び凸部35の凹部36への嵌合性が安定し、圧入荷重のばらつきもなく、安定した捩り強度を得ることができる。
【0062】
抜け止め構造部Sを設けたものでは、安定した連結状態を維持できる。特に、マウス部4とフランジ部5に曲げ力等が付加された場合であっても、安定した連結状態を維持できる。等速自在継手として長期にわたって安定した機能を発揮することができる。マウス部4の外径面及び内径面を鍛造加工にて仕上げることによって、機械加工仕上げを省略でき、低コスト化を図ることができる。
【0063】
ところで、図9に示すように、ポケット部33を設けていなければ、はみ出し部32が形成された場合、形成されたまま使用されれば、使用中にはみ出し部32が剥がれるおそれがあり、剥がれれば、このはみ出し部32が等速自在継手外へ排出され、この等速自在継手が用いる装置に悪影響を与える。このため、ポケット部33が無ければ、はみ出し部32の除去作業を行う必要があり、作業工程が増加することになって、生産性に劣ることになる。
【0064】
これに対して、ポケット部33が設けられていれば、はみ出し部32をポケット部33内に収納したままにしておくことができ、はみ出し部32の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0065】
次に、図15はダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を示し、この等速自在継手は、内径面42にトラック溝41が形成された外側継手部材43と、外径面45にトラック溝44が形成された内側継手部材46と、外側継手部材43のトラック溝41と内側継手部材46のトラック溝44との間に介在されるトルク伝達部材としてのボール47と、ボール47を保持するケージ48とを備える。
【0066】
外側継手部材43は、内径面42にトラック溝41が形成された筒状のマウス部50と、このマウス部50の外径面の軸方向端部に装着されるフランジ部51とを備える。また、フランジ部51には、他部材に取り付けるための取り付け孔60が設けられている。すなわち、図17に示すように、フランジ部51の外径側に外径方向膨出部61が周方向に沿って所定ピッチ(図例では、60度ピッチ)で配設され、この外径方向膨出部61に取り付け孔60が設けられる。
【0067】
嵌合孔52の内径面に、図18等に示すように、複数の凸条と複数の凹条とが交互に配設されてなる雌スプライン71を形成し、この雌スプライン71の凸条をもって凸部35Aを構成することになる。また、マウス部50の外径面の軸方向端部には、周方向切欠部(小径部)65を形成する。そして、凸部35Aの頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35Bの最小径寸法)D1Aを、マウス部50の周方向切欠部(小径部)65の外径面の外径寸法D3Aよりも小さく、スプライン71の凹条の底を結ぶ円の径寸法(凸部間の内径寸法)D2Aをマウス部50の周方向切欠部(小径部)65の外径面外径寸法D3Aよりも大きく設定する。すなわち、D1A<D3B<D2Bとされる。
【0068】
また、前記凸部35と同様凸部35Aには熱硬化処理が施される。この場合も、熱硬化処理範囲としては、凸部35Aの表面全体に施しても、図4に示すように、凹部36Aと嵌合する範囲のみ施すようにしてもよい。周方向切欠部(小径部)65側を未硬化部とする。これによって、凸部35Aの硬化層と周方向切欠部(小径部)65の外径面未硬化部との硬度差を、例えば、HRCで25ポイント以上とする。
【0069】
フランジ部51の反マウス部側の端面51bにおける嵌合孔52の外周部には周方向凸部53を設ける。そして、この周方向凸部53内にエンドプレート55を嵌着する。エンドプレート55は、円盤状の本体部55aと、この本体部55aの外周縁から軸方向外方へ延びる短円筒部55bとからなる。エンドプレート55が周方向凸部53内に嵌着された状態では、エンドプレート55の本体部55aのマウス部側端面57の外周部が、フランジ部51の反マウス部側端面における周方向凸部53よりも内径側の端面56乃至凸部35Aの圧入終端面に当接乃至圧接するとともに、エンドプレート55の短円筒部55bの外周面58が周方向凸部53の内周面59に当接乃至圧接する。
【0070】
なお、この図15に示す等速自在継手の外側継手部材の凸部35Aの他の構成は、前記図1に示す等速自在継手の外側継手部材の凸部35と同様であるので、これらについての説明を省略する。
【0071】
次に図15に示す等速自在継手の外側継手部材の組立方法を説明する。図18に示すように、マウス部50の軸心とフランジ部51の軸心とを一致させる。この状態で、フランジ部51の嵌合孔52に、マウス部50の周方向切欠部(小径部)65が嵌入されるように、周方向切欠部(小径部)65にフランジ部51を押し込む。すなわち、フランジ部51側の凸部35Aをマウス部50の周方向切欠部(小径部)65の外径面に圧入して食い込ませる。
【0072】
この圧入は、圧入開始端面35aが周方向切欠部(小径部)65の切欠端66に当接するまで行われる。これによって、図19に示す状態となる。そして、この圧入工程終了後は、エンドプレート55を周方向凸部53に内嵌させることによって、この外側継手部材の組立作業が終了する。
【0073】
この図15に示す外側継手部材43も、マウス部50とフランジ部51とが凹凸嵌合構造Mを介して一体化されるものであるので、前記図1に示す外側継手部材4と同様の作用効果を奏する。なお、この図15に示す外側継手部材43においては、エンドプレート55を装着する工程を必要とするが、加締工具による加締工程を必要としない。加締めによる抜け止めの要否は、凹凸嵌合構造部の強度による。嵌合径が十分大きければ図15のように加締めを省略することができる。このため、図1に示す等速自在継手の外側継手部材1よりも組立作業性に優れる。
【0074】
ところで、前記図15に示す外側継手部材では、加締めを省略していたが、このようなタイプの外側継手部材であっても、加締を行って、図20に示すように、抜け止め構造部Sを形成したのであってもよい。すなわち、マウス部50にフランジ部51を圧入した後、マウス部50のフランジ部側端部の外径部を圧潰して加締部67を形成する加締工程を行う。
【0075】
この場合、図23等に示すように、マウス部50のフランジ部側端部に、大径の第1周方向切欠部65aと、この周方向切欠部65aよりも小径の第2周方向切欠部65bとを有する周方向切欠部65を設ける。また、フランジ部51の内径面には、凹凸嵌合構造Mの凸部35Aを周方向に沿って所定ピッチで設ける。すなわち、このフランジ部51は前記図15に示すフランジ部51と同一構成である。そして、第2周方向切欠部65bの外径寸法D11を凸部35Aの頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35Aの最小径寸法)D1よりも小さく設定するとともに、第1周方向切欠部65aの外径寸法D10を、前記D1よりも大きく、凸部間の内径寸法D2よりも小さく設定する。すなわち、D1<D10<D2とする。
【0076】
次に、図20に示す外側継手部材の組立方法を説明する。まず、図24に示すように、マウス部50の第2周方向切欠部65bをフランジ部51の嵌合孔52に嵌合させた状態とする。この状態から、この嵌合孔52に第1周方向切欠部65aが嵌入されるように、第1周方向切欠部65aにフランジ部51を押し込む。すなわち、フランジ部51側の凸部35Aを第1周方向切欠部65aの外径面に圧入して食い込ませる。
【0077】
この圧入は、図21に示すように、凸部35Aの圧入開始端35aが第1周方向切欠部65aの切欠端66aに当接するまで行われる。この圧入工程終了後に、図25に示すように、第2周方向切欠部65の外径部を圧潰して加締部67を形成する加締工程を行う。
この場合も、図25に示すような筒状体からなる押圧体30を有する加締工具31を用いる。この外側継手部材43の場合、図22に示すように、加締部67が周方向に沿って所定ピッチで複数箇所(図例では8箇所)設けられるものであるので、押圧体30には、これに対応して、先端面に周方向に沿って所定ピッチで配設される押圧部29が設けられている。
【0078】
この加締工具31では、押圧体30とマウス部50とを軸心合わせを行った状態で、押圧部29の内径面がマウス部50の第2周方向切欠部65bの外径面よりも内径側に位置し、押圧部29の外径面が第1周方向切欠部65aの外径面よりも外径側に位置している。
【0079】
そして、マウス部50の軸心と押圧体30の軸心とを一致させた状態で、この押圧体30の押圧部29の端面29aをマウス部50の端面に押し当てて加圧する。これによって、第2周方向切欠部65bの外径部が押し潰されて、前記加締部67が形成され、マウス部50とフランジ部51との接合作業が終了する。その後、エンドプレート55を周方向凸部53に内嵌させることによって、この外側継手部材43の組立作業が終了する。
【0080】
このように、図20に示すような外側継手部材43であっても、加締部67からなる抜け止め構造部Sを構成することによって、より安定した連結力を付加することができる。
【0081】
前記各実施形態では、凹凸嵌合構造Mの凸部35(35A)をフランジ部5(51)に設けたものであったが、図26に示す外側継手部材43では、図28等に示すように、凹凸嵌合構造Mの凸部35Bをマウス部50側に設けている。すなわち、マウス部50の外径面の軸方向一端部に、周方向に沿って所定ピッチで配設される凸部35Bを有する周方向切欠部(小径部)74を設ける。この場合、図29に示すように、周方向切欠部(小径部)74(図30等参照)に、複数の凸条76と複数の凹条77とを交互に配設されてなる雄スプライン75を形成し、この雄スプライン75の凸条76でもって凸部35Bを構成する。
【0082】
また、フランジ部51は嵌合孔52の外周部が肉厚とされ、嵌合孔52の内径面は、反マウス部側の小径部52aと、凹凸嵌合構造Mの凹部36Bを構成する中径部52bとを有する。また、接合前においては、マウス部側の端面51aにおける嵌合孔52外周部に周方向鍔部72が設けられている。この周方向鍔部72の内径は、前記中径部52bの径寸法よりも大径である。そして、図26及び図27に示すように、組立後の外側継手部材43では、この周方向鍔部72が内径側の加締られて抜け止め構造部Sを構成するストッパ73を形成している。
【0083】
この場合、凸部35Bの頂点を結ぶ円の径寸法をD6とし、雄スプライン75の凹条の底を結ぶ円の径寸法をD7とし、嵌合孔52の中径部52bの径寸法をD8としたとき、D7<D8<D6となるように設定する。
【0084】
この凸部35Bは、凸部35Aと同様に熱硬化処理が施される。この場合も、熱硬化処理範囲としては、凸部35Bの表面全体に施しても、図4に示すように、凹部36Aと嵌合する範囲のみ施すようにしてもよい。嵌合孔52の中径部52bの内径面を未硬化部とする。これによって、凸部35Bの硬化層と嵌合孔52の中径部52bの内径面未硬化部との硬度差を、例えば、HRCで25ポイント以上とする。
【0085】
この凸部35Bの圧入端面35aの角度(傾斜角)θは、前記図12に示す凸部35と同様、80度〜110度に設定される。なお、この凸部35Bの他の構成は、前記図1に示す外側継手部材の凸部35と同様であるので、それらの説明は省略する。
【0086】
また、嵌合孔52の小径部52aにエンドプレート55が嵌合される。このため、嵌合孔52の小径部52aの内径面は、トラック溝41よりも外径側に配置される。エンドプレート55が嵌合された際に、エンドプレート55の本体部55aのマウス部側の端面外周部57がマウス部50のプレート側の端面80に当接乃至圧接する。また、エンドプレート55の短円筒部55bの外周面58が小径部52aの内周面81に当接乃至圧接する。
【0087】
次に、図26に示す外側継手部材の組立方法を説明する。まず、図30に示すように、マウス部50の凸部35Bの圧入開始端部を、加締前の周方向鍔部72内に嵌合状として、マウス部50の軸心とフランジ部51の軸心とを合わせた状態とする。そして、マウス部50とフランジ部51とを相対的に接近させることによって、マウス部50の凸部35Bを、フランジ部51の嵌合孔52の中径部52bの内径面に圧入させて食い込ませていく。この場合、図31に示すように、マウス部50の軸方向端面と嵌合孔52の小径部52aと中径部52bとの間の段差面52cとが当接するまで行われる。
【0088】
このような場合、圧入することによって、相手側の凹部形成面(この場合、フランジ部51の嵌合孔52の中径部52bの内径面)に凸部35の形状の転写を行うことになる。すなわち、凸部35が中径部52bの内径面を削りとって凹部36を形成し、フランジ部51の嵌合孔52が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、フランジ部51の嵌合孔52が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時に嵌合孔52が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。すなわち、マウス部50側の雄スプライン75によって、フランジ部51の嵌合孔52の中径部52bの内径面に、雄スプライン75に密着する雌スプライン78が形成される。これによって、図29に示すように、マウス部50の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。この場合、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。なお、嵌合接触部位38の全体が密着しているには、嵌合接触部位38の極一部領域に凸部による凹部形成過程で不可避的に隙間が生じる場合も含むものとする。
【0089】
すなわち、図30に示すように、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の嵌合接触部位(凹部嵌合部位)38とは、図229に示す範囲Bであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、嵌合孔52の内径面よりも内径側に隙間80が形成されている。なお、圧入する場合、油圧プレス等の一般的なプレス設備で可能である。
【0090】
ところで、前記図26の実施形態では、マウス部50の圧入開始側の端面の外径部には、周方向切欠部94(図27参照)が設けられている。このため、図27等に示すように、圧入完了状態で、この周方向切欠部94の開口部が、嵌合孔52の段差面52cと、中径部52bとによって塞がれることになる。したがって、圧入によってはみ出し部32が形成されれば、この周方向切欠部94が、はみ出し部32が収納されるポケット部93を構成することになる。つまり、はみ出し部32を収納するポケット部93がマウス部50側に形成されることになる。
【0091】
なお、図26に示す外側継手部材において、マウス部50の圧入開始側の端面に周方向切欠部94を設けることなく、嵌合孔52の段差面等に凹周溝を設ければ、この凹周溝をもってポケット部を構成することができる。
【0092】
このように、圧入によって、凹凸嵌合構造Mを形成して、マウス部50とフランジ部51とを接合した後、図32に示すように、加締工具90にて、周方向鍔部72を内径側へ湾曲させる加締工程を行う。加締工具90は、マウス部50に対して外嵌可能な筒状態からなる押圧体91を備える。押圧体91の押圧側端面の内径端部には、面取り部92が形成されている。
【0093】
このため、反フランジ部側の開口部から押圧体91を外嵌し、この押圧体91を、フランジ部51側へ押圧して、押圧体91の面取り部92にて周方向鍔部72の端部外径部が内径側へ折れ曲がる(湾曲する)ように押圧する。これによって、凸部35Bの圧入終端面35bに係止状となる抜け止め構造Sが形成される。このような抜け止め構造Sが形成されることによって、フランジ部51に対する反圧入方向のマウス部50の抜けが規制される。なお、フランジ部51に対する圧入方向のマウス部50の抜けは、嵌合孔52の段差面52cによって規制される。
【0094】
凸部35がマウス部50側に設けたものであっても、凹凸嵌合構造Mを介してマウス部50とフランジ部51とが接合されるものであるので、前記図1等に示す外側継手部材と同様に作用効果を奏する。
【0095】
ところで、図29等に示す凸部35の断面形状は、頂部がアール状の三角形であったが、図33(a)に示すように台形状であっても、図33(b)に示すように、斜面が凸曲面となる台形状であってもよい。さらには、図34(a)に示すように、断面が三角形状であっても、図34(b)に示すように、断面が矩形状であってもよい。
【0096】
前記図29に示す雄スプライン75では、凸部のピッチと凹部のピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
【0097】
これに対して、図33(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、雄スプライン75において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するフランジ部51側の凸部の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
【0098】
このため、マウス部50全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、フランジ部51側の凸部の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、フランジ部51側の凸部のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、相手側の凸部における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
【0099】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、外側継手部材として、摺動式等速自在継手の外側継手部材であったが、固定式等速自在継手の外側継手部材であってもよい。また、摺動式等速自在継手として、トリポード型やダブルオフセット型に限らず、クロスグルーブ型であってもよい。また、固定式等速自在継手として、バーフィールド型(BJ)やアンダーカットフリー型(UJ)等であってもよい。なお、トリポード型等速自在継手として、いわゆるシングルローラタイプであっても、内側ローラと外側ローラとを備えたいわゆるダブルローラタイプ等であってもよい。
【0100】
前記実施形態の外側継手部材は、ドライブシャフトの等速自在継手に用いる外側継手部材であったが、プロペラシャフト(推進軸)に用いる外側継手部材であってもよい。プロペラシャフトは、例えば、エンジン、クラッチ(回転動力を断続させる装置)、トランスミッション(変速機)が車体前方に配置され、減速歯車装置(ディファレンシャル)、駆動車軸が車体後方に配置されるFR車(エンジンが車体前部に配置され、後輪が駆動する車)において、車体前方から車体後方に動力を伝達するのに用いられる。このため、プロペラシャフトは、その両端に等速自在継手が装着され、トランスミッションとディファレンシャルとの間の相対位置の変化による長さと角度の変化に対応しながら回転トルクを伝達し得る構造となっている。すなわち、このプロペラシャフトは、中間シャフトと、この中間シャフトの両端に装着された一対の摺動型等速自在継手とで主要部が構成されている。
【0101】
凸部35として、前記実施形態以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、雄スプラインを形成し、この雄スプラインの凸部(凸歯)をもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができればよい。
【0102】
さらに、凸部35を相手部材に圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、相手部材より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。隙間21(80)が形成されるが、このような隙間21(80)を設けないものであってもよい。
【0103】
また、図33と図34に示す形状の凹凸嵌合構造Mは、マウス部50側に凸部35が形成されたものであるが、このような形状の凹凸嵌合構造Mの凸部35としてフランジ部5(51)側に設けたものであってもよい。
【0104】
図1に示すタイプの外側継手部材1において、抜け止め構造部Sが周方向全周にわたって外径方向に膨出する外鍔部24にて構成していたが、このような外鍔部24に代えて、図22に示すように、周方向に所定ピッチで配設される加締部67でもって抜け止め構造部Sを構成してもよい。また、図20に示すタイプの外側継手部材43において、抜け止め構造部Sを、周方向全周にわたって外径方向に膨出する外鍔部24にて構成してもよい。なお、図22に示すように、抜け止め構造部Sを周方向に所定ピッチで配設される加締部67でもって構成する場合、その数、配設ピッチ、肉厚、周方向長さ、外径方向突出量等は、加締加工が可能で、抜け止め機能を発揮する範囲で種々変更できる。また、図1に示すように、抜け止め構造部Sを周方向全周にわたって外径方向に膨出する外鍔部24にて構成する場合も、肉厚や外径方向突出量等は、加締加工が可能で、抜け止め機能を発揮する範囲で種々変更できる。
【符号の説明】
【0105】
1 外側継手部材
4 マウス部
4c 底壁
5 フランジ部
15 短軸部
16 嵌合孔(嵌合孔)
32 はみ出し部
33 ポケット部
35a 圧入開始端面
35、35A、35B 凸部
36、36A、36B 凹部
38 嵌合接触部位
43 外側継手部材
50 マウス部
51 フランジ部
52 嵌合孔(嵌合孔)
M 凹凸嵌合構造
S 抜け止め構造部
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手用外側継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手は、一般には、トラック溝が内面に形成された外側継手部材を備える。そして、外側継手部材には、カップ状のマウス部(外側本体部材)と、このマウス部から突設されるフランジ部(フランジ部材)とから構成されるものがある。このような外側継手部材を形成する場合、マウス部とフランジ部とを別々に製造した後、外側本体部材とフランジ部材とを接合する(特許文献1)。
【0003】
すなわち、このような外側継手部材を用いた等速自在継手は、図35に示すように、複数のトラック溝100を有する外側継手部材101と、この外側継手部材101に内装される内側継手部材102とを備える。内側継手部材102には転動輪104が付設されている。外側継手部材101は、内周面に前記トラック溝100が形成された筒状の外側本体部材105と、この外側本体部材105の底壁106側に外嵌固定されるフランジ部材107とからなる。
【0004】
図35に示す等速自在継手では、筒状の外側本体部材105と、フランジ部材107とを別々に製造した後、外側本体部材105とフランジ部材107とを接合する。すなわち、フランジ部材107を外側本体部材105に外嵌(圧入)し、その嵌合部を溶接することによって、外側本体部材105にフランジ部材107を取付けていた。なお、外側本体部材105は、トラック溝100のためにその外周面に周方向に所定ピッチで配設される凸部が形成され、これに対応してフランジ部材107の内周面に凹部が形成されている。
【0005】
図35に示す等速自在継手は、ブーツ108を備え、ブーツ大径部109が外側継手部材101に固定され、ブーツ小径部110が内側継手部材102から延びるシャフト111に固定されている。
【0006】
また、図36に示すように、外側本体部材115と、フランジ部材117とを摩擦圧接にて一体化するものも提案されている(特許文献2)。この場合、外側本体部材115の底壁115に短円筒部120を形成するとともに、フランジ部材117の外側本体部材側の端面に、前記短円筒部120に相対面する短円筒部121を形成する。
【0007】
そして、外側本体部材115側の短円筒部120の円形端面と、フランジ部材117側の短円筒部121の円形端面とを摩擦圧接にて接合するものである。摩擦圧接は、接合する部材同士を高速で擦り合わせ、そのときに生じる摩擦熱によって部材を軟化させると同時に圧力を加えて接合するものである。このため、従来のような圧入工程及び溶接工程等を行うことなく接合することができる。
【0008】
また、従来、外側本体部材105とフランジ部材107とを別々に製造せずに、フランジ部が一体に形成された外側継手部材もある。この場合、冷間鍛造や熱間鍛造等にて一体成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−281172号公報
【特許文献2】特開2007−56945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図35に示すように、外側本体部材105とフランジ部材107とを溶接にて接合する場合、安定した接合を確保するためには、各部材の選択肢の幅が狭くなり、使用する環境等に応じた種々のものを構成することができなかった。しかも、溶接設備及び接合後の製品検査等にかかるコストも大となっていた。
【0011】
摩擦溶接の場合、圧接時には、図36に示すように、バリ(カエリ)122が形成される。このため、このカエリ除去作業を必要とする。従って、生産性に劣るとともに、コスト高となっていた。また、圧接時の熱による内部形状の変形、圧接条件の管理や圧接部の品質確認等といった工程増を招くことになる。
【0012】
また、フランジ部の形状が複雑であるので、冷間鍛造ではその加工度が大きく困難である。熱間鍛造では、鍛造工程後に、内部形状をブローチ加工等の別加工をする必要があり、製造工数が多くなっていた。
【0013】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、溶接や摩擦圧接等の接合手段を用いることなく、別部材として形成されたマウス部(外側継手部材本体)とフランジ部(フランジ部材)とを安定した接合力で接合して構成することが可能な等速自在継手用外側継手部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の等速自在継手用外側継手部材は、カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、マウス部の底壁外面中央部に短軸部を設けるととともに、フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部の短軸部の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、短軸部とフランジ部とを一体化したものである。
【0015】
本発明の第2の等速自在継手用外側継手部材は、カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部のフランジ部側の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、マウス部とフランジ部とを一体化したものである。
【0016】
本発明の第1および第2の等速自在継手用外側継手部材によれば、凸部が相手部材に食い込むことによって、マウス部とフランジ部とを一体化するものである。このため、マウス部とフランジ部との接合に溶接を用いる必要がない。しかも、凸部が相手部材に食い込むものであるので、一体化した状態では、安定した接合力を発揮することができる。
【0017】
凸部の圧入開始端面の頂部側に、傾斜角が45°以下の面取部を設けるのが好ましい。このような面取部を設けることによって、圧入時の圧入力の軽減を図ることができる。
【0018】
凸部の圧入によって、相手部材に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成し、前記凹部が凸部で削り取られた部分を有するようにしてもよい。
【0019】
凸部の圧入開始端面を軸方向に対して80°〜110°を成すように構成してもよい。このように凸部の圧入開始端面の角度を設定することによって、凸部を相手部材側へ圧入する際、凸部により相手部材に形成される凹部から材料が切削乃至押し出されやすくなり、相手部材に対して安定した圧入力でもって圧入していくことができる。
【0020】
凸部の圧入開始端面の縁に、相手部材への圧入力軽減用の丸みのない角部を設けたものが好ましい。このような丸みのない角部を設けることによって、圧入時にこの角部が相手部材に対して切り込んで行くことになる。
【0021】
凸部を相手部材の圧入部位よりも硬度を高くするとともに、この硬度差をHRC25以上とするのが好ましい。このような硬度差によって、凸部の相手部材への圧入性の向上を図ることができる。
【0022】
凹部を形成すべき部材に対する凸部の圧入代をΔdとし、凸部の高さをhとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86に設定するのが好ましい。このよう設定することによって、凸部の圧入による凹部形成が安定するとともに、形成後の凹部への凸部の嵌合性が安定する。
【0023】
マウス部とフランジ部との間に、加締にて形成される抜け止め構造部を設けるのが好ましい。また、通常は圧入によって材料のはみ出し部が形成される。このため、このはみ出し部を収容するポケット部をマウス部側に設けたりフランジ部側に設けたりすることができる。
【0024】
マウス部の外径面及び内径面が鍛造加工にて仕上げるようにできる。これは、マウス部とフランジ部とを別々に加工し、加工精度の良い冷間鍛造で成形できることによる。
【0025】
この外側継手部材が構成する等速自在継手としては、角度変位と軸方向変位とを許容する摺動型等速自在継手であっても、角度変位のみを許容する固定型等速自在継手であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1及び第2の等速自在継手用外側継手部材では、マウス部とフランジ部との接合に溶接を用いる必要がないので、溶接工程において必要としていた工程の省略を図ることができ、作業時間の短縮及び加工コストの低減を図ることができる。また、溶接や摩擦圧接のように熱が発生しないため、マウス部に形成されるトラック溝の形状の熱による変形を防止できて、製品の高品質化を図ることができる。さらに、一体化した状態では、安定した接合力を発揮することができ、部材として安定する。
【0027】
面取部を設けることによって、圧入時の圧入力の軽減を図ることができて、食い込み性の向上を図ることができ、連結作業の簡略化を図ることができる。凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成したものでは、マウス部とフランジ部との間のガタツキを解消することができ、等速自在継手として安定したトルク伝達を可能とする。
【0028】
凸部の圧入開始端面の軸方向に対して80°〜110°を成すように構成した場合、圧入の際、凸部により相手部材に形成される凹部から材料が切削乃至押し出されやすくなり相手部材に対して安定した圧入力でもって圧入していくことができ、圧入作業性の向上を図ることができる。丸みのない角部を設けることによって、圧入時にこの角部が相手部材に対して切り込んで行くことができ、圧入力の軽減を図ることができ、連結作業の時間の短縮及び作業性の向上を図ることができる。
【0029】
凸部と相手部材の圧入部位との硬度差をHRC25以上とすることによって、凸部の相手部材への圧入性の向上を図ることができる。また、大きな圧入荷重を付与しないで済むので、形成される凹凸歯が損傷する(むしれる)のを防止でき、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が生じない凹凸嵌合構造を安定して構成することができる。凸部の圧入代を前記のように設定することによって、凹部形成及び凸部の凹部への嵌合性が安定し、圧入荷重のばらつきもなく、安定した捩り強度を得ることができる。
【0030】
抜け止め構造部を設けたものでは、安定した連結状態を維持できる。特に、マウス部とフランジ部に曲げ力等が付加された場合であっても、安定した連結状態を維持できる。等速自在継手として長期にわたって安定した機能を発揮することができる。
【0031】
マウス部の外径面及び内径面を鍛造加工にて仕上げることによって、機械加工仕上げを省略でき、低コスト化を図ることができる。
【0032】
外側継手部材が構成する等速自在継手としては、摺動型等速自在継手であっても、固定型等速自在継手であってもよく、種々のタイプの等速自在継手の外側継手部材に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態を示す第1の外側継手部材を用いた等速自在継手の断面図である。
【図2】前記図1の外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図3】前記図1の外側継手部材の側面図である。
【図4】前記図1の外側継手部材における凹凸嵌合構造を示し、(a)は横断面図であり、(b)は(a)のX部拡大図である。
【図5】前記図1の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図6】前記図5の要部拡大断面図である。
【図7】前記図1の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図8】前記図1の外側継手部材の組立方法を示し、加締加工状態の断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態を示す外側継手部材の断面図である。
【図10】前記図9に示す外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図11】前記図9の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図12】前記図9の要部拡大断面図である。
【図13】前記図9の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図14】前記図9の外側継手部材の組立方法を示し、加締加工状態の断面図である。
【図15】本発明の第3の実施形態を示す外側継手部材を用いた等速自在継手の断面図である。
【図16】前記図15の外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図17】前記図15の外側継手部材の側面図である。
【図18】前記図15の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図19】前記図15の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図20】本発明の第4の実施形態を示す外側継手部材の断面図である。
【図21】前記図20に示す外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図22】前記図20に示す外側継手部材の側面図である。
【図23】前記図20に示す外側継手部材の組立前の断面図である。
【図24】前記図20に示す外側継手部材の圧入開始状態の断面図である。
【図25】前記図20に示す外側継手部材の加締工程を示す断面図である。
【図26】本発明の第5の実施形態を示す外側継手部材の断面図である。
【図27】前記図26の外側継手部材の要部拡大断面図である。
【図28】前記図26の外側継手部材における凹凸嵌合構造を示す横断面図である。
【図29】前記図26の外側継手部材における凹凸嵌合構造の要部拡大断面図である。
【図30】前記図26の外側継手部材の組立方法を示し、圧入前の断面図である。
【図31】前記図26の外側継手部材の組立方法を示し、圧入後の断面図である。
【図32】前記図26の外側継手部材の組立方法を示し、加締加工状態の断面図である。
【図33】凹凸嵌合構造を示し、(a)は第1の変形例を示す拡大断面図であり、(b)は第2の変形例を示す拡大断面図である。
【図34】凹凸嵌合構造を示し、(a)は第3の変形例を示す拡大断面図であり、(b)は第4の変形例を示す拡大断面図である。
【図35】従来の外側継手部材を用いた等速自在継手の断面図である。
【図36】従来の他の外側継手部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0035】
図1は本発明に係る等速自在継手用外側継手部材(以下、単に外側継手部材と呼ぶ場合がある。)を用いた等速自在継手を示している。この等速自在継手は、トリポード型の摺動式等速自在継手である。トリポード型等速自在継手は、外側継手部材1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材としてのローラ3を主要な構成要素としている。
【0036】
外側継手部材1はマウス部4とフランジ部5とからなる。図3に示すように、マウス部4は一端で開口したカップ状であり、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝6が形成してある。マウス部4は、大径部4aと小径部4bとが交互に表れる非円筒形状であり、大径部4aの径方向内側にトラック溝6が形成されている。各トラック溝6の円周方向に向き合う側壁に、ローラ案内面7,7が形成されている。
【0037】
トリポード部材2は図1に示すようにボス8と脚軸9とを有する。ボス8にはシャフト(図示省略)とトルク伝達可能に結合するスプライン又はセレーション孔11が形成してある。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材2の各脚軸9はローラ3を回転可能に支持している。
【0038】
脚軸9とローラ3との間には複数の針状ころ12が配設されている。これらの針状ころ12は、脚軸9の基端方向では、脚軸9の基端側外周面に装着されたインナーワッシャ13で位置規制される。脚軸9の先端方向では、脚軸9の先端側に設けられたアウターワッシャ14によって位置規制と抜け止めがされる。脚軸9の先端側外周面には周方向溝10が形成され、この周方向溝10に止め輪wが装着される。止め輪wの内側(脚軸基端側)の脚軸9外周面に上記アウターワッシャ14が嵌合される。
【0039】
この外側継手部材1は、マウス部4とフランジ部5とが別部材にて形成され、これらが、凹凸嵌合構造Mにて一体化されている。マウス部4は底壁4cを有し、この底壁4cに短軸部15が形成され、フランジ部5は、嵌合孔16を有する平板体からなり、短軸部15にこのフランジ部5の嵌合孔16が凹凸嵌合構造Mを介して嵌合される。なお、フランジ部5には、他部材に取り付けるための取り付け孔18が設けられている。すなわち、図3に示すように、フランジ部5の外径側に外径方向膨出部19が周方向に沿って所定ピッチ(図例では、60度ピッチ)で配設され、この外径方向膨出部19に取り付け孔18が設けられる。
【0040】
凹凸嵌合構造Mは、図4に示すように、フランジ部5の嵌合孔16の内径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の軸方向に延びる凸部35と、マウス部4の短軸部15の外径面に周方向に沿って所定ピッチで配設される複数の軸方向に延びる凹部36とからなる。この場合、凸部35が短軸部15の外径面に食い込むことによって、マウス部4とフランジ部5とが一体化される。
【0041】
フランジ部5の嵌合孔16の内径面に、図4(b)に示すように、凸条22と凹条23とからなる雌スプライン20を形成し、この凸条22をもって凸部35を構成している。なお、この雌スプライン20は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方向によって形成することができる。
【0042】
この場合、図4(a)に示すように、前記雌スプライン20の凸条にて構成される凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(短軸部15の外径面)の位置に対応する。すなわち、凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小径寸法)D1を、短軸部15の外径面の外径寸法D3よりも小さく、スプライン20の凹部の底を結ぶ円の径寸法(凸部間の内径寸法)D2を短軸部15の外径面の外径寸法D3よりも大きく設定する。すなわち、D1<D3<D2とされる。
【0043】
図4(b)に示すように、凹部36を形成すべき部材(短軸部15)に対する凸部35の圧入代をΔdとし、凸部35の高さをhとしたときに、0.3<Δd</2h<0.86に設定する。これによって、凸部の圧入による凹部形成が安定するとともに、形成後の凹部36への凸部35の嵌合性が安定し、凸部35とこれに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着する。ここで、嵌合接触部位38とは、図4(b)に示す範囲Aであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、短軸部15の外径面よりも外径側に隙間21が形成される。
【0044】
また、フランジ部5の嵌合孔16の内径面の凸部35には熱硬化処理が施される。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。この場合、熱硬化処理範囲としては、凸部35の表面全体に施しても、凹部36と嵌合する範囲のみ施すようにしてもよい。また、フランジ部5全体に熱硬化処理を施すようにしてよい。
【0045】
これに対して、短軸部15の外径面においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。凸部35の硬化層と短軸部15の外径面未硬化部との硬度差は、例えば、HRCで25ポイント以上とする。
【0046】
ところで、この等速自在継手では、図1に示すように、フランジ部5に短軸部15からの軸方向の抜けを規制する抜け止め構造部Sを設けている。ここで、抜け止め構造部Sは、短軸部15の外径面に設けられる外鍔部24からなり、フランジ部5が前記凹凸嵌合構造Mを介して一体化された状態で、反底壁側に配置される。このため、フランジ部5のマウス部側端面5aが底壁4cと当接して、底壁4cと外鍔部24とでフランジ部5を挟持することになる。なお、反マウス部側端面5bには円形突起部17が設けられる。この場合、円形突起部17の突起量(高さ寸法)は前記外鍔部24の肉厚と略同一に設定される。
【0047】
また、図6に示すように、凸部35の圧入開始端面の頂部(外径側)に、傾斜角θが45°以下の面取部25が設けられている。さらに、面取部25と凸部35の側面とのコーナ部を、丸みのない角部としている。すなわち、面取部25と凸部35の周面(側面)とが直線的に交わることによって構成された山形の稜(多面体の隣り合った二つの面が交わってなす辺)を意味する。よって、角部にC面取りを施したものは除外されることとなるが、肉眼でC面取りがないと認められても、微視的に観察すればC面取り状のものが形成されていると認められる場合がある。以上の事情から、本発明において、0.1mm以下のR面取りあるいは0.1mm以下のC面取りが形成された角部は、「丸みのない角部」に含まれるものとする。
【0048】
次に、図1に示す等速自在継手の外側継手部材1の製造方法を説明する。この場合、まず、マウス部4とフランジ部5とを別部材として形成する。この際、マウス部4の外径面及び内径面を加工精度の良い冷間鍛造加工にて仕上げることができる。そして、図5と図6等に示すように、マウス部4の短軸部15として、基部側(底壁側)の大径部15aと、軸方向中間部の小径部15bと、先端部のテーパ部15cとを有するものとする。なお、小径部15bの外径をD4としたときに、D4<D1と設定する。
【0049】
そして、図5に示すように、フランジ部5の嵌合孔16に、マウス部4の短軸部15の小径部15bを嵌入した状態とする。この状態において、フランジ部5をマウス部4の底壁4cに相対的に接近させていく。この際、D1<D3<D2であり、しかも、凸部35の硬度が短軸部15の大径部15aの外径面の硬度よりも25ポイント以上大きいので、フランジ部5をマウス部4の短軸部15に圧入していけば、この凸部35がマウス部4の短軸部15の外径面に食い込んでいき、図4に示すように、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を、軸方向に沿って形成していくことになる。この圧入は、図7に示すように、フランジ部5のマウス部側の端面5aがマウス部4の底壁4cのバックフェース28に当接するまで行われる。このため、短軸部15の大径部15aの軸方向長さと、フランジ部5の肉厚とを略同一に設定している。
【0050】
このような場合、圧入することによって、相手側の凹部形成面(この場合、短軸部15の大径部15aの外径面)に凸部35の形状の転写を行うことになる。すなわち、凸部35が短軸部15の大径部15aの外径面を削りとって凹部36を形成し、嵌合孔16が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、嵌合孔16が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時に嵌合孔16が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。
【0051】
すなわち、フランジ部側の雌スプライン20(図4(b)参照)によって、短軸部15の外径面に、雌スプライン20に密着する雄スプライン26が形成される。これによって、図4に示すように、凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。この場合、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。なお、嵌合接触部位38の全体が密着しているには、嵌合接触部位38の極一部領域に凸部による凹部形成過程で不可避的に隙間が生じる場合も含むものとする。
【0052】
圧入工程が終了すれば、図8に示すように、短軸部15の小径部15bの外径部を圧潰して外鍔部24を形成する加締工程を行う。すなわち、筒状体からなる押圧体30を有する加締工具31を用いる。この場合、押圧体30は、その外径が短軸部15の大径部15aの外径よりも大径に設定されるとともに、その内径が短軸部15の先端面(テーパ部15cの先端面)の外径よりも小さく設定している。
【0053】
短軸部15の軸心と押圧体30の軸心とを一致させた状態で、この押圧体30の端面30aを短軸部15の端面に押し当てて加圧する。これによって、短軸部15の小径部15bの外径部が押し潰されて、前記外鍔部24が形成され、マウス部4とフランジ部5との接合作業が終了する。
【0054】
ところで、凹凸嵌合構造Mを形成する場合、前記したように、凸部35を短軸部15の外周面に食い込ませていくものであるので、図9に示すようなはみ出し部32が形成される。このため、図9に示す等速自在継手では、マウス部4にこのはみ出し部32を収納するポケット部33が設けられている。ここで、はみ出し部32は、凸部35が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。
【0055】
マウス部4の底壁4cのバックフェース28における短軸部15の付け根部側に周方向溝を形成し、この周方向溝34をもって前記ポケット部33を構成する。また、この場合の凸部35の圧入開始端面35aにおける軸方向に対する角度(傾斜角)θとしては、図12に示すように、80°〜110°程度に設定される。
【0056】
図9に示す等速自在継手の他の構成は、図1に示す等速自在継手と同様の構成である。このため、この図9に示す等速自在継手を組み立てる場合、前記図5〜図8等に示す工程と同様な図11〜図14に示すよう工程を行うことになる。この場合、フランジ部5をマウス部4の短軸部15に圧入していけば、この凸部35がマウス部4の短軸部15の外径面に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を、軸方向に沿って形成していくことになる。この際、圧入によって形成されるはみ出し部32が図13に示すようにマウス部4側のポケット部33に収納(収容)される。その後は、図14に示すように、短軸部15の小径部15bの外径部を圧潰して外鍔部24を形成する加締工程を行う。
【0057】
このように、図1や図9等に示す等速自在継手では、凸部35が相手部材に食い込むことによって、マウス部4とフランジ部5とを一体化するものである。このため、マウス部4とフランジ部5との接合に溶接を用いる必要がない。しかも、凸部35が相手部材に食い込むものであるので、一体化した状態では、安定した接合力を発揮することができる。
【0058】
しかも、凸部35と凹部36との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成するものであるので、マウス部4とフランジ部5との間のガタツキを解消することができ、等速自在継手として安定したトルク伝達を可能とする。
【0059】
面取部24を設けることによって、圧入時の圧入力の軽減を図ることができて、食い込み性の向上を図ることができ、連結作業の簡略化を図ることができる。
【0060】
凸部35の圧入開始端面の軸方向に対して80°〜110°を成すように構成した場合、圧入の際、凸部35により相手部材に形成される凹部36から材料が切削乃至押し出されやすくなり相手部材に対して安定した圧入力でもって圧入していくことができ、圧入作業性の向上を図ることができる。丸みのない角部を設けることによって、圧入時にこの角部が相手部材に対して切り込んで行くことができ、圧入力の軽減を図ることができ、連結作業の時間の短縮及び作業性の向上を図ることができる。
【0061】
凸部35の圧入代を前記のように設定することによって、凹部形成及び凸部35の凹部36への嵌合性が安定し、圧入荷重のばらつきもなく、安定した捩り強度を得ることができる。
【0062】
抜け止め構造部Sを設けたものでは、安定した連結状態を維持できる。特に、マウス部4とフランジ部5に曲げ力等が付加された場合であっても、安定した連結状態を維持できる。等速自在継手として長期にわたって安定した機能を発揮することができる。マウス部4の外径面及び内径面を鍛造加工にて仕上げることによって、機械加工仕上げを省略でき、低コスト化を図ることができる。
【0063】
ところで、図9に示すように、ポケット部33を設けていなければ、はみ出し部32が形成された場合、形成されたまま使用されれば、使用中にはみ出し部32が剥がれるおそれがあり、剥がれれば、このはみ出し部32が等速自在継手外へ排出され、この等速自在継手が用いる装置に悪影響を与える。このため、ポケット部33が無ければ、はみ出し部32の除去作業を行う必要があり、作業工程が増加することになって、生産性に劣ることになる。
【0064】
これに対して、ポケット部33が設けられていれば、はみ出し部32をポケット部33内に収納したままにしておくことができ、はみ出し部32の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0065】
次に、図15はダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を示し、この等速自在継手は、内径面42にトラック溝41が形成された外側継手部材43と、外径面45にトラック溝44が形成された内側継手部材46と、外側継手部材43のトラック溝41と内側継手部材46のトラック溝44との間に介在されるトルク伝達部材としてのボール47と、ボール47を保持するケージ48とを備える。
【0066】
外側継手部材43は、内径面42にトラック溝41が形成された筒状のマウス部50と、このマウス部50の外径面の軸方向端部に装着されるフランジ部51とを備える。また、フランジ部51には、他部材に取り付けるための取り付け孔60が設けられている。すなわち、図17に示すように、フランジ部51の外径側に外径方向膨出部61が周方向に沿って所定ピッチ(図例では、60度ピッチ)で配設され、この外径方向膨出部61に取り付け孔60が設けられる。
【0067】
嵌合孔52の内径面に、図18等に示すように、複数の凸条と複数の凹条とが交互に配設されてなる雌スプライン71を形成し、この雌スプライン71の凸条をもって凸部35Aを構成することになる。また、マウス部50の外径面の軸方向端部には、周方向切欠部(小径部)65を形成する。そして、凸部35Aの頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35Bの最小径寸法)D1Aを、マウス部50の周方向切欠部(小径部)65の外径面の外径寸法D3Aよりも小さく、スプライン71の凹条の底を結ぶ円の径寸法(凸部間の内径寸法)D2Aをマウス部50の周方向切欠部(小径部)65の外径面外径寸法D3Aよりも大きく設定する。すなわち、D1A<D3B<D2Bとされる。
【0068】
また、前記凸部35と同様凸部35Aには熱硬化処理が施される。この場合も、熱硬化処理範囲としては、凸部35Aの表面全体に施しても、図4に示すように、凹部36Aと嵌合する範囲のみ施すようにしてもよい。周方向切欠部(小径部)65側を未硬化部とする。これによって、凸部35Aの硬化層と周方向切欠部(小径部)65の外径面未硬化部との硬度差を、例えば、HRCで25ポイント以上とする。
【0069】
フランジ部51の反マウス部側の端面51bにおける嵌合孔52の外周部には周方向凸部53を設ける。そして、この周方向凸部53内にエンドプレート55を嵌着する。エンドプレート55は、円盤状の本体部55aと、この本体部55aの外周縁から軸方向外方へ延びる短円筒部55bとからなる。エンドプレート55が周方向凸部53内に嵌着された状態では、エンドプレート55の本体部55aのマウス部側端面57の外周部が、フランジ部51の反マウス部側端面における周方向凸部53よりも内径側の端面56乃至凸部35Aの圧入終端面に当接乃至圧接するとともに、エンドプレート55の短円筒部55bの外周面58が周方向凸部53の内周面59に当接乃至圧接する。
【0070】
なお、この図15に示す等速自在継手の外側継手部材の凸部35Aの他の構成は、前記図1に示す等速自在継手の外側継手部材の凸部35と同様であるので、これらについての説明を省略する。
【0071】
次に図15に示す等速自在継手の外側継手部材の組立方法を説明する。図18に示すように、マウス部50の軸心とフランジ部51の軸心とを一致させる。この状態で、フランジ部51の嵌合孔52に、マウス部50の周方向切欠部(小径部)65が嵌入されるように、周方向切欠部(小径部)65にフランジ部51を押し込む。すなわち、フランジ部51側の凸部35Aをマウス部50の周方向切欠部(小径部)65の外径面に圧入して食い込ませる。
【0072】
この圧入は、圧入開始端面35aが周方向切欠部(小径部)65の切欠端66に当接するまで行われる。これによって、図19に示す状態となる。そして、この圧入工程終了後は、エンドプレート55を周方向凸部53に内嵌させることによって、この外側継手部材の組立作業が終了する。
【0073】
この図15に示す外側継手部材43も、マウス部50とフランジ部51とが凹凸嵌合構造Mを介して一体化されるものであるので、前記図1に示す外側継手部材4と同様の作用効果を奏する。なお、この図15に示す外側継手部材43においては、エンドプレート55を装着する工程を必要とするが、加締工具による加締工程を必要としない。加締めによる抜け止めの要否は、凹凸嵌合構造部の強度による。嵌合径が十分大きければ図15のように加締めを省略することができる。このため、図1に示す等速自在継手の外側継手部材1よりも組立作業性に優れる。
【0074】
ところで、前記図15に示す外側継手部材では、加締めを省略していたが、このようなタイプの外側継手部材であっても、加締を行って、図20に示すように、抜け止め構造部Sを形成したのであってもよい。すなわち、マウス部50にフランジ部51を圧入した後、マウス部50のフランジ部側端部の外径部を圧潰して加締部67を形成する加締工程を行う。
【0075】
この場合、図23等に示すように、マウス部50のフランジ部側端部に、大径の第1周方向切欠部65aと、この周方向切欠部65aよりも小径の第2周方向切欠部65bとを有する周方向切欠部65を設ける。また、フランジ部51の内径面には、凹凸嵌合構造Mの凸部35Aを周方向に沿って所定ピッチで設ける。すなわち、このフランジ部51は前記図15に示すフランジ部51と同一構成である。そして、第2周方向切欠部65bの外径寸法D11を凸部35Aの頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35Aの最小径寸法)D1よりも小さく設定するとともに、第1周方向切欠部65aの外径寸法D10を、前記D1よりも大きく、凸部間の内径寸法D2よりも小さく設定する。すなわち、D1<D10<D2とする。
【0076】
次に、図20に示す外側継手部材の組立方法を説明する。まず、図24に示すように、マウス部50の第2周方向切欠部65bをフランジ部51の嵌合孔52に嵌合させた状態とする。この状態から、この嵌合孔52に第1周方向切欠部65aが嵌入されるように、第1周方向切欠部65aにフランジ部51を押し込む。すなわち、フランジ部51側の凸部35Aを第1周方向切欠部65aの外径面に圧入して食い込ませる。
【0077】
この圧入は、図21に示すように、凸部35Aの圧入開始端35aが第1周方向切欠部65aの切欠端66aに当接するまで行われる。この圧入工程終了後に、図25に示すように、第2周方向切欠部65の外径部を圧潰して加締部67を形成する加締工程を行う。
この場合も、図25に示すような筒状体からなる押圧体30を有する加締工具31を用いる。この外側継手部材43の場合、図22に示すように、加締部67が周方向に沿って所定ピッチで複数箇所(図例では8箇所)設けられるものであるので、押圧体30には、これに対応して、先端面に周方向に沿って所定ピッチで配設される押圧部29が設けられている。
【0078】
この加締工具31では、押圧体30とマウス部50とを軸心合わせを行った状態で、押圧部29の内径面がマウス部50の第2周方向切欠部65bの外径面よりも内径側に位置し、押圧部29の外径面が第1周方向切欠部65aの外径面よりも外径側に位置している。
【0079】
そして、マウス部50の軸心と押圧体30の軸心とを一致させた状態で、この押圧体30の押圧部29の端面29aをマウス部50の端面に押し当てて加圧する。これによって、第2周方向切欠部65bの外径部が押し潰されて、前記加締部67が形成され、マウス部50とフランジ部51との接合作業が終了する。その後、エンドプレート55を周方向凸部53に内嵌させることによって、この外側継手部材43の組立作業が終了する。
【0080】
このように、図20に示すような外側継手部材43であっても、加締部67からなる抜け止め構造部Sを構成することによって、より安定した連結力を付加することができる。
【0081】
前記各実施形態では、凹凸嵌合構造Mの凸部35(35A)をフランジ部5(51)に設けたものであったが、図26に示す外側継手部材43では、図28等に示すように、凹凸嵌合構造Mの凸部35Bをマウス部50側に設けている。すなわち、マウス部50の外径面の軸方向一端部に、周方向に沿って所定ピッチで配設される凸部35Bを有する周方向切欠部(小径部)74を設ける。この場合、図29に示すように、周方向切欠部(小径部)74(図30等参照)に、複数の凸条76と複数の凹条77とを交互に配設されてなる雄スプライン75を形成し、この雄スプライン75の凸条76でもって凸部35Bを構成する。
【0082】
また、フランジ部51は嵌合孔52の外周部が肉厚とされ、嵌合孔52の内径面は、反マウス部側の小径部52aと、凹凸嵌合構造Mの凹部36Bを構成する中径部52bとを有する。また、接合前においては、マウス部側の端面51aにおける嵌合孔52外周部に周方向鍔部72が設けられている。この周方向鍔部72の内径は、前記中径部52bの径寸法よりも大径である。そして、図26及び図27に示すように、組立後の外側継手部材43では、この周方向鍔部72が内径側の加締られて抜け止め構造部Sを構成するストッパ73を形成している。
【0083】
この場合、凸部35Bの頂点を結ぶ円の径寸法をD6とし、雄スプライン75の凹条の底を結ぶ円の径寸法をD7とし、嵌合孔52の中径部52bの径寸法をD8としたとき、D7<D8<D6となるように設定する。
【0084】
この凸部35Bは、凸部35Aと同様に熱硬化処理が施される。この場合も、熱硬化処理範囲としては、凸部35Bの表面全体に施しても、図4に示すように、凹部36Aと嵌合する範囲のみ施すようにしてもよい。嵌合孔52の中径部52bの内径面を未硬化部とする。これによって、凸部35Bの硬化層と嵌合孔52の中径部52bの内径面未硬化部との硬度差を、例えば、HRCで25ポイント以上とする。
【0085】
この凸部35Bの圧入端面35aの角度(傾斜角)θは、前記図12に示す凸部35と同様、80度〜110度に設定される。なお、この凸部35Bの他の構成は、前記図1に示す外側継手部材の凸部35と同様であるので、それらの説明は省略する。
【0086】
また、嵌合孔52の小径部52aにエンドプレート55が嵌合される。このため、嵌合孔52の小径部52aの内径面は、トラック溝41よりも外径側に配置される。エンドプレート55が嵌合された際に、エンドプレート55の本体部55aのマウス部側の端面外周部57がマウス部50のプレート側の端面80に当接乃至圧接する。また、エンドプレート55の短円筒部55bの外周面58が小径部52aの内周面81に当接乃至圧接する。
【0087】
次に、図26に示す外側継手部材の組立方法を説明する。まず、図30に示すように、マウス部50の凸部35Bの圧入開始端部を、加締前の周方向鍔部72内に嵌合状として、マウス部50の軸心とフランジ部51の軸心とを合わせた状態とする。そして、マウス部50とフランジ部51とを相対的に接近させることによって、マウス部50の凸部35Bを、フランジ部51の嵌合孔52の中径部52bの内径面に圧入させて食い込ませていく。この場合、図31に示すように、マウス部50の軸方向端面と嵌合孔52の小径部52aと中径部52bとの間の段差面52cとが当接するまで行われる。
【0088】
このような場合、圧入することによって、相手側の凹部形成面(この場合、フランジ部51の嵌合孔52の中径部52bの内径面)に凸部35の形状の転写を行うことになる。すなわち、凸部35が中径部52bの内径面を削りとって凹部36を形成し、フランジ部51の嵌合孔52が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、フランジ部51の嵌合孔52が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時に嵌合孔52が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。すなわち、マウス部50側の雄スプライン75によって、フランジ部51の嵌合孔52の中径部52bの内径面に、雄スプライン75に密着する雌スプライン78が形成される。これによって、図29に示すように、マウス部50の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。この場合、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。なお、嵌合接触部位38の全体が密着しているには、嵌合接触部位38の極一部領域に凸部による凹部形成過程で不可避的に隙間が生じる場合も含むものとする。
【0089】
すなわち、図30に示すように、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の嵌合接触部位(凹部嵌合部位)38とは、図229に示す範囲Bであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、嵌合孔52の内径面よりも内径側に隙間80が形成されている。なお、圧入する場合、油圧プレス等の一般的なプレス設備で可能である。
【0090】
ところで、前記図26の実施形態では、マウス部50の圧入開始側の端面の外径部には、周方向切欠部94(図27参照)が設けられている。このため、図27等に示すように、圧入完了状態で、この周方向切欠部94の開口部が、嵌合孔52の段差面52cと、中径部52bとによって塞がれることになる。したがって、圧入によってはみ出し部32が形成されれば、この周方向切欠部94が、はみ出し部32が収納されるポケット部93を構成することになる。つまり、はみ出し部32を収納するポケット部93がマウス部50側に形成されることになる。
【0091】
なお、図26に示す外側継手部材において、マウス部50の圧入開始側の端面に周方向切欠部94を設けることなく、嵌合孔52の段差面等に凹周溝を設ければ、この凹周溝をもってポケット部を構成することができる。
【0092】
このように、圧入によって、凹凸嵌合構造Mを形成して、マウス部50とフランジ部51とを接合した後、図32に示すように、加締工具90にて、周方向鍔部72を内径側へ湾曲させる加締工程を行う。加締工具90は、マウス部50に対して外嵌可能な筒状態からなる押圧体91を備える。押圧体91の押圧側端面の内径端部には、面取り部92が形成されている。
【0093】
このため、反フランジ部側の開口部から押圧体91を外嵌し、この押圧体91を、フランジ部51側へ押圧して、押圧体91の面取り部92にて周方向鍔部72の端部外径部が内径側へ折れ曲がる(湾曲する)ように押圧する。これによって、凸部35Bの圧入終端面35bに係止状となる抜け止め構造Sが形成される。このような抜け止め構造Sが形成されることによって、フランジ部51に対する反圧入方向のマウス部50の抜けが規制される。なお、フランジ部51に対する圧入方向のマウス部50の抜けは、嵌合孔52の段差面52cによって規制される。
【0094】
凸部35がマウス部50側に設けたものであっても、凹凸嵌合構造Mを介してマウス部50とフランジ部51とが接合されるものであるので、前記図1等に示す外側継手部材と同様に作用効果を奏する。
【0095】
ところで、図29等に示す凸部35の断面形状は、頂部がアール状の三角形であったが、図33(a)に示すように台形状であっても、図33(b)に示すように、斜面が凸曲面となる台形状であってもよい。さらには、図34(a)に示すように、断面が三角形状であっても、図34(b)に示すように、断面が矩形状であってもよい。
【0096】
前記図29に示す雄スプライン75では、凸部のピッチと凹部のピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
【0097】
これに対して、図33(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、雄スプライン75において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するフランジ部51側の凸部の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
【0098】
このため、マウス部50全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、フランジ部51側の凸部の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、フランジ部51側の凸部のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、相手側の凸部における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
【0099】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、外側継手部材として、摺動式等速自在継手の外側継手部材であったが、固定式等速自在継手の外側継手部材であってもよい。また、摺動式等速自在継手として、トリポード型やダブルオフセット型に限らず、クロスグルーブ型であってもよい。また、固定式等速自在継手として、バーフィールド型(BJ)やアンダーカットフリー型(UJ)等であってもよい。なお、トリポード型等速自在継手として、いわゆるシングルローラタイプであっても、内側ローラと外側ローラとを備えたいわゆるダブルローラタイプ等であってもよい。
【0100】
前記実施形態の外側継手部材は、ドライブシャフトの等速自在継手に用いる外側継手部材であったが、プロペラシャフト(推進軸)に用いる外側継手部材であってもよい。プロペラシャフトは、例えば、エンジン、クラッチ(回転動力を断続させる装置)、トランスミッション(変速機)が車体前方に配置され、減速歯車装置(ディファレンシャル)、駆動車軸が車体後方に配置されるFR車(エンジンが車体前部に配置され、後輪が駆動する車)において、車体前方から車体後方に動力を伝達するのに用いられる。このため、プロペラシャフトは、その両端に等速自在継手が装着され、トランスミッションとディファレンシャルとの間の相対位置の変化による長さと角度の変化に対応しながら回転トルクを伝達し得る構造となっている。すなわち、このプロペラシャフトは、中間シャフトと、この中間シャフトの両端に装着された一対の摺動型等速自在継手とで主要部が構成されている。
【0101】
凸部35として、前記実施形態以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、雄スプラインを形成し、この雄スプラインの凸部(凸歯)をもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができればよい。
【0102】
さらに、凸部35を相手部材に圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、相手部材より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。隙間21(80)が形成されるが、このような隙間21(80)を設けないものであってもよい。
【0103】
また、図33と図34に示す形状の凹凸嵌合構造Mは、マウス部50側に凸部35が形成されたものであるが、このような形状の凹凸嵌合構造Mの凸部35としてフランジ部5(51)側に設けたものであってもよい。
【0104】
図1に示すタイプの外側継手部材1において、抜け止め構造部Sが周方向全周にわたって外径方向に膨出する外鍔部24にて構成していたが、このような外鍔部24に代えて、図22に示すように、周方向に所定ピッチで配設される加締部67でもって抜け止め構造部Sを構成してもよい。また、図20に示すタイプの外側継手部材43において、抜け止め構造部Sを、周方向全周にわたって外径方向に膨出する外鍔部24にて構成してもよい。なお、図22に示すように、抜け止め構造部Sを周方向に所定ピッチで配設される加締部67でもって構成する場合、その数、配設ピッチ、肉厚、周方向長さ、外径方向突出量等は、加締加工が可能で、抜け止め機能を発揮する範囲で種々変更できる。また、図1に示すように、抜け止め構造部Sを周方向全周にわたって外径方向に膨出する外鍔部24にて構成する場合も、肉厚や外径方向突出量等は、加締加工が可能で、抜け止め機能を発揮する範囲で種々変更できる。
【符号の説明】
【0105】
1 外側継手部材
4 マウス部
4c 底壁
5 フランジ部
15 短軸部
16 嵌合孔(嵌合孔)
32 はみ出し部
33 ポケット部
35a 圧入開始端面
35、35A、35B 凸部
36、36A、36B 凹部
38 嵌合接触部位
43 外側継手部材
50 マウス部
51 フランジ部
52 嵌合孔(嵌合孔)
M 凹凸嵌合構造
S 抜け止め構造部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、
マウス部の底壁外面中央部に短軸部を設けるととともに、フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部の短軸部の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、短軸部とフランジ部とを一体化したことを特徴とする等速自在継手用外側継手部材。
【請求項2】
カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、
フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部のフランジ部側の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、マウス部とフランジ部とを一体化したことを特徴とする等速自在継手用外側継手部材。
【請求項3】
前記凸部の圧入開始端面の頂部側に、傾斜角が45°以下の面取部を設けたことを特徴
とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項4】
前記凸部の圧入によって、相手部材に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成し、前記凹部が凸部で削り取られた部分を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項5】
凸部の圧入開始端面を軸方向に対して80°〜110°を成すように構成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項6】
凸部の圧入開始端面の縁に、相手部材への圧入力軽減用の丸みのない角部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項7】
凸部を相手部材の圧入部位よりも硬度を高くするとともに、この硬度差をHRC25以上としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項8】
凹部を形成すべき部材に対する凸部の圧入代をΔdとし、凸部の高さをhとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86に設定したことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項9】
マウス部とフランジ部との間に、加締にて形成される抜け止め構造部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項10】
圧入によって材料のはみ出し部が形成され、このはみ出し部を収容するポケット部をマウス部側に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項11】
圧入によって材料のはみ出し部が形成され、このはみ出し部を収容するポケット部をフランジ部側に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項12】
マウス部の外径面及び内径面が鍛造加工にて仕上げられてなることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項13】
角度変位と軸方向変位とを許容する摺動型等速自在継手に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項14】
角度変位のみを許容する固定型等速自在継手に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項1】
カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、
マウス部の底壁外面中央部に短軸部を設けるととともに、フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部の短軸部の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、短軸部とフランジ部とを一体化したことを特徴とする等速自在継手用外側継手部材。
【請求項2】
カップ状のマウス部と、このマウス部から外鍔状に突設されるフランジ部とが別部材として構成された後に一体化されてなる等速自在継手用外側継手部材であって、
フランジ部の軸心部に嵌合孔を設け、フランジ部の嵌合孔の内径面とマウス部のフランジ部側の外径面とのいずれか一方に、軸方向に延びる凸部を設け、この凸部が相手部材に食い込むように軸方向に沿って圧入して、マウス部とフランジ部とを一体化したことを特徴とする等速自在継手用外側継手部材。
【請求項3】
前記凸部の圧入開始端面の頂部側に、傾斜角が45°以下の面取部を設けたことを特徴
とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項4】
前記凸部の圧入によって、相手部材に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成し、前記凹部が凸部で削り取られた部分を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項5】
凸部の圧入開始端面を軸方向に対して80°〜110°を成すように構成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項6】
凸部の圧入開始端面の縁に、相手部材への圧入力軽減用の丸みのない角部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項7】
凸部を相手部材の圧入部位よりも硬度を高くするとともに、この硬度差をHRC25以上としたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項8】
凹部を形成すべき部材に対する凸部の圧入代をΔdとし、凸部の高さをhとしたときに、0.3<Δd/2h<0.86に設定したことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項9】
マウス部とフランジ部との間に、加締にて形成される抜け止め構造部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項10】
圧入によって材料のはみ出し部が形成され、このはみ出し部を収容するポケット部をマウス部側に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項11】
圧入によって材料のはみ出し部が形成され、このはみ出し部を収容するポケット部をフランジ部側に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項12】
マウス部の外径面及び内径面が鍛造加工にて仕上げられてなることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項13】
角度変位と軸方向変位とを許容する摺動型等速自在継手に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【請求項14】
角度変位のみを許容する固定型等速自在継手に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の等速自在継手用外側継手部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
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【図13】
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【図18】
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【図29】
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【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【公開番号】特開2012−255522(P2012−255522A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130146(P2011−130146)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
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