説明

等速自在継手

【課題】部品点数を増加させることなく、接触部位の損傷を防止でき、しかも、外側継手部材と内側継手部材との接触部位間の摩擦力の低減を図ることができて、振動特性が有利となる等速自在継手を提供する。
【解決手段】軸線に平行な六つの平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fで囲まれた正六角形状の中空穴12を有する外側継手部材と、外側継手部材の各平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fにそれぞれ接触する六つの球面13a、13b、13c、13d、13e、13fを有する内側継手部材とを備えた等速自在継手である。外側継手部材の中空孔12の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fにおいて、内側継手部材の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位に軸方向に沿って外径側油溝18a、18b、18c、18d、18e、18fを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車、航空機、船舶や各種産業機械などの動力伝達系において使用される等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手には、角度変位のみを許容する固定型等速自在継手と角度変位および軸方向変位(プランジング)を許容する摺動型等速自在継手とがあり、使用箇所により使い分けがなされている。例えば、自動車の車輪に動力を伝達する駆動軸において、車輪側に装着され、車輪の転舵に追従するための等速自在継手としては、固定型等速自在継手が使用される。また、自動車のディファレンシャルギア側に装着され、転舵時の軸方向変位の吸収や、サスペンションの上下動による軸方向変位及び作動角の変化に追従するための等速自在継手としては、摺動型等速自在継手が使用される。
【0003】
近年、図16と図17に示すように、軸線に平行な複数の平坦面1a、1b、1c、1d、1e、1fで囲まれた正多角形状の中空孔1を有する外側継手部材2と、前記外側継手部材2の各平坦面1aにそれぞれ接触する複数の球面4a、4b、4c、4d、4e、4fを有する内側継手部材5とを備えた等速自在継手(摺動型等速自在継手)が提案されている(特許文献1)。この摺動型等速自在継手は、従来のトリポード型等速自在継手に対して、部品点数を減少させて小型・軽量化を図るものである。
【0004】
また、前記特許文献1には、外側継手部材2の平坦面1a、1b、1c、1d、1e、1fと、内側継手部材5の球面4a、4b、4c、4d、4e、4fとの間に、保持器にて保持されるローラを配置したものが提案されている。このように、ローラを配置することによって、軸方向の変位をスムーズにしている。しかも、保持器が負荷側のローラと反負荷側のローラとを一体に保持する構成として、保持器の周方向ずれを生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3058213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記図16と図17に示すものでは、内側継手部材5の球面4a、4b、4c、4d、4e、4fが外側継手部材2の中空孔1の平坦面1a、1b、1c、1d、1e、1fに対して点接触となる。このため、トルク伝達時には、高面圧状態となり、それぞれの接触部位に損傷が発生するおそれがある。
【0007】
また、前記特許文献1に記載のように、ローラを配置したものでは、ローラはいわゆる針状ころであるので、内側継手部材5の球面4a、4b、4c、4d、4e、4fと外側継手部材2の中空孔1の平坦面1a1b、1c、1d、1e、1fとの間にローラを直接的に介在させることができない。このため、この特許文献1に記載のものでは、外面がローラの外径面が接触可能な平坦面であるとともに内面が内側継手部材5の球面4a、4b、4c、4d、4e、4fが接触可能な凹曲面としたボタン部材を、ローラと内側継手部材5の球面4a、4b、4c、4d、4e、4fとの間に配設する必要がある。
【0008】
このように、ローラを配置するものでは、ローラ、保持器、ボタン部材等の部品を必要とする。このため、低面圧化が達成できても、部品点数が多く、組立作業性に劣るとともに、コスト高を招くことになっていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて、部品点数を増加させることなく、接触部位の損傷を防止でき、しかも、外側継手部材と内側継手部材との接触部位間の摩擦力の低減を図ることができて、振動特性が有利となる等速自在継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の等速自在継手は、軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、外側継手部材の中空孔の平坦面において、前記内側継手部材の球面との接触部位に軸方向に沿って延びる外径側油溝を設けたものである。
【0011】
本発明の第2の等速自在継手は、軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、内側継手部材の球面において、外側継手部材の平坦面との接触部位に軸方向に沿って延びる内径側油溝を設けたものである。
【0012】
本発明の第3の等速自在継手は、軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、外側継手部材の中空孔の平坦面において、前記内側継手部材の球面との接触部位に軸方向に沿って延びる外径側油溝を設けるとともに、内側継手部材の球面において、外側継手部材の平坦面との接触部位に軸方向に沿って延びる内径側油溝を設けたものである。
【0013】
本発明の第1から第3の等速自在継手によれば、油溝に潤滑油が溜まるので、外側継手部材の平坦面と、内側継手部材の球面との接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。
【0014】
本発明の第4の等速自在継手は、軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、外側継手部材の中空孔の平坦面において、少なくとも前記内側継手部材の球面との接触部位に微小ディンプルからなる外径側油溜まり部を設けたものである。
【0015】
本発明の第5の等速自在継手は、軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、内側継手部材の球面において、少なくとも外側継手部材の平坦面との接触部位に微小ディンプルからなる内径側油溜まり部を設けたものである。
【0016】
本発明の第6の等速自在継手は、軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、外側継手部材の中空孔の平坦面において、少なくとも前記内側継手部材の球面との接触部位に微小ディンプルからなる外径側油溜まり部を設けるとともに、内側継手部材の球面において、少なくとも外側継手部材の平坦面との接触部位に微小ディンプルからなる内径側油溜まり部を設けたものである。
【0017】
本発明の第4〜第6の等速自在継手によれば、微小ディンプルからなる油溜まり部に油(潤滑剤)が溜まることになる。このため、外側継手部材の平坦面と、内側継手部材の球面との接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。
【0018】
外側継手部材の中空孔の平坦面との接触部位に開口する外径側開口部と、継手開口側の端面及び/又は継手奥側の端面に開口する端面側開口部とを有し、外径側開口部と端面側開口部とが連通される貫通孔を、前記内側継手部材に設けるのが好ましい。このような貫通孔を設けることによって、貫通孔を潤滑剤が循環することになる。
【0019】
前記内側継手部材の各球面の周方向中央部に曲率が大きい凸隆部を設け、この凸隆部を、外側継手部材の周方向に隣合う平坦面間のコーナ部に対応させたものであってもよい。また、この凸隆部の両端面側に切欠部を設けたものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の等速自在継手では、外側継手部材の平坦面と、内側継手部材の球面との接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。このため、高面圧下においても接触部位の損傷を防ぐことができる。しかも、潤滑剤によって、外側継手部材と内側継手部材との接触部位間の摩擦力が軽減され、継手回転駆動中の振動特性を良好なものとすることができる。
【0021】
貫通孔を有するものでは、潤滑剤の接触部位への介入性の向上を図ることができて、接触部位の損傷を安定して防止できるとともに、摩擦力の軽減効果の信頼性を向上できる。このため、高品質の等速自在継手を提供できる。
【0022】
内側継手部材の球面の周方向中央部に曲率が大きい凸隆部を設けることによって、凸隆部を有する部位での内側継手部材と外側継手部材との間の空間の体積は、継手の振れ回りの特性によって、継手作動中においては変化する。体積が小さくなる時、この空間に溜まった潤滑剤はこの空間から吐き出される。このため、接触部位での潤滑剤を広げることができ、潤滑剤の介入性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態の等速自在継手の横断面図である。
【図2】前記図1に示す等速自在継手の縦断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の等速自在継手の横断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態の等速自在継手の横断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態の等速自在継手の内側継手部材の正面図である。
【図6】前記図5の等速自在継手の内側継手部材の背面図である。
【図7】前記図5の等速自在継手の内側継手部材の側面図である。
【図8】油溜まり部を示す拡大簡略図である。
【図9】前記油溜まり部の拡大断面図である。
【図10】前記油溜まり部の流体流れモデル図である。
【図11】前記油溜まりの表面粗さと油膜パラメータに関した係数の変化を示すグラフ図である。
【図12】本発明の第5実施形態の等速自在継手の横断面図である。
【図13】前記図12に示す等速自在継手の縦断面図である。
【図14】本発明の第6実施形態の等速自在継手の横断面図である。
【図15】前記図14に示す等速自在継手の縦断面図である。
【図16】従来の等速自在継手の横断面図である。
【図17】前記図16に示す等速自在継手の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。
【0025】
図1および図2は本発明に係る等速自在継手の第1実施形態を示す。この等速自在継手は、外側継手部材である外輪10と、内側継手部材であるトラニオン部材11とで構成されている。
【0026】
外輪10は、軸線に平行な6つの平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fで囲まれた正六角形に中空孔12を有する。トラニオン部材11は、正面視において図1に示すように三角おむすび形状であって、第1の平坦面12aに接触する第1の球面13aと、第2の平坦面12bに接触する第2の球面13bと、第3の平坦面12cに接触する第3の球面13cと、第4の平坦面12dに接触する第4の球面13dと、第5の平坦面12eに接触する第5の球面13eと、第6の平坦面12fに接触する第6の球面13fとを有する。
【0027】
この場合、第6の球面13fと第1の球面13aとが周方向に沿って隣設し、第2の球面13bと第3の球面13cとが周方向に沿って隣設し、第4の球面13dと第5の球面13eとが周方向に沿って隣設している。そして、第6の球面13fと第1の球面13aとの合わせ部16aが、第6の平坦面12fと第1平坦面12aとのコーナ部17aに対応し、第2の球面13bと第3の球面13cとの合わせ部16bが、第2の平坦面12bと第3平坦面12cとのコーナ部17cに対応し、第4の球面13dと第5の球面13eとの合わせ部16cが、第4の平坦面12dと第5平坦面12eとのコーナ部17eに対応している。
【0028】
すなわち、6つの球面のうち、3つの球面13a,13c,13eは、各平坦面12a12c,12eの円周方向中心から円周方向の一方(図1における反時計廻り方向)にずれた位置で、前記各平坦面12a、12c,12eとそれぞれ接触している。また、他の3つの球面13b,13d,13fは、各平坦面12b,12d,12fの円周方向中心から円周方向の他方(図1における時計廻り方向)にずれた位置で、各平坦面12b,12d,12fとそれぞれ接触している。なお、トラニオン部材11には、図示省略のシャフトが嵌入される貫通孔14が設けられている。
【0029】
また、第1の平坦面12aに、一対の軸線に平行な凹溝15a1、15a2が形成され、第2の平坦面12bに、一対の軸線に平行な凹溝15b1、15b2が形成され、第3の平坦面12cに、一対の軸線に平行な凹溝15c1、15c2が形成され、第4の平坦面12dに、一対の軸線に平行な凹溝15d1、15d2が形成され、第5の平坦面12eに、一対の軸線に平行な凹溝15e1、15e2が形成され、第6の平坦面12fに、一対の軸線に平行な凹溝15f1、15f2が形成されている。この場合、各凹溝15a1、15a2、15b1、15b2、15c1、15c2、15d1、15d2、15e1、15e2、15f1、15f2は、その断面形状が半円形とされている。
【0030】
凹溝15a1が、第1の平坦面12aにおいて、第1の球面13aとの接触点(接触部位)に対応し、凹溝15b2が、第2の平坦面12bにおいて、第2の球面13bとの接触点(接触部位)に対応し、凹溝15c1が、第3の平坦面12cにおいて、第3の球面13cとの接触点(接触部位)に対応し、凹溝15d2が、第4の平坦面12dにおいて、第4の球面13dとの接触点(接触部位)に対応し、凹溝15e1が、第5の平坦面12eにおいて、第5の球面13eとの接触点(接触部位)に対応し、凹溝15f2が、第6の平坦面12fにおいて、第6の球面13fとの接触点(接触部位)に対応する。
【0031】
図1において、外輪10に対して、トラニオン部材11が矢印A方向廻り(時計方向廻り)に回動するようなトルクが負荷された場合、第1の球面13aから接触部位を介して第1の平坦面12aにトルクが伝達され、第3の球面13cから接触部位を介して第3の平坦面12cにトルクが伝達され、第5の球面13eから接触部位を介して第5の平坦面12eにトルクが伝達される。また、図1において、外輪10に対して、トラニオン部材11が矢印B方向廻り(時計方向廻り)に回動するようなトルクが負荷された場合、第6の球面13fから接触部位を介して第6の平坦面12fにトルクが伝達され、第4の球面13dから接触部位を介して第4の平坦面12dにトルクが伝達され、第2の球面13bから接触部位を介して第2の平坦面12bにトルクが伝達される。
【0032】
ところで、第1実施形態の等速自在継手では、外側継手部材(外輪10)の中空孔12の平坦面12aにおいて、内側継手部材(トラニオン部材11)の球面13aとの接触部位に凹溝15a1が設けられている。この際、この凹溝15a1には潤滑剤が充填される。このため、この凹溝15a1を外径側油溝18と呼ぶことができる。すなわち、凹溝15a1、凹溝15b2、凹溝15c1、凹溝15d2、凹溝15e1、および凹溝15f2を、潤滑剤が充填される外径側油溝18a、18b、18c、18d、18e、18fと呼ぶことができる。従って、外側継手部材(外輪10)の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fと、内側継手部材(トラニオン部材11)の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。
【0033】
このように、本発明では、外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fと、トラニオン部材11の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。このため、高面圧下においても接触部位の損傷を防ぐことができる。しかも、潤滑剤によって、外側継手部材と内側継手部材との接触部位間の摩擦力が軽減され、継手回転駆動中の振動特性を良好なものとすることができる。
【0034】
次に図3は第2実施形態を示し、この場合、トラニオン部材11の各球面13a、13b、13c、13d、13e、13fに、軸線方向に延びる凹溝(内径側油溝)19a、19b、19c、19d、19e、19fが設けられている。この場合、各凹溝19a、19b、19c、19d、19e、19fは、その断面形状が半円形とされている。
【0035】
すなわち、トラニオン部材11の各球面13a、13b、13c、13d、13e、13fにおいて、外輪10の各平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fとの接触点(接触部位)に対応して内径側油溝19a、19b、19c、19d、19e、19fが設けられている。この際、外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fには外径側油溝を設けていない。
【0036】
従って、この等速自在継手であっても、外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fと、トラニオン部材11の各球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。このため、図3に示す等速自在継手であっても、図1に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0037】
図4は第3実施形態を示し、この場合、図1に示す外輪10と、図3に示すトラニオン部材11とを組み合わせたものである。すなわち、外輪10の中空孔12の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fにおいて、トラニオン部材11の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位に外径側油溝18a、18b、18c、18d、18e、18fを設けるとともに、トラニオン部材11の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fにおいて、外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fとの接触部位に内径側油溝19a、19b、19c、19d、19e、19fを設けたことになる。
【0038】
このため、外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fと、トラニオン部材11の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。このため、図4に示す等速自在継手であっても、図1に示す等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0039】
図5〜図7は第4実施形態のトラニオン部材11を示し、この場合、6本の貫通孔22a、22b、22c、22d、22e、22fが設けられている。すなわち、第1の貫通孔22aは、外径側に開口する外径側開口部20aと、一方の端面(継手開口側の端面)23に開口する端面側開口部21a1と、他方の端面(奥側の端面)24に開口する端面側開口部21a2とを有する。第2の貫通孔22bは、外径側に開口する外径側開口部20bと、一方の端面23に開口する端面側開口部21b1と、他方の端面24に開口する端面側開口部21b2とを有する。第3の貫通孔22cは、外径側に開口する外径側開口部20cと、一方の端面23に開口する端面側開口部21c1と、他方の端面24に開口する端面側開口部21c2とを有する。第4の貫通孔22dは、外径側に開口する外径側開口部20dと、一方の端面23に開口する端面側開口部21d1と、他方の端面24に開口する端面側開口部21d2とを有する。第5の貫通孔22eは、外径側に開口する外径側開口部20eと、一方の端面23に開口する端面側開口部21e1と、他方の端面24に開口する端面側開口部21e2とを有する。第6の貫通孔22fは、外径側に開口する外径側開口部20fと、一方の端面23に開口する端面側開口部21f1と、他方の端面24に開口する端面側開口部21f2とを有する。
【0040】
このように、貫通孔22a、22b、22c、22d、22e、22fを設けたものでは、貫通孔22a、22b、22c、22d、22e、22fを潤滑剤が循環することになる。このため、潤滑剤の接触部位への介入性の向上を図ることができて、接触部位の損傷を安定して防止できるとともに、摩擦力の軽減効果の信頼性を向上できる。このため、高品質の等速自在継手を提供できる。
【0041】
この図5と図6に示すトラニオン部材11を、図1や図2に示す外輪10に対して用いることができる。このようなトラニオン部材11を用いた場合、このような貫通孔を設けることによって、貫通孔を潤滑剤が循環することになる。
【0042】
ところで、前記実施形態では、図1に示す等速自在継手では、外輪10の平坦面12aに外径側油溝18が設けられ、図2に示す等速自在継手では、トラニオン部材11の球面13に内径側油溝19が設けられ、図4に示す等速自在継手では、外輪10の平坦面12aに外径側油溝18が設けられるとともに、トラニオン部材11の球面13に内径側油溝19が設けられていた。
【0043】
そこで、本発明では、このような外径側油溝18や内径側油溝19に代えて、図8に示すように、大きさ数10μm程度の微小凹部(くぼみ)31を無数にランダムに形成するものであってもよい。
【0044】
微小凹形状のくぼみが設けられた表面は、バレル研磨加工にて形成されていたり、ショットブラスト、またはショットピーニングにて形成されていたりする。バレル研磨とは、容器(バレル)に被研磨物(ワーク)と研磨材(メディア)を入れ、バレルの運動により発生するワークとメディアとの相対摩擦によりバリ取り、R付け等の表面加工を行う方法である。ショットブラストは、切断・成形加工等の際に生成するバリ(張り出し)や熱処理の際に生成するスケール(硬い酸化被膜)を除去して表面を清浄する目的で行われる処理である。ショットピーニングは、処理対象物の表面に小粒子を投射するという処理であり、表面に圧縮の残留応力を生成させることを目的として、その最表面を塑性変形させるような条件で行われる。このため、ショットピーニングとショットブラストとは、その強さ等の条件の点で大きく異なる。
【0045】
このような表面加工には、WPC加工、ディンプル加工、マイクロディンプル処理、さらには、微粒子ピーニングや精密ショットピーニングとも呼ばれるWPC処理がより好ましい。WPC処理とは、金属成品の表面に、目的に応じた材質の微粒子を圧縮性の気体に混合して高速衝突させるという表面改質処理である。この手法においては、処理対象物の最表面で急熱・急冷が繰り返される。このため、微細で靭性に富む緻密な組織が形成され、高硬度化して表面を強化すると同時に、表面性状を微小ディンプルへ変化させることによって摩擦摩耗特性を向上させることができる。すなわち、WPC処理を施すことによって、疲労強度向上と摺動性向上とを図ることができる。
【0046】
マイクロディンプルである微小凹部(マイクロオイルポット)31以外は平坦面で、方向性はなく(等方性)、この部分の表面粗さが、相手側の表面粗さと同等とされる。この微小凹部(微小ディンプル)31は、最適なメディア、砥粒の選定により微細ディンプルを形成することができる。この場合、表面の研削条件を変えることによって、任意の大きさ、任意の数の微小凹部31を製作できる。この微小凹部31の深さは例えば約1μm程度である(図9参照)。
【0047】
ところで、図11に示すような潤滑流体流れモデルを形成した場合、潤滑流体の流れは、(A)よりも(B)、(C)の方が抵抗が大きく、接触内部に存在する流体の量が増加することになる。このため、転がり接触面の油膜厚さが増すことになる。図11において、ハッチング部が弾性変形による接触部位30a、30b、30cを示し、破線は潤滑流体の流れを示している。(A)および(C)は接触部位30a、30cが楕円乃至長円状であり、(B)は接触部位30bが円形状である。また、転がり方向と仕上げ面の加工方向が同じ場合を示し、(C)は、転がり方向と仕上げ面の加工方向が直角の場合を示している。
【0048】
この潤滑流体流れモデルを、前記等速自在継手にあてはめれば、図5に示すようなモデルにて表すことができる。図10において、ハッチング部が弾性接触部位32を示し、クロスハッチングが微小凹部31を示し、破線が流体の流れを示す。この場合、転がり方向は図面上の左から右で、潤滑流体は平滑面の接触部位を迂回し、微小凹部31で油量を増加し表面上を流れる。このため、油膜を形成することができる。
【0049】
外輪10の外径側油溝18に代えて、この部位(トラニオン部材11の球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触部位)に多数の微小凹部31を設けることによって、外径側油溜まり部を形成することができる。また、トラニオン部材11の内径側油溝19に代えて、この部位(外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fとの接触部位)に多数の微小凹部31を設けることによって、内径側油溜まり部を形成することができる。
【0050】
このように、外径側油溜まり部や内径側油溜まり部を設けることによって、この溜まり部に油(潤滑剤)が溜まることになる。このため、外輪10の平坦面と、トラニオン部材11の球面との接触部位間に潤滑剤が介入されることになる。したがって、このような場合であっても、高面圧下においても接触部位の損傷を防ぐことができる。しかも、潤滑剤によって、外輪10とトラニオン部材11との接触部位間の摩擦力が軽減され、継手回転駆動中の振動特性を良好なものとすることができる。
【0051】
次に、図12と図13に示す等速自在継手では、トラニオン部材11において、球面13aと球面13bとの間、球面13cと球面13dとの間、及び球面13eと球面13fとの間にそれぞれ凸隆部35a、35b、35cが設けられている。凸隆部35a、35b、35cの外径面は、球面13a、13b、13c、13d、13e、13fの曲率よりも大きな曲率の球面からなる。
【0052】
この場合、第1の凸隆部35aは、第1の平坦面12aと第2の平坦面12bとの間のコーナ部17bに対応し、第2の凸隆部35bは、第3の平坦面12cと第4の平坦面12dとの間のコーナ部17dに対応し、第3の凸隆部35cは、第5の平坦面12eと第6の平坦面12fとの間のコーナ部17fに対応する。また、各凸隆部35a、35b、35cの周方向両端部には、軸方向に延びる溝36a、36b、37a、37b、38a,38bが設けられている。
【0053】
図12及び図13では図示省略しているが、外輪10側に図1に示す外径側油溝18やトラニオン部材11側に図3に示す内径側油溝19を形成することになる。なお、油溝18,19に代えて、多数の微小凹部31からなる油溜まり部であってもよい。
【0054】
このような凸隆部35a、35b、35cを設けることによって、凸隆部を有する部位での外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fとの間の空間S(第1の平坦面12aと第2の平坦面12bとの間のコーナ部17b乃至その近傍、第2の凸隆部35bは、第3の平坦面12cと第4の平坦面12dとの間のコーナ部17d乃至その近傍、第3の凸隆部35cは、第5の平坦面12eと第6の平坦面12fとの間のコーナ部17f乃至その近傍)の体積は、継手の振れ回りの特性によって、継手作動中においては変化する。このため、この空間Sの体積が小さくなるときには、この空間Sに溜まった潤滑剤はこの空間から吐き出される。このため、平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fと球面13a、13b、13c、13d、13e、13fとの接触点近傍まで潤滑剤を広げることができ、潤滑剤の介入性の向上を図ることができる。
【0055】
図14と図15に示す等速自在継手では、図12と図13に示す等速自在継手のトラニオン部材11の凸隆部35a、35b、35cにおいて、両端面23、24側に切欠部40、41を設けたものである。
【0056】
このような切欠部40、41を設けることによって、継手作動時の空間Sの体積変化はより大きくなる。このため、接触点近傍まで潤滑剤を広げることができ、潤滑剤の介入性の向上を図ることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、外径側油溝18a等及び内径側油溝19a等の凹溝の断面形状は半円形であったが、これに限らず、半楕円、三角形、矩形、半多角形等の種々の形状にて形成することができる。また、これらの凹溝の大きさ(断面積)等としても、高面圧下においても接触部位の損傷を防ぐことができる等の作用効果を発揮でき、しかも、外輪10とトラニオン部材11との間のトルク伝達が可能な範囲で種々変更できる。
【0058】
また、図1や図4に示す等速自在継手では、外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fに、外径側油溝を構成しない凹溝15a2、15b1、15c2、15d1、15e2、15f1が形成されている。このため、このような凹溝を省略することも可能である。しかしながら、このような凹溝を設けることによって、図1や図4に示すものと比較して、トラニオン部材11が外輪10に対して周方向に時計廻り又は反時計廻りに60°又は180°ずれた状態でも組立られる。すなわち、60°又は180°ずれている場合、凹溝15a2、15b1、15c2、15d1、15e2、15f1が外径側油溝を構成することになる。このため、このような凹溝を設けることによって、組立性の向上を図ることができる。
【0059】
多数の微小ディンプルからなる油溜まり部を、外輪10の平坦面に設ける場合、各平坦面全体に設けてもよいが、少なくとも、トラニオン部材11の球面との接触部位においてのみ設けてもよい。また、多数の微小ディンプルからなる油溜まり部を、トラニオン部材11の球面に設ける場合、球面全体に設けてもよいが、少なくとも、外輪10の平坦面との接触部位においてのみ設けてもよい。
【0060】
図12等のように凸隆部35a、35b、35cを設ける場合、この凸隆部35a、35b、35cの突出量や曲率等は、凸隆部35a、35b、35cが外輪10の平坦面12a、12b、12c、12d、12e、12fに接触しない範囲で種々変更することができる。
【0061】
また、図5〜図7等に示すように、貫通孔22を有する場合、図例では、両端面側に開口部21を有するものであったが、いずれか一方の端面側の開口部のみ有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 外輪(外側継手部材)
11 トラニオン部材(内側継手部材)
12 中空孔
12a、12b、12c、12d、12e、12f 平坦面
13a、13b、13c、13d、13e、13f 球面
18a、18b、18c、18d、18e、18f 外径側油溝
19a、19b、19c、19d、19e、19f 内径側油溝
20a、20b、20c、20d、20e、20f 外径側開口部
21a1、21a2 端面側開口部
21b1、21b2 端面側開口部
21c1、21c2 端面側開口部
21d1、21d2 端面側開口部
21e1、21e2 端面側開口部
21f1、21f2 端面側開口部
22a、22b、22c、22d、22e、22f 貫通孔
31 微小凹部(微小ディンプル)
35a、35b、35c 凸隆部
40,41 切欠部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、
外側継手部材の中空孔の平坦面において、前記内側継手部材の球面との接触部位に軸方向に沿って外径側油溝を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、
内側継手部材の球面において、外側継手部材の平坦面との接触部位に軸方向に沿って内径側油溝を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項3】
軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、
外側継手部材の中空孔の平坦面において、前記内側継手部材の球面との接触部位に軸方向に沿って外径側油溝を設けるとともに、内側継手部材の球面において、外側継手部材の平坦面との接触部位に軸方向に沿って内径側油溝を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項4】
軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、
外側継手部材の中空孔の平坦面において、少なくとも前記内側継手部材の球面との接触部位に多数の微小ディンプルからなる外径側油溜まり部を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項5】
軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、
内側継手部材の球面において、少なくとも外側継手部材の平坦面との接触部位に多数の微小ディンプルからなる内径側油溜まり部を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項6】
軸線に平行な六つの平坦面で囲まれた正六角形状の中空穴を有する外側継手部材と、前記外側継手部材の各平坦面にそれぞれ接触する六つの球面を有する内側継手部材とを備えた等速自在継手であって、
外側継手部材の中空孔の平坦面において、少なくとも前記内側継手部材の球面との接触部位に多数の微小ディンプルからなる外径側油溜まり部を設けるとともに、内側継手部材の球面において、少なくとも外側継手部材の平坦面との接触部位に多数の微小ディンプルからなる内径側油溜まり部を設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項7】
外側継手部材の中空孔の平坦面との接触部位に開口する外径側開口部と、継手開口側の端面及び/又は継手奥側の端面に開口する端面側開口部とを有し、外径側開口部と端面側開口部とが連通される貫通孔を、前記内側継手部材に設けたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項8】
前記内側継手部材の各球面の周方向中央部に曲率が大きい凸隆部を設け、この凸隆部を、外側継手部材の周方向に隣合う平坦面間のコーナ部に対応させたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項9】
前記凸隆部の両端面側に切欠部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−261560(P2010−261560A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114748(P2009−114748)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)