説明

筋交いのアンカー構造及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造

【課題】 屋外から施工でき、かつ、騒音や振動が少なく、工事期間が短くて済み、また、補強後の建物外観や居住者等に与える影響を少なくすることができる筋交いのアンカー構造を提供すること。
【解決手段】 既存建物を補強するための筋交いユニット12の端部を、建物の壁面部13に固定するための筋交いのアンカー構造15において、建物の壁面部13に配置され、筋交いユニット12の端部が連結される連結部17、及びこの連結部17と結合し、建物の壁面部13に形成されたアンカー孔21に装着されるアンカー部18を有するアンカー体14と、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間に注入されて形成されアンカー部18を固定保持する固定用充填部22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば既存建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定するための筋交いのアンカー構造及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、又は鉄骨造(S造)の既存建物の耐震補強構造としては、図15(a)、(b)に示すように、柱1、2と梁3、4とで囲まれた矩形の架構5内に枠付き鉄骨ブレースや、鉄筋コンクリート造の補強壁などの補強部材6を設置固定して、建物の剛性と耐力を大きくしたものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−95963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図15(a)、(b)に示す従来の既存建物の耐震補強構造では、施工の際は、この架構5の内側に設けられている図示しない窓を除去したり外壁を崩して、補強部材6を架構5に設置固定する必要があるので、屋外及び屋内の両方からから施工する必要があり、かつ、騒音や振動が大きく、工事期間が長く掛かる。また、この耐震補強構造によると、補強後の建物外観や居住者等に与える影響が大きく、費用が嵩むという問題もある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、屋外から施工でき、かつ、騒音や振動が少なく、工事期間が短くて済み、また、補強後の建物外観や居住者等に与える影響が少ない筋交いのアンカー構造及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る筋交いのアンカー構造は、建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定するための筋交いのアンカー構造において、前記建物の壁面部に配置され、前記筋交いの端部が連結される連結部、及びこの連結部と結合し、建物の壁面部に形成されたアンカー孔に装着されるアンカー部を有するアンカー体と、前記アンカー部の外表面と前記アンカー孔の内表面との間の空間に注入されて形成され前記アンカー部を固定保持する固定用充填部とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係る筋交いのアンカー構造によると、例えば既存の鉄筋コンクリート建物に対する耐震補強をするために、筋交いの端部を、建物の壁面部にアンカー体によって固定することができる。そして、アンカー体は、そのアンカー部を建物の壁面部に設けたアンカー孔に、固定用充填部によって固定して設けることができるし、筋交いの端部は、アンカー体の壁面部から外側に露出している連結部に連結することができるので、この筋交いのアンカー構造を建物に施工するときは、屋外から施工することができる。これによって、建物内を汚すことが無いし、居住者等に与える影響を少なくすることができる。そして、アンカー体を建物の壁面部に固定して設けて、このアンカー体に筋交いの端部を連結する構成であるので、補強効果が大きく、耐久性に優れている。
【0008】
本発明に係る筋交いのアンカー構造において、前記アンカー体には、前記固定用充填部を形成するための充填材を前記アンカー孔内の空間に注入するための注入通路が形成され、この注入通路の一端が注入口として前記連結部側の露出部分に形成され、かつ、前記注入通路の他端が出口として前記アンカー部の先端部に形成されているものとすることができる。
【0009】
このようにすると、この筋交いのアンカー構造に設けられている固定用充填部を形成するときは、充填材をアンカー体の連結部側の露出部分に形成されている注入口から注入する。これによって、充填材は、注入通路を通ってアンカー部の先端部に形成された出口から流出し、そして、アンカー孔の底部、アンカー部の外表面とアンカー孔の内表面との間の空間、及びアンカー孔の開口部を通って外側に流出する。このようにして、アンカー部の外表面とアンカー孔の内表面との間の空間に、充填材を隅々まで行き渡るように充填することができる。その結果、この充填材が固化して形成された固定用充填部によって、アンカー体のアンカー部をアンカー孔の内表面に強固に固定することができ、このアンカー体に連結される筋交いの端部を強力に壁面部に固定することができる。
【0010】
本発明に係る筋交いのアンカー構造において、前記建物の壁面部の壁面における前記アンカー孔の開口部の周囲に所定の範囲に亘って壁面を補強するための補強シートを貼着したものとすることができる。
【0011】
このようにすると、筋交いに掛かる力がアンカー体、固定用充填部、及びアンカー孔の内面を介して建物の壁面部に伝達したときに、その壁面部の壁面を補強シートによって補強して、壁面部の損傷を防止できる。
【0012】
本発明に係る筋交いのアンカー構造において、前記筋交いが、炭素繊維で形成されているものとすることができる。
【0013】
このように、筋交いを炭素繊維で形成することによって、筋交いの嵩を小さくすることができて外観に与える影響が少なく、引っ張り強度を大きくすることができ、軽量で施工がし易く、工事期間が短くて済む。
【0014】
本発明に係る既存建物の耐震補強構造は、本発明の筋交いのアンカー構造を備えることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る既存建物の耐震補強構造によると、本発明の筋交いのアンカー構造を備えており、上記と同様に作用する。
【0016】
本発明に係る筋交いの連結構造は、建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定して設けられているアンカー体に連結するための筋交いの連結構造において、前記筋交いの端部と、前記筋交いの端部を内側に収容する筒状に形成されたスリーブと、前記スリーブ内にその軸方向に互いに間隔を隔てて装着され、前記筋交いの端部を保持する一対の保持部と、前記スリーブ内に互いに間隔を隔てて装着されている一対の前記保持部どうしの間に形成されている空間に注入されて、前記筋交いの端部の外表面と前記スリーブの内表面とを互いに結合する結合用充填部と、前記アンカー体に設けられ前記スリーブがねじ部を介して連結する連結部とを備えることを特徴とするものである。
【0017】
本発明に係る筋交いの連結構造によると、例えば既存の鉄筋コンクリート建物に対する耐震補強をするために、筋交いの端部を、建物の壁面部に固定して設けられているアンカー体に連結することができる。そして、筋交いの端部は、アンカー体の壁面部から外側に露出している連結部に連結することができるので、この筋交いの連結構造を建物に施工するときは、屋外から施工することができる。これによって、建物内を汚すことが無いし、居住者等に与える影響を少なくすることができる。
【0018】
また、この筋交いの連結構造に設けられている結合用充填部を形成するときは、充填材を、スリーブ内に互いに間隔を隔てて装着されている一対の保持部どうしの間に形成されている空間に注入する。そして、この充填材が固化すると、筋交いの端部の外表面とスリーブの内表面とを互いに強力に結合することができる。そして、この筋交いの端部が結合されたスリーブは、ねじ部を介してアンカー体の連結部と連結しているので、このアンカー体に連結される筋交いの端部を強力に壁面部に固定することができる。
【0019】
本発明に係る筋交いの連結構造において、前記スリーブには、前記結合用充填部を形成するための充填材を前記スリーブ内の前記空間に注入するための注入口、及び前記空間内の空気を排出するための空気抜き孔が形成され、前記スリーブの内面に多数の内面凹部又は内面凸部が形成され、前記筋交いの端部の外面に多数の外面凹部又は外面凸部が形成されているものとすることができる。
【0020】
このようにすると、この筋交いの連結構造に設けられている連結用充填部を形成するときは、充填材をスリーブに形成されている注入口から注入する。これによって、充填材は、スリーブ内に互いに間隔を隔てて装着されている一対の保持部どうしの間に形成されている空間に注入されて、このスリーブに形成されている空気抜き孔から流出する。このようにして、充填材を当該空間の隅々まで行き渡るように充填することができる。その結果、この充填材が固化して形成された連結用充填部によって、筋交いの端部とスリーブとを互いに強固に結合することができる。
【0021】
そして、スリーブの内面に多数の内面凹部又は内面凸部が形成され、筋交いの端部の外面に多数の外面凹部又は外面凸部が形成されているので、これら多数の内面凹部又は内面凸部、及び多数の外面凹部又は外面凸部に連結用充填部が係合することができるので、筋交いの端部とスリーブとの軸方向の結合力を、極めて強力なものにすることができる。
【0022】
本発明に係る筋交いの連結構造において、前記スリーブが前記アンカー体に形成された挿通孔に挿通し、前記スリーブの外周面に形成された雄ねじ部にナットが螺合し、前記アンカー体の側面と前記ナットとの間にゴム様弾性体製の衝撃吸収体を配置したものとすることができる。
【0023】
このようにすると、筋交いに掛かる例えば引っ張り方向の衝撃を、この衝撃吸収体によって吸収することができるので、筋交いに掛かる衝撃がアンカー体を介して建物の壁面部に伝達されることを抑制することができ、これによって、壁面部の損傷を防止できる。
【0024】
本発明に係る筋交いの連結構造において、前記筋交いが、炭素繊維で形成されているものとすることができる。
【0025】
このように、筋交いを炭素繊維で形成することによって、筋交いの嵩を小さくできて外観に与える影響が少なく、引っ張り強度を大きくすることができ、軽量で施工がし易く、工事期間が短くて済む。
【0026】
本発明に係る既存建物の耐震補強構造は、本発明の筋交いの連結構造を備えることを特徴とするものである。
【0027】
本発明に係る既存建物の耐震補強構造によると、本発明の筋交いの連結構造を備えており、上記と同様に作用する。
【0028】
本発明に係る既存建物の耐震補強構造は、本発明の筋交いのアンカー構造と、本発明の筋交いの連結構造とを備えるものである。
【0029】
本発明に係る既存建物の耐震補強構造によると、本発明の筋交いのアンカー構造と筋交いの連結構造とを備えており、上記と同様に作用する。
【0030】
本発明に係る筋交いのアンカー体は、建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定するための筋交いのアンカー体において、前記建物の壁面部に配置され、前記筋交いの端部が連結される連結部と、この連結部と結合し、建物の壁面部に形成されたアンカー孔に挿入されるアンカー部と、前記アンカー部の外表面と前記アンカー孔の内表面との間の空間に充填材を注入して固定用充填部を形成するための注入通路とを備え、前記注入通路は、その一端が注入口として前記連結部側の露出部分に形成され、かつ、前記注入通路の他端が出口として前記アンカー部の先端部に形成されていることを特徴とするものである。
【0031】
本発明に係る筋交いのアンカー体によると、本発明の筋交いのアンカー構造が備えるアンカー体と同様に作用する。
【0032】
本発明に係る筋交いユニットは、建物を補強するために、建物の壁面部に固定されているアンカー体に連結される筋交いユニットであって、筋交い本体と、前記筋交い本体の端部を内側に収容できるように筒状に形成され、前記アンカー体に連結するための雄ねじ部が外周面に形成されているスリーブと、前記スリーブ内にその軸方向に互いに間隔を隔てて装着され、前記筋交い本体の端部を保持する一対の保持部と、前記スリーブ内にその軸方向に互いに間隔を隔てて装着されている一対の前記保持部どうしの間に形成されている空間に充填材が注入されて形成され、前記筋交い本体の端部の外表面と前記スリーブの内表面とを互いに結合する結合用充填部とを備えることを特徴とするものである。
【0033】
本発明に係る筋交いユニットは、本発明の筋交いの連結構造が備える筋交い(筋交い本体)、スリーブ、一対の保持部、及び結合用充填部を備えており、これらが同様に作用する。そして、この筋交い本体の端部が結合されたスリーブは、その外周面に雄ねじ部が形成され、この雄ねじ部を使用してアンカー体に連結することができるので、このアンカー体に連結される筋交いユニットの端部を強力に壁面部に固定することができる。
【0034】
本発明に係る既存建物の耐震補強工法は、壁面部の少なくとも2箇所にアンカー孔を設けるアンカー孔形成段階と、前記各アンカー孔にアンカー体を装着するアンカー装着段階と、前記各アンカー孔に装着された前記アンカー体の外表面と前記アンカー孔の内表面との間の空間に充填材を注入して固定用充填部を形成し、この固定用充填部によって前記アンカー体を前記壁面部に固定するアンカー固定段階と、前記壁面部から露出する一対の前記アンカー体の連結部に筋交いユニットのそれぞれの端部を連結する筋交い連結段階とを備えることを特徴とするものである。
【0035】
本発明に係る既存建物の耐震補強工法によると、まず、壁面部の少なくとも2箇所にアンカー孔を設ける。次に、各アンカー孔にアンカー体を装着し、そして、各アンカー孔に装着されたアンカー体の外表面とアンカー孔の内表面との間の空間に充填材を注入する。そして、この充填材の固化によって固定用充填部を形成し、この固定用充填部によってアンカー体を壁面部に固定する。しかる後に、壁面部から露出する一対の前記アンカー体の連結部に筋交いユニットのそれぞれの端部を連結する。このようにして、既存建物の耐震補強をすることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る筋交いのアンカー構造、及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造によると、例えば既存の鉄筋コンクリート建物に対する耐震補強をするために、筋交いの端部を、建物の壁面部にアンカー体によって固定することができる構成であるので、このアンカー構造を建物に施工する際は、屋外から施工でき、かつ、騒音や振動が少なく、工事期間が短くて済む。また、このアンカー構造によると、補強後の建物外観や居住者等に与える影響が少なく、補強そのものの耐久性に優れ、かつ、廉価で行うことができる。
【0037】
本発明に係る筋交いの連結構造、及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造によると、例えば既存の鉄筋コンクリート建物に対する耐震補強をするために、筋交いの端部を、建物の壁面部に固定して設けられているアンカー体に連結することができる構成であるので、この連結構造を建物に施工する際は、前記筋交いのアンカー構造等と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の一実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部にアンカー孔を形成する段階を示す正面図である。
【図2】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部におけるアンカー孔の周囲に補強シートを貼着する段階を示す正面図である。
【図3】図2に示す補強シートを構成する第1層〜第4層を示す図である。
【図4】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部のアンカー孔にアンカー体を固定する段階を示す正面図である。
【図5】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部のアンカー孔にアンカー体を固定する段階を示す部分拡大正面図である。
【図6】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部のアンカー孔とアンカー体との間の空間に充填材を充填する状態を示す部分拡大縦断面図である。
【図7】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部のアンカー孔とアンカー体との間の空間に充填材を充填した状態を示す部分拡大正面図である。
【図8】同実施形態に係るアンカー体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図、(d)は背面図である。
【図9】同実施形態に係る筋交いユニットを示す図であり、(a)は部分断面拡大正面図、(b)は部分拡大縦断面図、(c)はB−B拡大断面図である。
【図10】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部に取り付けられたアンカー体に筋交いユニットを取り付ける状態を示す部分断面正面図である。
【図11】同実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部に取り付けられたアンカー体に筋交いユニットを取り付けた状態を示す正面図である。
【図12】図11に示すアンカー体に筋交いユニットを取り付けた状態を示す部分拡大正面図である。
【図13】図12に示すアンカー体と筋交いユニットとの連結状態を示す部分拡大断面図である。
【図14】同発明の他の実施形態に係る既存建物の耐震補強構造の施工の手順を説明するための図であり、壁面部のアンカー孔とアンカー体との間の空間に充填材を充填する状態を示す部分拡大縦断面図である。
【図15】従来の既存建物の耐震補強構造の概念を示す図であり、(a)は正面図、(b)はA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る既存建物の耐震補強構造の一実施形態を、図1〜図13を参照して説明する。この既存建物の耐震補強構造11は、図11に示すように、例えば鉄筋コンクリート造(RC造)又は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の既存建物を補強するための筋交いユニット12の両方の各端部を、その建物の壁面部13の例えば柱部分(以下、単に「壁面部)と言う。)に固定して設けられている筋交いのアンカー体14に連結して成るものであり、この筋交いユニット12は、たすき状に設けることができる。
【0040】
そして、この図11に示す既存建物の耐震補強構造11が備えている各アンカー体14は、図12及び図13に示すように、筋交いのアンカー構造15によって建物の壁面部13に固定して設けられている。また、この既存建物の耐震補強構造11が備えている筋交いユニット12は、図12及び図13に示すように、筋交いの連結構造16によってアンカー体14に連結されている。更に、この既存建物の耐震補強構造11は、図1〜図13に示す施工の手順によって既存建物の壁面部13に施工することができる。
【0041】
次に、この既存建物の耐震補強構造11が備えている筋交いのアンカー体14、筋交いのアンカー構造15、筋交いユニット12、筋交いの連結構造16、及び既存建物の耐震補強工法を説明する。
【0042】
筋交いのアンカー体14は、図13に示すように、既存建物を補強するための筋交いユニット12の端部を、建物の壁面部13に固定するためのものであり、図8(a)〜(d)に示すように、連結部17、アンカー部18及びフランジ部19を備えており、それぞれが金属製である。
【0043】
連結部17は、図13に示すように、建物の壁面部13に配置され、筋交いユニット12の端部が連結されるものであり、図8に示すように、略直方体に形成されている。そして、矩形の側面の中心位置に、この側面に対して垂直方向に円筒形の挿通孔20が形成されている。そして、この連結部17の下面にアンカー部18が結合して設けられている。
【0044】
アンカー部18は、図13に示すように、建物の壁面部13に形成されたアンカー孔21に装着されて、固定用充填部22によって壁面部13に固定されるものである。このアンカー部18は、図8に示すように、連結部17と結合する比較的短い寸法の大径部18aと、この大径部18aと結合する比較的長い寸法の小径部18bとを備えており、連結部17に形成されている挿通孔20に対して直交する方向に延びている。そして、この大径部18aは、この大径部18aが結合する連結部17の底面よりも小さい寸法に形成されている。
【0045】
このように、アンカー部18の基端側を大径部18aとし、先端側を小径部18bとしているのは、基端側を大径部18aとすることによって、このアンカー体14に対して壁面方向に働く力に対する耐力を大きくすることができる。そして、先端側を小径部18bとすることによって、壁面部13内に設けられている鉄筋(図6参照)との干渉を避けて、この壁面部13にアンカー体14を設けることを可能にしている。また、このアンカー部18には、注入通路24が形成されている。
【0046】
注入通路24は、図6に示すように、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間にエポキシ系樹脂(合成樹脂)等の充填材を注入して固定用充填部22を形成するためのものであり、アンカー部18及び連結部17の内部に形成されている。
【0047】
この注入通路24は、図6に示すように、その一端が注入口24aとして形成され、この注入口24aは、連結部17の露出部分であって、挿通孔20のアンカー部18側の内面に形成されている。そして、注入通路24の他端が出口24bとして形成され、この出口24bは、アンカー部18の先端部(アンカー孔21の底部側の先端部)に形成されている。
【0048】
フランジ部19は、図6に示すように、このアンカー体14を壁面部13に対して複数のアンカーボルト25で取り付けるためのものであり、円板状に形成され、中心に円形の貫通孔が形成されている。このフランジ部19は、中心の貫通孔にアンカー体14の大径部18aが装着され、この状態で、アンカー体14の連結部17に溶接等によって結合されている。そして、このフランジ部19の外周部に沿って設けられている複数の各小孔にアンカーボルト25が挿通され、この複数のアンカーボルト25によっても、アンカー体14がフランジ部19を介して壁面部13に固定して取り付けられている。
【0049】
次に、筋交いのアンカー構造15を説明する。この筋交いのアンカー構造15は、図13に示すように、既存建物を補強するための筋交いユニット12の端部を、既存建物の壁面部13に固定するためのものであり、図8(a)〜(d)に示すアンカー体14と、固定用充填部22と、補強シート26とを備えている。
【0050】
アンカー体14は、図13に示すように、既存建物の壁面部13に形成されたアンカー孔21にアンカー部18が装着され、このアンカー部18が、固定用充填部22によってこのアンカー孔21に固定して取り付けられている。
【0051】
この固定用充填部22は、図6に示すように、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間に、エポキシ系樹脂(合成樹脂)等の充填材が注入されて固化したものであって、アンカー部18を固定保持するものである。
【0052】
そして、図12及び図13に示すように、このアンカー体14の連結部17に溶接されたフランジ部19は、複数のアンカーボルト25によって、壁面部13に固定して取り付けられている。このようにして、アンカー体14は、複数のアンカーボルト25によっても壁面部13に固定して取り付けられている。また、このフランジ部19と壁面との間には、後述する補強シート26が配置され、この補強シート26は、壁面に貼着されている。
【0053】
そして、図13に示すように、このアンカー部18と結合する連結部17が、建物の壁面部13の外側に配置され、この連結部17に形成されている挿通孔20に、筋交いユニット12の端部に設けられているスリーブ27が挿通している。そして、このスリーブ27の端部に形成された雄ねじ部28に対して、衝撃吸収体29及び座金30が装着され、更に、2つのナット31が螺合され、このようにして、筋交いユニット12の端部に設けられているスリーブ27が、アンカー体14に設けられている連結部17に連結されている。
【0054】
更に、図12及び図13に示すように、建物の壁面部13の壁面におけるアンカー孔21の開口部の周囲に所定の範囲に亘って壁面を補強するための補強シート26を貼着してある。
【0055】
この補強シート26は、筋交いユニット12に掛かる力(例えば引っ張り力)がアンカー体14、固定用充填部22、及びアンカー孔21の内面を介して建物の壁面部13に伝達したときに、その壁面部13の壁面を補強シート26によって補強して、壁面部13の損傷を防止することができるものである。
【0056】
この補強シート26は、図3に示すように、例えば第1シート層26a〜第4シート層26dの4層で構成された矩形のシート状体であり、これら第1シート層26a〜第4シート層26dは、下層から上層に向かって順に配置されている。そして、これら第1シート層26a〜第4シート層26dは、炭素繊維と合成樹脂の複合材料で形成され、それぞれが互いに結合している。この第1シート層26aの炭素繊維は、右斜め上約45°の方向に向かうように配置され、第2シート層26bの炭素繊維は、右斜め下約45°の方向に向かうように配置され、第3シート層26cの炭素繊維は、略上下方向に向かうように配置され、そして、第4シート層26dの炭素繊維は、略左右方向に向かうように配置されている。このように、第1シート層26a〜第4シート層26dのそれぞれの炭素繊維の方向を全体として放射状に向かうようにしてあるので、アンカー体14を介して壁面の面方向のあらゆる方向に掛かる力をこの補強シート26によって受け止めることができる。これによって、壁面部13を強力に補強することができる。
【0057】
また、図7に示すように、この補強シート26は、例えば4つの定着金物32によって上から押し付けられて壁面部13に固定されている。この4つの定着金物32によって、補強シート26が壁面からめくれ上がったり、皺にならないように壁面部13に留めておくことができる。
【0058】
これら4つの定着金物32は、金属製の細長い板状体であり、矩形の補強シート26の4つの各直線縁部に沿って配置され、アンカーボルト33で壁面部13に取り付けられている。
【0059】
次に、図5〜図7を参照して、アンカー体14をアンカー孔21内に固定するための固定用充填部22を形成するときの手順を説明する。まず、図5に示すように、フランジ部19の外周部と、補強シート26の間に存在する隙間を封止するために、このフランジ部19の外周部にコーキング材34を塗布する。ただし、フランジ部19の外周部のうちの一部には、コーキング材34を塗布しない部分を空気抜き孔35として残しておく。
【0060】
次に、図6に示すように、例えば注入器36及び注入用ホース37を使用して、エポキシ系樹脂等の充填材をアンカー体14の連結部17の露出部分に形成されている注入口24aから注入する。これによって、充填材は、注入通路24を通ってアンカー部18の先端部に形成された出口24bから流出し、そして、アンカー孔21の底部、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間、アンカー孔21の開口部、フランジ部19と補強シート26との間の隙間、及び空気抜き孔35を通って外側に流出する。このようにして、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間に、充填材を隅々まで行き渡るように充填することができる。その結果、この充填材が固化して形成された固定用充填部22によって、アンカー体14のアンカー部18をアンカー孔21の内表面に強固に固定することができ、このアンカー体14に連結される筋交いユニット12の端部を強力に壁面部13に固定することができる。
【0061】
なお、充填材をアンカー孔21の空間に充填した後は、図7に示すように、空気抜き孔35を充填材で封止する。また、図には示さないが、アンカー部18の外表面及びアンカー孔21の内表面と、固定用充填部22との結合力を大きくするために、アンカー部18の外表面及びアンカー孔21の内表面に対して凸部や凹部を形成するとよい。
【0062】
次に、上記のように構成された図11〜図13に示す筋交いのアンカー構造15、及びこの筋交いのアンカー構造15が適用された既存建物の耐震補強構造11の作用を説明する。この図11〜図13に示す筋交いのアンカー構造15等によると、例えば既存の鉄筋コンクリート建物に対する耐震補強をするために、筋交いユニット12の両方の各端部を、建物の壁面部13にアンカー体14によって固定することができる。そして、アンカー体14は、そのアンカー部18を建物の壁面部13に設けたアンカー孔21に、固定用充填部22によって固定して設けることができるし、筋交いユニット12の端部は、アンカー体14の壁面部13から外側に露出している連結部17に連結することができるので、この筋交いのアンカー構造15を建物に施工するときは、屋外から施工でき、かつ、騒音や振動が少なく、工事期間が短くて済む。
【0063】
これによって、建物内を汚すことが無いし、補強後の建物外観や居住者等に与える影響を少なくすることができる。そして、アンカー体14を建物の壁面部13に固定して設けて、このアンカー体14に筋交いユニット12の端部を連結する構成であるので、補強効果が大きく、耐久性に優れ、かつ、廉価で行うことができる。
【0064】
次に、図13に示す筋交いユニット12を説明する。この筋交いユニット12は、既存建物を補強するために、建物の壁面部13に固定されているアンカー体14の連結部17に連結されるものであり、図9(a)〜(c)に示すように、筋交い本体38、スリーブ27、保持部39、及び結合用充填部40を備えている。
【0065】
筋交い本体38は、図9に示すように、細長い棒状体であり、表面に多数の外面凹部41が形成され、例えば3本の筋交い本体38が使用されている。この外面凹部41は、螺旋状に形成されたものであってもよい。そして、筋交い本体38の外面に外面凹部41を設ける代わりに、外面凸部を設けてもよい。
【0066】
そして、この筋交い本体38は、例えば炭素繊維と合成樹脂(例えばエポキシ系樹脂)との複合材料で形成されている。勿論、筋交い本体38は、炭素繊維と合成樹脂との複合材料以外の材料で形成したものとしてもよい。
【0067】
このように、筋交い本体38を炭素繊維で形成することによって、筋交い本体38の嵩を小さくできて外観に与える影響が少なく、引っ張り強度を大きくすることができ、軽量で施工がし易く、工事期間が短くて済む。
【0068】
スリーブ27は、3本の筋交い本体38の左右の各端部を内側に収容できるように円筒状に形成され、このスリーブ27をアンカー体14の連結部17に連結するための雄ねじ部28が外周面に形成されている。
【0069】
つまり、図13に示すように、このスリーブ27の雄ねじ部28が形成されている端部は、アンカー体14の連結部17に形成された挿通孔20に挿通することができる大きさに形成され、この挿通した状態で雄ねじ部28に、円板状の衝撃吸収体29及び座金30が装着され、更に、2つのナット31が螺合されるように形成されている。
【0070】
また、図には示さないが、スリーブ27の内面には多数の内面凹部が形成されている。この内面凹部は、螺旋状に形成されたものであってもよい。そして、スリーブ27の内面に内面凹部を設ける代わりに、内面凸部を設けてもよい。
【0071】
保持部39は、図9(a)〜(c)に示すように、3本の筋交い本体38を互いに間隔を隔てた状態で保持すると共に、これら3本の筋交い本体38をスリーブ27の内面と間隔を隔てた状態で保持するためのスペーサである。
【0072】
この保持部39は、例えば材質が合成ゴムであり、円板状に形成され、3つの保持孔39aを有している。これら3つの各保持孔39aには、3本の筋交い本体38のそれぞれの端部が挿通される。
【0073】
そして、保持部39は、図9(a)に示すように、スリーブ27内にその軸方向に互いに間隔を隔てて一対装着され、この一対の保持部39どうしの間に形成されている空間に結合用充填部40が形成されている。
【0074】
結合用充填部40は、図9(b)に示すように、筋交い本体38の端部の外表面とスリーブ27の内表面とを互いに結合して、筋交い本体38の端部をスリーブ27に結合させるためのものである。
【0075】
また、図9(a)〜(c)に示すように、スリーブ27の2つの各端部には、結合用充填部40を形成するための充填材を、スリーブ27内の一対の保持部39どうしの間の空間に注入するための注入口27a、及びその空間内の空気を排出するための空気抜き孔27bが形成されている。このスリーブ27内の一対の保持部39どうしの間の空間に注入された充填材が固化すると、結合用充填部40が形成される。
【0076】
次に、筋交いの連結構造16を説明する。この筋交いの連結構造16は、図13に示すように、既存建物を補強するための筋交いユニット12の端部を、既存建物の壁面部13に固定して設けられているアンカー体14に連結するためのものである。
【0077】
そして、図13に示すように、筋交いユニット12の端部に設けられているスリーブ27は、建物の壁面部13の外側に配置されている連結部17の挿通孔20に挿通している。そして、このスリーブ27の端部に形成された雄ねじ部28に対して、衝撃吸収体29及び座金30が装着され、更に、2つのナット31が螺合され、このようにして、筋交いユニット12の端部に設けられているスリーブ27が、アンカー体14に設けられている連結部17に連結されている。
【0078】
この図13に示す衝撃吸収体29は、例えばゴム様弾性体製(合成樹脂製)であり、連結部17と座金30との間に装着されている。
【0079】
この衝撃吸収体29によると、筋交いユニット12に掛かる例えば引っ張り方向の衝撃を、この衝撃吸収体29によって吸収することができるので、筋交いユニット12に掛かる衝撃がアンカー体14を介して建物の壁面部13に伝達されることを抑制することができ、壁面部13の損傷を防止することができる。
【0080】
次に、図9(a)〜(c)を参照して、筋交い本体38の両方の各端部をスリーブ27内に固定した状態で連結するための結合用充填部40を形成するときの手順を説明する。まず、図9(a)、(b)に示すように、3本の筋交い本体38の各端部がスリーブ27の内側に挿入され、かつ、2つの保持部39がこの3本の筋交い本体38の各端部に装着されて、この2つの保持部39がスリーブ27の左右の各開口端部内に装着された状態にする。なお、3本の筋交い本体38の各端部は、2つの各保持部39に形成されている3つのそれぞれの保持孔39aに挿通している。
【0081】
しかる後に、例えば図6に示す注入器36及び注入用ホース37を使用して、エポキシ系樹脂等の充填材をスリーブ27の一端部に形成されている注入口27aから注入する。これによって、充填材は、スリーブ27内に互いに間隔を隔てて装着されている一対の保持部39どうしの間に形成されている空間に注入されて、このスリーブ27の他端部に形成されている空気抜き孔27bから流出する。このようにして、充填材を当該空間の隅々まで行き渡るように充填することができる。その結果、この充填材が固化して形成された結合用充填部40によって、筋交いの端部とスリーブ27とを互いに強固に結合することができる。
【0082】
そして、スリーブ27の内面に多数の内面凹部又は内面凸部が形成され、筋交いの端部の外面に多数の外面凹部41又は外面凸部が形成されているので、これら多数の内面凹部又は内面凸部、及び多数の外面凹部41又は外面凸部に結合用充填部40が係合することができるので、筋交い本体38の端部とスリーブ27との軸方向の結合力を、極めて強力なものにすることができる。
【0083】
次に、上記のように構成された図11〜図13に示す筋交いの連結構造16、及びこの筋交いの連結構造16が適用された既存建物の耐震補強構造11の作用を説明する。この図11〜図13に示す筋交いの連結構造16等によると、例えば既存の鉄筋コンクリート建物に対する耐震補強をするために、筋交いユニット12の端部を、建物の壁面部13に固定して設けられているアンカー体14に連結することができる。そして、筋交いユニット12の端部は、アンカー体14の壁面部13から外側に露出している連結部17に連結することができるので、この筋交いユニット12の連結構造を建物に施工するときは、屋外から施工することができ、かつ、騒音や振動が少なく、工事期間が短くて済む。これによって、この連結構造16を建物に施工する際は、前記筋交いのアンカー構造15等と同様の効果を奏する。なお、図11及び図12に示す42は、コルゲート管である。このコルゲート管42は、筋交いユニット12を保護すると共に、見栄えをよくするためのものである。
【0084】
次に、上記図11〜図13に示す筋交いのアンカー構造15、及び筋交いの連結構造16を備える既存建物の耐震補強構造11を施工するための既存建物の耐震補強工法を、図1〜図13を参照して説明する。
【0085】
まず、図1に示すように、既存建物の壁面部13に対して、筋交いのアンカー体14を固定するためのアンカー孔21を複数箇所に設ける。図1には、4つのアンカー孔21を示す(アンカー孔形成段階)。
【0086】
次に、図2に示すように、建物の壁面部13の壁面における4つの各アンカー孔21の開口部の周囲に所定の範囲に亘って壁面を補強するための補強シート26を貼着する(補強シート貼着段階)。
【0087】
そして、図4に示すようにして、4つの各アンカー孔21にアンカー体14のアンカー部18を装着する(アンカー装着段階)。この際、対角線上の2つのアンカー体14を1組として、それぞれの挿通孔20には、仮棒43を装着してある。この仮棒43は、アンカー体14に形成されている挿通孔20の方向を決めるためのものである。このように挿通孔20の方向を決めるのは、アンカー体14を壁面部13に固定して取り付けた後で、各挿通孔20に筋交いユニット12を装着できるようにするためである。
【0088】
しかる後に、図5〜図7に示すように、各アンカー孔21に装着された各アンカー体14のアンカー部18の外表面と、アンカー孔21の内表面との間の空間に充填材を注入する。そして、この充填材が固化して形成された固定用充填部22によって、各アンカー体14を壁面部13に固定する(アンカー固定段階)。そして、補強シート26の上から定着金物32を押し付けて、この定着金物32を壁面部13にアンカーボルト33で固定する。
【0089】
また、図9(a)〜(c)に示す筋交いユニット12を、必要な本数だけ製作する(筋交いユニット製作段階)。
【0090】
そして、図10〜図13に示すように、壁面部13から露出する各対のアンカー体14の連結部17に筋交いユニット12のそれぞれの端部を連結する(筋交い連結段階)。このようにして、既存建物の耐震補強構造11が完成する。
【0091】
ただし、上記実施形態では、アンカー体14をアンカー孔21内に固定するための固定用充填部22を形成する方法として、図6に示すように、注入器36及び注入用ホース37を使用して、アンカー体14の連結部17に形成されている注入口24aから注入した充填材を、フランジ部19と補強シート26との間の隙間、及び空気抜き孔35に通して外側に流出させて、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間に固定用充填部22を形成するようにしたが、これに代えて、図14に示すように、例えば注入器36及び注入用ホース37を使用して、アンカー体14の連結部17に形成されている注入口24aから注入した充填材を、アンカー孔21の開口部と外側とを連通させる空気抜き管44(空気抜き孔)に通して外側に流出させて、アンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間に固定用充填部22を形成するようにしてもよい。
【0092】
この図14に示す空気抜き管44は、補強シート26、フランジ部19、及びコーキング材34を貫通するように設けられている。そして、この空気抜き管44は、充填材がアンカー部18の外表面とアンカー孔21の内表面との間の空間に充填された後で除去され、その空気抜き管44が配置されていた孔は充填材で埋められて封止される。また、コーキング材34は、フランジ部19の上面全体を覆うように塗布されている。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明に係る筋交いのアンカー構造及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造は、屋外から施工でき、かつ、騒音や振動が少なく、工事期間が短くて済み、また、補強後の建物外観や居住者等に与える影響を少なくすることができる優れた効果を有し、このような筋交いのアンカー構造及びその構造を備える既存建物の耐震補強構造に適用するのに適している。
【符号の説明】
【0094】
11 既存建物の耐震補強構造
12 筋交いユニット
13 壁面部
14 アンカー体
15 筋交いのアンカー構造
16 筋交いの連結構造
17 連結部
18 アンカー部
18a アンカー部の大径部
18b アンカー部の小径部
19 フランジ部
20 挿通孔
21 アンカー孔
22 固定用充填部
23 鉄筋
24 注入通路
24a 注入口
24b 出口
25 アンカーボルト
26 補強シート
26a 第1シート層
26b 第2シート層
26c 第3シート層
26d 第4シート層
27 スリーブ
27a 注入口
27b 空気抜き孔
28 雄ねじ部
29 衝撃吸収体
30 座金
31 ナット
32 定着金物
33 アンカーボルト
34 コーキング材
35 空気抜き孔
36 注入器
37 注入用ホース
38 筋交い本体
39 保持部
39a 保持孔
40 結合用充填部
41 外面凹部
42 コルゲート管
43 仮棒
44 空気抜き孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定するための筋交いのアンカー構造において、
前記建物の壁面部に配置され、前記筋交いの端部が連結される連結部、及びこの連結部と結合し、建物の壁面部に形成されたアンカー孔に装着されるアンカー部を有するアンカー体と、
前記アンカー部の外表面と前記アンカー孔の内表面との間の空間に注入されて形成され前記アンカー部を固定保持する固定用充填部とを備えることを特徴とする筋交いのアンカー構造。
【請求項2】
前記アンカー体には、前記固定用充填部を形成するための充填材を前記アンカー孔内の空間に注入するための注入通路が形成され、この注入通路の一端が注入口として前記連結部側の露出部分に形成され、かつ、前記注入通路の他端が出口として前記アンカー部の先端部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の筋交いのアンカー構造。
【請求項3】
前記建物の壁面部の壁面における前記アンカー孔の開口部の周囲に所定の範囲に亘って壁面を補強するための補強シートを貼着したことを特徴とする請求項1又は2記載の筋交いのアンカー構造。
【請求項4】
前記筋交いが、炭素繊維で形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筋交いのアンカー構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の筋交いのアンカー構造を備えることを特徴とする既存建物の耐震補強構造。
【請求項6】
建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定して設けられているアンカー体に連結するための筋交いの連結構造において、
前記筋交いの端部と、
前記筋交いの端部を内側に収容する筒状に形成されたスリーブと、
前記スリーブ内にその軸方向に互いに間隔を隔てて装着され、前記筋交いの端部を保持する一対の保持部と、
前記スリーブ内に互いに間隔を隔てて装着されている一対の前記保持部どうしの間に形成されている空間に注入されて、前記筋交いの端部の外表面と前記スリーブの内表面とを互いに結合する結合用充填部と、
前記アンカー体に設けられ前記スリーブがねじ部を介して連結する連結部とを備えることを特徴とする筋交いの連結構造。
【請求項7】
前記スリーブには、前記結合用充填部を形成するための充填材を前記スリーブ内の前記空間に注入するための注入口、及び前記空間内の空気を排出するための空気抜き孔が形成され、
前記スリーブの内面に多数の内面凹部又は内面凸部が形成され、
前記筋交いの端部の外面に多数の外面凹部又は外面凸部が形成されていることを特徴とする請求項6記載の筋交いの連結構造。
【請求項8】
前記スリーブが前記アンカー体に形成された挿通孔に挿通し、
前記スリーブの外周面に形成された雄ねじ部にナットが螺合し、
前記アンカー体の側面と前記ナットとの間にゴム様弾性体製の衝撃吸収体を配置したことを特徴とする請求項6又は7記載の筋交いの連結構造。
【請求項9】
前記筋交いが、炭素繊維で形成されていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の筋交いの連結構造。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載の筋交いの連結構造を備えることを特徴とする既存建物の耐震補強構造。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれかに記載の筋交いのアンカー構造と、請求項6乃至9のいずれかに記載の筋交いの連結構造とを備えることを特徴とする既存建物の耐震補強構造。
【請求項12】
建物を補強するための筋交いの端部を、建物の壁面部に固定するための筋交いのアンカー体において、
前記建物の壁面部に配置され、前記筋交いの端部が連結される連結部と、
この連結部と結合し、建物の壁面部に形成されたアンカー孔に挿入されるアンカー部と、
前記アンカー部の外表面と前記アンカー孔の内表面との間の空間に充填材を注入して固定用充填部を形成するための注入通路とを備え、
前記注入通路は、その一端が注入口として前記連結部側の露出部分に形成され、かつ、前記注入通路の他端が出口として前記アンカー部の先端部に形成されていることを特徴とする筋交いのアンカー体。
【請求項13】
建物を補強するために、建物の壁面部に固定されているアンカー体に連結される筋交いユニットであって、
筋交い本体と、
前記筋交い本体の端部を内側に収容できるように筒状に形成され、前記アンカー体に連結するための雄ねじ部が外周面に形成されているスリーブと、
前記スリーブ内にその軸方向に互いに間隔を隔てて装着され、前記筋交い本体の端部を保持する一対の保持部と、
前記スリーブ内にその軸方向に互いに間隔を隔てて装着されている一対の前記保持部どうしの間に形成されている空間に充填材が注入されて形成され、前記筋交い本体の端部の外表面と前記スリーブの内表面とを互いに結合する結合用充填部とを備えることを特徴とする筋交いユニット。
【請求項14】
壁面部の少なくとも2箇所にアンカー孔を設けるアンカー孔形成段階と、
前記各アンカー孔にアンカー体を装着するアンカー装着段階と、
前記各アンカー孔に装着された前記アンカー体の外表面と前記アンカー孔の内表面との間の空間に充填材を注入して固定用充填部を形成し、この固定用充填部によって前記アンカー体を前記壁面部に固定するアンカー固定段階と、
前記壁面部から露出する一対の前記アンカー体の連結部に筋交いユニットのそれぞれの端部を連結する筋交い連結段階とを備えることを特徴とする既存建物の耐震補強工法。

【図1】
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【図6】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−36701(P2012−36701A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180231(P2010−180231)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(597176212)株式会社川嶋建設 (1)
【Fターム(参考)】