説明

筋肉の電気的刺激方法及び筋肉鍛錬装置

【課題】閉鎖性運動連鎖による手、肘、膝、足関節、体幹等の伸展または屈曲する関節の運動において、使用者の運動が不自然になることや、使用者が運動に違和感を覚えることを防止でき、運動の安全性をより高めて運動効果の向上も期待できる筋肉鍛錬装置を提供する。
【解決手段】筋肉鍛錬装置(A)は、筋肉に電気的刺激を与える電極部(10,11)を備えた装具(1)と、伸展または屈曲部位の角度を検出する角度検出具(2)と、電極部(10,11)に電気を供給するコントローラ(3)と、コントローラ(3)を制御するコンピュータ(4)を備えている。コンピュータ(4)は、角度検出具(2)により検出された情報を元に、拮抗筋に対し、運動初期には運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて部位の角度毎にあらかじめ決められている拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるよう制御するプログラムを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉の電気的刺激方法及び筋肉鍛錬装置に関する。更に詳しくは、閉鎖性運動連鎖による手、肘、膝、足関節、体幹等の関節を伸展または屈曲する運動において、例えば同じ強さの電気的刺激でも関節の角度によって異なる筋肉の収縮力を勘案して電気的刺激の強さを制御することにより、使用者の運動が不自然になることや、使用者が運動に違和感を覚えることを防止して、安全かつ円滑で効果的な運動が可能な筋肉の電気的刺激方法及び筋肉鍛錬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気的刺激を利用した筋肉鍛錬装置(筋力増強器)としては、すでに本発明者らが提案したものがある(特許文献1、2参照)。この筋肉鍛錬装置は、主動筋となる筋肉が収縮しているときに、拮抗筋となる筋肉に電気的刺激を与えて遠心性収縮を行わせる、いわゆる閉鎖性運動連鎖による運動(以下「閉鎖性運動」という。)を行うことができるようにしたものである。
【0003】
この閉鎖性運動によれば、ダンベル等の重いもので筋肉に負荷をかける一般的な運動とは相違して、重いものは使用せずに主動筋と拮抗筋に同時に負荷をかけることによって、安全にかつ効率的に使用者の筋力の維持または増強を図ることができる。
【0004】
なお、特許請求の範囲及び明細書で「主動筋」とは、収縮して膝や肘等の関節を伸展屈曲させる筋肉のことをいい、また「拮抗筋」とは、主動筋によって膝や肘等の関節が伸展屈曲されるときに伸張する筋肉のことをいう。すなわち、主動筋と拮抗筋は対抗してはたらき合うもので、互いに反対の動きを同時に営むものである。
【0005】
【特許文献1】特許3026007号
【特許文献2】特開2005−253539
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記閉鎖性運動は、拮抗筋に対し電気的刺激による筋収縮を起こさせることにより、これを運動抵抗とするものであるが、本発明者等は、閉鎖性運動について更に研究を重ねたところ、同じ強さの電気的刺激を行った場合では、伸展または屈曲する関節の角度の違いによって刺激筋の収縮力が異なることが知見された。
具体的には、例えば肘関節を動かす筋肉である上腕二頭筋においては、肘関節の屈曲角度(伸展状態を0度として何度曲がっているか)が60度で最大収縮力が得られるが、この値は屈曲角度が0度での収縮力の約2倍である(表1参照)。
【0007】
【表1】

【0008】
また、電気的刺激の強さによって筋肉の収縮力が異なり、例えば上腕二頭筋においては、電圧を20%減少(基準が45V:100%である場合は、36Vとなる)させると、筋収縮力は半分以下になることも知見された(表2参照)。すなわち、例えば印加電圧の強さを変えて電気的刺激の強さを制御することにより、筋肉の収縮力の調節ができることが分かった。
【0009】
【表2】

【0010】
これらの研究から、拮抗筋に対して単純に一定電圧の電気的刺激を与えるだけでは、一定の筋収縮力または運動に好ましい筋収縮力を得られず、運動によって関節の角度が変化するに伴って運動が不安定になる可能性があることがわかった。
具体的には、上腕の運動において、前記のように肘関節の屈曲角度が60度で電気的刺激による最大筋収縮力が発生し、0度ではその約50%になるということは、例えば、肘関節を屈曲状態(例えば屈曲角度90度)から伸展させる運動を行う場合、運動の初期に最大値の約60%の運動抵抗が生じ、中期(屈曲角度60度)で最大値100%の運動抵抗が生じ、運動終端の伸展状態に近付く終期では、最大値の約50%の運動抵抗となる。つまり、伸展運動中に拮抗筋による運動抵抗が大きく変動する。これでは、自然な運動を行うことができず、運動している使用者は違和感を覚えてしまう。
【0011】
この問題を解消し、より自然な運動ができるようにするには、例えばダンベル運動のように運動の初めから終わりまで一定の運動抵抗を発生させるようにするのも一方法であるが、むしろ、より運動効果が高いといわれているチューブ運動のように運動初期では小さく、運動中期から終期では、より大きい運動抵抗を発生させるようにするのが実用的であり好ましい。
【0012】
また、運動中の電気的刺激による拮抗筋の筋収縮により、使用者にとって大きすぎる運動抵抗が発生すると、自発運動による主動筋の収縮力が下回ることもあり得る。この場合、意図する運動方向とは反対の方向へ運動が起こり、この運動情報も関節の動きを感知するセンサー(エンコーダ等)が取得してしまうことになる。
これにより、反対方向への運動の運動抵抗となる電気的刺激による筋収縮が発生する。前記反対の動きに抵抗しようとしている使用者は、これに助けられて再度意図する方向への自発運動を行うが、この運動をすぐにセンサーが感知し、再度同様に主動筋の収縮力が拮抗筋の収縮力より下回る状況になる。このようにして小さな屈伸を繰り返す運動を起こしやすくなり、ギクシャクとした不安定な動きをしてしまい、目的の運動ができなくなるばかりでなく、筋肉や関節を痛めてしまう危険がある。
【0013】
さらには筋肉の伸縮の状態も問題となる。すなわち、筋肉が弛緩している状態で電気的刺激による筋収縮が起こると、例えば関節運動に関与しない部分での電気的刺激による筋収縮が発生し、筋収縮と関節運動が直ちに連動せず、電気的刺激による筋収縮が関節運動になるまでに遅延が起こる。一方この間、主動筋の運動は拮抗筋の電気的刺激による筋収縮による抵抗を受けないため、比較的弱い自発筋収縮によって運動がなされる。その後、拮抗筋が緊張し関節運動に関与するようになると、それまでに起こっていた電気的刺激による筋収縮も相まって、突発的な運動抵抗の発生となる。
このような状態では、拮抗筋の収縮による力に抵抗しようと一時的に自発筋収縮が大きくなるが、筋収縮と関節運動のバランスが取れると、その大きな自発筋収縮は電気的刺激による収縮力に対し大きくなりすぎ、速い関節運動になるため、無意識にそれを抑制しようと自発筋収縮を減少させる。すると電気的刺激による筋収縮力と拮抗し、関節運動が停止することになり、エンコーダの情報により電気的刺激も停止する。これが数度繰り返され、運動が不安定になることがある。特に、この現象は刺激電圧が高いと起こりやすい。
【0014】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、閉鎖性運動連鎖による手、肘、膝、足関節、体幹等の関節を伸展または屈曲する運動において、同じ強さの電気的刺激でも関節の角度によって異なる筋肉の収縮力を勘案して電気的刺激の強さを制御することにより、運動抵抗となる拮抗筋の収縮力が大きくなりすぎて主動筋の収縮力が下回ることがないようにして、使用者の運動が不自然になることや使用者が運動に違和感を覚えることを防止でき、運動の安全性をより高め、円滑な運動が可能で運動効果の向上も期待できる筋肉の電気的刺激方法及び筋肉鍛錬装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために講じた本発明の手段は次のとおりである。
【0016】
(1)本発明は、主動筋となる筋肉が収縮しているときに、拮抗筋となる筋肉に電気的刺激を与えて遠心性収縮を行わせる閉鎖性運動連鎖による関節を伸展または屈曲する運動において、
運動に伴い変化する関節の角度の情報を元に、使用者が耐え得るあらかじめ決められた電気的刺激の強さの範囲内において、運動初期には拮抗筋に対し、運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて電気的刺激の強さを徐々に強くするか、または、運動終端へ向けて各関節の角度毎にあらかじめ決められている、拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるようにする、筋肉の電気的刺激方法である。
【0017】
(2)本発明は、主動筋を収縮させて拮抗筋が伸張するときに、拮抗筋に電気的刺激を与えて収縮させることにより主動筋と拮抗筋を並行して鍛えることができる筋肉鍛錬装置であって、
筋肉に電気的刺激を与える電気的刺激部を備えた装具と、
伸展または屈曲運動をする関節の角度を検出する角度検出手段と、
前記電気的刺激部に電気を供給する電気供給部と、
該電気供給部を制御するコンピュータと、
を備えており、
前記コンピュータは、
角度検出手段により検出された、運動に伴い変化する関節の角度を演算するための情報を元に、使用者が耐え得るあらかじめ決められた電気的刺激の強さの範囲内において、拮抗筋に対し、運動初期には電気的刺激部によって運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて電気的刺激の強さを徐々に強くするよう制御するプログラムを備えている、
筋肉鍛錬装置である。
【0018】
(3)本発明は、主動筋を収縮させて拮抗筋が伸張するときに、拮抗筋に電気的刺激を与えて収縮させることにより主動筋と拮抗筋を並行して鍛えることができる筋肉鍛錬装置であって、
筋肉に電気的刺激を与える電気的刺激部を備えた装具と、
伸展または屈曲運動をする関節の角度を検出する角度検出手段と、
前記電気的刺激部に電気を供給する電気供給部と、
該電気供給部を制御するコンピュータと、
を備えており、
前記コンピュータは、
角度検出手段により検出された、運動に伴い変化する関節の角度を演算するための情報を元に、使用者が耐え得るあらかじめ決められた電気的刺激の強さの範囲内において、拮抗筋に対し、運動初期には電気的刺激部によって運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて各関節の角度毎にあらかじめ決められている、拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるよう制御するプログラムを備えている、
筋肉鍛錬装置である。
【0019】
(4)本発明に係る筋肉鍛錬装置は、コンピュータに、使用者の運動に不安定な動きが発生したときに、該動きを角度検出手段により取得される情報を元に感知し、電気的刺激部による電気的刺激の強さを弱めるか、または電気的刺激を止めるよう制御するプログラムを備えることもできる。
【0020】
(5)本発明に係る筋肉鍛錬装置は、モニターを備えて、コンピュータに、使用者が行う運動の模範的な動きをするモデルの映像を前記モニターに表示し、使用者の運動に伴い角度検出手段により取得される情報を元に前記モデルの動きに対する評価を演算し、該評価を前記モニターに表示するプログラムを備えることもできる。
【0021】
(6)本発明に係る筋肉鍛錬装置は、モニターを備えて、コンピュータに、使用者の運動に伴い角度検出手段により取得される情報を元に使用者の動きを演算し、該動きをモデルの映像として前記モニターに表示するプログラムを備えることもできる。
【0022】
特許請求の範囲及び明細書にいう「電気的刺激」の用語は、筋肉に対して所要の電圧を印加し、所要の電流を流して刺激する意味を含むものとして使用している。また、この電気的刺激の強さの制御は、印加する電圧の制御によって行うこともできるし、電流の制御によって行うこともできる。
また、特許請求の範囲及び明細書にいう「徐々に強くする」の用語は、「段階的に、または無段階で少しずつ強くする、または、だんだん強くする」の意味を含むものとして使用している。
さらに、明細書にいう「関節の屈曲角度」及び「関節角度」の用語は、例えば肘関節、膝関節または体幹部の伸展時(本質的に真っ直ぐになったとき)を0度とし、その状態からの屈曲角度を表す意味で使用している。
【0023】
(作用)
本発明に係る筋肉鍛錬装置の作用を説明する。筋肉鍛錬装置によれば、手や肘、膝、足関節等の関節に限らず、体幹(胴部)の筋肉(脊柱起立筋、腹直筋、左右の外腹斜筋等)のトレーニングも可能である。
【0024】
筋肉鍛錬装置は、例えば関節の伸展あるいは屈曲方向への運動をするに伴い、拮抗筋に対する電気的刺激の強さを徐々に強くするように(例えば印加電圧を徐々に高めるように)、または部位の角度毎にあらかじめ決められている、拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるように変化させる。このように電気的刺激の強さを徐々に強くすることや部位の角度に合わせて電気的刺激の強さを制御することで、使用者は、例えばチューブ運動のように運動抵抗が徐々に増加するような自然な感覚が得られる。
【0025】
また、運動初期には運動時の主動筋の収縮力(例えば最大収縮力)より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせるので、主動筋による自発運動が拮抗筋の収縮による運動抵抗に対抗できないで停止してしまう状況も避けることができる。これにより、運動初期に小さな屈伸を繰り返すギクシャクとした不安定な運動を起こして目的の運動ができなくなることや、筋肉を痛めてしまうことを防止することができ、安定した状態で運動を開始できる。なお、運動に伴い変化する関節の角度の情報を元に、拮抗筋に対して与える電気的刺激の強さを制御(調節)するので、電圧の立ち上がり時間を短く設定しても、使用者は急な筋収縮感を感じにくく、これにより運動の安定に寄与することができる。
【0026】
モニターを備えて、コンピュータに、使用者が行う運動の模範的な動きをするモデルの映像を前記モニターに表示し、使用者の運動に伴い角度検出手段により取得される情報を元に前記モデルの動きに対する評価を演算し、該評価を前記モニターに表示するプログラムを備えた筋肉鍛錬装置は、使用者は運動中にモニターに表示されている評価をみて、自分の運動をモデルの動きに合わせるように修正することができる。これにより、無駄がなく正確で、より効果的な運動を行うことができる。また、モデルの理想的な運動により近い運動を行うようにすることにより、評価も上がるので、例えばリハビリテーションのための運動をゲーム感覚で楽しく行うことができ、使用者が運動に対するモチベーションを維持しやすい。
【0027】
モニターを備えて、コンピュータに、使用者の運動に伴い角度検出手段により取得される情報を元に使用者の動きを演算し、該動きをモデルの映像として前記モニターに表示するプログラムを備えた筋肉鍛錬装置は、使用者はモニターに表示されるモデルの動きを自分の動きとして認識しながら運動することができる。これにより、使用者が仮に不自然でぎこちない運動をしている場合でも、使用者が自分自身で自然でスムーズな動きとなるように修正することが可能になる。
【0028】
前述のとおり、高すぎる刺激電圧も運動が不安定になる原因となる。刺激電圧設定時には、刺激電圧に対して耐えられたとしても、運動時に刺激電圧により筋収縮が起こった際に、主動筋の筋力(収縮力)が拮抗筋の電気的刺激による筋力(収縮力)より下回ることがある。特に、下肢(脚部大腿部)の運動においては起こりやすい。
【0029】
この現象は、多くの場合、刺激電圧を弱めることで解消することができる。そこで、コンピュータに、使用者の運動に不安定な動き(例えば微小な屈伸の繰り返し)が発生したときに、該動きを角度検出手段により取得される情報を元に感知し、電気的刺激部による電気的刺激の強さを弱めるか、または電気的刺激を止めるプログラムを備えることにより、例えば自動的に最大印加電圧を20%減少させる等の仕組み(セーフモード)を取り入れることができ、これにより、不安定な動きを止めることができる。なお、セーフモードは、休憩に入ると自動的に解除されるようにしてもよいし、運動中、任意に解除できるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、例えば関節の伸展あるいは屈曲方向への運動をするに伴い、拮抗筋に対する電気的刺激の強さを徐々に強くするように、または部位の角度毎にあらかじめ決められており拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるように変化させ、電気的刺激の強さを徐々に強くすることや、部位の角度に合わせて電気的刺激の強さを制御することで、使用者は運動抵抗が徐々に増加するような自然な感覚が得られる。
また、運動初期には運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせるので、主動筋による自発運動が拮抗筋の収縮による運動抵抗に対抗できないで負けてしまう状況も避けることができる。これにより、運動初期に小さな屈伸を繰り返すギクシャクとした不安定な運動を起こして目的の運動ができなくなることや、筋肉を痛めてしまうことを防止することができ、安定した状態で運動を開始できる。
さらに、運動に伴い変化する関節の角度の情報を元に、拮抗筋に対して与える電気的刺激の強さを制御(調節)することにより、電圧の立ち上がり時間を短く設定しても、使用者は急な筋収縮感を感じにくく、これにより運動の安定に寄与することができる。
したがって、使用者の運動が不自然になることや使用者が運動に違和感を覚えることを防止でき、運動の安全性をより高めることができるとともに、円滑な運動が可能で運動効果の向上も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施の形態を図面に基づき更に詳細に説明する。
図1は本発明に係る筋肉鍛錬装置の概略説明図、
図2は角度検出具の装着状態を示す説明図である。
【0032】
筋肉鍛錬装置Aは、例えば手関節(手指)、肘関節、膝関節、足関節または体幹等の伸展または屈曲する関節の運動を行うことにより、手関節の運動では前腕部の筋肉(長・短橈側手根伸筋と橈側手根屈筋、尺側手根伸筋と尺側手根屈筋等)、肘関節の運動では上腕部の筋肉(上腕二頭筋、上腕三頭筋等)、膝関節の運動では大腿部の筋肉(大腿四頭筋、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋等)、足関節の運動では下腿部の筋肉(前脛骨筋、長母指伸筋、長指伸筋、腓腹筋、ヒラメ筋等)、体幹部の運動では腹、背、体側部の筋肉(腹直筋、脊柱起立筋、左右の内腹斜筋、外腹斜筋等)のトレーニングを行うことができるものである。
【0033】
図1を主に参照する。
筋肉鍛錬装置Aは、筋肉に電気的な刺激を与える電極部10、11(電気的刺激部を構成)を備え、上肢(腕部)と下肢(脚部)に装着可能な装具1と、運動により変化する関節の角度を検出する角度検出具2と、電極部10、11に電気を供給する電気供給部を構成するコントローラ3と、コントローラ3を制御するコンピュータ4により構成されている。
【0034】
(装具1)
装具1については、ここでは上肢に装着する装具を例にとり説明する。装具1は、柔軟性及び伸縮性を有する材料を基材として形成されており、上腕部に密着した状態で装着したときに筒状になる展開可能なベルト状(または帯状)である。なお、装具1を形成する材料としては、例えばジャージー(伸縮性のある厚地のメリヤス地)やスポンジゴム、不織布等があげられ、これらを単独で、または複合して使用することができる。
【0035】
装具1の内面側には、使用者の皮膚に接触して運動時に拮抗筋となる筋肉に対し制御された電圧を印加して電気的刺激を与える電極部10、11が設けられている。電極部10、11は、それぞれ筋のモーターポイント(筋肉を電気的刺激するとき、最も効率よく筋肉を収縮させることができる点)に設けられ、通電性ゲルにより皮膚に密着させるようになっている。電極部10は、装具1を装着したときに上腕二頭筋と対応し、電極部11は上腕三頭筋に対応する位置に設けられている。
【0036】
電極部10、11は、それぞれコントローラ3の給電部30と給電用のケーブル32(図1に図示、図2では図示省略)でつながっている。
なお、装具は前記ベルト状の装具1に限定されるものではなく、例えば上半身に装着することができる上着状のもの(上肢用)、あるいは下半身に装着することができる下穿き状のもの(下肢用)等、他の構造のものでもよい。
【0037】
(角度検出具2)
図2を主に参照する。
角度検出手段である角度検出具2は、エンコーダ20と、上腕用装着具21及び前腕用装着具22で構成されている。本実施の形態で採用しているエンコーダ20は、ワイヤ23の引き出し量で対象物の移動距離を計測する機能を有するリニアエンコーダであるが、同様の機能を有していれば他の構造のエンコーダを採用することもできる。なお、エンコーダ20を含む角度検出具2は、後述するように関節の屈曲角度そのものを検出するものではなく、コンピュータ4で関節の屈曲角度を演算するための情報を得るものである。
【0038】
エンコーダ20は、上腕用装着具21の外面側に取り付けられており、コントローラ3とデータ送信用のケーブル33でつながっている。上腕用装着具21はベルト状に形成され、上腕部に装着された前記装具1の上から適宜位置に巻着することができる。また、前腕用装着具22もベルト状に形成され、前腕部の適宜位置に巻着することができる。エンコーダ20から引き出されるワイヤ23の先端部は、前腕用装着具22の適宜位置に取着できるようになっている。
【0039】
エンコーダ20は、上腕用装着具21及び前腕用装着具22を使用者の腕に取付けた状態で肘関節の伸展または屈曲運動を行うと、その運動に伴って出入りするワイヤ23の出入り量を正逆方向に検出する。なお、この情報は、後述するようにコントローラ3によってカウントされ、このカウント値がコンピュータ4へ送られる。コンピュータ4は、この情報(カウント値)を基に肘関節の角度をリアルタイムで演算し、その角度に対しあらかじめ決められた印加電圧等の各種制御情報をコントローラ3へ送る。
【0040】
エンコーダ20を使用した制御には、筋肉に対し電圧を印加する(電気的刺激を与える)タイミングを遅らせる(タイミングをずらす)という意味での、いわゆる「あそび」が設けられている。仮に、使用者が運動を開始して直ちに拮抗筋に対し電気的刺激を与えて拮抗筋を収縮させれば、運動が不安定になりやすい。また、関節の屈曲あるいは伸展方向へ運動する速度が低下あるいはごく短時間停止した場合、これを運動停止とみなして電気的刺激を与えなくすることも、運動を不安定にさせる原因となる。
【0041】
この対策として、運動開始時におけるエンコーダの微少な動きを運動とみなさないようにすることや、電圧を印加するときに最大電圧に達するまでに、例えば0.2秒かけるようにして電圧を瞬間的には上昇させないようにした。運動中におけるエンコーダのごく短時間の停止あるいは微小な動きを、運動の停止とみなさないようにして、それらの間においては電気的刺激を続けるようにした。また、肘関節・膝関節・体幹の各部位での運動に最適なエンコーダのあそびを設定することで、使用者によって異なる運動能力への対応を行いやすくすることができる。
【0042】
(コントローラ3)
コントローラ3は、装具1に備えられている電極部10、11に電気を供給するための(刺激電圧を印加するための)給電部30(後述する図3に図示)を備えている。また、コントローラ3は、コンピュータ4と情報のやり取りを行うための通信部31を備えている。コントローラ3は、角度検出具2のエンコーダ20からの情報を基にカウントしたカウント値をコンピュータ4へ送る。また、コンピュータ4から送られる制御情報を取得して、この情報を基に、運動時の関節の屈曲角度に適した電圧をリアルタイムで電極部10、11に印加する。
【0043】
(コンピュータ4)
コンピュータ4は、演算装置や記憶装置等を備えて構成されている汎用のノートパソコン(ノート型パーソナルコンピュータ)である。コンピュータ4には、表示装置であるモニター40が付属しており、コントローラ3と情報のやり取りを行うための通信部41を備えている。
コンピュータ4は、コントローラ3と無線による情報のやり取りが可能なように組まれている。なお、情報のやり取りは無線に限定されるものではなく、通信ケーブルを使用して有線で組んでもよい。さらにLAN(Local Area Network)、インターネットを利用して外部コンピュータとの間でデータ交換することも可能である。
【0044】
なお、コンピュータ4の記憶装置(符号省略)には、(a)コントローラ3から送られる情報(カウント値)を基に、使用者の運動に伴い変化する関節の角度(関節の屈曲角度等)を演算するプログラム、(b)部位の角度毎にあらかじめ決められており拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるようコントローラ3を制御するプログラム、(c)演算された部位の角度の情報を基にモデルの映像(バーチャル映像)をつくり、モニター40に表示するプログラム、(d)運動の模範的な動きをするモデルの映像をつくり、モニター40に表示するプログラム、(e)モデルの模範的な動きに対する使用者の運動の評価を演算し、この評価をグラフ等としてモニター40に表示するプログラム等の各種プログラムが記憶されている。
【0045】
モニター40に表示されるバーチャル映像には、モデルの表示が異なるいくつかのモードが設定されている。例えば、画面上部に模範的な動きをするモデル42が表示され、画面下部に使用者の動きをサンプリングして動くモデル43が表示されるモード(図6参照)の他、模範的な動きをするモデル42を様々な方向から見ることができるモード、使用者の動きと同期して動くモデル43を様々な方向から見ることができるモード等である。
【0046】
また、模範的運動のデータをあらかじめ設定し、このデータとリアルタイムで比較することにより、使用者の運動の評価を行うことができる。画面中段部の右側に表示される角度評価グラフ44は、運動に伴う関節の屈曲角度の変化によって画面上のグラフの長さと色が変わるものである。グラフは、関節の屈曲角度が大きくなるにつれ長くなり、小さくなるにつれ短くなる。なお、模範の動きをするモデル42の動きに対し関節の屈曲角度が十分でないと(曲げ方が不十分だと)グラフが赤色で表示され、十分であれば青色で表示される。
【0047】
さらに、画面下部に表示される運動評価グラフ45は、模範の動きにどれだけ近い運動ができたかを評価するグラフ(上段)と、運動を規定のどこまで達成できたかを評価するグラフ(下段)で構成されている。使用者は、このような評価グラフ44、45をモニター40の画面で見ながら動きを補正することを意識して運動を行うことにより、理想的な動きに近付けることができると共に運動の評価を上げることができるので、ゲーム感覚で楽しく運動することができ、モチベーションを維持しやすくなる。
【0048】
(作用)
図3は運動時における関節角度の検出から電気的刺激までのフローチャート、
図4は運動時における電気的刺激の制御を示すフローチャート、
図5は肘関節を伸展または屈曲運動する際の刺激電圧の制御を表すグラフ、
図6は運動時にモニターに表示される画面を示す説明図である。
図1ないし図6を参照して、肘関節の屈曲運動及び伸展運動を例にとり、本実施の形態に係る筋肉鍛錬装置Aの作用をコンピュータ4による制御の説明(図3、図4参照)を含めて説明する。
【0049】
まず、装具1を使用者M(訓練者)の左右の腕の上腕部にそれぞれ装着する(図1、図2では、便宜上、左腕に装着した状態のみを示している)。
装具1は、電極部10が上腕二頭筋と対応し、電極部11が上腕三頭筋に対応するようにして装着する。なお、例えばリハビリテーションなどを運動の目的とする場合は、リハビリテーションを行う側の腕のみに装着することもできる。
【0050】
次に、角度検出具2を使用者の両方の腕にそれぞれ取り付ける。エンコーダ20が取り付けられた上腕用装着具21は上腕部の所要箇所に、前腕用装着具22を前腕部の所要箇所にそれぞれ巻き付けて取り付ける。このとき、上腕用装着具21のエンコーダ20及び前腕用装着具22のワイヤ取着部は腕の後面側に位置させる。そして、エンコーダ20からワイヤ23を引き出し、その先端部を前腕用装着具22に取着する(図2参照)。
【0051】
このセット状態で肘関節の伸展または屈曲運動を行うと、肘関節の角度の変化に伴ってエンコーダ20のワイヤ23は出入りして引き出し量が正逆方向に変化する。このワイヤ23の引き出し量の変化は、後述するようにコントローラ3によってカウントされ、関節角度を演算するための情報としてコンピュータ4へ送られる。
【0052】
また、肘関節の運動中に電極部10、11に印加される電圧(肘関節の屈曲角度毎の電圧)や運動スタート時の電圧印加のタイミングを遅らせる時間(あそび)は、あらかじめ使用者毎に設定されており、コンピュータ4に記憶されているプログラムに組み込まれている。以下にその設定例を示すが、これは一使用者に対応した一例であり限定されるものではない。なお、上腕部の鍛錬用(肘関節の運動)の設定例の後に続いて、大腿部の鍛錬用(膝関節の運動)の設定例、下腿部の鍛錬用(足関節の運動)の設定例及び体幹部の鍛錬用の設定例を示している。
【0053】
(a)上腕部の鍛錬(肘関節の運動)
運動方向:伸展→屈曲
(拮抗筋となる上腕三頭筋の電圧設定)
・肘関節角度0度以下:
出力電圧=設定電圧×0.8
・肘関節角度0度より大きく30度以下:
出力電圧=設定電圧×(0.8+0.2×sin(2×π×(肘関節角度÷360)))
・肘関節角度30度より大きく50度以下:
出力電圧=設定電圧×(0.9+((肘関節角度−30)÷200))
・肘関節角度50度より大きく85度以下:
出力電圧=設定電圧
・肘関節角度85度より大きい:
出力電圧=設定電圧×(1.0−((肘関節角度−85)÷175))
【0054】
運動方向:屈曲→伸展
(拮抗筋となる上腕二頭筋の電圧設定)
・肘関節角度0度以下:
出力電圧=設定電圧×0.9
・肘関節角度0度より大きく20度以下:
出力電圧=設定電圧×(1.0−((20−肘関節角度)÷200))
・肘関節角度20度より大きく60度以下:
出力電圧=設定電圧
・肘関節角度60度より大きく75度以下:
出力電圧=設定電圧×(0.9+((75−肘関節角度)÷150))
・肘関節角度75度より大きく90度以下:
出力電圧=設定電圧×(0.8+0.2×sin(2×π×(2×(90−肘関節角度)÷360)))
・肘関節角度90度より大きい:
出力電圧=設定電圧×0.8
【0055】
(b)大腿部の鍛錬(膝関節の運動)
運動方向:伸展→屈曲
(拮抗筋となる大腿四頭筋、大腿内・外側広筋の電圧設定)
・膝関節角度0度以下:
出力電圧=設定電圧×(1.0−((−膝関節角度)÷100))
・膝関節角度0度より大きく30度未満:
出力電圧=設定電圧
・膝関節角度30度以上50度未満:
出力電圧=設定電圧×(0.9+((50−膝関節角度)÷200))
・膝関節角度50度以上80度未満:
出力電圧=設定電圧×(0.8+0.2×sin(2×π×((80−膝関節角度)÷360)))
・膝関節角度80度以上:
出力電圧=設定電圧×0.8
【0056】
運動方向:屈曲→伸展
(拮抗筋となるハムストリングスの電圧設定)
・膝関節角度5度未満:
出力電圧=設定電圧×(1.0−((5−膝関節角度)÷125))
・膝関節角度5度以上40度未満:
出力電圧=設定電圧
・膝関節角度40度以上60度未満:
出力電圧=設定電圧×(0.9+((60−膝関節角度)÷200))
・膝関節角度60度以上80度未満:
出力電圧=設定電圧×(0.8+0.2×sin(2×π×((90−膝関節角度÷360)))
・膝関節角度90度以上:
出力電圧=設定電圧×0.8
【0057】
(c)下腿部の鍛錬(足関節の運動)
運動方向:背屈→底屈
(拮抗筋となる前脛骨筋、長母趾伸筋の電圧設定)
上腕鍛錬の上腕三頭筋の設定に同じ
運動方向:底屈→背屈
(拮抗筋となる内・外側腓腹直筋の電圧設定)
上腕鍛錬の上腕二頭筋の設定に同じ
【0058】
(d)体幹部の鍛錬(体幹の前後屈・左右側屈の運動)
出力電圧=設定電圧
【0059】
使用者M毎に前記のような刺激電圧の設定を行った後、使用者Mが運動を開始する。
本実施例の肘関節の運動において、腕部を伸展した状態から屈曲する運動を行う場合(運動方向が伸展→屈曲)、腕部を伸展した状態が初期状態である。このとき、電極部10、11に電気は供給されていない。
【0060】
図3、図4を主に参照する。
(1)使用者Mが初期状態から前腕部を動かして肘関節が屈曲し始めると、エンコーダ20のワイヤ23が引き出され、これによってコントローラ3のカウンタ部34で引き出し量がカウントされ、そのカウント値が情報として無線でコンピュータ4へ送られる。
【0061】
(2)コンピュータ4で取得されたカウント値は、各エンコーダ20毎に分割され、各エンコーダ20に対応したカウント値を基に、演算部46にて関節角度、運動方向、エンコーダの部位が演算される。運動方向の演算結果から運動状態の確認及び評価が行われる(運動の評価については後述)。また、運動方向とエンコーダの部位の演算結果から刺激部位が決定される。
【0062】
(3)前記運動状態の確認は、運動状態が適切であれば、カウント値を1ループ前(コンピュータで取得された直近)の値と比較して行う。なお、関節の微小な屈伸運動がおこなわれる等、運動状態が適切でない場合、セーフモード(最大印加電圧を20%減少させるモード)に切り替わる(図4、ステップS1)。
カウント値の変化量が設定値より小さければ電気的刺激を行わない。また、カウント値の変化量が設定値より大きければ運動の方向を判別して電気的刺激を行う部位(本実施例では上腕三頭筋)が決定され、さらに前記設定値を基に各関節角度毎の刺激電圧及び立ち上がり時間(前記設定例では省略)が決定される(図4、ステップS2)。
【0063】
(4)また、前記運動状態の評価は、関節角度の演算値を、模範としてあらかじめ設定された値(理想値)と比較して行われる(図4、ステップS3)。この評価は、モニター40の画面に角度評価グラフ44及び運動評価グラフ45として表示される。また、使用者の動きを表すモデル43の映像も関節角度の演算値を基にリアルタイムで演算してつくられ、モニター40の画面に表示される(図6参照)。なお、模範的な動きをするモデル42の動きは、前記理想値を基につくられている。
【0064】
このように、モニター40に前記バーチャル映像を表示することにより、使用者は運動課題の評価、達成状況を視覚的に確認することができ、運動が適切に行なわれていたのかどうか等を使用者にフィードバックすることが可能となる。すなわち、双方向性の情報交換が可能なバーチャルリアリティー機器としての特徴を持っている。さらに、運動に娯楽性を与え、達成感を感じることができるようにすることにより、運動に対するモチベーションの維持または向上が期待できる。
【0065】
さらに、使用者は自身が十分な屈伸運動を行っているかどうかを視覚的に確認しながら運動できるばかりでなく、モニター40に表示される映像を参考にして運動後も運動の自己評価を行うことができる。本装置では、エンコーダ20の情報を伸縮方向だけでなく、関節角度として取得できるので、使用者の屈伸状態が把握でき、その情報をモニター40の画面上にフィードバックすることができる。
【0066】
また、画面の両側に、グラフバーが関節角度に応じて伸縮し、色調も変化する角度評価グラフ44を表示させることで、現在の屈伸状態が十分であるかどうかが容易に把握できるようにしてあり、運動評価グラフ45では運動の達成率等も表示することで、使用者に対し十分な屈伸運動を促すことができる。なお、使用者が音によっても状態が把握できるように、十分な屈伸ができた場合とできなかった場合、それぞれ異なるチャイムを鳴らすようにしてもよい。
【0067】
また、これらの関節運動の記録や運動状態の記録は、印加電圧とともに記録される仕組みも取り入れられており、運動後に参照可能であり、運動状態の詳細な評価が可能となっている。これらの仕組みにより、使用者は自身が十分な屈伸運動を行っているかどうかを視覚的に確認しながら運動できるとともに、運動後にも運動状態の評価を行うことができる。
【0068】
(5)刺激電圧と刺激部位が決定されると、その制御命令がコントローラ3へ無線で送られ、給電部(電気的刺激発生ブロック)30から電極部11(伸展運動の場合は電極10)に対して制御された電圧が印加され、屈曲運動時の拮抗筋である上腕三頭筋に電気的刺激が与えられ、筋収縮が起こる。これにより、主動筋である上腕二頭筋の運動に対し、上腕三頭筋が筋収縮することによる運動抵抗を付与することができる。
【0069】
(6)前記腕の屈曲運動が運動終端までくると、折り返し逆方向の伸展運動を行う。運動終端では前記運動中の上腕三頭筋に対する電気的刺激が止まる。伸展運動を始めると、コントローラ3とコンピュータ4による前記とほぼ同様の制御(前記刺激電圧の設定値等は異なる)により、伸展運動の拮抗筋である上腕二頭筋に対する電気的刺激が行われる。
【0070】
図5を参照し、肘関節を伸展または屈曲運動する際の刺激電圧の制御の一例を説明する。
なお、この運動は左右交互に行う。つまり、一方の伸展運動時は、並行して他方の屈曲運動を行う。
【0071】
(運動方向:伸展→屈曲、拮抗筋:上腕三頭筋)
肘関節角度0度
↓ 運動初期に電圧印加のタイミングを遅らせる(あそび)。
↓ 印加電圧0V→25V
肘関節角度5度 ・・・印加電圧25V
↓ 関節角度毎の設定に基づき印加電圧を段階的に上昇させる。
↓ 印加電圧25V→31V
肘関節角度56度・・・印加電圧31V
↓ 最大値31Vで維持
肘関節角度86度・・・印加電圧31V
↓ 印加電圧を下降させる。
肘関節角度89度・・・印加電圧30V
↓ 印加電圧を急激に下降させる。
肘関節角度90度・・・印加電圧0V
肘関節運動を折り返して伸展運動に移る。
(運動方向:屈曲→伸展、拮抗筋:上腕二頭筋)
肘関節角度90度・・・印加電圧0V
↓ 印加電圧0V→20V
肘関節角度89度・・・印加電圧20V
↓ 関節角度毎の設定に基づき印加電圧を段階的に上昇させる。
↓ 印加電圧20V→25V
肘関節角度46度・・・印加電圧25V
↓ 最大値25Vで維持する。
肘関節角度2度 ・・・印加電圧25V
↓ 印加電圧を下降させる。
肘関節角度1度 ・・・印加電圧24V
↓ 印加電圧を急激に下降させる。
肘関節角度0度 ・・・印加電圧0V
肘関節運動を折り返して屈曲運動に移る。
【0072】
なお、本実施の形態に係る筋肉鍛錬装置Aでは、上腕部において拮抗筋となる筋肉にのみ電気を与えるという単純な構成のものを示したが、これに限定するものではなく、運動中に主動筋となる筋肉にも電気的刺激を与えることや、装具を複数箇所に設けることもできる。このようにすれば、関節以外の部位の複雑な運動に対応することも可能になる。
また、本実施例では電気的刺激の強さの制御を、印加する電圧の制御によって行うようにしたが、これに限定されるものではなく、電流の制御によって行うことも可能である。
【0073】
本明細書で使用している用語と表現は、あくまで説明上のものであって限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示されている実施の形態に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る筋肉鍛錬装置の概略説明図。
【図2】角度検出器の装着状態を示す説明図。
【図3】運動時における関節角度の検出から電気的刺激までのフローチャート。
【図4】運動時における電気的刺激の制御を示すフローチャート。
【図5】肘関節を伸展または屈曲運動する際の刺激電圧の制御を表すグラフ。
【図6】運動時にモニターに表示される画面を示す説明図。
【符号の説明】
【0075】
A 筋肉鍛錬装置
1 装具
10、11 電極部
2 角度検出具
20 エンコーダ
21 上腕用装着具
22 前腕用装着具
23 ワイヤ
3 コントローラ
30 給電部
31 通信部
32 ケーブル
33 ケーブル
34 カウンタ部
4 コンピュータ
40 モニター
41 通信部
42 モデル
43 モデル
44 角度評価グラフ
45 運動評価グラフ
46 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主動筋となる筋肉が収縮しているときに、拮抗筋となる筋肉に電気的刺激を与えて遠心性収縮を行わせる閉鎖性運動連鎖による関節を屈曲あるいは伸展する運動において、
運動に伴い変化する関節の角度の情報を元に、使用者が耐え得るあらかじめ決められた電気的刺激の強さの範囲内において、運動初期には拮抗筋に対し、運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて電気的刺激の強さを徐々に強くするか、または、運動終端へ向けて各関節の角度毎に、あらかじめ決められている、拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるようにする、
筋肉の電気的刺激方法。
【請求項2】
主動筋を収縮させて拮抗筋が伸張するときに、拮抗筋に電気的刺激を与えて収縮させることにより主動筋と拮抗筋を並行して鍛えることができる筋肉鍛錬装置であって、
筋肉に電気的刺激を与える電気的刺激部(10,11)を備えた装具(1)と、
伸展または屈曲運動をする関節の角度を検出する角度検出手段(2,20,21,22)と、
前記電気的刺激部(10,11)に電気を供給する電気供給部(3,30)と、
該電気供給部(3,30)を制御するコンピュータ(4)と、
を備えており、
前記コンピュータ(4)は、
角度検出手段(2,20,21,22)により検出された、運動に伴い変化する関節の角度を演算するための情報を元に、使用者が耐え得るあらかじめ決められた電気的刺激の強さの範囲内において、拮抗筋に対し、運動初期には電気的刺激部(10,11)によって運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて電気的刺激の強さを徐々に強くするよう制御するプログラムを備えている、
筋肉鍛錬装置。
【請求項3】
主動筋を収縮させて拮抗筋が伸張するときに、拮抗筋に電気的刺激を与えて収縮させることにより主動筋と拮抗筋を並行して鍛えることができる筋肉鍛錬装置であって、
筋肉に電気的刺激を与える電気的刺激部(10,11)を備えた装具(1)と、
伸展または屈曲運動をする関節の角度を検出する角度検出手段(2,20,21,22)と、
前記電気的刺激部(10,11)に電気を供給する電気供給部(3,30)と、
該電気供給部(3,30)を制御するコンピュータ(4)と、
を備えており、
前記コンピュータ(4)は、
角度検出手段(2,20,21,22)により検出された、運動に伴い変化する関節の角度を演算するための情報を元に、使用者が耐え得るあらかじめ決められた電気的刺激の強さの範囲内において、拮抗筋に対し、運動初期には電気的刺激部(10,11)によって運動時の主動筋の収縮力より十分に小さい収縮力を拮抗筋に生じさせる強さの電気的刺激を与え、運動終端へ向けて各関節の角度毎にあらかじめ決められている、拮抗筋に対し好適な筋収縮が得られる強さの電気的刺激を与えるよう制御するプログラムを備えている、
筋肉鍛錬装置。
【請求項4】
コンピュータ(4)に、使用者の運動に不安定な動きが発生したときに、該動きを角度検出手段により取得される情報を元に感知し、電気的刺激部(10,11)による電気的刺激の強さを弱めるか、または電気的刺激を止めるよう制御するプログラムを備えた、
請求項2または3のいずれかに記載の筋肉鍛錬装置。
【請求項5】
モニター(40)を備えており、コンピュータ(4)に、使用者が行う運動の模範的な動きをするモデル(42)の映像を前記モニター(40)に表示し、使用者の運動に伴い角度検出手段(2,20,21,22)により取得される情報を元に前記モデル(42)の動きに対する評価を演算し、該評価を前記モニター(40)に表示するプログラムを備えた、
請求項2、3または4のいずれかに記載の筋肉鍛錬装置。
【請求項6】
モニター(40)を備えており、コンピュータ(4)に、使用者の運動に伴い角度検出手段(2,20,21,22)により取得される情報を元に使用者の動きを演算し、該動きをモデル(43)の映像として前記モニター(40)に表示するプログラムを備えた、
請求項2、3、4または5のいずれかに記載の筋肉鍛錬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−225810(P2009−225810A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50805(P2008−50805)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(599172656)財団法人 日本宇宙フォーラム (8)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)