説明

筒状体の製造方法

【課題】人工筋肉に用いられる筒状体を容易、かつ、均一な性能を発揮し得るものとして確実に製造する方法を提供する。
【解決手段】型部材を液状のゴムに浸漬し、型部材の表面に付着したゴムを乾燥させて内側ゴム層を形成する工程と、内側ゴム層の外周面に軸方向に延長する複数の繊維を貼付けて繊維層を形成する工程と、繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、外側ゴム層を形成する工程とを含む態様とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状体の製造方法に関し、特に筒状体の内部に軸方向に延長する複数の繊維が内包された人工筋肉に用いられる筒状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば生体内に埋設可能な人工筋肉として、本願発明者らが提案した軸方向繊維強化型人工筋肉と呼ばれる人工筋肉が提案されている。当該人工筋肉は、ゴム製のチューブ内に軸方向に延長する複数のガラスロービング繊維を密実に内挿し、チューブ及びガラスロービング繊維の両端部がターミナルにより固定されることにより形成される。そして、当該人工筋肉を収縮させる際には、ターミナルを介して空気などの流体をチューブ内に供給することによりゴムチューブを膨張させる。チューブは、内挿された複数のガラスロービング繊維により軸方向への伸長が規制されているため、径方向にのみに膨張し、径方向への膨張に伴って軸方向への高い収縮率を得ることができる。
【0003】
しかしながら、上記人工筋肉に採用されるゴムチューブは、その使用態様から高い耐久性と、常に一定の収縮率を発揮することが望まれるものの、品質が安定した製法については未だ確立されておらず、チューブの厚さにバラツキが生じることに起因する耐久性や収縮量等の安定性に欠けるという欠点が存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2008/140032 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、人工筋肉に用いられる筒状体を容易、かつ、均一な性能を発揮しえるものとして確実に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための態様として、型部材を液状のゴムに浸漬し、型部材の表面に付着したゴムを乾燥させて内側ゴム層を形成する工程と、内側ゴム層の外周面に軸方向に延長する複数の繊維を貼付けて繊維層を形成する工程と、繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、外側ゴム層を形成する工程とを含む態様とした。
本態様によれば、筒状体の内側ゴム層と外側ゴム層を液状のゴムに浸漬するだけで形成できるので、連続した工程により複数の繊維を内包した筒状体を大量に製造できる。
また、他の態様として、液状のゴムに浸漬する前に、型部材の表面に酸化水溶液を塗布する工程を含む態様とした。
本態様によれば、型部材の表面に液状のゴムを安定して定着させることができるとともに、残余のゴムを除去することにより軸方向に沿って厚さが均一な内側ゴム層を得ることができる。
また、他の態様として、繊維層を形成する工程と、外側ゴム層を形成する工程との間に繊維層の表面に酸化水溶液を塗布する工程を含む態様とした。
本態様によれば、繊維層の表面に液状のゴムを安定して定着させることができるとともに、残余のゴムを除去することにより厚さが均一な外側ゴム層を得ることができる。
また、他の態様として、繊維層を形成する工程において、繊維に液状のゴムを塗布しながら内側ゴム層の外周面に貼り付ける態様とした。
本態様によれば、ゴム層と繊維層とを馴染み良く一体化できるので、筒状体の膨張,収縮特性及び耐久性を更に向上させることができる。
また、他の態様として、繊維がシート状のカーボンロービング繊維である態様とした。
本態様によれば、繊維の貼り付けが容易となり、生産効率が向上する。また、各繊維間の隙間を狭くできるので、筒状体の径方向への膨張を更に均一にすることができる。
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】筒状体の構成を示す概略図である。
【図2】人工筋肉の構成を示す側面図である。
【図3】筒状体の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】ディップ棒の浸漬方法の一例を示す模式図である。
【図5】酸化水溶液の塗布方法の一例を示す模式図である。
【図6】繊維層の形成方法を示す説明図である。
【図7】人工筋肉の駆動方法を示すブロック図である。
【図8】人工筋肉の動作を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1(a)〜(c)は、実施形態に係る筒状体10の概略構成を示す図で、図2は筒状体10を用いた人工筋肉10Aの構成を示す図である。
筒状体10は、ゴム部材から成る筒状部11と、筒状部11に内包される繊維層12とを備える。
筒状部11は、繊維層12を挟んで内側ゴム層13及び外側ゴム層14とから構成される。内側ゴム層13と外側ゴム層14とは、例えば天然ゴムラテックスにより形成される。繊維層12は、筒状部11の軸方向に延長する複数の繊維12kにより形成され、内側ゴム層13と外側ゴム層14との間に介挿される。図1(c)に示すように繊維層12を構成する各繊維12kとしては、例えば、機械的な撚りをかけずに収束された無撚り繊維が好適である。本例では、繊維12kとして、5〜15μm程度の直径を有し、強度の高いカーボンロービング繊維を用いた。
【0010】
図2に示すように、人工筋肉10Aは、上記構成からなる筒状体10の両端にそれぞれ蓋部材15a,15bと締付バンド16a,16bとが取付けられたものである。蓋部材15a,15bは、筒状体の両端開口を閉塞し、内部を密閉状態に維持する部材である。締付バンド16a,16bは、筒状体10両端部の外周面に締結され、蓋部材15a,15bと筒状体10との間に隙間ができないように筒状体10を締め付ける。つまり、筒状体10は、蓋部材15a,15b及び締付バンド16a,16bにより、密閉状態に維持され、密閉空間内に圧縮空気が導入されることにより収縮する。なお、収縮動作の詳細については後述する。
【0011】
以下、図3のフローチャートを参照して筒状体10の製造過程について説明する。
まず、S11において筒状体10の型部材となるディップ棒21を準備する。
図4(a),(b)は、ディップ棒21の一例を示す図で、ディップ棒21は、例えば、押出成形法を用いて成形されたABS樹脂などの樹脂からなり、内側ゴム層13の内径と同じ外径を有する円筒状の塗布部21aと、塗布部21aの両端にそれぞれ設けられた把持部21bとを備える。
次に、S12において、ディップ棒21の塗布部21aの外周面に、例えば硝酸とエタノールとを混合した硝酸アルコールなどの酸化水溶液を均一に塗布する前処理を実行する。
次に、S13において、図4(c)に示すように、前処理が実行されたディップ棒21を容器22内に収容された天然ゴムラテックス液23中に所定時間浸漬するディッピング処理を行う。ディッピング処理に際しては、人為的に把持部21bを把持して行ってもよいが、例えば、ディップ棒21の一方の把持部21bを把持部材24で把持し、把持部材24を図示しない昇降手段により連続して下降させるようにすることが好ましい。
次に、S14においてディッピング処理から所定時間経過後に、ディップ棒21を天然ゴムラテックス液23中から引き上げ、例えば水を収容した容器内に投入することでディップ棒21の外周面に未定着の残余の天然ゴムラテックス液23を除却し、所定の時間乾燥させる。なお、乾燥の際は、ディップ棒21をモーター等と接続して継続的に回転させることが好ましい。
【0012】
天然ゴムラテックス液23は、酸化水溶液と反応することで固形化(酸凝固法)するので、内側ゴム層13の厚さ(0.4mm程度)であれば、十数秒程度の短い時間で内側ゴム層13を形成することができる。そして、ディップ棒21の引き上げ後に、ディップ棒21を水の入った容器に浸して、固化前の未定着の天然ゴムラテックス液23を洗い流すことにより、厚さにムラがない内側ゴム層13を形成することができる。なお、洗い流しは、必ず採用すべき工程ではなく、適宜選択すればよい。
【0013】
ディップ棒21の塗布部21aに酸化水溶液を均一に塗布するには、例えば、図5に示すように、ディップ棒21の把持部21bとモーター25の出力軸25Jとを連結部材26で連結させてディップ棒21を回転させながら、塗布部21aの外周面に酸化水溶液を含ませた刷毛等の塗布手段27により塗布すればよい。
【0014】
次に、S15において、内側ゴム層13の外周面にカーボンロービング繊維から成る繊維12kをディップ棒21の軸方向に沿って貼り付け、繊維層12を形成する。
具体的には、例えば図6に示すように、繊維12kを接着材等により収斂し、シート状に成形した繊維シート12Sを内側ゴム層13の軸方向に沿って貼り付ける。繊維シート12Sは、内側ゴム層13の全周に亘って隙間なく貼り付ける。例えば、1枚当りの繊維シート12Sの幅を周長の1/30〜1/10程度にカットし、複数枚の繊維シート12Sを円周上に沿って貼り付ける。なお、周長と同じ幅を有する単一の繊維シート12Sを巻き付けてもよい。また、繊維シート12Sの長さLを内側ゴム層13の軸方向長さよりも短くカットし、2枚以上の繊維シート12Sを繋ぎ合わせて軸方向に貼り付けてもよい。
また、繊維シート12Sを貼り付ける際には、天然ゴムラテックス液23を内側ゴム層13の外周面、或いは、繊維シート12Sにおける内側ゴム層13の外周面と対向する面に塗布しながら貼り付けることが好ましい。これにより、繊維12kと内側ゴム層13を構成する天然ゴムラテックスとを馴染ませながら強固に一体化することができる。
なお、繊維シート12Sをディップ棒21を天然ゴムラテックス液23にディップすることにより得られるゴム液の上から貼り付け、残余のゴム液を搾り取ることにより一体化させてもよい。
【0015】
次にS16以降の工程により、外側ゴム層14を形成する。まず、S16において、S15により形成された繊維層12の外周面に硝酸アルコールなどの酸化水溶液を均一に塗布する前処理を行った後、S17において、再度天然ゴムラテックス液23中にディップ棒21を浸漬するディッピング処理を行う。当該ディッピング処理においては、天然ゴムラテックス液23が各カーボンロービング繊維12kの隙間にも浸透するので、内側ゴム層13と繊維層12と外側ゴム層14とを一体化させることができる。つまり、繊維層12を内包した状態の筒状体10を得ることが可能となる。
次に、S18において、所定時間浸漬したディップ棒21を天然ゴムラテックス液23中から引き上げ、必要に応じて水を収容した容器内に投入し、未定着の残余の天然ゴムラテックス液23を除却した後、所定の時間乾燥させる。
なお、上記S16においては、繊維層12の表面に直接酸化水溶液を塗布するものとしたが、繊維層12の上に天然ゴムラテックス液23をディップして薄いゴム層を形成した後に、当該ゴム層の表面に酸化水溶液を塗布することにより外側ゴム層14を形成してもよい。
次に、S19において、型部材であるディップ棒21を内側ゴム層13から引き抜くことにより、筒状部11(内側ゴム層13,外側ゴム層14)が均一な厚さに形成された筒状体10を得ることができる。また、必要に応じてS20において、筒状体10を予め設定した長さに切断することにより、複数の筒状体10を同時に製造することができる。
そして、得られた筒状体10の両端部に蓋部材15a,15bをそれぞれ挿入した後、締付バンド16a,16bで筒状体10を締め付けることにより、図2に示した密閉空間を有する人工筋肉10Aを得ることができる。
【0016】
次に、筒状体10が用いられた人工筋肉10Aの動作について説明する。まず、図7に示すように、人工筋肉10Aと人工筋肉駆動装置30とを接続する。人工筋肉駆動装置30は、圧縮空気注入管31aと、空気排出管31bと、空気注入用の電磁弁32aと、空気排気用の電磁弁32bと、圧縮空気供給手段33と、制御手段34とを備える。
圧縮空気注入管31aと空気排出管31bとは、一方の蓋部材15bに開設された図示しない空気注入口及び空気排出口に嵌挿される。圧縮空気注入管31aは、注入用の電磁弁32aを介して圧縮空気を供給する圧縮空気供給手段33と連結され、空気排出管31bは排気用の電磁弁32bと連結される。なお、空気注入と排出とを両方行える電磁弁を利用し、蓋部材15bの開口を単一のものとしてもよい。制御手段34は、注入用の電磁弁32aの開閉と排気用の電磁弁32bの開閉とを制御して、筒状体10の膨張・収縮を制御する。
【0017】
図8は、蓋部材15bを人工筋肉10Aを固定するための固定部材35に固定し、蓋部材15aとの距離を伸縮させる無負荷往復運動の概要を示す。
図8(a)に示す状態から制御手段34が注入用の電磁弁32aを開き、圧縮空気供給手段33から送出される圧縮空気が圧縮空気注入管31aを介して筒状体10の密閉空間内に導入されると、筒状体10を構成する内側ゴム層13と外側ゴム層14とは、導入された圧縮空気の圧力により全方向、すなわち、径方向と軸方向との両方に膨張しようとする。一方で、内側ゴム層13と外側ゴム層14との間に介挿されている繊維層12は、内側ゴム層13と外側ゴム層14との軸方向への膨張を拘束する。
よって、内側ゴム層13及び外側ゴム層14の膨張は、いずれも径方向のみに限定されるため、筒状体10は、図8(b)に示す状態となり、軸方向へ収縮する。すなわち、人工筋肉10Aの筒状体10は、繊維層12が内側ゴム層13と外側ゴム層14の軸方向への膨張を拘束するので、径方向に膨張しながら軸方向に収縮する。このように、人工筋肉10Aにおいては、圧縮空気の給排が繰り返されることにより繰り返しの収縮動作を行うことができるので、例えば生体の関節における腱の代替要素や、腸内の推進機構として組み込むことが可能となる。
【0018】
本実施形態においては、筒状体10の製造工程につき、S12及びS16において、液状のゴムに浸漬する前に酸化水溶液を塗布する工程を含むことにより、残余のゴムを除却することが可能となり、均一な厚さの内側ゴム層13及び外側ゴム層14を形成できる。
よって、筒状体10の収縮時に圧力がゴム厚の薄い部分に局所的に加わり、当該局所的部分から破裂が生じる可能性を極めて効果的に低減できる。また、S15において、繊維層12を繊維シート12Sの貼り付けにより形成したので、軸方向全周に亘って繊維12kを密実かつ均一に分布させることが可能となり、内側ゴム層13及び外側ゴム層14に対する局所的な圧力集中を抑制でき、耐久性の向上、及び、高圧時における操作容易性を格段に向上できる。
また、内側ゴム層13及び外側ゴム層14がS13,S17におけるディッピング処理により形成されるため、短時間の内に大量の筒状体10を得ることが可能となる。
【0019】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0020】
例えば本実施形態においては、内側ゴム層13及び外側ゴム層14を構成するゴムを天然ゴムラテックスとしたが、シリコーンゴムなど他の種類のゴムを用いてもよい。
また、前記形態では、円筒状の筒状体10を製造する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、角柱状の筒状体10についても同様の手法により製造できる。
【符号の説明】
【0021】
10 筒状体、10A 人工筋肉、11 筒状部、12 繊維層、12k 繊維、
12S 繊維シート、13 内側ゴム層、14 外側ゴム層、
15a,15b 蓋部材、16a,16b 締付バンド、
21 ディップ棒、21a 塗布部、21b 把持部、23 天然ゴムラテックス液、
30 人工筋肉駆動装置、31a 圧縮空気注入管、31b 空気排出管、
33 圧縮空気供給手段、34 制御手段。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工筋肉に用いられ、軸方向に延長する繊維層を内包する筒状体の製造方法であって、
型部材を液状のゴムに浸漬し、型部材の表面に付着したゴムを乾燥させて内側ゴム層を形成する工程と、
前記内側ゴム層の外周面に軸方向に延長する複数の繊維を貼付けて繊維層を形成する工程と、
前記繊維層が形成された型部材を再度液状のゴムに浸漬し、外側ゴム層を形成する工程と、
を含む筒状体の製造方法。
【請求項2】
液状のゴムに浸漬する前に、前記型部材の表面に酸化水溶液を塗布する工程を含む請求項1記載の筒状体の製造方法。
【請求項3】
前記繊維層を形成する工程と、前記外側ゴム層を形成する工程との間に繊維層の表面に酸化水溶液を塗布する工程を含む請求項1又は請求項2記載の筒状体の製造方法。
【請求項4】
前記繊維層を形成する工程において、前記繊維に液状のゴムを塗布しながら前記内側ゴム層の外周面に貼り付ける請求項1乃至請求項3いずれかに記載の筒状体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維がシート状のカーボンロービング繊維である請求項1乃至請求項4いずれかに記載の筒状体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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